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04菊崎泰枝_改

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Ⅰ.緒言

 2002年 4 月施行の栄養士法の一部改正に伴い、管 理 栄 養 士 養 成 施 設 の 給 食 経 営 管 理 に 関 わ る 設 備 は HACCP(Hazard Analysis and Critical Control Points: 危害分析重要管理点 ) 概念1)に基づいた大量調理の衛生 管理マニュアルに沿った設備であることが義務づけら れた2)。その背景には、1996年堺市で発生した腸管出血 性大腸菌 O157による学校給食集団食中毒事件をはじめ、 その後も各給食施設における食中毒発生がなくならない 現状があったからであろう。管理栄養士が給食施設にお いて衛生管理の中心的役割を担うため、管理栄養士養成 施設における衛生管理教育の強化を図る目的があったも のと考えられる。

給食経営管理実習における衛生管理に対するHACCP概念導入の教育効果について

−作業過程における一般生菌数の推移と作業動線の実態調査から−

菊﨑 泰枝、御前 加奈、戸嶋 ひろ野

*1

、松村 羊子

*2

荻布 智恵、西川 禎一、尾立 純子

*3

Summary

 To elucidate eff ects of the education of HACCP principles on sanitary management in food service

management practice, the actual condition of standard plate counts of cooking equipments and hands of

cooking staff , line of movements and temperature control operation in working processes were

investi-gated. Standard plate counts of cooking equipments in a quantity cooking process corresponded to degree

of cleanliness of working with or without the education of HACCP principles.

Changes in standard plate counts of hands of cooking staff indicated that the education did not infl uence

the hand washing results. On the contrary, concerning line of movements, the education of HACCP

prin-ciples led to a marked decrease of movement from lower to higher clean zone. Furthermore, the

educa-tion of HACCP principles played an important role in the improvement of temperature control operaeduca-tion.

Keywords:

給食経営管理実習、衛生管理、HACCP、一般生菌数、作業動線

Food service management practice; Sanitary management; HACCP; Standard plate counts; Line of movement

Graduate School of Human Life Science, Osaka City University,

*

The Faculty of Education, Art and Science, Yamagata University,

*

aculty of Health Science, Kio University,

*

Nutrition College, Osaka City Institute of Public Health and Environmental Sciences

Hiroe KIKUZAKI, Kana MISAKI, Hirono TOSHIMA*

1

, Yoko MATSUMURA*

2

, Tomoe OGINO,

Yoshikazu NISHIKAWA and Junko ODACHI*

3

Eff ects of the education of HACCP principles on sanitary management

in food service management practice

-Based on investigations of the actual condition of standard plate counts and

line of movements in working

processes-大阪市立大学大学院生活科学研究科

*1

現所属:山形大学地域教育文化学部

*2

現所属:畿央大学健康科学部

*3

大阪市立環境科学研究所附設栄養専門学校

(2)

 この社会的要請に答えるには管理栄養士養成施設に おいてどのような衛生管理教育をすれば有効であるか? 給食経営管理実習のなかに HACCP 概念を導入した衛生 管理教育を具体的にどのように実施していくべきか?こ れが管理栄養士養成施設に課せられた当面の課題と考え た。  HACCP 概念が導入された「大量調理施設衛生管理マ ニュアル」では、食材料の購入から配膳に至る一連の作 業工程において、想定される食中毒菌汚染の危害をリス トアップし、対策として管理基準や管理方法がマニュア ル化されている3) 4)。主要目的は微生物を付けない(除 菌)、殺す(殺菌)、増やさない(静菌)という食中毒防 止三原則を実行することで、具体的には、ゾーニングお よび手指、調理設備洗浄・消毒の徹底などによる二次汚 染防止やモニタリングによる温度管理が重要管理事項と なろう。  本研究は、栄養士法一部改正以前の旧カリキュラムで 実施した給食管理実習(2002年度、2003年度)と改正後 の新カリキュラムで実施した給食経営管理実習(2004年 度、2005年度)において、作業過程における使用設備と 手指の一般生菌数の推移、作業動線、温度管理状況等の 調査を行い、実習現場の基礎データを提示して HACCP 概念を導入した衛生教育を行うことが実際の実習の場に どのような影響を与えるかを検証し、今後の衛生教育に 反映させることを目的とした。

Ⅱ.調査方法

1 調査対象とした給食経営管理実習の概要

a 調査対象実習  大阪市立大学生活科学部食品栄養科学科において実施 した給食管理実習(2002、2003年度実施)および給食経 営管理実習(2004、2005年度実施)を調査対象とした。 b 実習対象者  実習は、食品栄養科学科3年生(2002年度30名;2003 年度32名;2004年度32名;2005年度32名)を対象に実施 した。2002年度、2003年度は、「給食管理」および「給 食管理論実習Ⅰ」の事前授業で HACCP に関する教育 はとくに受けておらず、従来の衛生管理教育を受けた 学生を、2004年度、2005年度は、「給食経営管理論Ⅰ、 Ⅱ」および「給食経営管理実習」の事前授業において HACCP に関する教育を受けた学生を対象とした。 1 班 を 6 ∼ 7 名で構成し 5 班に班分けした。 5 班の分担は、 2002年度、2003年度の実習では管理栄養士班( 1 班)、 栄養士班( 1 班)、調理従事班( 2 班)および次管理栄 養士班( 1 班)とし、2004年度、2005年度の実習では管 理栄養士班( 1 班)、栄養士班( 1 班)、調理従事班( 1 班)、衛生管理班( 1 班)および次管理栄養士班( 1 班) とした。  各班の役割の概略は次のとおりである。  管理栄養士班:事前に献立および作業工程表の作成を 行う。実習当日は、管理責任者として、栄養士班、調理 従事班に指示をし、一連の生産工程の管理を行う。調理 従事者の衛生事前チェック、検食、喫食者評価、会計を 実施する。  栄養士班:管理栄養士の指示のもと、調理作業ととも に、食品および機器の温度管理、塩分、糖度チェックな どを担う。残食調査を行う。  調理従事班:管理栄養士の指示のもと、調理作業、器 具等の洗浄、清掃作業を行う。  衛生管理班:実習前後の使用設備の一般生菌数検査を 行う。調理従事者の手指の一般生菌数検査を行う。動線 調査を行う。実習中、衛生管理が適切に実施されている かをチェックする。  次管理栄養士班:食材購入、検収、保存食のサンプリ ング、使用食器、器具等の準備(洗浄、消毒を含む)と 点検、献立に係るポスター、喫食者アンケート等の準備、 作業工程の最終確認等を実施する。  なお、2002年度、2003年度に関しては、衛生管理班を 実習対象者ではなく別途編成して調査に当たった。 c 調査対象実習実施期間  各年、 1 月下旬から 2 月上旬にかけての 5 日間(午前 8 時30分∼午後 5 時)の実習を調査対象とした。 5 日間 で 5 班がすべての役割の担えるように各班の役割を輪番 制とした。 d 実習実施場所  実習は給食経営管理実習室にて実施した。本実習室は ドライシステムで、汚染作業区域と準清潔作業区域の間 はカウンター(食材等のみが手渡しできる)および手押 しドアで仕切られている。準清潔作業区域と清潔作業区 域は床色を変えてゾーンわけしており、特別な仕切りは 施していない。実習室の図面を Fig. 1 に示した。  各区域内での作業内容の概略は次のとおりである。  汚染作業区域:検収、洗米、肉・魚類の下処理、野菜 の下処理、野菜・果物の洗浄、区域内で使用される器具 類の洗浄、消毒等  準清潔作業区域:炊飯、肉・魚類の調味や成形、野菜 ・果物の切菜や成形、各種加熱操作、調味、調理途中の

(3)

食品の適温保存、準清潔および清潔作業区域内で使用さ れる器具類、下膳された食器類の洗浄、消毒等  清潔作業区域:冷菜調理(サラダ、和え物、デザート 類など)、調理済み食品の適温保存、盛り付け、配膳

2 一般生菌数の測定

a 使用設備の一般生菌数の測定  「ふきふきチェック」(アズワン)を用いて、検査対 象の表面を約100㎠拭き取った。常法に従い懸濁液を調 製し、スパイラルプレーター(Eddy Jet, GSI クレオス) を用いて標準寒天平板(日水製薬)に塗抹した。35℃、 24時間培養後、生じたコロニー数から 1 検体あたりの一 般生菌数を算出した5)  Fig. 1 の給食経営管理実習室図面の番号を付した箇所 から試料を採取した。各年、 5 回の実習の作業前後の一 般生菌数を測定した。採取検体数は、2002年度が汚染作 業区域41件、準清潔作業区域38件、清潔作業区域40件で あり、2003年度は同37件、38件、40件、2004年度は同43 件、40件、35件であった。 b 手指の一般生菌数の測定  一般細菌用パームスタンプチェック(日研生物医学研 究所)を使用した。容器の蓋をとり、直ちに検査対象者 の手のひらをスタンプ培地に押し付けた。培地表面が十 分に乾燥しているのを確認した後、35℃、24時間培養し、 現れたコロニー数を数えてプレート 1 枚あたりの生菌数 を算出した6)

3 作業動線の追跡調査

 調理従事者が作業中、汚染度の高い区域から低い区域 へ移動した回数(逆行回数)を追跡した。汚染作業区域 から準清潔作業区域への移動は、汚染作業区域を退室し、 準清潔作業区域への入り口で上履きを履き替え手洗いし て入室した場合は逆行とはみなさず、汚染作業区域から 手押しドアと通って準清潔作業区域に移動した回数のみ を数えた。同様に、準清潔作業区域から清潔作業区域へ の移動時に手洗いをしなかった場合を逆行とみなしてそ の回数を数えた。

4 温度管理状況

 食器・器具消毒保管庫 4 台、まな板・包丁保管庫 2 台 および冷蔵庫 3 台、冷凍庫 1 台に温度点検管理表を設置 した。実習の事前指導で必要に応じて点検するように指 導し、実習中に実際に学生が自主的に点検した回数を数 えた。

Ⅲ.結果

1 使用設備の一般生菌数の推移

a 2002年度  2002年度の給食管理実習の調査は、HACCP 概念に基 分に乾燥しているのを確認した後、35℃、24時間培養し、  2002年度の給食管理実習の調査は、HACCP 概念に基 Fig. 1 給食経営管理実習室見取り図 Fig. 1 給食経営管理実習室見取り図 ①∼⑲は使用設備拭き取り検査箇所を示す。 汚 染 作 業 区 域:①水道カラン、②水切り台排水部、③調理台排水部、④冷蔵庫取手、⑤隔壁ドア手押し部分 準清潔作業区域:⑥水道カラン、⑦水道カラン、⑧調理台排水部、⑨ガスオーブン取手、⑩ガスレンジ器具栓つまみ、 ⑪ IH レンジタッチパネル、⑫洗浄コーナー水道カラン、⑬食器・器具消毒保管庫洗浄コーナー 側取手、⑭消毒保管庫取手、⑮包丁まな板消毒保管庫取手 清 潔 作 業 区 域:⑯食器・器具消毒保管庫清潔作業区域側取手、⑰冷蔵庫取手、⑱盛付台、⑲保温庫取手

(4)

づく衛生管理教育を導入した給食経営管理の授業、実 習の構築に向けて、基礎情報を得ることを主眼として行 った。すなわち、従来給食管理実習の現場において衛生 状況を調べたデータがなかったので、各調理作業による 汚染状況を把握するため実態調査を行うことを基本とし た。  各作業区域で作業直後の一般生菌数(個 / ㎠)を算出 した(Fig. 2 )。図中の ND は検出限界(not detected) を表している。なお、洗浄、消毒済みの作業前の各使用 設備の一般生菌数はすべて検出限界以下であった。汚染 作業区域では生菌数の分布が102∼10のオーダに分布 しており、平均は1.7×105であった。同様に準清潔作業 区域の平均は4.2×102、清潔作業区域の平均は7.5×10 と汚染作業区域に対しておよそ100分の 1 であった。汚 染作業区域でとくに菌数の多かったのは、まな板(実測 値例:2.8×106)および包丁の柄(実測値例:7.3×10 であった。 b 2003年度  2002年度の調査結果より、とくに HACCP 教育を施し ていなくても各作業区域での一般生菌数は作業の清潔度 にしたがって減少することがわかった。そこで2003年度 の実習では、一般生菌数の推移を再度調査し再現性を確 認することを目的とした。  2002年度と同様、各作業区域で作業後の一般生菌数を 算出した(Fig. 2 )。汚染作業区域では生菌数の分布が 102∼10のオーダに分布しており、平均は5.1×10であ った。同様に準清潔作業区域の平均は5.7×102、清潔作 業区域の平均は3.5×102と汚染作業区域に対しておよそ 100分の 1 で、2002年度のデータをほぼ支持する結果を 得た。 c 2004年度  2004年度から新カリキュラムに沿って、授業、実習 の事前指導において HACCP 概念を導入した教育を行っ た。同時に、2002年度、2003年度の実習時に行った調査 結果である使用設備一般生菌数の推移のデータを具体的 に例示し、学生の注意を喚起した。  2002年度、2003年度と同様、各作業区域で作業後の一 般生菌数を算出した(Fig. 2 )。汚染作業区域、清潔作 業区域において、前年度までに比べて生菌数が減少して おり、とくに清潔作業区域の生菌数は0.7×101と低値を 示した。全体的には2002年度、2003年度と同様、作業の 清潔度に応じた一般生菌数の推移が認められた。

2 手指の一般生菌数の推移

a 2002年度  2002年度は、各作業によって実際にどれだけ手指が汚 染されるかを調べるため、野菜の下処理、野菜の切断、 盛り付けなどの各作業前後の生菌数を調べた。Fig. 3 に 汚染作業区域および準清潔作業区域における作業後の菌 の培養検査の典型例を示した。また、Fig. 4 は各作業区 域における作業後の手指の一般生菌数(個 / 1 プレート) をプロットしたものである。菌数の分布は作業の清潔度 に応じて減少する傾向にあった。 b 2003年度  2002年度のデータから実際の調理作業後に顕著に生 菌数が増加することが確認されたので、2003年度は手指 の洗浄が十分にされているかどうかをあきらかにするた め、作業直後にスタンプチェックし、直ちに手洗いをし てその直後のスタンプチェックを行うことにより、作業 後の手洗いで菌数にどのような推移が見られるかを調べ た。Fig. 5 は手洗い前後の生菌数を減少、変化なし、増 加の3つの項目にわけて分布をみたものである。判定基 準は春藤のパームスタンプ法の判定基準を用いた6)。す なわち、測定した菌数を細菌数が100個未満を「清潔」、 101 ∼ 350個を「軽度の汚染」、351 ∼ 600個を「汚染」、 601 ∼ 850個を「重度の汚染」、851個以上を「著しい汚 染」の 5 段階で評価した。手洗い後が手洗い前より清 潔な段階に移行しているものを減少、同じ場合を変化な し、より汚染の段階に移行した場合を増加とした。その 結果、55%が減少したが、26%が変化なし、19%はむし ろ増加していた。また、Fig. 6 は汚染作業区域と準清潔 作業区域に分けて区域別に手洗い前後の一般生菌数の推 Fig. 2 各作業区域における作業後の使用設備の一般生菌数  (35℃、24時間培養後)           □:平均値、ND:検出限界

(5)

移を示したものである。なお清潔作業区域は検体数が少 なかったので除外した。作業後手洗い前の一般生菌数は、 汚染作業区域で平均738(16検体)、準清潔作業区域で平 均567(30検体)、清潔作業区域で平均228( 9 検体)と、 前年同様、作業の清潔度に準じていた。汚染作業区域で は、63%が減少、27%が変化なし、9 %が増加していた。 一方、準清潔作業区域では52%が減少、26%が変化なし、 22%が増加と、汚染作業区域の手洗い効果の成績の方が よかった。 c 2004年度  2004年度から授業、実習の事前指導において HACCP 概念を導入した教育を行った。また、手指の一般生菌数 の推移について2002年度、2003年度の具体的データを例 示して学生の注意を促すとともに、手洗いの達成度をチ Fig.3 汚染作業区域および準清潔作業区域における作業 前後の手指の一般生菌培養検査の典型例(35℃、 24時間培養後) 汚染作業区域 作業内容:もやしのひげとり 準清潔作業区域 作業内容:鮭を天板に並べる 作業内容:パセリを刻む 作業前 作業後 作業前 作業前 作業後 Fig. 4 2002年度給食管理実習における各作業区域の      作業後の手指の一般生菌数(個 / プレート)     (35℃、24時間培養後)     □:平均値 Fig. 5 手洗い前後の調理従事者の手指の一般生菌数の     推移(35℃、24時間培養後) Fig. 6 作業区域別手洗い前後の調理従事者の手指の     一般生菌数の推移(35℃、24時間培養後) 作業後

(6)

ェックする目的で蛍光クリームをすり込んでその後の手 洗い効果を各自確認させる試験を予め実施した。2003年 度と同様、Fig. 5 に手洗い前後の生菌数を減少、変化な し、増加の 3 つの項目にわけて分布をみた結果を示した。 一般生菌数が手洗い前後で減少した割合は36%、変化な しが28%、増加した割合が36%であった。また、区域別 にみると、汚染作業区域(一般生菌数平均498、29検体) において、減少が52%、変化なしが35%、増加が13%で あるのに対して、準清潔作業区域(一般生菌数平均327、 47検体)では、減少が17%、変化なしが39%、増加が66 %と、汚染作業区域における手洗いの結果の方が良好で あった(Fig. 6 )。 d 2005年度  2004年度の調査で手指の一般生菌数に関して改善効果 が認められなかったので、2005年度は事前指導時にその 点を強調した授業を行った。  前年度と同様、Fig. 5 に手洗い前後の生菌数を減少、 変化なし、増加の 3 つの項目にわけて分布をみた結果を 示した。一般生菌数が手洗い前後で減少した割合は32%、 変化なしが32%、増加した割合が36%であった。また、 区域別にみると、汚染作業区域(一般生菌数平均322、 42検体)において、減少が21%、変化なしが45%、増加 が33%であるのに対して、準清潔作業区域(一般生菌数 平均288、61検体)では、減少が18%、変化なしが42%、 増加が40%であった(Fig. 6 )。  手指の洗浄に関しては、今回のデータからは HACCP 教育の導入による改善が認められない結果となった。

3 ふきんの一般生菌数の推移

 2002年度、使用設備の一般生菌数の推移と合わせて各 作業区域で作業中に使用したふきんを回収し、ふきん 1 枚あたりの菌数を調べた(Table 1 )。各作業後に調理台 や盛り付け台で使用したふきんの生菌数は、準清潔作業 区域で汚染作業区域のおよそ10分の 1 、清潔作業区域で およそ100分の 1 であり、作業の清潔度に応じた菌数の 推移を示すことがあきらかとなった。

4 食材の調理作業前後の一般生菌数の推移

 2002年度の使用設備およびふきんの一般生菌数の推移 が作業の清潔度に対応していることがわかったが、使用 食材の調理前後の一般生菌数の推移がどのようになって いるかをあきらかにするため、2003年度の実習期間に生 産した料理22品目について、調理前の使用食材と調理後 の製品の一般生菌数を測定した。Fig. 7 にいくつかの例 を示したが、できあがり製品で生菌数の顕著な減少を確 認できた。また、Table 2 に22品目の調査結果をまとめ た。できあがり製品22品目のうち14品目の生菌数が検出 限界以下であった。また3品目に1000 ∼ 4000CFU/g の 一般生菌数が検出されたが、市販の惣菜等よりも生菌数 のレベルが低く、調理操作により食材の一般生菌数が減 少していることが確認できた。

5 作業動線調査

 衛生的には食品製造工場などのように調理従事者も各 作業区域によって区分わけし専従することが望ましい。 しかしながら調理従事者数が少ない給食施設では、必ず しも区分わけすることができない。そこで、本実習では、 ひとりの調理従事者が複数の作業区域にまたがって作業 することを前提に作業工程を組み、その作業工程に従っ て調理従事者の動線を調査した。 a 2003年度  2003年度はとくに動線に関する注意をせず、一般的 な衛生教育によって学生がもっている衛生観念に基づい て自主的に行動させた。 5 日間の実習で合計29名の作業 動線を調査した結果、汚染作業区域から準清潔作業区域 への逆行回数は、 1 日あたり 1 ∼ 3 回が大部分を占め、 平均1人1日あたり2.5回であった(Fig. 8 )。したがっ て、区域による作業内容やその清潔度が異なることは理 解できていても、汚染度の高い区域から低い区域への移 動により、移動先の区域が汚染されるという認識は低い ことがわかった。 b 2004年度  2003年度と同様 5 日間の実習で合計32名の作業動線

1枚あたりの菌数

未使用

1.0×10

2

汚染区域

a)

1.8×10

5

準清潔区域

a)

1.0×10

4

調理器具用

b)

1.1×10

3

清潔区域

c)

8.1×10

2

試食室

d)

4.1×10

2 a) 作業後の調理台を拭き取った後のふきん1枚(350×610mm) あたりの菌数、b) 準清潔作業区域で使用後洗浄した調理器具 を拭いた後のふきん1枚あたりの菌数、c) 盛り付け作業後の盛 付台を拭き取った後のふきん1枚あたりの菌数、d) 試食前のテ ーブルを拭いた後のふきん1枚あたりの菌数 Table 1 各作業区域における作業後のふきんの一般生菌数 (35℃、24時間培養後)

(7)

を調査した。授業、実習の事前指導において HACCP 概 念を導入した教育を行った2004年度では、汚染作業区域 から準清潔作業区域もしくは清潔作業区域への逆行回数 は、 1 日あたり 0 回もしくは 1 回が大半をしめ、平均逆 行回数は0.7回 / 1 人 / 1 日であった(Fig. 8 )。一方、準 清潔区域から清潔区域への逆行回数は頻繁に認められ、 平均逆行回数が4.9回 / 1 人 / 1 日であった。準清潔作業 区域と清潔作業区域の区分けが床の色のみであり、作業 中に区域分けの意識が薄れたためと考えられた。 c 2005年度  2005年度は、作業動線に関しては準清潔作業区域と清 潔作業区域の逆行についてとくに注意を促した。  2004年度と同様 5 日間の実習で合計32名の作業動線を 調査したところ、汚染作業区域から準清潔作業区域もし くは清潔作業区域への逆行回数は、 1 日あたり 0 回であ った。また、準清潔作業区域から清潔作業区域への逆行 もなく、ゾーン分けの概念が実習中にも浸透したことが 伺えた。

6 温度管理状況

a 2003年度  実習に使用する食器・器具消毒保管庫、まな板・包丁 消毒保管庫および冷蔵庫の実習中の温度管理に関して、 学生が自主的に点検を行い温度管理表に記入した回数の 割合を Fig. 9 に示した。その結果、消毒保管庫の温度チ ェックを行ったのは約50%で、冷蔵庫の温度管理に注意 を払う学生は非常に少なく、実習中に温度チェックをす Fig. 7 調理前食材と調理後製品の一般生菌数(35℃、24時間培養後) Table 2 調理前食材(43品目)と調理後製品(22品目)の一般生菌数(35℃、24時間培養後) 調理前食材43品 目の一般生菌数 調理後一般生菌数 2.0×102 1.2×106 ND ・野菜スープ ・豆乳プリン ・牛肉とダイコンの 計14品目 ・けんちん汁 ・ロールキャベツ  煮物 ・つみれ汁 ・カボチャサラダ ・きのこのマリネ ・中国風冷奴 ・イチゴ大福 ・レモンのデザート ・牛乳カン ・ゆず寒天 ・中国風野菜スープ 102∼103 ・たらチリソース ・モヤシの酢の物 ・春菊と桜海老の 計5品目 ・おからサラダ ・いんげん胡麻和え  ごはん 103∼4.0×103 ・鯖ゴマ煮 ・ちらしずし ・ナムル 計3品目

(8)

るように指示しなければチェックを行わない学生がほと んどであった。 b 2004年度  授業、実習の事前指導において HACCP 概念を導入し た教育を行った2004年度は、消毒保管庫の温度チェック を自主的に行ったのは約70 ∼ 90%で、冷蔵庫の温度管 理を行った割合は約60%と、前年度に比較して改善効果 が認められた。 c 2005年度  消毒保管庫の温度チェックを行ったのは約90 ∼ 100% で前年度よりさらに改善が認められた。冷蔵庫の温度管 理を行った割合についても前年度より自主的点検率が向 上していた。

Ⅳ.考察

 本研究において、HACCP 概念を取り入れた衛生管理 教育の効果を検証するために、使用設備および手指の一 般生菌数の推移、作業動線、温度管理状況について調査 した。  使用設備の一般生菌数の推移は、HACCP 概念を取り 入れた事前指導の有無にかかわらず、作業の清潔度に応 じた推移を示した。当初、HACCP 教育の有無が使用設 備の一般生菌数の成績に影響を及ぼすのではないかとい う仮定のもとに本調査を行ったが、HACCP 教育を実施 しなかった2002年度、2003年度においても各作業域で実 施できる作業項目をⅡ.調査方法1-d のとおり指定して いたので、そのことが結果に反映し、差が現れなかった ものと思われる。しかしながら、本研究において各作業 における一般生菌数の推移が具体的にデータとして得ら れたことで、今後の衛生教育においてデータを具体的に 数値として示すことができ、実習生にゾーニングの必要 性に対する鮮明な印象と注意喚起を与える教材になるも のと期待できる。  手指の一般生菌数に関しては、後半の 2 年間は、実 際にスタンプチェックの写真を実例として事前授業で示 し、かつ、手洗いマニュアルを作成し、手洗い方法を徹 底したにもかかわらず、一般生菌数の上では改善効果が 認められなかった。手洗い後に生菌数が減少した割合を 汚染作業区域と準清潔作業区域にわけて分析すると、い Fig.8 調理従事者の作業過程における逆行回数 Fig. 9 使用設備の温度点検を実習生が自主的に行った 割合(%)        A: 食器・器具消毒保管庫(稼働中)、B: まな板・包丁消毒保 管庫(稼働中)、C: 冷蔵庫(作業前)、D: 冷蔵庫(作業中)、E: 冷蔵庫(作業後)

(9)

ずれも汚染作業区域の方が準清潔作業区域より生菌数が 減少した割合が多い傾向にあり、生菌数が手洗い後に増 加する現象はとくに準清潔区域で起こっていることがわ かった(手洗い前後の一般生菌数の平均値:汚染作業区 域2003年度−前738、後340;2004年度−前498、後228; 2005年度−前322、後341;準清潔作業区域2003年度− 前567、後253;2004年度−前327、後444;2005年度−前 288、後331)。このことは、ひとつの可能性として、汚 染作業区域での作業後はとくに手指が汚染されていて、 十分な手洗いが必要であるという調理従事者の意識の現 われであろうと考えられる。一方で、一般に手洗いの時 間によっては手指の奥に常在していた菌が手の表面に現 れ、かえって検査結果に菌数の増加という現象をもたら すといわれている7)。今回得られたデータでは、汚染作 業区域においても準清潔作業区域においても手洗い後の 一般生菌数が300前後に分布しているので、常在菌が手 の表面に現れた可能性も否定できない。今後の課題とし て、一般生菌数が手洗い前後で変化なしあるいは増加す るという現象が、手洗い不十分により食材由来の菌が取 り除かれないことが原因で起こるのか、常在菌の表面化 が原因かを見極める必要があろう。その手段として、食 材から高頻度で検出されるが、健常者の洗浄後の手指か らは検出されることが少ない大腸菌群を指標として検討 する必要があると推察される。         作業動線および温度管理状況に関しては、HACCP 概 念を取り入れた教育効果が認められ、ゾーニングの意義 や重要管理点のモニタリングの意識が学生に浸透したと 考えられる。  本研究で集積した実習中のデータを今後の衛生教育に 生かしたい。

Ⅴ . 要約

 給食経営管理実習において、授業や実習の事前指導で の HACCP 概念を取り入れた衛生教育が使用設備および 手指の一般生菌数の推移、作業動線、温度管理状況に及 ぼす教育効果を調べた。 1 ) 使用設備の一般生菌数の推移は HACCP 教育の有無 にかかわらず、作業の清潔度に応じた推移を示した。 2 ) 手 指 の 一 般 生 菌 数 の 推 移 を 調 べ た 結 果 か ら は HACCP 教育の導入による手指の洗浄改善効果が認 められなかった。 3 ) 作業動線および温度管理状況に対しては、HACCP 教育の効果が顕著に認められた。

Ⅵ . 謝辞

 本研究を遂行するに当たり、ご協力いただいた当該実 習受講生である生活科学部食品栄養科学科の2003年度∼ 2005年度の卒業生および現4年生の皆様に感謝いたしま す。また、2002年度および2003年度の調査において、一 般生菌数の測定および作業動線調査にご協力いただいた 当時の大学院生の皆様にこの場をかりて、感謝申し上げ ます。

引用文献

1 )川端俊治、春田三佐夫編:『HACCP −これからの 食品工場の自主衛生管理』、中央法規出版、東京 (1992) 2 )『栄養士法施行令の一部を改正する政令』、平成13 年政令第287号 (2001) 3 )厚生省通知『大量調理施設衛生管理マニュアル』、 平成9年3月24日日衛食第85号 (1997) 4 )矢野俊博、岸本満:『管理栄養士のための大量調 理施設の衛生管理』樫尾一監修、幸書房、東京、 29-48 (2005) 5 ) 厚生省生活衛生局『食品衛生検査指針 微生物編』、 日本食品衛生協会、東京 (1990) 6 )春藤和哉:『環境衛生管理技術大系 有害微生物管 理技術 II』監修芝崎勲、フジテクノシステム、東京、 489-492(2000) 7 )木庭秀明、荒井一二:『環境衛生管理技術大系 有 害微生物管理技術 II』監修芝崎勲、フジテクノシス テム、東京、202-208(2000)

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給食経営管理実習における衛生管理に対するHACCP概念導入の教育効果について

−作業過程における一般生菌数の推移と作業動線の実態調査から−

菊﨑 泰枝、御前 加奈、戸嶋 ひろ野、松村 羊子、

荻布 智恵、西川 禎一、尾立 純子

要旨:給食経営管理実習における衛生管理に対する HACCP 概念導入の教育効果をあきらかにする目的で、実習中 の使用設備および手指の一般生菌数の推移、作業動線、温度管理状況を調査した。使用設備の一般生菌数の推移は HACCP 教育の有無にかかわらず、作業の清潔度に応じた推移を示した。手指の一般生菌数の推移を調べた結果か らは HACCP 教育の導入による手指の洗浄改善効果が認められなかった。作業動線に関しては HACCP 教育の導入 により実習室の清潔度の低い区域から高い区域への越境移動が激減した。さらに温度管理状況に関しても HACCP 教育の効果が顕著に認められた。

参照

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