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目次 第 1 章まえがき 第 2 章津波評価の概要 東北地方太平洋沖地震の教訓 本書の背景と目的 評価対象とする波源 評価対象とする津波の作用 本書の構成

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原子力発電所の津波評価技術 2016(仮称)

本編ドラフト版

土木学会原子力土木委員会

津波評価小委員会

平成 28 年 月

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目 次

第 1 章 まえがき ... 1 第 2 章 津波評価の概要 ... 3 -2.1 東北地方太平洋沖地震の教訓 ... - 3 - 2.2 本書の背景と目的 ... - 4 - 2.3 評価対象とする波源 ... - 5 - 2.4 評価対象とする津波の作用 ... - 6 - 2.5 本書の構成 ... - 6 - 2.6 用語の定義 ... - 8 - 第 3 章 津波評価に必要な調査 ... 10 -3.1 既往津波に関する調査 ... - 10 - 3.2 津波の伝播経路に関する調査 ... - 11 - 3.3 津波波源モデルの設定に関する調査 ... - 12 - 3.4 津波による土砂移動・堆積に関する調査 ... - 13 - 3.5 津波漂流物に関する調査 ... - 14 - 第 4 章 決定論的津波評価手法 ... 15 -4.1 基本事項 ... - 15 - 4.2 検討用津波の作成 ... - 16 - 4.3 想定津波の選定 ... - 24 - 第 5 章 確率論的津波評価手法 ... 26 -5.1 確率論的津波ハザード評価の概要... - 26 - 5.2 モデル設定の基本的な考え方 ... - 29 - 5.3 確率論的ハザード解析の手順 ... - 53 - 第 6 章 数値計算手法 ... 71 -6.1 津波の伝播・遡上計算 ... - 71 - 6.2 海底での地すべり,斜面崩壊,山体崩壊に伴い発生する津波の計算 ... - 90 - 6.3 取放水設備の水位変動計算 ... - 93 - 6.4 既往津波の痕跡高を説明できる断層モデルの策定 ... - 100 - 6.5 波力評価 ... - 104 - 6.6 砂移動計算 ... - 110 - 6.7 漂流物評価 ... - 114 -

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- 1 - 第 1 章 まえがき 2011 年 3 月 11 日に発生した東北地方太平沖地震は我が国に甚大な人的および経済的被害 をもたらした。これらの被害の大部分は,想定を大きく上回った津波によるものであった。 沿岸各地を襲った津波は,自治体が公表していた浸水想定区域を超えて広がり,多くの人 や住家を飲み込んでいった。想定を超えた外力が被害を著しく拡大することをこの津波災 害はまざまざと見せつけた。さらに,福島第一原子力発電所では津波が敷地に侵入し,大 事故を引き起こす要因となった。原子力事故の被害は極めて広域かつ長期間に及ぶ。我々 はこの重大な事故に対して真摯に向かい合い,事故の発生メカニズムを明らかにし,再発 防止に努めねばならない。 この事故にはさまざまな要因が関係しているが,想定を大きく超えた津波が来襲したこ とが直接的な引き金であったことは間違いない。すなわち想定が過小評価であったことが 大きな事故原因であったといえる。そして,それと同等か,もしかするとさらに問題であ ったのは,想定を超える津波が襲ってきた時,原子力施設がどのような状況に陥るのかを 十分に想定しておらず,準備も足りていなかったことであろう。すなわち深層防護の観点 が不足していたことも被害の拡大を招いたといえる。東北地方太平沖地震の教訓を今後の 原子力防災に活かすために,我々はこの2点を真摯に受け止めておかねばならない。 津波の想定に関しては,地震調査研究推進本部や中央防災会議,自治体などの公的機関 が既に多く実施しており,各原子力発電所ではそれらの津波を評価対象として検討してき た。ただし,東北地方太平洋沖地震以前の想定の多くは既往最大津波の再現が中心であり, 不確かさの考慮においてもそれを基準としていた。しかし,我々が持っている歴史津波に 関する情報は十分ではなく,我々の知らない最大規模の津波が存在していることを東北地 方太平洋沖地震は示した。この事実を謙虚に受け止め,決定論的な方法のみに頼るのでは なく,確率論的な方法による津波ハザード評価も今後は重要となる。 津波を評価する方法については,既に多くの資料が作成されてきた.その中でも,1997 年 3 月に海岸関連7省庁(国土庁,農林水産省構造改善局,農林水産省水産庁,運輸省, 気象庁,建設省,消防庁)が発行した「地域防災計画における津波対策強化の手引き」は 対象津波の調査方法や評価方法がまとめられており,現在の津波被害想定の基礎を築いた ものといえる。さらに,東北地方太平洋沖地震以降の 2012 年 2 月に国土交通省の水管理・ 国土保全局海岸室と国土技術政策総合研究所河川研究部海岸研究室が発行した「津波浸水 想定の設定の手引き」では,自治体が津波被害想定を実施する際に必要となる津波浸水シ ミュレーションの方法などが具体的にまとめられており,地域防災の実務で活用されてい る。これらの手引きは一般防災を対象としているが,原子力防災を対象としたものとして は,本書の前著である「原子力発電所の津波評価技術」が 2002 年 2 月に土木学会原子力土 木委員会津波評価部会(当時)の報告書として発行されている。この報告書では,それま での地震と津波に関する研究から得られたさまざまな知見を集大成し,原子力発電所にお

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- 2 - いて設計津波を設定するための標準的な方法をとりまとめている。そして,防災実務の現 場で活用できるように具体的な解析方法を詳細に説明してあるため,一般防災においても 広く活用されてきた。 しかし,前著の発行から 10 年以上が経ち,地震や津波に関する新たな知見が多く得られ ている。また推定方法や解析方法もより高度になっており,その対象も広がってきている。 津波評価部会は 2013 年 9 月に津波評価小委員会と名称を変更しているが,原子力発電所を 対象とした津波評価技術を引き続き検討してきた。そこで,前著を全般的に見直し,さら に東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえて,新たに本書を発行することとした。上述の深 層防護の観点からの評価や確率論的津波ハザード評価を始めとして,地震以外の津波の発 生要因の評価方法,波力や砂移動,漂流物など津波来襲に伴って発生する複雑な現象の解 析方法など多数の項目を新たに追加した。本書は,前著と同様に,最新の知見を集大成し, 原子力施設における津波評価の標準的な方法をとりまとめたものである。

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- 3 - 第 2 章 津波評価の概要 2.1 東北地方太平洋沖地震の教訓 東北地方太平洋沖地震は少なくとも発生時には日本の長い歴史上で初めて遭遇したと考 えられるマグニチュード 9.0 以上の巨大地震であり,それによって発生した津波は巨大か つ広域に被害を及ぼした。この津波は,最大遡上高は約 40m,津波高 5m 以上,沿岸距離は 500km 以上と,巨大かつ広域という点で宝永地震による津波を越える未曾有の規模である。 この地震と津波は,太平洋沿岸の原子力発電所に大きな影響を与え,福島第一原子力発電 所においては,放射性物質を放出する事故(以下,福島第一事故という)をもたらした。こ の事故の最大の要因は,津波により敷地内に遡上した海水が原子力建屋に侵入し,全電源 喪失や安全系の機能喪失を引き起こしたことが主要因と言われている(日本原子力学会 (2014))。 福島第一事故を受けて,土木学会原子力土木委員会では「原子力安全技術特定テーマ委 員会」を組織し,議論を重ね,その結果として地震や津波などの自然外部事象に対する原 子力安全のあるべき姿について提言した(原子力安全技術特定テーマ委員会(2013))。提言 では,まず原子力安全について基本的な考え方である深層防護について国際原子力機関 (IAEA)による 5 層にわたる概念(図 2.1-1)を示した。次に,福島第一事故は設計で基 準とするレベルを超える津波により,深層防護の第 3 層「設計基準内への事故を制御」を 破られたためであるとした。さらに,津波の敷地内および建屋への浸水に対して,深層防 護の第 4 層「アクシデントマネジメントと影響の格納」にあたる有効な安全機能が存在し なかったことを指摘した。そこで,基準となる地震動・津波を超える事象の発生可能性を 認識し,それに対して深層防護の第 4 層を有効に機能させるために,新たに「危機耐性」 という性能を提案した。「危機耐性」とは基準となる外力を越えた場合においても,緊急手 段などにより原子力発電所のシステム全体として危機的な状況に至る可能性を十分に小さ くする性能のことである。この「危機耐性」を確保するためには,原子力発電所のシステ ム全体の理解が必要であり,各システムに関連する各分野の垣根を超えた議論が必要であ るとした。 原子力学会の「東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会」(学会事故調) は,福島第一事故とそれに伴う原子力災害の実態を科学的・専門的視点から分析し,その 背景と根本原因を明らかにするとともに,原子力安全の確保と継続的な安全性の向上を達 成するための方策および基本となる安全の考え方を提言することを目的とした。その最終 報告書によると,事故の直接的な要因として,「自然災害への対応不備」,「過酷事故対策へ の不足」,「緊急時対応の混乱」の 3 点を指摘した。 以上の東北地方太平洋沖地震の教訓を踏まえると,津波に対する原子力発電所の安全性 向上には,深層防護の観点から以下の方針が重要と考えられる。 A) 設計基準を超える津波に対して備えること

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- 4 - B) 設計基準となる津波水位の高さについて不確かさを適切に考慮すること なお,2013 年に改正された原子炉等規制法(原子力規制委員会(2013))においては,重 大事故も考慮した安全規制への転換や最新の知見を既存施設にも反映する規制(バックフ ィット)への転換が新たに加えられた。この法改正を受けて検討・策定された新規制基準に おいては,1)設計基準外の事象に対しても重大事故に至らないための対策の強化,また, 2)安全機能が一斉に喪失しないように大規模な自然災害に対する対策の強化が謳われてい る。自然災害には,地震・津波以外に火山・竜巻等も想定の対象となり,津波についても 断層運動以外の要因による津波も対象となった。1)と 2)は,先に示した方針 A)と B) にそ れぞれ対応し,少なくとも 2 段階以上の障壁を考慮する深層防護の考え方と調和的である。 図 2.1-1 IAEA による深層防護(山口(2012)) 2.2 本書の背景と目的 深層防護の観点に基づいて,津波によるリスクの管理・低減に努めていくことが原子力 安全を確保する実用的な方法の一つである。図 2.2-1 に深層防護に対する設計基準の位置 づけの例を示す。これによると,①設計基準内の事象に対しては当初の設計による防護お よび制御,さらに②設計基準外の事象に対しては事故の進展防止,③重大事故の影響緩和, の 3 つが原子力発電所における津波に対する「危機耐性」を維持するために必要である。 上に示した①~③の各段階に対する具体的な対応例としては,①は津波の浸水を軽減す る防潮堤等の津波防護施設,②は津波が敷地内に侵入した場合の建屋開口部の水密性の向

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- 5 - 上による建屋への浸水防止や電気機器や電源が障害を起こした場合の代替機器による影響 緩和,③は住民避難などの原子力防災,これらがそれぞれ考えられる。 先に示した対応例①や②においては,それぞれの設備や機器に対応した,浸水や波力・ 波圧などの津波の作用とその影響を評価する必要がある。そのためには,作用を評価する 土木分野に加えて,影響を評価する原子力,機械,電気等の多分野の専門家の知見が必要 である。また,原子力発電所全体の安全性向上の具体的な考え方と詳細な評価の流れは新 規制基準や学協会(日本原子力学会(2014),亀田(2011),東日本大震災合同調査報告書編 集委員会(2013))からも示されているが,それらは議論が継続されており,今後も更新さ れていく可能性がある。 よって,本書の目的は,最新知見の反映により今後も更新されていく安全性向上の考え 方と詳細な評価の流れが構築された時に,必要と考えられる津波の決定論的津波評価,確 率論的津波評価,および津波による浸水,波力・波圧などの作用の評価,これらに必要な 要素技術を取りまとめることとする。 深層防護 レベル 目的 不可欠な手段目的達成に プラント状態関連する レベル1 (第1層) 異常運転や故障の防止 保守的設計及び建設 ・ 運転における高い品質 通常運転 異常運転の制御及び故 障の検知 (異常の検知) 制御 、制限及び防護系 、 並びにその他のサーベ ランス特性 通常時の異常な過渡変 化(AOO) 設計基準内への事故の 制御 工学的安全施設及び事 故時手順 設計基準事故 (想定単一起因事象) 事故の進展防止及びシ ビアアクシデントの影 響緩和を含む 、苛酷な プラント状態の制御 補完的手段及び格納容 器の防護を含めた アクシデント マネジメント ( AM ) 多重故障 シビア・アクシデント (過酷事故) 放射性物質の大規模な 放出による放射線影響 の緩和 サイト外の緊急時対応 (防災)

設計基準

プ ラ ン ト の 当 初 設 計 設 計 基 準 外 緊 急 時 計 画 この範囲で、 「止める」 「冷やす」 「閉じ込める」 を確実に確保 レベル2 (第2層) レベル3 (第3層) レベル4 (第4層) レベル5 (第5層) マネジメントを主体とした安全確保領域 設備設計領域の拡大 評価尺度の統一による 安全設計の統合 安全設計の領域 設備設計を主体とした安全確保領域 図 2.2-1 IAEA の深層防護の考え方と設計基準の位置づけ(日本原子力学会(2014)) 2.3 評価対象とする波源 2.3.1 津波の発生要因 2.1 に示したように,今後,原子力発電所の安全性を検討するに際しては,多くの自然災 害が検討対象となる。津波の発生要因として,断層運動を要因とする津波だけではなく, 断層運動以外の要因を含むものも考慮することが必要である。また必要に応じて,敷地に 大きな影響を与えると予想される要因を複数選定することも検討すべきである。ここで対

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- 6 - 象と考えられる津波の発生要因を下記に示す。 【断層運動】 ・プレート境界付近で発生する地震 ・内陸型地殻内地震 【断層運動以外の要因】 ・海底での地すべり ・斜面崩壊 ・火山現象(山体崩壊,カルデラ陥没等) 2.3.2 発生要因の組み合わせ 津波の発生要因に係る敷地の地学的背景および発生要因間の関連性を踏まえ,因果関係 を有するプレート間付近で発生する地震およびその他の地震,又は地震および海底での地 すべり若しくは斜面崩壊との組合せについて考慮する。火山現象(山体崩壊・カルデラ陥 没等)については,地震および海底での地すべり,火山現象に起因しない斜面崩壊とは独 立事象として捉え,組合せの対象としないことを基本と考える。 2.4 評価対象とする津波の作用 津波による水位変化(上昇および下降)を対象とする。さらに,必要に応じて敷地および 敷地周辺における津波による流体力,砂移動,漂流物等の作用を対象とする。 原子力施設への津波の影響という観点において,重要度の高い施設に支障を起こさない 設計のためには,水位上昇に伴う敷地への浸水を評価することを目的とした最大水位上昇 量と水位下降に伴う取水性低下による重要な安全機能への影響を評価するための最大水位 下降量または取水に影響を与える時間の評価が最も重要である。さらに,深層防護の観点 から,原子力施設の設計を考える上で,津波による水位変化以外の作用が重要度の高い施 設に与える影響を検討する必要がある。代表的な津波による作用を下記に示す。 ・浸水,被水,没水 ・取水性低下による重要な安全機能への影響 ・津波による流体力(圧力,波力,浮力等) ・砂移動による地形変化(侵食,堆積,洗掘) ・漂流物発生と漂流,その衝突力 2.5 本書の構成 図 2.5-1 に津波の評価に関する概要と本書の各章の流れを示す。まず,必要な調査(第 3 章)を実施し,その次に具体的な評価を行う。この評価手法は決定論的評価手法と確率論的 評価手法の 2 つに分類することができる。 (1) 決定論的評価手法(DTHA※1):対象とする原子力発電所(サイト)に対して,必要な不

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確定性を考慮して津波波源を設定し,それによって発生した津波によるサイト周辺 での作用を数値計算等によって算出する。

※1 DTHA:Deterministic Tsunami Hazard Analysis (2) 確率論的評価手法(PTHA※2):対象とする原子力発電所(サイト)に対して,一定の影

響が考えられる津波の発生要因を複数選出し,必要な不確定性を考慮して津波の作 用(主に水位)に関する発生確率を算出する。

※2 PTHA:Probabilistic Tsunami Hazard Analysis 外郭施設の設計および健全性評価に必要な設計津波水位は(1)DTHA を中心に検討するこ とがこれまで一般的である。しかし,(2)PTHA を採用して一定の超過確率(頻度)の水位を設 計水位とする考え方も可能である。また,PTHA の手法および結果は,津波によるフラジリ ティ解析(PTFA※3)と事故シーケンス解析と結びつけることにより,炉心損傷頻度等の津波

リスクが算出される(津波 PRA:Tsunami Probabilistic Risk Assessment)。炉心損傷頻度 は,津波リスクを定量的に低減する対策を検討する上での,原子力発電所の安全性を示す 指標の一つである。

※3 PTFA:Probabilistic Tsunami Fragility Analysis DTHA と津波 PRA を適切に組み合わせて,津波によるリスク,対策によるリスクの変化, これらを評価することにより,より適切な対策案を決定することができると考えられる。 本書ではその DTHA と津波 PRA における PTHA について第 4 章と,第 5 章にそれぞれ記述す る。また,これらの津波のリスクを評価する上で,必要な津波による浸水,波力などの作 用の評価については第 6 章に記述する。

調査:3章

DTHA:4章

PTHA:5章

PTFA

事故シーケンス

深層防護

津波防護戦略

新知見

開始

津波 PRA

定期的な検査

数値計算手法

:6章

図 2.5-1 津波に対する原子力安全評価の概要と各章の関係

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- 8 - 2.6 用語の定義 (1) 深層防護 安全に対する脅威から人を守ることを目的として,ある目標をもったいくつかの障 壁(防護レベル)を用意して,あるレベルの防護に失敗したら次のレベルで防護する ことである.原子力施設の安全性確保の基本的な考え方の一つで,「異常の発生防止」, 「異常の拡大および事故への発展の防止」,「周辺環境への放射性物質の異常放出の防 止」という三つの観点から,安全対策が多段的に構成されていることをいう。 (2) 危機耐性 設計の基準となる外力を越えた場合においても,緊急手段などにより原子力発電所の システム全体として危機的な状況に至る可能性を十分に小さくする性能のこと。 (3) 決定論的津波ハザード解析(DTHA) 沖合,沿岸海域,陸上域における津波の水位,浸水深もしくは津波による流体力, 砂移動,漂流物等の現象について,津波の発生から伝播までを特定のシナリオにおい て解析すること。主に沿岸の重要構造物の設計やその健全性の評価に用いられる。 (4) 津波 PRA 原子力発電所等の沿岸の重要施設に影響を及ぼすと考えられる津波を対象に,津波 挙動のばらつきや構造物や機器等の応答挙動のばらつき,耐力のばらつき等を考慮に入 れて,それらの損傷確率を評価し,事故の発生確率/頻度とその影響の大きさを分析し, 重要施設の津波に対する安全性や対策の効果を定量的に評価する。 (5) 確率論的津波ハザード解析(PTHA) 沖合,沿岸海域,陸上域における津波の水位もしくは浸水深と,ある期間にその大 きさを越える津波水位もしくは浸水深等が発生する確率/頻度との関係を算定するた めの解析手法である。津波 PRA において外力評価を担う。 (6) 確率論的津波フラジリティ解析(PTFA) 原子力発電所の施設・設備・機器に到達する津波の作用による応答のばらつきおよ び施設・設備・機器の耐力のばらつきを考慮し,施設・設備・機器の機能喪失する確率 /頻度を解析することもしくはその手法である。津波 PRA においてその作用による影響 評価を担う。

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- 9 - 【参考文献】 日本原子力学会 東京電力福島第一原子力発電所事故に関する調査委員会(2014):福島第一 原子力発電所事故その全貌と明日に向けた提言: 学会事故調 最終報告書,p448. 原子力安全土木技術特定テーマ委員会(2013):原子力発電所の耐震・耐津波性能のあるべ き姿に関する提言(土木工学からの視点), http://committees.jsce.or.jp/2011quake/node/158(2015 年 4 月参照). 原子力規制委員会(2013):実用発電用原子炉および核燃料施設等に係る新規制基準につい て,http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html, (2015 年 4 月参照). 山口彰(2012):原子炉施設の確率論的リスク評価の動向と今後への期待,日本原子力学会 誌. 亀田弘行(2011):原子力発電所の安全に関する地震工学的課題,日本地震工学会誌,第 15 号,東日本大震災特集号,pp.97‐102. 東日本大震災合同調査報告書編集委員会(2013):東日本大震災合同調査報告機械編,93p.

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- 10 - 第 3 章 津波評価に必要な調査 津波を発生させる要因は,プレート境界付近で発生する地震および海域における内陸型 地殻内地震といった,断層運動が直接の原因で生じる津波に加えて,海底での地すべり, 斜面崩壊,火山現象(山体崩壊,カルデラ陥没等)といった断層運動以外の要因による津 波など多岐に亘る。よって,津波評価にあたっては,評価地点の地理的特性や津波の発生 要因の関連性を踏まえ,適切な調査を実施することが必要である。 津波評価に必要な調査として,その目的に応じて,「既往津波に関する調査」,「津波の伝 播経路に関する調査」,「津波波源モデルの設定に関する調査」および「津波による土砂移 動・堆積に関する調査」,「津波漂流物に関する調査」の5つに大別して詳述する。 3.1 既往津波に関する調査 3.1.1 文献調査 評価地点に大きな影響を及ぼしたと考えられる既往津波を抽出するため,津波痕跡,津 波堆積物,伝承を含む歴史記録,地震発生履歴等に関する文献調査を実施する。既往津波 に関する調査文献としては,次のようなものがある。  渡辺偉夫(1998):日本被害津波総覧(第 2 版),東京大学出版会,238p.  国立天文台編:理科年表,丸善.  宇佐美龍夫(2013):日本被害地震総覧 599-2012,東京大学出版会.  宇津徳治(1982):日本付近の M6.0 以上の地震および被害地震の表 1885 年~1980 年, 東京大学地震研究所彙報,Vol.57,pp.401-463.  宇津徳治編(1987):地震の辞典,日本の主な地震の表,朝倉書店,pp.467-552.  首藤伸夫他編(2007):津波の辞典,付表,朝倉書店,pp.333-341.  阿部勝征(1988):津波マグニチュードによる日本付近の地震津波の定量化,東京大学 地震研究所報告,Vol.63,pp.289-303.  阿部勝征(1999):遡上高を用いた津波マグニチュード Mt の決定,地震第 2 輯,第 52 巻,pp.369-377.  津波堆積物データベース:https://gbank.gsj.jp/tsunami_deposit_db/  津波痕跡データベース:http://tsunami-db.irides.tohoku.ac.jp/  大学等の研究機関や気象庁等の官公庁による調査報告  研究者による学術文献(羽鳥による一連の歴史津波研究文献等) また,遠地津波を検討する場合には,主にチリ沖またはカスケード地域のプレート境界 付近で想定される地震に伴う津波による影響が考えられるため,これらの波源についても 既往津波等の知見を収集する。 津波の痕跡にかかる各種記録のうち,1896 年明治三陸地震津波以前の痕跡高については,

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- 11 - 古文書等の文献記録や伝承等をもとに研究者が推定したものであるため,必要に応じて痕 跡高の信頼性を吟味する。それ以降の比較的新しい痕跡高についても,個々の文献におけ る痕跡高の調査方法とその信頼性を吟味するとともに,信頼性が疑わしい場合は,その出 典等に立ち戻り精度の検討を実施し,評価における採用の是非を吟味することが望ましい。 なお,既往津波のうち近年発生した津波については,水位波形が観測されている場合があ るため,データの収集を行い,観測結果を参照する。また,津波水位評価の際に必要とな る,各評価点における潮位(朔望平均満・干潮位等)については,気象庁等の潮汐観測デ ータのうち,最寄りの検潮所・験潮所の記録を活用することができる。 3.1.2 津波堆積物調査 既往津波の痕跡高について,古記録等による文献調査以外の情報を得るために,必要に 応じて津波堆積物調査を実施する。 津波堆積物調査にあたっては,文献調査および地形調査により敷地に影響を及ぼすと想 定される古津波および古地震の記録,津波堆積物が残りやすそうな地形,堆積物の供給源 に関する情報並びに古環境の変遷等を調査する。次に,文献調査および地形調査結果を踏 まえて,踏査により津波堆積物の残存の可能性,堆積環境場の確認等を行い,現地調査が 可能であるかを検討する。 現地調査では,津波堆積物の有無や津波の発生頻度,規模等の情報を得るため,縄文海 進以降の堆積物を対象として,掘削調査等により試料採取を行う。掘削調査等で得られた イベント堆積物の試料に対して,調査地点の特性や堆積物の状況に応じて,堆積学的な分 析,年代分析,古生物学的分析等を適切に組み合わせて,堆積構造,堆積厚さ,粒度分布, 堆積物の標高および平面的な分布,海起源の含有物の有無,堆積環境変化や地殻変動との 同時性等の分析・検討を行うとともに,歴史記録との対比,他機関調査結果との対比等を 行い,津波堆積物の認定を行う。 津波堆積物調査・評価手法については,「津波堆積物調査・評価に関する手引き」(平成 26 年 1 月,(独)原子力安全基盤機構),「津波堆積物ハンドブック」(平成 26 年 2 月,(独) 原子力安全基盤機構)が参考となる。 3.2 津波の伝播経路に関する調査 津波評価にかかる,波源から評価点周辺(陸域遡上を考慮する)までの伝播経路および 地形的特徴の把握のため,海域および陸域の地形調査を実施する。海域の地形に関する既 存の資料としては,日本近海の地形データとして, ・ (財)日本水路協会:JTOPO30 ・ (財)日本水路協会:海底地形デジタルデータ(M7000, M5000 シリーズ) ・ (財)日本水路協会:沿岸の海の基本図 ・ (財)日本水路協会:大陸棚の海の基本図

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- 12 - ・ (財)日本水路協会:海底地形地質調査報告 ・ 海上保安庁:各種海図 ・ 海上保安庁:J-EGG500 ・ 産業技術総合研究所:各種海洋地質図 等を活用することができるほか,評価点周辺においては, ・ 海岸管理者:深浅測量データ ・ 港湾管理者:港湾平面図 ・ 漁港管理者:漁港平面図 ・ 河川管理者:河川縦横断測量成果 ・ 事業者:深浅測量データ,海上音波探査記録等 等も参考になると考えられる。このほか,解析領域が非常に広域となる場合には, ・ National Geophysical Data Center (NGDC):ETOPO1,ETOPO2(Global Relief Model) ・ International Hydrographic Organization (IHO)・Intergovernmental Oceanographic

Commission of UNESCO (IOC):GEBCO (General Bathymetric Chart of the Oceans)

などの,地球全体を対象とした地形データを活用することができる。 一方,陸域の地形に関する既存の資料としては,国土地理院の発行する基盤地図情報(数 値標高モデル,5m メッシュ,10m メッシュ)のほか,自治体や民間企業の実施した航空レ ーザー測量による標高データ,自治体による都市計画基図に加え,評価対象となる原子力 発電所の竣工図などが活用できる。なお,既往津波の再現計算や津波堆積物調査の評価を 行うにあたって,既往津波来襲時に存在しなかった人工改変(構造物等)が最新地形デー タに反映されている場合や,断層運動の影響等により評価点周辺の地形や標高が大きく変 化した可能性がある場合には,必要に応じて古地図等により改変前の過去の地形データを 復元して用いることを検討する。 3.3 津波波源モデルの設定に関する調査 3.3.1 文献調査 プレート境界付近で発生する地震に起因する津波波源モデルの設定にあたっては,敷地 周辺において過去に発生した地震に関する情報を活用するとともに,国内のみならず世界 で発生した大規模な地震の発生機構やテクトニクス的背景との類似性についても,知見を 収集する。特に,プレート間地震による津波波源モデルの設定については,東北地方太平 洋沖地震を含む世界で発生した巨大地震による津波に関する知見を活用することが重要で ある。 敷地周辺の海域における内陸型地殻内地震に伴う津波波源モデルの設定にあたっては, 活断層の位置,形状,活動性,長さ等に関する既往の文献等の知見を収集するとともに, 必要に応じて海上保安庁や国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下,「産総研」とい う)・地質調査総合センター等の海上音波探査記録を入手し,再解析による判読を実施する。

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- 13 - 日本において今後の発生が想定される,大規模な断層運動による津波の波源設定に係る 基本的な知見として,中央防災会議,内閣府,国土交通省といった政府機関が設置してい る地震モデル検討会や各種ワーキンググループの報告書を参考にすることができる。 この他,地震調査研究推進本部(以下、地震本部という)の地震・津波に関する評価や, 活断層と海溝型地震を対象にした長期評価が参考となるほか,第 5 章で述べる確率論的評 価にあたっては,震源を予め特定しにくい地震等に関する評価手法で示されている地震地 体構造区分の枠組みなども参考にすることができる。 海底での地すべり,斜面崩壊,火山現象(山体崩壊,カルデラ陥没等)を想定するため には,既存の知見や事業者による調査結果を踏まえ,津波波源モデルを適切に設定するこ とが必要である。これらの断層運動以外を要因とする津波の既往事例については付属編○. ○.○に整理する。 海底での地すべり等の分布については,産総研・地質調査総合センターが作成した海底 地質図に海底地すべり痕と考えられる地形が示されており,参考にすることができる。陸 上の斜面崩壊等の分布に関する既存の知見としては,国立研究開発法人防災科学技術研究 所が公開している地すべり地形分布図データベースが活用できる。また,火山現象に関し ては,産総研の活火山データベースや,気象庁によって我が国の活火山の分布等の情報が 公開されており,参考にすることができる。 なお,津波波源モデルの設定にあたっては,研究者による学術文献で提案されている各 種波源モデルのほか,行政機関において評価点またはその周辺の津波が評価されている場 合があるため,波源設定の考え方,解析条件等に関する知見を収集し,必要に応じて活用 することができる。 3.3.2 海域調査 内陸型地殻内地震に伴う津波の評価にあたり,活断層の位置,形状,活動性,長さ(端 部)等を明らかにすることを目的として,必要に応じて敷地周辺海域の海底地形,地質層 序,地層分布,地質構造等に関する海域における調査を行う。なお,過去の海底での地す べりの場所や規模,崩壊・堆積範囲の推定にあたっても,海域における調査を行うことが 有用である場合がある。 3.3.3 その他の知見の収集・分析 その他の知見として,事業者が行う地震観測,地殻変動観測等があることから,これら の調査で収集したデータを活用することもできる。 3.4 津波による土砂移動・堆積に関する調査 津波による土砂移動・堆積に伴う発電所の取水性への影響の評価にあたり,移動床モデ ルによる砂移動シミュレーションに用いる各種パラメータを得ることを目的として,評価

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- 14 - 地点前面海域において,既存文献,現地調査等によって,底質の分布およびその特徴を把 握する。 底質が,津波により巻き上げられる可能性のある砂等の堆積物で構成されていると判断 された場合には,試料を採取し,粒度分布,比重等のデータを取得する。 底質に関する既存文献には,例えば,底質(表層堆積物)分布図,海の基本図(日本水 路協会)および採泥による堆積物の記載データ等がある。また,底質に関する現地調査の 手法には,例えば,ボーリング,ドレッジ,グラブ採泥器,柱状試料採取調査およびサイ ドスキャンソナー等がある。 3.5 津波漂流物に関する調査 津波防護施設等の健全性の評価にあたり,津波漂流物の施設への衝突に伴う影響を評価 することを目的に,津波漂流物となりうる物体の想定や,その物理量の推定を行う。津波 漂流物となりうる物体としては,評価点付近を航行する漁船等の小型船舶や,付近の津波 遡上域にある構造物の一部,各種木材等のほか,敷地内の想定浸水域にある構造物や車両 等が考えられる。 これらの中から,発電所施設への衝突による影響が考えられる物体を抽出し,大きさ, 重量,比重等,漂流物の衝突による衝撃力の算定に必要な物理量を推定する。

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- 15 - 第 4 章 決定論的津波評価手法 4.1 基本事項 4.1.1 津波の発生要因の選定 将来発生する可能性があるもののうち,敷地への影響が最大となる可能性があると考え ることが適切な津波を検討用津波とする。また,検討用津波の集合体を検討用津波群とい う。 津波の発生要因の選定にあたっては,2.3 に挙げた津波の発生要因およびこれらの組合せ によるもののうち,調査結果に基づき敷地への影響が大きいと考えられるものを複数選定 する。この際,影響が大きいと考えられる発生要因を選定する1つの手法として簡易推定 式が存在し,次に示す手法などがある。 ・断層運動による津波:阿部(1989)等

・斜面崩壊:Huber and Hager (1997)(4.2.2 参照)

4.1.2 不確定性の考慮 敷地への影響評価にあたっては,津波発生の不確定性を検討する。 東北地方太平洋沖地震では,津波地震と典型的なプレート間逆断層地震が同時に発生し たと考えられていることから,複数の地震活動域が同時に活動する可能性についても検討 する。 また,1998 年パプアニューギニアの地震のように地震と海底地すべりにより津波が増幅 した可能性が指摘されている事例があり,このように地震にともなう断層運動と,他の要 因による津波がほぼ同時に発生する可能性についても検討を行い,同時発生の可能性があ る場合には,これらの重畳についても検討する。重畳の例として以下のケースが考えられ る。 ・ 複数の地震活動域の同時活動 ・ 断層運動による津波と海底での地すべり,断層運動による津波と斜面崩壊による 津波の重畳 なお,最大水位上昇量,最大水位下降量(敷地状況によっては取水に影響を与える時間) に着目し,必要に応じて波の周期や海底地形変化等への影響についても検討する。

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- 16 - 4.2 検討用津波の作成 4.2.1 断層運動による津波 4.2.1.1 断層運動による検討用津波作成の基本方針 (1) 津波を伴う地震の発生様式 津波をもたらす地震の発生様式を考慮し,断層運動による検討用津波波源の設定に ついて,断層パラメータを設定する。 日本列島周辺で津波の発生要因となりうる地震の発生様式は次のようなものが挙げ られる。 1)プレート境界付近で発生する地震 1-1)プレートの沈み込みによるプレート間地震 1-1-a)典型的なプレート間逆断層地震 1-1-b)津波地震 1-2)沈み込むプレート内の地震 1-2-a)正断層地震 1-2-b)逆断層地震 2)内陸型地殻内地震 2-1)日本海東縁部で発生する地震 2-2)海域活断層で発生する地震 およびこれらの組合せ。 検討用津波の波源としては,大部分の沿岸地域では近地津波を対象としているが, 場合によっては遠地津波の方が評価地点における影響が大きくなる可能性が考えられ るため,必要に応じて,チリ沖およびカスケード地域で発生する津波等の遠地津波に よる影響も加えて検討用津波を評価する。 (2) 位置と規模 地殻構造,活断層の分布,固着の状況,既往地震の発生状況等を踏まえた現在の応 力状態等を考慮した地震の発生領域と規模を適切に設定する。 (3) 断層パラメータの設定 検討用津波の断層パラメータの設定に当たっては,地殻構造,海域の特性,津波を もたらす地震の発生様式等に応じた適切なスケーリング則を適用することができる。 モーメントマグニチュードに関連する断層パラメータのスケーリング則としては, 次に示す3つの考え方などがある。 1)断層長さL,断層幅W,平均すべり量Dのいずれにも限界を設定しない方法 2)断層幅Wのみに限界を設定する方法

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- 17 - 3)平均すべり量Dと断層幅Wに限界を設定する方法 プレート間地震については,マグニチュード9程度までの地震の地震モーメント, 断層面積および平均すべり量の関係を与える Murotani et al.(2013)の関係式が 1)の 代表的な例である。その他,代表的なスケーリング則を付属編○.○.○に示す。 (4) すべり量の不均質性 既往津波の再現計算や,すべり量の分布に関する知見に基づき,断層面上における すべり量の不均質性を設定できる場合には,これを考慮することが望ましい。 すべり量の不均質性を考慮する場合には,既往津波のインバージョン計算や,内閣 府(2012),(独)原子力安全基盤機構(2014)等によるプレート境界付近で発生する地 震に関する知見に基づき,大すべり領域のすべり量,面積,位置を設定することがで きる。

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- 18 - 4.2.1.2 プレート境界付近に想定される地震に伴う津波の波源の設定 (1) 評価対象 日本周辺のプレートテクトニクス並びに発生する地震の特性とこれを表現する断層 モデルの特徴に関する知見に基づき,日本周辺は,次に示す2種類の海域に区分でき ると考えられている。 1)太平洋プレートの沈み込みに関連した海域 2)フィリピン海プレートの沈み込みに関連した海域 4.2.1.1 に示したとおり,必要に応じて,チリ沖およびカスケード地域等で発生する 遠地津波についても検討用津波の評価対象とする。 (2) 基本断層モデル 津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえ,想定する津波のモーメントマ グニチュード等に応じた断層モデルを基本断層モデルとして設定する。 海域ごとの基本断層モデル設定方法等の事例を付属編○.○.○に示す。また,海域 ごとの基本断層モデルの設定根拠等の詳細を付属編○.○.○および○.○.○に示す。 日本海溝沿いおよび千島海溝(南部)沿い海域,南海トラフ沿い海域では,過去に 繰り返し津波が発生しており,また,プレート境界形状等に関する知見が比較的豊富 であるため,これらの知見も活用し,海域ごとの特徴を反映した基本断層モデルを設 定する。モデルはプレート境界の形状や,運動方向に関する情報を考慮して行う。た だし,プレート境界部からの分岐と考えられる太平洋側の海溝部付近の断層は,対象 とする断層の活動性や発生する津波への影響等を踏まえ,必要に応じモデル化の対象 とする。 上記以外の海域における検討用津波を評価する際には,プレート境界形状やプレー ト境界付近の地震に伴う津波に関するスケーリング則等の知見に基づき,基本断層モ デルを設定する。 (3) 波源位置 基本断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況などの地震学的知見等を踏ま え,合理的と考えられる位置に津波の発生様式に応じて設定する。また,波源設定の ための領域区分については,地殻構造,地震の発生様式等に基づき適正に設定する。 ただし,東北地方太平洋沖地震の知見を踏まえ,海溝軸付近と典型的なプレート間地 震の領域など,複数の区分が同時に活動する可能性についても検討する。

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- 19 - 4.2.1.3 日本海東縁部に想定される地震に伴う津波の波源の設定 (1) 評価対象 日本海東縁部については明確なプレート境界面は形成されていないと考えられてい るが,北海道西方沖~新潟県西方沖にかけて,地殻変動によるひずみが集中している とみられる領域(ひずみ集中帯)が存在するとされ,周辺より大規模な地震とこれに 伴う津波が空間的にほぼ連続して発生している。このことを考慮し,海域活断層に想 定される地震に伴う津波の評価とは別に検討用津波の評価対象とし,日本海東縁部に 想定することが適切な地震に伴う津波を評価対象とする。 (2) 基本断層モデル 津波をもたらす地震の発生位置や発生様式を踏まえ,想定する津波のモーメントマ グニチュードや断層長さに応じた断層モデルを基本断層モデルとして設定する。日本 海東縁部の基本断層モデル設定方法等を付属編○.○.○に示す。また,基本断層モデ ルの設定根拠等の詳細を付属編○.○.○および○.○.○に示す。 日本海東縁部では,傾斜方向の異なる地震が発生しているなど,明確なプレート境 界面が形成されていないと考えられるため,傾斜角等のパラメータの不確定性を反映 するとともに地震発生層の厚さの限界を考慮し,付属編○.○.○に示すスケーリング 則を適用する。 (3) 波源位置 基本断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況などの地震学的知見等を踏ま え,合理的と考えられる位置に津波の発生様式に応じて設定する。検討用津波の評価 にあたっては,基本断層モデルの波源位置は,過去の地震の発生状況やひずみ集中帯 などに関する知見を踏まえ,合理的と考えられるさらに詳細に区分された位置に津波 の発生様式に応じて設定できる。

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- 20 - 4.2.1.4 海域活断層に想定される地震に伴う津波の波源の設定 (1) 評価対象 海域活断層の活動に伴う津波による大規模な被害事例はこれまで知られていないが, 将来における活動の可能性のある海域活断層に想定される地震に伴う津波を評価対象 とする。 ここでいう海域活断層に想定される地震に伴う津波とは,付属編○.○.○に示す海 域区分とは別に,日本周辺海域全域について考慮するものである。 簡易予測式等を用いて評価地点における津波高の概算値を比較することにより,複 数の活断層から詳細評価の対象とする津波を抽出することができる。評価対象津波を 抽出するための簡易予測手法としては,阿部(1989)の Mt式を用いた方法などがある。 ただし,簡易予測手法による評価は,地震規模,伝播距離および津波記録の統計的関 係に基づく概算値であり,波源位置の水深や海岸地形の影響が直接考慮されないため, 簡易予測式による絞り込みの結果,評価地点における影響が大きいと考えられる海域 活断層に想定される地震に伴う津波が複数ある場合には,これらについて数値計算に よる詳細な評価を実施することが望ましい。 (2) 基本断層モデル 個別の海域活断層の性状を踏まえ,これに応じた基本断層モデルを設定する。海域 活断層の基本断層モデル設定方法等を付属編○.○.○に示す。また,基本断層モデル の設定根拠等の詳細を付属編○.○.○および○.○.○に示す。 海域活断層に想定される地震に伴う津波については,地震発生層の厚さの限界を考 慮し,傾斜角等のパラメータの不確定性を反映して日本海東縁部と同様のスケーリン グ則を適用することにより,基本断層モデルを設定する。 (3) 断層位置等 海域活断層の断層位置,断層長さ L および走向θについては,評価地点個別の海域 活断層調査や文献調査等によって設定する。同様に,傾斜角δ等のその他のパラメー タについても,評価地点個別の海域活断層調査や文献調査等から明らかな場合には, 断層長さLや走向θと同様に確定的に取り扱うことができる。 なお,断層のすべり角に関しては,広域応力場と断層面の角度の関係等から設定す ることも可能である(付属編○.○.○参照)。

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- 21 - 4.2.2 断層運動以外の要因による津波 4.2.2.1 断層運動以外を要因とする検討用津波作成の基本方針 海底での地すべり,斜面崩壊,火山現象(山体崩壊,カルデラ陥没等)が海水を移動さ せることにより,津波が発生することがある。このような地形や痕跡がみられる場合には, 調査により得られた規模や水深の情報に基づき,敷地に影響を及ぼすと考えられるものを 評価対象とすることができる。 なお,こうした現象に含まれる過去の事例として,1741 年の渡島大島山体崩壊にともな う津波等がある。 4.2.2.2 波源の選定 (1) 検討対象 現象の規模と評価地点の位置関係等や簡易予測式に基づき,複数の評価対象から詳 細評価の対象を抽出することができる。例えば,斜面崩壊による津波の初期水位に関 する簡易式としては,Huber and Hager (1997)が粒子状突入物を用いた水理実験に基 づき導出した次式が挙げられる。 3 / 2 4 / 1 2 / 1 2

3

2

cos

sin

88

.

0

2





d

r

M

d

H

w s

2

bd

V

M

s ここで, H: 津波全振幅,d:突入位置の水深,α:すべり面の勾配,γ:進行角, ρs : 土塊の密度,ρw :海水の密度,t:地すべりの厚さ,r : 海中の伝播距離, Vs: 土塊の体積, b : 土塊の幅 である。 評価対象の抽出にあたっては,簡易式で必要となる斜面勾配,地すべり規模,水深 等の情報を,調査に基づき適切に設定する。 (2) 波源位置等 第 3 章で述べた調査結果等に基づき位置と規模を設定し,敷地への影響が大きいと 考えられる波源を選定する。 一般に,海底での地すべり,斜面崩壊,火山現象(山体崩壊等)に伴う津波は,断 層運動に起因する津波に比べ進行方向へのエネルギーの指向性が高いことが知られて いる。そのため,調査に基づき波源位置等を適切に設定したうえで,評価地点との位 置関係を考慮し,敷地への影響が大きいと考えられる波源を選定する。

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- 22 - 4.2.3 不確定性の考慮 4.2.3.1 断層運動による津波に関する不確定性 不確定性を考慮する方法として,基本断層モデルに対するパラメータスタディが考えら れる。パラメータスタディにおいては,断層モデルの諸条件(位置,長さ,幅,走向,傾 斜角,すべり量,すべり角,すべり分布,上端深さ,破壊開始点および破壊伝播速度等) のうち不確定性が存在する主要な因子についてパラメータを変動させて数値計算を実施し, 検討用津波群を評価する。検討用津波群の評価にあたっては,パラメータスタディを実施 する因子を適切に選定するとともに,その範囲を合理的に定めることが重要である。なお, パラメータスタディは,水位上昇および水位下降の各々について行う。 (1) パラメータスタディの手順 基本断層モデルの諸パラメータのうち,より支配的と考えられる因子に関するパラ メータスタディを行った後,その中で評価地点に最も影響を与えた断層モデルを用い て,その他の従属的な因子に関するパラメータスタディを行うことを基本とする。 (2) パラメータスタディの因子 パラメータスタディは,基本断層モデルを用いて,相対的に不確定性が大きいと判 断される因子について行うことを原則とする。この際,波源の不確定性がいずれのパ ラメータにより表現されているかという点に配慮する。付属編○.○.○には代表的な 因子を示す。 さらに,波源の拡がりが非常に大きなプレート境界付近で地震等においては,その 影響度に応じて動的なパラメータについても考慮する。 (3) パラメータスタディの範囲 パラメータスタディの範囲については,不確定性の程度およびばらつきの程度を考 慮して合理的と考えられるパラメータの変動範囲で適切に定める。また,既往地震の データから統計処理が可能な因子については,その標準偏差程度を範囲の目安とする ことができる。 なお,日本海東縁部および海域活断層に想定される地震に伴う津波の波源について は,不確定性が比較的大きいと考えられる因子に関し,基本断層モデルにおいてその 範囲が示されている(付属編○.○.○参照)。このような場合には,この範囲を目安と してパラメータスタディを実施できる。

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- 23 - 4.2.3.2 その他の不確定性 (1) 津波の発生要因の組合せの考慮 因果関係を有する複数の要因による津波がほぼ同時に発生する可能性がある場合に は,これらの重畳を考慮する。例えば,地震が断層運動による津波と地すべりによる 津波の両方を励起する可能性が認められる場合には,両者が重畳する現象を評価する。 この際,想定する津波の発生位置が互いに離れている場合や,規模の小さい津波が含 まれる場合には,敷地に有意な影響が及ぶ可能性について検討したうえで,重畳させ る津波を選定する。 (2) 時間差の考慮 津波の敷地への影響の観点から,各要因による津波が発生する時間差を考慮する。 なお,地震動により地すべりが誘発される場合等において,地すべりの要因となる 地震動が継続する時間を勘案する等,時間差を合理的な範囲で設定できる場合には, その範囲内で時間差を考慮することができる。

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- 24 - 4.3 想定津波の選定 (1) 想定津波の選定 検討用津波のうち,評価地点における最大水位上昇量あるいは最大水位下降量(敷 地状況によっては取水に影響を与える時間)が最大となる津波を,想定津波として選 定する。 (2) 潮位や地盤の鉛直変位の考慮 水位上昇量に対しては朔望平均満潮位,水位下降量に対しては朔望平均干潮位を考 慮する。なお,断層運動に伴う敷地の鉛直変位が想定される場合には,敷地高さに対 する相対的な水位変動量が最大となる検討用津波を,想定津波として選定する。 (3) 必要条件 想定津波については,少なくとも、「(A)」または「(B-1) および(B-2)の両方」のい ずれかを満足することを確認する。ただし,「評価地点付近」は,評価地点に大きな影 響を与えたと考えられる既往津波の痕跡高の数と分布状況,評価地点との海岸・海底 地形の類似性を検討の上,適切に設定するものとする。 (A) 評価地点に大きな影響を与えたと考えられる既往津波の痕跡高が存在し,想 定津波の計算結果がそれを上回ること (B-1) 評価地点において想定津波の計算結果が既往津波の計算結果を上回ること (B-2) 評価地点付近において検討用津波群の計算結果の包絡線が既往津波の痕跡高 を上回ること (A),(B-1) ,(B-2)の条件は,いずれも種々の不確定性を見込んだうえで選定され る想定津波の水位上昇量が,評価地点において少なくとも既往津波の痕跡高を上回る ことを確認することを意図している。したがって,評価地点に大きな影響を与えたと 考えられる既往津波の痕跡高が存在する場合は,(A)のみを確認すればよい。評価地 点に痕跡記録がない場合には,(B-1),(B-2)の両方を満足することが望ましいが,既 往津波の痕跡高の情報取得に限界がある場合は,(B-1),(B-2)のいずれかを確認すれ ばよい。この際,評価地点において想定津波を下回ることが明白である規模の小さい 既往津波は確認対象から外すことができる。 なお,想定津波が痕跡記録を生じた既往津波と同一の位置や発生様式である必要は ないが,「(A)」または「(B-1)および(B-2)の両方」のいずれかを満足することは決定 論的な想定津波として最低限の必要条件である点に留意する。また,津波堆積物によ り津波の浸水範囲の情報が得られる場合には,信頼度を吟味したうえで,これらの分 布範囲を包含する浸水計算結果を得ることが望ましい。

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- 25 - 【参考文献】

阿部勝征(1989):地震と津波のマグニチュードに基づく津波高の予測,地震研究所彙報, Vol.64, pp.51-69.

( 独 ) 原 子 力 安 全 基 盤 機 構 (2014) : 確 率 論 的 手 法 に 基 づ く 基 準 津 波 策 定 手 引 き , JNES-RE-Report Series, JNES-RE-2013-2041, 193p.

Huber, A. and W.H. Hager (1997) : Forecasting impulse waves in reservoirs, in Dix-neuvieme Congres des Grands Barrages, Florence, Commission Internationale des Grands Barrages, pp.993-1005.

Murotani,S., K. Satake and Y. Fujii (2013) : Scaling relations of seismic moment, rupture area, average slip, and asperity size for M~9 subduction-zone earthquakes, Geophysical Research Letters, Vol. 40, pp.1–5.

内閣府(2012) : 南海トラフの巨大地震モデル検討会(第二次報告)津波断層モデル編 - 津波断層モデルと津波高・浸水域等について-

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- 26 - 第 5 章 確率論的津波評価手法 5.1 確率論的津波ハザード評価の概要 5.1.1 確率論的津波ハザード評価の基本的な流れ 確率論的津波ハザード解析は,ある特定期間における津波高さと超過確率の関係を求め る手法であり,既存の確率論的地震ハザード解析の方法を参考として提案されている(安 中ら(2006),Annaka et al.(2007),Geist and Parsons(2006),Sugino et al.(2008),土 木学会(2011),原子力安全基盤機構(2014)など)。 確率論的津波ハザード評価も確率論的地震ハザード評価も,地震や津波に関する認識が 発展し,その認識を表現するモデルが発展するにつれて変化するものである。また,可能 性のあるすべての事象を考慮し,時間(発生頻度)を明確に考慮している点が決定論的な 方法との重要な違いである。確率論的ハザード解析は,不確定性の存在を前提としており, 推定に関する各種の不確定性を系統的に処理し,工学的判断のための資料を提供するもの であり,現時点での意思決定を行うための手段と考えられる。 評価にあたっては,原子力発電所周辺における活断層データおよび過去の地震データな どに基づき,不確定性を考慮したロジックツリーを設定して,将来襲来する可能性のある 津波水位の超過確率(発生頻度)を算出する。図5.1.1-1に確率論的津波ハザード評価の 基本的な流れを示す。 図 5.1.1-1 確率論的津波ハザード評価の基本的な流れ ・・・・ 5.1.4 参照 ・・・・ 5.2.4 参照 ・・・・ 5.3 参照 関連情報の収集・分析 ロジックツリーの設定 確率論的津波ハザード解析

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- 27 - 5.1.2 2種類の不確定性とロジックツリー手法 (1) 2種類の不確定性 確率論的津波ハザード解析は,不確定性の存在を前提としており,その条件下で意 思決定を行うための資料を提供するものであり,一般に,不確定性を偶然的不確定性 と認識論的不確定性の 2 つに分けて考えている。 偶然的不確定性は,物理現象固有のランダム性に起因する不確定性であり,現状で は予測不可能と考えられるもので,確率論的津波ハザード評価においては,1本の津 波ハザード曲線の中で考慮する。 認識論的不確定性は,知識や認識不足に起因する不確定性であり,活断層であるか ないかという問題や発生するマグニチュード範囲などのように研究が進展すれば確定 できるが現状では予測不可能なもので,ロジックツリーの分岐として考慮し,複数の 津波ハザード曲線で表現する。 (2) ロジックツリー手法 認識論的不確定性を考慮することは,認識論的不確定性に対応した複数の組み合わ せに基づき,重み(確率)を持った津波ハザード曲線群を作成することである。これ を系統的に行うための方法としてロジックツリーを用いる方法があり,その結果は主 にフラクタイル表示される。フラクタイルハザード曲線(パーセンタイルハザード曲 線)は,ハザード曲線の集合に対して,等非超過確率レベルを示すものである。 ロジックツリーのイメージを図 5.1.2-1 に示す。 図 5.1.2-1 ロジックツリーのイメージ

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- 28 - 5.1.3 評価対象 本評価は,断層運動が直接の原因で生じる津波を対象とする。海底での地すべり,斜面 崩壊,火山現象(山体崩壊,カルデラ陥没等)のような断層運動以外の原因で生じる津波 の確率論的津波ハザード解析への反映方法の詳細は今後の研究課題と考えられるが,発生 頻度,規模および発生様式の不確定性の範囲を適切に設定できる対象があれば,これらを 評価に反映することが可能となる。 確率論的津波ハザード評価では,長期間の平均的なハザードと,現時点からある特定の 期間のハザードを求める手法がある。前者では,長期間の平均的な年超過確率を評価する。 後者では,評価対象時点から,ある特定の期間での超過確率を評価する。前者の震源モデ ルで求めた地震発生確率(頻度)の情報が後者の評価のための基礎となる。前者の評価で は,地震発生確率において,平均活動間隔(発生頻度)のデータを用いて,定常過程(例 えば,ポアソン過程)によって供用期間の地震発生確率を求める。一方,後者の評価では 平均発生間隔に加えて最新発生時期(ラストイベント)のデータを用いて,更新過程(例 えば,BPT 分布(Brownian Passage Time 分布))によって,ある特定の期間での超過確率 を評価する。 5.1.4 関連情報の収集・分析 発電所に影響を与え得る津波を発生させる地震発生様式(活断層データおよび過去の地 震データ等)に関する情報を収集する。津波のモデル化では,専門家の意見の相違をロジ ックツリーの分岐として表すために,複数の専門家から情報を収集する。 なお,確率論的津波ハザード評価に非常に大きな影響を及ぼす可能性がある最新知見な どが公開された場合には,適切に反映する必要がある。

(31)

- 29 - 5.2 モデル設定の基本的な考え方 本章では,5.3 で記述する原子力発電所を対象とした確率論的津波ハザード解析に必要で ある地震のモデル化,津波高さ分布の評価手順,津波評価に関する分岐と重みの設定方法に ついて具体的に示す。 5.2.1 震源を特定できる地震のモデル化 震源を特定できる地震に関してモデル化しなければならない項目は下記の通りである。 ・地震がどの範囲で発生するのか(発生領域)。 ・どのような規模の地震がどのような割合で発生するのか(マグニチュード分布)。 ・どのような頻度で発生するのか(平均発生間隔とばらつき)。 1つの活動域内で1種類の地震が発生する場合は上記の 3 項目を設定すればよいが,複数 のセグメントがあり,ある場合には単独で,ある場合には複数のセグメントが連動して破壊 するような場合にはもう少し複雑になり, ・各セグメントがどのような頻度で破壊するのか。 ・同時に破壊するセグメントの組み合わせにはどのようなものがあるのか。 ・同時に破壊するセグメントの組み合わせはそれぞれどのような頻度で発生するの か。 ・同時に破壊するセグメントの組み合わせはそれぞれどのような規模の地震をどのよ うな割合で発生するのか。 を設定する必要がある。 (1) 発生領域 発生領域に関しては,過去に地震が発生している場合には,今後発生する地震の発生 領域の設定に問題はないが,テクトニクス的に見れば同じような環境にあるものの,地 震が発生している領域とそうでない領域がある場合には簡単でない。このような例は, 日本海溝沿いの津波地震や正断層地震の場合に見られる。このような問題に対してはロ ジックツリーで対処するのが有効と考えられる。 日本海溝沿いの津波地震や正断層地震,および日本海東縁部などでは,地震が発生す る領域が完全に分割されている(領域をまたいだ断層はない)か,あるいは連続してい るかが議論になる。このような問題に対してもロジックツリーで対処するのが有効と考 えられる。 なお,海域活断層では,評価地点個別の海域活断層調査や文献調査によって発生領域 を設定することができる。 (2) マグニチュード分布 固有地震のマグニチュードについては,現実には1つの値に限定されないと考えられ

(32)

- 30 - ること,また津波への影響が大きいことから,マグニチュードの分布幅を考える。 ほぼ同じ領域が破壊したと考えられる過去の固有地震の規模範囲を表 5.2.1-1 に示 す。マグニチュード幅は 0.3~0.5 程度の範囲に分布していることから,マグニチュード の分布幅として 0.3 と 0.5 を設定することができる。 マグニチュードの分布幅を決めるためには,各海域の想定の基本とする Mw(ここでは, 「Mc(中央マグニチュード)」という。)を設定し,Mc が分布のどこに位置しているかを 決める必要がある。この際,Mc は,各海域の特性(地殻構造,活断層の分布,固着の状 況,既往地震の発生状況等)を踏まえて設定する。分布幅に対して Mc がとりうる可能性 を図 5.2.1-1 に示す。全部で 8 パターンの可能性があるが,確定的に決めるのは困難な ため,ロジックツリーで対処するのが有効と考えられる。この際,Mc が各海域の特性を 踏まえて適切に設定されているのであれば,Mc が分布幅の下限付近となる 3 パターンを 除外し,図 5.2.1-1 に示す 5 パターンを設定すればよいと考えられる。また,プレート 間地震に対しては,応力降下量と活動域面積から地震モーメントを算出することもで きる。この場合には,世界のプレート間地震の応力降下量を検討した結果が利用でき る。内閣府(2012)による検討結果では図 5.2.1-2 に示す通り平均値 1.2MPa が得られ ており,図 5.2.1-3 の Murotani et al.(2013)のスケーリング則によれば平均値 1.6MPa となる。両者でばらつきを考慮した場合には,それぞれ内閣府(2012)が 2.2MPa, Murotani et al.(2013)が 3.0MPa となる。以上の結果より,ロジックツリーで応力降下 量の分岐を考えることもできる。 (3) 平均発生間隔とばらつき 平均発生間隔は長期間平均のハザード評価にも現時点でのハザード評価にも必要であ るが,ばらつきは現時点でのハザード評価だけに必要である。 1) 対数正規分布と BPT 分布 固有地震の発生間隔のモデル化は対数正規分布や BPT 分布により行われる。 BPT 分布は,「プレート運動による定常的な応力蓄積過程において,着目する震源域 周辺での地震やスローイベントの発生などブラウン運動として表現される応力場の擾 乱が加わる中で,応力蓄積が一定値に達し,断層が活動する(地震が発生する)」と いう物理的過程(ブラウン緩和振動過程)を踏まえたモデルであり,式で表現すると次 のようになる(Ellsworth et al. (1999), Matthews et al. (2002))。

 

t

t

W

 

t

Y

ここで,Y(t)は状態変数,tは最後にYfに達してからの経過時間であり,Y(t)がYf に達すると地震が発生し,Y0という状態に落ちる。λ・tが定常的な応力蓄積による項, δ・W(t)が応力場の擾乱による項である。W(t)は標準的なブラウン運動,δ は負でな い定数であり,δ2は拡散係数と呼ばれる。 最後にYfに達してから(地震が発生してから)次にYfに達する(地震が発生する)

図 5.2.1-3  Murotani et al.(2013)による沈み込み帯の巨大地震のスケーリング則
表  5.2.1-3  Weichert(1980)によるポアソン変数の信頼区間
図 5.2.1-7  G-R モデルと固有地震モデル(Wesnousky(1994))
図 5.2.3-4  東北地方太平洋沖地震の再現計算結果の O/C 分布
+7

参照

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