ため,測定できていないところも存在する。このため, 事故直後の空間線量率や,その時影響を及ぼした核種に ついては明らかになっていない。遺伝的アルゴリズム (Genetic Algorism,以下GA) や人工ニューラルネット ワーク (Artificial Neural Network: ANN) などの人工知 能技術は,モニタリングデータなどの連続データの変化 傾向を学習し,これに影響する様々な物性値の重みを推 定した上で,目的とする物性値の時空的な変化を予測す ることが可能な手法である。これにより,事故直後の空 間線量率や影響を及ぼした核種とその寄与率を推定する ことが可能となる。本研究では,GAおよびANNを用い て主として茨城県が公開している空間線量率データの時 間変化の予測結果の再現性について検討した。さらに 1 .はじめに 2011年 3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震に 伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故(以下,事 故)によって大量の放射性物質が大気中に放出された。 放出された放射性核種は,初期には大気中を拡散し,拡 散プルームが通過地域の空間放射線量率(以下,空間線 量率)を上昇させたと考えられる。その後,降雨等によ り地表に沈着・蓄積したため,土壌等に吸着した放射性 物質からの放射線の影響を長期にわたって受けることに なる。事故以前からの空間線量率は,自治体等が設置し たモニタリングポストにおいて測定されてきたが,事故 直後は地震によるモニタリングポストの破損・故障等の
竹内 真司
*・持田 真彦
**・渡辺 邦夫
***・廣瀬 勝己
***The initial air dose rate and the contribution rate of radionuclides released due to the Fukushima Dai-ichi NPP acci-dent have been estimated using artificial intelligence techniques such as the Genetic Algorithm (GA) and the Artificial Neural Network (ANN). The contribution rate of each radionuclide of 131
I, 132
Te and 134
Cs has been estimated by fitting the calculated air dose rate to the observed one from April to September, 2011, using the GA and ANN. The estimation using GA is found to have better reproducibility than that using ANN, especially in the beginning of April.
The initial air dose rate immediately after the accident is estimated using a theoretical equation that considers the half-life time of each nuclide. The estimated air dose rate is consistent with the observed one, except in the case of the higher dose rate that is caused by the diffusion plume of the radionuclides. This method has also been applied to the points for which the air dose rate data are not acquired, by using the contribution rate in the vicinity of the point.
The proposed method using the artificial intelligence techniques has been confirmed to be effective for the estima-tion of the initial air dose rate and the contribuestima-tion rate of the radionuclides.
Keywords: Artificial Intelligence Technique, Genetic Algorism, Artificial Neural Network, Initial Dose Rate, Fukushima Dai-ichi NPP Accident
人工知能技術を用いた東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う
空間線量率の予測解析
Estimation of Initial Dose Rate Caused by Fukushima Dai-ichi NPP Accident
Using Artificial Intelligence Techniques
Shinji TAKEUCHI
*, Masahiko MOCHIDA
**, Kunio WATANABE
***and Katsumi HIROSE
*** (Received November 16, 2013)* College of Humanities and Sciences, Nihon University :
3-25-40 Sakurajosui, Setagaya-ku, Tokyo 156-8550, Japan
** JR East Omiya branch :
434-4 Nishiki-Cho Omiya-ku Saitama-shi, Saitama, 330-0853, Japan
*** Geosphere Research Institute of Saitama University :
255 Shimo-Okubo Sakura-ku Saitama-shi, Saitama, 338-8570, Japan
* 日本大学文理学部: 〒156-8550 東京都世田谷区桜上水3-25-40 ** JR東日本大宮支社: 〒330-0853 埼玉県さいたま市大宮区錦町434-4 *** 埼玉大学地圏環境科学センター: 〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255
GAを用いて放出核種ごとの寄与率を算出し,これに基づ いて地点ごとの事故直後の空間線量率の推定を試みた。 2 .事故の経緯と放出核種について 今回の事故では,東京電力福島第一原子力発電所(以 下,発電所)の1 号機から 4 号機での原子炉格納容器の 圧力開放のためのベントや原子炉建屋の爆発により大量 の放射性物質が大気中に放出された。東北地方太平洋沖 地震に伴う事故後の主要な放出イベントは以下のとおり である1)。 ● 2011年 3月12日14 : 30:1 号機でのベント ● 2011年 3月12日15 : 36:1 号機での爆発 ● 2011年 3月13日 9 : 36:3 号機でのベント ● 2011年 3月14日11 : 01:3 号機での爆発 ● 2011年 3月15日 0 : 00:2 号機でのベント ● 2011年 3月15日 6 : 14:2 号機での衝撃音,4 号機 における壁の破損 ● 2011年 3月15日 9 38:4 号機での火災 上記イベント等により放出された放射性核種は31種 類とされている2)。これらのうち,事故時の炉心の到達 温度 (2000℃前後) よりも低い沸点を有し,拡散プルー ムとして遠方まで運ばれ,かつ放出量が多く人体に影響 する可能性のあるものとして,131I (沸点184.3℃,半減 期8.04日),132 Te (同988℃,3.2日) 134Cs,および137Cs (同671℃,2.07年および30.1年) が考えられる。今回の 解析では,これらの中で,事故初期の空間線量率に影響 する半減期が比較的短い131I,132 Te,134Csを解析対象と した。 3 .利用データと空間線量率の変化の特徴 本研究では,茨城県が公開する県内37地点の 10分ご とおよび24時間ごとの空間線量率のデータを利用した。 データの期間は2011年3月15日∼同年9月30日とした3)。 図1 に37の観測地点を示す。 茨城県内の測定地点の空間線量率の変化は,図2 に示 すように,2011年 3月15日,同16日,同21日,同22日 にそれぞれピークを示しつつ,全体として減少傾向を示 す。このうち,事故直後もっとも早期に空間線量率の ピークが観測された3月15日3 : 20∼14 : 40の変化を詳 細に検討するため,10分毎のデータを図 3 に示す。こ れ よ り, ①3月15日4 : 20∼5 : 20付 近, ② 同6 : 20∼ 8 : 30付近,そして③同11 : 40∼12 : 10付近にピークが 図1 茨城県内37地点の観測地点 (地形区分は地震ハザードステーション4)を利用)
する。さらに③のピークは,南部地域のみに見られる。 これらの違いは,この時間帯の放射性物質を含むプルー ムの位置と気象条件などが主な原因と考えられる。 以上のような空間線量率の変化は,24時間データで は明瞭に読み取ることは困難な場合が多く,10分値 データを検討することで初めて明らかにすることができ る。 あることが分かる。さらに,観測地点を図1 の点線を境 に北部地域と南部地域に区分してそれぞれの10分毎の データを比較すると,異なる傾向が見えてくる。すなわ ち,北部地域 (図 4) では上述の①のピークが明瞭に現 れているのに対して,南部地域 (図 5) にはこれが無 い。また,②のピークは,北部地域では幅広いピーク値 を有するのに対して,南部地域のピークは短時間で消滅 図2 2011年 3月15日∼3月31日の10分値の最大値を日代表値とした空間線量率の変化 (37地点) 図3 2011年 3月15日における空間線量率の10分値の変化
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GAは,物性値と重みづけ係数の和として,以下の線 形式で表現される。 Pt(t)=α1 P(1 t)+α2 P(2 t)+ α3 P(3 t)+…αn P(n t) (1) ここで,Pt(t)は時刻 t における物性値の予測値 (ここ では合計の空間線量率),P は核種,αは当該核種の重 みづけ係数である。 一方,ANNは, 人間の脳内に多数存在しているニュー ロン (神経細胞) が行うパターン認識などの仕組みをコ 3 . 人工知能技術 人工知能技術とは,複雑かつ膨大であいまいな情報や 知識を人間等が行うように柔軟に取り扱うことで不確実 性の度合いを探りつつ,高度な精確性を要求せずにシス テムを解析する方法である5)。人工知能技術を地盤の解 析に適用した事例としては,花崗岩などの亀裂性岩盤中 の間隙水圧変動の予測事例6),7)などがある。 GAは,連続データに基づいてデータに影響を与える 複数の要素の寄与率とともに物性値の時間的・空間的予 測が可能な手法である。GAは,二種類の親の特徴が子 に遺伝する原理を利用した手法である。ある系の中で生 物等の遺伝子生成に関する自然淘汰のシミュレーション (淘汰,交叉,突然変異を繰り返しながら評価関数の最 適解を求める) を行い,これによって様々な連続データ (例えば,空間線量率や間隙水圧など) の変動等に関する 最適解を求め,これを基に時空間の予測を行うものであ る (図 6)。 図4 2011年 3月15日における茨城県北部地域の空間線量率の10分値の変化 図5 2011年3月15日における茨城県南部地域の空間線量率の10分値の変化 図6 GAでの解析手順
を考慮した空間線量率の減衰曲線を図8 に示す。この図 は2011年 4月1日の値を 1 として計算したものである。 抽出した核種のうち,131Iおよび132 Teが短期間で急速に 減衰し,事故直後の放射線量率の変化に大きく寄与して いることが分かる。これらの減衰曲線の合計が,実測値 の空間線量率を最も再現するときの核種ごとの寄与率を GAによって求めた。寄与率は2011年 4月1日∼2011年 9月30日までの 6ヶ月に観測された空間線量率を用い た。 上で求めた寄与率と核種ごとの半減期に応じた減衰曲 線を足し合わせた以下の式を用いて,初期(2011年 3月 31日以前)の空間線量率を推定した。 y = y′(max−min)+min (2) (3) ここで,y は空間線量率,t は基準日からの経過日数, y′は環境放射能 (バックグラウンド) を除いた予測結果, maxは2011年 4月1日の空間線量率,minは期間内で最 後 の 日 の 空 間 線 量 率,TCsは134Csの 半 減 期( 約2.07 年 ),TIは131Iの 半 減 期 (8.04日 ),T Teは132 Teの 半 減 期 (3.2日),tall: 使用した全データ日数,αCs,αI,αTe はそれぞれの核種の寄与率を表す。 図9 に式 (3) の概略を示す。Csを例にとると,式 (3) の (1/2)tall/TCsはバックグラウンドの放射能の寄与分を示 す。したがって分母は,今回の事故によって放出された 134Csの初期 (2011年 4月1日時点) の寄与分を示す。ま た,分子は任意の時刻 ( t ) における,今回の事故による 134Csの寄与分を示す。 ンピュータ上で人工的に再現することにより,音声認識 や文字認識など様々なパターン認識に関わる問題を解く ものである8)。本研究ではこれを空間線量率の変動パター ンの推定に適用した。今回用いたANNは階層型ニュー ラルネットワークと呼ばれるものであり,入力信号を他 のニューロンに分配する入力層と,外部に対して出力信 号を出す出力層,および入力層と出力層の流れの中間に 存在する中間層の3 つのニューロンの層によって構成さ れている (図 7)。ここで入力されたデータに対して,出 力結果を教師信号 (正解) と比較して,違っているとき は結合強度としきい値を変更することにより誤差を小さ くしていく。これは比較的小さい計算量で良好な解が得 られることが多いことから,パターン認識やデータマイ ニングをはじめ,様々な分野で用いられている。 4 . 核種毎の寄与率と初期(事故直後)の空間線量 率の推定の方法 今回選定した3 つの核種 (131I,132 Te,134Cs) の半減期 図7 ANNの階層構造 図8 2011年4月1日を1とした時の主要核種の減衰曲線(2011/4/1∼2011/12/31)
よび南部に位置する樅山 (もみやま) におけるGAおよ びANNを用いて求めた空間線量率のフィッティング結 果を図10に,核種の寄与率の算出結果を図11に示す。 図11には比較のため,同様の手法によって推定した福 島県福島市およびいわき市の結果を示した。なお図11 5 .推定結果 5.1 核種毎の寄与率 結果の一例として,2011年 4月1日∼同年 9月30日ま での6 か月間で観測された茨城県北部に位置する久米お 図9 予測式の概念図 図10 茨城県北部地域の久米 (上) および南部地域の樅山 (もみやま) (下) における GAおよびANNを用いた予測結果と実測値の比較
空間線量率割合
4/1 5/1 6/1 7/1 8/1 9/1時間
(月/日)
付近のピーク値の再現性は必ずしも高くはないことが分 かる。これは原発における数回のベント作業や爆発によ る放射性物質の放出量や形態 (降雨もしくはダスト) や 量,さらには風向きによるプルームの通過の有無が原因 していると考えられる。 5.3 近隣地点の寄与率を用いた初期の空間線量率 本手法により求めた各地点の核種の寄与率に関して, 近隣地点の寄与率を用いて事故直後の空間線量率の予測 を試みた。これは,地震によるモニタリング装置の故障 などが原因でデータが欠損している地点において,同様 の気象等条件の近隣地点で得られた寄与率を用いて初期 の空間線量率を推定することを想定した検討である。 例として,樅山から西北西に約9 km離れた上冨田を 選定した (図 1)。具体的には上冨田で事故直後から 4月 までのデータが欠損したと仮定し,同地区の5月以降の 空間線量率と,樅山で求めた寄与率を用いて,式 (2), (3) により事故直後の空間線量率を推定した。なお,樅 山と上冨田の4月以降の空間線量率から求めた寄与率は 図13に示す通りである。推定の結果,131Iと134Csの寄与 率の度合はほぼ同様であるが,132 Teの寄与率について は樅山で0,上冨田では若干の寄与率 (約0.0755) を有す る結果となった。 樅山の寄与率を用いて上冨田の事故直後の空間線量率 を求めたものと,比較のため,4月以降の空間線量率か ら事故直後の空間線量率を推定した結果 (正規の方法) を図14に示す。これを見ると,樅山の寄与率を用いて 求めたものは,正規の方法のそれと比較して,3月15日 付近のピーク値の再現性が若干劣るものの,全体として は両者は整合的な結果となった。 中の各グラフの右側の表にあるIterationはGAの繰り返 し 計 算 回 数,R2は 決 定 係 数(Coefficient of
Determina-tion),RMSEは平均二乗誤差(Root Mean Square Error), CEは効率化係数 (Coefficient of Efficiency) (百分率表
示) であり,統計解析で一般的に用いられる精度指標で ある。 図10より,GA,ANNとも実測値をよく再現している が,特に初期においてはGAの再現性が良いことが分か る。同様の傾向は他の地点においても見られることか ら,GAの結果を基に核種ごとの寄与率を算出すること は妥当と判断した。 また図11から,茨城県の 2 地区および福島県いわき市 では131Iの寄与率が相対的に高く,かつ132 Teの寄与率が 著しく低い (もしくはほとんどない) ことが分かる。一 方,福島市では3 つの核種が同等の寄与率を有すること が分かる。これらの違いは,放射性核種を含むプルーム の通過および核種の半減期などが要因と考えられる。こ のことは,原発からの距離に応じて南方に位置する福島 県いわき市,茨城県久米,および樅山の順に短半減期核 種 (3.2日) である132 Teの寄与率が低下していることか らも示唆される。 5.2 初期(事故直後)の空間線量率 5.1で推定した核種毎の寄与率α (αI,αTe,αCs) を用いて,式 (2) および (3) により初期の空間線量率の 予測が可能となる。これにより,茨城県久米および樅山 における2011年 4月1日以前の空間線量率を予測した結 果を図12に示す。両地区では 4月1日以前の実測値も得 られていることから,予測結果との比較が可能である。 図12より両地区における予測結果は,概ね実測値の変 化傾向を再現しているものの,3月15日および同22日 図11 茨城県 (久米,樅山 (もみやま)) および福島県 (福島市,いわき市) の寄与率推定結果
6 .考察 6.1 茨城県内における初期(2011 年 3 月 15 日付近)の 空間線量率の相違について 2011年 3月15日付近の空間線量率に関して,茨城県 の北部と南部で傾向の相違があることについて,(独) 日本原子力研究開発機構 (以下,原子力機構) が公表し ている緊急時環境線量情報予測システム (SPEEDI) に よる解析結果9)をもとに考察を試みる。SPEEDIはアメ ダスなどの気象データや地形データ,想定される放出核 種や核種放出率などを基に,放射性物質の空間線量率分 布などを予測するものである。図15に 3月15日におけ る茨城県における空間線量率分布の時間変化を示す。実 測値では同日の4 : 20∼5 : 20では北部地域のみに空間線 量率の増加 (3. 章の①のピーク) が観測されている。こ れは,シミュレーション結果では,同日2:00から始まる 放射性物質を含むプルームの南下が北部地域に限られて いることと整合的である。また,6 : 20∼8 : 30付近の両 地域に見られる空間線量率の増加 (3. 章の②のピーク) は,図15の8 : 00および11 : 00における予測結果から北 部地域における幅広いプルームの通過,南部地域におけ る稀薄なプルームの通過と整合的である。この南部地域 のプルームの通過は,原子力機構が公表している拡散プ ルームの動画10)で見ると,南部地域を通過するプルー 図12 茨城県久米および樅山における空間線量率の変化の予測結果(3/14∼3/31) 図13 2011年 4月1日以降の空間線量率を用いて求めた核種寄与率の比較 (ここでの検討では,樅山の寄与率を用いて上冨田の初期の空間線量率を予測) 予測値 実測値 予測値 実測値
さらに,今回求めた核種毎の寄与率を全地点で比較し た (図16)。これより,茨城県内の全ての地点で131Iの寄 与率が最も高く,次いで134Cs,132 Teの順であることが 分かる。核種毎の寄与率はGAを用いて 2011年 4月∼9 月末のモニタリングデータから推定しており,比較的長 期間のデータへのフィッティングにも拘わらず短半減期 の131Iの寄与率が高いことは,核種の放出量が影響して いる可能性がある。実際,原子力安全・保安院が公表し た 核 種 放 出 量 の 試 算 値2)で は,131Iが1.6×1017 (Bq), 132 Teが8.8×1016 (Bq),134Csが1.8×1016 (Bq)とされてお り,131Iの放出量が相対的に多いことからも支持され る。なお,図16で131Iの寄与率が他よりも著しく低い 「磯部」,「額田」,「上冨田」および著しく高い「堀口」 (図16中の▲の地区)での気象条件や拡散プルームの通 過の特徴などについては,今後モニタリングデータの品 質や解析結果の信頼性も含めて詳細に検討する必要があ る。 ムが短時間に北西方に移動することからも確認ができ る。なお,11:40∼12:20付近の南部地域のみの空間線量 率の増加 (3. 章の③のピーク) については,SPEEDIに よるプルームの移動予測結果からは確認ができない。こ れについては,当時の気象データなどを詳細に検討する ことが必要である。 以上のように,茨城県内の空間線量率の分布の特徴 は,SPEEDIによる拡散プルームの移動予測の結果とも 概ね整合することが確認された。 6.2 初期の空間線量率と核種寄与率 本検討で予測した茨城県内37地点の初期の空間線量 率の予測結果は,プルームの通過のタイミング(ピーク 値)では実測値を必ずしも正確には再現してはいない が,その変化の傾向は概ね一致している。さらにピーク 値以外の値は良い再現性を示した。このことは,本研究 で提示した初期の空間線量率の予測手法が概ね妥当なも のであることを示していると考えられる。 図14 2011年3月中の上冨田の空間線量率 (上冨田の4月からのデータから推定したケース (上),樅山 (近隣地点) の寄与率から推定したケース (下))
予測が可能である。したがって,実測値の整備とともに 迅速に予測計算を実施することで,仮に予測結果を著し く外れる実測値が得られた場合は,その原因を検討し迅 速に対処することが可能である。例えば,実測値が予測 値を著しく上回る場合は,地盤からの放射線量が大きく 6.3 空間線量率の将来予測結果の活用 本研究で適用したGAやANNは,連続データが整備 されていれば比較的迅速に計算が可能である。本手法で は,連続データのトレンドを学習し,これによって取得 される重み付け係数を用いて,定常状態の物性値の将来 図15 SPEEDIによる2011年 3月15日の空間線量率分布の予測9) 図16 茨城県内観測地点 (37地点) の核種ごとの寄与率
なったと考えられる。このような場合は,当該地点に周 辺から放射性物質を含む土壌の運搬・堆積が要因の一つ として考えられる。対処方法としては,周辺地域の地盤 の空間線量率の測定を行い,高い値を示す領域を除染す るなどの措置を迅速にとることが安全,安心な生活環境 を確保する上で重要と考えられる (図17)。 7 .まとめ 本研究で得られた成果を以下にまとめる。 東京電力福島第一原子力発電所事故により初期に放出 された放射性核種とその寄与率はこれまで明らかにされ ていなかったが,今回提示した人工知能技術を用いた予 測手法により,一定の信頼性をもって推定することが可 能であることを示した。さらに,事故直後の実測値が欠 損している地域においては,気象等の条件が同様の近隣 地点で求めた寄与率を用いることにより,初期の空間線 量率とその寄与率を概ね把握可能であることが確認でき た。 本手法によって得られる空間線量率の将来予測は,連 続データが整備されていれば迅速な計算が可能である。 したがって,予測結果と実測値との比較を継続的かつリ アルタイムで行うことにより,実測値が予測結果を著し く外れる (特に上回る) 場合には,その原因を迅速に究 明し,原因に応じて除染を実施するなどの危機管理等に 活用することが可能と考えられる。 今後は,福島県内での観測値を用いた初期の空間線量 率と核種毎の寄与率について予測解析を行う予定である。 1) 原子力災害対策本部(2011):原子力安全に関する IAEA 閣僚会議に対する日本国政府の報告書 ―東京電力福島 原子力発電所の事故について―,平成23年 6月 2) 原子力安全・保安院(2011):東京電力株式会社福島第 一原子力発電所の事故に係わる1 号機,2 号機及び 3 号 機の炉心の状態に関する評価について,平成23年 6月6 日 3) 原子力規制委員会 原子力防災ネットワーク 環境災 N ネット http://www.bousai.ne.jp/vis/jichitai/ibaraki/index.html 4) 防災科学技術研究所地震ハザードステーション http://www.j-shis.bosai.go.jp/map/ 5) 森元映治・平岡 淳・大崎榮喜・中村 誠・和田憲造 (1999):遺伝的アルゴリズムを用いた階層型ニューラル ネットワークのパターン学習構造の簡略化,山口大学工 学部研究報告,vol.49, No2, pp.9-15 6) 竹内真司・乳根達矢・NURHUSEIN MEBRUK・渡辺邦 夫(2010):人工知能技術を用いた坑道掘削に伴う間隙 引用文献 水圧の変動予測解析,水工学論文集,第 54巻,pp409-414
7) Mebruk Mohammed, Kunio Watanabe, Shinji Takeuchi (2010):Grey model for prediction of pore pressure
change, Environ. Earth Sci. Vol.60, pp1523-1534
8) 例えば,臼井支朗,岩田 彰,久間和生,淺川和雄 (1995):基礎と実践 ニューラルネットワーク,p221, コロナ社 9) (独)日本原子力研究開発機構(2011):福島第一原子力 発電所事故に伴う放射性物質の大気拡散解析 茨城県南 部の線量上昇についてのWSPEEDIシミュレーションに よる考察(H23/09/02) 10) (独)日本原子力研究開発機構(2011):東京電力福島第 一原子力発電所事故により環境中に放出された放射性物 質の拡散シミュレーションの動画(平成23年11月11 日) http://nsed.jaea.go.jp/ers/environment/envs/fukushima/ 図17 空間線量の予測結果の活用