症例
Adult typeの左冠状動脈
肺 動 脈 起 始 症 術 後 遠 隔 成 績
●特 に左 室 機 能,冠 血 流 量,冠 状 動 脈 形 態
河 内寛治 北村惣一郎
酒井
敬
平中俊之 谷口和博 扇谷信久
南野隆三
大山朝賢
康
重夫
川島康生
左 冠 状 動 脈 肺 動 脈 起 始 症 の 2 例 に , t o w c o r o n a r y s y s -temの 再 建 術 式 を施 行 し,そ の 術 後遠 隔期 に検 査 を 行 い, 左 室 機 能,冠 血 流量 お よ び心 筋 酸 素 消 費 量 な らび に冠 状 動 脈 の 術 後 形 態 に 検 討 を 加 え た . 術 後 検 査 は 症 例 1 ( 1 4 歳,女子)では,術後2カ月および49カ月(4年1カ月) に 行 い , 症 例 2 ( 5 3 歳 , 女 ) で は 術 後 2 カ 月 に 施 行 し た . 症 例1で は,術 後,左 室 容 積,左 室 心 筋 重 量 お よび左 室 駆 出 率 は正 常 値 を示 した.冠 状 静 脈 洞 血 流 量 お よび心 筋 酸 素 消費 量 は減 少 傾 向 に あ るが,運 動 負 荷 に よ り良 好 に 増 加 した.右 冠 状 動 脈 は 術 前 の 拡 張,蛇 行 は 消失 し,正 常 像 を示 した.し か し,左 冠 状 動 脈 の拡 張,蛇 行 は 残 存 した.症 例2で は,左 室 容 積 は 著 明 に 減 少す るが,心 筋 重 量 の 減 少 の 程 度 は 少 な か っ た.冠 状 静 脈 洞 血 流 量 お よ び心 筋 酸 素 消 費 量 は 術 後 低 値 を示 し たが,ペ ー シ ン グお よび 運 動 負 荷 で は 増 加 した.右 冠 状動 脈 の拡 張,蛇 行 は 著 明 に 減 少 し た が , 左 冠 状 動 脈 の 拡 張 , 蛇 行 は 残 存 し た 、 (1981年8月24日 原稿 受 領) 大 阪大 学 医 学 部 第1外 科 (〒553大 阪 市福 島 区福 島1-1-50) 桜 橋 渡 辺 病 院 (〒530大 阪 市 北 区梅 田2-4-32) 奈 良県 立 医科 大 学 第3外 科 (〒634橿 原 市 四 条町84◎)Surgical repair of anomalous left coronary
artery from the Pulmonary artery in Adults
-Late results of the left ventricular
function, the coronary sinus blood flow and
the form of coronary artery
Kanji Kawachi, Soichiro Kitamura,
Kei Sakai, Toshiyuki Hiranaka, Kazuhiro
Taniguchi, Nobuhisa Ogitani, Ryuzo
Mi-左 冠 動 脈 肺 動 脈 起 始 症(Bland-White-Garland 症 候 群)は30万 人 の 小 児 に1人 の 割 合 で 発 生 す る と い わ れ る ま れ な 疾 患 で あ り1),infant七ype2)の 死 亡 率 が き わ め て 高 く,成 人 に ま で 達 す る 例 は 少 な い. し た が っ て,infan七 七ypeに 対 す る 外 科 治 療 の 報 告 は 増 加 し つ つ あ り3)∼6),そ れ と と も に,術 後 遠 隔 期 の 血 行 動 態,特 に 左 室 機 能 に 関 す る 報 告 も 増 加 し て きた4)7)∼9).と こ ろ が,adulttypeに 関 し て の 術 後 遠 隔 期 の 報 告 は 少 な くle)∼12),冠 血 流 量 お よ び 心 筋 酸 素 消 費 量 に つ い て の 報 告 は 皆 無 で あ る. そ こ で,著 者 ら はadulttypeの2例 に 対 し,異 常 開 口 部 の 結 紮 の み な ら ず,い わ ゆ るtwocoro-narysystemの 再 建 術 式 を 施 行 し,そ の 術 後 遠 隔 期 に,左 室 機 能 を 中 心 と し た 血 行 動 態,冠 血 流 量 お よび 心 筋 酸 素 消 費 量 な ら び に 冠 状 動 脈 の 形 態 に 検 討 を 加 え 報 告 す る. 症 例1,2と も に す で に 報 告 さ れ て い る の で 簡 略 に 記 す12)13). § 症 例 症 例1:14歳,女 子. 主 訴 は 労 作 時 の 動 悸 で あ り,入 院 時 所 見 で は,胸 骨 左 縁 第ll肋 間 に 最 強 点 を 有 す るLevine4/6の 収 縮 期 雑 音 が 聴 取 さ れ,運 動 負 荷 心 電 図 に よ り,V2∼5 のSTの 低 下 を 認 め た. 心 臓 カ テ ー テ ル 検 査 で は 肺 動 脈 本 幹 部 で,酸 素 飽 和 度 の 上 昇 を 認 め,肺 体 血 流 量 比2.84,肺 体 血 管=抵 抗 比 は0.02で あ った.選 択 的 冠 状 動 脈 造 影 で は,右 冠 状 動 脈 は 著 明 に 拡 大,蛇 行 し,1atestageで は 側 副 血 行 路 を 通 り,左 冠 状 動 脈 な ら び に 肺 動 脈 が 造 影 さ れ た(図1).し た が っ て,左 冠 状 動 脈 肺 動 脈 起 始
namino, Choken Oyama, Shigeo Koh, Yasunaru Kawashima.
Osaka University Medical School*, Sakurabashi Watanabe Hospital**, Department of Surgery, Division of Thoracic and Cardiovascular Surgery, Nara Medical College***.
Keywords 左冠 状 動脈 肺 動脈 起 始 症 左 室機 能 Bland--White-Garland症 候 群 冠 状 静脈 洞 血 流 量 心 筋 酸 素 消 費 量
図1右 冠 状 動 脈 造 影(症 例1,術 前) 右 冠 状 動 脈 の 拡 張 ・蛇行 は著 明 で,側 副 路 に よ り拡 張 した 左 冠 状 動 脈 が造 影 され る.
表1左
冠状動脈肺動脈起始症の血行動 態
HR:心 拍 数,CI=心 係 数,SVI=1回 心 拍 出 量係 数, LVSP:左 室収 縮 期 圧,LVEDP:左 室 拡張 末 期 圧, mPA=平 均 肺 動 脈圧,LVESV:左 室 収 縮 末 期 容 積, LVEDV:左 室 拡 張 末 期 容積,LVM:左 室 心 筋 重 量症 と診 断 し,昭 和51年7月26日
に 手術 を施 行 した.
手 術 は 胸 骨 正 中 切 開 で 行 い,右 冠 状 動 脈 は 起 始 部 か
ら拡 張,蛇 行 し,末 梢 側 に は 多 数 の 拡 大 した側 副路
を 認 め た.左 冠 状 動 脈 は 肺 動 脈 本 幹 後 方 よ り出 て,
前 下 行 枝 と回 旋 枝 に 分 か れ て い た.中 等 度 低体 温 体
外 循 環 で心 室 細 動 下 に 肺 動 脈 本 幹 を 横 切 し,左 冠状
動 脈 の異 常 開 口部 をposteriorpulmonarysinus
に認 め た.心 停 止 下 に,異 常 開 口部 を肺 動 脈 壁 を含
め て輪 状 に 切 除 し た.心 筋 保 護 法 は導 入 され てお ら
ず使 用 しなか った.左 冠 状 動 脈 は薄 く静 脈 様 を 示 し
た.切 除 した 異常 開 口部 と大動 脈側 壁 に 直接 端 側 吻
合 を施 行 した.術 後2カ 月 目 と4年1カ
月 目に 術 後
検査 を施 行 した.な お,術 後 経 過 は順 調 で学 業 生 活
に 復 して い る.
検 査 成 績(表1,2):両
心 カテ ーテ ル 検 査 に よ り血
行 動 態 の諸 指 標 を 求 め,肘 静 脈 よ り,冠 状 静 脈洞 に
ウ ェ ブス ター の カテ ーテ ル を 挿 入,熱 希 釈法 に よ り
冠 状 静脈 洞 血 流 量(CSF)を
測 定 し14}15),心筋酸 素
消 費 量 も 求 め た.さ らに,仰 臥 位 で 自 転 車 型 エ ル ゴ メ ー タ ー に よ り50W・sec,5分 間 の 運 動 負 荷 を 行表2・ 左冠 状 動 脈 肺動 脈起 始 症 の 冠 状 静 脈 洞 血 流量(CSF》 お よび 心 筋 酸 素 消 費量(MVO2) CSF:冠 状 静 脈 洞 血 流 量,MVO2:心 筋 酸 素 消費 量 図2右 冠 状 動 脈造 影(症 例1,術 後) 術 前 に 認 め られ た拡 張 ・蛇 行 は 消 失 し,正 常 濛 を 示 し た. い 同 様 の 検 査 を 施 行 し た.そ の 後,左 室 造 影 お よ び 選 択 的 冠 状 動 脈 造 影 を 施 行 し た.術 前 お よ び 術 後2 カ 月 目 の 検 査 は 両 心 カ テ ー テ ル 検 査 お よ び 造 影 検 査 の み で あ り,術 後4年1ヵ 月 目に はCSFの 測 定 お よ び 運 動 負 荷 検 査 も 施 行 し た. 心 係 数(CI)は 術 後 安 静 時:4.89t/minlm:',術 後 運 動 負 荷 時:7.721/min/m2と な り.1回 心 拍 出 量 係 数 (SVI)は 術 後 安 静 時:42ml/m2,術 後 運 動 負 荷 時: 47ml/m2と な り,1い ず れ も術 後 安 静 時 に は 正 常 値 を 示 し,運 動 負 荷 に よ り著 明 に 増 加 した.左 室 拡 張 末 期 圧(LVEDP)賄 前 後 錨 時 と もec8mmHgと 正 常 値 を,術 後 運 動 負 荷 時12mmHgと 増 加 し た.平 均 肺 動 脈 圧(mPA)は 術 前 後 と も に 正 常 値 を 示 した. 図3左 冠 状動 脈 造 影(症 例1,術 後) 左冠 状 動 脈 の 前 下 行 枝 お よび 回 旋枝 の拡 張 ・蛇 行 は まだ 残存 した. 左 室 容 量 の 術 前 後 の 指 標 の そ れ ぞ れ は,左 室 収 縮 末 期 容 積(LVESV)は 術 前43ml/m2,術 後24ml/m2, 左 室 拡 張 末 期 容 積(1・VEDV)は お の お の115ml/m2, 75mt/m2,左 室 心 筋 重 撮(LvM)は お の お の12191m2, 919/m2,左 室 駆 出 率(EF)は お の お の0.62,0.68で あ り,術 前 軽 度 増 大 を 示 し た 左 室 収 縮 末 期 容 積,拡 張 末 期 容 積 お よ び 心 筋 重 量 は い ず れ も 術 後 に は 正 常 値 を 示 し た. 冠 血 流 量 を 示 す 指 標(表2)のCSFは 術 後 安 静 時:93ml/min術 後 運 動 負 荷 時;204mllmin,単 位 心 筋 当 た りのCSF1100gLVは 術 後 安 静 時:76ml/ .
minllOOgLV,術 後 運 動 負 荷 時:167mllmin/100gLV を 示 し た,心 筋 酸 素 消 費 量(MVO2)術 後 安 静 時=10・6 mllmin,術 後 運 動 負 荷 時:21.2mllmin,MVO2/100 gLVは 術 後 安 静 時:8.7ml/min/100gLV,術 後 運 動 負 荷 時:17.4ml!min/100gLVを 示 し た.CSFは ほ ぼ 正 常 範 囲 内 に あ る と 考 え ら れ,運 動 負 荷 に よ り, 良 好 に 増 加 し,狭 心 痛 も 認 め な か っ た. 冠 状 動 脈 の 形 態 に 関 し て は,右 冠 状 動 脈 は 術 前 の 拡 張 ・蛇 行 は 消 失 し,側 副 血 行 路 も 消 失 し て 正 常 像 を 示 し た(図2).左 冠 状 動 脈 は 前 下 行 枝 お よ び 回 旋 枝 の 拡 張,蛇 行 は 著 し く,中 部 に 至 る ま で 残 存 し た (図3), 症 例2:53歳,女 子 。 主 訴 は 労 作 時 呼 吸 困 難 で,胸 骨 左 縁 第4肋 間 か ら 心 尖 部 に か け てLeVine316の 収 縮 期 雑 断 を 聴 取 し, 肝 は1.5横 指 触 知 し た.運 動 負 荷 心 電 図 で はV4∼6ま で0.5mVのSTの 低 下 を 認 め た.心 臓 カ テ ー テ ル 検 査 で は,肺 体 血 流 量 比1.63と 軽 度 増 加 し,肺 体 血 管 抵 抗 比 はO.15で あ った.右 冠 状 動 脈 造 影 でt右 冠 状 動 脈 は 拡 張,蛇 行 し,一 部 動 脈 瘤 様 の 拡 大 を 認 め, 多 数 の 側 副 血 行 路 を 介 し て,拡 張 ・蛇 行 し た 左 冠 状 動 脈 が 造 影 され,さ ら に 肺 動 脈 へ の 流 入 を 認 め,本 症 と 診 断 し た(図4).左 室 造 影 で 僧 帽 弁 逆 流 を 認 め た.手 術 は 胸 骨 正 中 切 開 で 行 い,右 冠 状 動 脈 は1.5 cmと 拡 張 ・蛇 行 し て い た.側 副 血 行 路 を 多 数 に 認 め,左 冠 状 動 脈 も1.5cmと 拡 張 し て い た.心 室 細 動 下 に 肺 動 脈 を 横 切 開 し,径5mmの 異 常 開 口 部 をpos・ teriorpulmonarysinusに 認 め た.局 所 冷 却,GIK 液 に よ る心 筋 保 護 液 を 用 い,心 停 止 と した.経 肺 動 脈 的 に 異 常 開 口 部 を4-Opolyprolen糸 を 用 い,直 接 連 続 縫 合 閉 鎖 し,さ ら に,プ レ ジ ッ ト付3-0ナ イ ロ ン 糸 に て 補 強 し た.つ い で,7-Opolyprolen糸 を 用 い,左 前 下 行 枝 一 大 伏 在 静 脈 の 連 続 縫 合 に よ る 吻Aを 行 っ た.な お,心 筋 保 護 液 は5%ブ ドウ 糖, KCI10mEq,メ イ ロ ソ8ml,イ ソ シ ュ リ ン8単 位 、 50%ブ ドウ 糖30ml,ヘ パ リン1mlで あ り,初 回 に 500mlを 注 入 し,そ の 後 は30分 ご と に 半 量 を 注 入 し た. 検 査 成 績(表1,2):CSFは 術 前 後 と も に 測 定 し た. 負 荷 は 心 房 ペ ー シ ン グ 負 荷 を 術 前 後 に,運 動 負 荷 は 術 後 に の み 施 行 し た. CIは 術 後 安 静 時:3.161/min/m2,術 後 運 動 負 荷 時:3.801!min/m2と な り,SVIは 術 後 安 静 時:49 図4右 冠 状 動 脈 造 影(症 例2,術 前) 症 例1と 同 様 に 拡 張 ・蛇 行 は 著 し く, Latestageで は,側 副 路 か ら拡張 し た左 冠 状 動脈 が造 影 され る. ml/m2,術 後 運 動 負 荷 時:41mllm2と な り,CIは 軽 度 増 加 し た が,SVIは 減 少 を 示 し た.LVEDPは 術 前 安 黼=15㎜Hg,黻 賄 時:10mmHg,術 後 負 荷 時:15mmHg,と な り,術 前 異 常 値 を 示 す が, 術 後 は 正常 範 開 内 と な り,運 動 負 荷 に よ り上 昇 し た. mPAの お の お の は,30mmHg,14㎜Hg,28mmHg と な り,術 前 肺 高1血圧 を 呈 し た が,術 後 は 正 常 値 を 示 し た.LVESvは 術 前72mηm2,術 後44ml/m2, LVEDvは お の お の160mllm2,114ml/m2,LvMは お の お の2749!m2,23091m2,EFは お の お のo・55, 0.61と な り,術 前 の 増 大 し たLVESV,LVEDVは 術 後 正 常 近 く ま で 減 少 し た.し か し,LVMは 術 後 減 少 す る が,心 筋 壁 厚 の 減 少 は 少 な い た め に な お, 異常 高 値 を 示 し た,EFは 術 後 増 加 し た,CSFは 術
図5右 冠 状 動 脈 造 影(症 例2,術 後) 術 前 の 拡 張 お よ び側 副路 は 消失 した. 前 安 静 時:158ml/min,術 前 ペ ー シ ン グ 時:206ml/ min,術 後 安 静 時:102mllmin,術 後 ペ ー シ ソ グ:217 ml/min,術 後 運 動 負 荷 時:188ml/minと な り,安 静 時 に は 術 後 減 少 し た 。 し か し,ペ ー シ ン グ に よ り 軽 度 増 加 し,運 動 負 荷 に よ り1.8倍 増 加 し た.単 位 心 筋 当 た りのCSFは,術 前 安 静 時:34mllmin/100 gLV,術 後 安 静 時:27mllminloogLVと な り,術 前 後 と も に 低 値 を 示 し た.MVO2は 術 前 安 静 時:11.1 ml!min,術 前 ペ ー シ ソ グ時:14.4ml/min.術 後 安 静 時:11.4mllmin,術 後 ペ ー シ ン グ 時,14.1mll min,術 後 運 動 負 荷 時:13.2ml/minと な り,MVO,
は 術 前 後 に は 差 を 認 め な か っ た.単 位 心 筋 当 た りで は,お の お の,術 前 安 静 時:2.4ml/min/IOOgLV, 術 前 ペ ー シ ン グ 時:3.1ml/min1100gLV,術 後 安 静 時:3.omllminlloOgLV,術 後 ペ ー シ ン グ 時:3.7ml lminlloogLV,術 後 運 動 負 荷 時4.Omllmin/loogLV, と な り,安 静 時 お よ び ペ ー シ ン グ時 と もに 術 後 の 増 加 を 認 め た.右 冠 状 動 脈 は 術 前 の 拡 張 ・蛇 行 は 消 失 し,ま た 側 副 路 も 消 失 し た(図5).左 前 下 行 枝 の グ ラ フ ト造 影 で は 開 存 を 認 め た.前 下 行 枝 ・回 旋 枝 と も に 拡 張 ・蛇 行 は 残 存 し た(図6). § 考 察 左 冠 状 動 脈 肺 動 脈 起 始 症 の 術 後 遠 隔 期 に お け る血 行 動 態,特 に 左 室 機 能,冠 血 流 量 お よ び 心 筋 酸 素 消 費 量 な ら び に 冠 状 動 脈 の 形 態 に 関 し て 考 察 す る. 大 多 数 が 乳 幼 児 期 に 重 篤 な 症 状 を 呈 し,外 科 治 療 が 行 わ れ る た め に,術 後 遠 隔 期 の 血 行 動 態,左 室 機 能 に 関 す る も の はinfanttypeに 多 くみ られ る4)7)∼ 図6Graft造 影 に よ る 左冠 状 動 脈(症 例2、 術 後) Graftの 開存 を認 め た .左 前下 行 枝 ・回 旋 枝 の拡 張 ・蛇 行 は 残存 した. 9)16).す な わ ち,Arciniogasら9)の 報 告 に よ る と, 異 常 血 管 の 結 紮 な い し は 離 断 術 を 行 うonecoru-11arysystemの 再 建 術 式 を 施 行 し た も の で は,左 室 駆 出 率 は 術 前 後 に 変 動 せ ず に,twocoronary systemの 術 式 を 施 行 し た も の で は,改 善 し た と述 べ られ て い る. Levitskyら7)の 報 告 で は 左 室 拡 張 末 期 容 積 お よ び 左 室 心 筋 重 量 は 術 後 減 少 し,左 室 駆 出 率 も 増 加 す る. Monroら16)も 術 後 に は 左 室 駆 出 率 は 改 善 す る と述 べ,Nechesら8)はdp!dtが 増 加 す る と述 べ ,So-mervilleら17)は 肺 動 脈 楔 入 圧 が 低 下 し た と報 告 し た.し た が っ て,infanttypeで は,そ の 時 期 に 手 術 を 行 い,そ の 術 後 遠 隔 期 に は,左 室 機 能 が 改 善 す る こ と が 知 りえ る.と こ ろ が,慢 性 期 に 至 っ たadult typeに 関 し て は,術 後 に は 左 室 機 能 が 改 善 す る の か に つ い て は,報 告 が 少 な い11). 術 前 増 大 し た 左 室 容 積(LVESV,LVEDV)は 術 後2カ 月 目 よ り著 明 に 減 少 し,4年1カ 月 を 経 過 す る と正 常 値 を 示 し た(図7).と こ ろ が,左 室 心 筋 重 量 に つ い て は 術 後 減 少 す る が 容 積 ほ ど 著 明 に は 減 少 し な い.症 例1(若 年 者)で は,正 常 値 を 示 し た が, 症 例2(高 齢 者)で は,術 前 の 肥 厚 し た 壁 厚 の 減 少 は 少 な い た め に ま だ 異 常 値 を 示 す こ と とな る .こ の こ と は 本 症 と 同 じ く容 積 負 荷 の 疾 患 で あ る 大 動 脈 弁 閉 鎖 不 全 症 で は,術 後 に 左 室 容 積 は 正 常 な い し は そ の 付 近 に ま で 減 少 す る.と こ ろ が,心 筋 重 量 は 肥 厚
図70:症 例1(14歳,女),△:症 例2(53歳,女) 左室 収 縮 末 期 容 積(LVESV)拡 張 末 期容 積(LVE DV)は 衛 後 著 明 に 減 少 した.左 室 心 筋 重 量(LVM) の術 後 の減 少 ゐ 程 度 は 少 ない.症 例1は 正常 値 を 示 した.左 室 駆 出率 は正 常 値 を示 し た. した 左 室 心 筋 壁 厚 が 減 少 し な い た め に,な お 異 常 値 を 示 し て い た18)ig)こ と と 類 似 し て い る.容 積 負 荷 の 期 間 の 比 較 的 少 な か っ た14歳 例 で は,左 室 心 筋 壁 の 肥 厚 も 術 前 に は 認 め られ て お らず,術 後 の 左 室 機 能 の 改 善 性 は 充 分 にreversibleで あ った.と こ ろ が, 53歳 例 で は,壁 の 肥 厚 が 著 し く,左 室 機 能 は 改 善 を 認 め る が,そ の 程 度 は 悪 い.一 番 改 善 の 不 良 で あ る 心 筋 肥 大 の 面 か ら 考 え る と,や は り,若 年 時 に 手 術 を 施 行 す る こ と が 必 要 で あ ろ う. 本 症 術 後 の 遠 隔 期 の 冠 血 流 量 に 関 す る 報 告 は み ら れ な い.正 常 例 のCSFは,Ganzら15)は122ml/min, Mehtaら2◎)は149mZ/min,著 者 ら21)は182ml/min, と報 告 し て い る.こ れ ら と 比 較 す る と,2例 と も に
術後 のCSFは
少 な く(図8)症
例2の 術 前 値 のみ が
正常 範 囲 内を 示 して い た.術 前 に は 容積 負 荷 に伴 い
心 筋重 量 お よび 左 室 心 筋 壁 応 力 は 増 大 を きた して い
る とい う面 か ら考 え る と,正 常 であ る とは い え ず,
単 位 心筋 当た りCSFは や は り低 下 を示 し て い る.し
た が って,術 前 後 と もに冠 血 流 量 は減 少 して い る.
しか し,ペ ー シ ン グ負 荷 を 行 い,術 前 後 に 同 じ心 拍
数 で比 べ る と術 後 の 方 が増 加 を 示 して お り,運 動 負
荷 時 に も冠 血 流 量 は 充 分 に 増 加 し,狭 心 痛 も発 生 し
ない こ とか ら,供 給 は充 分 で あ った と考 え られ る.
症 例1の 冠血 流 量,心 筋 酸 素 消費 量 は正 常 値 に 比
して低 値 では あ るが,若 年 者 で あ り,成 人 に は達 し
てい な い こ とを 考 慮 す る とほ ぼ 正 常 値 に 近 い もの と
図80:症 例1,△:症 例2 2例 と も に術 後 の 冠 状 静 脈 洞 血流 量(CSF)は 低 値 を示 した .し か し, 運 動 負 荷 に よ り増 加 は著 明 で あ っ た.
考 え ち れ,ま た,大 動 脈弁 量 換 術 後 例22)と比較 し て
も減 少 して い な か った.し た が って,冠 血 流 量 を増
加 させ え る た め に も若 年 者 で の手 術 が 望 まれ る。
本症 術 後 の冠 状 動 脈 の 形態 的 変 化 に関 す る報告 は
少 な い.術 後 に は,右 冠 状 動 脈 は術 前 の拡 張 が 消失
した と述 べ て い る もの と23),術 後 依 然 と して,拡 張
は 残 存 し,側 副 血 行 路 を 通 り,左 回旋 枝 が造 影 され
た11)との 報 告 もみ られ る.本 例 で は,術 後2ヵ 月 目
に は著 し く細 くな り,4年1ヵ
月 目の像 では,ま
っ
た く正 常 像 を 示 して お り,適 切 に 手 術 が 施行 され れ
ぽ,正 常 に ま で も ど り うる もの と考 え られ る.と こ
ろ が左 冠 状 動 脈 に関 し ては,2症
例 と もに 異常 な形
態 の拡 張,蛇 行 は残 存 を 示 して お り,左 と右 の冠 状
動 脈 は 本 質 的 に差 が あ る こ とが疑 わ れ る.Usmann
ら24)の剖 検 に よ る と右 冠 状 動脈 は肥 厚 し てお り,こ
れ に反 し て,左 冠 状 動 脈 は 薄 く,静 脈様 の変 化 を 示
す と述 べ られ てお り,長 期 間 低 圧 に さ ら され,静 脈
様 の24)25)左
冠 状 動 脈 につ い ては,術 前 の拡 張,瘤 様
の 変 化 は 回 復 しな い もの と考 え られ る.
§
お わ りに
左 冠 状動 脈起 始 症 のadulttypeの14歳(若
年者),
お よび53歳(高
年 者),の2例
に 対 し,twocoro・
narysystemの
再 建 術式 を行 い,術 後 遠 隔期 に 検
査 を 施 行 し,左 室機 能 を 中 心 とした 血 行 動 態,冠 血
流 量 お よ び心 筋 酸 素 消 費 量 な らび に,冠 状動 脈 の術
後形 態 に 検討 を 加 え た.
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