1994年 度 斎藤 賞 受 賞 講 演 論 文
牛胚移植技術 の実践 と普及
荒木
武紀
㈲ 荒木 獣 医科 診 療 所 〒861-11熊 本 県菊 池郡 合 志 町 福 原2274-2
要 約 牛 の 改 良,増 殖 を 目的 に農 家 が飼 養 す る多 様 な 受胚 牛 を対 象 に胚 移植(Embryo Transfer,以 下ET)を 試 み,そ の 実 践 と普 及 に取 り組 ん だ.そ の結 果 正 常発 情確 認 牛 以 外 に,発 情 の 外 部 徴 候 が不 明瞭 で外 陰 部 よ り 出 血 を発 見 した 牛(以 下 出 血 牛)や 直腸 検 査(以 下 直検)の 黄 体 や 子 宮 所 見 での 発 情 を推 定 した牛(以 下 推 定 牛), ま た 多 回 授 精 牛 を対 象 に 移 植 した場 合 で も高 い 受胎 率 をあ げ る こ と が で きた.す な わ ち 受 胚 牛 の 約42%を 占 め た 出血 牛 で も正 常発 情 確 認牛 と大 差 な い 受 胎 率 が得 られ た(57.1%;1,316/2,305対64.8%;730/1,127). ま た多 回授 精 牛 に 対 して も,多 頭 数 受 胎 させ る こ と が で き た(48.3%;343/795).ETは 受胎 率 の低 い 夏 季 に 重 点 的 に行 っ た が,Alに 劣 ら ない 受 胎 率 で あ っ た.こ れ らの こ とが 酪 農 家 に認 め られ普 及 に つ な が っ た もの と思 わ れ た.ETに よ る生 産 牛 は各 種 共 進 会 で上 位 に 入 賞 す る もの も多 く,こ の こ と も普 及 に役 立 っ た と思 わ れ た.
キ ー ワ ー ド: Silent heat, Estimation of estrus, Repeat breeders, Embryo transfer
(Journal of Reproduction and Development, 40 : j131-j136, 1994)
は じめ に 対 象 と した酪 農 家 は 熊 本 県 菊 池 郡 管 内 の85戸 で,乳 用 牛 主体 で 約6,000頭 が 飼 養 され て い る.昭 和61年 よ り これ らの 牛 を対 象 に胚 移 植 技 術 の活 用 を 図 っ て きた.こ の 業務 を円 滑 に推 進 す る た め,必 要 に応 じて 生 産 者 を 自 宅 へ 集 め,胚 移 植 の 有 効 性 や 活 用 方 法 につ い て指 導 し, 月1回 はETニ ュ ー ス を送 付 す る な ど情 報 交 換 を密 に し て きた.そ の結 果 平 成4年 度 まで に595頭 の供 胚 牛 か ら 7,644個 の胚 を回 収 し,移 植 可 能 胚 数 は1頭 当 た り8.4個 とな った.移 植 は3,432頭 につ い て 行 い,こ の う ち2,022 頭(59%)が 受 胎 し,1,908頭 の子 牛 の生 産 に成 功 した. 当 初 の 目標 は乳 牛 の改 良 が主 体 で あ っ た が,そ の 後 明 確 な 発情 徴 候 が 認 め られ な い 出血 牛 に対 して 人 工授 精 を補 完 す る 立 場 か ら の実 施 や,多 回授 精 牛 な ど,低 受 胎 牛 の 受 胎 率 を 向 上 させ る 立 場 か らの 実 施 な どETの 活 用 範 囲 を 広 げ て き た. ETに 取 り組 み 始 め て 第2回 目の 移 植 例 で 極 め て 良 い 結 果 が 得 られ た.す な わ ち,新 鮮 胚 を多様 な受 胚 牛10頭 に 移 植 し,全 頭 が 受 胎 した こ とで あ る(表1).1頭 は 胎 令3ヵ 月 で流 産 したが,9頭 が分 娩 に い た った(図1). この事 例 が そ の 後 の移 植 形 態 と普 及 に つ な が っ た.以 下 に これ らの 受胚 牛 の い くつ か につ い て の特 記 事 項 を記 す. 受 胚 牛No.3は 子 宮 内膜 炎 卵 管 炎 で 加 療 し,10回AI す る も不 妊 の た め,肥 育 中 でET時 約550kgの 体 重 で あ った.受 胚 牛No.8,9,10は 微 弱 発 情 で 外 見 上 全 く徴 候 を示 さず,「 出 血 」 に よ り発 情 を推 定 して 移 植 し た. また 受 胚 牛No.9は8ヵ 月 の空 胎5回 の 人工 授 精 を した が 不 妊 で あ っ た.受 胚 牛No.10は 右 側 卵 巣 に黄 体 が 存 在 し,右 子 宮 角 に移 植 した が,左 子 宮 角 に着 床 し分 娩 に至 っ た.
材料 と方法
供胚 牛 と受胚 牛の選定:供 胚牛 は各酪農家 で選抜 した優良 な乳 牛 で,乳 量8,000kg以 上,乳 脂 肪3.5%以 上,肢 蹄 強 健 で 搾 乳 速 度 良好 な もの を,受 胚 牛 は 各 酪 農 家 の 供 胚 牛 以 外 の乳 牛 を 用 い た. 過 剰 排 卵 処 置:黄 体 期 の9∼14日 目 の 牛 に 卵 胞 刺 激 ホ ル モ ン(FSH,乳 牛 に は28mg,和 牛 に は15mg)を4日 間 減 量 方 式 で 投 与 し(朝 と 夕5.5mg4.4mg3.3mg2.2mg), PGF2。30mgをFSH投 与 開 始 後3日 目 の 朝15mg,昼 10mg,夕5mgに 分 け て 投 与 し発 情 を 誘 起 し た.人 工 授 精 は 凍 結 精 液 を 用 い 発 情 の 発 現 し た 日 の 夕 刻 と翌 朝 の2 回 行 っ た.胚 の 回 収 は 発 情 日 を0日 と し そ の7日 目 に 行 っ た.潅 流 液 は 修 正PBSを 用 い た. 受胚 牛 の 発 情 の 確 認 と推 定:明 瞭 な発 情 発 現 牛 につ い て は畜 主 の 稟 告 の み で,ま た発 情 の外 部 徴 候 が な く,出 血 を 発 見 した 牛 につ い て は,早 朝 発 見 の場 合 は2日 前,午 後 発 見 の 場 合 は前 日に発 情 あ りと推 定 して,以 後 の 処置 を 行 った.ま た検 診 時 に黄 体 の大 き さ,子 宮 の 収縮,弾 力 等 で 発 情 後1∼6日 と推 定 で きた もの も用 い た.多 回 人 工 授 精 牛(AI回 数4回 以 上)に つ い て も同 様 に 発 情 の 確 認 あ る い は推 定 を行 っ た.、 ま た4回 以 上 の 人 工授 精 で 妊 娠 に至 ら ない 牛 も受 胚 牛 と して 用 い た.こ れ らの 多 回人 工 授 精 牛 の多 くは事 前 に 受 胎 の た め の治 療 処 置 が 行 わ れ て い た, 移 植 牛 の選 定 基 準:発 情 明 瞭 牛,出 血 牛,検 診 時 に 発情 出 現 後1∼3日 目 と推 定 した牛 につ い て は,移 植 前 日に 全 て 直検 を行 い移 植 の可 否 を決 定 したが,検 診 時 に 発情 出 現 後4∼5日 目 と推 定 した もの は移 植 前 日の 直検 は 行 わ なか った.黄 体 が7日 令 の標 準 の大 き さ(15mm)で, 卵 巣 や 黄 体 に 柔 軟 性 が あ り,子 宮 の 収 縮 弾 力 が適 度 で, 外 陰 部 の 収 縮 の よい もの に は そ の ま ま移植 を行 った.外 陰 部 が や や 緊 縮 に欠 け,卵 巣 に中 等 度 の 活 動 性 卵 胞 が 共 存 す る もの につ い て は これ を破 砕 し,hCG3.000iuの 筋 注 を行 っ た後 に用 い た が,こ の 中 で 子 宮 の 収 縮 弾 力 が 強 い もの は除 外 した,以 上 の 基 準 を適 用 す る こ とで,移 植 可 能 牛 の 割 合 は 自然 発 情 牛 で 約80%,同 期 化 牛 で 約 75%,出 血 牛 で 約70%,推 定 牛 で 約60%と な っ た. 新 鮮 胚 の 移 植:回 収 胚 は30%子 牛 血 清(Calf Serum,以 下CS)加PBSで2∼3回 洗 い,い っ た ん0.25ml容 量 の ス トロ ー に つ め た 後 に 移 植 し た.移 植 容 器 は カ ス ー の ミ ニ チ ュ ア シ ー ス に よ っ た. 胚 の 凍 結 と 移 植:胚 の 凍 結 は 回 収 胚 を30%CS加PBSで 2∼3回 洗 い5%glycerol(以 下GL)で5分,10%GL で20分 間 平 衝 後20Cか ら-5.5Cま で1C/min,-5.5C で15分 間 保 持 し て 植 氷 させ,そ の 後0.5C/minで-30C ま で 冷 却 し液 体 窒 素 中 に 保 管 し た.融 解 は 空 中 に8秒 保 持 後,25Cの 微 温 湯 中 に 浸 漬 し,ス テ ッ プ ワ イ ズ 法 で GLを 除去 して移 植 に供 した. 移 植 牛 の 妊 娠 鑑 定:不 妊 の 場 合 は加 療 を行 い1日 も早 く 受 胎 に導 く こ とが 酪 農 経 営 上 必 要 で あ る た め,全 て40 日ま で に行 っ た.早 期 妊 娠 診 断 が 原 因 と考 え られ る流 産 は 皆 無 で あ っ た, 農 家 へ の 普 及:ETの 取 り組 み意 欲 を高 め る た め に,年 に 数 回 生 産 者 を 自宅 に集 めET講 演 会 を 開催 した り,毎 月1回 はETニ ュ ー ス を発 行 し,採 卵,移 植,出 生 状 況 や,出 血 牛 や 多 回授 精 牛 に対 して のETで の 受 胎 の可 能 表1.新 鮮 胚 の 全 頭 受 胎 例(61,6.9移 植) 図1.新 鮮 胚 の 全 頭 受 胎例 か ら え られ た 産 子
性 が 大 きい こ と を例 示 した.ま た精 子 処 置 に よ り性 判 別 した胚 を作 り出 し,こ れ を移 植 して一 度 に多 頭 数 の 雌 牛 を生 ませ,農 家 へ の 信 頼 性 を高 め た(図2). また体 形 上 の 改 良 が 即 座 に判 る各 種 の シ ョウ,町 内 の BWシ ョ ウ,品 評 会,県 共 進 会 や 全 国共 進 会等 積 極 的 に ET産 牛 の 出 品 を 図 っ た,
結
果
胚 回 収 成 績:過 剰 排 卵 処 置 し た595頭 の 供 胚 牛 で は 正 常 胚0個 が69頭(11.6%),1∼5個 が172個(28.8%), 6∼10個 が164頭(27.5%),11∼15個 が97頭 (16.2%),16∼20個 が55頭(9.2%),20個 以 上 が38 頭(6.7%)と な り,1∼5個,6∼10個 の 占 め る 割 合 が 高 か っ た(表2). 移植 成績: 1)年 度 別 移 植 頭 数 と受 胎 率 及 び産 子 数 受 胎 率 は 新 鮮 胚 移 植 で655頭 中434頭(66.3%)と な り,凍 結 胚 で は2,777頭 中1,612頭(58%)が 受 胎 し た (表3).当 初 の2年 間 は 新 鮮 胚 移 植 が 主 体 で あ り,Aラ ン ク胚 か ら優 先 的 に 移 植 し て い た が,そ の 後 凍 結 胚 移 植 を 主 体 と し た た め,新 鮮 胚 移 植 に はBラ ン ク胚 の 使 用 を 余 儀 な く さ れ 受 胎 率 に や や 低 下 が 見 ら れ た.ま た 経 産 牛 と未 経 産 牛 別 で は,前 者 で2,671頭 中1,552頭(58.1%), 後 者 で761頭 中494頭(64.9%)が 受 胎 し,未 経 産 牛 で 高 い受 胎 率 が 得 られ た. 2)発 情 の 外 部 徴候 別 移 植 成 績 出血 牛 と推 定 牛 へ の 移 植 は年 々増 加 し,自 然 発 情 牛 と 同 期 化 牛 へ の 移 植 は 横 ば い 状 態 で あ る,4年 度 の 移 植 割 合 は 移 植 頭 数930頭 中 出 血 牛 が462頭(49。7%),推 定 牛 が261頭(28.1%),と な り両 群 合 わ せ て77.7%と,全 体 の 大 部 分 を 占 め,自 然 発 情 牛 は184頭(19.8%),同 期 化 牛 は23頭(2.5%)の 割 合 で あ っ た(図3). 3)発 情 明 瞭牛,不 明 瞭受 胚 牛 へ の移 植 頭 数 と受 胎 率 発 情 明瞭 牛(自 然 発 情,同 期 化 発 情)で は1,127頭 中 730頭(64.8%)が 受 胎 し,発 情 不 明 瞭 牛(出 血 牛,推 定 牛)で は2,305頭 中1,316頭(57.1%)が 受 胎 し た.受 胎 率 は 発 情 同 期 化 牛,自 然 発 情 牛,出 血 牛 の 順 に 高 か っ 図2.精 子 処 理(性 判 別)で 生 ま れ た娘 牛 表2.胚 回 収 成績 表3.年 度 別移 植 頭 数 と受 胎 率 お よ び 産子 数た が,各 間 に 有 意 差 は見 られ な か っ た(表4).こ れ ら の 中で 推 定 牛 の受 胎 率 が 一 番 低 か っ たが,不 受 胎 牛 の多 くが 次 回発 情 が 予 期 した よ り2∼3日 早 く回帰 して い る こ とか ら,こ れ らに は 黄 体 形 成 遅 延 牛 を誤 診 した症 例 が 含 まれ る と推 測 され た.発 情 明 瞭 牛 と不 明 瞭 牛 の移 植 割 合 は発 情 明 瞭 牛32.8%,発 情 不 明 瞭 牛67.2%と な り後 者 が 大 部 分 を 占 め た. 4)出 血 牛 へ の移 植 成 績 出 血 牛 へ の 移 植 は 昭 和61年 度 に29頭 で あ っ た が,以 後 年 々 増 加 して お り,平 成4年 度 は 移 植 頭 数930頭 中 462頭(49.7%)に 達 し た.受 胎 率 も 各 年 度 と も に60% 台 を安 定 的 に推 移 した(図4). 出血 牛 を受 胚 牛 と して 利 用 して特 に 好 成 績 の 得 られ た 1農 家 の事 例 を示 した(表5).対 象 牛 は す べ て 人 工 授 精 経 験 が あ っ た が,10回 連 続 してETの 受 胎 に 成 功 し た. 5)多 回 人工 授 精 不 妊 牛へ の移 植 成 績 平 成2∼3年 度 に行 った 多 回 人工 授 精 不 妊 牛 へ の 移 植 に は,6∼15回 の 人 工 授 精 と,2∼5回 の 治 療 経 験 を 有 す る牛 が 受胚 牛 と して 用 い られ た が,こ れ らの う ち1 回 のETで 受 胎 した事 例 を ま とめ た(表6).こ れ らの牛 は卵 管 障 害 や 胚 の 早 期 死 滅 等 でAIに よ り受 胎 で き な か っ た もの と考 え られ る.受 胚 牛22は,平 成2年3月 に 分 娩 後 子 宮 内 膜 炎,排 卵 障 害 の 加 療 を 行 い な が ら7回 AIを 行 っ た が 受 胎 せ ず,3月1日 に 出 血 を発 見 し,3 月7日(分 娩 後12ヵ 月)にETを 行 っ て受 胎 した もの で あ る. 平 成4年 度 に実 施 した移 植 例 の うち,5∼7回 の授 精 と0∼4回 の 治 療 経 験 の あ る牛 に1回 のETを 行 い,受 胎 した もの を表7に 示 した(表7).受 胚 牛Tは 平 成2 年8月 生 まれ の未 経 産 牛 で,17ヵ 月 で 第1回 のAIを 行 図3.年 度 別 移 植 頭 数 の 推 移 図4.出 血 牛 の 年 度 別 移 植頭 数 と受 胎 率 の 推 移 表4.移 植頭 数 と受 胎 率 表5.出 血 牛 を受 胚 牛 と した農 家 の移 植 成 績(O牧 場)
い,5回 目 のAIを 行 う まで3回 卵 巣 の 治 療 を行 っ た が 受 胎 せ ず,7月27日(24ヵ 月令)に 出 血 を発 見 し8月 2日 にETを 行 っ て 受 胎 した事 例 で あ る.こ の よ う に人 工 授 精 で 受 胎 を半 ば あ き らめ て い た牛 にETを 実 施 し好 結 果 を得 た が,4回 以 上 の 人工 授 精 と1回 以 上 の 治 療 経 験 を有 す る牛 で は48.3%(384/795)の 受 胎 率 で,中 に は優 良 系 統 牛 も含 まれ て お り,酪 農 経 営 上 大 き く貢 献 し た(表8○ 印). 6)夏 期高温時の移植成績 移 植 当 日の 気 温,湿 度 が 高 く,体 温 が 上 昇 してい た受 胚 牛 の 成 績 を ま とめ る と表9の 如 くな り,5号 牛 を 除 い て移 植 した6頭 中5頭 が 受 胎 した. 7)夏 季(7∼9月)のAIとETの 成 績 5戸 で 実 施 し たAIで は239頭 中91頭(38.1%)が 受 表6.多 回授 精 牛 へ の 移 植 成 績(平 成2∼3年 度 移 植) 表7.平 成4年 度 移 植 表8.全 移植牛の授 精回数別成績 表9.夏 期 高 温 環 境 下 で の移 植 成 績 表10.農 家 別 夏 場(7∼9月)のAIとETの 成 績 図5.凍 結 胚 の 月 別 移植 頭 数 と受 胎 率 お よ びAIの 月 別受 胎 率
胎 し,ETで は137頭 中93頭(67.9%)が 受 胎 した.こ れ は,夏 季 に はAIで の 受 胎 率 に低 下 が み られ るが,ET で は 受 胎 率 に低 下 が み られ ない と解 釈 され る興 味 あ る所 見 と考 え られ た(表10).ま た7∼9月 にお け る凍 結 胚 移 植 の 受 胎 率 も各 年 度 共 に 良 好 で 平 均58.3%と な っ た (表11). 乳 量 の 生 産 調 整 下 にあ る酪 農 家 に とっ て は,乳 価 の-番 高 い 夏 場 に 乳 を 搾 る た め に6月 か ら10月 に か け て受 胎 させ る こ とが 理 想 と され て い る.し か し夏 季 のAIに よる 受 胎 率 の 低 下 が経 験 的 に知 られ て お り,こ の 点 で も ETの 有 用 性 が 期 待 さ れ た.AIに よ る 受 胎 率 は7月 (38%)か ら低 下 しは じめ,8,9月 で はそ れ ぞ れ29%, 25%と な り著 明 な低 下 が み ら れ た が,ETで は7,8, 9月 に も低 下 は み られ ず 平 均58.3%の 高 い 受 胎 率 を 維 持 した(図5). 8)異 角 妊 娠 の 事 例(非 黄 体 側 妊 娠) 妊娠黄体が存在す る卵 巣側の子宮角 に胚 を移植 したに もか か わ らず,反 対 側 の 子 宮 角 に妊 娠 が 成 立 した ものが 3,432頭 中10頭(0.03%)に 認 め ら れ た(表12).こ の こ とは 胚 自体 の 体 内移 行 が か な り活 発 に起 っ てい る こ と を示唆 して お り,移 植 の際 に,胚 を無 理 して まで 子宮 角 の深 部 に移 入 す る必 要 は ない と考 え られ る.異 角 妊娠 牛 10頭 の う ち3頭 が 流 産 した が,こ れ は 同 角 妊 娠 牛 の 流 産率 よ り明 らか に高 く,非 妊 角 の子 宮 内膜 と同側 卵 巣 の 黄体 との 間 に 局所 的 関係 が 存 在 して,黄 体 機 能 の 低 下 を 招 い て い る可 能 性 が 考 え られ た.