現代金融機 関 にお ける効率性 と公共性
経済学研究室 藤 はじめに一 問題の所在 ―I
「効率性」お よび「公共性」の概念 についてH
金融機関の社会的責任問題 の台頭 Ⅲ 新金融効率化政策 にみる「効率性 と公共性 の調和」 とその問題点 Ⅳ 銀行法改正 をめ ぐる公共性論議 とその特徴(D―
新銀行法の「 目的規定」 に関 してV
銀行法改正 をめ ぐる公共性論議 とその特徴 修)一― ディスクロージャーに関 して Ⅵ 金融 自由化 とバブル経済期 の銀行行動 おわ りに一―公共性優先 の金融 システムヘの転換 をめざして一は じめに一 問題の所在―
ユルゲ ン・ハーバーマス
(Jurgen Habermas)は
,そ
の著『公共性 の構造転換』 (Strukturwandelder Offentlichkeit)に おいて,「公共性」とい う言葉が
,歴
史的由来 によって実 に多様 な意味 をもっ ていることを指摘 し,つ
ぎのように述べている。 「『公的』とか『公共性』とかいう言葉 の使 い方 をみると,そ
れには幾多の競合す る語義が含 まれ ていることがわかる。 これ らの語義 は,そ
れぞれ別 な歴史的局面か ら由来す るのであって,進
歩 し た工業 と福祉国家的体制 とをそなえた市民社会 の諸状況 に共時的に適用 され ると,ど
うも紛 らわ し い結 びつ きが生ず る。 もっ とも,在
来の用語法 にそ ぐわない これ らの諸状況 その ものが,い
かに紛 らわ しくともこれ らの言葉 の使用 を,い
なその述語的駆使 をさえ,必
要 としているようにみえる。 とい うのは,た
だで さえ官庁やマス・ メディアの慣用語の型 にはめられた日用語が これ らの言葉 に 執着 してい るだけでな く,科
学,
とりわけ法学,政
治学,社
会学のような諸科学 も,『公的』と『私 的』,『公共性』,『公論』(世論)とい うような伝統的カテゴ リーを,も
っ と明確な規定 と取 りかえる ことは,明
らかに不可台となことだか らである。」(1) ハーバーマスのこの指摘 は,本
稿 のテーマにある「公共性」のみな らず,「効率性」という言葉 に 関 して もあてはまる。 便利 な言葉であればあるほど,常
用 されだす と,い
つのまにかその言葉で安心 して しまって,本
質的に重要なことを,そ
れ以上 に探求 しな くなる傾向がある。言葉 によって,本
質がボカされて し まう,と
言ってよいか もしれない。だが,そ
のうち次々 と現実だけが進んでいって,つ
いに無視 し えないほど深刻な問題が生 じて くると,やっ とその言葉の意味 を,現
実が生起 した問題 に照 らして, 安 田藤 田安一:現代金融機 関 における効率性 と公共性 検討す ることが必要であると気づ くようになる。本稿で とりあげる「効率性」 とい う言葉 も
,こ
の 種の もので はあるまいか。 金融 の「効率性」や金融機関の「効率性」 として,な
じみのある用語であるが,大
変,響
きの良 い言葉であ り,こ
れ以上,文
旬 のつけようがないかのように思 える。だが,金
融機関がその効率性 を追求 した結果,招
いたバ ブル経済 とその崩壊後 の金融 システムの混乱 をみると,一
体 「効率性」 とは何 なのか と考 えざるをえない。今 まで,効
率性 とい う言葉 によって,大
切 な現実の金融問題 の 所在が隠 されて きたので はないか,
とさえ思 える。 それ を,効
率性 と公共性 の「調和」 とい う言葉 によって修正 して も同 じである。バ ブル経済期 の金融機関の行動 にみ られたように,「調和」どころ か,も
っぱら公共性 を無視 して効率性 の追求 に終始 した感がある。その結果,引
き起 された金融不 安の真 っ只 中に,い
ま私達 は生活 しているのである。 この金融危機か らいかにして脱却 し,安
定 し た金融 システムを, どのようにした ら創 ることがで きるのであろうか。 本稿 の課題 は,こ
のような問題意識 の もと,
これ までの金融機関の「効率性」論や「効率性 と公 共性 の調和」論 を再検討す ることによって,現
代 における金融機関のあ り方 を考察す ることにある。I
「効 率 性 」 お よ び 「公 共 性 」 の 概 念 に つ い て まず,本
題 に入 る前 に,効
率性 と公共性 の概念 について,こ
こで簡単 に整理 してお こう。 経済学で効率 という用語 は,次
の2つの意味 を含 んでいる。技術的効率 と社会的効率が,そ
れで ある・ ち前者 の技術的効率 とい うのは,で きるだけ低い生産費で商品生産 を可能 とす るような技術上 の効率 を意味す る。それに対 して,後
者 の社会的効率 は,資
源や資金が経済 の各部門・分野 に適切 に配分 されるという配分上の効率 を意味す る。 したがって,効
率性 とい う概念 を,上
記の どち らの意味で使用するかによって議論が変わつて く る。い ま仮 に,本
稿で使用する効率 とい う用語 を,後
者 の社会的効率 とい う意味で用いれば,公
共 性 とほぼ同 じ意味 にな り,概
念上 の区別がつかな くなってしまう。 そこで,本
稿 で は,効
率性 は収 益性 と同義語 として使用す る。収益性 とほぼ同 じ意味で効率性 という概念 を使 っている例 は,日
常 的な使用以外 に数多 く見受 けられ る。例 えば,本
稿で取 り上 げる大蔵大臣の諮問機関である金融制 度調査会の答 申「普通銀行 のあ り方 と銀行制度の改正 について」(1979年6月20日)に
は「新 しい金 融効率化の展開」 として「効率性 と社会的公正 の調和」が掲げられている。 これな どは,社
会的公 正 に対立す る概念 として効率性が用い られてお り,ほ
ぼ収益性 と同 じ内容 をもつ と考 えられ る。 他方,金
融機関の公共性 については,従
来か ら2つの概念 をもつ とみなされて きた。第1は,預
金者 の保護や信用秩序の維持 を図るとい う静態的に とらえられた公共性であ り,第
2に,資
金配分 面等の適切 な発揮 をはかるとい う,いわば動態的,積
極的にとらえられた公共性であるk31。 以上2つ の概念 は,社
会の発展 に照応 してお り,従
来,預
金者保護 と信用秩序の維持 を中心 としていた銀行 の公共性 の内容 に加 えて,現
在で は,資
金配分 の適性・ 円滑化 と公正取引の確保 とい う機会均等 に 関連 した新 しい公共性が,そ
の内容 として要求 され るようになっている14J。 さらに,銀
行が高い公共性 を有す る理 由 として,他
の私企業 に比べて,次
の点が銀行 の「公共性」 の内容 と言われて きた0。 第1に,銀
行 の預金者の受 け入れ は,不
特定多数の国民資産 の預託 を受 けるもので,国
民 に重要 な貯蓄手段 を提供 している。 さらに,預
金 によ り,国
民の余剰資金が退蔵 され ることな く,資
金の 需要者 と供給者 との間の円滑かつ効率的な資金移動 を可能 としている。第2に,貸
出業務 により,鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 経済主体 に対 して重要な資金の供給 を行 ない,そ
れによって供給 され る資金の量 と質 は,生
産 お よ び消費 な どの規模 と方向を決定する根本要因 となる。第3に,銀
行 は中央銀行である日本銀行 の金 融政策の代行機関および補助機関 として重要な役割 を担 っている。 したがって,い
ったん銀行 の こうした公共性が失われ る事態がお きると,た
ちどころに,金
融・ 通貨 システムに対す る信用 を失墜 させ,社
会経済全体 の混乱へ と発展す る。 こうした事例 は,1920
年代末か ら30年代初頭 におけるアメ リカや昭和初期 のわが国の金融恐慌 をはじめ,多
くの歴史的経 験が示す ところである。 とくに,現
在み られ るように,金
融の自由化 。国際化が急速 に進展す るこ とによって,ま
す ます銀行業務が国内外の諸団体・ 諸個人 との結 びつ きを強 め,文
字 どお リグロー バルな展開を示す と,そ
の影響 は広範囲におよび,各
国の金融 システムに重大な結果 を招 くことに なる。だか らこそ,銀
行 に とって公共性 を確保することは,他
の私企業 のそれ以上 に重要な意味 を もってい る。そのため,各
国 とも形態や程度 の差 こそあれ,行
政当局が銀行 の金利や業務 内容,店
舗な どに関 して公的規制 を実施 し,そ
の公共性 を守 って きたのである。 Ⅱ 金 融 機 関 の 社 会 的 責 任 問 題 の 台 頭 1960年代半 ば頃か ら,金
融制度調査会 を中心 に,金
融効率化 をめ ぐる議論が盛 んに行 なわれ るよ うになって きた。その背景 には,当
時 はまだ高度経済成長 の途上 にあった とはいえ,1965年
の不況 をきっか けに,将
来成長率が低下 し,資
金需要が弱 ま り,利
輪が縮小す ることが予想 され る時代 が 来 るか もしれない との見通 しが あったか らである。 この厳 しい状況 に対応す る金融機関のあ り方 と して,金
融機関にその経営の効率化が求められた。具体 的には,社
会全体 に対す る適正 な資金供給 の手段 として,金
利 の弾力化 を進 め,金
利機能 を活用す ることが必要であると考 えられた。だが現 実 には,1965年
以降の数年間 は,な
ほ,か
な り高い経済成長が続 いたため,こ
の金融機関の効率化 問題 は,さ
ほど緊急 を要す るもの としては受 けとめ られていなかったのである。 しか し,
こうした状況 を一変 させたのは,な
ん といって も,1970年
代 に入 り石油 ショックを契機 とする高度経済成長の終焉であった。わが国の経済 の成長率の低下が現実 とな り,し
か もエネルギ ーな ど諸資源の制約 によって,今
後 かつてのような成長が望 めない ことが明確 になるとともに,急
激 に民間設備投資の停滞や公共部門における経済活動 のウエイ トが高 ま りつつあった。 こうした経 済環境 の変化が,金
融機関にどのような問題 を発生 させたか。金融問題研究会が まとめた「経済社 会環境 の変化 に対応 した今後 における金融機関のあ り方 に関す る報告書」(1978年5月27日)に
は, その問題点が次のように列記 されている0。(1)安
定成長経済への移行 により,金融機関の資金量 に従来 のような伸 びは見込めない ことか ら, 諸経費 の増加 を規模 の拡大 によ リカバーすることが期待 し難 くなって きている。鬱)資
金需給 の緩 和か ら貸出金利 の低下傾 向がみ られる一方,預
金金利 について は,そ
れに見合 った引下 げが困難 な 情勢 にあることか ら,利
輪 の縮小が余儀 な くされている。(3)相
対的 に収益性の高い企業部門 にお ける資金需要が停滞 し,他
方,収
益性 の低い公共部門及 び住宅 ローンをはじめとす る個人部門への 資金供給量が増大 してお り,こ
れが金融機関の収益 を圧迫 している。は)公
共部門及び個人部門へ の資金運用増加 は,運
用資金 の流動性 を低下 させ る結果 となっている。 また,住
宅 ロー ンな ど長期 運用資産が増大 している反面,現
在の資金調達手段 の もとで は長期 の資金調達が困難 な ことか ら, 資金調達 と資金運用にお ける機関対応ギャップの問題が,今
後一層重要な問題 となるもの と考 えら れる。(働 企業部門の資金需要の内容 としては,エ
ネルギー投資,海
外プロジェク ト,公
害防止投藤 田安一i現代金融機関 にお ける効率性 と公共性 資等の当面の収益 の増加 につなが りに くい性格 の投資分野が増大 して きている。
(6)企
業収益の悪 化 に伴い,金
融機関の運用資産 の健全性確保が問題 となって きている。 また,発
展途上国向融資の 増大 に伴 う海外向債権 内容 の悪化が指摘 され る。(7)我
が国における金融機関の融資態様 は,海
外 に比 し,貸
付条件等の面でやや画一的であ り,融
資先 に応 じた弾力性 に欠 ける面がある。 いよいよ,金
融機関の効率化が焦眉の課題 となる情勢 となったのである。だが,こ
の効率化 は前 述 した1960年代半 ば以降のそれ とはニュアンスを異 にす るものであった。 どの点が どの ように変化 して きたのか。 この点 を明 らかにするために,1970年
代初頭 にお きた銀行批半Jと,そ
れへの金融機 関および政府 の対応 をみてお こう。 1973年の第1次
オイル・ショックの直後,「狂乱物価」 とい う言葉 を生 んだように,諸
物価 の著 し い高騰がお こった。 その原因 として,物
価 の上昇 を見込 んだ商社 による物資の買い占めや売 り惜 し みが指摘 され,当
初,国
民の不満 と怒 りは商社 に向け られていた。 しか し,や
がてその商社 に投機 的資金 を与 えていた銀行 の批判へ と発展 し,企
業 の社会的責任 とともに,金
融機関の社会的責任が 問題 とされるようになった。 これ を契機 に,大
企業や大 口預金者 に比 して,中
小企業や小 口預金者 へのサービスの悪 さなど,そ
れ までの銀行への不満が一挙 にふ き出 し,「銀行 を告発す る会」とい う 市民組織がで きるあ りさまであった。 こうした世論 と市民運動 に対 して,全
国銀行協会連合会 は「社会的責任委員会」 を設置 し,各
地 に「よろず相談所」 を設 けた。 さらに,1975年
には,政
府 も今後 の金融機関のあ り方 に検討 を加 え るべ く,活
発 な動 きをみせ ることになる。 この点 を,大
蔵大臣の諮問機関である金融制度調査会 の 答 申を手がか りに検討 しよう。 Ⅲ 新 金 融 効 率 化 政 策 に み る 「効 率 性 と公 共 性 の 調 和 」 とその 問 題 点 金融制度調査会 は1956年の設置以来,現
在 に至 るまで,金
融制度上の問題 について審議 し,数
多 くの答 申を行 なって きた。なかで も,現
在金融制度 のあ り方 を検討す る上で,非
常 に注 目すべ き答 申が,「普通銀行 のあ り方 と銀行制度の改正 について」(1979年7月20日 )である。この答 申は,1975
年 5月,当
時の大平大蔵大臣か ら「経済金融情勢の推移 に鑑 み,銀
行 に関す る銀行法その他 の法令 及び制度上 に関 し改善すべ き事項並びにこれ らに関連す る事項 について,貴
調査会の意見 を求 めま す。」とい う銀行法 を中心 とした金融制度 の見直 しについて諮問 を受 け,以
来4年
間にわたって検討 した ものである。 金融制度調査会 の この答 申「普通銀行のあ り方 と銀行制度 の改正 について」が重要な意味 をもつ 理由は,言
うまで もな く,1927(昭
2)年
の制定以来,実
に50年ぶ りに銀行法の抜本的改正 を指示 したことにあった。だが,こ
の こと以外 に,本
稿 の課題である金融機関の効率性 と公共性 の関連 に ついて,一
つの見識 を示 した ことにある。それが,現
代 における金融機関のあ り方を考察す るのに, 善かれ悪 しかれ重要な手がか りを与 えて くれ る。 とい うのは,次
の理由か らである。 従来,金
融 の効率性 とい うと,ど
ちらか といえば金融機関 自体 の効率性 に重点が置かれ,金
融機 関の効率性 を追求す る過程 において,そ
の公共性 も保障 され るという考 え方を基調 としていた。 し か し,こ
の答 申で は,社
会が金融機関に求める公共性 とはなにか とい う国民経済的観点か ら,い
か にして金融機関の機能 を効率的に発揮 してい くか を基調 にしている。 これが,新
金融効率化政策 の 基本的な考 え方である。答 申は言 う。 「金融全体 として,金
利や業務範囲の弾力化等 を推進す ることにより,適
正 な競争原理 と金利機鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 能 を一層活用 してい く必要があることは当然である。同時 に金融の担 い手である金融機関 について は,近
年,経
営環境 の厳 しい変化がみ られ ることにかんがみ,そ
の経営の効率化 を一層推進す るこ とがつ よ く求められ るところである。一方,経
済社会環境 の変化及び これ に伴 う国民意識 の変容等 を背景 に,金
融機関が国民経済的観点 に立 った資金供給,国
民のニーズ等 に適合 した金融資産 の提 供等の公共的機能 を通切かつ公正 に発揮す ることに対する要請が高 まっている。 したがって,金
融 機関が,単
に経営の効率性 を追求す るに とどまらず,国
民経済的見地及び社会的公正 の観点か ら望 ましい方向にその諸機能 を効果的 に発揮す るとともに,そ
の成果 を国民 に還元 してい くことが ます ます重要 になると考 える。以上 のように,今
後,経
営の健全性 を確保 しつつ,経
営の効率性 の追求 と国民経済的見地か らみた適切かつ公正な機能発揮 の両面の要請 に調和の とれた形で応 えてい くこ とが,金
融機関に とって も行政当局 に とって も重要な課題であると考 える。」0
この新金融効率化政策 のね らい は,確
かに,高
度経済成長か ら低成長段階への移行 に ともな う金 融構造 の変化 によって,金
融機関の経営環境が極 めて厳 しくなって きた こと,お
よび経済 の国際化 にともなって金融の国際化 も進展 して きた ことへの対応 として,金
融の効率化 をいっそう推進す る ことであった。 このため,従
来 と同様 に,競
争原理 と金利機能 の活用 を一層すすめてい く必要性が 強調 された。 しか し同時に,従
来 の効率性一辺倒 にたいする反省か ら,競
争原理 の活用 による自由 化の推進 にあたっては,リ スクの増大や中小企業金融専門機関の経営な どに種々の弊害 を伴 うため, 効率性 と公共性 とを「調和」 させ るように十分な配慮 をしなければな らない とい う考 えが,今
後の 金融機関のあ り方 として提起 されたのである。 ここに,新
金融効率化政策 の認識 にお ける積極的意 義 を認 めることがで きよう。 しか し現実には,そ
れ以降,バ
ブル経済期 の銀行行動に典型的にみ られたように,金
融機関の行 動が,効
率性 と公共性 の調和 とい う視点 を著 し く後退 させ,競
争原理 の強調 による効率性 の追求 に 一面化 されていった。なぜ,こ
の ような結果 に終わって しまったのか。その原因 を,新
金融効率化 政策の理念上の弱点 と,1981年
改正の新銀行法 をめ ぐる公共性論議の中にさ ぐってみよう。 まず,前
者の新金融効率化政策 の最大 の問題点 は,公
共性の発揮 をあ くまで も金融機関の自主性 に委ねた点である。先 に紹介 した金融制度調査会 の答 申「普通銀行 のあ り方 と銀行制度の改正 につ いて」 は,つ
ぎのように述べている。 F国民経済全体 の見地か らみた効率的かつ公正 な資金配分の実現 を図ってい くためには,将
来 に 関す る不確実性 の要素,外
部不経済効果等の存在 もあ り,市
場 メカニズム を通 じる競争原理の活用 のみによっては現実 には十分でない ことに留意 し,銀
行が,長
期的観点 に立 ち社会 のエーズを的確 に把握 し,自
己努力 によ り自主的に経済社会 の要請 に対応 してい くことが必要である。 そのためには,銀
行 の融資面 の態勢 を整備 してい く必要があるとともに,銀
行 によるエーズの把 握及び自己努力 を促進 し,銀
行 に対す る社会的要請 と銀行の私企業性 との調和 を図ってい く自己規 正策 として,資
金運用 を中心 とした銀行 のディスクロージャーを拡充 し,活
用 してい くことが有効 であると考 える。」0
以上,わ
ずか数行 の引用文 の中で,自
主性,自
己努力,自
己規正 という類似語が散在 しているこ とか らわかるように,せ
っか く答 申で個々の金融機関による競争原理の弊害 と限界 を指摘 してお き なが ら,依
然 として個々の金融機関の自主性 に信頼 を置 くとい う論理展開になっている。 思いかえせば,1970年
代 において,金
融機関の社会的責任 を国民が きび し く追求 した理 由は,金
融機関の自主性 に委ねておいては,適
切 な資金配分,具
体的には社会的 に不 当な融資の規制や歩積 み・ 両建預金な どをな くして,個
人 。中小企業 な どを含むすべての借 り手 にたいす る借入 の機会均藤 田安一:現代金融機 関 にお ける効率性 と公共性 等 を実現するような
,公
共性 を体現 した金融 システムにはな らないか らである。 それに もかかわ ら ず,こ
れ らの点 を依然 として金融機関の自主性 に委ね るか ぎり,国
民が望 んだ公共性 な ど実現 され るはずのないのは,当
然の ことであった。 このように新金融効率化政策 にみ られ るような,公
共性 を強調 しなが らも,実
際 には公共性 の重 要性 を著 し く弱めてい く動 きを決定的 に推 し進 めたのが,つ
ぎにみる銀行法改正 をめ ぐる論議であ る。 したが って,こ
の ことを明 らか にす るために,1981年
銀行法改正 をめ ぐる金融機関の効率性 と 公共性 の考察へ と移 ろう。lV
銀 行 法 改正 をめ ぐる公 共 性 論 議 とその特 徴 (1) 一 新 銀 行 法 の 「 目的規定 」 に関 して 1981年 5月25日,金
融4法
が参議院本会議において可決成立 し, 6月
1日に公布 された。 この金 融4法
とは,(1)銀行法 (昭和56年法律第59号 )121中小企業金融制度等の整備改善のための相互銀行 法,信
用金庫法等の一部 を改正する法律 (同第60号)(3)銀行法の施行に伴 う関係法律の整備等に関 する法律 (同第61号)に
)証券取引の一部 を改正する法律 (同第62号)を
さす。そして,
これ らの金 融4法
によって改正された法律の数 は合わせて32にものばった。そのために,「わが国の金融関係法 規の大半が,多
かれ少なかれ,今
度の法改正の影響 を受けたのであって,ま
ことに近年に例を見な い大改正であった」0と いえる。 なかで も注 目され るのは,「金融組織 の根本 を規律」す る銀行法の改正であった ことは言 うまで も ない。実 に54年ぶ りの抜本的改正であった。1927(昭
和2)年
に制定 された旧銀行法 は,同
年 3月 末 の公布 と前後 して発生 した金融恐慌 の影響 によ り,規
制 の強い ものであったが,特
に不満 を唱 え る声 もな く,立
法当時には想定 していなかったような厳重な規定が設 けられた といわれている(10。 この銀行法 も,今
までに全面的な改正 の動 きがなかったわけで はない。戦後 占領下 における改正作 業,お
よび1956年金融制度調査会 の設置 にともな う銀行法改正の試みな どがあ りなが ら,実
施 に移 されなかった主な理由は,「旧銀行法 の規定 の構造が,組
織の骨格 のみを律 した簡潔 な ものであった か らである。当時の立法例 の常 として,法
の制定 の理念 には触れず,ま
た,健
全経営の維持 その他 の運用の方針 について も注文 に多 くの規定 を置かずに,あ
げて個別的かつ強力 な行政指導 に委ね る こととした」。り銀行法の規定の柔軟的構造 にあった。 しか し,い よいよ旧銀行法 の改正 を余儀 な くされた重要な要因 は,1970年 代初頭 の第1次
オイル・ ショックを契機 とす る国民の銀行批判であった。当時の行政当局者 も,こ
の点 をつ ぎのように述べ ている。 「今後 の改正問題 のひ とつの きっか けは,第
1次
石油 ショック後 の銀行法改正論議であった。昭 和48年ごろの地価 の高騰や石油危機 の発生な どを背景 として,大
企業,特
に商社 の行動 と,そ
れに 密着 した銀行 の融資態度が国民 の批半Jを浴びた。 これに対 して当局 は,選
別融資規制,大
口融資規 制等の指導 を行 なったが,銀
行批判 はなお も続 き,や
がて銀行法改正の要求へ とつなが っていった。 国会での問題提起 もさかんであ り,こ
れに応 えて,昭
和49年 12月,三
木内閣総理大臣 は銀行法改正 の検討 を約 した。」。劾 こうして,1974年
12月に,三
木首相が国会 にて銀行法改正の検討 を約束す るが,そ
の前後か ら, 1981年の新銀行法制定 に至 るまで,つ
ぎつ ぎと各政党か ら銀行法の改正要綱が公表 され,マ
スコ ミ も種々の論調 を展開 した。なかで も,ひ
ときわ注 目を引いたのは,当
事者である全国銀行協会連合鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 159
会(以下,全
銀協 と略記)の主張であった。全銀協 は金融制度調査会 にお ける審議 を参照 しなが ら, 1979年 3月,「銀行法改正 に関す る全銀協 の意見」を金融制度調査会 に提出 した。つづいて,1979年
7月,金
融制度調査会の答 申「普通銀行のあ り方 と銀行制度 の改正 について」が公表 される。 この 答申で は,「銀行法の改正 を速やかに実現す るための努力が払われ ることを希望する」。0と述べて, 金融制度調査会小委員会 の名で,20項
目にお よぶ「銀行法改正の具体的内容 に関する小委員会 の意 見」が同時 にまとめ られ提 出された(1つ 。 これを受 け,法
案作成作業が大蔵省銀行局 を中心 にすすめ られていったのである。 以下で は,1979年
の この銀行法改正 に関す る小委員会 の意見が,先
の全銀協の意見 によって,
ど の点が どのように修正 されて1981年改正の新銀行法 に結実 してい くのか,こ
の点 を特 に,本
稿 のテ ーマである金融機関の効率性 と公共性 に関する論議 を中心 に検討 しよう。 1981年改正の新銀行法 には,戦
後 の法律 の通例 にしたがって,旧
銀行法 にはなかった目的規定が 冒頭 に置かれた。その第1条
第1項
に,こ
の法律 の基本理念 を次のように掲 げている。 「 この法律 は,銀
行 の業務 の公共性 にかんがみ,信
用 を維持 し,預
金者 の保護 を確保す るととも に金融の円滑 を図 るため,銀
行 の業務 の健全かつ適切 な運営 を期 し,も
って国民経済の健全な発展 に資す ることを目的 とす る。」 このように,明
確 な形で銀行業務 の公共性 をうたい,こ
の健全かつ適切 な運用 を図 ることによっ て,国
民経済の発展 に貢献す ることを銀行法の目的 として掲 げた。 この規定 は,金
融制度調査会小 委員会 の銀行法改正 に関す る意見が要望 した目的規定 と同 じである。 しか し,こ
の同 じ目的規定 の 第1条
第1項
につづいて第2項
として,つ
ぎの規定が挿入 された。 「 この法律 の適用に当たって は,銀
行 の業務 の運営 についての自主的な努力 を尊重す るよう配慮 しなければな らない。」 運用 にあたって は,銀
行 の自主性 を尊重す るとい うこの規定 は,目
的規定 として,金
融制度調査 会小委員会 の意見 には,全
くなかった ものである。 それに もかかわ らず,何
故 こうした規定が入れ られたのか。 これには,全
銀協 の意見が色濃 く反映 した結果であることがわかる。金融制度調査会 に提出 した全銀協の意見 は,銀
行法改正の基本的な考 え方 を,つ
ぎのように述べていた。 「経済社会 の運営 にあたって,そ
の基本 となるべ きものは,各
経済主体 における『自己責任 の原 則』である。企業が各々その自主性 を保持 し,市
場原理 の下 に活力 を発揮 してい くことは,国
民経 済の発展 に とって不可欠の前提である。 もとより国による監督・ 規制が必要 となることも否定で き ないが,そ
の場合 も企業 の自主的な活動力 を損 なうことのないよう,最
小限にとどめ られ るべ きで ある。」(1動 こうして,新
銀行法 に全銀協 の意見が採 り入れ られたが,文
字 どお り法律の目的 を定 める条項 に, あえて法律 の運用上 の基準 を設 けるということの不 自然 さは,国会 の審議 において も問題 となった。 ある議員 は,こ
の点 をつぎのように指摘 した。 「 目的 は目的,運
用の基準 は運用の基準 とい うようになっているのが法律 のたてまえなんですね。 それを目的のなかの一つ と読 み取 らざるをえないように,第
1条
「 目的」 と書いて,そ
れ に第1項
と第2項
がある ということは,本
来運用の基準であるべ きものを目的の中にす り込 ませ るとい う, や はり法技術上 の非常な不整合性があるのではないか とい うように思 うのですね。」(10 しか し,こ
れ は単 に法律作成上の技術的問題 だけで はない。金融機関の公共性が,効
率性 を重視 する各金融機関の自主的運営 によって損なわれ るとい う,金
融 システム全体 のあ り方 にかかわ る重 大問題であった。 したがって,目
的規定 に性格 を異 にす るこの2種
類 の条項が同居す ることによっ藤田安一 :現代金融機関における効率性 と公共性 て
,第
1条
における金融機関の公共性 の理念が弱め られ るので はないか とい う疑念 に対 し,国
会で 政府委員が,わ
ざわざ「 この1条 2項
の規定が置かれた ことによ りまして, 1条
の公共性 を弱 める ことになるとい うもので はない」(17)と答弁せ ざるをえなかったのである。 さらに,目
的規定 に関 して,金
融機関の自主性 を尊重す るように要望 した全銀協 の意見 に,見
落 とす ことので きない論点がある。 それ は,従
来 の預金者保護や信用秩序の維持 とい う金融機関の公 共性 の内容 に加 えて,現
在で は適切 な資金配分 を行 うとい う公共性 の現代的意義 にかかわ る点であ る。全銀協 はこの後者 の現代的公共性 は,金
融機関の自主性 を損 なうものだ として,目
的規定 に盛 り込 まないよう,つ
ぎのように要望 した。 「 そ もそ も『目的規定』 とは,そ
の法律 の条文 の実質的内容 に則 して定 め られるものであって, 抽象的な,あ
るいは解釈 の幅が生ず るような用語・ 表現 は避 けるべ きである。た とえば適切 な資金 配分 に一定の方向付 けがなされ ることを是認す る根拠 となって好 まし くない。 このように『目的規 定』の設定 にあたっては,そ
れが拡大解釈 されて,銀
行経営の自主性・ 健全性 を損ねることのない よう慎重な配慮が必要である。J(10 この資金配分 に関 しては,1981年改正の新銀行法第1条目的規定 の第1項において,「金融の円滑 を 図る」 とい う一節がある。 これが適切な資金配分 を意味す るか どうか,大
変微妙な問題 であるだけ に,あ
えて この点 を明 らかにしないよう,「金融の円滑」とい う,あ
い まいな言葉で表現 した もの と 考 えられな くもない。 ともあれ'資
金配分の適正化 とい うことは,銀
行 の不当な融資 を排 し,大
企業や大 口預金者 と同 様,中
小企業や小 口預金者 にも不利 にならないように借入 の機会均等 をはか る上で,非
常 に重要な 公共性 の現代的内容 となっている。 ところが,こ
れ を無視 して,銀
行 の自主性 にまかせ ることは, より高い金利で運用 しうるところへ,よ
り多 くの資金が流れ,短
期的には収益性が小 さいが公害対 策や住宅,技
術開発 など,社
会的に有用 と考 えられる分野への資金の供給が妨げられて しまう可能 性 を高 めることになる。 ましてや,現
在 の金融 自由化 のなかで,銀
行間競争 の激化 と資金調達 コス トの上昇 を国実 に,金
利 も高いが リスクも大 きい分野への貸出 しを積極的に行 なったバ ブル経済期 の銀行行動 をみると,と
うてい銀行の自主性 に頼 ることは許 されないであろう。V
銀 行 法 改 正 をめ ぐる公 共 性 論 議 とその 特 徴 121-デ
ィス ク ロー ジ ャー に関 して つ ぎに,デ
ィスクロージャー (企業内容の開示)の
問題点 に移 ろう。 ディスクロージャーを「銀行 に対す る社会的要請 と銀行 の私企業性 の調和 を図ってい く」 ための 積極的な手段 として重視 したのは,金
融制度調査会 の1979年答申「普通銀行 のあ り方 と銀行制度 の 改正 について」であった。 この答 申で は,日
本のデ ィス クロージャーがアメ リカな どの主要国 と比 較 して遅れてお り,特
に「最近社会的に関心 を集 めている銀行 の資金運用状況,社
会的責任 に関す る事項等の開示 については,全
般的に不十分である」。9と
して,デ
ィスクロージャーの一層の拡充 や活用 を提起 した。 同 じ く答 申は,銀
行がディスクロージャーを必要 とす る理 由 として,第
1に,も
ともと銀行 は公 共性・ 社会的責任が高い企業であるのに加 えて,国
民 の預金 を託 されているため国民 の支持や理解 を得 なければな らないこと。第2に,銀
行が公共的機能 を適切 に発揮す るためには,銀
行 は社会 の エーズを的確 に把握する必要があること。第3に,銀
行が 自らの行動 と成果 を国民 に開示 しその判鳥取大学教育学部研究報告 人文・社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 161
断を受 けることは,銀
行 の自己規正等 として有効であること,の
3点
をあげている。り。 さらに,銀
行 のディスクロージャーの重点 は,資
金運用状況 に置 くようにす ること,並
びに,銀
行法の改正の時 には,こ
の資金運用 に関す るディスクロージャーについて,法
律上の位置づけを明 確 にす るべ く,つ
ぎのように要望 した。 「ディスクロージャーの重点 は,国
民の預金 を託 されている機関 としての性格及び最近 にお ける 社会的要請等にかんがみ,資
金運用状況 に置かれ ることが適当である。……資金運用 に関す るディ スクロージャーについては,以
上 のような重要性 にかんがみ,銀
行法の改正 に当たって は,法
律上 の根拠 を規定す る等その位置づ けを明確 にしてい くことが適当である。」。1) みるように,銀
行 の効率性 と公共性 を調和 させ る手段 として,国
民 に とって関心のある資金運用 状況 を,法
律的規定 を伴 って銀行 に開示 させ ようとした ことは,注
目すべ き提起であった。しか し, 全銀協 は「銀行法改正 に関す る全銀協 の意見」 において,資
金運用状況 についてのディスクロージ ャー を法律 によって義務 づけることに反対 し,あ
くまで も各銀行 の自主的判断にまかせ るよう金融 制度調査会 に要望 して,つ
ぎの ように述べた。 「 これ(ディスクロージャー をさす― 弓1用者)はあ くまで各銀行がそれぞれの特色 を生か した形 で,各
行 の自主的判断 に基づいて行 なわれ るものであって,法
律 によって開示 を義務づけた り,開
示の統一的な基準 を設定 した りすべ きで はない。た とえば資金運用状況 についての開示 は各銀行 と も各々事情が異 な り,そ
れに応 じた特色 をもって しかるべ きもの と考 え られ るので,統
一的な基準 で開示 を義務づ けるべ きで はない。」。り この結果,デ
ィスクロージャー は新銀行法 の第21条に盛 り込 まれ,「業務及 び財産 の状況 に関す る 事項 を記載 した書類 を作成 して,主
要 な営業所 に備 え置 き,公
衆 の縦覧 に供 するもの とす る」 と唱 われたが,し
か し,「信用秩序 を損 な うおそれのある事項」や「銀行 の業務 の遂行上不当な不利益 を 与 えるおそれのある事項」 な どは開示の必要性がない とされ,事
実上,記
載 内容 は銀行 の自主的判 断にまか されることになった。第21条全文 は,つ
ぎの とお りである。 「銀行 は,営
業年度 ごとに,業
務及 び財産 の状況 に関す る事項 を記載 した説明書類 を作成 して, 主要な営業所 に備 え置 き,公
衆 の縦覧 に供す るもの とする。ただ し,信
用秩序 を損なうおそれのあ る事項,預
金者 その他 の取引者 の秘密 を害す る恐れのある事項及 び銀行 の業務 の遂行上不当な不利 益 を与 えるおそれのある事項並 びにその記載 のため過大な費用の負担 を要す る事項 について は,こ
の限 りでない。」 この条項 によって,社
会的に必要 とす る情報や国民が知 りたい情報 な どは,「信用秩序 を損な う」 あるいは「業務上不利益である」 と銀行が判断すれば,デ
ィス クロージャーの対 象か らはず して も よい と法的に公認 され ることになった。 こうして,当
初のディスクロージャーの積極的意義が失わ れ,また して も,自主性 とい う名 によって,銀
行 の公共性 を確保す る手段が形骸化 されたのである。 Ⅵ 金 融 自由化 とバ ブ ル経 済 期 の銀 行 行 動 以上,1970年
代半ばか ら1980年代初頭にかけて,新
金融効率化政策か ら新銀行法制定に至 る,金
融機関の効率性 と公共性 をめぐる論議の特徴 とその問題点を考察 した。 そこでみたことは,1970年
代初頭の銀行批半」と金融機関の社会的責任への国民の厳 しい追求 を反 映して,金
融機関の効率性 と公共性の調和が強調されなが ら,結
局,銀
行側の強い要望によって, 銀行の自主性にもとづ く効率性の重視 に傾斜 してい く姿であった。その背景には,オ
イル・ ショッ藤田安一 :現代金融機関における効率性 と公共性 ク後 の銀行批判 に もかかわ らず,「民間金融機関 による自由な効率性 の追求 こそが資金の最適配分 を もた らす」 という
,動
か しがた き銀行側 の確信があった。 しか しこの考 えが,実
はフィクションに す ぎなかった とい うことを示す決定的な出来事が,1980年
代後半か ら90年代初 めにかけてのバ ブル 経済 とその崩壊である。 そこでは,つ
ぎにみるように,金
融 自由化 によって銀行 の自主性が一層拡 大す る状況 の下で,
もっぱら効率性 を追求す る金融機関の激 しい競争 の結果,国
民経済 を収拾 のつ かない混乱へ と導いてい く事態が,ま
ざまざ と私達 の目の前で展開 したのである。 い ま,「金融 自由化」 を定義 して,「これ まで金融 を抑 えて きた諸々の取引の規制 を緩和 ない し撤 廃 し,競
争原理 を導入 し価格機能 を働 かせ ることを通 して,資
金配分の効率 と公正 を高めようとす るもの」90と
してお くと,こ
うした意味での金融 自由化が,具
体的に検討 され本格的に政策化 され ていったのは,わ
が国の場合,1980年
代以降の ことであるといって よい。 まずそれ は,80年
代初頭,イ
ギ リス,ア
メ リカ,日
本 において相次いで成立 した新 自由主義政権 と,そ
の政権下で強力 に進 め られ 自由化・規制緩和政策 を背景 にし,具
体 的には,1984年
5月 のア メ リカによる金融 自由化 を求 めた「 日米共同円 ドル レー ト,金
融・ 資本市場問題特別会合作業部会 報告書」いわゆる「日米 円・ ドル委員会報告」,お
よび大蔵省「金融 の自由化及 び円の国際化 につい ての現状 と展望」が公表 されて以来,加
速 されて きた。 さらに,1985年
6月の金融制度調査会答 申 「金融 自由化 の進路 とその環境整備」 は,自
由化 による競争の促進が信用秩序の維持 につなが ると い う考 え方 を,前
面 に押 し出 した内容 となった。 その意味において この答 申 は,1981年
の新銀行法 制定 とともに,競
争原理が もた らす弊害 を認 めて金融機関の公共性 をも配慮 した新金融効率化政策 の主 旨を,大
きく転換 させ る画期 となった。 ここで便宜上,本
稿 に関連す る限 りで,わ
が国の金融制度改革の歩みを整理 してお こう。 1956年 6月 金融制度調査会設置法公布お よび施行 により,大
蔵大臣の諮問機関 として金融制度 調査会設置。 1966年金融制度調査会が金融制度全般 のあ り方について検討 を開始。 1970年 7月 金融制度調査会答 申「一般民間金融機関のあ り方等 について」 1974年 12月 三本武夫内閣総理大臣が国会 にて銀行法改正の検討 を公約。 1975年 5月 大平正芳大蔵大臣が銀行法 その他 の法令及び制度 に関す る見直 しを金融制度調査会 に諮問。 1979年 3月 全国銀行協会連合会が「銀行法 に関す る全銀協の意見」 を金融制度調査会会長 あて に提出。 6月 金融制度調査会小委員会が「銀行法改正の具体的内容 に関す る小委員会 の意見
Jを
公表。 7月 金融制度調査会答 申「普通銀行 のあ り方 と銀行制度 の改正 について」 1981年 6月 新銀行法制定 1982年 4月 新銀行法施行 1983年 4月 金融制度調査会小委員会第一次中間報告「金融 自由化 の現状 と今後 のあ り方」 1984年 5月 「 日米共同 (大蔵省・財務省)円
。ドル・ レー ト,金
融・ 資本市場問題特別会合作 業部会報告書Jい
わゆる「 日米円・ ドル委員会報告」 大蔵省が「金融の自由化お よび円の国際化 についての現状 と展望」 を公表。 1985年 6月 金融制度調査会答 申「金融 自由化 の進展 とその環境整備」 このような経緯 によって,わ
が国の金利や業態の規制が緩和 され,1980年
代金融市場 の自由化が鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 163
急速 に進 み,「金融革命」とい う名の もとで,各
種 の新金融商品群が,つ
ぎつ ぎと提供 された。 それ を前提 にして,金
融機関 も企業 も低金利で大量の資金 を内外か ら調達 した。特 に,1987-88年
を通 じた2.5%と
い う超低金利時代 に,企
業 は転換社債,ワ
ラン ト債 (新株引受権付社債)な どのエクイ ティ・ ファイナンスによって,過
剰 な資金調達 をお こない,膨
大 な設備投資 に乗 り出 したが,こ
れ ら企業や不動産会社 に対 して銀行 は,土
地・株式な どの担保価値の審査 を十分 にお こなわない まま, 異状 な貸 し出 し競争 を展開 し,地
価や株価の暴騰 に象徴 され るバ ブル経済 を創出 したのである。 しか し,1990年
代初頭,バ
ブル経済の崩壊 を機 に,い
っせいに金融 。証券不祥事が明 るみに出た。 いわゆる,偽
預金証書の発行やそれを担保 とす る不 当融資 などの不祥事が,同
時多発的に起 こった のである。 まずその発端 は,1991年
6月 の大手証券会社 による巨額 の損失補填の発覚であつた。つ づいて,富
士銀行や 日本興業銀行 を舞台 とする巨額 の不正融資事件。 さらに,住
友銀行 とそれ をメ インバ ンクとす る商社 との出資法違反事件 な ど,そ
うそうたる都市銀行が,こ
の種 の事件 に名 を連 ねた。 確かに,過
去 にも社会 に衝撃 を与 えた金融 。証券不祥事 は存在 した。 しか し,そ
の多 くは職員 に よる個人的な詐欺行為の域 を出るもので はなかった。 だが,今
回の金融・証券不祥事 は違 っていた。 明 らかに,金
融機関お よび証券会社 による組織的な不法行為であった ところに特徴がある。 それだ けに,こ
れ ら不祥事が社会 に与 えた影響 は極 めて深刻である。現在 において も依然 として,景
気回 復への重 い足枷 となっているだけではない。バ ブル期 には,銀
行 による不動産業への過剰融資が, 資産インフレを引 き起 こし地価高騰 を招 くことによって,固
定資産税 の増税や家賃 の値上 げをもた らし,ま
た庶民のマイホームの夢 を奪い,バ
ブルの崩壊 で は,資
産 デフレによる銀行や各種信用組 合な どの破産・ 信用不安 を招 き,国
民経済 と国民生活全体 に与 えた損失 は,は
か りしれない と言わ なければな らない。 こうした事態 を反映 して,最
近,銀
行 に対す る印象が著 し く悪 くなっている。 ここに,1977年
か ら4年
毎 に行 って きた「貯蓄行動 と貯蓄意識 に関す る全国調査」(略称 。SBC Sa llg Beha or and ConsciOusness)の 結果がある。1981年の第2回
調査 と1993年 の第5回
調査 との比較であるが,全
体 として銀行 のイメージ・ダウンが進行 してお り,特
に,「信頼 で きる」「明 るい」「親切 な」「公平 な」 「安心だ」「サー ビスが よい」「役立 っている」といった項 目が,軒
並み悪化 している。(次頁の図 を 参照) 事 の重大 さに気付 き始めた銀行や証券業界で は,現
在,論
理綱領や行動規範づ くりが行 なわれて いる。 しか し,い
ま銀行 をとりあげて も,銀
行行動上 の倫理や規範が,こ
れ までになかったわ けで はない。 それ どころか,従
来か ら銀行 の経営原則 として,収
益性,安
全性,公
共性 の二つの原則が 唱われて きた し,す
でに考察 したように,1979年
の金融制度調査会答 申「普通銀行のあ り方 と銀行 制度 の改正 について」では,効
率性 と公共性 の調和が強調 された。一見 もっ ともらしい原則で はあ るが,問
題 は,私
企業 としての銀行 に とって効率性 を追求す ることが,必
ず しも預金者 の保護 や信 用秩序 の維持,さ らには社会的 に適正 な資金配分 とい う公共性 を保障す るとは限 らない ことである。 この効率性 と公共性 とが,い
かに矛盾 した原則であるか は,先
の金融不祥事 をひ きお こした銀行行 動 をみるだけで も容易 に理解で きるであろう。 だが,私
企業 としての銀行が効率性 を追求す ることは当然である。 しか しまた,他
の私企業 に比 して,銀
行 は極 めて高い公共性 を要求 されることも事実である。両者が不可分の関係 にあるとすれ ば,銀
行 の効率性 と公共性 とを,い
かに関連づ けるのかが問題 となる。だが,銀
行 に効率性 と公共 性の調和 をい くら要求 して も,す
でにみたように,結
局,銀
行 は公共性 を省 みず,も
っぱら効率性第5回
SBC調
査 藤田安一 :現代金融機関における効率性 と公共性 ‐ 第2回SBC調
査 (1981年) (出典)富永健―・ 問々田孝夫編 F日本人の貯蓄―行動 と意識』 (日本評論社,1995年)147ページ。 の追求 に傾斜 していつた。 こうした事実か ら,私
達 は改 めて,金
融機関 における効率性 と公共性 の 関連 を聞わざるをえない。 この課題 は,一
見極 めて困難 に思 えるが,今
で は,実
に明快 な答 えを出 す ことがで きる課題 となった。 その理 由は,以
下の とお りである。 バ ブル経済期の銀行行動が如実に示 したように,資金 の配分 を銀行 の効率性 にのみ委ね ることは, 収益性 の多寡 を基準 にした民間資本 にとっての効率性 に外な らず,社
会的には資金の適正配分 を攪 乱す る要因 となる,
とい うことであった。 しか も,
このバ ブルの過程で国民が見た ものは,小
口投 資家 を犠牲 に した大 口投資家への損失補填や,暴
力団 と癒着 した株 の仕手戦での株価つ り上 げのた めの銀行融資 とい う,利
益相反 の典型例であった。 こうした行為が,し
いては銀行 自身 にも負の遺 産 として重 くの しかか り,現
在 に至 って も,ま
だ50兆円 とも60兆円 ともいわれ る巨額 な不良債権 の 未償却問題(2つとなって,資
金 の適正な社会配分 を妨 げているのである。 こうした経験が私達 に教 えた ことは,一
国の金融 システム は,金
融機関の効率性 よ りも国民生活 の公共性 を,ま
ず最優先 に考 えて運用 されなければな らず,そ
うしてはじめて,金
融機関の企業性 や効率性 も達成で きるということである。公共性が保障 されてはじめて,効
率性が達成で きるので あって,そ
の逆で はない ことに注意 しなければな らない。 役 一 立 っ て い る が め つ く な い あ っ さ り し た サ ー ビ ス が よ い 都 会 ふ う 安 心 だ 気 楽 な 公 平 な 便 利 な 新 し い 親 切 な シ ャ レ た 明 る い 信 頼 で き る 開 放 的 な 親 し み や す い鳥取大学教育学部研究報告 人文 。社会科学 第 46巻 第
2号
(1995) 165
お わ りに 一 公 共 性 優 先 の 金 融 シ ス テ ム ヘ の転 換 をめ ざ して 一 これ まで本稿で は,新
金融効率化政策か ら金融 自由化・ バ ブル経済 とその破綻へ と,金
融機関の 効率性 と公共性 をめ ぐる論点 と現実 を整理 しなが ら,現
代 における金融機関のあ り方 を模索 して き た。 その結果,到
達 した結論 は,効
率性優先の議論 は言 うまで もな く,効
率性 と公共性 の調和論で さえ,こ
れを越 えて公共性 を最優先 にした金融機関のあ り方 こそ,国
民経済 の健全な発展 にとって 必要であ り,し
いては,そ
れが金融機関 自身の効率性 をも保障するとい うことであった。 しか し今後,金
融機関 は,金
融 自由化の進展 に ともなう金融機関の競争 の激化 と資金調達 コス ト の上昇 により,収
益面での余裕が乏 しくな り大 きな不確実性の リスクを負 うことによって,ま
す ま す公共性 を発揮す る基盤が弱 まるであろう。 それ を放置 して金融機関の自主性 に任せておけば,バ
ブル経済期 のように,
リス クは大 きいが収益性 も高い分野への貸 出を積極化 させ る危院性 をはらん でいる。 この危険性 を回避 しようと,
リスクを国民 に転嫁すれば,今
日のような社会的金融危機 を 招 き国民経済 を弱めていまう。国民経済の弱 まりは,金
融機関 自身の効率性 を低下 させ る。まさに, 悪循環である。 この悪循環 を断ち切 る道 は,ま
ず国民生活 を守 りその福祉 を増進す るための資金配分 の適正化 こ そが,金
融機関の効率性 よ りも:よ り上位 の公共性 を体現 した理念 として社会的に認知 され ること。 そして この基準 にもとづいて,現
代 日本 の金融 システムのなかで緩和 したほうが よい規制 と,そ
う でない規制 とを峻別 し,関
係業界 の利害調整 とい う観点か らで はな く,国
民が金融機関 に求 めてい るものは何か,あ
るいは金融機関が国民経済の安定的発展のために,
どのような公共的役割 を果た すべ きか とい う観点か ら,社
会的に必要 とされ る規制 を行 なうことである。 それ をしないで,金
融 自由化や規制緩和 とい う名 の下で,こ
れ まで公共性 を保障 して きた規制 を一律 に緩和すれば,再
び バブルの再現 とな りかねない。規制緩和 による競争原理の導入 は,金
融機 関に利益の追求 を認 めて も,決
して社会 に不利益 をもた らす 自由は認 めていない ことを忘れて はなるまい。 アメ リカでは,1970年
代か ら80年代 の急激 な金融 自由化が,80年
代後半 にS&L(貯
蓄貸付組合) の大量倒産 をもた らし,そ
れが一般 の銀行 に も波及することによって,日
本 に先立ち著 しい金融不 安 を経験 した。 その教訓か ら,現
在 のアメ リカにおいては,い
ったん金融 自由化 にブレーキをかけ ようとす る動 きさえ出て きてい る。いわゆる,「デ・ レギュレーシ ョン (規制緩和)」 か ら「 り・ レ ギュレーション(再規制)」への動 きである。すなわち,ア
メ リカで は1989年に金融機関改革 。再建・ 摘発法が命1定され,つづいて1991年 には連邦預金保院公社改革法が成立 した。この両法律 によって, 金融機関の自己資本基準が引 き上 げられ,預
金保瞼に危険 を及 ばす ような活動 に対す る監視や規制 が強化 された。わが国 もこのアメ リカの経験か ら,一
切の規制 を悪 とす るので はな く,国
民経済の 安定 と国民生活 の向上 に必要な金融の規制 を,今
こそ再評価す ることが必要であろう。 江Jurgen Habermas,Strukturwandel der Offendichkeit― 一Untersuchungen zu einer Kategorie der burgerll chen Gesellschaft,Neuwied(Luchtehand)1962細 谷貞雄訳『公共性の構造転換』未来社,1973年,11ページ。
この効率性の 2通 りの意味については,館 龍一郎氏 による次の指摘がある。「経済学で効率 という場合,技 術的 な効率 と社会的な効率の 2つ の効率性を含む概念 として使われるのが普通である。第一の技術的効率 は,ある商
藤 田安一:現代金融機 関における効率性 と公共 性 品を生産する場合最低のコス トで生産するという意味での効率性であって,別の言い方をすれば無駄 を排除する ということである。他方,社会的効率 というのは資源・資金を最 も資源・ 資金を必要 とする分野に配分するとい う意味であって,パレー ト最適の状態では当然,こ の条件が満たされていなければならないのである。」(「金融制 度の改正について」全銀協『金融』1991年8月 号, 5∼6ペ ージ。) (3)金融機関の公共性について