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10代妊婦に関する研究内容の分析と今後の課題

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日本助産学会誌 J. Jpn. Acad. Midwif., Vol. 20, No. 2, 50-63, 2006

資  料

10代妊婦に関する研究内容の分析と今後の課題

─1990年から2005年の国内文献の調査から─

Analysis of the research regarding pregnant

teenagers and its future challenge

─The research based on the domestic bibliographies from 1990 to 2005─

小 川 久貴子(Kukiko OGAWA)

*1

安 達 久美子(Kumiko ADACHI)

*2

恵美須 文 枝(Fumie EMISU)

*2

抄  録

目 的

 本研究では,1990年から2005年の10代妊婦に関する国内文献の内容を分析し,今後の課題を明らか

にすることである。

対象と方法

 「医中誌WEB:」及び,

「最新看護検索」を用い,キーワードを,

『未成年者妊娠,若年初産婦,10代妊娠,

思春期妊娠』として検索し,得られた106件の文献内容を分析し,それを分類して検討した。

結 果

 文献内容を分析した結果,10代妊婦の背景や妊娠から育児に関する実態と今後の課題の合計5項目が

明らかになった。その中で,既存文献では,10代妊婦の実態やケア実践への提言は比較的多くなされて

いるが,ケアの効果を実証する研究や10代の年齢による特性の違いを論じる研究は少ないことが明ら

かになった。さらに,10代女性にとっての妊娠の受容過程や,10代で妊娠することや子育てを経験する

ことが,その社会のなかでその人にどのような意味をもち,健康面にどのように影響するかという心理・

社会的状況についても十分には明らかになっていないことが判明した。

結 論

 今後の10代妊婦の研究では,実践のエビデンスを提供する質の高い研究を目指して,対象者の特性

をより明らかにする主観的体験を探求する研究などが重要である。

キーワード:10代妊娠,思春期妊娠,未成年者妊娠,若年初産婦,文献研究

*1東京女子医科大学看護学部(Tokyo Women s Medical University School of Nursing)

*2首都大学東京健康福祉学部(Tokyo Metoroporitan University Faculty of Health Science)

(2)

Abstract

Purpose

In this research, it was intended to analyze the domestic bibliographies from 1990 to 2005 regarding pregnant

teenagers and to point out future challenge.

Methodology

“Japana Centra Revuo Madicina (Ichushi Web)” and “Current Index to Japanese Nursing Literature

(Saishin-Kango Sakuin)” were used. The key words used for this search were "underage pregnancy, young primipara,

teen-age pregnancy and adolescence pregnancy”. As the result, 106 bibliographies were found and were analyzed, and

were reviewed by categorizing the data.

Results

Based on the analysis of the bibliographies, the content was categorized into 4 items regarding the background

of pregnant teenagers, pregnancy and child rearing, and future challenge was added as 5th categories. In the

ex-isting bibliographies, there were relatively many proposals about the status of pregnant teenagers and the effect

of care and support, but not much research were available demonstrating and discussing about the care and the

characteristic difference by various age categories. Furthermore, it did not clarify psychological and sociological

impacts about getting acceptance of teenage pregnancies and about its experience of raising children. And about

what this meant and how this would influence to their health of those pregnant teenagers.

Conclusion

It is important to pursue high quality research in future teenage pregnancy. And also it is important to study

subjects’ experience while paying attention to subjects’ characters.

Key words : Teenage pregnancy, adolescent pregnancy, underage pregnancy, young primipara, and bibliography

research

Ⅰ.緒   言

 本邦における10代母親からの出生数(大臣官房統

計情報部人口動態・保健統計課, 2004)は,2003年に

は19,581人,2004年に18,591人に若干減少したものの,

2004年は1996年の15,621人に比べ約3,000人の増加が

見られている。また,

「10代女性の妊娠した場合の出

産に至る率:10代女性の人工妊娠中絶数+自然死産数

+出生数を,10代母親の出生数で除したもの」を算出

すると,2002年は31.9%,2003年は32.3%,2004年は

34.5

%となり,年々,微増の傾向にある(安達, 2006)。

すなわち,10代母親の出生数は2003年から減少はして

いるものの,出産に至る母親の割合は増加している現

状にある。このような現象は,同時期の合計特殊出生

率が1.75(1980)から1.29(2004)へと低下の一途をた

どり,少子化が加速する中においては注目すべきこと

である。

 わが国の10代妊娠に関する従来の取り組みは,

「望

まない妊娠等を防止に関する研究」

(厚生省心身障害

研究報告, 1995)や「生涯を通じた女性の健康づくりに

関する研究」

(厚生省心身障害研究報告, 1997)の中で,

人工妊娠中絶の問題や妊娠予防の観点から性教育や

家族計画に力点を置いた検討が多かった。しかし,近

年,10代で妊娠して出産する人が増加した背景を受け,

「10代で出産した母親の子育てと子育て支援に関する

調査」

(東京都社会福祉協議会, 2003)や「出産を可能

にする環境整備に関する研究」

(厚生労働省研究費補

助金報告書, 2005)などの取り組みが開始され始めた。

本邦においても,10代女性の出産や育児を前向きにと

らえるための研究が,ようやく国や都道府県レベルで

行なわれてきている。

 米国では約30年前から10代妊娠の増加が社会的問

題になり,学校教育や地域の民間団体を基盤にした各

種のプログラムが開始され,最近では,RCTデザイン

を用いた介入研究やプログラム評価が多数行われてい

る(DiCenso A., 2002/Robin L., 2004)。また,10代で出

産した母親の肯定的側面に視点を置いた論文(Rosetta

et, 2002)や,10代妊婦が困難を克服しながらも前向き

に生きる側面に着目し,地域や学校での産前・産後ケ

ア実践や,その効果についての論文(Kathleen, 2001)

が報告されている。

 今後,わが国の10代妊婦へのケアを充実させてい

くためには,現在までの研究で明らかにされている実

態や課題の具体的内容を整理し,研究的に取り組むべ

き課題を明らかにしてゆくことが必要である。そこ

で,本研究では,国内の10代妊婦に関する医学・看

護学領域の文献を中心に,社会・心理学的文献を加え

て,その実態と課題を把握すると共に,看護実践を充

(3)

実させていくための今後の研究課題を明らかにするこ

とを目的とする。

Ⅱ.研 究 方 法

1.調査対象

 分析対象とした文献は,10代妊婦に関する医学・看

護学領域の文献,及び社会・心理学の文献である。ま

た,本研究での10代妊婦とは,妊娠を継続し,分娩

から育児に至る過程をたどる対象とし,

「性教育」,

「人

工妊娠中絶」が表題となっている文献は除外した。ま

た,本研究では,対象文献を原著論文に限定せず,総

説・報告(臨床/事例)・概説などを含むこととし,会

議録は除いた。

 文献検索には,医学・看護領域の文献が多数収集さ

れている医学中央雑誌刊行会「医中誌WEB:」

(1990

年1月∼2006年3月)及び,看護関連の文献を網羅し

ていると考えられる日本看護協会刊行「最新看護検索」

(1990年∼2005年)を用い,検索キーワードは,

『未成

年者妊娠,若年初産婦,10代妊娠,思春期妊娠』の4

つとした。また,以上の検索で抽出した文献の全てに

ついて,引用文献に用いられている社会学及び心理学

関係の主要文献を加え,1990年∼2005年の16年間に

おける文献を分析した。

2.調査方法

1 )用語の定義

 本研究における「10代妊娠/妊婦」及び「若年妊娠/

妊婦」とは,

「20歳未満の妊娠・出産」及びその対象者

とする。

 また,文献の種類については,掲載誌の種別を参考

にしながら,次のように設定した。

「研究」とは,研究

目的,研究方法,結果等の結論までが系統的論理的

に記述されているものとし,

「総説」とは,研究や調査

に関する論文の総括や解説とする。また,

「報告」とは,

臨床における10代妊婦に関する実態を概観した「臨床

報告」と看護実践を記述した「事例報告」,文献調査を

含むものとし,

「概説」とは,特集記事のように10代妊

婦に関する私見や提言などを記述したものとする。

2 )文献の整理方法

 収集した文献を,研究者らの視点で以下のように分

類した。

(1)分類Ⅰ:質問紙調査・臨床統計調査・面接調査

による研究

 上述の定義による「研究」論文と,全国調査報告で

ある「わが国における思春期妊娠調査報告」

(以下,思

春期妊娠調査)を「分類。」とした。思春期妊娠調査以

外のこの分類に含む文献は,掲載誌では「原著論文」

あるいは「研究」として掲載され,質問紙調査,臨床

統計調査,面接調査などに基づく質の高い研究で,10

代妊婦の妊娠・分娩・育児を取巻く実態と課題を明ら

かにしているものとした。

(2)分類Ⅱ:総説・報告・概説

 「分類Ⅰ」の文献以外は,すべて「分類Ⅱ」とした。

これらの文献は,総説,報告,概説であり,少数サン

プルからの10代妊婦の妊娠・分娩・育児の実態及び,

ケア実践上の具体策などに対する私見や提言が含まれ

ている。

3 )分析方法

 まず,分類Ⅰの文献を丹念に読み,10代妊婦の心身

の状態,生活状況,及びケア・支援の内容に関する記

述を吟味し,それに基づいて類似のものをグルーピン

グした。その結果,

「10代妊婦の背景に関する事項」

「妊

娠期に関する事項」

「分娩期に関する事項」

「産褥期・

育児に関する事項」

「10代妊婦のケア・支援等に関す

る私見・提言」の5項目に分類された。

 次に,分類Ⅱに含まれる「報告」の内容は,対象の

心理・社会的状況が克明に得られるデータであるため,

上記の5項目の記述事項に追加した。その他の文献内

容は「10代妊婦ケア・支援等に関する私見・提言」の

項目に整理した。

 これらの5項目を,さらに『10代妊婦の実態』と『10

代妊婦に関する課題』の2つのテーマに大別した。な

お,

『10代妊婦の実態』には各調査から得られた記述を

そのままデータとして用い,

『10代妊婦に関する課題』

は,私見や提言の内容を概括して用いた。また,記述

内容をグルーピング化する際には,できるだけ関連が

深いと思われる1つの項目に区分するように努め,こ

れらの過程は,研究者3名で検討しながら実施した。

Ⅲ.結   果

1.対象文献の概要

 前述のキーワードによる総検索数は174件であった

が,その中から,研究表題が「性教育」

「人工妊娠中絶」

に関する文献や,本調査対象の文献の種類に該当しな

(4)

い文献を削除し,93件を得た。さらに,2004年∼2005

年までの文献および社会学・心理学の文献13件を加

えて,対象文献数は106件となった。

 分類Ⅰに該当する文献29件の内,質問紙調査や対

象数の多い臨床統計調査,および質的研究として論

理的に展開されている主な文献19件を表1に記載した。

また,分類Ⅱに該当する文献77件の内,新しい知見

などを提示する主な文献15件を表2に記載したが,分

類Ⅱの全体では総説が多くを占めていた。殆どの文献

は,研究者らの先行研究(2005)のように周産期に焦

表1 「分類Ⅰ:質問紙調査・臨床統計調査・面接調査による研究」の主な文献─1990年〜2005年─

表     題 種類 対   象   者 研  究  方  法 (発表年)著者名 小児・思春期問題委員会報告 (わが国における思春期妊娠第3 回調査報告) 報告 ・1988年9月∼1989年8月,全国十代妊娠者1, 988名(人工中絶者含む)(12歳1名,13歳 3名,14歳5名,15歳37名,16歳173名,17 歳320名,18歳578名,19歳871名) ・質問紙調査(全国調査。日本産科婦人科学会小 児・思春期問題委員会が過去2回実施した質問 紙内容に準ずる):医学的・対象属性を調査 玉田太朗 他(1990) 若年妊産婦の背景と看護について 研究 ・1981年10月∼1988年6月,某施設で分娩した17歳未満の17名(13歳1名,14歳2名, 15歳3名,16歳11名) ・臨床統計調査(大阪府の医療機関1箇所の臨床記 録を調査) 押谷文子他(1990) 十代分娩の実態について 日本産科婦人科学会小児・思春期 問題委員会報告 報告 ・1988年9月 ∼1989年8月, 全 国 十 代 分 娩 者631名(14∼16歳30名,17∼18歳252名, 19歳303名,20歳32名,年齢不明14名) ・質問紙調査(全国調査。日本産科婦人科学会小 児・思春期問題委員会が過去2回実施した質問 紙内容に準ずる):医学的・対象属性を調査 佐藤恒治 他(1991) 高齢出産と若年出産についての推 移と分娩様式の変遷 研究 ・1970年∼1990年,某病院における全分娩 者の若年出産と高齢出産の比較で,人数 は不明 ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録を調査)藤井千栄他(1992) 過去10年間の十代分娩の実態と 臨床的考察 研究 ・1981年1月∼1990年12月, 2施設での十代 分娩者69名(14歳1名,16歳2名,17歳8名, 18歳25名,19歳32名) ・臨床統計調査(京都府の医療機関2箇所の臨床記 録を調査) 岩破一博他(1992) 当科における過去5年間の十代分 娩例の検討 研究 ・某病院における過去5年間の十代分娩者 22名(15歳1名,16歳2名,17歳6名,18歳 4名,19歳9名) ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録の内特 に,飛び込み分娩5例に焦点を当て調査) 鬼怒川知香他(1992) 十代妊娠の家族的背景とその帰結 研究 ・1989年∼1993年,某医療機関を受診した十代分娩者98名(15歳5名,16歳8名,17 歳10名,18歳25名,19歳50名) ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録を調査)田島朝信他(1996) 若年妊婦の妊娠適応評価および心 理特性の経日的変容 研究 ・初産婦3名(17歳2名,18歳1名) ・質問紙調査:妊婦適応評価記録票,東大式エ ゴグラム(TEG),Zung の自己評価式抑鬱尺度 (SDS) 坂井明美 他(1996) 生殖・内分泌委員会報告・思春期 をめぐる諸問題検討小委員会(わ が国における思春期妊娠第4回調 査報告) 報告 ・1995年6月∼1996年5月,全国十代妊娠者 1,615名(13歳2名,14歳8名,15歳27名, 16歳112名, 17歳242名,18歳452名,19歳 772名) ・質問紙調査(全国調査。日本産科婦人科学会小 児・思春期問題委員会が過去3回実施した質問 紙内容に準ずる):医学的・対象属性を調査 廣井正彦 他(1997) 10代妊婦の主観的経験 ─妊婦としての生活の受け入れ─ 研究 ・初産婦17名(17歳3名,18歳6名,19歳8名)・半構成的な面接調査,グランデッドセオリー法・全国5箇所の医療機関から対象を抽出 (1999)町浦美智子 社会的な視点からみた十代妊娠 ─十代妊婦への面接調査から─ 研究 ・初産婦17名(17歳3名,18歳6名,19歳8名)・半構成的な面接調査,グランデッドセオリー法・全国5箇所の医療機関から対象を抽出 (2000)町浦美智子 当院における若年分娩の臨床的検 討 研究 ・1990年4月∼2000年3月,某病院で分娩し た20歳未満の者52名(16歳2名,17歳5名, 18歳17名,19歳28名) ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録を調査)河野美江他(2001) 栃木県における10代の妊娠の現 状 研究 ・2001年7月∼2001年12月,栃木県内産婦 人科を受診した10代妊娠者で調査に同意 の得られた447名(分娩129名) ・質問紙調査(栃木県内医療機関109箇所で実施): 医学的・対象属性を調査 (2003)渡辺尚 10代で出産した母親の実態と社 会環境の課題 研究 ・2003年5月∼9月,十代母親10名(分娩時: 13歳1名,16歳1名,17歳1名,18歳5名, 19歳3名,20歳1名) ・半構成的な面接調査,KJ法で分析 ・研究者の友人の紹介,インタネット上での協力 依頼,2市町村に協力依頼して対象を得る 大川聡子 (2003) 岩手県における10代の妊娠と人 工妊娠中絶の実態調査 研究 ・2002年6月∼2002年11月,10代女性で人 工妊娠中絶をした33名(平均17.8歳)と妊 娠出産した32名(平均18歳) ・質問紙調査(岩手県内の母体保護指定施設で実 施):医学的・対象属性を調査 小笠原敏浩他(2003) 当院における若年妊娠・分娩につ いて 研究 ・1994年5月∼2002年12月,某病院の十代 妊娠者(中絶42名,分娩49名)分娩者(15 歳2名,16歳1名,17歳8名,18歳11名,19 歳27名) ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録を調査)平岡友良(2004) 若年妊娠の臨床的検討─リプロダ クティブ・ヘルスの立場から─ 研究 ・1993年∼2001年に某病院を受診した若年 妊娠136名(15歳6名,16歳23名,17歳25名, 18歳31名,19歳51名) ・臨床統計調査(医療機関1箇所の臨床記録を調査)戸田稔子(2004) 10代で出産した母親の母親行動 とソーシャルサポートとの関連 研究 ・2001年9月に10代で出産した第1子の母親 (1998年1月∼2000年12月に出産)を対象 に実施(出産時年齢:16歳1名,17歳7名, 18歳9名,19歳19名) ・質問紙調査(大阪府の1市で自記式質問紙郵送に て実施):児への愛着行動,母親行動,ソーシャ ルサポートを調査 平尾恭子 (2005) 十代の妊婦・産婦・褥婦に対する サポート体制の強化 研究 ・十代妊婦・褥婦の紹介を受けた11名(16歳1名,17歳3名,18歳2名,19歳5名) ・面接調査(鳥取県内外の医療機関から紹介。妊婦・産後訪問,電話訪問を数回行いながら) 西村正子他(2005)

(5)

点を当て論じたものであり,育児期に関連するものは

2004

年から増え始めているが,同一事例で妊娠期か

ら育児期にかけて縦断的に論じたものは皆無であった。

 複数の論文を概観してそこで論じられている結果を

見るとき,各論文は研究対象や調査方法が異なってい

るので,そのままの結果を一概に比較することはでき

ない。しかし,この1990年から2005年の16年間の研

究で変化の推移を見るためには,全国規模の調査とし

て日本産科婦人科学会小児思春期問題委員会が5年ご

とに実施している思春期妊娠調査(佐藤他, 1991;玉

田他, 1990;廣井他, 1997)が,貴重な情報を提供して

いる。この調査は,各都道府県の日本産婦人科医会支

部長が推薦した5∼10施設に調査票を配布し,1年間

の10代の妊娠(人工妊娠中絶を含む)と分娩のデータ

を集計したものである。それ以外の文献は,大半が各

病院・施設等の臨床統計調査である。これらのデータ

は,対象者が限定されてはいるものの,実態や課題,

支援の方向性について,臨床からの実際的・具体的な

視点が記述されている。

2.10代妊婦の背景に関する実態(表3)

 10代妊婦の背景に関する内容は,表3に示すような

13

カテゴリーに分類された。その中でも,この1990

年から2005年の16年間で一番大きく変化した点は,1

の「婚姻状況」である。既婚者の割合は,思春期妊娠

第3回調査の24.0%(玉田他, 1990)が,同調査の第4回

で40.6%(廣井他, 1997)に増加している。また,4の「夫

と出会ったきっかけ」は従来の調査にない項目であり,

中学・高校の同級生の他に,出会い系サイトがあるこ

とが判明した(大川, 2003)。7の「本人の職業」は,サ

ンプル数の多い思春期調査では無職や生徒・学生が約

6割を占めて変化は見られていないが,2003年の大川

による面接調査では,コンビニエンスストアなどの店

員がみられるようになっている。

 一方,6の「本人の教育程度」や,8の「相手の教育

程度」は殆ど変化がないが,5の「家庭環境」における

表2 「分類Ⅱ:総説・報告・概説」の主な文献─1990年〜2005年─

表     題 種類 対象・研究方法・得られたこと (発表年)著者名 10代妊娠の問題点と対策 概説 ・1981年10月∼1989年6月,10代妊娠は170例(14歳∼19歳)で年間10数例・ローティン妊産褥婦のケアの重要性や,第1子を10代で出産した経産婦の問題を 提示する 竹村 喬 他(1991) 母性意識の薄い若年初産婦の看護 報告 ・19歳(未婚)・事例紹介および実践した看護を考える (1993)塚田祐美子 助産婦が行う思春期のサポート 概説 ・1991年に設立された「いばらき思春期研究会」運営による相談室「ベルハウス」で,助産師として行っている相談活動の紹介と今後のあり方について提示 (1995)福田けい子 10代の出産者への退院指導 ─家庭訪問を通して指導のあり方をふり返る─ 報告 ・1992年1月∼8月,某病院で出産した10代6事例・入院中の指導効果を見る為に,退院後に家庭訪問を行い,育児・家族計画の問題が明らかになった 山崎加代他(1995) 若年出産者への保健指導 概説 ・大人となる課題と抱えている思春期の特徴,若年妊娠の抱える問題,看護の対象としての若年出産者の退院時の生命力アセスメント,看護者の関わりの 留意点を提示 リウ真田知子 (1998) 若年妊婦とその看護 報告 ・14歳・事例紹介および実践した看護を考える(特に,パートナーや家族へのアプローチ方法) 椎名加代他(1999) 望まない妊娠をした弱年初産婦の分娩前教育 報告 ・17歳(母親が精神分裂病で自宅療養)・事例紹介および分娩前教育の看護実践をプロセスレコードを用いて考察 (2000)藤原ゆかり 17歳の若年妊産婦の受け持ち看護 報告 ・17歳・産婦人科外来と連携を図り,外来からの受け持ちケアの効果の振り返り 小安美恵子他(2001) 未婚妊婦に対する周産期母子保健指導 概説 ・川崎市産婦人科医会が1983年∼1992年に行った臨床調査とメディカル・ソーシャルワーカーが対応したケースの経験と通して未婚妊婦に対する周産期母 子保健指導を提示 野末悦子 (2000) 若年女性に対する周産期母子保健指導 概説 ・19歳以下と20∼29歳との産科異常についての文献一覧を示し若年女性に対する周産期母子保健指導を提示 (2000)久保武士 若年妊娠の社会的背景とその支援 概説 ・若年妊娠の結末と妊娠週数に応じた対応の違いを提示 (2001)片桐清一 若年者の妊娠に対する支援 概説 ・若年者の性活動と妊娠の現状を提示 (2001)大久保さつき 当院における10代妊娠の臨床統計 報告 ・資料調査(医療機関1箇所の臨床記録)1998年1月∼2002年12月,某医療機関での十代妊婦96名(中絶23名,分娩59名,その他14名)産科学的問題と社会 的背景を提示 望月善子 (2004) 10代で出産した母親たちの子育て ─実態調査から学ぶこと─ 報告 ・2002とに10代母親の子育ての問題や支援方法を提示年度に東京都社会福祉協議会保育部会調査委員会が行なった調査をも(2004)森田明美 文献にみる10代女性の妊娠・出産の支援の動向 と課題 報告 ・文献調査(女性の妊娠・出産の支援の動向と課題を提示1996年∼2003年の国内文献141件を収集し,分析)文献から10代 村山陵子他(2005)

(6)

片親の人が12.4%(玉田他, 1990)から17.6%(廣井他,

1997

)に若干増加している。その他,13の「社会的状況」

では,10代妊婦が妊娠継続し,出産することを周りの

人々に受け入れられるためには,結婚しているか否か

が重要な鍵になること(町浦, 2000)が,明らかにされ

ている。

3.10代妊婦の妊娠期に関する実態(表4)

 10代妊婦の妊娠期に関する内容では,表4に示すよ

うに11カテゴリーに分類された。その中での16年間

の大きな変化は,5の「妊娠の結末」にみるように,人

工妊娠中絶が54.1%(玉田他, 1990)から36.0%(廣井他,

1997)に減少し,経腟分娩が21.9%から40.7%に増加

したことである。これらの現象と同時に,2の「妊娠診

断時の気持ち」では,

「ショック」と思った人が51.9%

(玉田他, 1990)から35.3%(廣井他, 1997)に減り,

「う

れしかった」と思った人が36.2%から49.1%に増え

ている。秋田県における小笠原ら(2003)の調査では,

そのような『産みたい』

『うれしかった』と肯定的な回

答をしながらも中絶を選択した理由に,年齢・未婚・

経済性などの社会的問題が根底にあること,また,出

産を選択できた理由に,

『結婚』が大きな要因であるこ

とが明らかになっている。

 さらに,4の「初診時妊娠週数」では,14∼16歳は妊

娠22.3士10.7週,19歳は妊娠14.5士8.8週などのよう

に,若年者ほど初診時期が遅いのが特徴である(佐藤

他, 1991)。即ち,6の「妊娠・分娩への影響」にみられ

るように,婚姻状態が未婚等の不安定な人ほど,妊娠

継続について悩んでいる間に妊娠週数が進み,十分な

周産期管理を受けずに,妊娠中や分娩時の問題が発生

している(佐藤他, 1991;渡辺他, 2003)という推測が

されている。

表3 10代妊婦の実態:背景に関する事項(1990年∼2005年)

NO. 事   項 記述内容【括弧内:筆頭者,発表年数】 1 婚姻状況 ・既婚者24.0%(玉田, 1990) ・既婚者40.6%(廣井, 1997) ・妊娠が判明してから分娩までに入籍する「駆け込み婚」が57.1%と有意に高い(p<0.05)(平岡, 2004) ・妊娠が判明してから分娩までに入籍する「できちゃった婚」が76.9%と多い(戸田, 2004) 2 配偶者年齢別結婚時期 ・配偶者が①19歳以下:未婚37.5%,妊娠前16.7%,妊娠中20.8%,分娩後25.0%。②20∼24歳:未婚38.5%,妊娠前16.7%,妊娠中20.8%,分娩後25.0%。③25∼29歳:未婚100%。③30∼34歳:未婚0%,妊娠前25.0%,妊娠中 50.0%,分娩後25.0%。④35∼39歳:未婚50.0%,妊娠前50.0%。⑤40歳以上:未婚100%。(田島, 1996) 3 相手との関係 ・夫23.4%,婚約者19.9%,友達32.7%,知人7.1%,職場の人2.7%,強姦0.3%,親族0.1%等(玉田, 1990)・夫36.2%,婚約者16.8%,友達21.4%,知人6.2%,職場の人1.9%,強姦0.1%,親族0.0%等(廣井, 1997) 4 夫と出会ったきっかけ ・中学・高校の同級生,きょうだいの紹介,道で声をかけられた,職場,バイト先,出会い系サイト等(大川, 2003) 5 家庭環境 ・父母と同居の者45.7%,父母・祖父母5.2%,父母・祖母6.4%,母のみ10%,父のみ2.4%(片親のみ12.4%)等(玉田, 1990) ・父母と同居の者50.9%,父母・祖父母14.0%,父母・祖母8.6%,母のみ14.3%,父のみ3.3%(片親のみ17.6%)等(廣井, 1997) ・17歳未満の妊産婦には相手の年齢や両親の状況(離婚・死別している者9名,行方不明1名)等の本人を取り囲む家 庭環境のよくない例が多い(押谷, 1990) 6 本人の教育程度 ・小学生0.2%,中学生2.1%,中学卒37.4%,高校生18.4%,高校卒35.5%,大学(短大)生5.0%(玉田, 1990) ・小学生0.2%,中学生2.0%,中学卒33.4%,高校生18.1%,高校卒35.1%,大学(短大)生6.6%(廣井, 1997) ・中学生4.2%,中学卒25.0%,高校生42.7%,高校卒4.2%,高校中退12.5%,専門学校生8.3%,大学(短大)生4.2%(田 島, 1996) 7 本人の職業 ・無職35.7%,生徒・学生22.1%,事務員(会社員)15.5%,店員12.5%等(玉田, 1990) ・無職45.4%,生徒・学生22.2%,事務員(会社員)10.3%,店員7.9%等(廣井, 1997) ・無職29.6%,主婦18.4%,学生17.4%,会社員11.2%,調理師・理美容師5.1%,サービス業(夜間における飲食関係 従事者)4.1%等(田島, 1996) ・高校卒業後の就業経験のある人は飲食店店員,コンビニエンスストア店員,パチンコ店員,接客業等(大川, 2003) 8 相手の教育程度 ・中学生0.7%,中学卒32.5%,高校生8.1%,高校卒44.6%,大学(短大)生5.1%,大学(短大)卒3.4%(玉田, 1990)・中学生0.6%,中学卒35.9%,高校生10.2%,高校卒38.1%,大学(短大)生5.1%,大学(短大)卒3.7%(廣井, 1997) 9 相手の職業 ・土木業32.8%,会社員23.4%,サービス業(飲食業・理美容師),学生6.3%,公務員3.1%等(田島, 1996)・内装業,左官業,とび職,荷物運搬業,パチンコ店員,アルバイト等(大川, 2003) 10 性教育を受けた者 ・61.0%(玉田, 1990)・67.6%(廣井, 1997) 11 性交を行った動機 ・「何とはなしに」39.4%,「好奇心から」19.1%(玉田, 1990) ・「何とはなしに」41.1%,「好奇心から」18.7%(廣井, 1997) ・「結婚をするために親を説得するために計画的に妊娠した」や「結婚していなかったが2人の子どもが欲しいと考え てあえて避妊をしなかった」(大川, 2003) 12 避妊の実行率(1回でも実施したもの)・81.0%(玉田, 1990)・83.3%(未婚者87.1%)(廣井, 1997) 13 社会的状況 ・10代妊娠・出産には社会的規範があり,結婚することで社会的に受け入れられるようになる(町浦, 2000)

(7)

4.10代妊婦の分娩期,産褥期・育児に関する実態

  (表5・表6)

 10代妊婦の分娩期に関する内容は,表5に示すよう

に2カテゴリーと少ない。1の「分娩状況」の出産施設

については,診療所や公的病院等の身近な施設での出

産が多く,大学病院などの大規模施設での出産者は少

ない(佐藤他, 1991)。さらに,17歳以降で充分な産科

管理を受けられている場合には,身体的発達に関する

骨盤未成熟に起因する産科学的問題は殆どなく(河野

他, 2001),分娩方法・所要時間・出血量などでも成

熟婦人と大差ない(佐藤他, 1991;岩破他, 1992;平岡,

2004)と報告されている。さらに,新生児の臍帯動脈

血アシドーシスや1分後のアプガールスコアーなどに

よる出生新生児の状態に有意差はみられないという望

月(2004)の報告もある。しかし,10代妊婦で健診の

受診回数が少ない人や婚姻状態が不安定な人ほど妊娠

中毒症(現:妊娠高血圧症候群)や低出生体重児が多

いという調査データ(佐藤他, 1991)も報告されている。

 また,出産時に,

「とびこみ分娩」

(鬼怒川他, 1992),

や分娩時に心理的なコントロールができず「パニック

分娩(狂乱分娩)」

(藤井他, 1992)を生じやすいことが

報告されている。

 さらに,産褥期・育児に関する内容では,表6に示

すとおり3カテゴリーに分類された。1の「児の養育状

況」に関する10代母親の特徴は,ハイティーンでは殆

ど成人と変わらずに母親役割をとれる場合が多いが,

13歳∼15歳のローティーン妊婦では,年齢が低いほ

ど退院後に自分で児を養育しない場合が多いことが報

告されている(押谷他, 1990;佐藤, 1991)。年齢を問

わず児の養育問題を抱え込んでいる背景には,3の「社

会的状況」に見られるように,最も頼りたい対象が相

手の男性ではなく実母の割合が高い(森田, 2004;平

表4 10代妊婦の実態:妊娠期に関する事項(1990年∼2005年)

NO. 事   項 記述内容【括弧内:筆頭者,発表年数】 1 月経停止時の気持ち ・「妊娠したと思った」・「妊娠したと思った」56.3%,53.2%,「そのうちあると思った」40.4%,「そのうちあると思った」33.5%,「気にしなかった」5.3%(玉田, 1990)「気にしなかった」5.7%(廣井, 1997) 2 妊娠診断時の気持ち ・「ショック」51.9%,「うれしかった」36.2%。「うれしかった」と思った者の内訳は,14歳では20.0%,15歳では10.8%,17歳 31.6%,18歳35.8%,19歳42.4%(玉田, 1990) ・「ショック」35.3%,「うれしかった」49.1%。既婚者では「ショック」11.3%,「うれしかった」74.5%,未婚者では「ショック」 54.5%,「うれしかった」32.2%(廣井, 1997) ・「産みたい」「うれしかった」と回答しながらも人工妊娠中絶を選択した理由は,年齢,未婚,経済的問題。出産の選択理 由には,『結婚』が大きな要因になる(小笠原, 2003) 3 妊娠確定後,最初に相談した人 ・相手の人65.0%,友達15.4%,母親6.9%,姉妹2.7%,学校の先生0.4%等(玉田, 1990)・相手の人62.8%,友達16.3%,母親6.3%,姉妹3.3%,学校の先生0.2%等(廣井, 1997) 4 初診時妊娠週数 ・14∼16歳は22.3 10.7週,19歳は14.5 8.8週等,低年齢になるに従って初診時の妊娠週数が遅くなる(佐藤, 1991)・妊娠12週数以降の初診率は,13歳50%,14歳37.5%,18歳29%,19歳21.2%(廣井, 1997) ・12週未満40.8%,12∼21週30.6%,22週以降28.5%(里帰り・他院からの紹介事例を含む)(平岡, 2004) 5 妊娠の結末 ・人工妊娠中絶54.1%,自然流産2.1%,経膣分娩21.9%,帝王切開術1.2%等(玉田, 1990) ・人工妊娠中絶36.0%,自然流産1.2%,経膣分娩40.7%,帝王切開術3.5%等(廣井, 1997) ・妊娠が継続できなかった理由:「経済的負担が大きい」48.3%,「生み育てる自信がない」45.0%,「希望の妊娠でない」 34.0%,「学校を優先した」24.3%(渡辺, 2003) ・15歳と16歳では人工妊娠中絶が多く,17歳以降は分娩例が増える(戸田, 2004) 6 妊娠・分娩への影響 ・妊娠中毒症(現:妊娠高血圧症候群)は,15歳(25%),16歳(16%)と,若年ほど多い(佐藤, 1991)・妊婦健診回数少ないことや結婚状態が正常でない(未婚等)者ほど妊娠・分娩にマイナス面が発生している(佐藤, 1991) ・希望妊娠で出産に至った76例は,ほとんどがハッピーな人たちで,その場合は全然問題がない(渡辺, 2003) 7 性感染症 ・既往の性感染症,21.5%(渡辺, 2003)・クラミジア陽性(13.5%)(望月, 2004) ・クラミジア陽性(20.5%)が全分娩群に比較し有意に高い(p<0.05)(平岡, 2004) 8 社会的状況 ・学校・仕事を辞めると,友人との付き合いも減少し退屈になるが「しかたない」と受け止めている(町浦, 1999)・13∼15歳は,義務教育や入籍等の法的問題がある(押谷, 1990) 9 心理的状況 ・養護的親反応(NP)は,胎動自覚頃でも平均得点に満たない。成人自我状態(A)はいつの時期も低値(坂井, 1996)・思春期ゆえの些細な言動に心を閉ざしたり,過剰反応する傾向がある(椎名, 1999) ・学校・近隣等の世間体に関連した精神的圧迫がある(町浦, 2000) 10 相手・家族の状況 ・相手男性や家族も相談先がなく,入籍問題や自責感に悩まされている。相手男性の父性意識向上が低い(塚田, 1993;椎名, 1999) ・妊娠時の反応は,相手男性は喜ぶ者から中絶推奨者までいる。最終的には,妻の希望に応え,父親になる決意した(大川, 2003) ・妊娠時の反応は,家族はすぐに出産を認めた者は少ないが,家族の中で賛同してくれる者が他の家族を説得するなどし ていた。父親は,断固出産に反対する者から賛成する者まで様々であった(大川, 2003) 11 医療ケアを受けることの障害 ・(プロセスレコードから)自己を客観視する能力・表現能力不足や援助者との考え方の違いがある(藤原, 2000)・保健指導内容は,妊娠貧血予防のための食事指導・禁煙指導・切迫早産予防のための安静指導を受ける者も多いが,そ の指導を守らない者が多い(西村, 2005)

(8)

表5 10代妊婦の実態:分娩期に関する事項(1990年∼2005年)

NO. 事   項 記 述 内 容 【括弧内:筆頭者,発表年数】 1 分娩状況 ・出産施設:診療所40.0%,公的病院29.2%,私的病院25.3%,大学病院1.1%(佐藤, 1991) ・17歳以降で産科管理をきちんと受けていれば,分娩方法・所要時間・出血量は,成熟婦人と大差なし(岩破, 1992) ・一般的には,初月経3年後には骨盤の成熟が完了する。若年者において骨盤未成熟に起因する産科学的問題はほとんどな い(河野, 2001) ・母体異常:全体の24.8%。内訳(前期破水37.2%,弛緩出血11.0%,頚管裂傷9.7%,その他37.9%)(佐藤, 1991) ・妊婦健診回数が少なく,結婚状態が正常でない(未婚等)者ほど,妊娠・分娩経過に妊娠中毒症や低出生体重児が発生(佐藤, 1991) ・吸引分娩,帝王切開,後産期出血の項目で,全体分娩群と有意な差はみられない(平岡, 2004) ・早産,帝王切開の項目で,全体分娩群と有意差はみられない(望月, 2004) ・分娩時にパニック分娩(狂乱分娩)になることが多い(藤井, 1992) ・陣痛発来して初診をする「とびこみ分娩」も多い(鬼怒川, 1992) ・15歳以下は,心身が未発達,未熟児の出産が多く,経済自立困難,離婚率高い,家出等により生活基盤や人間関係が失わ れている(佐藤, 1991) 2 出生新生児の 状況 ・90%以上は正常児が出生,異常の認められる例が7.5%。母親の年齢が低年齢になるに従って,新生児異常が多くなるが, その内容はほとんどが低体重(佐藤, 1991) ・児の1分後アプガールスコア,臍帯動脈血アシド̶シス,新生児搬送の項目で,全体分娩群と有意な差はみられない(平岡, 2004) ・低出生体重児の出生(45%)は,全体分娩群と比較し,有意に高かった(望月, 2004) ・60例の出生児中,双胎1組,子宮内胎児死亡1例,水頭症・脊髄髄膜瘤1例であった(望月, 2004)

表6 10代妊婦の実態:産褥期・育児に関する事項(1990年∼2005年)

NO. 事   項 記 述 内 容 【括弧内:筆頭者,発表年数】 1 児の養育状況 ・育児行動は,16歳は成人と変わりないが,13∼15歳では遅れが目立つ。退院後に乳児院へ預けることが多い(押谷, 1990) ・未婚者の新生児養育:結婚して育てる者23.7%,本人が育てる者6.6%で,自分たちで育てる意志のある者は30%前後。14 ∼16歳では,「施設に預ける」「養子にやる」の比率が他の年齢に比べて多い。66%は新生児の養育状況は不明(佐藤, 1991) ・家庭における育児は,安全面への配慮に欠ける点はあるが,愛情を持って養育している(山崎, 1995) ・育児より自分たちの遊びを優先してしまう事例がある(山崎, 1995) ・子どものために何でもしてあげたいという献身的な気持ちをもつ反面,自身の欲求を優先する傾向がある(平尾, 2005) ・20歳代以降に出産した母親より,乳児期母子相互作用を促進する行動が少ない(平尾, 2005) ・夫が未熟で育児に協力的でない(椎名, 1999) 2 心理的状況 ・産後4週には,養護的な親の能力(NP)が最高値になる(坂井, 1996) ・産後,母親として「成長した・まあまあ成長した」と答えた者88.8%(平尾, 2005) ・母親となって「プラス思考に変わった」「しっかりするようになった」等の成長が見られる(大川, 2003) ・児の養育,本人の就職や結婚を含む身の振り方,出産費用等の問題が多い(鬼怒川, 1992) ・「子どもが子どもを産んだ」等のステレオタイプな10代母親像への反発(大川, 2003) ・家族から虐待を受けた,または施設に入っていた者は,自分のような思いは子どもにさせまいと思う(大川, 2003) 3 社会的状況 ・入院助成制度利用は,若年分娩者(10.2%)が有意に高い(p<0.05)(平岡, 2004) ・シングルマザーは,若年分娩者(22.4%)が有意に高い(p<0.05)(平岡, 2004) ・実母から手段的サポートを受けている者は,若年分娩者が有意に高い(p<0.05)(平尾, 2005) ・夫のサポートは,実母,友人より少なく,特に情緒的サポートが比較群より少なかった(平尾, 2005) ・「最も頼りたい時」の対象は,自分の母親32.7%,子の父親23.6%(森田, 2004) ・子育ての過程で,子の父親が不在になる人が半数(森田, 2004) ・子の父親が,10代母に家事・育児が義務であるという役割を厳しく求めすぎるために,子育てや社会参加によって育って いく母親と父親の意識のズレが大きくなる(森田, 2004) ・近隣との付き合いが少なく,自治会に所属せず広報が届かずに,1ヶ月健診以降の乳児健診や予防接種の受診場所等の情報 を全く知らなかった事例がある(山崎, 1995) ・出産後の避妊は,行っていない事例がある(山崎, 1995) ・利用している育児サービスは,「妊婦教室」であるが比較群に比べ有意に少なく(p<0.05),育児相談や赤ちゃん教室などの 利用は皆無に等しかった(平尾, 2005) ・必要とする育児サービスは,「経済的支援」58.3%で最も多く,「相談できる場」「母親同士交流できる場」は比較群に比べ有意 に少なかった(p<0.05)(平尾, 2005) ・児童手当等の行政サービスを積極的に利用しても,経済状況が厳しい家庭が多い(大川, 2003) ・経済的な理由から仕事に就く意思があっても,乳幼児がいることや保健所の空きがないことで,アルバイトも決まらない 状態である(大川, 2003) ・専門的知識や技術をもたない結果,専門的職業に就くことが出来ず,所得は少なく,不安定就業にならざるを得ない(森田, 2004) ・社会とつながっていたいから仕事をしていきたい人もいる(大川, 2003) ・育児の悩みや不明なことは,雑誌やテレビの育児情報番組を積極的に利用している(大川, 2003) ・一般的な母親集団からの孤立している(大川, 2003) ・周囲に同世代の母親が少なく,友人を欲しいと思った者の中には,ホームページやサークルを自分達で作っている者もい る(大川, 2003) ・(妊娠していない)同年齢の友人とは話が合わず,保育所の親たちが相談相手になる割合が多い(森田, 2004)

(9)

尾, 2005)ことや,経済的な問題(大川, 2004;平尾,

2005)が挙げられている。

5.10代妊婦に関連する課題とその支援(表7)

 10代妊婦に接する現場の実践者からは,妊娠・分

娩・産褥の各期に応じた私見や提言が数多く報告され

ている。それらの代表的な内容を整理すると表7のよ

うな5つのカテゴリーに分類された。

 「学校における支援」については,実践的な性教育

の必要性(玉田, 1990;望月, 2004)と妊婦のための学

級設置やカリキュラムの考案(河野他, 2001;片桐,

2001),そして心理的負担を少なくするための転校措

置等(佐藤他, 1991;片桐, 2001;小笠原他, 2003)の

学業中断によるリスクを最小限にするための提言がな

表7 10代妊婦の課題:ケア・支援に関する私見・提言(1990年∼2005年)

NO. 項 目 記 述 内 容 【括弧内:筆頭者,発表年数】 1 学校における支援 ・正確な性の知識を与えるとともに,具体的な避妊指導や性感染症予防を含めた性教育の必要性(玉田, 1990;望月, 2004) ・妊娠した女子高校生のための学級等の設置:衛生教育,育児訓練,母親準備教育,職業訓練等(片桐, 2001) ・子育てをしながら教育を受けられるプログラムや,心理学的なサポートが必要(河野, 2001) ・特に,中学生は義務教育下なので,本籍・現住所も移動し,新住所に出生届を提出し,転校措置の検討も必要(片桐, 2001) ・学業中断にて将来の就職に問題あり。妊娠による退学処置の撤廃が必要(佐藤, 1991;小笠原, 2003) 2 相談機関の役割と活動 実態 ・良き相談者となれるような社会的機構の必要性(小笠原, 2003) ・10代妊娠に限り,人工妊娠中絶は無料のような救済策の検討が必要(片桐, 2001) ・「未婚妊婦サポートセンター」のような,公共的サービスの設置が必要。シングルマザーに対する社会全体の理解も必要(野末, 2000;小笠原, 2003) ・「若年妊娠救済センター」のような,思春期相談事業も同時に行うことの検討が必要(片桐, 2001) ・「いはらき思春期研究会」が,「ベルハウス(思春期,中高年の性の相談室)」を1992年に開設。(福田, 1995) ・保健所の思春期関連の電話相談は,1990年頃から開設されているが,相談件数少ない(片桐, 2001) ・日本家族計画協会の電話相談では,女性からの最大の主訴は,妊娠に関する不安・緊急避妊である(大久保, 2001) 3 医療施設で の支援 1)教育的 支援 ・妊婦同士のサポートネットワークやピア・カウンセリングの導入が必要(町浦, 1999) ・思春期の発達課題をふまえ,生活スタイルを大切にしながらの指導が重要(山崎, 1995;リウ真田, 1998) ・外来からの継続受け持ち制等により信頼関係を形成し,本人の主体性を引き出す。妊娠継続選択の援助や個別の出産準備教育の実 施が重要(塚田, 1993;椎名, 1999;藤原, 2000;小安, 2001) ・医療ケアプログラムの情報/知識の欠如,診察時間が生活に合わない,初期妊娠管理の重要性に対する知識不足,診察に対する不 安や恐怖,秘密保持に対する不安,等を緩和する対応が必要(リウ真田, 1998) ・13∼15歳と16歳以上では異なった観点の看護を実施(押谷, 1990;竹村, 1991) ・分娩前教育入院の実践(押谷, 1990) ・可塑性に富んでいるので,周囲の働きかけにより,母親としての行動が身につく(リウ真田, 1998) ・「未婚か,既婚か」「高卒か,高校生か,中学生か」「分娩できるのか,中絶希望か」「初診時妊娠何週か」等の背景の違いでその後の 対応が異なる(片桐, 2001) 2)分娩期ケ ア ・未婚分娩者等の社会的背景の影響が大きい者は,周産期管理が困難であることが多い(佐藤, 1991) ・夫立会い分娩の実施が効果的である(小安, 2001) ・分娩時に,外来からの受け持ち助産師の付き添いが重要な役割を果たす(小安, 2001) 3)育児支援 ・母性意識の啓発:出産後のねぎらい,母児接触の促進(直接授乳や育児技術の個別指導)が重要(押谷, 1990;山崎, 1995;椎名, 1999;小安, 2001) ・外見や身体的発育が成人とあまり変わらないため,発達段階を混同されやすいので注意を要する(リウ真田, 1998) ・若年出産者の母親行動アセスメントリストを作成して,見極めに役立てている(リウ真田, 1998) ・育児指導は,本人が育児するのか,乳児院や養子縁組に出すのか方針に沿いながら行う(押谷, 1990) 4 地域におけ る支援 1)家族に対 する支援 ・相手男性と医療者の妊娠期からの関わりが大切(塚田, 1993;リウ真田, 1998;椎名, 1999) ・(外来)指導に,家族を含めて,具体的な個別にあった指導が必要。具体的な情報をパンフッレトで提供する(山崎, 1995) ・相手や家族の妊婦健診への同席。両親学級への参加を促す(椎名, 1999) ・家族(親)の危機状況の心情を受容することが重要(小安, 2001) ・家族に現状認識を促し,具体的にすべきことを提示する(押谷, 1990;野末, 2000;小安, 2001) ・地域看護職は,実母の存在を重視し過ぎず,10代母親にとって専門的支援が必要であることを再認識する(平尾, 2005) 2)社会復帰 ・適応 ・中学生の出産は,性的虐待・近親姦の結果もありうるので,そのような環境に帰さないで保護する必要性もある(片桐, 2001) ・産後の住所不定者や家族が援助者の介入を拒む場合は,継続支援は困難であり課題である(河野, 2001) ・社会適応への援助:退院指導,援助者の決定,社会資源の活用上の具体的対応を行なう(押谷, 1990;山崎, 1995;椎名, 1999;小安, 2001) ・妊娠・分娩・育児・家族計画を,全期間にわたり,病院関係者,ケースワーカー,保健所,学校,乳児院,児童相談所との連携が 重要である(押谷, 1990;山崎, 1995;リウ真田, 1998;小安, 2001;河野, 2001) ・医療福祉サービスを手軽に受けられて,育児手当,保育所,託児所等の整備も必要である(久保, 2000) ・リフレッシュ時間を含め,10代で体験したいこと,学びたいことなどを適切に保障し,若い両親がおとなになり親になっていくこ とを支えることが必要(森田, 2004) 5 信頼関係形成のための アプローチ ・看護者は,非批判的態度で関わり,秘密の保持を保証し,信頼関係の形成が重要である(リウ真田, 1998;藤原, 2000) ・医療者や支援者は,偏見を取り除き,柔軟な態度でよく話を聞くこと(リウ真田, 1998;森田, 2004) ・子どもにとっての母親の重要性や子どもの発育について理解できるように伝えながら,母親のできていることを認め,努力を労い, 自尊心や自己効力感を高める必要がある(平尾, 2005)

(10)

されている。

 「相談機関の役割と活動実態」については記述が多

く,妊娠継続やその決断に関わる相談機関の設置や

相談体制の強化(野末, 2000;片桐, 2001;小笠原他,

2003),相談活動の実態(福田, 1995;大久保, 2001)が

述べられ,相談機関の果たす役割の大きさが強調され

ている。

 「医療施設での支援」では,教育的支援として妊婦

同士のサポートネットワーク等の必要性(町浦, 1999)

や,外来からの継続受け持ちを取り入れた信頼関係形

成システムの紹介,10代妊婦の特性をふまえた出産準

備教育の工夫や個人の状況に応じた個別的ケアが提言

されている(押谷他, 1990;竹村, 1991;塚田, 1993;

椎名他, 1999;藤原, 2000;小安他, 2001)。また,分

娩期ケアでは,10代産婦の不安を軽減するための産前

教育や夫立ち会いが提言されている(藤原, 2000;小

安他, 2001)。また,育児支援では,母親行動のアセ

スメントに関する内容(リウ真田, 1998)や養子縁組

み等による母子分離問題,あるいは育児指導の内容

(押谷他, 1990;山崎他, 1995;椎名他, 1999;小安他,

2001)が挙げられ,個別的な対象への関わりを通じた

きめ細やかな提言が多い。

 「地域における支援」では,家族に対する支援として,

親や相手の男性に対する個別指導および妊娠・出産へ

の参加を促す働きかけが示され(押谷他, 1990;塚田,

1993;リウ真田, 1998;椎名他, 1999;小安他, 2001;

平尾, 2005),さらに社会復帰・産後生活の適応では,

家族間の問題に関する調整や社会資源の活用・連携の

促進が挙げられている(押谷他, 1990;山崎他, 1995;

リウ真田, 1998;椎名他, 1999;小安他, 2001;河野他,

2001

)。このカテゴリーでは,妊婦本人ばかりではなく,

夫や家族を含むアプローチの重要性が強調されている。

 また,個別的ケアの手段として,5の「信頼関係形成

のためのアプローチ」の記述があり,対応の視点とし

て,個人の人権尊重や偏見をもたないこと等の倫理的

配慮に関する重要性についても述べられている(リウ

真田, 1998;藤原, 2000;森田, 2004;平尾, 2005)。

Ⅳ.考   察

 以上の文献から明らかになった10代妊婦の実態と

課題を踏まえ,今後の看護実践を充実させていくため

に以下のようなことが考えられる。

1.10代妊婦の心理・社会的な状況

 今回の「妊娠の結末」でも明らかなように,人工妊

娠中絶を行う人の減少と同時に,出産する人が増加し

てきているという現象の背後には,どのような10代

妊婦の心理・社会的な変化があるのだろうか。2005年

における「できちゃった婚」

(結婚期間が妊娠期間より

短い)の出生の第1子出生数に占める割合を母の年齢

階級別にみると,15∼19歳は81.7%であり,1980年の

47.4%に比較して増加傾向にある(大臣官房統計情報

部 人口動態統計特殊報告, 2005)。このように,10代

女性が経済的基盤や将来設計もないまま,できちゃっ

た婚による妊娠を継続する実情には,

「不安定な家族

関係」や「自分の生活を変えたい」,

「学校がつまらな

い」等の社会的背景から結婚願望や積極的に子どもを

欲しいと決意すること(厚生省心身障害研究報告;質

問紙調査, 1997)や,

「早く,大人になりたい」や「他者

との結びつきを得たい」,

「居場所が欲しい」という一

般的な青年期特有の不安定な心理的状況(田中, 2001)

が関連しているとも推測できる。今後,本邦において,

10代女性が妊娠の事実をどのように認知し,そこか

ら出産への決意をどのように固めてゆくのか,社会背

景と共にその心理状況を詳しく知り,実情に応じたケ

ア提供を行なえるようなエビデンスの高い研究が必要

であろう。

 また,今回の結果にも見られたように,近年では若

年妊娠を必ずしも後ろ向きに考えることではなく,普

通の出来事として肯定的にとらえる人が増えつつあ

る。しかし,多くの場合に10代の妊婦が世間に受け

入れられる前提には,

『結婚』という社会的規範が障壁

として立ちはだかっているともいわれている(町浦,

2000

;小笠原, 2003)。一般に青年期は,親からの心

理的離乳によって自己を確立してゆく過渡期であり,

このような時期に,妊娠が判明する事は,

「子ども」の

立場から「親」・「妻」役割を担う立場に急激な移行を

迫られることとなる。さらにその後は,成長途上にあ

りながらも現実的な育児に追われ,心身共にストレス

フルな状況におかれることになる。今回の分析による

妊娠期の記述の多さやその内容をみても,このような

対象の複雑な心理状況に対する課題解決の必要性が反

映されていると考えられる。

 海外の研究では,Kaplan(1979)が,若年妊婦には

高い自己否定感と低い自己評価があることを明らかに

し,Nelsonら(1986)も,若年産婦の自己概念や自尊

感情が極めて低く,不安や緊張のレベルが高いことを

(11)

示している。同様に,疎外感や孤立感・劣等感を抱い

ていることも述べられている。しかし,近年,Rojann

(1998)によれば,10代妊婦や10代母が妊娠や親にな

る経験を通して,より高い自己概念を獲得してゆくよ

うな変容についても研究的に示されている。青少年期

の発達課題はその年代の誰しもが乗り越えなければな

らない共通課題であるが,それに加えて,10代妊婦の

暮らす社会の価値観や出産・子育ての文化や伝統から

くる考え方とのずれをも確認することが必要である。

10

代で妊娠し,子育てをしてゆくことが,その社会

でどのような意味をもつのか,何がどのように個々の

健康に関連してくるかを明らかにしてゆく研究が必要

であろう。

2.今後の10代妊婦の支援

1)相談についての支援

 今回の結果でも,10代妊婦が気軽に利用できる相談

機関の設置等の提言が多くなされていた。一方では,

保健所の電話相談の利用の少なさ(片桐, 2001)や,日

本家族計画協会の電話相談では,緊急避妊などに関

する相談が多いことが明らかにされていた(大久保,

2002

)。それらの理由の解明や妊娠の予防的介入に関

するアクセス,また10代の相談者が抱く抵抗感に対

応するための工夫など,ニーズにあった相談システム

を充実させていくことが,今後は必要といえる。

 また,10代妊婦の家庭環境では,その人達自身が片

親である場合が約17%もみられ,妊娠時点ですでに

支援者が限定されている。さらに,高校の退学等によっ

て友人との交流も減少し,現実には,我が国の10代

妊婦は社会の少数者であり,互いに出会える機会も

少ない。そして,家庭と学校という限られた社会の中

で過ごしてきた若者が,妊娠・出産の体験で急に大人

社会の様々な規範に曝される状況となる。そのような

中で,次第に他人に心を閉してしまうようになったり,

過剰な反応を示す傾向(椎名, 1999)がみられたり等の

不適応行動が,妊婦や相手男性に生じてくる。このよ

うな繊細な心理を共感する仲間同士の交流や,相談機

構の実践活動もわずかながら開始されつつある。今後

は,これらの支援活動の効果を,客観的なデータによっ

て証明する研究が期待される。同時に,育児や家事に

習熟しない現代若者の経験を補い,10代自らの成長を

支援するためにも,妊娠や出産・育児への準備やそれ

らの不安に対する専門的・非専門的支援活動の推進も

重要であろう。

2)妊娠期・分娩期の支援

 10代妊婦の妊娠・分娩期における問題では,特に

健診回数が少ない場合や婚姻状態が不安定な場合ほど,

妊娠合併症や分娩時の異常が生じやすいことが述べら

れている。10代妊婦に特有な未受診や低受診率を改善

するためには,医療機関へのアクセス方法などの改善

のほかに,妊婦健診に伴い派生する経済的な問題を含

む健康管理のあり方について検討が必要といえる。我

が国では,10代妊婦が専門職に接する機会は,病産院

での看護職と地域の保健師に限られると言っても過言

ではない。特に医療機関では,対象との接触が妊娠・

分娩期という限定された期間となる。その期間での

10

代妊婦に対応した出産準備教育や個別ケアのため

の継続受持制,夫立会い分娩の推進などが報告されて

いるが,客観的データによる10代への効果を論じる

研究はなされていない。今後は,エビデンスを確認で

きるデータの集積が急務といえる。また,今回の分析

では,分娩期に関する記述内容は,他の時期に比較し

て少ないという結果であった。これは10代の分娩自

体が,成熟女性と異なる点が少ないためとも思われる。

3)育児期の支援

 さらに,産褥期およびその後の育児期についての

研究内容も,比較的少ない。一般的な妊産婦ケアで

は,産褥期およびその後は,身体の回復,親役割の獲

得,環境への適応が看護の焦点となるが,10代の母親

にはそれ以外に,母親自身が一人の成人として成長発

達してゆく途上にあることを考慮すべきであろう。そ

の後の育児期への円滑な移行を促す予期指導の充実や,

地域での生活支援機関との連携を強化してゆくシステ

ムの開発が必要と考えられる。

 特に,15歳以下のローティーンは,民法では入籍が

許されていないために,出生した児を妊婦の親の戸籍

に入れる等が必要となる。また,彼女らは義務教育の

途上や高校生であり,学業の中断はその後の経済的生

活基盤に関わる重要な問題である。そして育児面では,

自分で児を養育せずに里子に出すケースが多く,ある

いは,自分で養育すると言いつつも,実母や祖母に子

育てを任せている場合も多い(厚生労働省研究費補助

金報告書, 2005;平尾, 2005)。従って,ローティーン

では,退院後の養育方針を確認しながら,個別の実情

に即した指導を行うよう社会資源の活用やその効果の

検証が必要である。

 また,若年の親たちは,子どもの世話よりも自分た

(12)

ちの欲求を満たすことを優先する傾向があること(山

崎, 1995;平尾, 2005),希薄な近所づきあいのために

予防接種や乳幼児健診等の通知を見逃しやすいこと

なども指摘されている(山崎, 1995)。海外の研究では,

Julie

(2003)が,退院後の予防接種の知識や授乳方法

などについて,医療機関関係者が個別に訪問指導をす

ることの重要性を明らかにしている。このような,産

後の研究も,今後に必要であろう。

3.今後の研究に向けて

 10代妊婦の研究を進めるにあたり,以下のような

ことが考えられる。第一は,10代という対象の年齢特

性に関する研究である。即ち,18∼19歳のハイティー

ンと13歳などのローティーンの問題は,それぞれの

発達段階においても,教育背景や社会的条件が大き

く異なるので,同一集団と見なすことには問題があ

る。ローティーンの母集団は極く少数であるため,従

来の研究でも,単純に10代の全体の中に含まれて扱

われている場合が多く,その特徴が見逃されてしまう

結果にもつながっている。特に,学童期の問題は,そ

の後の生活への影響が多大である。このように,10代

にあっても年齢による特徴や違いを明らかにしていく

研究視点が今後は必要である。また同時に,10代で妊

娠・出産をする人の経験は,その後のどのくらいの期

間,その影響を持ち越すものであるのか,女性の一生

における長期的な視点での研究も興味深い。

 第二には,研究を進める場合の対象の理解について

である。10代妊婦は,年齢的な発達段階でも自己を客

観視する能力が十分に備わっていない場合が多い。さ

らに,表現能力についても同様なことがいえる。自分

がどのように感じているか,あるいは自分の気持ちを

どのように表現したらよいのか,整理して他者に伝え

るという言語能力や思考力について十分であるとは限

らない。また,これまでの家庭や学校以外の対人関係

でも,社会的経験が少ない存在である。彼女たちから

の面接調査等を行う際には,そうした相手の状況を十

分配慮することが重要であろう。同時に多くの場合,

10

代妊婦は,若年妊娠という世間からの後ろめたさ

を強いられる状況に置かれている場合が多く,彼女た

ちの心は既に傷ついていたり,孤独な体験に向き合っ

ている場合が少なくない。個人的で,しかもプライバ

シーの中核に触れる妊娠や子どもを持つということが,

この人達にとっては普通以上にストレスフルな状況で

あることを考慮し,人間としての尊厳やいたわりの気

持ちを持った十分な信頼関係がなければ,真実に近づ

くことやその声など,実践に生かすデータ提供の協力

は得られないであろう。

Ⅴ.結   論

 本研究では,1990年から2005年までの16年間の10

代妊婦に関する国内文献を分析し,以下の実態および

課題が明らかになった。

1

)対象文献106件の中から,10代妊婦の背景や妊娠

から育児に関する実態と今後の課題の合計5項目が

明らかになった。10代妊婦の妊娠期に関する文献が

殆どであり,2004年から育児期に焦点を当てたもの

が微増してきている。

2 )背景に関する実態は,16年間で既婚者が約2倍に

増え,夫との出会いや本人の職業に,ネットやバイ

ト等の現代的な要素が見られ始めている。

3 )周産期の実態は,人工妊娠中絶する者が減り,出

産する者が約2倍に増え,妊娠判明を肯定的に受け

止める者が増えてきた。しかし,妊娠の初診の遅れ,

出産後の子供の養育問題,経済的な問題などは従来

と大差がない。

4 )10代妊婦の実態とケア実践への提言は比較的多く

なされているが,年齢による違いを論じる研究やケ

アの効果を実証する研究は極めて少ない。これらの

実態把握やケア実践を向上させる研究が,今後は必

要である。

5

)今後の研究では,10代女性の妊娠継続に対する受

容過程を明らかにすることや,妊娠や子育てがその

社会でどのような意味をもち,健康面にどのように

影響するかという心理・社会的状況を探求するもの

も必要である。

 なお,本研究は,平成17年度第19回日本助産学会

学術集会(京都)にて発表したものに加筆・修正した

ものであり,平成17年度科学研究費補助金基盤研究

(C)

(課題番号17592278)を受けて行なった研究の一部

である。

文 献

安達久美子(2006).統計からみた10代の女性の出産,思

春期学, 24(2), 407-414.

DiCenso A. Guyatt G. Willan A. Griffith L. (2002). Primary

care. Interventions to reduce unintended pregnancies

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