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骨格筋萎縮に対する運動と栄養摂取を併用した理学療法の戦略と生理学との接点

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 42 巻第 8 号 663 骨格筋萎縮に対する運動と栄養摂取を併用した理学療法の戦略と生理学との接点 ~ 664 頁(2015 年). 663. 合同シンポジウム 4(日本生理学会). 骨格筋萎縮に対する運動と栄養摂取を併用した * 理学療法の戦略と生理学との接点 藤 野 英 己**. ク質の異化作用が亢進することを念頭に置かなければならな. はじめに. い。さらに運動負荷量も重要な要素である。筋力が低下してい. 骨格筋の萎縮は廃用や悪液質等の様々な原因で惹起され,原. る状況下での過度な運動負荷は活性酸素種(reactive oxygen. 因により筋萎縮の発生部位,程度,性質等が異なる。筋萎縮で. species:以下,ROS)を過剰発現する 4)5)。過剰な ROS 発現は,. は筋量の減少と同時に性質の変化も観察される 1)2)。また,骨. 様々な組織において悪影響を及ぼす。骨格筋においては萎縮を. 格筋への酸素や栄養素の供給は筋活動を持続するために重要な. 助長し 4),血管内皮細胞,ミトコンドリアの傷害を惹起する 6)。. 要素のひとつである。その役割は毛細血管が担うが,廃用性萎. 2.「筋質」に対する戦略. 縮筋では毛細血管が退行し,毛細血管網が破綻している. 2). 。さ. らにエネルギー産生の場であるミトコンドリアの傷害も報告. 3). 次に「筋質」の変化に対する治療戦略である。遅筋や速筋の 性質を決定する要因のひとつは,ミオシン重鎖タンパク質のタ. され,骨格筋細胞内で十分な ATP 産生が困難で持続的な筋収. イプである。筋萎縮では遅筋型のミオシン重鎖タンパク質が速. 縮ができない環境下になっている。これらのことから筋量減少. 筋型に移行することが知られている。このため,萎縮筋の内部. とともに筋代謝や持久性に関連する機能が低下していることも. では遅筋の性質をもつ遅筋型が減少して,持久力が低下してい. 考慮しなければならない。. る。筋質の変化に対しては,筋力増強運動に加えて,持久運動. 筋萎縮予防のための三要素(図 1A). を併用して実施する必要がある。持久運動は遅筋型ミオシン重 鎖タンパク質の増加,ミトコンドリア量や毛細血管数の増加を. 1.「筋量」に対する戦略. 促す。一方,持久運動のみを実施すると,mTOR 経路を抑制し,. 筋萎縮を予防するためには,3 つの戦略を企てる必要がある。. 筋量が効果的に増加しないので注意を要する。. はじめに「筋量」の減少に対する治療戦略である。筋萎縮にお. 3.「筋源」に対する戦略. ける筋量の減少は筋原線維タンパク質の分解による筋線維の縮. 最後に「筋源」の低下に対する治療戦略である。筋を収縮さ. 小化と筋線維数の減少に起因する。筋原線維タンパク質の分. せるためには ATP の供給が必要である。ATP の産生には各種. 解が主要な経路であり,カテプシン L,カルパイン,ユビキチ. 栄養素のほかに,酸素が必要である。このために栄養素や酸素. ン・プロテアソーム経路の活性化で分解が促進される。この筋. を供給する毛細血管網が健全であることが重要である。一方,. 線維の縮小化に対しては運動負荷が有力な治療手段である。運. 前述のように萎縮筋では毛細血管の退行が促される. 動負荷は筋原線維タンパク質の分解で活性化するプロテアソー. 合毛細血管部の血管内皮細胞のアポトーシスが著明に観察され. ム経路を抑制し,筋原線維タンパク質の合成時に活性化する. る。三次元可視化された構造から毛細血管径や毛細血管密度の. mTOR(mammalian target of rapamycin)経路を活性化させ. 減少も生じる。これは筋細胞の酸素需要が低下していることに. る。この結果,タンパク質同化が異化を上回り,筋原線維タン. 加えて,過剰な ROS 産生が原因と考えられる。このためにエ. パク質の維持,改善が促される。一方,筋収縮にはエネルギー. ネルギー産生能力が低下し,継続的な筋収縮に影響を及ぼすこ. 消費を伴い,ATP 産生のために各種栄養素も消費される。血. とになる。一方,抗酸化栄養素を摂取すると毛細血管退行やミ. 中アミノ酸濃度が低下している場合,アミノ酸プールである骨. トコンドリア活性の低下を抑制できる 6)。また,運動負荷のみ. 格筋からアミノ酸が取りだされ,エネルギー産生をサポートす. では,筋内の過剰な ROS 産生は減少せず,毛細血管退行やミ. る。筋量の減少を抑制するという観点では,運動負荷はエネル. トコンドリア活性の低下も改善できない。筋へのエネルギー源. ギー源として消費されるタンパク質分解が上回り,筋タンパ. を維持するためには,筋力増強運動等の運動負荷のみでは不十. *. Strategy for Exercise Combination with Nutrition Supplementation to Treat Muscle Atrophy and the Interface between Physical Therapy and Physiology ** 神戸大学大学院保健学研究科リハビリテーション科学領域 (〒 654–0142 兵庫県神戸市須磨区友が丘 7–10–2) Hidemi Fujino, PT, PhD: Department of Rehabilitation Science, Kobe University Graduate School of Health Sciences キーワード:筋萎縮,運動,栄養. 7). 。特に吻. 分であり,栄養素摂取等を適切に摂取する必要がある。. 運動負荷と栄養素摂取を併用した理学療法戦略の例 実験動物を使用した運動負荷と栄養素摂取を併用した実験を 紹介する(図 1B) 。廃用性萎縮モデルに対して,運動負荷と抗 酸化栄養素であるアスタキサンチンを摂取させた場合の筋量,.

(2) 664. 理学療法学 第 42 巻第 8 号. 図 1 A;筋萎縮予防のための三要素(筋量,筋質,筋源) .B;運動負荷と栄養素摂取 を併用した実験例.運動では毛細血管の予防ができないが(c) ,抗酸化栄養素を 摂取して運動を実施すれば筋萎縮と毛細血管退行の予防が同時にできる(i, j) . 毛細血管,ミトコンドリア活性を検証した実験例である 5)。萎. ある。また,原因により様々な病態が観察され,病態に適した. 縮予防のために運動負荷した筋では筋萎縮が予防できたが,ア. 理学療法の選択が必要である。従来から実施されている画一的. スタキサンチン摂取のみでは筋萎縮を予防できなかった。一方,. な筋力増強運動のみではなく,病態の特性を把握し,病態の改. 毛細血管像をみると,運動負荷をした筋では毛細血管退行の予. 善にもっとも適した治療手段を確立することが理学療法士に求. 防ができなかったが,アスタキサンチン摂取で毛細血管の退行. められている。本稿で記載した内容が理学療法の発展の一助と. 予防ができた。また,ミトコンドリア活性も同様の結果となっ. なれば幸いである。また,稿を終えるにあたり,実験やデータ. た。この実験例では,運動は「筋量」の減少を予防することは. 収集をサポートしていただいた神戸大学大学院保健学研究科リ. できるが, 「筋質」 「筋源」に関与する毛細血管退行を予防する. ハビリテーション科学領領域運動機能障害学研究室のスタッ. ことはできないことを裏づける結果である。そこで,運動負荷. フ,研究員,大学院生の各位に深謝する。. と抗酸化栄養素の摂取を併用すればよいのではないかと着想で きる。その併用効果を観察すると, 「筋量」の減少と「筋質」 「筋 源」に関与する毛細血管退行・ミトコンドリア活性低下をとも に予防できる結果が得られた。これらの結果から各々の利点を 生かすことで効果的な筋萎縮の予防を実践できると考えられる。 また,抗酸化栄養素を摂取したヒトの介入試験を実施した結 果では,6 分間歩行が延長し,運動負荷後の血中乳酸値の増加 が減衰し,骨格筋における運動耐容能が増加する成果を得て いる。 これらの実験例から筋萎縮を予防するための効果的な理学療 法は,運動の利点,欠点を理解したうえで,実践することであ ると結論づけられる。また,「筋量」の減少を効果的に実施す るためにはアミノ酸摂取も有効である。一方,毛細血管退行の 予防には低周波電気刺激による筋の単収縮も有効な手段にな る。理学療法に関連する治療法を整理して,より有効な理学療 法の開発も重要である。. 展 望 筋萎縮は理学療法の中でもっとも関与する機会の多い症候で. 文 献 1) Fujino H, Kohzuki H, et al.: Regression of capillary network in atrophied soleus muscle induced by hindlimb unweighting. J Appl Physiol (1985). 2005; 98: 1407–1413. 2) Fujino H, Kondo H, et al.: Capillary growth and regression in skeletal muscle. J Phys Fitness Sports Med. 2014; 5: 483–491. 3) Nagatomo F, Fujino H, et al.: PGC-1alpha and FOXO1 mRNA levels and fiber characteristics of the soleus and plantaris muscles in rats after hindlimb unloading. Histol Histopathol. 2011; 26: 1545–1553. 4) Powers SK, Smuder AJ, et al.: Oxidative stress and disuse muscle atrophy: cause or consequence? Curr Opin Clin Nutr Metab Care. 2012; 15: 240–245. 5) Kanazashi M, Tanaka M, et al.: Amelioration of capillary regression and atrophy of the soleus muscle in hindlimb-unloaded rats by astaxanthin supplementation and intermittent loading. Exp Physiol. 2014; 99: 1065–1077. 6) Kanazashi M, Okumura Y, et al.: Protective effects of astaxanthin on capillary regression in atrophied soleus muscle of rats. Acta Physiol (Oxf). 2013; 207: 405–415. 7) Fujino H, Ishihara A, et al.: Protective effects of exercise preconditioning on hindlimb unloading-induced atrophy of rat soleus muscle. Acta Physiol (Oxf). 2009; 197: 65–74..

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図 1  A;筋萎縮予防のための三要素(筋量,筋質,筋源).B;運動負荷と栄養素摂取

参照

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