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経済的な見方や考え方と日常経験の関係性に関する研究 : 小学校児童を対象に(投稿原稿(査読付))

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Ⅰ.はじめに

 生きる力を育む学校教育では,児童生徒の学習活動 を現実社会とつなげることが一層強く求められている。 そのような中で,例えば,加納(2012)は経済教育に おける「生きる力」,つまり「市場経済で生きる力」 とは,「働くことを含め,市場経済で生きてゆくため に必要な知識やスキルである。これは,市場経済に対 する理解に基づいて,意思決定(選択)ができ,また 問題解決ができる力である」と定義した。その上で, 「市場経済で生きる力」を育むための経済教育におい ては,まず「市場経済にかかわる見方や考え方を学ぶ こと」を重視し,さらに学んだことを生活や仕事で活 用(応用)することが必要であると主張した。1)筆者 は加納氏の主張に賛同した上で,本稿において,さら にその中にある「経済にかかわる見方や考え方」と 「生活や仕事」,つまり児童生徒の日常経験との関係性 に注目してみたい。  経済的な見方や考え方については,多様な解釈があ る。先の加納(2012)の場合は,アメリカの NCEE が定義した 20 のスタンダードからなる基本的な概念 体系を想定している。2)また,栗原(1993)は認識論 から出発し,経済学の学問体系の歴史を探りながら, 「歴史・制度学派」と「合理主義経済学」という二つ の立場から「経済的な見方や考え方」を捉えることが できると論じ,後者の立場に立って,「希少性概念か ら派生する基礎的な経済概念(トレードオフ・機会費 用・選択など)を学ばせることの必要」を主張した。 つまり,実際の教授活動において,「概念達成方略」 を通じて基礎的な経済概念を理解させ,さらにそれら を現実の経済問題に適応させて,生徒自身が意思決定 す る こ と を 重 視 し た の で あ る。3)そ の 他 に, 山 根 (1992)は,経済教育の目指す人間像は「経済学者」 ではなく,「経済生活者」であると指摘し,経済学教 育と異なって,経済教育における「経済的な見方や考 え方」は,経済学の学問体系に基づきながら,より現 実的なレベルに位置し,学習者である児童生徒の行動 的な側面を重視する傾向があることを指摘した。4) た,経済的な見方や考え方の捉え方について,猪瀬 (2002)は,経済的な見方や考え方の基底には,科学 理論の法則性,普遍性,一般性である知識からなる 「概念的枠組み」だけではなく,生活経験者としての 児童生徒の日常認知における分かり方,理解の仕方, つまり「子どもの認知枠組み」があることを論じた。 その上で,実際の経済教育では,児童生徒の「知覚」 「経験」,つまり「認知」を踏まえて経済理論の枠組み を習得させることが重要であることを主張している。5)  以上のように,経済教育で経済的な見方や考え方を 検討するにあたっては,例えば,経済学の「概念的枠 組み」と児童生徒の「認知枠組み」などを提示して, 経済的な見方や考え方と児童生徒の日常経験との関係 性を指摘する議論が多く見られる。経済教育の教育観, そして「経済的な見方や考え方」に対する捉え方の相 違によって,経済的な見方や考え方の中身に関する具 体的な定義が様々であるが,少なくとも経済的な見方 や考え方と児童生徒の日常経験の間に相関関係が存在 することには異論がないと言える。  しかし,もう少し詳しくそれらの議論をながめてみ ると,そこから,児童生徒の経済的な見方や考え方は 学校教育によってのみ培われるのか,それとも購買活 動や貯蓄活動などの日常経験の中でも形成されるのか, さらに,経済的な見方や考え方が日常経験によって形 成されることがあるとするなら,彼らは経済にかかわ る意思決定や問題解決を行う際に,こうした見方や考 え方をどのように生かしているのかという新たな疑問

Article

The Journal of

Economic Education No.33, September, 2014

論文

経済的な見方や考え方と

日常経験の関係性に関する研究

─小学校児童を対象に─

A Study of Relation between the Economic Way of Viewing and Thinking and Children’s Daily Experience :

In the Case of Elementary School Students

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が生じてくる。生きる力を育む経済教育において,経 済的な見方や考え方を児童生徒に身に付けさせるため には学習内容と指導方法を吟味することも重要である が,それに先立って,上記のような経済的な見方や考 え方の形成そして応用と日常経験の関係性を実証的に 検討し,児童生徒の経済理解の実態を正確につかんで おくことが必要になる。以上のことから,本研究では 上記の課題に応えることを目的に,関連する先行研究 を分析した上で,実際に質問紙調査を実施・分析する ことによって,経済的な見方や考え方の形成及び応用 と学習者の日常経験の関係性を究明することを試みた い。

Ⅱ.従来の研究

 児童生徒の経済理解に関する研究においては,従来 から「経済的な見方や考え方」という用語が使われた わけではない。そこで,本研究では「経済理解」や 「経済概念」といったより大きな文脈で,経済的な見 方や考え方と日常経験の関係性に関する先行研究を分 析することにした。   児 童 生 徒 の 経 済 理 解 に 関 す る 考 察 は,Strauss (1952)の研究まで遡ることができる。Strauss はイン タビューによって,売買活動における「貨幣」「所有 (権)」「利益」などの「お金」に関わる諸概念に対す る,4.3 〜 11.6 歳児童の理解を 9 段階に分けてまとめ た。そして経済概念の順次的な発達は,単なる認知活 動のみならず,「情緒」「意欲」などの心理的要素にも 深く関連していることを説明した。6)その他に,Berti, A.E. と Bombi,A.S. による一連の研究が挙げられる。 Berti と Bombi(1988)は帰納的な研究方法を用いて, 「商品」「貨幣」「銀行」などの経済的事象に対する理 解を,Piaget,J. の認知発達理論に基づき,児童生徒 の経済概念の発達度としてまとめた。さらに,経済概 念の発達要因について,児童生徒の認知や心理的活動 の他に,社会的・文化的・教育的な影響があることを 指摘した。7)そして,これらの研究から,経済概念の 発達を日常経験との関係から捉えようとする動きが活 発になった。  Bombi(2002)は,「裕福」と「貧困」という相互関 連している概念に対する児童生徒の理解が,「経済的」 「道徳的」「社会的」の 3 つの領域における概念の獲得 によって発達していくことを究明した。そして,その 発達を促した要因について,学校教育で経済的な内容 に殆ど触れていないイタリアの児童生徒が,日常での 経済活動に直接的に「参加(買い物など)」「観察(店 の仕入れなど)」すること,そして間接的に「情報収 集(家族の話など)」することによって,経済概念の 獲得を成し遂げていると主張した。8)  経済理解に関する英語圏の研究経過について, Furnham,A. は Lunt,P. によるまとめを引用しながら 以下のように説明している。「まず,生徒の経済生活 の理解が一部の実証的な研究によって証明され,次に, 研究者たちは Piaget による領域一般の認知発達理論 に依拠しながら,生徒の経済理解を明確化することを 試みた。その後,社会的な要因を経済理解の発達の説 明に取り入れる試みが進められた」。9) さらに,Furn-ham,A. によれば,1980 年代の中期から,生徒の経済 理解の社会化研究が,経済理解に関する研究の 1 つの 分枝として生まれたというのである。  日本における児童生徒の経済理解に関する検討は, 福田と加藤によってなされてきた。福田はそれまでの 国内外の先行研究を分析した上で,一連の調査的研究 を行い,店や企業などの経済的事象と「希少性」「機 会費用」などの経済概念に関する小学校児童の理解度 や発達的な特徴を明らかにした。10)  福田(1993)は「希少性」の概念を意味する架空の 物語を紙芝居の形で小学校 1 〜 3 年児に演示した後に, 「希少性」「機会費用」「費用便益分析」「価格」といっ た経済概念に対する児童の発達度を質問紙調査によっ て明らかにした。11)また,経済概念の発達と児童の日 常経験との関係について,福田(1994)は,児童の保 護者を対象としたアンケート調査を実施し,児童の買 い物経験と経済概念の発達との間には関連があること を明らかにした。福田によれば,児童の「自律的買い 物経験」,つまり一人で予算処理する買い物経験は, 経済概念の獲得に影響を与えない。その原因について, 自律的買い物経験は,実際のところ欲しいものが買え るかどうかの判断に終始する買い物活動,つまり即自 的活動であるため,こうした直接的買い物経験によっ て,児童の商品に関する知識は蓄積されるが,その経 験によって獲得した知識を「反省」「意識化」「概念 化」せずに買い物活動がなされるために,需給関係や 価格などの経済に関する概念を獲得することまでに発 展しないと説明する。12)以上のことから,福田は,教 科学習では,児童の買い物行動を即自的活動から反省 的活動へと組み替えていくような学習活動が必要にな ると提案した。ここでの反省的活動とは,希少性,機 会費用,需給量と価格の関係などの経済知識に気づか せる買い物活動を指している。

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 一方,経済概念と買い物経験の関係について,加藤 (2007)は福田による「自律的買い物経験」に対応し た「他律的買い物経験」,つまり「他者から依頼され た物を買う」買い物活動の存在を提示し,小学校 1 〜 6 年の児童の「経済認識」の発達における 2 種類の買 い物経験の影響を質問紙調査及びインタビュー調査か ら究明した。加藤によれば,買い物経験,特に自律的 買い物経験が豊富な児童ほど認識のレベルが高い,つ まり経験の量と質が認識の発達に影響を及ぼす。さら に,認識の発達を促進するのは児童の「視点取得能 力」であり,こうした能力を高めるのは主として児童 の自律的買い物経験である。自律的買い物経験におい て,児童は複数の視点(品質,価格,サービスなど) を比較しながら,より望ましい物を選択するという意 思決定を行うというわけである。13)  以上から,経済理解(認識)と日常経験の関係につ いて,福田と加藤の研究結果が一致しないことがわか る。つまり,福田(1994)は日常経験(自律的買い物 経験)が経済理解の発達や経済概念の獲得に影響しな いと説明したのに対して,Bombi(2002)の研究を踏 まえて,加藤(2007)は日常経験,特に自律的買い物 経験が視点取得能力を向上させることで,結果的に経 済理解(認識)の発達に積極的な役割を果たすと説明 している。異なる研究結果の背景には,両研究の研究 対象が異なっていることの他に,研究の視点が異なっ ていることの影響があると考える。  福田(1994)は「希少性」「機会費用」「費用便益分 析」「価格」といった抽象的な経済(学)概念に対す る児童の理解度を考察したに対して,加藤(2007)は 「立地」「サービス」「品質」「価格」などの視点から, 「店(小売店)」という実在した具体的な経済的事象に 対する児童の理解度を考察したわけである。さらに, この違いを「概念的枠組み」と「認知枠組み」から経 済的な見方や考え方を捉えようとする猪瀬(2002)の 論説に照合してみれば,「概念的枠組み」の面におい て,両氏の扱った経済的内容の抽象度が異なったため, 「認知枠組み」の面において,児童の経済的思考の複 雑度や難易度も異なってくると説明できる。なお,両 者の研究には共通に,児童が経済的事象を理解する際 に,「希少性」や「機会費用」などの経済(学)的概 念からなる概念的枠組みを如何に応用するかという課 題を十分に検討していないという研究的限界を指摘す ることができる。

Ⅲ.研究仮説

 これまでの先行研究の分析から,経済的な見方や考 え方を児童の日常経験と関連付けて考察することは多 かったが,結局のところ,経済的な見方や考え方は学 校教育によって形成されるのか,それとも日常経験に よって形成されるのか,また,児童が日常生活で経済 にかかわる意思決定や問題解決を行う際に,経済的な 見方や考え方は如何なる役割を果たすのかについて, 明確な結論はまだ導き出されていないことがわかった。 しかしその一方で,先行研究より,経済的な見方や考 え方の形成及び応用と日常経験の関係性を考察するに は,経済概念の理解を児童の日常生活の文脈から考察 し,また経済的事象を理解しようとする児童の思考過 程において,その経済諸概念が如何に応用されるのか を究明する必要があるという示唆を読み取ることもで きる。  ここで,本研究の研究仮説を,「経済に関わる日常 経験の蓄積によって,経済的事象に対する児童の理解 が深まり,具体的には,そこに内在する経済的因果関 係を理解し概念化する結果,経済的な見方や考え方が 形成される。こうした経済的因果関係を駆使すること で,日常の経済的事象に対する理解が上達していく」 という論理的関係として設定する。つまり,児童の経 済的思考は「a.日常経験→ b.経済的事象の理解 → c.経済的因果関係の概念化→ d.日常経験への応 用」という過程を辿って行われ,このうち,b と c は 日常経験(a)に基づく経済的な見方や考え方の形成 を意味し,d は経済的な見方や考え方の日常経験への 応用を指し,中間項としての b と c が媒介的な役割を 果たして,a と d の相関関係が築かれていくことにな る。こうした仮説に基づいて,本研究は質問紙調査に よってその正誤を検証する。

Ⅳ.経済的な見方や考え方と児童の日常経

験に関する調査

 経済的な見方や考え方に対するこれまでの定義が多 様であるため,それをすべて調査内容に反映させるこ とは困難である。本研究は,需給関係と価格に関する 児童の理解を中心的に据え,経済的な見方や考え方と 彼らの日常経験の関係性を明らかにする。その理由の 1 つは,前述したように,経済的な見方や考え方の基 底に経済学の「概念的枠組み」があるといっても,そ の根源に現実的に存在する「希少性」があるからであ る。したがって,「市場経済を理解するための中心と なる考え方は,需要と供給による価格の決定である」

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という考え方を,ここでは支持したい。14)もう 1 つの 理由は,平成 20 年版の学習指導要領で,「価格や費 用」が小学校社会科の教育内容として新たに追加され たからである。15)こうした学校教育改革の動きからも, 経済教育のカリキュラム構成において需給関係と価格 の総合的関係からなる市場メカニズムが重要であるこ とは自明である。 1.調査対象の選定  経済的内容に関する小学校社会科(生活科)のカリ キュラムの配列を考慮した上で,小学校第 2 〜 6 学年 の児童を調査対象にした。また,調査によるデータの 妥当性と信頼性を高めるために,東京都内にある T 小学校と茨城県つくば市の農村地域にある I 小学校, つまり経済発展の異なる地域にある 2 つの小学校を母 集団として選定した。生活環境の異なる児童たちが持 つ経済的な見方や考え方の共通性を導き出したいため である。 2.質問項目の設計  次の表 1 が示すように,質問項目は全部で 4 つの内 容,合計 17 問から構成される。問Ⅰから問Ⅳまでの 構造は,本研究の研究仮説に即して作られたものであ る。つまり,経済に関わる日常経験の蓄積(問Ⅰ)に よって,経済的事象に対する児童の理解(問Ⅱ)が深 まり,そこに内在する経済的因果関係(問Ⅲ)を理解 し概念化した結果,見方や考え方が獲得される。この ような経済的因果関係を駆使することで(問Ⅳ),日 常の経済的事象に対する理解が深化していくという論 理的関係を想定している。言い換えれば,質問項目の 配列は,経済的な見方や考え方を日常経験を通じて身 に付け,そしてそれを改めて日常経験に応用するとい う過程を表したものである。  質問紙調査では,経済に関する日常経験は生活環境 に内包されているため,買い物経験のみならず,児童 の日常の経済的状況の全体を考察することにした。問 Ⅰは児童の日常の経済的状況を考察する項目で,福田 (1994)を参考にしている。問Ⅱは実在する小売店と いう経済的事象に対する児童の理解を考察する項目で ある。具体的には,小売店の仕組みで中心となる,仕 入れ価格に店の利益を上乗せするメカニズムに対する 児童の理解に焦点を当てた。問Ⅲは経済的事象に内在 する需要・供給と価格の総合的関係に対する児童の理 解を考察する項目である。具体的には,児童にとって 身近な果物の値段を取り上げ,値段の形成と相違に対 し て,「 需 要・Demand」「 供 給・Supply」「 コ スト・ 表 1 質問項目    年   組     男・女    出席番号      問Ⅰ   日常生活における経済的状況 あなたのことについてお聞きします。次の 1 〜 6 の質問に答えてください。 1 あなたは一か月にお小遣いをどのくらいもらっていますか。下から一つだけを選んで○をつけてください。A.ない    B.ある,だいたい一か月に       円。 2 1 で B に ○をつけた人に聞きます。あなたはもらったお小遣いをどのように使っていますか。下から近いものを一つだけを選んで○をつけてください。      A.買い物する     B.ためる 3 家の近くに,あなたが知っている店はどのくらいありますか。下から一つだけを選んで○をつけてください。 A.ない   B.一ヶ所   C.数ヵ所(二から五ヵ所)   D.たくさん(五ヵ所以上)ある 4 あなたは家族と一緒に買い物に行きますか。下から一つだけ選んで○をつけてください。 A.よく行く   B.ときどき行く   C.ぜんぜん行かない 5 あなたは一人で買い物をしますか。下から一つだけ選んで○をつけてください。A.よくする   B.ときどきする   C.ぜんぜんしない 6 あなたが一人で買い物するとき,気にすることは何ですか。5 で C と答えた人も,一人で買い物をするとしたら,何を気 にするかを答えてください。下からあてはまるものに○をつけてください。(いくつ○をつけてもかまいません。) A 〜 D にあてはまるものがないときには,E を選んで,気にすることを書いてください。 A.もののよさ   B.ものの値段   C.店の人   D.買ったあと,お金がいくら残るかということ E.その他       A 〜 E の中で一番重要だと思うのは      。 問Ⅱ   経済的事象の理解 ミカン,リンゴ,メロン,スイカ,バナナなどを売っている果物屋さんがあります。次の 7 と 8 の質問に答えてください。 7 果物屋さんは農家からミカンを一個 80 円で買ってきました。このミカンを果物屋さんはいくらで売ると思いますか。下 から一つだけ選んで○をつけてください。 A.80 円より安い値段で売る   B.ちょうど 80 円で売る   C.80 円より高い値段で売る 8 果物屋ではたらく店員さんはどこから給料をもらっていると思いますか。下からもっともあてはまるものを一つだけ選 んで○をつけてください。  A.農家からもらっている   B.店長さんからもらっている   C.市役所からもらっている D.銀行からもらっている   E.果物を買ったお客さんからもらっている

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問Ⅲ 経済的因果関係の理解 ミカン,リンゴ,メロン,スイカ,バナナなどを売っている果物屋さんがあります。次の 9 〜 12 の質問に答えてください。 9 リンゴは一個 100 円,メロンは一個 980 円です。リンゴより,メロンの方が高いのは,なぜだと思いますか。下の A 〜 F のうち,あてはまるものに○をつけてください。(いくつ○をつけてもかまいません。) A.リンゴより,メロンの方が大きいから        B. リンゴより,メロンの方が高級だから C.リンゴより,メロンの方が育てにくいから      D. リンゴより,メロンの方が少ししか取れないから E.リンゴより,メロンの方がすきな人が多いから    F. リンゴより,メロンを高く売った方がお店はもうかるから A 〜 F の中で一番重要だと思うのは      。 10 メロンは一個 980 円,スイカは一個 800 円です。スイカより,メロンの方が高いのは,なぜだと思いますか。下の A 〜 F のうち,あてはまるものに○をつけてください。(いくつ○をつけてもかまいません。) A.スイカより,メロンの方が小さいから        B. スイカより,メロンの方が高級だから C.スイカより,メロンの方が育てにくいから      D. スイカより,メロンの方が少ししか取れないから E.スイカより,メロンの方がすきな人が多いから    F. スイカより,メロンを高く売った方がお店はもうかるから A 〜 F の中で一番重要だと思うのは      。 11 今年は,スイカは一個 800 円でしたが,去年同じスイカは 500 円でした。去年のスイカより,今年のスイカの方が高い のは,なぜだと思いますか。下の A 〜 D のうち,あてはまるものに○をつけてください。(いくつ○をつけてもかまいま せん。) A.去年より,今年のスイカの方が育てにくかったから B.去年より,今年のスイカの方が少ししか取れなかったから C.去年より,今年のスイカをすきな人が多いから D.去年より,今年のスイカを高く売った方がお店はもうかるから A 〜 D の中で一番重要だと思うのは      。 12 外国のフィリピンから輸入したバナナは 1 キロ 1500 円で,日本の沖縄でつくられたバナナは 1 キロ 2500 円です。フィ リピンのバナナより,日本のバナナの方が高いのは, なぜだと思いますか。下(した)の A 〜 G のうち,あてはまるもの に○をつけてください。(いくつ○をつけてもかまいません。) A.フィリピンのバナナより,日本のバナナの方が大きいから B.フィリピンのバナナより,日本のバナナの方が高級だから C.フィリピンのバナナより,日本のバナナの方が育てにくいから D.フィリピンのバナナより,日本のバナナの方が少ししか取れないから E.フィリピンのバナナより,日本のバナナの方がすきな人が多いから G.フィリピンのバナナより,日本のバナナを高く売った方がお店はもうかるから A 〜 G の中で一番重要だと思うのは      。 問Ⅳ   経済的因果関係の応用 この果物屋で売っているリンゴの値段がどのように変わるかについて聞きます。次の質問に答えてください。 13 お客さんがリンゴを買いたい量は変わらないが,今年は天気が良くて,リンゴがたくさん取れた。下からもっともあて はまるものを一つだけ選んで○をつけてください。 A.リンゴの値段は上がる    B.リンゴの値段は下がる    C.変わらない 14 お客さんがリンゴを買いたい量は変わらないが,今年は天気が悪くて,リンゴがあまり取れなかった。下からもっとも あてはまるものを一つだけ選んで○をつけてください。  A.リンゴの値段は上がる    B.リンゴの値段は下がる    C.変わらない 15 リンゴの取れた量は変わらないが,リンゴが体にいいと言われて,人気が高まった。下からもっともあてはまるものを 一つだけ選んで○をつけてください。  A.リンゴの値段は上がる    B.リンゴの値段は下がる    C.変わらない 16 リンゴの取れた量は変わらないが,お店の周辺で工事が行われ,みんなが買い物に行くことが難しくなった。下からも っともあてはまるものを一つだけ選んで○をつけてください。  A.リンゴの値段は上がる    B.リンゴの値段は下がる    C.変わらない 17 リンゴの取れた量とお客さんが買いたい量は変わらないが,お店のとなりに同じリンゴを売る店ができた。下からもっ ともあてはまるものを一つだけ選んで○をつけてください。  A.リンゴの値段は上がる    B.リンゴの値段は下がる    C.変わらない (ふりがなと下線を省略) Cost」「利益(売り手側) ・Profit」「使用価値・Use-val-ue」といったカテゴリーを設定し,カテゴリーごと に選択肢を作成した。また,「使用価値」については, 商品としての品物自体の属性を自然的な側面と社会的 な側面から捉え,自然的な属性(色・大きさなど)に よ っ て 生 じ た 価 値 を「 自 然 的 使 用 価 値・Natural Use-value」, 社 会 的 な 属 性( 高 級・ 安 全 な ど ) に よって生じた使用価値を「社会的使用価値・Social Use-value」と定義した。問Ⅳは,児童に需給関係と 価格に対する見方や考え方を応用させる項目である。 具体的には,需給量の増減と競争の影響によって,果 物の価格が如何に変動するかを推測させる質問内容を 作成した。  なお,質問紙調査を実施する前に,同じ質問内容を

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用いて,T 小学校の 2 〜 6 年児を対象に,小規模なイ ンタビュー調査を行った。その結果は拙論でまとめて いる。16)今回の質問項目は前回のインタビュー調査の 結果を踏まえて,それを改善したものである。 3.調査の実施  調査は,I 小学校と T 小学校の第 2 学年から第 6 学 年の各学年から 1 クラスを無作為抽出し,休み時間を 利用して,担任教員が質問紙を配布し,児童に回答さ せた。時間は 20 分であった。児童が回答している間, 担任教員は質問項目に対する児童の質問に対応した。 両校における総サンプル数は 290 で,学年と性別の状 況は以下の表 2 に示す通りである。 4.分析と結果  すべての問の分析を記述する紙幅がないため,本稿 では研究仮説の検証に主眼を置き,質問項目の構造に 応じて,必要な分析のみを取り上げることにする。児 童の回答から得られたデータを分析するにあたっては, 統計的な手法を用いて,日常経験(問Ⅰ)と経済的事 象に対する理解度(問Ⅱ)の相関関係,日常経験(問 Ⅰ)と経済的因果関係に対する理解度(問Ⅲ)の相関 関係及び両者の相関関係における経済的事象(問Ⅱ) の理解度による影響,日常経験(問Ⅰ)と経済的因果 関係の応用度(問Ⅳ)の相関関係及び両者の相関関係 における経済的事象(問Ⅱ)と経済的因果関係(問 Ⅲ)に対する理解度からの影響という順序で,分析を 進める。  分析にあたって,IBMSPSSStatis-tics22 を用いて集計作業を行った。 素データの状況は表 3 に示す通りであ る。問 6 と問 9 〜 12 は複数選択式であ るため,選択肢ごとに集計した。さ らに,問 9 〜 12 の各問の選択肢は, 同一のカテゴリー,つまり「需要・ Demand」「供給・Supply」「コスト・ Cost」「利益(売り手側)・Profit」「使 用価値・Use-value」に即して作成し たため,問 9 〜 12 の 4 つの問の回答を 選択肢ごとに合計してまとめた。な お,データを入力する際に,問 3 〜 6 の数値を順序尺度に,問 7 〜 17 の数 値を間隔尺度に,その他の問の数値 を名義尺度に設定した。 (1)I 校と T 校の差  分析を始める前に,サンプル校である I 校と T 校の 差について言及しておきたい。両校の児童による回答 すべてをクロス比較した結果,以下の表 4 に示す有意 差が得られた。問 1 〜 6 は各回答の比率の差にχ2検定, 問 7 〜 17 は得点の平均値の差に t 検定を行った結果で ある。こうした結果から,両校の児童には「日常生活 における経済的状況」「経済的事象への理解度」「経済 的因果関係の応用」に関する項目について,有意の差 が存在することがわかる。「経済的因果関係の理解」 に関わる項目(問 9 〜 12)は,各選択肢において有意 差が存在したり,しなかったりするため,有意差を見 出せないことにした。これによって,これから本調査 の分析によって導き出される結果には,サンプルの個 人差をより平均化した一般的なデータに基づいたもの であるという理由から,統計的に妥当性が確保され, 信頼できるという性格が付与されることになる。 (2)問Ⅰと問Ⅱの総合的分析  問Ⅰ(日常生活における経済的状況)と問Ⅱ(経済 表 3 データの度数分布表 表 2 調査対象の人数と性別 2 年 3 年 4 年 5 年 6 年 合計 男 児 女児 男児 女児 男児 女児 男児 女児 男児 女児 I校 14 6 10 6 9 13 10 14 10 7 99 T校 19 20 18 18 18 20 20 19 19 20 191 合計 33 26 28 24 27 33 30 33 29 27 290

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的事象の理解)の相関関係を分析するに先立ち,まず 経済的事象に対する児童の理解度を各問の正答率から 明らかにしてみたい。具体的に,問 7 と問 8 の回答を 正答(1 点)と誤答(0 点)で採点し集計した。その 結果として,小学校第 2 〜 6 学年児童の得点状況は以 下の図 1 のようになった。図 1 から,学年の上昇にと もなって,問 7 の正答率が全体的に上がる一方で,問 8 の正答率は 5 年生までに下がる傾向にあるが,そこ から上がっていくことがわかる。しかし,有意差(χ2 (4)= 16.79,N = 290,p < .05)が見出せたのは問 7 の 回答だけである。また問間の差から見れば,「店員の 給料の由来」と比べて,各学年の児童は「店の利益の 由来」の方により高い理解度を持つことがわかる。  次に,児童の経済的事象に対する理解度と日常経験 の関係性を検証するために,問Ⅱ(問 7 と問 8)の得 点と問Ⅰ(問 1 〜 6)の回答データのクロス集計を 行った。ここで各項目の関係性の強弱を確認するため に,χ2検定と同時に Cramer’sV の値も算出した。そ の結果をまとめたものが表 5 である。  表 5 から,経済的事象に対する理解度,つまり問 7 の結果に統計的に影響を与える日常経験は,児童の 「意識している店の数」「一人での買い物の頻度」「買 い物する際に,商品の品質への考慮」「商品を購入し た後の残金額」であることがわかる。その中により強 く影響を及ぼすのは「意識している店の数」「買い物 する際に,商品の品質への考慮」であり,比較的に弱 くなるが,「一人での買い物の頻度」「商品を購入した 後の残金額」もそれなりの影響を及ぼしている。また, 問 7 と比べて,問 8 の回答における問 1 〜 6 の回答に よる影響が見出せなかった。このことから,買い物経 験の増加によって,児童は店で働く人の給料の由来ま で十分に意識していないが,それと密接する店の利益 の由来をより深く理解することができると言える。こ れによって,児童の買い物経験の量的蓄積が経済的事 象の理解の深まりを裏付けることが推測される。 表 5 問Ⅰと問Ⅱによる回答の相関関係(χ2と Cramer’s V) 問番 問 1 問 2 問 3 問 4 問 5 問 6a 問 6b 問 6c 問 6d 小遣の 有無 小遣の志向 意識して いる 店の数 家族との 買い物の 頻度 一人での 買い物の 頻度 良さ 値段 店員 残額 問 7 利益の店の 由来 χ2 0.77 3.13 53.45** 3.28 8.57* 37.01** 3.16 0.24 7.59* Cramer’s V 0.05 0.13 0.43** 0.11 0.17* 0.36** 0.10 0.03 0.17* df 1 2 3 2 2 1 1 1 1 問 8 店員の給料の 由来 χ2 0.17 0.05 5.18 1.22 1.26 0.27 1.03 0.68 0.3 Cramer’s V 0.02 0.01 0.13 0.07 0.07 0.03 0.06 0.05 0.03 df 1 1 3 2 2 1 1 1 1 * なし= n.s.,* =p < .05,** =p < .01 表 4  I 校と T 校の児童による回答の有意差 問 問 2 問 3 問 5 問 7 問 13 問 14 問 15 問 16 問 17 小遣の志 向 意識して いる店の 数 一人での 買い物の 頻度 店の利益 の由来 供給増 供給減 需要増 需要減 競争 χ2 5.94 107.6 21.50 t -11.79 -4.51 -3.42 -3.96 -3 -4.86 df 1 3 2 df 288 288 288 288 288 288 n 290 290 290 確率 p < .05 p < .01 p < .01 確率 p < .01 p < .01 p < .05 p < .01 p < .05 p < .01 図 1 学年ごとの問 7 と問 8 の正答率

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(3)問Ⅰ〜問Ⅲの総合的分析  問Ⅲ(問 9 〜 12)は,「需要・Demand」「供給・ Supply」「コスト・Cost」「利益(売り手側)・Profit」 「使用価値・Use-value」といった要因と価格の間に 存在する因果関係に対する児童の理解を考察するもの である。ここでは「供給・Supply」と「需要・De-mand」という市場経済に関わる中心的な見方や考え 方に対する児童の理解に絞って,その理解度と日常経 験の関係性を分析する。  具体的には,まず,需要・供給そして価格の三者の 総合的関係に対する児童の理解度は,彼らが実際に商 品の価格の違いを理解するにあたって,需要や供給の 影響に依拠しているかどうかに関係する。したがって, 需要と供給の要因にあたる選択肢を選択した頻度を提 示することで,児童の経済的因果関係に対する理解度 を表すことができる。その結果は,図 2 に示す通りで ある。なお,「s」と「d」は「Supply」と「Demand」 の略称で,「供給」と「需要」を意味する。  図 2 によれば,学年が上昇するにつれて,「需要」 要因の出現頻度は増加する傾向にあるが(χ2(16)= 45.34,N = 290,p < .01),「供給」要因は減少する傾 向にある(χ2(16)= 35.86,N = 290,p < .05)。両 者の方向性が逆ではあるが,ともに有意な学年差を示 している。またカテゴリー間の比較から見れば,価格 の相違をもたらす要因として,児童は大幅に「供給」 による影響に偏っており,まだ「需要」側からの影響 を十分に理解していないことが言える。  次に,問Ⅲにおける需要・供給と価格の総合的関係 に対する児童の理解度を,彼らの日常生活における経 済的状況(問Ⅰ)とクロス集計した結果,経済的因果 関係の理解度と日常経験の蓄積の両者は有意の相関関 係を持つことがわかった。具体的には,まず各児童が 問9〜12の解答における「供給・s」と「需要・d」を 選択した回数を合計し,そこから,彼らの問 1 〜 6 の 回答とクロス集計を行い,関係性の程度を表す Cra-mer’sV の値を算出した。その詳細は,表 6 に示す通 りである。  表 6 からわかるように,「供給」要因の価格に果た す役割に対する児童の理解度には,彼らの日常生活に おける「意識している店の数」,そして一人で買い物 する際に,商品の「良さ」と「値段」に目を向けるこ とが同じ程度で影響を及ぼしている。一方,「需要」 が価格に果たす役割に対する理解度の場合,それに影 響を及ぼす要因は「意識している店の数」と商品の 「良さ」だけになる。そして,商品の「良さ」からの 影響はより強いことがわかる。このことから,経済的 事象の理解と同様に,経済的因果関係の理解も買い物 経験の量的蓄積によって裏付けられることが推測され る。  ここでは,さらに研究仮説で想定したように,日常 経験(問Ⅰ)と経済的因果関係の理解(問Ⅲ)の直接 的な関係性だけではなく,両者の中間にあたる経済的 事象の理解(問Ⅱ)に関する媒介効果についても,多 重クロス比較から分析してみたい。具体的には,問Ⅱ 図 2 学年ごとの需要と供給の出現頻度 表 6 問Ⅰと問Ⅲによる回答の相関関係(χ2と Cramer’s V) 問番 問 1 問 2 問 3 問 4 問 5 問 6a 問 6b 問 6c 問 6d 小遣の 有無 小遣の志向 意識して いる 店の数 家族との 買い物の 頻度 一人での 買い物の 頻度 良さ 値段 店員 残額 問 9 〜 12 s χ2 6.15 3.12 46.32** 5.11 14.45 18.93** 16.14** 4.16 9.28 Cramer’s V 0.15 0.14 0.23** 0.09 0.16 0.26** 0.24** 0.12 0.18 df 5 4 12 8 8 4 4 4 4 問 9 〜 12 d χ2 4.04 4.56 30.06** 10.87 8.95 19.81** 3.16 7.66 5.74 Cramer’s V 0.12 0.17 0.19** 0.14 0.13 0.26** 0.10 0.16 0.14 df 4 4 12 8 8 4 4 4 4 問 6a =問 6 の選択肢 a,* なし= n.s.,* =p < .05,** =p < .01

(9)

(問7〜8の合計得点)の回答データを統制変数として, 問Ⅰ(問 1 〜 6)と問Ⅲ(問 9 〜 12s と問 9 〜 12d)に よるデータとのクロス集計を行い,Cramer’sV の値 を算出した。その結果を表 7 に示した。なお,表 7 で は,有意である結果のみを提示している。表 7 の上部 の欄で上下に並んでいる,例えば「問 9 〜 12s」と 「問 3 意識している店の数」は,有意な相関関係を持 つ問のペアとその内容である。また,下部の欄で上下 に並んでいる「問 7」と「問 8」は,媒介効果を果た す中間項目の問である。  表 7 から,児童の日常経験の蓄積と経済的因果関係 の理解度の間に存在する相関関係に対して,彼らの経 済的事象の理解度が媒介的な役割を果たすことがわか る。具体的には,「供給→価格」という因果関係に対 する理解と日常経験の相関関係では,児童の経済的事 象に対する理解度が相関関係を持つすべての項目にお いて同じ程度の媒介効果を及ぼした。一方,「需要→ 価格」に対する理解と日常経験の相関関係の場合, 「意識している店の数」と買い物する際の商品の「良 さ」に対する考慮が,「需要→価格」への理解度と相 関関係を持つケースだけにおいて,経済的事象の理解 が媒介効果を与えていたことがわかる。 (4)問Ⅰ〜問Ⅳの総合的分析  問Ⅳ(問 13 〜 17)の各項目における正答を 1 点と して,児童の経済的因果関係の応用度を集計した。問 Ⅳの各問の正答は「13b,14a,15a,16b,17b」であ る。その正答率は,図 3 に示す通りである。  図 3 からわかるように,学年の上昇に伴って,問 14 と問 15 の正答率は一方的に高まっていく傾向にある が,他の 4 つの問の正答率は上下の変動はありながら も,全体的に高まっていく傾向にある。なお,問 17 を除いた 4 つの問においては,有意な学年差が見られ ている。  次に,児童の問Ⅳ(問 13 〜 17)における総得点を 問Ⅰ(問 1 〜 6)による日常経験の状況とクロス比較 した結果,児童の経済的因果関係の応用度と彼らの日 常経験の蓄積の相関関係が明らかになった。その結果 を,表 8 にまとめている。表 8 の集計結果から,日常 経験において,児童の「意識している店の数」と「家 族との買い物の頻度」,そして一人で買い物する際の 表 7 問Ⅰと問Ⅲの相関関係における問Ⅱの媒介効果(χ2と Cramer’s V) 問番 問 9 〜 12 s 問 9 〜 12 d 問 3 問 6 a 問 6 b 問 3 問 6 a 意識している店の数 良さ 値段 意識している店の数 良さ 問 7 〜 8 χ2 46.38** 18.93** 16.14** 30.06* 19.81** Cramer’s V 0.23** 0.26** 0.24** 0.19* 0.26** df 12 4 4 12 4 問 6a =問 6 の選択肢 a,* =p < .05,** =p < .01 表 8 問Ⅰと問Ⅳによる回答の相関関係(χ2と Cramer’s V) 問番 問 1 問 2 問 3 問 4 問 5 問 6a 問 6b 問 6c 問 6d 小遣の 有無 小遣の志向 意識して いる 店の数 家族との 買い物の 頻度 一人での 買い物の 頻度 良さ 値段 店員 残額 問 13 〜 17 χ2 6.32 3.62 55.08** 18.88* 11.20 28.28** 3.23 1.81 13.65* Cramer’s V 0.15 0.15 0.25** 0.18* 0.14 0.31** 0.11 0.08 0.22* df 5 5 15 10 10 5 5 5 5 問 6a =問 6 の選択肢 a,* なし= n.s.,* =p < .05,** =p < .01 図 3 学年ごとの問 13 〜 17 の正答率

(10)

商品の「良さ」と商品を購入した後のお金の「残額」 に対する考慮が,経済的因果関係を応用できる程度に 影響を及ぼすことがわかった。その中に,一番強い影 響を及ぼすのは商品の「良さ」で,次にお金の「残 額」と「意識している店の数」そして「家族との買い 物の頻度」がほぼ同じ程度でより弱い影響を及ぼして いる。  ここで問Ⅰと問Ⅲの分析と同じように,経済的因果 関係の応用度(問Ⅳ)と日常経験(問Ⅰ)の直接関係 だけではなく,その中間にあたる経済的事象の理解 (問Ⅱ)と経済的因果関係の理解(問Ⅲ)による媒介 効果の有無に関する検証を行った。具体的には,問Ⅱ (問 7 と問 8)による合計得点と,問Ⅲ(問 9 〜 12)の 「供給・Supply」と「需要・Demand」にあたる選択 肢の回答データを統制変数として設定した上で,問Ⅰ と問Ⅳにおける有意関係性を持つ項目の多重クロス集 計を行い,Cramer’sV の値を算出した。その結果は, 以下の表 9 にまとめた通りである。なお,表 9 は有意 の関係性が見られた問のペアのみを提示している。そ の見方は前掲の表 7 と同じである。  表 9 からわかるように,経済的因果関係の応用度と 日常経験における有意の関係性を持つ対応項目に対し て,中間項目にあたる経済的事象と経済的因果関係へ の理解度が媒介的な役割を果たしている。しかし,そ れは日常経験と経済的因果関係の応用度の相関関係の すべてではなく,児童の「意識している店の数」と 「家族との買い物の頻度」,そして買い物する際の商品 の「良さ」とお金の「残額」に対する考慮と,経済的 因果関係の応用度との相関関係のみに対して,経済的 事象及び需給・価格の関係への理解が媒介効果を果た したのである。その媒介効果の強さは,「商品の良さ, 意識している店の数,商品を買った後の残金額,家族 との買い物の頻度」という順番で弱まっていく。

Ⅴ.経済的な見方や考え方と日常経験の関

係性

 質問紙調査による結果の分析を踏まえて,児童の経 済的な見方や考え方の形成及び応用と日常経験の関係 についてまとめてみたい。  問Ⅰによる回答データを問Ⅱ,問Ⅲそして問Ⅳの回 答データとクロス比較を行った結果,日常経験におい ては,少なくとも児童の「意識している店の数」と 「家族との買い物の頻度」,そして買い物する際に,商 品の「良さ」と商品を買った後のお金の「残額」に目 を向けることが,経済的事象と経済的因果関係の理解 及び応用に直接的な影響を及ぼすことがわかった。ま た,こうした直接的な影響の他に,日常経験の蓄積が 経済的事象に対する理解度を高めることで,経済的因 果関係に対する理解度も高められ,さらに経済的因果 関係の理解度を高めることで,その応用度も高められ ていくという間接的な影響が存在することも明らかに なった。この場合,「日常経験」の蓄積と「経済的事 象の理解」「経済的因果関係の理解」の深化,そして 「経済的因果関係の応用」の間には,お互いの媒介効 果で順次に高まっていき,逓増する傾向にあるという 関係性が統計的に成立することになる。  冒頭で先行研究を分析した際に触れたように,経済 的な見方や考え方の基底に「概念的枠組み」と「認知 枠組み」が存在するとみなすならば,これまでの本研 究の分析結果から,経済的な見方や考え方の形成と応 用には,日常経験が強く関与することは明らかである。 両者の相関関係は,まさに本研究の研究仮説で述べた ように,「経済に関わる日常経験の蓄積によって,経 済的事象に対する児童の理解が深まり,具体的には, そこに内在する経済的因果関係を理解し概念化する結 果,経済的な見方や考え方が形成される。こうした経 済的因果関係を駆使することで,日常の経済的事象に 対する理解が上達していく」ことである。さらに,学 年の上昇にともなって,こうした経済的な見方や考え 方を獲得し応用していく思考過程は,複雑さを増し, 学習者はより高レベルの経済理解にまで辿り着くこと が予想される。 表 9 問Ⅰと問Ⅳの相関関係における問Ⅱと問Ⅲの媒介効果(χ2と Cramer’s V) 問番 問 13 〜 17 問 13 〜 17 問 13 〜 17 問 13 〜 17 問 3 問 4 問 6 a 問 6 d 意識している店の数 家族との買い物の頻度 良さ 残額 問 7 〜 8 χ2 55.08** 18.88* 28.28** 13.65* 問 9 〜 12 s Cramer’s V 0.25** 0.18* 0.31** 0.22* 問 9 〜 12 d df 15 10 5 5 問 6a =問 6 の選択肢 a,* なし= n.s.,* =p < .05,** =p < .01

(11)

Ⅵ.終わりに

 本研究は小学校児童に対する質問紙調査を通して, 経済的な見方や考え方の形成及び応用と日常経験の相 関関係をまとめた。しかし,質問紙調査による研究の 性格から言えば,この相関関係はあくまでも統計上に 見られたものであり,現実のレベルにおいて成立する かどうかは他の実験調査によって検証する必要がある と言える。さらに,日常経験と経済的な見方や考え方 の内実との関係性,つまり日常経験によって形成され た経済的な見方や考え方には果たして科学性がどのく らい含まれるかということも避けて通れない課題であ る。  また,質問項目間の関係性を検証する際に,本研究 は主にχ2検定を用いて,Cramer の関連係数も算出し たが,より明確且つ的確に質問項目間に内在する因果 関係を明らかにするために,これから構造方程式のモ デルを作成し研究仮説をさらに検証することを課題と して取り組んでいきたい。  以上の研究手法の他に,紙幅の関係で,質問紙調査 の各問に対する分析結果をすべて提示することはでき なかった。そのため,児童の日常生活における経済的 状況,経済的事象に対する理解度,そして経済的因果 関係に対する理解度及び応用度における地域差や男女 差や学年差を見せることができなかった。さらに児童 の経済理解の内実と特徴を,具体的なデータに基づい て詳細に説明することもできなかった。  今後の研究では,以上の諸課題を踏まえながら,本 研究で明らかにした経済的な見方や考え方と学習者の 日常経験の相関関係を経済教育の現場へと還元するた めに,実践的・実証的な研究を進めていきたい。 註 1) 加納正雄「「生きる力」を育む経済教育のあり方について ─大学以前の経済教育との関連で─」『経済教育』第 31 号,2012 年,4-9 頁。 2) 同上。 3) 栗原久「「経済的な見方や考え方」についての一考察」 『筑波社会科研究』第 12 号,1993 年,49-56 頁。 4) 山根栄次「経済教育の人間像を巡る基本問題」『三重大学 教育学部研究紀要・教育科学』第 43 巻,1992 年,1-13 頁。 山根によれば,「経済学者」とは,「世の中で行われてい る経済活動や経済現象を理論的・客観的に説明するため の概念や理論を構成したり,逆に,経済学の概念や理論 を用いて現実の経済現象や経済問題を分析したり,また, 現実の経済問題を解決するための理論的な方法を考案し, それを実際に経済活動をしている人々や経済政策を担当 している政府に提示することを職務としている人々のこ とである」,それに対して,「経済生活者」とは,「ものや サービスの消費のための選択をしたり,所得を得るため の何等かの生産活動に従事したり,資産を運用する等の 実際的な経済活動に参加する人間であり,同時に,それ らの経済活動を合理的に,特に経済合理的に遂行しよう とする人間である」。 5) 猪瀬武則「経済的見方考え方の基底」『弘前大学教育学部 紀要』第 87 号,2002 年,75-82 頁。 6) Strauss,A.L.TheDevelopmentandTransformationof MonetaryMeaningsintheChild.American Sociological Review. 17,3,1952,pp.275-286.

7) Berti,A.E.,&Bombi,A.S.The Child’s Construction of Economics.InGreatBritainattheCambridgeUniversity Press,1988,pp.186-215.

8) Bombi,A.S.TheRepresentationsofWealthandPoverty: IndividualandSocialFactors.InMerrynHutchings,Mar-taFulop,&Anne-MarieVandenDries.Young People’s Understanding of Economic Issues in Europe.Trentham Books,2002,pp.105-127.

9) Furnham,A.YoungPeople,SocialisationandMoney.In MerrynHutchings,MartaFulop,&Anne-MarieVanden Dries.Young People’s Understanding of Economic Issues in Europe.TrenthamBooks,2002,pp.31-55. 10) 福田正弘「小学校低学年児童の社会概念発達(2)─小学 校低学年児童の経済概念発達調査─」『長崎大学教育学部 教科教育学研究報告』第 21 号,1993 年,1-19 頁。 11) 同上。 12) 福田正弘「小学校低学年児童の社会概念発達(3)─子ど もの買い物経験と経済概念発達─」『長崎大学教育学部教 科教育学研究報告』第 22 号,1994 年,17-30 頁。 13) 加藤寿朗『子どもの社会認識の発達と形成に関する実証 的研究―経済認識の変容を手がかりとして―』風間書房, 2007 年,119-157 頁。 14) 前掲 1。 15) 文部科学省『小学校学習指導要領解説・社会編』2008 年, 65 頁。 16) 呂光暁「経済理解における素朴理論の科学性と非科学性 に関する理論的・実証的研究」筑波大学大学院人間総合 科学研究科学校教育学専攻『学校教育学研究紀要』第 7 号,2014 年,83-103 頁。

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