図面が3D!? ICTを活用した災害査定について
佐藤英樹
1 1静岡県交通基盤部 道路局道路整備課(〒420-8601 静岡市葵区追手町9番6号) 災害が発生した場合、その復旧計画を速やかにかつ円滑に進めるためには、被災直後か ら状況把握や調査測量に着手することが極めて重要になる。 国土交通省では、災害復旧において、ICTの活用により災害復旧の迅速化・効率化を推進 している中、静岡県でも平成26年度1次査定において、ICTを活用した測量の一つである デジタル写真から3次元モデルを作成する技術の実証実験を、災害査定にて全国で初めて 行った。 今回は、このICTを活用した災害査定の紹介やその実証実験結果について発表する。 キーワード:災害査定,ICT,3次元モデル1. ICTを活用した測量とは
(1)概要ICTとは、「Information and Communication Technology」(直訳:情報通信技術)の略称であり、 ICT(情報通信技術)を活用した測量が、近年、実用化 され始めている。 測量方法については、レーザーにより測量する方法 (図-1)や音波により測量する方法、さらにデジタル写 真により3次元モデルを作成する方法(図-2)など多岐 にわたるが、共通して従来の測量技術よりも迅速性や作 業員への安全性に優れることが大きな特徴であり、多く の民間企業が技術開発に取り組んでいる。 図-1 レーザーによる地形測量 図-2 デジタル写真による3次元モデル (2)ICT活用技術の一例 多岐にわたる技術の中から、災害査定時に実証実験と して行った、デジタル写真画像から3次元モデルを作成 する技術について簡単に紹介する。 a)使用する機材 ・デジタルカメラ(GPS機能付き) ・汎用の3次元画像解析ソフト ・3Dモデリングソフト ・3DCAD 上記機材は一般に販売されている機材であり、誰で も購入することができる。 デジタルカメラについては、500万画素以上の機種 が望ましい。動画映像でも可能である。 b)原理 原理について、一つの事例に沿って説明する。 デジタル写真画像から3次元モデル化するために、
ステレオ写真測量の原理を利用している。 図-3のように、2台のカメラで3次元モデル化し たい地形を撮影したとする。その際に、撮影する2 台のカメラがGPS機能で撮影位置の座標を特定でき れば、座標計算によって2台のカメラが撮影した計 測点の3次元座標を算出することができる。 このとき、より多くの計測点を算出するには、重 ねる2枚の写真が多くオーバーラップしていること が望ましい。 C)原理の応用 計測点の座標が算出できれば、写真撮影をした計 測点をつなぎあわせることで、計測点の点群(図-4)を作成していく。 次に点群の中から、必要な点のみを抜き出して、 線で結んだtinデータ(図-5)を作成する。 tinデータに写真撮影で作成されたjpg画像を張り 付けることで、座標管理された3次元モデル(図-6)を作成することができる。 図-3 ステレオ写真測量原理 (2台のカメラで撮影した場合) 図-4 点群 図-5 tinデータ
2. 災害査定での3次元モデル化の実証実験
(1)実証実験の目的 国土交通省では、迅速な対応が求められる災害復旧 事業において、ICT等を活用することで現地測量の短 縮や災害査定の効率化を推進しており、その普及推進 のための事例収集を目的に実証実験を行った。 (2) 実証実験の舞台となった災害現場 a) 静岡県島田土木事務所管内での道路災害 平成26年3月29日から30日の豪雨により、県道伊久 美元島田線(島田市大草地内)において、延長14m、 法長27mに渡り道路法面が崩壊する道路災害が発生し 図-6 3次元モデルた。 現場の状況は、それまで斜面を保護していた落石防 止網や斜面上の樹木などが崩壊土砂とともに県道上へ 流出していた。 そこで、県道を通行止めすることとなったが、当該 県道は地元住民にとって重要な生活道路であり、周辺 には迂回路として使用できる道路が林道しかないため、 地元へ林道を迂回路として利用していただくよう依頼 した。 しかし、迂回路とした林道は一般道のように舗装が 整備されておらず、また周辺の急峻な地形にあわせた 起伏の激しい道路のため、普段県道を利用している道 路利用者に多大な負担が発生していた。 そのため、速やかに災害復旧事業としての申請を 行った。応急工事として崩壊土砂の撤去と仮設防護柵 の設置工事を先行して行い、工事完了後は速やかに通 行止め解除を行った。 図-7 災害現場(島田市大草) b)被災原因 今回の道路災害の被災原因については、3月29日~ 30日にかけて断続的に降り続いた降雨により斜面表層 部が飽和状態となり、表層部と基盤岩との境界におい て粘着力の低下が生じたこと、また、降雨に伴う自重 の増加によりせん断抵抗力が減少したと考えられる。 その結果、地山がせん断抵抗の限界を超えて崩壊し、 既設施設であった覆式落石防止金網を巻き込みながら 道路法面が被災したと推察した。 なお、被災直後は斜面からの湧水が確認された。 c)災害申請 被災時の気象情報等の調査を行ったところ、被災原 因となった降雨の3月29日から30日の連続雨量は159㎜ であり、採択要件にある異常な天然現象であることか ら、災害申請を行うこととなった。 d)復旧工法検討 被災後の現地状況を確認したところ、地山の崩壊に 伴い表層部の不安定土塊はほぼ崩落したものと考えら れたが、さらなる降雨により残った崩積土や風化した 岩盤部が再度崩落する危険が考えられた。そのため、 地山の安定を図り、法面の安全度を確保する必要が あった。 その上で、復旧工法の検討にあたっては、道路土工 -切土工・斜面安定工指針に沿って検討を行った。な お、現場状況から地山の切直しによる安定勾配の確保 が困難であったため、吹付法枠工又は現場打ちコンク リート枠工の工種に絞り、比較検討を行った。 現場打吹付法枠工は、法面上部にある不安定土塊の 除去が必要であるが、枠はモルタルにより吹付を行う ため不陸整形は必要としない。それに比べて、現場打 コンクリート法枠工は法面の不安定土塊の除去並びに 型枠設置に伴う法面の整形が必要であったことから、 比較検討を実施した結果、施工性・経済性に優れる現 場打吹付法枠工を採用することとなった。 次に、法枠サイズの比較検討を実施した。枠断面 200×200・1500スパンと、300×300・2000スパンにつ い経済比較を行った結果、経済性に優れる200×200・ 1500スパンを採用することとなった。 こうした復旧工法の検討を経て、復旧延長L=14.0m、 復旧工法を現場打ち吹付法枠工A=282㎡として災害申 請を行った。 写真-1 被災前 写真-2 被災後 災害現場 静岡県庁
写真-3 被災斜面 写真-4 湧水 写真-5 全景写真 (3)実証実験を行うこととなった経緯 国土交通省では、前述のとおり迅速な対応が求められ る災害復旧事業において、従来よりも迅速かつ安全に災 害復旧を行うため、ICT等の活用することで、現地測量 の短縮や災害査定の効率化を推進している。 ICTを活用することで期待されることとしては、従来 は測量時に作業員が危険な災害現場に立ち入る必要が あったが、ICTを活用することで危険な現場に作業員が 立ち入る必要がなくなり、測量時の2次災害の危険性が なくなる。 また、ICTを活用すれば、従来よりも少人数・短時間 での測量が可能となるため、災害多発時などに機動力を 発揮する。 このような効果が期待されることから、平成26年度に 国土交通省より各都道府県に対して年間1件以上のICT を活用した測量を実施するよう通達がなされ、ICTを全 国的に広め、災害復旧をより迅速かつ安全にするための 取り組みが進んできている。 また、並行してICTの技術開発や効果検証等も行われ ている。 今回の災害現場は、長大な法面崩壊かつ斜面勾配が急 な地形であり、人が立ち入ることが困難な現場であった。 このため、実査における崩壊面上部の確認が困難な状態 であったが、このように人が立ち入ることが困難な急斜 面においてもデジタル写真から3次元モデルを作成する ことは有効なのか、また、デジタル写真から3次元モデ ルを作成する技術は、従来の測量技術に比べて優れた技 術なのかを確認することで、ICT普及推進のための事例 収集をする目的で実証実験を行うこととなった。 (4)実証実験に用いる3次元モデルの作成 まず、ICTを活用した3次元モデルを作成するため、 前述1.(2)で事例紹介した、市販されているデジタル カメラや3Dモデリングソフトに加え、「UAV」や「スカ イリフター」といった機材を使用することとした。 「UAV」とは、「Unmanned Aerial Vehicle」の略称で あり、直訳すると無人航空機という訳となるが、回転翼 が複数ある小型電動無人ヘリコプターのことである。 UAVにカメラを搭載することで、測量したい箇所を上空 から撮影することが可能。 スカイリフターは、機材の頭部にカメラを取付けるこ とで、約10mの高さから周辺を撮影することが可能とな る。 写真-6 UAV
写真-7 スカイリフター (5)実証実験の内容 今回は災害査定の中でICTの実証実験を行うという全 国初の取り組みであったため、従来の査定であれば査定 官、立会官の2名という体制であるが、国土交通省の職 員3名も同行し、5名で実証実験の内容を確認すること となった。 まずは机上査定として災害現場の状況や被災原因、復 旧工法等の説明を行った。説明の際は、従来の測量技術 で作成された平面図や横断図、現場で担当職員が撮影し た写真を用いた。査定官や立会官からの質問に対しても、 平面図や写真などを用いて回答を行った。 机上査定終了後は、パソコンのモニターにICTを活用 して作成された3次元モデルを映し出し、3次元モデル の原理等の説明を行った。 査定官から災害現場の斜面の崩壊部を詳しく確認した いとの要望があれば、その場で3次元モデルを操作して、 要望箇所を拡大させ、延長・幅についても、モデル上に 表示した。 上記のように災害査定の中で、従来の測量により作成 された資料とICTを活用して作成された3次元モデルの 対比を行った。 3次元モデルを確認後は災害現場に移動し、実査を 行った。 災害現場では先に見た3次元モデルが現場の地形を反 映した成果となっているか確認を行った。 写真-8 机上査定状況 写真-9 実査状況
3. 実証実験の結果についての考察
(1) 立入り困難な急斜面で3次元モデル化は有効か? これまでは、人の立入りが困難な現場では有効な写真 撮影を行うことができず、3次元モデルの作成が困難で あったが、UAVやスカイリフターといった撮影機材を用 いれば、作業員が危険な現場に立ち入らなくとも機材の 操作のみで写真撮影が可能となり、3次元モデル化は有 効であることが確認できた。 (2) 3次元モデル化は従来技術より優れているのか? 3次元モデル化と従来の測量技術との比較を以下の4 項目について行った。 a)費用 従来の測量技術が約30万円の費用を要したものに対し て、3次元モデル化も約30万円の費用を要する結果と なった。 このため費用面に関しては、従来の測量技術と同等の 費用を要することが確認できた。b)作業期間 従来の測量技術が外業2.0日、内業2.0日の計4.0日を 要したものに対して、3次元モデル化は外業1.0日、内 業1.5日の計2.5日を要する結果となった。このため、3 次元モデル化のほうが、従来の測量技術に比べて短期間 での作業が可能となることが確認できた。 c)安全性 従来の測量技術は、作業員が危険な斜面に立ち入る必 要があったものに対して、3次元モデル化であれば、作 業員は安全な箇所からの撮影機械の操作のみを行うだけ でよく、危険な現場に立ち入る必要がなくなることから、 3次元モデルのほうが安全性に優れることが確認できた。 d)測量成果の比較 測量成果については、同じ測点で従来の測量技術と3 次元モデルを重ねた横断図を作成し、確認を行った。 現場打吹付法枠工(F200) A=282m2 暗渠排水工 L=11.0m 仮設防護柵工 L=10.0m 復旧延長 L=14.00m 復 旧 起 点 0.00 復旧 終点 14.0 0 170 160 50 150 160 139 14 143. 75 146.17 146 .83 151.09 155 .85 160.78 1 64.60 163.94 1 48.10 151. 79 156.69 162 .82 148.83 154. 59 152.41 162.38 165.85 159 .68 156 .31 1 50.52 145.87 145.03 144.05 142.95 154.1 0 148.82 142.4 1 0. 00 8.00 14.00 142.33 145.2 2 143.73 T1 142 .50 KB M .1 1 42 . 50 4 146.2 7 T2 150 150 160 150.04 158 .13 L 12.00 L2 3.80 L22.00 L16.00 1 62.18 156.53 157.17 図-8 平面図 図-9 横断図重ね図 黒線が従来の測量成果により作成された横断図で、 紫色が3次元モデルから作成された横断図となる。 図面で示されているとおり、従来の測量成果とほと んど相違がないことが確認できる。紫色の線が飛び出 ているところが2か所ほどあるが、これは現場に生え ている樹木を反映した結果である。 また、横断図の中央付近でも黒線と紫線で多少ずれ ている点があるが、これは、従来の測量を4月に行っ たのに対して、3次元モデル化にための写真撮影を1 か月後の5月に行ったことによる、地形の変化が反映 されている。