1. はじめに わが国においては、通信回線設備を自ら設置 する通信事業者1相互間の公正競争を如何に確 保するのかに議論が集中し、他の通信事業者の 通信回線設備を利用する事業者2間、特にISP間 の相互接続については、広く議論されることは なかった。しかし、ブロードバンドインター ネットが広く普及し、電気通信市場において、 OTT (Over The Top)3
といわれる事業者が存在 感を増している。これらの事業者が不可欠なサ ービスとして利用しているのが、インターネッ トである。インターネットはその名前からも明 らかなように、ネットワークとネットワークが 相互接続されることにより形成されてきた。そ こには、自律分散的に形成された平等なネット ワークという一般的な理解とは裏腹に、ティ ア1を頂点とする階層構造4が存在し、平等な世 界に実質的な不平等が存在する(福家 [2002]、 [2007]、DeNardis [2014])。 しかし、OTT事業者のサービスの拡大ととも に、CDN (Content Delivery Network) が広く利 用されるようになり、またOTT事業者自身が AS (Autonomous System) として、相互接続に
福 家 秀 紀
※Transformation of the Internet and Interconnection
Hidenori FUKE インターネットにおいて、従来、ティア1と呼ばれるISPが、閉鎖的なピアリング関係を形成し、 他のISPに対してはピアリングを拒否し、高額の相互接続料金を伴うトランジット契約を要求し てきた。そのため、ティア1のネットワークをエッセンシャル・ファシリティとみなして規制す る必要性も議論されてきた。しかし、近年におけるインターネットの変貌に伴い、ティア1の優 越的な地位が揺らぎ、また、コンテンツ事業者をはじめとするOTT事業者の成長に伴って、これ らの事業者がASとして、ISPとの相互接続の当事者として登場してきた。こうした変化に伴い、 ティア1のネットワークをエッセンシャル・ファシリティとみなして規制する必要性についての 議論が、妥当性を失いつつある。しかし、これは、必ずしもインターネットにおける相互接続問 題が解決された、ということを意味する訳ではない。GoogleなどのOTT事業者がコンテンツ市場 における優越的な地位を濫用して、BIAS事業者との相互接続において、無償のピアリング接続 を強要しているのではないか、という問題などが、新たに議論の俎上に載せられるからである。 インターネット市場の変貌を視野に入れた、新しい視点からの議論が求められている。 キーワード:ティア1、ピアリング、トランジット、エッセンシャル・ファシリティ、OTT事業者 Keyword: Tier1, Peering, Transit, Essential Facility, OTT
※ 駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部教授 1 2003年7月成立、2004年4月施行された電気通信事業法の改正前の一種事業者 2 同改正前の二種事業者 3 通信事業者の提供するインターネットを通じて、音声、E-mail、音楽・動画コンテンツなど提供する事業者。 4 DeNardis [2014]はISPをティア1、ティア2、ティア3の 3 つに分類している。
参画するようになってきて、従来のISP間の相 互接続という概念では理解できない世界が広が りつつある。このような変化の中で、かつて筆 者が指摘した(福家 [2007])ような、ティア 1のエッセンシャル・ファシリティ(不可欠設 備)性という問題が消滅したのか、あるいは新 たな形で不可欠性問題が発生してきているのか というのが、本稿の問題意識である。 2. インターネットの相互接続 インターネットはそもそも、AS間の相互接 続によって、グローバルな接続性が確保され ている。ASとは、 1 つのルーティングポリシ ーの配下にある自律的なIPネットワークの集合 体であり、AS番号が付与されている5。ASとし て機能しているのは、ISPばかりではなく、企 業・団体、大学、政府機関や最近ではコンテン ツ事業者など多岐に渡る。このAS相互の接続 形態は、ピアリング (Peering) とトランジット (Transit) に大別される6。FCCはピアリングとト ランジットを以下のように定義している (FCC [2000])。ピアリングとは、ISP間で、当該ISP、 及びその顧客間のトラヒックを相互に伝送する ための協定である(図表1)。ピアリングでは、 ピアリング関係にない第 3 者へのトラヒック を伝送する義務はない。ピアリングにおいては、 通常ビルアンドキープ (Bill & keep) 方式が採 用され、ISP間では、相互接続料金は発生しな い7。一方、トランジットは、他のISPとその顧 客のためにトラヒックを有料で伝送する契約で あり、第 3 者、通常はインターネット全体へのト 5 ASについては、あきみち・空閑[2011]を参照。 6 米国におけるピアリングとトランジットの実態 は、Network Reliability and Interoperability Council V Focus Group 4: Interoperability (FCC) [2001]、Norton [2011]などに詳しい。 7 ピ ア リ ン グ の 一 部 に は、 有 償 ピ ア リ ン グ(Paid Peering)といって、相互接続料金の支払いを伴うも のもある。 ラヒックの伝送義務を伴う(図表 2 )。 図表1 従来のピアリングのイメージ 出所:Faratin et al. [2008]に加筆修正 図表2 トランジットのイメージ 出所:Faratin et al. [2008]に基づき作成 この両形態とも、規制上、その契約条件の開 示義務はなく、通常、守秘契約(NDA:Non-Disclosure Agreement)によって契約条件が表 に出ることはない。FCCは、市場における競争 でピアリングかトランジットが決定されると主 張している(FCC [2015] Para.202)。しかし、「ISP は他の競争的な市場には見られない固有の『集 合行為問題』に直面している。ISPは相互に顧 客獲得競争を展開する一方で、ネットワークの 相互接続という点では相互に協調し、競争事業 者の顧客のトラヒックを伝送しなければならな い(DeNardis [2014] p.108)」。 ティア1によるティア1以外のISPに対するピ アリングの拒否とトランジット契約の要求は、 ティア2以下のISPに対してトランジット料金節 減のための方策の模索を促し、インターネット の相互接続が経済的効率性の追求故に技術的効
率性から離れたものになっていく。それがまた、 後述するようにティア1のトランジット料金の 水準にも影響を与えることになる。
Faratin et al. (Faratin et al. [2008])によれば、 ピアリングに当たっては、以下のような条件を 満たす必要がある。 ① 地理的な多様性:地理的に多様な多数の地 点において、相互のリンクが確保されるこ と ② トラヒック量:ネットワークの規模に応じ たトラヒック量であること ③ トラヒックの割合:相互にやり取りされ るトラヒック量が、 2 対 1 、1.5対 1 など、 一定の割合であること ④ 宣言の一致:全ピアリングリンクにおいて BGP (Border Gateway Protocol) の宣言が一 致し、Hot Potato Routing (ホットポテトル ーティング)8をすること その他、トランジット顧客、または見込み客 とはピアリングをしないなど、マーケティング 上の配慮もなされる。 ピアリングかトランジットかは、自ら設備投 資をしてネットワークを拡大してピアリングの 相手として認められるか、設備投資の代わりに 市場において他のISPの伝送能力を購入するか の、経済的な意思決定の問題であるが、従来の 理解では、ティア1が総体として、インターネ ットにおけるグローバルな接続性を確保するた めのエッセンシャル・ファシリティであり、テ ィア1以外のISPに対して、ピアリングを拒否し て高額の相互接続料金の支払を伴うトランジッ ト契約を余儀なくさせるのは、市場支配力の濫 用ではないか、という可能性も指摘されてき た9。 8 他ISPあての通信は、相手との相互接続点のうち自 社に最も近い点で、そのISPに渡してしまうルーテ ィング方法。 9 例えば、福家 [2002]。 しかし、近年においては、インターネット環 境の変化を背景として、ティア1の市場支配力 は失われているという認識も広がりつつある。 3 インターネット環境の変化 インターネット環境の変化の第一は、米国 以外の諸国において、インターネットが急速 に普及し、各国のISPがネットワークの拡張の ための設備投資に積極的になってきたことで ある。利用者の獲得競争を迫られる各国のISP は、米国のティア1を経由するよりも、直接接 続によって通信品質の改善を志向することにな る。ティア2やティア3などの下層に位置する ISPは、お互いの間でピアリングを行い、ティ ア1を迂回することでトランジット料金を最小 化する「ドーナツ型ピアリング」を拡大してき た(DeNardis [2014] p.124)。 インターネット環境の変化の第二はISPの均 質性の喪失である(Faratin et al. [2008] pp.58-59)。従来のISPはウェブサイトとそれにアクセ スする利用者を顧客とする均質な性格を有して いた。しかし、近年の音楽・映像ストリーミン グの普及とともに、これが変化してきた。一方 で、主としてコンテンツ・サーバーをホスティ ングしてコンテンツの配信サービスを提供する ISPが存在し、他方でこれらのコンテンツ・サ ーバーにアクセスする視聴者向けのサービスを 主として提供するISPが存在する。これらタイ プの異なるISP間のトラヒックは極端に不均衡 になる。視聴者側のISPからは、コンテンツを 選択するための極めて少量のパケットしか送信 されないのに対して、コンテンツ・サーバーを ホスティングするISPからは、映像という大容 量の情報が送信される。これに対応するため に、視聴者中心のISP側は、増大するダウンロ ードトラヒックを円滑に伝送できるよう、ネッ トワーク設備の拡張を迫られるが、定額制とい
うインターネットアクセス料金の性格上、利用 者からは追加的な収入は得られない。このため、 相互接続料金を獲得できるトランジットを志向 し、ピアリングに対して消極的になる。 以上のような環境変化に伴って、ISP間の相 互接続も変化してきた。その第一は、ティア1 を経由しないピアリングの増加である。OECD による世界のISPのうち86%の4,331を対象とし た調査(Weller & Woodcock [2013])によれば、 1ISP当たり、平均32.8個のピアリング協定を結 んでおり、そのうちの99.5%は口頭合意である。 しかも、米国以外の国・地域相互のピアリング が増加してきている。同時に、ティア1もネッ トワークを拡張し、米国以外の国・地域に相互 接続ポイントを設けてトランジットを提供する ようになってきた10。伝送品質が改善するとと もに、ティア1などの大規模バックボーンへの 依存が解消されてきている(図表3)。このため、 ティア1をはじめとするグローバル・バックボ ーン事業者のIPアドレスルーティングシェアも 低下している(図表4)。その結果ティア1の市 場支配力が大きく低下してきていると認識され ている。 図表3 ピアリングの変化 10 これら近年の動向については、わが国におけるISP からのヒヤリングに依拠している。インターネット 環境の変化に伴うISP間の相互接続の分析について は、Krogfoss et al. [2012]、Marcus [2014]などを参照。
図表4 グローバルバックボーン事業者のIPアドレス
ルーティングシェア
出所:Weller & Woodcock [2013] p.26
第二には、トランジット料金の低下である。 Nortonによれば、米国におけるトランジット 料金は、1998年の月額1Mbps当たり1,200ドル から、現在では月額1ドル程度と大幅に低下し ている(Norton [2014])11。さらに、ティア1は ティア1以外のISP間のピアリングに対抗して、 自社のネットワークをグローバルに拡張して米 国以外の国・地域に相互接続ポイントを設けて いる。その結果、トランジット料金の低下が、 米国内ばかりではなく、日本と米国間、他国と 米国間にも及んでいる(図表5、6)。例えば、 東京におけるトランジット料金は、2011年の 13.50ドルから2014年の8.00ドルへと年率16% 低下している(図表7)。その結果、トランジッ ト収入も、今後減少を続けると予測されている (図表8)。 図表5 トランジット料金(月額)の例 出所:Faratin et al. [2008] 11 これは米国の実態であり、わが国から米国、わが国 内のトランジット料金は、不明である。
図表6 米国のトランジット料金の推移
出所:William B. Norton (Dr. Peering) [2014]
図表7 アジア地域のMbps当たりトランジット料 金の推移 出所:Telegeography [2015b] 図表8 トランジット収入の予測 出所:Telegeography [2015a] 第三には、ダウンロード、ストリーミングに よる動画配信の急増とともにコンテンツプロバ イダーによるCDN利用が拡大し、Netfl ixに見ら れるように、ISPとの直接ピアリング、ISPのト ランジット利用、エンドユーザーが利用してい るISPに対する「埋め込みCDNキャッシュサー バー」の提供など、その利用形態が多様化して きている。 これは、動画配信を支えるCDNがISPとの関 係を自社に有利なように変更していることを示 している。CDNはできる限りエンドユーザー に近い場所にコンテンツをキャッシュし、品質 の向上、トランジット費用の削減を実現してい る。例えば、CDNはFCCのいうブロードバンド・ インターネット・アクセス・サービス(BIAS: Broadband Internet Access Service)事業者との ピアリングを拡大し、大規模BIAS事業者はこ れに対応して、バックボーンを建設・購入して 行っている。これをグローバルに展開している のが、Googleである。Googleのネットワーク自 体がASであるが、そのネットワークを世界各 国に拡大し、各国のISPと相互接続料金不要の ピアリング契約を結んでいる(図表9)。各国の ISPは上述のように、増大するダウンロードト ラヒックに対応するためにネットワーク設備の 増強を迫られるが、定額制のインターネット料 金の仕組みの中では、追加的な収入は得られな いので、Googleとのピアリングにはデメリット が存在する。しかし、Googleとの相互接続抜き には他のISPとの顧客獲得競争を有利に進める ことができないため、やむを得ずGoogleからの ピアリングの要求を受け入れている。さらに、 Googleは、CDNのために他のISPのサービスを 利用する形態から、通信事業者から専用回線を 賃借する形態に移行し、さらには、自ら国際回 線を取得する形態へと事業形態を進化させてき ている。 図表9 GoogleのCDNと国内ISP 出所:国内ISPからのヒヤリングに基づいて作成
以上まとめると、これまでのティア1が他 のISPとのピアリングを拒否し、相互接続料金 の高いトランジット契約を強いているという 認識を改めなければならない。Telegeography (Telegeography [2014]) によれば、IPトランジ ット収入は減少傾向にあり、2013年の収入規 模は、トランジット収入21億ドル、回線収入25 億ドルと小規模であり、今後も減少が予想され る(図表8)。これは、世界のIPトランジット収 入全体の傾向であり、ティア1のトランジット 収入もここに含まれることから、その収入規模 も小さいものと見てよいだろう。但し、Google のようなコンテンツ事業者が、上位レイヤーか ら下位レイヤーへと事業を拡張してきているこ とから、検索市場・コンテンツ市場における市 場支配力を濫用する可能性については、ISPの 相互接続における新たな問題として認識する必 要がある。事実、国内ISPからのヒヤリングに おいては、Googleとのピアリングは不本意で はあるが、Googleの提供するコンテンツサー ビスにスムーズにアクセスできることは、他の ISPとの競争優位を確保するための必要悪とし て割り切らざるをえないという認識も表明され ており、今後Google以外の、Amazon、Apple、 Netfl ixなどの米国大手コンテンツ事業者のビジ ネス展開を含め、市場動向を注視する必要があ る。 4 FCCとインターネット相互接続 こうした現状をFCCはどう評価しているので あろうか。FCCのネットワーク中立性の議論を 通して見ていこう。FCCのネットワーク中立性 の議論とインターネットの相互接続との間にど のような関係があるのか、訝しく思うむきもあ ろう。ここでは、2015年2月に発表されたFCC の「オープンインターネット規則を改正する規 則」(以下、「新オープンインターネット規則」) (FCC [2015]) で、BIASの定義を従来の情報サ ービス (Information Service) から電気通信サー ビス(Telecommunications Service) に変更した ことと関連する。 4.1 ネットワーク中立性の議論 ネットワーク中立性の議論は、FCCの決定 としては、2010年10月の「オープンインター ネット規則 (FCC [2010]) で、Transparency、No Blocking、No Unreasonable Discriminationの 原 則が定められたのが、正式規則の始まりであ る12。この規則に関しては、FCCの規制権限が 問題にされ、2014年1月のVerizon訴訟判決13で、 主要部分が否定された。そのため、FCCは2014 年5月に、「オープンインターネット見直し告 示」 (FCC [2014]) を発出し、これに寄せられ たコメントなどを踏まえ、2015年2月に、「新 オープンインターネット規則」を制定した14。 これは、その名前が示す通りオープンインタ ーネットの確保を目的とするものであり (FCC [2015] Para.7)、モバイル・ブロードバンドと ストリーミングビデオの普及を背景とするとさ れている (FCC [2015] Para.9)。規制対象は固 定、移動を問わず、消費者向けのBIASであり (FCC [2015] Para.187、188)、企業向けサービ ス、VPN、CDN、ホスティング・データ保管 サービス、バックボーンに関するサービスは規 制対象外とされている (FCC [2015] Para.189)。 4.2 新オープンインターネット規則の規制内容 「新オープンインターネット規則」の規制 内容は、「オープンインターネット規則」と 大きく変わっている訳ではないが、主要点は 3 つある。第一に、オープンインターネッ 12 詳細は、神野[2010]、海野[2014a]、[2014b]などを参照。
13 Verizon V. Federal Communications Commission, 740
F.3d(D.C.Cir.2014)
14
トを阻害する行為の禁止である (FCC [2015] Para.7)。ここでは、 3 つの行為が禁じられて いる。 (1) 合法的なコンテンツ、アプリケーション サービス、無害な端末のブロック (FCC [2015] Para.111-118) (2) 特定の合法的なコンテンツ、アプリケーシ ョンサービス、無害な端末のトラヒック の妨害、品質低下 (FCC [2015] Para.119-130) (3) 追加料金の支払を条件とした特定の合法的 なコンテンツ、アプリケーションサービス、 無害な端末の優遇 (FCC [2015] Para.107) 但し、合理的なネットワーク管理は許容され ている (FCC [2015] Para.105)。わが国の文脈 では、携帯電話の定額制データ通信料金におけ る上限パケット量超過時の速度低下が、合理的 なネットワーク管理に該当するか否かが問題と なろう。 第二に、消費者・エッジプロバイダーに対す る干渉・差別的な取扱いが禁止されている(FCC [2015] Para.133-145)。 第三に、透明性の確保である (FCC [2015] Para.154-181)。特に、料金・付加料金、キャン ペーン料金、上限データ通信量、パケットロス や、利用者に影響を与える可能性のあるネット ワーク管理に関する情報の開示などが求められ ている。 4.3 BIASを情報サービスから電気通信サービ スに再定義 ここでは、BIASを情報サービスから電気通 信サービスに再分類したことが重要である。 FCCは、電気通信を「送受信される情報の形態 又は内容を変更することなく、利用者の選択し た情報を、その指定する二点間又は複数の地点 間で伝送すること」 (47U.S.C.§153 (50)) と定 義し、電気通信サービスを「利用される設備に かかわらず、有料で直接公衆に対して、又は公 衆に対して直接効率的に提供することを目的と した特定の階層の利用者に対して電気通信を提 供すること」と定義している (47U.S.C.§153 (53))。これは、わが国における、通信、通信 処理と同様の概念である15。一方、情報サービ スは、「電気通信を通じた情報の生成、取得、 蓄積、変換、処理、抽出、利用又は活用を可能 とする機能」としており、「電子出版を含むが、 電気通信システムの管理、統制又は運用もしく は電気通信サービスの管理のための当該機能の あらゆる形での使用(電気通信管理を目的とす る情報加工機能の使用)は含まないとされてい る (47U.S.C.§153 (24))。わが国における、デ ータ処理の概念に近いものである。 従来は、BIASを情報サービスに位置づけて きた。これは、以下のような、判例、FCCの規 則などで定着してきた考えである16。
(1) 2002 年 3 月:Cable Modem Declaratory Ruling (FCC [2002])
(2) 2005年6月:Brand X 判決
・National Cable & Telecommunications Association v. Brand X Internet Services, 545 US. 967 (2005a)
(3) 2 0 0 5 年 9 月 : W i r e l i n e B r o a d b a n d Classifi cation Order (FCC [2005b]) (4) 2006 年 11 月:Broadband over Power Line
Classifi cation Order (FCC [2006])
(5) 2 0 0 7 年 3 月 : W i r e l e s s B r o a d b a n d Classifi cation Order (FCC [2007]
その根拠は以下のように説明されている。 (1) データ伝送機能に加えて、プロトコル変換、
IPアドレスの割当て、DNS (Domain Name System)を通じてのドメインネームの解決、 ネットワークセキュリティ、キャッシング 15 通信、通信処理、データ処理の概念については福家 [2014]を参照。 16 この間の経緯は、海野[2014a]に詳しい。
などの機能が一体として提供されているこ とから、全体としては情報加工機能であ ると判断される (FCC [2002] Para. 16-17、 38-39)。 (2) 電気通信サービスは提供されるが、情報加 工機能と一体で提供され、伝送を単独で提 供するものではない (FCC [2002] para.39-41)。 これに対して、新オープンインターネット規 則では、以下のようにBIAS市場が大きく変化 してきていることを理由として、BIASを電気 通信サービスに再分類した。 (1) BIASの伝送機能が、当該事業者の独自の アプリケーションやサービスと密接不可分 になっているのではなく、他の事業者のイ ンターネットを用いた各種サービス利用に 不可欠な機能となっており、導管(Conduit) としての役割を果たしている (FCC [2015] para.330)。即ち、各種アプリケーションの 利用に際してBIASの利用が不可欠であり、 利用者も第3者の提供する各種サービスを 利用しているのみならず、BIAS事業者の 営業活動においても、伝送速度・信頼性が 他の機能とは切り離されて強調されてい る (FCC [2015] para.346-350)。さらには、 BIASは技術的にも導管としての役割が明 白である (FCC [2015] para.361-381)。 (2) IPパケットの伝送において、情報の内容に 改変がなく、DNSなどの利用が情報処理 ではなく電気通信システムの管理目的であ ることの認識が不十分であった。DNSの 利用自体が情報の内容を改変しない (FCC [2015] para.365-371) し、キャッシングは 情報の保管ではなく、電気通信システム の管理目的の情報加工機能である (FCC [2015] para.372)。また、電子メールアカ ウントの管理、迷惑メール遮断などの付 加機能は、情報処理機能であるが、伝送 系機能とは切り離されている (FCC [2015] para.373)。 このように、一般利用者向けのBIASを電気 通信サービスとして位置づければ、エッジプロ バイダー、即ち、コンテンツプロバイダー向け のサービスも電気通信サービスとなり、1996 年電気通信法TitleⅡ適用対象となることから、 公正性・合理性が求められることになる (FCC [2015] para.338)。なお、エッジプロバイダー 自身がBIASを提供するとすれば、その部分は 電気通信サービスとして規制対象となる (FCC [2015] para.339)。かくして、新オープンイン ターネット規則の規制根拠が明確となり、固定 系・移動系に等しく適用されることとなった (FCC [2015] para.75、86-88)。 4.4 新オープンインターネット規則とISPの 相互接続 BIASが電気通信サービスに位置づけられる ということは、1996年電気通信法TitleⅡの適用 対象になるということであが、FCCは公益事業 型の料金規制、ユニバーサル・サービス基金へ の拠出義務、加入者回線のアンバンドル規制な どを含め、基本的に規制を差し控えるとしてい る (FCC [2015] para.493-536)。 それでは、本稿の本題である相互接続は、新 オープンインターネット規則でどのように取 り扱われているのであろうか。FCCによれば、 1996年電気通信法§251、§252、§256などの 相互接続に関する規制も差し控えることにな る (FCC [2015] para.30、40)。その理由として FCCは以下の 4 点を挙げている。 (1) 動画配信の急増に伴って、インターネット トラヒックの性格が大きく変化した。その ため、CDNが重視され、Netfl ixやGoogleの ようなコンテンツプロバイダーとLast-mile 事業者間の直接接続も出現している。 (2) Netfl ixと大規模Last-mile事業者間の一連の
騒動に見られるように、商業上の意見の相 違によって、消費者はサービスの低下に直 面している。 (3) しかし、このような品質低下の原因は、 FCCの記録によれば、過去の混乱の原因、 相互接続をめぐる紛争の可能性について は、全く別の説明がなされている。 (4) FCCは、Last-mile問題に関しては、十分な 経験を有するが、インターネットにおける トラヒックの交換、特に、規範的な規則に 関しては、十分な蓄積がない。 FCCは、しかし、規制が必要とされる蓋然性 は認識している (FCC [2015] PP.199-202)。こ れまでにも大規模BIAS事業者と商業トランジ ット事業者・大規模CDN事業者間の紛争例が ある。商業トランジット事業者・大規模CDN 事業者は、大規模BIASが相互接続料金の支払 を伴わないピアリングやCDNのための接続点 の相互接続設備のアップグレードを拒否して人 為的に輻輳を発生させて、エッジプロバイダー やCDNを有償 (Paid) ピアリング協定に追い込 んでいると主張している。これに対してBIAS 事業者側は、Netfl ixなどのエッジプロバイダー の需要に応えるために、ルーター、ポート、ト ランスポート伝送路などの設備投資負担が生 じ、そのために利用者料金の値上げをせざるを 得ず、一方的にトラヒックを送出するだけのエ ッジプロバイダーはピアリングの趣旨に反する と主張している。 FCC自 身 も 以 下 の よ う にBIASの 規 制 が 必 要とされる蓋然性が存在すると認識している (FCC [2015] para.205)。 (1) BIASは相互接続条件によってエッジプロ バイダーを差別する能力がある17。 (2) スイッチングコストによって、消費者の事 17
Bykowsky et al. [2014a] はBIASが優先接続に対して 全てのプロバイダーに均等な料金を課した場合に は、全体としての厚生が向上すると論じている。 業者選択の自由を制限することができる。 しかしながら、現状では、以下のような理由 によって、事前規制を導入するのは適当ではな いと判断している (FCC [2015] para.202)18。 (1) BIASと他のISP間の相互接続条件は基本的 に当事者間の交渉・契約に基づいて決せら れる。 (2) 市場が流動的で、規範的な規制の導入は時 期尚早である。 (3) FCCがこの分野で十分な経験を蓄積してい ない。 4.5 ISP間の相互接続規制に関する評価 ISP間の相互接続規制問題を評価するに当た っては、日米のISP市場の構造の相違をまず確 認する必要がある(図表10)。 図表10 日米のブロードバンドの産業構造 日本の場合、総務省の支配的な事業者規制に より、NTTグループの地域電話会社であるNTT 東日本、NTT西日本(以下「東西NTT」)は、 インターネット業務については、物理的なアク セス回線の提供に限定され、プロバイダー業務、 コンテンツ業務は禁止され、全てのプロバイダ ーに対して非差別的にアクセス回線を提供する ように義務付けられている。一方、米国におい ては、BIAS市場はVerizon、AT&Tなどの通信 18 Two-sided marketの視点からBIASの規制の必要性が ないと論じたものにBykowsky et al. [2014a]、[2014b] がある。
事業者とケーブルテレビ事業者が設備ベースの 競争を展開している。しかも、両グループとも アクセス回線に加えて、ISP業務、コンテンツ 業務を垂直統合して展開している。従って、こ れらBIASは、コンテンツを提供するエッジプ ロバイダーと競争関係にあることから、相互接 続に当たって、エッジプロバイダーを差別する 「能力」があるばかりでなく、動機も存在する のである。 BIAS市 場 に お い て は、 実 質 的 にVerizon、 AT&Tなどの通信事業者とケーブル事業者の複 占状態にあり、これらの事業者が固定系BIAS 市場において市場支配力を有すると言ってよ い。さらに、Verizon、AT&Tは、全米第一位と 第二位の携帯電話事業者でもあり、固定系と移 動系を合わせたBIAS市場全体においても、市 場支配力を有すると考えてよい。このように見 てくるとBIAS事業者に対する規制を、ケース バイケースで対処するというFCCの姿勢には問 題があると言わざるを得ない19。 一方、わが国においては、米国のBIASに相 当すべき東西NTTが、KDDIやソフトバンクと は異なってISP事業との兼営を認められず、ま た、東西NTTは携帯電話事業との兼営を認め られていない20、という非対称規制が存在する。 このため、ブロードバンドアクセスのための物 理的な回線は東西NTTが提供し、ISPはそれを 利用してBIASとバックボーンを一体提供する という産業構造となり、そもそもBIAS事業者 という範疇に該当する事業者が、一部のケーブ ルテレビ事業者を除いては存在しないと言って 19 Werbach [2009] は、インターネットの相互接続性を 維持するためには、自律性に任せるだけでは不十分 であり、一定の政策的な介入が求められる場合もあ ることを、論じている。 20 2015年より、東西NTTによるFTTHアクセスサービ スの卸役務、いわゆる「光コラボレーション」が開 始され、これを利用してNTTドコモも、携帯電話と FTTHアクセスサービスのセット割引が提供できる こととなった。 よい。こうしたISPの産業構造が、ネットワー ク中立性の議論がわが国において関心を集めな い一因でもあるが、上述したように、Googleな どのコンテンツ事業者による物理層までの事業 展開が拡大した場合の、コンテンツ事業者の市 場支配力には注目する必要がある。 5 おわりに 本稿においては、インターネット市場の変貌 に伴い、従来のティア1によるインターネット の相互接続の優越的な地位が揺らぎ、また、コ ンテンツ事業者をはじめとするOTT事業者の成 長に伴って、これらの事業者がASとして、ISP との相互接続の当事者として登場してきたこと を見てきた。これに伴い、ティア1のネットワ ークをエッセンシャル・ファシリティとみなし て規制する必要性についての議論が、妥当性を 失いつつあることを指摘した。しかし、これは、 必ずしもインターネットにおける相互接続問題 が、議論の対象外になったということを意味す る訳ではない。GoogleなどのOTT事業者がコン テンツ市場における優越的な地位を濫用して、 BIAS事業者との相互接続において、無償のピ アリング接続を強要しているのではないか、と いう問題が、新たに議論の俎上に載せられるか らである。インターネット市場の変貌を視野に 入れた、新しい視点からの議論が求められてい る。 参考文献
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