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多様な人々の恊働栽培を促進するプランターのデザインと地域活性化への適用提案

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Academic year: 2021

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(1)48. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 第二部:活動報告. Design Studio TAD. 多様な人々の恊働栽培を促進する プランターのデザインと 地域活性化への適用提案. 佐藤公信. Designing of Community Planter and Application for Regional Activation. 清水忠男 Shimizu Tadao デザインスタジオ TAD. Sato Kiminobu. 今泉博子. Imaizumi Hiroko 千葉大学大学院工学研究院 Chiba University. 齋藤瑞枝 Saitou Mizue. NPO 法人武蔵野農業ふれあい村 Musashino Nougyou Fureai Mura. 1.多様な人々による恊働栽培の意義 花や野菜の栽培を中心とした園芸活動を楽しむ人は多いが、従来の地植え 方式では、腰を屈めての作業のため、高齢者にとってはきつい。それがため に、せっかくの楽しみを続けられなくなって断念したという話をよく聞く。 それは農業専従者でも同じ。畑や側道に手押し椅子が置かれているのをしば しば見かけるが、移動の時に楽なように、あるいは休める場所として椅子を 持って行くのだそうだ。そんな農業地域で出会った情景が忘れられない。高 齢の女性数人が、椅子に腰かけるのではなく、地面に直接坐っておしゃべり しながら雑草取りをしていた。聞いてみると、お互いの畑の雑草取りを順番 にいざりながら協働作業して行くのだけれど、作業も楽だし、何よりも会話. 図1 栽培実験 第1週目. が楽しいよ、と言う。ここで気付かされたことは、恊働栽培の楽しさと効率 の良さ、また、腰を屈めずに栽培を行える環境が必要であるということだっ た。. 2.コミュニティプランターのデザイン さっそく、それを実験によって確認することにした。デイサービス利用の 車椅子やステッキ使用の高齢者4人に、矩形のテーブル上に置かれた個別の 図2 栽培実験 第2週目. プランターを用いて、1週間に1回、野菜の栽培をしてもらうと、回を重ね るたびに会話の数と笑顔が増え、最終回となった8週目、収穫時には皆、大 満足だった(図1∼図4)。この実験では、椅子使用者が園芸作業する際の 具合の良い作業面の高さが得られたが、個別プランターの使用では、恊働栽 培に限界があり、また矩形の作業面では補助をする人達が動きにくい。  こうした結果から、恊働栽培には、中央に植え込み面を持つ円形のプラン ターが望ましいと考え、参加者がコミュニケーションしやすく補助者が動き. 図3 栽培実験 第7週目. やすい全体サイズ、道具などを置きやすい縁巾などを調べて行った。その結 果、円形のプランターは良いが、それを囲む縁の巾は、多様な利用者の体型 や行動の違いからすると、均一な奥行きを持つ同心円よりは、奥行きに変化 を持たせた方が使いやすく、道具や材料を置く場所としての利用度も高ま る、ということがわかった(図5∼図7)。これらの実験に基き、たどりつ いたのが、椅子に坐ったり立ったりしたまま恊働栽培できる円形ベースの丈 の高い変形プランター。コミュニティプランターと名付けられた(図8)。. 図4 栽培実験 第8週目.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 図5 実験レイズドベッドの縁の巾. 図8 コミュニティプランター図面. 3.人の心をつなぐ花壇としての利用 製品化されたコミュニティプランターは、花壇として利用される例が少なく 図6 実験時の立位および車椅子座位. ない。東京都練馬区にある高齢者施設の例では、ウッドデッキに置かれ、皆で 育てた花々が満開を迎えた頃、周りに椅子が置かれ、お茶を飲む場所として、 なごやかな時が共有されていた(図9) 。地域の公園に置かれる例では、景観 形成効果のほか、花の植栽のし易いレイズドプランターとしての役割も担って いるようだ。また、公園の利用者は、目で楽しむばかりでなく、プランターに もたれたり、手にした飲み物を置く台として利用したりもしている(図10) 。 東日本大震災の被災地・福島県浪江町の仮設住宅集落の小広場での使用も 喜ばれた。被災地の公営仮設住宅は、お役所が希望者の住む家を抽選で決め たので長年のコミュニティが失われ、加えてプレハブ小屋には出入口が1箇. 図7 高齢者施設での利用検証. 所しかなく、開けたままだと中が丸見えなため、住み手がドアを閉ざし、孤 立化する傾向すらあった。ボランティアグループは、住んでいる方が外部と のつながりを持ちやすくするため、廃材を利用した縁台や椅子を作り出入口 近くに置き、扉を開け放しにしても中を見られないよう暖簾をかけたりし た。その結果、住人は、室内に閉じこもることなく、椅子や縁台に坐って、 往き交う人と声を交わすようになり、新たな人と人との繋がりが生まれて いった。そういう人々の交流をさらに促進したのが、小広場に設置したコ ミュニティプランターだ。恊働して花を育てる楽しさに加え、花そのものが 人々の心をつなぎ、癒しにつながったのだろう(図11)。 ただし、仮設住宅村はあくまでも仮設のもの。住民はやがて、それぞれが 引越して行き、花壇の担い手がいなくなると、コミュニティプランターは本. 図9 高齢者施設のウッドデッキに設置. 図10 千葉県立幕張海浜公園. 図11 仮設住宅村住民による利用. 49.

(3) 50. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 図12 花植え作業が住民同士の交流を促す. 図13 仮設住宅村前の小広場が公園になった. 来の働きを発揮できなくなった。仮設住宅村が撤収されたとき、幸い、これ らのプランターは、地域集落の自治会からの希望で寄贈され、再び花の恊働 栽培を楽しませる存在となっていると聞く。仮設住宅村の小広場では、種ま きから始まる長期間の栽培が考えられなかったため、あらかじめ小鉢に分け られた複数の花を参加者が選んで構成する方法がとられていたが、プラン ターの設置場所がほぼ一定ということになれば、土入れから始まる栽培プロ セスも可能になるだろう。. 4.視覚障がいを持つ高齢者施設における恊働栽培支援の試み 東京都青梅市に盲養護老人ホーム「聖明園曙荘」がある。目が不自由でも 野菜を育てたいという人のために地植え方式の菜園を備えているが、目の不 自由な高齢者にとって、使いこなすのが難しく、しゃがみ込むのもつらい。 (図14)そこで、実験として、コミュニティプランターを用いる野菜の恊働 図14 施設における既存の菜園. 栽培プログラムを計画し、希望者に参加していただいた。対応する花弁型の テーブル上に1、2、3、4、5と鋲を打ち(図15)指で触ると自分の担当 場所が分かるようにし、植栽領域をロッドで5分割した(図16)。 プログラムとしては、1年を、第1期(夏野菜)と第2期(秋野菜)に分 け、さまざまな視覚障害を持つ各5人の参加者を募った。例として、第2期 の活動内容を表にて示す(表1)。 表1 第2期活動内容 回数・日付. 図15/16 自分の担当場所を認知するための 仕掛け. 作業内容. 天気・場所. 参加者. 援助者. 第9回 9月1日. 畑の片付け,栽培候補品種の紹介. 第10回 9月8日. 栽 培 品 種 決 定, 担 当 決 め, 播 種, 晴れ・中庭 水やりについての説明. A,B,C,D,E 5名. 第11回 9月22日. 生長の確認,間引き,施肥. 晴れ・中庭. A,B,C,D,E 5名. 第12回 9月29日. 生長の確認,間引き,施肥. 晴れ・中庭. A,B,C,D,E 4名. 第13回 生長の確認,間引き,土寄せ,施肥 晴れ・中庭 10月6日. A,B,C,D,E 6名. 第14回 10月13日. 生長の確認,収穫,施肥,調理に 晴れ・中庭 ついての話し合い. A,B,C,D,E 5名. 第15回 10月20日. 生長の確認,収穫,調理・試食. 晴れ・中庭 A,B,C,D,E 5名. 晴れ・中庭, A,B,C,D,E 6名 談話室.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 参加者は、野菜の栽培は未経験で、中途失明の1名を除き、食事のおりに 口に入れる野菜とその生育する過程での外観を結びつけることができない、 ましてや種との関わりはほとんどわからないという状況だったため、最初の ガイダンスが重要だった。指導は園芸の大学院学生(図17)。 土の上に種を均等に蒔くことが難しいというので、作業の前にあらかじめ 一定の深さの種まき用の孔を用意するなどの工夫が必要となった(図18)。 幼い芽が出てきた時にそれぞれの種類によって芽の形が違うのを手で触っ て確認する(図19)。間引きをしたり、土寄せをしたり、施肥をしたりする にあたっては、ヘルパーに手先を誘導してもらっていた(図20)が、大きく 育って行くと、自分で積極的に触って、形状の違いを楽しむようになって 行った。収穫(図21)後は、洗浄して生で食べたり、調味料をつけたりして 堪能(図22)。アンケートによれば、野菜が種から育って行くプロセスを体 感できたことに、参加者は皆、感動していたようだ。その背後には、表1の 右欄に記されているように、毎回、園芸系指導者やボランティア、ヘルパー 図17 現場でのガイダンス. などの支えがあったことを強調しておきたい。. 図18 種まき用の孔を用意. 図20 間引き作業. 図21 収穫作業. 図19 若芽の形を指で触って確認. 図22 収穫したての野菜を食べる. 51.

(5) 52. 特集:人口減少時代の環境デザインを考える. 5.農業ふれあい村での「テーブル菜園講座」 東京都武蔵野市には、使われなくなった古い農家の建物や周辺の土地を利 用して希望者に野菜栽培の場を提供する市立の農業公園がある。そこでの事 業運営を NPO 法人武蔵野農業ふれあい村が行っている。大半は地植えの区 画割の体験農園であるが、その一角にコミュニティプランターを置き、デイ ケア利用の高齢者を対象にした恊働栽培支援プログラム「テーブル菜園講 座」を実施した。参加者は、車椅子や杖の利用者。地植えはきつくてできな いが、農業を体験したいという5人のメンバーがデイケアセンターのミニバ スに乗ってやって来る(図23)。ここでは、農業指導の資格を持っている人 の指導のもと(図24)、園芸ボランティアやデイケアのヘルパーたちがサ ポート役となり、週1回のプログラムをこなして行った。 図23 ミニバスの利用. 図24 専門家によるガイダンス. 図29 作業後に、成長した野菜を眺めながらお茶をする. 参加者が、栽培に止まらず、作業面をテーブルとして、休憩時間にお茶を 飲んだり、採りたての野菜を試食したりして、賑やかに楽しんでいる様子が 印象的だった。アンケートでも高く評価されている。デイサービス所属の専 門家によれば、参加者のこうした経験は、身体機能の回復や認知症緩和にも 役立ったようだ(図25∼図29)。 このボランティアプログラムは、4年間実施したが、5年目に指導役を 担っていた NPO の理事長が体を壊して入院。その間、指導者不在というこ. とで、プログラムは休止となってしまった。現在、理事長は回復し、現場に 戻ってきており、一人に荷重のかからない、より実際的なプログラム・支援 図25 車椅子や椅子を使って. 図26 播種. 体制の確立を目指して動きが始まっている。. 図27 間引き菜をその場で試食. 図28 収穫.

(6) デザイン学研究特集号  Vol.28-2 No.104. 6.他の都市内農業公園で考えさせられたこと 最近「コミュニティプランター」が納品された農業公園があると聞いたの で訪問してみた。東京都杉並区立「成田西ふれあい農業公園」である。昔の 農地を生かしている点、周囲が住宅地である点、地域住民へ農に親しめる場 を提供しようとしている点など、先に紹介した「武蔵野農業ふれあい村」と 共通する部分が多い。訪れてみると、一面の地植え用貸し農地が広がり、そ の一角に、「コミュニティプランター」が2基置かれ、それぞれの傍に立っ て作業をしている二人の姿が見えた(図32)。聞いてみると「しゃがまない で作業できるから楽ですよ」とのこと。「でも、一緒に作業できる人がいる といいんだけど」とも言う。申し込み時には、グループワークプログラムを 期待していたが、蓋を開けたら、2台のプランターに計2人の使用者とあっ てびっくり。「区はこれから、やり方を考えるんでしょうね。」というので、 図30 ひとり1台の贅沢さ?. 区のホームページを覗いてみたが、何と「コミュニティプランター」の紹介 は一切無かった。杖を使う人、車椅子利用の人など多様な人々が一緒に植栽 作業を楽しむためのものなのだから、「武蔵野農業ふれあい村」のように、 デイケアセンターとの共同プログラムなどを計画しているのかもしれない。 しかし、この農業公園の案内には「駐車場はありません」との記載。ミニバ スは使えないか。今後に期待したいのだが。. 7.今後の展開について 大規模被災地の仮設住宅村広場や、高齢者向け集合住宅、都市公園などの 例に明らかなように、「コミュニティプランター」による花の恊働栽培は、 人々の心をつなぎ、癒す働きがある。また、視覚障がいを持つ高齢者の施設 や、農業ふれあい村における恊働栽培支援の試みは、「コミュニティプラン ター」によって、多様な人々が恊働栽培を楽しみ交流が活性化されることを 明らかにした。ただし、そのためには、製品と菜園活動との関わり方を熟知 している人材や、実地支援を行える多くの人材が不可欠だ。それに加え、 ハードとソフトを統合する支援プログラムと組織づくり、さらには、こうし たことがらを、行政や企業や、より多くの人々に理解してもらうための活動 が必要となるだろう。 参考文献 清水忠男:「ともに生きるためのデザイン」(CDA 創立70周年記念講演会講演録)2020. Community Gardening Support Study Group:「Designing of Community Planter and Support of Its. Use」(“IAUD AWARD 2013”: Category of Product Design)2013. 清水忠男、金澤匠平、湯山博子、佐藤公信、道見遥菜、岩満恭太「コミュニティプランター」. 日本デザイン学会・デザイン学研究/作品集 18号 2012 54∼59 湯山博子:「高齢者施設における園芸活動を支援する環境デザイン」(学位申請論文)2012 プランター製作:(株)中村製作所. 53.

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参照

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