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平成16年度奈良教育大学公開講座

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(1)

奈良教育大学学術リポジトリNEAR

軽度発達障害の理解と特別支援教育 ―特別な教育 的支援を必要としている子どもたち―

発行年 2004

URL http://hdl.handle.net/10105/492

(2)

平成16年度奈良教育大学公開講座

軽度発達障害の理解と特別支援教育

―特別な教育的支援を必要としている子どもたち―

        報  告  集

日時  平成

16

11

13

日〜12 月

23

日 会場  奈良教育大学

      主催  奈良教育大学

      後援  奈良県教育委員会  奈良市教育委員会  日本自閉症協会奈良県支部 

奈良AD/HDの会 「ポップコーン」 

奈良LD親の会 「パンジー」 

(3)

+ + + +    目      次      + + + +  

1.公開講座の主旨、開催要項・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2

2.日程とプログラム  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3

3.講師プロフィール  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4

4.奈良教育大学関係者一覧 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5

5.講座の目的と概要  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 奈良教育大学      郷間英世

6.学習障害(LD)の理解と対応  ―外国の

LD

教育とわが国の現状―  ・・・・・・ 8 講演      奈良教育大学助教授      玉村公二彦       特別発言      奈良

LD

親の会「パンジー」代表      入船裕治

7.ADHD の理解と対応  ―ペアレントトレーニング・

ソーシャルトレーニングの方法と効果―」・ ・・・・・・・34    講演      奈良教育大学教授      岩坂英巳

特別発言      奈良

AD/HD

の会「ポップコーン」代表 

  楠本伸枝    

8.高機能自閉症の発達的理解と学校の対応   ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 68       講演      奈良教育大学教授      田辺正友

9.これからの特別支援教育と軽度発達障害  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 84       講演      大阪教育大学名誉教授 

大阪医科大学

LD

センター教授      竹田契一

10.特別支援教育シンポジウム

「今後の特別支援教育への期待と課題」  ・・・・・・・・・・・・・・・ 110       1)奈良教育大学講師      越野知之

2)広陵町立広陵北小学校       

南浦稔美 3)奈良市立平城東中学校       

小倉智子 4)和歌山

AD/HD

親の会「ニコニコキッズ」代表         藪本啓子 5)奈良県教育研究所部長       

上野玲子

11.閉会の挨拶        ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 154

郷間英世 

12.公開講座アンケート結果

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 155         特別支援教育に関する今後の期待と課題       

池田友美

武藤葉子

13.あとがき      ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 158

       

(4)

【  開催の主旨  】 

       

            奈良教育大学    郷間英世

平成

15

年3月の「特別支援教育の在り方に関する調査研究協力者会議」の「今後の特別支 援教育の在り方について(最終報告)」においては、小・中学校においてLD、ADHD、高 機能自閉症の児童生徒への教育的支援を行うための総合的な体制を早急に確立することが必 要と提言されました。現在その準備が全国的になされています。

本講座では、これらの現状をふまえ、軽度発達障害と今後の特別支援教育について、専門家 による講演とシンポジウムを通して理解を深めることができる場を提供するとともに、軽度発 達障害児への関わり方について検討する事を目的とします。

また、奈良県および奈良市教育委員会や日本自閉症協会奈良県支部、奈良

LD

親の会「パン ジー」、奈良

ADHD

の会「ポップッコーン」の後援も得て、この公開講座を通して今後、大学、

教育委員会、親の会の協力や連携が進むことを期待するものでもあります。

【  開催要項  】 

名称:平成16年度奈良教育大学公開講座  主題:「軽度発達障害の理解と特別支援教育

−特別な教育的支援を必要としている子どもたち−」

主催  :  奈良教育大学 

後援  :  奈良県教育委員会、奈良市教育委員会、日本自閉症協会奈良県支部  奈良AD/HDの会「ポップコーン」 、奈良LD親の会「パンジー」 

会場  :  奈良教育大学  講堂、大講義室 

 

参加者  :  教員等教育関係者、保護者、一般市民、学生等 

(5)

【  日程とプログラム  】 

 

1)11月13日(土)14:00〜17:00      「公開講座の目的と概要」   

 

      奈良教育大学       

 

郷間英世 

    「学習障害(LD)の理解と対応−外国のLD教育とわが国の現状−」 

      講演  奈良教育大学助教授   

 

玉村  公二彦  司会  奈良教育大学         

 

郷間  英世 

 

2)11月20日(土)14:00〜17:00 

      「ADHDの理解と対応−ペアレントトレーニング、 

      ソーシャルスキルトレーニングの方法と効果−」 

      講演  奈良教育大学教授     

 

岩坂  英巳  司会  奈良教育大学         

 

越野  和之 

   

3)11月27日(土)14:00〜17:00 

      「高機能自閉症の発達的理解と学校や家庭での対応」 

      講演  奈良教育大学教授     

 

田辺  正友 

 

      司会  奈良教育大学         

 

郷間  英世 

 

4)12月  4日(土)14:00〜17:00        「これからの特別支援教育と軽度発達障害」 

      講演  大阪教育大学名誉教授、大阪医科大学LDセンター教授         

 

竹田  契一 

      司会  奈良教育大学         

 

玉村公二彦 

   

5)12月23日(木、祭日)13:00〜17:00    『  教員・保護者・専門家によるシンポジウム 

 

      ―今後の特別支援教育への期待と課題―  』 

シンポジスト 

奈良教育大学      越野  和之  奈良県立教育研究所        上野  玲子 

 

広陵北小学校      南浦  稔美  平城東中学校      小倉  智子  和歌山AD/HD親の会   

 

藪本  啓子         司会  奈良教育大学      小野  昌彦 

        奈良教育大学      越野  和之         修了証書授与 

        閉会の挨拶   

 

      郷間  英世 

 

(6)

【  講師紹介  】

玉村  公二彦  奈良教育大学助教授(障害児教育学、特別支援教育)

  京都大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学、教育学修士   障害児教育方法学、おもちゃ学、学習障害児等の研究を行っている。

田辺  正友  奈良教育大学教授(障害児心理学、特別支援教育) 

  早稲田大学大学院文学研究科心理学専攻修士課程終了、文学修士

  高機能自閉症を中心とした障害児の療育活動や発達研究を長年続けている。

岩坂  英巳  奈良教育大学教授(児童青年精神医学、教育臨床)

  奈良県立医科大学卒、医学博士、ADHD など軽度発達障害に対するペアレントトレーニン グやソーシャルスキルトレーニングの臨床及び研究者として活躍している。

竹田  契一  大阪教育大学名誉教授、大阪医科大学客員教授 慶応大学医学部医学研究科終了、医学博士

日本

LD

学会副会長、特別支援教育士資格認定協会会長 全国各地で

LD

児の支援や講演会を行っている。

越野  和之  奈良教育大学助教授(障害児教育学、特別支援教育)

  東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程単位取得退学、文学修士

  特別なニーズ教育、特別支援教育など障害児教育の制度の研究を行っている。

上野  玲子  奈良県立教育研究所障害児教育部長

  明日香養護学校、国立久美浜養護学校、奈良県教育委員会事務局障害児教育係長など を経て現職。奈良県の障害児教育、特別支援教育を進めていく立場にある。

南浦  稔美  奈良県広陵町立広陵北小学校障害児学級教諭

  文部科学省の「障害のある子どものための教育相談体系化推進事業」、 「特別支援教育推進体 制モデル事業」のモデル地域である広陵町の小学校の障害児学級教諭として障害児と関わっ ている。

小倉  智子  奈良市立平城東中学校障害児学級教諭

  中学校の障害児学級担任として、軽度発達障害児などの教育に取り組んできた。

現在、本学特殊教育特別専攻科で学んでいる。

藪本  啓子  和歌山

AD/HD

親の会「ニコニコキッズ」代表   小・中学校、養護学校の教員の経験がある。

和歌山で

AD/HD

親の会で活動している。

 

(7)

【  公開講座  奈良教育大学関係者および協力者一覧  】 

 

教育実践開発講座特別支援教育教員      田辺  正友  郷間  英世  玉村公二彦  越野  和之  教育実践開発講座教育臨床教員      池島  徳大  岩坂  英巳  小野  昌彦 

障害児教育大学院生      岩穴口恵美 川上  奈緒 教育臨床特別支援教育大学院生      浅香美穂子 池田  友美 久松  節子 特殊教育特別専攻科(情緒障害)学生    小倉  智子 中村  美香 福岡  成和 藤原  壽子 松本  和洋 武藤  葉子         森嶋喜代子 障害児教育専攻学生等      淡路はるか       小田切和子       藤井  由美       平井  律江       中島    淳       山本  菜採       猪澤由紀子       薦田  朋子        山本  真也

平井  絵未

ポスター作成      松本  大樹        奈良教育大学総務課研究協力係      広岡  良二

 

 

 

 

(8)

公開講座の目的と概要 

        奈良教育大学  郷間英世

  奈良教育大学の郷間です。公開講座にたくさんのご参加ありがとうございます。最初予定し た会場に入りきれずに、変更になりました。迷われた方もあったのではないかと心配していま す。

  さて、この公開講座ですが、主題は「軽度発達障害の理解と特別支援教育」です。最近、そ してこれからの障害児教育は大きな転換期を迎えています。大きな流れは、皆さんご存知と思 いますが、特殊教育から特別支援教育へということです。特別支援教育ではこれまでの特殊教 育の対象であった知的障害や肢体不自由などに加え軽度発達障害も対象になります。

  軽度発達障害には、学習障害(LD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、高機能自閉症、アス ペルガー障害が含まれます。そして、この子どもたちの多くは普通学級に在籍しており、文部 科学省の調査では

6.3%と一クラスに2〜3人いる計算になります。

  公開講座の目的は三つあります。まず一番目は、軽度発達障害や特別支援教育について理解 を深め、軽度発達障害児への関わりを考えるということです。公開講座で、それぞれの立場で、

講演やシンポジウムを通して勉強しましょうということです。二番目は協力と連携です。この 公開講座は、奈良県・奈良市の教育委員会を始め、自閉症協会奈良県支部、奈良

LD

親の会、

奈良

ADHD

の会などから後援をいただき、また学校の先生や保護者など多数参加していただ いております。この公開講座でお互いのことを知り、今後大学を含め、様々な連携や協力が進 むことを期待するものであります。目的の三番目は、私たち奈良教育大学の教員と学生にとっ てです。大学の障害児教育を簡単にご紹介します。教員はそれぞれ障害児の教育、心理、医学 を専門分野にしています。大学院生もいます。特殊教育特別専攻科といいまして、主に現職の 教員が

1

年間勉強にくるコースもあります。そして、障害児教育の先生を養成する学部もあり ます。教員と学生は協力して公開講座を準備してきました。私たちは公開講座を行うにあたり、

自分たちが学ぶとともに、大学の役割として地域へ情報発信することを目指しています。 

  公開講座の内容を簡単に説明します。全部で

5

回です。

第1回は「学習障害(LD)の理解と対応」というテーマで、学習障害の子どもの状態や問 題点、学習障害児への対応のあり方などについて、オーストラリアやアメリカ合衆国でのLD 教育の現状もふくめて、玉村先生が講演します。

第2回は「ADHDの理解と対応」として、注意欠陥多動性障害(ADHD)児のペアレント トレーニング(親指導)やソーシャルスキル(社会的技能)トレーニングを実践してこられた 立場から、岩坂先生が講演します。

第3回は「高機能自閉症の発達的理解と学校や家庭での対応」という題で、長年、発達障害 児、特に高機能自閉症の療育を続けてこられた立場から、田辺先生が講演します。 

第4回は「これからの特別支援教育と軽度発達障害」という題で、これまでの3回で話され た軽度発達障害児に対して、今後特別支援教育がどのように関わっていくのか、またどのよう な問題があるのか等について、大阪教育大学名誉教授、大阪医科大学LDセンター教授、竹田 契一先生に講演いただきます。 

第5回目の最終回は『今後の特別支援教育への期待と課題』というテーマで、教員・保護者・

専門家によるシンポジウムを行います。教育委員会の立場から奈良県立教育研究所上野玲子先

生、教諭としての立場から広陵北小学校南浦稔美先生、平城東中学校小倉智子先生、保護者の

立場からは ADHD児の保護者、藪本啓子氏、そして、奈良教育大学の越野先生を加え、それ

(9)

ぞれの立場からお話いただきます。その後、他の参加者を含め、これからの奈良の特別支援教 育をどう構築していくか考えていくための討論を行います。 

  以上、目的と内容について説明しました。それでは、始めたいと思います。

 

       

       

2004.10.10

大台ケ原

(10)

 

(11)

公開講座「軽度発達障害の理解と特別支援教育Ⅰ」2004 年 11 月 13 日   

学習障害(LD)の理解と対応−海外のLD教育とわが国の現状− 

奈良教育大学  玉村公二彦   

   

はじめに 

  1990 年代から今日まで間、2度ほど本格的にLDの教育や親の会に関わることがありま した。 

  1度目は、1990 年から 91 年にかけてで、日本ではLD元年といわれました。全国親の会 ができたりしました。その時期に、在外研究ということでオーストラリアのクイーンズラ ンド大学に行かせていただきました。その時の受け入れの先生が、学習障害−オーストラ リアでは学習困難を研究されていた方で、オーストラリアの学習困難について実状をみて、

議論をさせていただきました。帰国後も、初期の奈良LD親の会の方々とも、ともに活動 をさせていただいたこともありました。 

  2度目は、1999 年から 2000 年にかけてです。1999 年に学習障害に関する調査研究協力 者会議の報告がでますが、その初期の定着過程について学校の先生方や校長の認識につい て、クイーンズランド大学に留学をされていた卒業生と一緒に少し調査をやらせていただ きました。 

  いずれも、学習障害について検討や報告が出されて間もない頃であったこともあり、十

分な手応えをもって研究や活動ができなかったという思いがあります。1999 年に学習障害

の定義が出てから、その後、ADHDや高機能自閉症の研究が進みました。あの頃、LD

と見なされていた子どもたちが、むしろADHDやアスペルガー症候群・高機能自閉症で

はなかろうかというようなケースもたくさんあります。しかし、歴史的に見ればLDとい

う概念で、軽度発達障害への対応が進んでいったのであり、施策の流れをつくったという

(12)

意味で重要なものといわなければならないと思います。 

  今日は3つくらいの話をしようと思っています。第1は、学習障害の概論ということで、

用語の整理、定義と範囲、学習や学力という観点から子どもの障害や困難を考えていきた いということです。 

  2点目は、イギリス、アメリカ、オーストラリアなどでの学習障害・学習困難への取り 組みの紹介をしたいと思っています。特に、用語に関して、学習障害と学習困難はどう違 うのかとか、あるいは学習障害なのだけれどディスレキシアという言葉もある。英語で Learning Disorder というもの、略してLDです。LDは多義的ですし、広い概念とも言え るものですが、今日紹介したいのは、その中でも中核といわれている読み書きの障害、デ ィスレキシアと呼ばれるものへの対応を紹介したいと思っています。 

  3点目は、日本での取り組みの現状と課題についてお話したいと考えています。 

 

1.古くて新しいLD(学習障害)の概念   

  映画の中のLD

  読みの障害がでてくる映画があります。2001 年に公開された「パール・ハーバー」とい う映画です。これはノベライズもされましたので当該のところを見ておきましょう。

「『えっと…』背の高い男はいった。 『R…J…C…いや、あ、いいんだ、J、C、Q、W。

じゃなくって、W、Q』

  文字を全部暗記しているイヴリンは、おかしいなと思った。視力が弱いと形の似た文字 をとりちがえるものだ−QをOといったり、RをPといったり。ところがこの飛行士は、

順番をまちがえた。それも、文字がいちばん大きい列で。 」

  主役のパイロットの候補生なのですが、視力検査で文字を混同してしまう、あるいは「ひ とつずつ、とばして読んでごらん」と言われるがなかなか読めない、でも動態視力はよく て…、という場面です。

  俳優のトム・クルーズが、学習障害ということはよく知られています。テレビドラマの

「金八先生」を見ていたら、トム・クルーズの話がありました。トム・クルーズは読むこ とに非常に困難があるという話で、 「学習につまずいている人にも、がんばっている人がい るのだ」ということを強調していました。トム・クルーズ評伝には、トム・クルーズは自 分自身がディスレキシアということについて、幼稚園の時から気がついていたと書いてあ ります。幼稚園の時、左利きを右利きに矯正されることがあり、それがうまくいかなかっ たというのがはじめて気がついた時だったと書いてあるのです。学校にはいると文字が裏 返って鏡文字になってうまく読めないのです。アルファベット圏ではdとbが鏡文字の関 係です。読みが非常に難しく、小学校の時には読みの治療的なクラスに行かされていたと のことです。

  でも、トム・クルーズは話をしたり役柄をしたりということは上手でした。今でも台本

(13)

を読むことは難しいものですから、サポーターがいて、その人に耳から入れていただいて 役作りをするということです。いろいろな本を読むと、トム・クルーズと一緒に映画に出 るのを嫌う役者がいるということです。というのは、役作りを徹底してやるからです。自 分が読めないので聞いてやってみてリハーサルも何回もやる、そこに、つきあわざるを得 ないからです。

  LD児の記述と概念の提唱

  読み書きの困難(ディスレキシア)についての初めての記述は、

1896

年の段階でプリン グ・モーガン(Pringle Morgan)という方がイギリスの医学雑誌に示したものといわれて います。14 歳の子どもさんで、ゲームとかはとてもじょうずで利発なのだけれど、読めな い、という症例です。ですからそこから考えると、もう

100

年以上、症例についての検討 が進められているわけです。

  その後、アメリカなどで対応が進められてきたということがあります。

1960

年代、1963 年だったと思いますが、カーク(Kirk, S)という障害児教育のスペシャリストが「ラーニ ング・ディスアビリティズ(学習障害)」という用語を提唱して、

1960

年代後半にLDへの 対応が広がっていきます。

 

1970

年代には、アメリカを中心とした英語圏域の各地で、全国的な親の会の結成や運動 の展開があり、学習障害児協会というものが作られたりします。全国親の会が中心になっ て議会でのロビー活動などが展開をされて、アメリカでは

1975

年の全障害児教育法の中で

「学習障害」を障害児教育の対象にしていくということになります。初めて法律の中で「学 習障害」ということが明記されました。すでに

30

年も前から法的に明確な障害児教育の対 象となったわけです。

  アメリカの動きに対して、「日本は対応が遅れているのではないか」と言われたりもして います。本格的に論議されていくのは

1990

年以降です。1990 年にようやく全国親の会が できて、当時の文部省の調査協力者会議で、時間をかけて議論と定義ができていくという ことになります。ディスレキシアの記述から

100

余年、アメリカの全障害児教育法から

30

年弱、日本の対応はまだ

10

年経っていない状況です。

  4つのLD

  ところで、LDの用語の問題についてふれておきたいと思います。日本LD学会という のがありますが、日本学習障害学会とは言いません。何故かというと、広くLDを捉えた いということからだとおもいます。例えば、ラーニング・ディスオーダーズ(Learning

Disorders)というのは医学用語で、アメリカの精神医学会の診断基準(DSM-IV)で使わ

れます(訳語は「学習障害」)。ラーニング・ディスアビリティズ(Learnig Disabilities)

というのはもっとも日本では広く理解されている用語ですが、主としてアメリカで生まれ

た教育用語でということになります(訳語は「学習障害」)。私はオーストラリアの研究に

(14)

馴染んでいますが、オーストラリアではラーニング・ディフィカルティズ(Learnig

Diffficulties

)という用語がよくつかわれます(訳語は「学習困難」) 。イギリス・オースト

ラリア・ニュージーランドなどで「学習困難」という用語が好まれているようですが、「学 習障害」というような特定の学習機能の障害と限定しているものより広い用語として使わ れるようです。中には知的障害なども、学習困難に含められる場合もあります。それとは 別に、環境的な要因であるとか、英語が母国語でない子どもさんたちも含めて学習困難を もっているとして、ラーニング・ディフィカルティズに含まれるというように広い用語に なっています。あともう一つ、ラーニング・ディファレンシス(Learning Differences)と いうのがあります。アメリカやLD学会でもいわれますが、LD児の特性、認知的な特性 も含めてユニークな学び、固有の援助を求める特別な存在を示唆する概念です。これら、

すべての頭文字としてLDがあります。どういうレベルで、どのような文脈やバックグラ ウンドでLDをつかっているのか、そしてLDといったときにどのような子どもたちが想 定されるのか、大変複雑になることが多いように感じています。

  医療の関係者と教育の関係者では違いがあります。児童精神科の先生の講演をお聞きす ると、例えばウィスク(WISC)という検査で、言語性と動作性のどちらかで、IQ90以 上をとったりしているような子どもさんで、学習機能にアンバランスをもつような子ども を狭く限定してLDというような内容となっています。

DSM-IV

を読ませていただいても、

読みの障害であるとか書字の障害であるとか、比較的高いお子さんを中心に書かれていま す。実際問題ということで言うと、例えば知的障害では必ずしもないけれど、全般的な発 達の遅れということも若干あるな、でも偏りもあるという子どもさんも多いものですから、

教育の側からいうと、そういう子も含めてLDあるいは学習障害と言ったりもします。障 害児教育の研究者の中でも、(1)どこの国の研究をベースに考えているか、(2)例えば制度の レベルか、教授法のレベルかなどどのようなレベルで考えているか、また、(3)原因論を中 心に考えるか、心理過程を中心に考えるか、教育方法やアプローチを中心に考えるかとい ったどの側面を中心においているのかで理解に違いがあります。日本の定義でも触れます が、中枢神経系に原因が推定されるということをめぐって、定義に入れるのか入れないの かといった議論も出てきます。私は、「中枢神経系に障害がある」ことが明確にならないと LDとはいえないというようなリジッドな考え方ではなく、バクッととらえて学習の遅れ の子どもさんたちもふくめて対応し、教育実践を展開していけばいいのではないかと思い ますが、大雑把であると批判されています。

2.LDへの対応の制度をめぐる二つの方向−「学習困難」と「学習障害」

  学習障害も学習困難も頭文字をとると両方LDなのですけれども、対応の歴史的な流れ と対応の特徴についてみていきたいと思います。

  二つの方向があります。ひとつは、アメリカ型で、法律の中に障害として「学習障害」

(15)

の定義がなされ認定されて、様々なサービスが提供される場合です。もうひとつは、イギ リスやオーストラリアのように「特別な教育的ニーズ」や「学習困難」として捉えて対応 を進める場合です。後者では、

1978

年イギリスのウォーノック報告が有名です。全体とし て特別な教育的ニーズのある子どもさんと考えて、下位のカテゴリーとして特異的な学習 困難という用語が使われています。いずれにしても「学習障害」と「困難」とでは、前者 が機能障害を強調するのに対して、後者が学習の経験を問題とするというようにニュアン スが違います。

  オーストラリアの学習困難への対応と学習困難援助教師

  アメリカとオーストラリアでは、歴史的な経過は比較的似通ったものがありますが、し かし、先に見たような対応の方向では大きく異なります。

  オーストラリアでは

1970

年代半ば、オーストラリア連邦議会特別委員会で学習困難をど う考えるかについて法制も含めて議論がありました。1976 年に報告がでています。アメリ カの「学習障害」というような厳格な定義を出した方がいいのではないかという話があっ たのですが、教育実践が豊かに進められて行かないのではないかという危惧が強調されま した。そこで、定義の束縛なしに学習困難を経験している子どもたちに援助の試みを行う 政策が奨励されていくことになりました。学習困難に学習困難援助教師(STLD=サポ ート・ティーチャー・フォー・ラーニング・ディフィカルティズ)が制度化されます。こ の学習困難援助教師たちは、障害児学級(オーストラリアではユニットといっていますが)、

障害のある子どもさん達のいく学級の担当の教師ではありません。学校全体で学習困難を 経験しているような子どもさんたちに対していろんなことをコーディネートしたり、教師 を援助したり、通常学級の教師にアドバイスしたり、あるいはその子を直接的に取り出し たりして教えてみたり、TTみたいなことをやってみたりとか、様々なボランティアの人 たちを学級の中に入れるコーディネーターになったりするという役割があるわけです。こ ういうような特別な教師は、だいたい500人規模の学校に1人くらい配置をされていま す。2つの学校を掛け持ちしておられる教師もいました。そして、その学習援助教師−コ ーディネーターが段階的で重層的な対応のフローチャートを作って学習の困難に対応して いくようになっています。

  ニュージーランドのリーディング・リカバリー

  となりのニュージーランドでは、むしろ通常教育というような所で対応していくのが主

になっています。1970 年代、ニュージーランドでも同じように学習障害についての議論が

ありました。1986 年「教育(特異的学習障害)修正法案」が、議員立法という形で議会で

論議されるという経緯がありました。結局、ニュージーランドではその法案は不成立で終

わりましたが、より広い対応への努力、通常学級での対応の充実、カリキュラム・早期対

応・リソースルームなどの充実がもとめられるということになりました。

(16)

  ニュージーランドでは、学習障害というように限定してしまわないで、低学年から学習 の基礎となる読みに着目してその回復教育を充実させるという取り組みを行っています。

それがリーディング・リカバリーですが、通常教育で特別な読みの回復の取り組みをやっ ていくものです。学習障害への対応に限定するということではなく、通常教育でこうした ものを充実させていこうという動きです。

  ニュージーランドでは、5歳の誕生日が来たら学校に行くということになっているよう

です。日本のように4月になったら一斉に学校に行くというのでは必ずしもないようで、

その5歳くらいから読み書きの予備的な基礎学的学習が始まっていきます。その読みにつ まずいている子どもに対して取り組みが行われることになるわけです。読みに困難のある 子どもは、6歳から読みを学んでいく特別なプログラムになっています。リーディング・

リカバリーは、基本的には1対1の対応で、その子どもにあわせた読みの課題を毎日30 分間行っていくというようなことをします。特に読みの困難のある子どもを抽出してとい うことで、各学校にリーディング・リカバリーの先生が配置をされています。だいたい3 分の1ぐらいの子どもが、読みがうまくいかない子どもさんとして、リストアップされ、

対応がおこなわれます。

  リーディング・リカバリーで使われているアセスメントの教材があります。10 数ページ の本です。まずこのぺらぺらの本を子どもに渡します。5歳から6歳の子ども達は、どち らが表でどちらが裏なのかもふくめて本の概念が分かっているかどうかをもみます。 「これ を読んでごらん」というのです。

  ストーリーは単純で、お月様が私についてくるという話なのですが、絵があって文字が あって楽しんでいくのですが、6ページ目は天と地が逆さまになっています。「どこかおか しいね」ということを自主的に自発的に気がつけるかどうか、読みながらチェックすると いうことです。別のページでは文字が反対になっています。これも「おかしい」というこ とに気づくかなど、文字の認識をとらえていきます。別のページでは、文字の順序が違う ところもあります。こういうところをパッと見て読んでしまう、日本で言う「勝手読み」

リーディング・リカバリーのアセスメントの絵本 

(17)

みたいな子がいます。「おかしいな」と気がつくかどうか、こういうことをアセスメントし ていきます。 

  別のページではWEREがWEERというようわざと間違えて書いてありますが、その 文字をEの間にRがはいることに気がつかずにすっと読んでしまう。ここは文字が違うと 思って、つかえてでも自分自身で修正をしていけるかどうか、子どもの様子を見ながらチ ェックしていくわけです。20ページくらい読んでもらって、その子が本の概念ができて いるかどうか、文字をどのように認識しているのか、誤りではどんな誤りをするのかを捉 えていくことになります。その結果、この子には、1対1の読みを回復させる対応が必要 になるということでしたら、3ヶ月くらいの期間、短時間のプログラムをおこなっていく ということになります。 

  先にも言いましたが、このリーディング・リカバリーは、障害児教育プログラムではあ りません。普通教育の中にセットされていて、3ヶ月くらいがんばって通常学級の授業に 戻していくのです。学習上の困難を持っているお子さんをキャッチアップさせていくので す。おおよそ3分の2は、通常の学級の授業についていけるようになると言われています が、しかし、3分の1はキャッチアップしていけないと言われています。その子達につい てはリーディング・リカバリーの後、別の対応をしていくことになります。低学年の取り 組みを充実させていく、幼稚園から入ってきて読みがうまくいかない子に対して1対1で 丁寧に関わってキャッチアップさせていく、それでもうまくいかない場合、特殊教育・特 別支援教育みたいなものにつなげていくという方式からは、早期発見・早期対応の観点か らも学ぶものがあると思います。 

 

  日本での方向づけ−日本での検討の経過と学習障害の定義 

  英語圏域では、障害の中で定義をおこなうアメリカ型のスタイルをとるものと、学習の 困難としてより広く通常の教育を中心に対応をすすめていくイギリス・オーストラリア・

ニュージーランド型がありました。日本では、アメリカ型を下敷きにして検討を進めてい ったという経緯があります。 

  日本での検討の経過は、1990 年以降の動きで、全国LD親の会ができ、当時の厚生省あ るいは文部省に対して陳情活動をすることでマスコミの報道も活発化します。また、LD 学会の前身になる研究会も発足する等の動きがあります。1992 年に通級学級に関する調査 研究協力者会議の報告がでます。その中でも学習障害について触れられました。そして、

本格的な審議のために、 「学習障害及びこれに類似する学習上の困難を有する児童生徒の指

導方法に関する調査研究協力者会議」が設置されていきます。この調査協力者会議から 1997

年に中間報告が、そして、1999 年に最終報告が出されました。その中心は「学習障害」の

定義でしたが、これがまとめられるのには、かなり長い時間がかかりました。実は、1990

年代はバブルの崩壊、財政的危機が指摘され、財政構造改革などがいわれました。学習障

害の定義や対応の方向を示す最終報告に時間がかかったのは、通常学級における学習障害

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の子どもたち達に対応を広げていくと、教員の配置や教育条件の充実など財政的な問題が 出てくるのですが、それが財政的に支えられないというような状況が足を引っ張って、施 策の充実がほとんど書き込まれなかったということがあったと聞いています。 

  1999 年に示された学習障害の定義は次のようなものでした。 

  学習障害とは、基本的には全般的な知的発達に遅れはないが、聞く、話す、読む、書く、

計算する又は推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す様々な状態 を指すものである。 

  学習障害は、その原因として中枢神経系に何らかの機能障害があると推定されるが、視 覚障害、聴覚障害、知的障害、情緒障害などの障害や、環境的な要因が直接の原因となる ものではない。この文部科学省の学習障害の定義の構成要件は3つあります。 

  知的な障害というのではなく、第一は、聞く、話す、読む、書く、計算するおよび推論 といった特定の能力の困難、学習をしていく上での基本的な特定の困難と言うことです。

全般的に知的発達に遅れはないけれども、特定の困難の状況があります。第二は、推定原 因として中枢神経系の機能障害です。何らかの障害があると言われています。そして第三 は、視覚、聴覚、知的、情緒等の障害を持っている子どもさんについては、学習上の困難 があっても除外する、環境的な要因も直接的な要因になるわけではないということです。 

  医学的な診断基準(DSM-IV)では、読字障害、算数障害、書字表出障害の3種類がいわ れています。DSM-IV では読み書きの障害をディスレキシアとかいていませんけれども、読 字と書字表出障害をあわせて中核群に位置づけています。文部科学省の定義との関係でい うと、「聞く・話す」は医学的にはコミュニケーション障害などLD以外の軽度発達障害 

 

  図1.LDの範囲の概念図  図2.LDと他の障害との関係概念図 

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も考えられる、 「書く」も発達性協調運動障害が関係する場合もあるということで、かな り重なっているということもあり、非常に複雑だと思っています。 

  図1は、上野一彦さんのLDの範囲を示す概念図です(『障害を知る本  LD(学習障 害)の子どもたち』大月書店)。知的な発達の状況が縦軸で、認知の偏りということで知 的障害の部分、自閉症の部分、全般的な学習の遅れよりも認知の偏りがある、発達の遅 れが少なく、学習の遅れも軽いけれどかたよりがある部分がLDであるということです。

図1は、ADHDがでてきませんが、編者にLDとADHDを一緒に捉えた方がいいの ではないかという考えがあるからです。ADHDの概念がはっきりしてくると分けて考 えるというようなことになります。医学的にはLDは比較的高いところに限定し、AD HDとも区分するということになります。これを横断的にとらえたのが図2です。医療 関係で使われる概念図です。学習障害は左の部分です。自閉症、広汎性発達障害と重な り合っているところもあり、注意欠陥多動性障害とも重なり合っているところもある、

自閉症、広汎性発達障害あるいはADHDを基礎としつつ、LDも併存障害としてある 場合もあります。 

  補足的に言うと、調査協力者会議の 1997 年中間報告と 1999 年の最終報告の定義が若 干違っているのは、ADHDの認識の違い、認知度の違いが背景にあると思われます。

今日では、LD単独で云々するのではなく、 「LD、ADHD、高機能自閉症」というよ うに軽度発達障害を全体として記述していくのが主流になっています。とはいえ、学習 上の困難ということがある場合、学習や学力という観点で障害との関連も考えながら分 析を深める必要があるのではないかと思っています。 

 

3.イギリス・アメリカにおける読み書き障害(ディスレキシア)への取り組み   

  LDの中核的な障害は、読み書きの障害です。特に、欧米においては、ディスレキシ アは中心におかれていますし、原因論や心理過程の検討、教育上の専門的な取り組みが あります。良く知られていますが、英語圏では 10%から 15%の子ども達が読み書き障害

(ディスレキシア)を持っているといわれています。トム・クルーズもディスレキシア でした。日本での調査研究はあまりありませんし、英語と日本語の違いもあり性格に発 生率が把握されていませんが、4〜6%程度は読み書きの障害があるのではないかといわ れたりしています。併せて関連する用語として、計算障害としてディスカリキュラとい うのがあります。形を認知するのかうまくいかない、あるいは書字がうまくいかないの がディスグラフィア(書字障害)、手指が不器用だったり、いろいろ行っていくことが困 難だったりするのがディスプラクシアです。ディスレキシア・ディスカリキュラ・ディ スグラフィア・ディスプラクシアという用語は主にイギリスで使われているようですが、

アメリカでも使用されています。ディスレキシアについては、アメリカでもイギリスで

も私立の特別学校での取り組みがあります。 

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  一般に、読み書きの障害の症状は、次のようなものがあげられます。 

 

  読み  読む速度が遅い 

      不自然な読み方をする        似た文字を混同するなど        読みまちがいが多い    書き  つづりの誤り 

      文の構造に問題がある        黒板を書き写すのが苦手        鏡文字を書く 

その他  時間の感覚があいまい        ものの順番をまちがえる        図形を覚えるのが苦手   

  イギリスでの取り組み−ETV特集「読み書きの苦手をのりこえて」より− 

  イギリスにあるフェアリー・ハウス・スクールはディスレキシアの子どもたちのため の専門の学校です。ディスレキシアの子どもたちが通常の学校から転校してきて 3 年ぐ らい学んで通常の学校に戻っていくようです。インタビュアーがみんなディスレキシア かと聞くと、子どもたちは「僕らはみんなディスレキシアなんだ。でもみんなディスレ キシアだから気にしない」と言っています。同じ、読み書きの困難をもっていることを 共通認識にしているので、障害の理解がポジティブに感じます。 

  紹介されているザックの場合は、読み書き障害で、一般の学校から転校してきた子ど もです。IQ140と紹介されています。しかし、一般学校の低学年にいたときは、鏡文 字になったり、綴りがつづれず文章が書けないということです。自分でもできないこと が分かり、セルフエスティームが下がっていくのです。一般学校からは離れて、この学 校に転校してくるということになります。特別授業の様子は、普通の子どもなら自然と 覚えていくのですが、ディスレキシアの子どもは発音と書くものの対応の法則がわから ないことがあるので、それを取り立てて学習させています。書くことの特別授業では粘 土で文字を作ったりもします。読み書きの学習だけでは覚えられないことを、五感を使 って学習させ、ディスレキシアの子どもの理解を深めます。例えば、本物のキャベツの 中に文字を書かせることもあります。においや葉の感触を体験しながら様々な感覚で言 葉を覚えます。 

  まとめていうと、対応の方法として、一つは音韻、読みと綴りの法則を覚えさせます。

通常は自然に覚えていきますが、ここでは意識的に教えないといけないのです。たとえ

ば、MADにEがつくと読み方が変わるわけです。マジックEの法則といいます。Eを

つけると母音まで変わってしまう、日本語とは違うのです。日本語は、書いてあるよう

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に読めるのですが、書いてあるように読めないのが英語圏の問題です。きちんと教えて いかないといけないのです。 

  もう一つは、マルチセンソリー(多感覚)アプローチで、粘土で文字を作ったりキャ ベツに字を書かせたり五感を使ってやっていくというものです。滋賀大学教育実践総合 センターでは、そこに通っている読み書きの困難なLDの子ども達にこのような取り組 みからヒントを得て対応をしています。文字を書かせて訓練していくと、その子達はと てもプレッシャーを感じてしまう、ストレスがかかってしまう。それよりも体全体を使 って、例えば、粘土で漢字みたいな物を作って一回だけ書く、それ以上は追求しないと いう方式をイギリスのマルチセンソリー(多感覚)アプローチに習って教育方法を開発 していったと聞いています。 

  ウッド・サイド・インターナショナル・スクールは、一般校でありながらディスレキ シアのための特別授業に積極的に取り組んでいる学校です。そこに在籍する読み書きに 障害のある小学生のジェームズと、思春期に入るベリティについて紹介します。 

  ジェームズは低学年の時から文字に鏡文字があり、直されるとものすごいプレッシャ ーがかかるようです。通常の学校に在籍していたとき、Tを大文字にしなかったことを 直されて、やり直しさせられたということがいやなことだと言っています。初期は読み 書きに問題がありましたが、得意な学習はとてもスムーズにできます。どちからという とこだわりが強く、LDというよりPDD(広汎性発達障害)かなと思います。頭はい いのに何もできないと言われ、転校してきたようです。ジエームズのクラスの場合、18 人のうち 5 人がディスレキシアです。学習に問題のある子は1対1の特別授業に行きま す。ジェームズの特別授業は、 【OU】を含む単語を書くというものです。言葉ではスッと でてくるのに、書くということがなかなかできません。課題を短く分けることで集中力 を保つことができるように工夫されています。また、ジェームズの場合、算数の能力が とりわけ落ち込んでおり、4歳のレベルといわれています。算数の問題もかなり簡単な ものですが、間違ってしまいます。しかし、特別授業では、自分で間違いを発見するこ とを尊重しています。授業はIEPに基づいて事前に細かく計画が立てられています。

正解するとそのつど大きな声でほめ、不得意なことにはいると集中力が切れやすいので 気分転換を十分とります。やりすぎだと思うくらいほめています。 

  ジェームズの場合、算数の問題や不器用さがあります。ある特定のことは知っている が計算はうまくいかない、数字とか数の概念も、10とか5は基本的に手と対応する様 にできているのでわかりやすいようですが、初めは2という数概念が重要となります。

それは手が2本あるからで、人間の感覚の所で数の概念が積み重なっていくわけです。

しかし、ジェームズの場合は、そこが難しい、この子は読み書きに障害のあるディスレ キシアですが、興味の偏りでいうと広汎性発達障害もあるかな、イギリスで言うディス プラクシアともいえるかもしれません。 

  もう1人、ベリティの場合も読み書きに障害があります。そして思春期なのです。思

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春期の独自の悩みがあるようです。内面的な悩みをもちつつ、しかし、進路の問題もで てきます。こうしたディスレキシアの青年たちのために「合理的配慮」として、テスト の時間が 25%延長される措置がとられています。一般の生徒とディスレキシアの生徒と では、テストでの回答の仕方も違います。一般の生徒は文章で回答しますが、読み書き が苦手なディスレキシアの生徒はいくつかの答えから正解を選ぶようになっています。

日本の場合は、通常学級にいる時は特別な措置はしません。場所さえも変更できず、そ こで書かないといけなくなり、プレッシャーがかかってしまうわけです。けれども、内 容的に分かっていれば特別な手だてや措置をとってあげる必要があると思うのです。 

思春期になり、自分自身の障害に直面していくということで、悩みもでてきます。カ ウンセリングも重要で、特別な支援のコーディネーターの人と話をする場面もあります。 

それも含めて思春期から青年期において、特別な措置を自分自身で受け入れていけるか どうかということを、障害理解の課題として重要なものと言えるのではないでしょうか。 

  もう一つみていただきたいのはディスレキシア協会での取り組みです。通級みたいな ものですが、教会に通って、デュオレッスンを受けています。このデュオレッスンは2 人でうける独特の訓練です。2人で受けることによって、サポートしたり協力したりし て勉強が進んでいったり、励みになったりということがあるようです。 

  イギリスのディスレキシアへの対応は特別な教育的ニーズ、特異的な学習困難をもっ ているということへの対応なのです。特別学校に来て、1〜2年そこで力を付けていく ケース、通常の学校で小集団の授業や特別の授業があり、合理的な配慮が進められてい ることがわかりました。また、外部団体の取り組みということで、ディスレキシア協会 といった専門家の団体がありそこに通う場合もあります。通常学級の先生を含めて子ど も達に支援をしていく特別な教育的ニーズのコーディネーターがいます。教材、指導方 法などでの工夫ができ、それに併せて特別な場が設けられるなど、特別学校も含めて多 面的で重層的な取り組みが進められている点が学ぶべきことではないかと思っています。  

 

  アメリカでの取り組み−アセッツ・スクールなど 

  イギリスのディスレキシアへの対応のような取り組みはアメリカにおいてもあります。  

  アセッツ・スクールは、ハワイにあるディスレキシアとギフテッドのための私立の特 別学校です。アセッツ・スクールで多感覚の取り組みをしています。私立ですが、学習 障害と認定されているお子さんであれば、IEPを作ってそれを実行し、連邦政府から 補助金が下りて、障害者教育法に基づく無償で適切な教育の保障がなされます。ですか ら、私立ですが、お金がかかることは必ずしもなく、学習障害ということで困難を持っ ている子に対して、連邦政府から補助金でまかなわれる施策になっています。 

  ここでとられている教育の方法もマルチセンソリーのアプローチです。視覚、聴覚、

動作を必ず入れて、見る・触る・聞く、聞く・触る・見る、触る・聞く・見る、自分の

五感を使った形で、物事を学習する方法を採っています。アメリカではよく知られたデ

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ィスレキシアの教育方法(Orton・Gillinghamの方式)が採用されています。あわせて 独自の教材も作られています。また、総合学習として、いろんな活動をしてみたり、例 えば海洋学の手法で採ってきた砂の観察をしたりといった、科学の最先端のものをもち こむ取り組みがあります。 

  その他のアメリカの取り組みとして、LDの子ども・青年期の各種サバイバルガイド や体験読み物がたくさんでています。写真の本で、僕はこんなことが難しかったけれど、

こんな形で克服してきたという体験談がはいった読みやすい本があります。そんな本を 読んで、自分もやっぱり難しいけれども、他の子も苦しんでいる、一人じゃないことを 知っていくというメッセージを伝えることにもなります。学習障害を持ったティーンエ イジャーのためのサバイバルガイドもあります。自分自身が興奮してきたときにどうい うふうに納めたらいいか、自分をどう考えているか、書いてみる欄があったりします。

学校の中ではいろんな自分たちの権利があり、 「自分の学び方にあった教え方をしてほし い」と言ってもよい、こういうことを書いたサバイバルガイドです。 

  日本でも翻訳されて手に取ることができるのが、パトリシア・フォラッコ『ありがと うフォルカー先生』 (岩崎書店)という本です。かいつまんでストーリーを紹介してみま しょう。 

  パトリシアという少女が主人公です。学校に入ったとき、おじいちゃんが本の上には ちみつをかけてくれたことからはじまっています。おじいちゃん、おばあちゃんは、本 の世界は、はちみつと同じように甘いことを教えたくて、本の上にはちみつをかけて「な めてごらん甘い味がするよ」と言うわ

けです。 

  ところが学校に入ってみると、勉強 を教えてもらってもなかなか字が読め ない。字がくねくねした形にしか見え ない。教科書をみんなで声に出して順 番に読む、パトリシアの番になった、

どこ見てるんだよ、とみんなが笑う。

私みんなと違うのかな、頭が悪いのか な、というふうに考えてしまうのです ね。 

  彼女を支えていたのはおばあちゃん

だったのですが、おじいちゃんもおば

あちゃんも亡くなってしまい、学校の

中では私は絶対に頭が悪いんだという

ふうに思い込んでしまう。こういうこ

とがあり、転居をすることになった。 

(24)

  転居先の新しい学校でも、字が読めないことでいじめられてしまう。そこで担任にな ったのがフォルカー先生だった。パトリシアのいいところをみんなの前に示して、 「絵が 上手だ」と評価してくれた。みんな分かってくれたけれど、1人だけこの子をいじめる 子がいた。ある時、いじめられて階段の下に隠れているところをフォルカー先生が来て 助けてくれる、その時に字が読めないのだと訴えることになるわけです。 

  その時からパトリシアとフォルカー先生の勉強がはじまるわけです。黒板に雑巾で大 きな字を書いてみたり、砂に文字を書く、黒板にスポンジで大きなマルを書く、左から 右へ、左から右へと。また映写機を使った日もあった。つぎつぎと字が映し出される、

どんどん読む。字の形をした積み木を使ってどんどんことばをくみたてたりもした。と にかく字、字、字…。そうすると、声に出して読めるのは楽しいという感覚がでてきた。

でも、なかなか読めない、何ヶ月か経って、突然読めるようになり、全部読めてとても うれしかったという経験をする。その後、本を読むことが大好きになり、もう一度はち みつを出して本の上にかけて読んでみた、というお話です。 

  この主人公のパトリシアはこの本の作者自身です。自分自身が子どもの頃、字が読め なかった、ディスレキシアだったということが書かれています。 

 

4.日本での取り組み   

  LDの問題は文化の問題に根ざしています。英語と日本語には違いがあります。言葉 が違うというだけでなく、アメリカは主張の国で、話せなければなりませんが、日本語 の世界では、非常に書くということが重要視されています。書くことの独自の難しさが 生まれやすい、逆に英語は、発音と文字の関係が不安定です。日本語も、ひらがな、カ タカナ、漢字があり、ひらがなでもくっつきの「を」 「は」などは音と文字にすこし違い がある。漢字には音と訓があり、同音異義語がたくさんある。この意味で、日本の文化 に根ざした学習上の困難があります。 

 

  遅れがちなLDへの対応 

  2003 年の文部科学省の調査結果では学習の著しい困難は 4.5%とでています。アメリ カやイギリスは 10〜15%なのですが、日本では 5%程度が読み書きの困難が想定される ということです。ちなみに奈良市でいいますと、小学校の児童数が 1 万 9000 人くらいで すから、だいたい 800 から 900 人の数の子どもさん達になります。中学校でいうと 400 から 500 人が、学習上の困難をもっているという話になるわけです。これに対して文部 科学省は、学校での気づきを促していきましょうということですが、なかなかすすんで いません。 

  具体的には、LDの早期発見・早期対応の難しさというのがあり、日本の学校では、

行動上の問題に目がいきやすいことがあります。ADHDの子どもがザワザワしている

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と問題になりますが、おとなしくしているようなタイプの子どもさんは余り問題になら ない。一斉授業でじゃまになることは必ずしもないということで、静かなLD児への対 応が遅れがちです。また、診断名が変わることもあります。行動上の問題があって、読 み書きの問題があるという場合、漠然とLDと判断されていた場合も、ADHDである 場合があります。行動上の問題がおさまったら、こんどはアスペルガー症候群というよ うに診断が変わったりもします。診断名が変わると学校では全然違った人のように思う わけです。すると一貫した対応をするのに難しさがでてくる。 

  あわせて、集団で学習を始めてみなければ、LDかどうかはわからない。系統的な学 習が始まっていかないとわからない場合が多いのです。小学校の低学年では体験的な学 習が多くなっています。体験的な学習の中では、学習上の困難を発見することは難しい。

行動や情緒の問題を示さなければ、LDという難しさをもっていても、発達障害として は捉えられない場合もあります。単に、勉強嫌いな子ども、家庭の責任と見なされる場 合も多いということです。 

 

  問題の顕在化と読み書きに必要な力 

  低学年での対応が実は重要なのです。しかし、隠れてしまってフォローできていない ということが多く、できなさが蓄積されて、3年生から4年生頃になって問題が噴出し てくるということがあります。 

  ある4年生の子どもの音読の場面では、 「…3匹のねずみが、こねずみたちが、3匹の こねずみたちは走り…歩き出しました…大きなねずみが(ねこのまちがい)立っていま した。」と、たどたどしく読むのです。そればかりではないです。ねこがねずみになるな ど前のイメージに引きずられたり、文字をとばしたり、文章のとばし読みをしてしまっ たりしています。 

  漢字の書きの困難をもつ子どももいます。 「無」という文字は難しい文字です。書きの 困難をもつ子どもは、字をみても、その形態の認知がうまくいかない。しかも、その保 持もうまくいかない。何度も、お手本と見比べて、書いていきますが、書いている途中 でイメージがとぎれてしまう。何回もなぞって、何回も消すことになります。形の識別 がなかなかできないのです。形はある程度頭にあるのかもしれないのですが、それを書 いていく順番がうまく捉えられない、しつこくたくさん線があるから何回も書いてしま う。簡単な文字でも写すことになると抵抗があるのに、3〜4年生頃には難しい漢字が たくさんでてきて、形態的に認知がうまくいかない。こんなことがあって漢字に対する 恐怖感がでてくる。何回も書き直し、書き直しをして、せき込んでしまい、逆にストレ スがたまってしまう実態がこの子たちの場合はあるといわれています。 

  苦手意識やストレス、セルフエスティームの低下が顕在化する前に、その認知の特徴

をとらえて、教材や教具を工夫したり、あるいは支えとなるような人間関係をつくって

おくことが重要です。 

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  読み書きに必要な力・要因には、いろいろなものが組み合わさっています。いろいろ な感覚を総動員しながら書いたり、読んだりしているということです。単に鉛筆をもっ て書いているということだけではなくて、聴覚的な言語認識、頭の中でことばがとなえ られるとか、文章の情景やイメージを思い浮かばせることができる。あるいは文字の形 が頭の中に認知され、イメージすることができるかということです。 

  まず、単語を音レベルで操作する力です。手持ちの機能ということで微細な運動機能 も使っている、視覚的認知処理、空間構成能力ということで、全体として捉える力が必 要になります。先ほどの子どものように、順番とか時間軸による構成能力が弱いような 場合には、筆順が重視されているのは順序性ですから、順番とか時間軸による構成能力 が大事です。 

  意味の理解や語彙力、自分の中に内的辞書を持つことも大事です。短期記憶・作業記 憶も大事です。忘れてしまって書き写すことができないということになります。人に伝 えたい、表現をしたい、伝達意欲なども、何のためにするのかというときに必要です。

最終的な自己意識が、自分自身がうまくいかないということを負の意識で捉えても、セ ルフエステイームを高めて、ここら辺は不得意だけどがんばっている自分を意識するこ ともできるわけです。自己意識というのも、読み書きを進めていく上で非常に重要な要 因になるわけです。 

 

  読み書きの困難の見極め−どんなLDなのか 

  1年生でひらがなをはじめとして文字を習い始めるのですが、1年生でも鏡文字を書 いたりする子どもはいないわけではありません。ところが、LDやADHDなどの軽度 発達障害の子どもたちは、書字、文字の習得に顕著な問題をもちます。たとえば、いく つかの聞き取り検査で文章を書く課題をしたADHDの子どもさんは、次のように書い てくれています。一つ目は、「山の上に大きな木があります。」と書いてくださいと言っ ていますが、その時は「お」が鏡文字になっています。自分でも「間違いかな」とおも ったようで、ちょっと消したり、書かれた文字に抵抗のあとが見られます。その抵抗が あったためか、この子の場合は、 「あります」というところを「ありました」と記してし まっています。聴覚記銘の問題もあるのかもしれません。次にもうすこし複雑な問題を 出してみました。 「学校の庭には、二羽のにわとりがいます。 」というものです。これは、

「がつこうのなかにわにカモがいます」になっています。こちらが何をいっているのか は よ く 聞 い て い る の で す 。

「学校の庭にトリがいるな」

というイメージがストンと

入っている。しかし、ニワト

リがカモに変わってしまっ

ている。ちょっと難しい所を

参照

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The Development and the Using of Web Site for Supporting the Students to Assist in the Classes 加藤 隆弘 松能 誠仁 松原 道男.. Takahiro KATO Nobuhito MATSUNO

鈴木 則宏 慶應義塾大学医学部内科(神経) 教授 祖父江 元 名古屋大学大学院神経内科学 教授 高橋 良輔 京都大学大学院臨床神経学 教授 辻 省次 東京大学大学院神経内科学

1991 年 10 月  桃山学院大学経営学部専任講師 1997 年  4 月  桃山学院大学経営学部助教授 2003 年  4 月  桃山学院大学経営学部教授(〜現在) 2008 年  4

京都 滋賀 大阪 奈良

講師:首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 准教授 三好 洋美先生 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 助教 中村

日 時:5 月 30 日(水) 15:30~16:55 場 所:福岡女学院大学ギール記念講堂

平成 31 年度アウトドアリーダー養成講習会 後援 秋田県キャンプ協会 キャンプインストラクター養成講習会 後援. (公財)日本教育科学研究所