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行動分析学研究 32(2): (2018)

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(1)

A Classwide Intervention With Individual Support

in Three Regular Classrooms:

Effects on the Academic Preparation Behavior of All Students,

Including Students With Developmental and/or Intellectual Disabilities

K

AYO

I

WAMOTO

Tsukuba University/Japan Society for the Promotion of Science

F

UMIYUKI

N

ORO

Tsukuba University

Abstract

Study objective: To examine effects of a classwide intervention combined with individual support on the

academic preparation behavior of all the students in a regular classroom, including students with developmental or intellectual disabilities. Design: Multiple baseline design across 3 classrooms. Setting: A kanji test taken in regular classrooms. Participants: 102 students in 3 fifth-grade classrooms, including 7 students with developmental or intellectual disabilities, in a regular elementary school. Independent

variables: A package program consisting of an interdependent group-oriented contingency for academic

preparation behavior, tootling procedures, self-recording, and line-graph feedback. Before the group contingency intervention, individual support was provided to those students whose disabilities were related to writing. For 1 participant with disabilities, who did not show positive behavioral change, the classwide intervention was combined with an individual contingency. Measures: The percentage of students who showed academic preparation behaviors. Results: Academic preparation behaviors increased in all 3 classrooms. Conclusion: This classwide intervention, combined with individual support, was followed by improved academic preparation behavior in all students.

Key Words regular elementary school classroom, classwide intervention, individual support, students with developmental or intellectual disabilities, academic preparation behavior

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通常学級における学級全体への支援と個別支援の組合せ

——発達障害・知的障害児童を含む学級全児童の学習準備行動への効果——

筑波大学/日本学術振興会 岩本佳世 筑波大学 野呂文行 研究の目的 通常学級全体への支援と個別支援との組合せによって、発達障害・知的障害児童を含む 学級全児童の学習準備行動に効果が示されるかどうかを検討した。研究計画 3 学級で実施した学級間 多層ベースラインデザイン。場面 通常学級の漢字テスト場面で実施した。参加者 小学 5 年生 3 学級 の全児童 102 名(発達障害・知的障害児童 7 名を含む)が参加した。独立変数 学習準備行動に対する 相互依存型集団随伴性を中核とした介入パッケージ(相互依存型集団随伴性に基づく報酬提示、トゥー トリング、自己記録、折れ線グラフフィードバック)。書字困難の見られた発達障害・知的障害児童に 対し、相互依存型集団随伴性に基づく介入を導入する前に、個別支援を実施した。集団随伴性に基づく 介入で効果が見られない発達障害児童には個人随伴性を組合せた。行動指標 漢字テストが始まるまで に学習準備行動を遂行した児童の割合を従属変数とした。結果 介入条件の導入により、3 学級ともに 学習準備行動を遂行した児童の割合が増加した。結論 通常学級全体への支援と個別支援との組合せに より、発達障害・知的障害児童を含む学級全児童の学習準備行動は促進された。 Key Words 通常学級、学級全体への支援、個別支援、発達障害児童、学習準備行動

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問題と目的

インクルーシブ教育の推進にともない、発達障 害を含む特別な教育的ニーズのある児童生徒が在 籍する通常の学級集団への行動面と学習面におけ る教育的支援が必要とされている(文部科学省, 2012,2017)。米国では児童生徒の示す行動問題 に対する支援システムとして Positive Behavior Support(以下、PBS)が導入されている。PBS と は一人ひとりの QOL(quality of life)の向上のた めに、不適切な行動を最小化するように生活環境 全般を再構築する応用科学である(Carr et al., 2002; 平澤・小笠原,2010)。また PBS のシステ ムを学級や学校全体に対する支援に適用したアプ ローチとして、School-wide Positive Behavior Support (以下、スクールワイド PBS)がある。 スクールワイド PBS では階層的支援が推奨さ れる。階層的支援とは、第一次支援を学級全体に 対して実施し、その支援では行動問題の改善が見 られない児童生徒に対し、第二次支援(行動に対 するフィードバックやモニタリング等を必要とす る児童生徒を対象とした支援)、第三次支援(専 門的・集中的な個別化した行動支援)と順次支援 を厚くしていく考え方である(Sugai & Horner, 2009)。階層的支援の効果を検討した研究の多く は、児童生徒の成果に関する階層内の測定可能な 変数の効果に焦点を当てている(Batsche, 2014)。 Stewart, Benner, Martella, & Marchand-Martella (2007)は階層的支援の効果を検討した研究をレ ビューし、学業と行動の一方のみを評価するより も両方を評価した方が、学力に大幅な改善が見ら れたことを報告している。また階層的支援の効果 として、質の高い学業指導を行うことによって行 動問題が減少すること(例えば、Filter & Horner, 2009; Preciado, Horner, & Baker, 2009)、適応行動 への支援を行うことは学習時間の増加や学業成績 の向上につながること(例えば、Lassen, Steele, & Sailor, 2006; McIntosh, Flannery, Sugai, Braun, & Cochrane, 2008)が明らかにされている。 インクルーシブな通常学級において階層的支援 を適用する目的は、すべての児童生徒が目標(例 えば、期待される行動基準や学業基準)を達成で きるようにすることである。発達障害児童生徒や その他の特別な教育的ニーズを有する児童生徒に ついては、集団支援のみでは十分な効果が得られ ず(例えば、Vaughn et al., 2010)、学業スキル等 に著しい困難が見られる児童生徒に対しては集団 と同じ評価指標ではなく、個に応じた評価指標を 用いることで、個人内での変化を測定することが 可能となる。 一方、通常学級全体への支援を実施することに よって、一部の行動問題が見られる発達障害等の 児童に関して、階層的な特別支援がなくても他の 児童と同様に行動変容がもたらされることも報告 されている(例えば、Kamps et al., 2011; 関戸・安 田,2011)。このような支援方法のひとつに、相 互依存型集団随伴性に基づく支援(interdependent group-oriented contingency)がある。相互依存型 集団随伴性とは、集団のメンバー全員の遂行成績 によって、集団のメンバー全員が報酬を得られる かどうかが決まる強化随伴性操作である(Litow & Pumroy, 1975; Maggin, Johnson, Chafouleas, Ruberto, & Berggren, 2012)。また、他児への援助 等の向社会的行動と他児への非難等の非援助的な 行動(負の副次的効果)が標的行動に付随して生 起しやすい特徴がある(涌井,2006)。そのため 相互依存型集団随伴性に基づく支援を適用する際 には、負の副次的効果への予防的な対応が必要と なる。 学校場面における単一事例研究法を用いた相互 依存型集団随伴性に基づく支援については、近年 のレビュー論文では、学級全児童の適応行動の増 加を示した研究はあまり見られない(Flower, McKenna, Bunuan, Muething, & Vega, 2014; Little, Akin-Little, & O Neill, 2014; Maggin et al., 2012)。 複数の学級で相互依存型集団随伴性に基づく支援 を適用し、発達障害等のある児童生徒を含む全児 童生徒の適応行動への効果を検討した研究は Christ & Christ(2006)と Kamps et al. (2011) のみ であるが、これらの研究では個別支援に関する データは収集されていなかった。そのため、相互 依存型集団随伴性に基づく支援と個別支援との組 合せによって、発達障害児童生徒を含む全児童生 徒の適応行動の増加が示されるかどうかを複数の

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学級で検証する必要がある。

単一事例研究法を用いて児童生徒の学業成績へ の効果を検討した研究では、学業成績が直接的な 標的行動にされている(例えば、Pappas, Skinner, & Skinner, 2010; Popkin & Skinner, 2003)。しかし、 学級内に著しく低成績を示す児童生徒が存在する 場合には、学業成績を直接的な標的行動にすると 当該児童生徒が非難の対象になる可能性がある。 このような学級を対象とする場合には、間接的な 標的行動(例えば、学習準備行動)に相互依存型 集団随伴性に基づく支援を適用する方が望ましい と考えられる。学級全児童の適応行動にアプロー チし、その結果としてもたらされる学業成績への 波及効果について検討した群間比較研究法を用い た研究がある(Weis, Osborne, & Dean, 2015)。こ の研究では 949 名の児童(介入群 27 学級、対照 群 22 学級)を対象とし、相互依存型集団随伴性 に基づく介入パッケージを適用し、全児童の学業 成績への波及効果を検討した。この研究での標的 行動は、学級担任と児童が教室内でのルールを決 め、そのルールに従う適応行動(例えば、静かに する)とルールに反する行動であった。この相互 依存型集団随伴性に基づく介入パッケージに、児 童の適応行動を教師が賞賛するカード、あるいは ト ゥ ー ト リ ン グ(tootling: Skinner, Cashwell, & Skinner, 2000)カードを導入した。トゥートリン グとは、児童がクラスメイトの向社会的行動を カードに記入して担任に報告し、学級全体の報告 数に応じて、学級担任が学級全体に報酬を提示す る手続きである。このような相互依存型集団随伴 性に基づく介入パッケージを適用した結果、介入 群の読解力と算数の得点への波及効果が示され た。しかし、児童の適応行動に関するデータは収 集されていなかった。そのため、児童の適応行動 の増加によって、学業成績への波及効果が見られ るかどうかを検討する必要がある。 そこで本研究では、学習規律の統制が十分に遂 行できていない児童が複数名存在し、かつ発達障 害児童が在籍する 3 つの通常学級を対象に、相互 依存型集団随伴性を中核とする介入パッケージを 導入し、その学級全体への支援と個別支援との組 合せによって、発達障害・知的障害児童を含む全 児童の適応行動を遂行する児童の割合が増加する かどうか検討することを第一の目的とした。第二 の目的として、発達障害・知的障害児童を除く全 児童の学業成績への波及効果を検討した。本研究 では、学業成績に与える波及効果を具体的に評価 する場面として、漢字テスト場面を用いた。 また学習規律の統制のみでは、学業成績への波 及効果が示されない学級が存在することも予測さ れ、そのような学級に対しては、学業成績への波 及効果を促進するために、学業成績を直接的な標 的行動とした。学業成績を相互依存型集団随伴性 の直接的な標的行動にする場合には、前述のよう に負の副次的効果が生じやすくなるため、それを 予防する手続きが必要となる。例えば、目標(テス トの合格点等)の設定に児童生徒が関与すること で集団内で達成可能な目標が設定され、その目標 を達成する児童生徒が増加することが知られてい る(Austin, Carr, & Agnew, 1999)。また、目標の基 準をランダムに決定することで、標的行動が高い 比率で生じやすくなり(Hawkins, Musti-Rao, Hughes, Berry, & McGuire, 2009)、特定の児童が基準に到達 しないことが避けられる。本研究では、学習準備 行動に対する相互依存型集団随伴性を中核とした 介入パッケージの適用では学業成績への波及効果 が示されない学級に対し、班の合計得点に対する 相互依存型集団随伴性に基づく支援を導入し、当 該学級の発達障害児童を除く全児童の学業成績へ の効果を検討することを第三の目的とした。

方 法

参加者 本研究は、公立小学校(以下、A 校)の通常学 級において実施した。A 校には自閉症・情緒障害 特別支援学級(以下、自閉情緒学級)2 学級と知 的障害特別支援学級(以下、知的学級)1 学級が 設置されていた。自閉情緒学級と知的学級に在籍 する児童が通常学級に交流及び共同学習(以下、 交流)を行う時間の一つに、朝学習の時間があっ た。朝学習は毎日行われており、担任が学級指導 を行う場面であった。朝学習の内容は、計算ドリ ルや漢字ドリル、読書であった。 対象とした学級は、A 校の中でも児童の学習面

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と行動面における支援ニーズが高く、特別支援学 級に在籍する児童が最も多い 5 年生の 3 学級で あった。5 年生の各学級の児童数は 1 組が 34 名、 2 組が 33 名、3 組が 35 名であった。対象学年は、 3 年生の時に朝の準備場面、4 年生の時に体育科 の授業の集合・整列場面において、相互依存型集 団随伴性に基づく支援が実施され、両場面で行動 改善された履歴があった。5 年生の担任は、1 組 と 2 組が 40 代の女性、3 組が 30 代の男性であっ た。1 組と 3 組の担任は、集団随伴性に基づく支 援は初めてであり、2 組の担任は体育科での集団 随伴性に基づく支援を経験していた。本研究は、 著者の所属大学の研究倫理委員会で承認(課題番 号筑 26-130)された手続きにしたがい、研究の 説明を第一著者が実施した上で、学校長、担任 3 名、発達障害・知的障害児童 7 名の保護者から 書面により本研究参加への同意を得た。また、各 学級の保護者会で第一著者が本研究への協力につ いての説明を行い、各学級全児童の保護者からの 本研究への参加に対する同意を口頭で得た。保護 者会での説明は、研究の目的や記録方法、成果や 個人情報の遵守、集団随伴性の副次的効果に関す る内容(班で協力して目標を達成する時に自分の 考えをやさしい言い方で伝える練習の機会にもな ること等)についてであった。 特別支援学級に在籍する 7 名の発達障害・知的 障害児童(男児 6 名、女児 1 名)の中で、書字困 難の可能性が見られた 4 名(C1、C2、C3、C4) に対し、小学生の読み書きスクリーニング検査 (宇野・春原・金子・Wydell, 2006)を実施した。 知的障害のない C1 と C2 は小学 5 年生用の漢字 テスト、知的障害のある C3 と C4 は小学 2・3 年 生用の漢字テストを使用した。その結果、漢字 (書取)テストで C1とC2 が−1.5 標準偏差(standard deviation, SD)未満、C3 と C4 が−2SD 未満の得 点であったことから、4 名には書字困難があるこ とが推測された。発達障害・知的障害児童の知能 検査(WISC-IV)の結果を表 1 に示す。 1 組には自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder, ASD)児童 2 名と知的障害児童 1 名が交 流していた。2 組には知的障害と注意欠如・多動 症(attention deficit hyperactivity disorder, ADHD) を併せもつ ASD 児童 1 名が交流し、学習面に困 難が見られる児童が 2 名在籍していた。3 組には ASD 児童 3 名が交流していた。また C1 と C4 は、 4 月から 6 月中旬まで、登校から朝学習の時間に おいて母親の付き添いがあった。 介入場面と支援開始の経緯 本研究は、X 年 4 月から X+1 年 3 月までの期 間に、各学級の朝学習の場面を中心に実施した。 多くの児童は、午前 8 時頃に登校して各教室に入 室した。午前 8 時 15 分から朝学習が行われ、午 前 8 時 25 分から朝の会が開始されていた。第一 著者は校長の承認を得た上で、研究期間中、週に 1∼2 日、対象学年の支援員として関わった。ま た、発達障害・知的障害児童の行動問題に対する コンサルタントの役割も果たしていた。研究開始 当初の 4 月と 5 月の時点では、3 組は朝学習が始 まる合図のチャイムが鳴り終わっても、離席して いる児童、漫画を読んだり自由帳に好きなことを 描いたりして朝学習に取り組めていない児童が、 ASD 児童 3 名を含めて複数名いた。そのため、 表 1 発達障害・知的障害児童の診断名と知能検査(WISC- Ⅳ)のプロフィール 学級 児童 性別 診断名 全検査 IQ 言語理解 知覚推理 ワーキング メモリー 処理速度 1 C1 男児 ASD 95 119 87 88 83 1 C2 男児 ASD 108 123 100 103 94 1 C3 女児 知的障害 68 78 68 82 67 2 C4 男児 知的障害 ASD, ADHD 59 68 68 60 67 3 C5 男児 ASD 113 127 104 103 99 3 C6 男児 ASD 128 127 111 136 107 3 C7 男児 ASD 113 105 139 103 86 IQ:知能指数、ASD:自閉スペクトラム症、ADHD:注意欠如・多動症

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この時点では、第一著者は 3 組を対象とした学級 全体への支援を担任に提案し、その支援のための アセスメントを行っていた。しかし、6 月中旬に C1 と C4 の母親の付き添いが終了すると、その 2 名の行動問題が朝学習の場面で生じるように なった。また、1 組と 2 組についても、複数の児 童に学習規律の統制が必要であるとの支援要請を 学年主任から受け、3 学級すべてに介入すること となった。 手続き 行動の定義と結果の評価方法 発達障害・知的 障害児童を含む全児童の標的行動は学習準備行動 とし、午前 8 時 15 分までに机の上に鉛筆 1 本と 消しゴム 1 個を置くことであった。離席している 児童、筆箱や赤白帽子、漫画等の不必要な物を置 いている児童は、標的行動を未遂行とした。発達 障害・知的障害児童の適切行動は、朝学習に取り 組む、援助報告をする(学習内容や学習準備行動 に関する同じ生活班の児童からの援助を付箋紙に 書く)、読書をすることであった。 発達障害・知的障害児童を含む全児童の標的行 動(学習準備行動)について、博士後期課程に在 籍する大学院生(第一著者)、博士前期課程に在 籍する大学院生、自閉情緒学級担任の計 3 名が、 教室内で直接観察し、記録した(例えば、第一著 者が 1 組、大学院生が 2 組、自閉情緒学級担任が 3 組)。観察者間一致率を算出するために、大学 生1名と知的学級担任1名が第二観察者となった。 発達障害・知的障害児童の適切行動について、第 一著者、大学院生、自閉情緒学級担任の計 3 名 が、教室内で直接観察し、記録した(例えば、第 一著者が C1 と C2、大学院生が C4、自閉情緒学 級担任が C5 と C6)。 発達障害・知的障害児童を含む全児童の標的行 動のデータは、朝学習の開始場面(午前 8 時 15 分のチャイムが鳴り始めてからチャイムが鳴り終 わるまでの 20 秒間)で標的行動を示している児童 数をカウントすることで収集した。教室の端から 列ごとに児童の観察を行った。学習準備行動を遂 行した児童の割合を、(「学習準備行動を遂行した 児童数」/「遅刻・欠席者を除く学級全児童数」× 100)の算式で求めた。発達障害・知的障害児童 の適切行動のデータは、朝学習の時間(午前 8 時 15 分から午前 8 時 25 分までの 10 分間)を 30 秒 瞬間タイムサンプリング法によって、記録用紙に 適切行動の生起をチェックした。適切行動の生起 インターバル率は、(「適切行動が生起したイン ターバル数」/「全インターバル数」×100)の算式 によって求めた。 研究デザイン 学級間多層ベースラインデザインを用いて、発 達障害・知的障害児童を含む全児童の標的行動に 対する相互依存型集団随伴性を中核とした介入 パッケージの効果を検討した。発達障害・知的障 害児童に対しては、以下の ABC の各条件におい て、適切行動の平均生起インターバル率を算出し た。4 名(C1、C2、C3、C4)については、A 条 件がベースライン、B 条件が個別支援、C 条件が 個別支援と学習準備行動に対する相互依存型集団 随 伴 性 に 基 づ く 介 入 の 組 合 せ で あ っ た。3 名 (C5、C6、C7)については、A 条件がベースライ ン、B 条件が学習準備行動に対する相互依存型集 団随伴性に基づく介入、C 条件が B 条件と班の 合計得点に対する相互依存型集団随伴性に基づく 支援の組合せであった。 学級全体への支援 アセスメント期 漢字テストではない条件(例 えば、漢字ドリル)において、第一著者は標的行 動を遂行した児童数の記録、及び担任が午前 8 時 15 分に教室に入室しているかどうかについての 記録を行った。 ベースライン期(baseline:以下、BL) 漢字 テスト実施条件であった。具体的には、事前に漢 字テストの問題が出題される範囲の予告が行われ る、教室前の黒板に「漢字テスト」という板書が ある、そして担任が午前 8 時 15 分までに教室に いる条件であった。ベースライン期を導入する段 階で、標的行動及び適切行動についての説明を、 担任が発達障害・知的障害児童を含む全児童に対 して口頭で行った。適切行動の評価対象は発達障 害・知的障害児童のみであるが、学級全児童に対 しても、漢字テスト終了後の行動を確認するため に説明を行った。 相互依存型集団随伴性に基づく介入期 介入開

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始の前日までに第一著者が 3 名の担任に対し、相 互依存型集団随伴性に基づく介入の目的と手続き について、文書を用いて説明を行った。文書は、 標的行動、援助報告、約束、記録の仕方、報酬に 関する内容を記載したものであり、後日担任が児 童に説明する時に使用する台本と同じものであっ た。介入開始前日の道徳の時間等に、各担任が児 童に対して台本(上記の文書)を用いて、相互依 存型集団随伴性に基づく介入の説明を約 30 分間 で行った。 負の副次的効果を予防するために、援助報告と 約束の手続きを導入した。援助報告とは、漢字テ ストが始まるまでの時間に、やさしい言い方で漢 字を覚えるコツを教えてもらった場合に、援助を した児童の名前とその援助の内容を付箋紙に書く (例えば、「タカシ君から『枝は木を支えると覚え るといいよ』と教えてもらいました」)ことであっ た。その付箋紙に書く内容は、学習準備に関する 内容でもよいこととした(例えば、「ユイさんが 『筆箱は机の中にしまおうか』とやさしく声をか けてくれました」)。提出された付箋紙は、担任が 教室後方の掲示板に貼った。班(学級の生活班) 全員がこの付箋紙を提出した場合に、担任が班全 員に報酬(小さなキラキラシール:表面がキラキ ラ光る直径 10 mm のシール)を渡した。また担 任が児童に対して「班のメンバーで声をかけ合う など、たすけ合いましょう」「メンバーで、まだ できていない子がいたら、やさしく伝えましょ う」を約束として提示した。その約束は児童の標 的行動の記録用紙にも記載した。班はメンバー 3∼6 名で構成され、月に 1 回の席替えにともなっ て変更した。 漢字テストを実施する日の午前 8 時 10 分に、担 任が各班に標的行動の記録用紙を配布した。班の 記録係は、午前 8 時 15 分に班のメンバーが標的 行動を遂行したかどうかをチェックし、記録用紙 に遂行した人数分を折れ線グラフにし、午前 8 時 25 分に記録係の児童が担任の机に記録用紙を提出 した。記録係の児童は、班内で順番に担当した。 朝の会終了後に、児童の記録用紙の評価に基づ いて、全員が標的行動を遂行できた班全員に、担 任が報酬(宝石シール:エメラルドやサファイア 等の宝石が描かれた直径 30 mm のシール)を渡 した。シールは、児童がすごろく形式の台帳に 貼った。班全員が標的行動を遂行できたかどうか の評価とは別に、学級全員が標的行動を遂行でき た場合は、各教室に設置してあるカレンダーの当 該日に担任がダイヤモンドシール(ダイヤモンド が描かれた直径 30 mm のシール)を貼った。 班の合計得点に対する相互依存型集団随伴性に 基づく支援期 漢字の理解を促すことを目的と し、学業成績に対する相互依存型集団随伴性に基 づく支援を導入した。満点が 10 点の漢字テスト において、平均点が 2 点以下の児童が存在しな かった 3 組のみに対して実施した。また、班全員 で班の合計得点を話し合って決めることとした。 班の合計得点に対する相互依存型集団随伴性に基 づく支援は、漢字テストの前日に、児童が前回の 漢字テストの班の合計得点を算出し、翌日の漢字 テストの班の合計得点の目標点(前回の得点より も1点以上)を班のメンバーで話し合って決めた。 目標点に到達した班全員に、担任が報酬(宝石 シール)を渡した。例えば、4 人の班の合計得点 が前回 30 点(8 点 2 名、7 点 2 名)で 31 点(8 点 3 名、7 点 1 名)を目標点に設定し、当日の班の 合計得点が 31 点以上であった場合に、担任が班 全員に宝石シールを渡した。 強化スケジュール希薄化期 相互依存型集団随 伴性に基づく介入の効果の維持を目的とし、学習 準備行動に対する報酬(宝石シール)による強化 のみを、2 週間に 1 回の強化スケジュールの条件 で実施した。 個別支援 相互依存型集団随伴性に基づく介入を適用する 前に、書字困難が確認された発達障害・知的障害 児童 4 名に対し、個別支援を行った(C1 と C2 は 11 月 5 日 か ら、C3 は 9 月 7 日 か ら、C4 は 9 月 3 日から)。また、BL 期に漢字テストの得点が 0 点であった児童 2 名に対しても、個別支援を 行った(この 2 名については 10 月 8 日から)。個 別支援の内容は、学級全体に配布される漢字テス トに替えて第一著者が 6 名それぞれに個別の漢字 テストを使用することであった。この 6 名に対す る個別支援は、強化スケジュール希薄化期まで実

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施した。集団随伴性の導入後に、適切行動が増加 しなかった ASD 児童 1 名(C1)については、追 加の個別支援(以下、個人随伴性)を導入した (11 月 19 日から)。個人随伴性では、個人の遂行 成績に応じて個人に対する強化が決定され(涌 井,2006)、C1 については相互依存型集団随伴性 に基づく介入の標的行動に対するトークンエコノ ミー法を導入した。トークンは丸型シール(青色 の直径 13 mm のシール)を使用し、バックアッ プ強化子は C1 の好みの活動(週末に祖母の家に 行って猫と遊ぶこと)であった。バックアップ強 化子は、事前に母親と担任、第一著者で行った面 談の中で選定した選択肢の中から C1 が決定した。 学業成績の指標と結果の算出方法 学級全児童の学業成績は、発達障害・知的障害 児童 7 名と個別支援を行った 2 名を除いた 93 名 の漢字テストの成績を分析対象とした。相互依存 型集団随伴性に基づく介入を適用した学業成績の 指標は、対象学年で学習する漢字の 10 問テスト であった。テストの問題は、教科書に準じて構成 したものであった。漢字テストは実施日ごとに得 点を偏差値化し、反復測定による分散分析を行っ た。検定を行うため、児童が欠席した場合は当該 期間のその児童の平均値を代入した。実施日ごと に変換したため、テストの難易度にかかわらずほ ぼ平均 50、標準偏差 10 に統一した。また実施日 ごとに偏差値を算出するため、同じ期間で学級間 の学業成績を比較する必要があり、本研究では、 (a)BL 期において 3 学級を比較、(b)3 組に相 互依存型集団随伴性に基づく介入を導入する前後 18 日で 2 組と 3 組を比較、(c)1 組に相互依存型 集団随伴性に基づく介入を導入する前後 8 日で 1 組と 2 組を比較、(d)2 組に相互依存型集団随伴 性に基づく介入を導入する前後 10 日で 1 組と 2 組を比較、(e)3 組の班の合計得点に対する相互 依存型集団随伴性に基づく支援を導入する前後 10 日で 1 組と 3 組を比較、(f)全学級介入期と 強化スケジュール希薄化期、において学級間での 学業成績を比較した。統計分析は、SPSS 22.0J を 使用した。 発達障害・知的障害児童の学業成績について は、個人内比較を行った。個別支援を実施した 4 名の児童については個別に作成した漢字テストの 成績について、個別支援導入期と相互依存型集団 随伴性に基づく介入導入期の平均正答率を比較し た。個別支援を行わなかった 3 名の児童について は、全児童と同じ漢字テストを使用した。BL 期、 学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性に基 づく介入導入期、その条件と班の合計得点に対す る相互依存型集団随伴性に基づく支援の組合せに おいて、個人の平均点を算出して比較した。 社会的妥当性 支援に対する社会的妥当性を評価するために、 3 学級の全児童と担任 3 名に対し強化スケジュー ル希薄化期にアンケート調査を行った。尺度得点 の 7 割に相当した場合に、効果があったと判断し た(Von Brock & Elliott, 1987)。学級全児童に対 するアンケート項目は「標的行動の効果」「正の 副次的効果」「負の副次的効果」「介入受容性」「個 別支援の公平さ」の 5 項目からなる 5 件法のアン ケートであった。個別支援に関する質問は、個別 支援を行った 2 学級(1 組と 2 組)の全児童に対 して実施した。担任に対するアンケートでは、支 援計画の社会的妥当性を評価するために、各担任 の主観的評価を尋ねた。行動的支援評定尺度 (BIRS: Elliot & Treuting, 1991)を参考にし、第一 著者が作成した27項目からなる5件法のアンケー トであった。 介入厳密性 第一著者が提案した支援手続きにそった対応を 担任が厳密に実行できているかどうかを測定する ために、担任の支援手続きについて観察を行っ た。支援手続きの下位項目を列挙したチェック シートを用いて、第一著者が観察記録を行った。 介入前に行った練習(台本に基づいて実施した相 互依存型集団随伴性の標的行動や援助報告、約 束、報酬等の説明)では、すべての学級で 100% の厳密性が確認された。支援期のうち 4∼5 日間 測定し、1 組は 5 日間すべて 100%、2 組は 4 日 間 で 平 均 75.0%(範 囲:50.0∼100%)、3 組 は 5 日間で平均 90.0%(範囲:66.7∼100%)であっ た。 データの信頼性 発達障害・知的障害児童を含む全児童の標的行

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動の記録の一致率を算出するために、観察者 3 名 とは別の 2 名の観察者が加わり(例えば、1 組は 第一著者と大学生、2 組は大学院生と知的学級担 任)、教室内で観察記録を行い、その一致率に よって信頼性を評価した。一致率は、BL 期から 強化スケジュール希薄化期までのデータのうち 34.7%を抽出し、(「一致した記録数」/「2 名で観 察を行った記録数」×100)の算式で求めた。その 結果、記録の一致率は 88.2%であった。漢字テス トは 3 学級ともに同じ時間に実施したため、発達 障害・知的障害児童の適切行動の記録の観察者間 一致率を算出することはできなかった。そのデー タの信頼性を保証するため、BL 期と相互依存型 集団随伴性に基づく介入期に 1 回ずつ、第一著者 と大学院生、第一著者と自閉情緒学級担任の 2 者 で観察を行い、適切行動の定義を確認した。ま た、観察記録の直後に、第一著者が大学院生と自 閉情緒学級担任に発達障害・知的障害児童の適切 行動に関する聞き取りを行い、適切行動の定義に 該当するかどうかの検討を BL 期から強化スケ ジュール希薄化期まで継続して実施した。

結 果

学習準備行動の変容 学級ごとに、発達障害・知的障害児童を含む全 児童の標的行動を遂行した児童の割合を図 1 に示 す。アセスメント期では 3 学級ともに同じような 傾向であり、学級の約半数の児童が標的行動を未 遂 行 で あ っ た(1 組: 平 均 42.5%、2 組: 平 均 53.0%、3 組:平均 52.0%)。BL 期では、アセス メント期よりも標的行動を遂行した児童の割合は 上昇したものの、徐々に下降傾向を示した(1 組:平均 72.0%、2 組:平均 83.9%、3 組:平均 54.7%)。相互依存型集団随伴性に基づく介入期 では 3 学級ともに標的行動を遂行した児童の割合 が 9 割以上となり(1 組:平均 94.9%、2 組:平 均 99.3%、3 組:平均 98.3%)、BL 期と比較して 増加した。1 組では標的行動を遂行した児童の割 合がいったん低下したが、徐々に標的行動を遂行 した児童の割合が増加した。1 組で標的行動を未 図 1 学習準備行動を遂行した児童の割合の推移

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表 2 発達障害・知的障害児童における適切行動の平均生起インターバル率(%) 学級 児童 BL 期 個別支援 相互依存型集団随伴性に 学習準備行動に対する 基づく介入期 学習準備行動に対する相互依存 型集団随伴性に基づく介入と 班の合計得点に対する 相互依存型集団随伴性に 基づく支援期 個人随伴 性期 1 C1 54.0 55.0 27.5 — 66.3 1 C2 26.3 57.5 70.0 — — 1 C3 40.0 40.0 76.7 — — 2 C4 0 87.5 85.0 — — 3 C5 41.7 — 100 100 — 3 C6 23.3 — 93.6 96.7 — 3 C7 18.3 — 62.5 81.7 — 遂行であった数名の児童には、発達障害・知的障 害児童 3 名(C1、C2、C3)が含まれていた。強 化スケジュール希薄化期では、標的行動を遂行し た児童の割合が 1 組が平均 99.0%、2 組が 100%、 3 組が平均 99.0%であった。 発達障害・知的障害児童 7 名の適切行動の平均 生起インターバル率を表 2 に示す。C4 について は、個別支援期に適切行動の平均生起インターバ ル率が 87.5%となり、大幅に増加した。C2 と C3 については、個別支援と相互依存型集団随伴性に 基づく介入との組合せによって、適切行動の平均 生起インターバル率が 70%以上に上昇した。一 方、C1 については、相互依存型集団随伴性に基 づく介入期に、適切行動の生起インターバル率が 急激に低下して 27.5%となり、離席や大きな声で の独語等の行動問題が生じるようになった。集団 随伴性の標的行動に対して個人随伴性(個別の トークン)を組合せた後に、C1 の適切行動の平 均生起インターバル率は 60%以上となった。個 別支援を行わなかった 3 名については、相互依存 型集団随伴性に基づく介入のみで、適切行動の平 均生起インターバル率が上昇した(C5:100%、 C6:93.6%、C7:62.5%)。 学業成績への波及効果 漢字テストにおける発達障害・知的障害児童 7 名と個別支援を行った 2 名を除いた 93 名の学 業成績の結果を、「学業成績の指標と結果の算出 方法」で記した(a)∼(f)について以下に示す。 (a)BL 期において学級間にテストの得点の差は 見られなかった。(b)では学級間の差は見られな かった。表 3 に(c)の結果を示す。集団随伴性 に基づく介入導入前後(2)×組(2)の分散分析 を行ったところ、交互作用が有意であった(F (1,59)=5.44, p=.023)。単純主効果検定の結果、 相互依存型集団随伴性に基づく介入を導入する前 は 1 組と 2 組の成績に差はなく、導入後は 1 組が 2 組より高かった(p<.10)。(d)では学級間の差 は見られなかった。表 4 に(e)の結果を示す。 3 組の成績への介入前後(2)×組(2)の分散分 析を行ったところ、交互作用が有意であった(F (1,61)=4.01, p=.050)。単純主効果検定の結果は 表 3 発達障害・知的障害児童を除く全児童の漢字テ スト成績(1 組と 2 組の比較) 学級の平均偏差値 有意確率 1 組(31 名) 2 組(30 名) 導入前 50.247 49.627 .784 導入後 51.089 47.199 .099† †p<.10 1 組に学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性に基 づく介入を導入する前後 8 日において、1 組と 2 組を比 較した学級の平均偏差値と有意確率を表す。 表 4 発達障害・知的障害児童を除く全児童の漢字テ スト成績(1 組と 3 組の比較) 学級の平均偏差値 有意確率 1 組(31 名) 3 組(32 名) 導入前 50.551 51.444 .669 導入後 49.168 52.439 .113 3 組に班の合計得点に対する相互依存型集団随伴性に基 づく支援を導入する前後 10 日において、1 組と 3 組を 比較した学級の平均偏差値と有意確率を表す。

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有意ではなかったが、班の合計得点に対する相互 依存型集団随伴性に基づく支援を導入した 3 組が 上昇傾向、その支援を導入しない 1 組が低下傾向 であった。(f)全学級介入期と強化スケジュール 希薄化期で学級間の差は見られなかった。 発達障害・知的障害児童の漢字テスト成績への 波及効果について、個別支援を行った 4 名の結果 を表 5 に示す。C4 については、個別支援と相互 依存型集団随伴性に基づく介入の組合せ条件で平 均正答率が上昇した。発達障害児童 3 名(C1、 C2、C3)については、漢字テスト成績への波及 効果は見られなかった。 個別支援を行わなかった 3 名の結果を表 6 に示 す。C5 については、相互依存型集団随伴性に基 づく介入を導入した後に平均点が上昇した(平均 7.2 点)。C6 と C7 については、班の合計得点に 対する相互依存型集団随伴性に基づく支援を導入 した後に平均点が上昇した(C6:平均 9.7 点、 C7:平均 9.0 点)。 社会的妥当性の評価 児童へのアンケートの結果を表 7 に示す。負の 副次的効果に関する結果は、友達から嫌なことを 言われたりされたりしたと回答したのは、1 名の 児童(C2)のみであった。 担任に対する支援計画に関する主観的評価は、 以下のとおりであった。支援計画がどの程度受け 入れやすいものであったかを示す「受容性」に関 する項目は、3 学級の平均が 4.8 点であった。介 入計画による行動変容の実感を示す「効果」の項 目は 3 学級の平均が 4.3 点であった。効果の即時 性を示す「効率」の項目は、3 学級の平均は 4.5 点であった。個別支援においては、効果は 1 組が 4.0 点、2 組が 5.0 点であった。個別支援に関する 公平さ、受容性及び負担度に関しては、1 組と 2 組ともにすべて 5.0 点であった。 表 7 児童に対するアンケート結果 質問項目 3 学級(n=102) 介入の効果 ① あなたは 8 時 15 分までに学習の準備をすることができた。(机の上に鉛筆 1 本と消しゴム 1 個を置く) 88.2 副次的効果 ②班の友達に、やさしい言葉で声をかけたり声をかけてもらったりした。 79.3 ③友達からいやなことを言われたりされたりしなかった。 96.1 介入の受容性 ④ 班の友達と協力してがんばった後にお楽しみがもらえる取り組みは、受け 入れやすかった。 70.6 個別支援 ⑤ 級友ががんばれる漢字テストの問題で取り組むことは、不平等(アンフェア) ではない。 74.7* 5 件法(5:とてもそう思う、4:そう思う、3:どちらとも言えない、2:そう思わない、1:まったく思わない)で 評価した。表のポイントは、「5:とてもそう思う」または「4:そう思う」と回答した児童のパーセンテージを指す。 * 項目⑤は n=67(1 組と 2 組の全児童数) 表 5 発達障害・知的障害児童 4 名の漢字テストの平 均正答率 児童 個別支援 相互依存型集団随伴性に 学習準備行動に対する 基づく介入期 C1 50.0 57.5 C2 31.3 45.0 C3 92.5 84.5 C4 40.0 80.0 表 6 発達障害児童 3 名の漢字テストの平均点 児童 BL 期 学習準備行動に 対する相互依存型 集団随伴性に 基づく介入期 学習準備行動に 対する相互依存型 集団随伴性に基づく 介入と班の合計得点 に対する相互依存型 集団随伴性に基づく 支援期 C5 5.4 7.2 7.6 C6 8.9 7.8 9.7 C7 7.0 6.6 9.0 3 組の全児童の平均点は、ベースライン(BL)期は 8.4 点、学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性に基 づく介入期は 8.3 点、学習準備行動に対する相互依存型 集団随伴性に基づく介入と班の合計得点に対する相互 依存型集団随伴性に基づく支援期は 9.3 点であった。

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考 察

本研究では、小学校通常学級の 5 年生児童を対 象に漢字テスト場面において、学習準備行動に対 する相互依存型集団随伴性を中核とした介入パッ ケージを 3 学級に適用した。学級全体への支援と 個別支援との組合せによって、発達障害・知的障 害児童を含む全児童の学習準備行動を遂行した児 童の割合が増加するかどうか検討した。併せて、 発達障害・知的障害児童を除く全児童の漢字テス ト成績への波及効果を検討した。また、漢字テス ト成績への波及効果が見られなかった学級に対し、 班の合計得点に対する相互依存型集団随伴性に基 づく支援を導入し、当該学級の発達障害児童を除 く全児童の漢字テスト成績への効果を検討した。 学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性に 基づく介入パッケージが、発達障害・知的障害児 童を含む全児童の標的行動に効果が現れた要因に ついて考察する。3 学級ともに、BL 期の導入に ともない、標的行動を遂行した児童の割合が増加 した。これは、全児童に対して標的行動について 説明した効果が最初に現れ、その後は維持されず に減少したと考えられる。相互依存型集団随伴性 に基づく介入の導入後は、トークンエコノミー法 によって、学習準備行動を遂行した後に報酬(宝 石シール)を提示した。その報酬は毎回無作為に 担任が選定し、児童に提示した。その結果、3 学 級ともに、BL 期と比較して、相互依存型集団随 伴性に基づく介入期全体では、学習準備行動を遂 行した児童の割合が増加しており、全児童の学習 準備行動の増加が、3 学級間多層ベースラインデ ザインにおいて示された。これは、過去の研究結 果(Christ & Christ, 2006; Kamps et al., 2011)が再 現されたことを意味している。 ただし 1 組については、相互依存型集団随伴性 に基づく介入の導入後に、学習準備行動を遂行し た児童の割合がいったん低下した。1 組の介入初 期には、書字困難の見られた発達障害・知的障害 児童 3 名を含む数名の児童が学習準備行動を未遂 行であった。本研究では、書字困難の見られた発 達障害・知的障害児童 4 名に対し、学習面への個 別支援を相互依存型集団随伴性に基づく介入に先 行して導入した。その結果、発達障害・知的障害 児童 4 名中 3 名については、学級全体への支援と 個別支援との組合せによって、適切行動の生起が 促された。発達障害児童 1 名(C1)については、 トークンエコノミー法によって集団随伴性の学習 準備行動に対する個人随伴性を組合せた。その結 果、当該児童の適切行動の平均生起インターバル 率が上昇した。また特別な支援がなくても、ASD 児童 3 名については相互依存型集団随伴性に基づ く介入のみで、適切行動の平均生起インターバル 率が上昇した。この結果から、学習準備行動に対 する学級全体への支援によって、学習時間の増加 がもたらされた(Lassen et al., 2006; McIntosh et al., 2008)と考えられる。本研究の結果から、相互依 存型集団随伴性に基づく介入と個別支援との組合 せによって、発達障害・知的障害児童を含む全児 童の学習準備行動への効果が実証されたといえる。 発達障害・知的障害児童を除く全児童の漢字テ スト成績への波及効果は限定的であったが、1 学 級(1 組)だけ効果が示された。そのため、集団 随伴性の効果とは別の要因が漢字テスト成績に影 響を及ぼしていた可能性が考えられる。例えば、 本研究では相互依存型集団随伴性に基づく介入の 導入後は、漢字テスト開始直前の時間にトゥート リングの手続きを導入した。トゥートリングの手 続きでは、全児童の援助報告数が増加することが 実証されており(Cashwell, Skinner, & Smith, 2001; Skinner et al., 2000)、また、行動問題の減少とい う波及効果(Cihak, Kirk, & Boon, 2009)も示され ている。本研究では、トゥートリングについての データを収集していなかったために詳細に検討す ることはできないが、1 組については漢字の覚え 方に関する援助報告数の増加にともない、漢字テ スト成績への波及効果が示された可能性が考えら れる。 漢字テスト成績への波及効果が見られなかった 学級(3 組)については、班の合計得点に対する 相互依存型集団随伴性に基づく支援を導入した。 本研究では、児童が班の目標の合計得点を決定 し、その目標を達成した場合に、担任が班全員に 報酬を提示した。その結果、3 組の発達障害児童 を除く全児童の漢字テスト成績は、1 組と比較し

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て上昇傾向が見られた。行動目標の設定について は、その行動目標を達成しようとする本人が関わ ることや(Austin et al., 1999)、行動目標の設定を 単独で実施するよりもフィードバックと組み合わ せることが効果的であるといわれている(道場・ 松見,2007)。本研究では、目標設定と自己記録、 フィードバックを組合せたことで、発達障害児童 を除く全児童の漢字テスト成績への波及効果が示 されたと考えられる。C6 と C7 については、班 の合計得点に対する相互依存型集団随伴性に基づ く支援の導入後に、漢字テスト成績が向上した。 この結果は、Popkin & Skinner(2003)の研究の結 果を支持するものであった。 本研究で相互依存型集団随伴性に基づく介入を 導入する際には、負の副次的効果を予防するため に、トゥートリングと約束の手続きを導入した。 また書字困難が見られた児童と学業スキルが不足 している児童に対し、個別支援を行った。これら の個別支援によって、当該児童の学習準備行動が 改善した上で、相互依存型集団随伴性に基づく介 入を適用した結果、すべての学級において全児童 の負の副次的効果を最小限に抑えることができた と考えられる。また漢字テスト成績に対する相互 依存型集団随伴性に基づく支援を適用した 3 組に ついても、負の副次的効果は見られなかった。社 会的妥当性アンケートでも評価尺度の 7 割を超え る得点であったことから、児童からの受容性の高 さ、担任からの受容性の高さ、本支援の効果及び 効率の妥当性が示されたといえる。 最後に、本研究の限界と課題について述べる。 第一に、学習準備行動の促進は、必ずしも学業 (漢字テスト)成績を向上させるとはいえなかっ た。学習準備行動は学業成績を向上させる必要条 件の一部である可能性はあるが、その他の様々な 支援(個別支援、学業成績への直接的な介入等) が必要であることが明らかとなった。また本研究 では学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性 に基づく介入を適用する際に、仲間の向社会的行 動を報告するトゥートリングの手続きを同時に導 入した。今後は、学習準備行動と向社会的行動の どちらが学業成績に影響を与えうるのか検討する ために、両者を分離して導入する必要がある。第 二に、児童間で実際にどのような援助行動が生起 していたのかを検討する必要がある。McKissick, Hawkins, Lentz, Hailley, & McGuire (2010) のよう に、グループや個人の行動をサンプリングして記 録し、学級全体の援助行動の質的な変化を推定す ることが可能であると考えられる。第三に、本研 究では学業成績の指標として漢字テストを用いた ため、学業成績全体への効果については検討して いない。また 10 点満点のテストで各学級の平均 点が当初から満点に近い場合には、介入によって テストの得点が上昇する結果は得られにくいと考 えられる。階層的支援における学業成績の評価を 行う際には、どのような指標を用いるのかが今後 の検討課題である。また漢字テストだけではな く、計算等の他の課題においても、本研究の階層 的支援の有効性が示されるかどうか検討する必要 がある。 本研究は、スクールワイド PBS の階層的支援 の枠組みを用いて、相互依存型集団随伴性を中核 とする介入パッケージを通常学級全体に適用し た。発達障害児童とそれに類する児童に対する個 別支援との組合せによって、当該児童を含む全児 童の行動面への効果が実証された。発達障害・知 的障害児童の在籍する通常学級において、行動面 と学習面への効果的な支援方法に関する研究を積 み重ねることで、より有効なインクルーシブ教育 が可能となるだろう。そのためには、教育現場へ の研究知見の普及活動も重要である。

謝 辞

本論文作成にあたり、筑波大学教授の園山繁樹 先生に貴重なご助言を賜りました。また、大六一 志先生に学業成績の分析に関するご助言を賜りま した。記して深謝申し上げます。 引用文献

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表 2 発達障害・知的障害児童における適切行動の平均生起インターバル率(%) 学級 児童 BL 期 個別支援 相互依存型集団随伴性に 学習準備行動に対する  基づく介入期 学習準備行動に対する相互依存型集団随伴性に基づく介入と 班の合計得点に対する 相互依存型集団随伴性に  基づく支援期 個人随伴性期 1 C1 54.0 55.0 27.5 — 66.3 1 C2 26.3 57.5 70.0 — — 1 C3 40.0 40.0 76.7 — — 2 C4 0 87.5 85.0 — — 3 C5 41.

参照

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