温暖化フォーラム(北海道)報告
広田知良
*・中辻敏朗**・濱嵜孝弘*・小沢 聖***・永田 修*・古賀伸久****
・井上 聡
*・志賀弘行**・岡田益己*****・大政謙次******
1.はじめに
北海道の温暖化研究において,2010 年度,いくつ か重要な成果が発表された。北海道立総合研究機構 (以下,道総研)では,北海道農業における温暖化影 響評価と対応方向を打ち出し,その成果が北海道の 農業現場へ伝わり始めた。(独)農研機構北海道農業 研究センター(以下,北農研)では,農研機構におけ る水稲温暖化全国連携試験や温室効果緩和策の交付 金プロジェクト研究をリーダーとして推進し,また, ヨーロッパでの在外研究等による国際共同研究を実 施した。本フォーラムは,これらの北海道発の最新 の研究成果を発表すると共に,質疑応答の時間を十 分に確保して,現状認識を深め,今後の温暖化研究 の方向性を考える場とした。本フォーラムの参加者 は62 名であった。議論の時間を十分確保したことも あり,参加者間で実りの多い討論ができた。また, このフォーラムの広報は,学会ホームページを通じ ての控えめのアナウンスであったにも関わらず,農 業関係機関のホームページにリンクを張られたこと で,大会には研究者ばかりでなく,農家や農業機関 の関係者なども参加し,かつ積極的な発言もあった。 そこで,講演内容と質疑応答を取りまとめ,北海道 農業への温暖化影響や研究の現状を概観できる包括 的な資料を提供することを目的として,本報告書を 作成した。なお,講演の要旨の取りまとめや質疑応 答は,議論がどのように展開されたかわかりやすく するため,報告者の 1 人である広田独自の判断で, 関連するテーマ毎に概観できるよう整理し,質問は 発言順でなく,一部複数の発言を取りまとめて編集 した。したがって発言者の意図と異なる可能性があ ること,そして,「4.おわりに」においても広田の 個人的な見解が強く反映されていることを併せて予 めお断りする。2.開催日程
本研究会は以下の日程で開催した。 主催:日本農業気象学会 共催:独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機 構北海道農業研究センター 日時:2011 年 9 月 9 日(金)午後 13:00~18:00 場所:北海道農業研究センター (札幌市豊平区羊ヶ丘1)大会議室 テーマ 北海道発の温暖化研究の成果 講演 1.地球温暖化が道内主要作物に及ぼす影響とその対 応方向 ―2030 年代の予測― 中辻敏朗(北海道立総合研究機構 農業研究本部 中央農業試験場) 2.全国連携水田栽培試験による水稲への温暖化影響 と適応策の実証的研究 濱嵜孝弘(北海道農研)・小沢 聖(JIRCAS) 3.農業生産からの温室効果ガス発生量の低減方法の 開発 ―水田輪作体系における不耕起栽培を導入した温 室効果ガス低減型栽培管理技術の開発― 永田 修(北海道農研) 4.北海道農業の温暖化緩和ポテンシャル 古賀伸久(北海道農研) *(独)農研機構北海道農業研究センター生産環境研究領域 **(地独)北海道立総合研究機構中央農業試験場農業環境部 ***(独)国際農林水産業研究センター 熱帯・島嶼研究拠点 ****(独)農研機構北海道農業研究センター畑作研究領域 *****岩手大学農学部 ******東京大学大学院農学生命科学研究科 http://www.agrmet.jp/sk/2012/B-1.pdf 2012 年 4 月 24 日 掲載Copyright 2012, The Society of Agricultural Meteorology of Japan
3.講演の要旨
3.1 地球温暖化が道内主要作物に及ぼす影響とその 対応方向 ―2030 年代の予測― 温暖化が北海道内の水稲,畑作物および飼料作物 の生育や収量,品質などに及ぼす影響について 2030 年代を対象に予測し,将来想定される課題への技術 的対応方向を包括的に提示した(北海道立総合研究機 構 農業研究本部 中央農業試験場,2011)。2030 年 代の温暖化気候予測データは CCSR/NIES のシナリ オ を メ ッ シ ュ デ ー タ 化 し た も の (Yokozawa et al. 2003)を活用した。この予測によると,2030 年代に は月平均気温が現在(1971 年~2000 年での平年値)か ら 1.3~2.9℃(平均 2.0℃)上昇する。5~9 月は平均 1.8℃上昇,日射量は 0.85 倍に減少する。年降水量は 現在の 1.2 倍で,6~7 月に多雨傾向となる。この温 暖化予測に基づき,2030 年代の各作物の状況を農試 の過去の蓄積データを利用し,気象要素から生育期, 収量,品質等を予測する予測式を作成し,これらに 2030 年代の気象データをあてはめ予測した。また, 秋まき小麦,てんさい,ばれいしょなどでは既往の 作物モデル(例えば,WOFOST (WOrld FOod STud-ies), 2012)も活用した。 成果の概要をまとめると以下の通りになる(参照: 北海道立総合研究機構 農業研究本部 中央農業試験 場,2011)。 1)水稲 ・生育初期の気温上昇に伴って生育ステージが前 進するため,冷害危険期の気温はわずかに高ま るに過ぎず,気温の変動が現在並とすると,不 稔発生のリスクは現在と変わらない。 ・直播栽培の作期が長くなり,早生だけでなく中 生品種の直播が可能となる。 ・登熟環境からみた収量性は現在並かやや増加, 品質は登熟期間の昇温で精米中のアミロース含 量が低下し,良食味化が期待される。 2)畑作物 秋まき小麦 ・融雪期の早まりと春季以降の昇温で起生期と成 熟期は前進するが,登熟日数は現在と大差ない。 ・収量は 5 月以降の日射量の減少で現在より 8~ 18%低下する。 ・開花期以降の降水量増加で水分不足が緩和され る地域もあるが,倒伏,赤かび病,穂発芽など の障害回避が前提となる。 ・播種適期は6~10 日遅くなる。 てんさい ・生育期間が現在並であれば,気温の上昇により 収量(根重)は現在より 12%増加するが,根中糖 分は低下する。 ・高温・多湿で多発が懸念される褐斑病,葉腐病 などへの対応や圃場の排水対策が必要となる。 ・生育期間の延長による収穫適期の見直しも必要 である。 ばれいしょ ・収量は現在よりも約 15%減少する。減収要因は 日射量の低下である。 ・でんぷん価は8~9 月の気温上昇で低下する。 ・高温・多雨で疫病の初発が 1 週間ほど早まる。 高温耐性品種の開発・導入が不可欠である。 大豆 ・開花期や成熟期は6~9 日早まる。 ・熟期が「やや早」の「ユキホマレ」の収量は現 在の 6~8 月の平均気温が 18℃以下の地域では 増収するが,それ以上では減収する。減収が予 想される地域では中生品種の選定が必要である。 ・現行の「道産豆類地帯別栽培指針」での地帯区 分は見直しが必要である。 ・品質面では,高温による裂皮,しわ粒の多発が 懸念される。 小豆 ・主産地の十勝・オホーツクでは増収,後志・渡 島で微増,上川・空知で減収となり,現状の作 付面積で試算すると道内全体では 12%の増収と なる。登熟期間の昇温で百粒重が低下し,道南, 道央の一部で規格内歩留の低下が懸念される。 牧草 ・1 番草の出穂期は 13 日早まるが,生育日数に大 きな変化はない。年間収量は日射量を考慮した 場合は,現在の8~9 割と推定される。気温のみ から推定した場合は現状維持かわずかに増加す る。 ・1 番草出穂期の前進で年 3 回刈りの可能な地域 が出現するが,労力的には困難である。 ・現状の 2 回刈りで収量を確保するには,晩生品 種の利用が有望(適期収穫が前提)である。 飼料用とうもろこし ・現状の作付面積で試算すると,気温の上昇,お よび昇温程度に合わせた熟期の遅い品種への変 更により,全道では10~14%増収する。 技術的対応方向 1)品種開発の方向性 ・高温耐性品種の開発 ・各種病害虫に対する抵抗性の付与 ・畑作物全般における雨害,湿害耐性の強化 ・将来の気温の変動幅には不確定要素も多いため,当面は耐冷性,耐凍性などの寒さへの耐性も必 要 2)栽培技術の対応方向 ・播種・移植・収穫適期の変更 ・栽培地帯区分や導入品種(熟期)の見直し ・生育指標の見直し ・施肥体系の再構築 ・多雨に備えた排水改良等の農地基盤整備の強化 ・適期防除の励行と新規病害虫への対応を見据え た準備 3.2 全国連携水田栽培試験による水稲への温暖化影 響と適応策の実証的研究 水稲栽培への温暖化の影響を全国連携の野外での 栽培試験により評価した結果が,北海道での研究例 を中心に報告された。全国連携試験とは,南北に長 い日本列島の温度差を利用した地域間連携試験に よって温暖化影響を評価するものである。例えば, 北海道(札幌)の温暖化後の影響を,より高温な東北 (盛岡)と連携した栽培試験によって評価を行う。地 域間連携試験では,緯度が異なることで温度ばかり でなく日長時間も異なる。そこで,電照による補光 で日長を揃えることで,温度上昇の影響を栽培試験 から直接評価する手法を開発した(Sameshima et al. 2011)。この全国連携試験は北海道(札幌)から東北 (盛岡),関東(つくば),九州(熊本)に加えて沖縄(石 垣)とまさに日本列島を南北横断する形で 2008~ 2010 年の 3 カ年で実施された。特に沖縄(石垣)が加 わることで,非常に幅広い気候帯をカバーできると 共に,日本国内の連携ばかりでなく,将来的には東 南アジアとの連携もさらなる視野に入ることになる。 2010 年は全国的な記録的猛暑であり,札幌の夏季の 気温は平年値と比較して2.2℃高かった。これは,50 年後から 100 年後の温暖化時に相当し,全国連携試 験の手法の妥当性を実証する機会ともなった。これ らの試験結果から,50 年後に気温が 2℃程度上昇し たとすると,札幌では現在の東北品種,例えば「あ きたこまち」や「ひとめぼれ」の栽培は可能となる が , 「 コ シ ヒ カ リ 」 の 栽 培 は 困 難 と 評 価 し た (Nemoto et al. 2011a)。また,2010 年の猛暑の事例で は,作況指数の累年値との比較により,北海道の現 在の品種,例えば「きらら 397」等は高温で収量が 頭打ちとなることを示す一方で,札幌(羊ヶ丘)での 栽培試験にて,現東北品種「ひとめぼれ」が北海道 で初めて十分な登熟に達し,北海道の品種を上回る 630 kg/10a の収量を上げた(Nemoto et al. 2011b)。
3.3 農業生産からの温室効果ガス発生量の低減方法 の開発(農研機構,北海道農業研究センター, 2012) ―水田輪作体系における不耕起栽培を導入した 温室効果ガス低減型栽培管理技術の開発― 1970 年代の減反政策を契機に進められた水田転換 畑という農業での土地利用形態は,世界の中でも非 常にユニークな土地利用形態であり,かつ日本の農 地面積で占める割合は大きい。 水田を転換畑にした場合に不耕起栽培を導入する メリットとして, ・耕起が不要で,燃料の使用が少なく,CO2の排 出が少ないうえ,土壌への炭素固定が期待され る。 ・地耐力があり,降雨後でもすぐに播種作業が出 来る。適期に作業できる面積が増えることから, 収量増が期待される。 デメリットとしては, ・地温低下により,初期生育が不安定になる場合 がある。 ・湿害を受ける懸念がある。→冠水した場合の発 芽不良,茎疫病 ・雑草防除は,除草剤を中心とした対応に偏るこ と, が考えられる。そこで,転換畑で春まき小麦と大豆 を輪作した場合の 3 カ年の圃場試験にて,不耕起栽 培の温室効果ガス削減効果を生産性と併せて評価し た。不耕起栽培の導入 1 年目では大豆の収量は慣行 の耕起した場合と比べて 90%を下回った結果となっ たが,導入 2 年目以降は不耕起栽培の収量は慣行と 同等以上であった。また作業効率時間は慣行の標準 的な耕起をする栽培法と比べて,70%以下となった。 除草の作業負担を増やさないで不耕起栽培を行うに は,7 月までの雑草発生密度を約 3 本/m2以下に出来 る圃場であることが必要であり,北海道・空知地方 の美唄の30 の畑での調査事例から,50%程度の畑が この条件を満たすことがわかった。土壌水分は観測 結果から不耕起栽培の方が慣行の栽培より常に高 かった。また圃場での観測結果に基づくLCA 評価か ら,1)不耕起栽培で化石燃料由来の温室効果ガス排 出量を最大 8%削減できること,2)土壌由来の温室 効果ガスは CO2の寄与が大きく,有機物施用により 温室効果ガス排出が削減(吸収増加)であり,また, 不耕起でも排出が削減される傾向にあること(Yazaki et al. 2011),3)残渣施用区の温室効果ガス排出量は, 不耕起栽培により1 年あたり平均 1810 kg CO2/ha 削 減され,これは慣行栽培に比べ 30%の削減になるこ とが明らかとなった。これらの圃場試験より収量,
慣行比 90%以上,除草時間,慣行並みとなる不耕起 栽培技術を開発した。この技術を北海道において適 用できる栽培可能面積は,水田面積の 13%に相当す る29 千 ha と試算され,この体系を適用した場合, 北海道の温室効果ガス削減可能量は,約 52 千 Mg (トン)と試算された。水田作連作と比較した場合, 一度,水田を畑にした後の復元田でも初年度は CH4 の排出量が大きく減っており,さらに 6 作のうち水 田作3 作,畑作 3 作で作付けした場合,CH4の排出 量がさらに減少し,転換畑にすることによるN2O 増 加分を併せて考えても水田輪作地からの温室効果ガ ス排出量は水田連作地と比べて小さい可能性がある。 3.4 北海道農業の温暖化緩和ポテンシャル 講演は,1.温室効果ガス排出の実態(日本,北海 道,北海道農業),2.CH4(水田)と N2O (畑地)の排 出削減技術,3.農地土壌における炭素貯留増加技術 (農地の管理による吸収),4.北海道農業の温暖化緩 和ポテンシャルの見積もりで構成された。北海道は, 日本全体の5.6%の温室効果ガスを排出し,北海道農 業は,北海道の温室効果ガス排出量の 13.5%を排出 する。乳用牛の多さ,畑地(畑,草地,転換畑)面積 の大きさから,北海道農業から排出される温室効果 ガス削減(温暖化緩和)のポテンシャルは,①消化管 内発酵(CH4),②家畜排泄物の管理(CH4,N2O),③ 農用地の土壌(N2O)で高いと見込まれる。また,北 海道は広大な農地を有することから,④農地の管理 による吸収(CO2)も温暖化緩和のポテンシャルが高 いと見込まれる。北海道の水稲作では稲わらの 7 割 以上を鋤き込んでおり(北海道農政部,2011),また, 稲わらの水田への投入量と水田からの CH4排出量は 比例関係にある(Naser et al. 2007)ことから,水田で は稲わらの持ち出しによって,温室効果ガス排出量 を大きく減らせる可能性が高い(Koga and Tajima, 2011)。畑作では,北海道・十勝地方を例とすると施 肥量が標準より多いという実態がある。したがって, 作物の要求に適合した窒素量の供給と作物の窒素利 用効率を高める施肥法(北海道の大規模畑作地帯では, 作条施肥が一般的であるが,例えば,全面施肥より も作条施肥)や,また新しいタイプの肥料(硝化抑制 剤入り肥料,肥効調節型肥料)の利用は N2O 削減に よる温暖化緩和技術としての可能性が高い(鶴田, 2000;Akiyama et al. 2010)。農地土壌における炭素 貯留増加技術としては,1.保全型耕起法(不耕起栽 培,省耕起栽培) 2.(家畜ふん)堆肥の施用,3.休 閑期間の緑肥導入,4.作物残さ発生量が大きな作物 の導入,5.畑地から草地,放牧地への転換,6.バ イオ炭の施用等が考えられる。十勝地方の畑作農業 における作物純一次生産量,作物残さや堆肥からの 炭素投入量および土壌炭素貯留量の将来予測結果で は,全農地に麦わら牛糞堆肥(20 t/ha/yr)を入れると, 現在から2050 年の期間では慣行の栽培と比べて,将 来予測値の不確実性はあるもの+0.219 t C/ha/yr (= 0.803 t CO2/ha/yr)の割合で土壌炭素貯留量は増加す る(Koga et al. 2011)。ただし,現在,家畜ふん堆肥 の施用が直接,大気中の CO2濃度の低下につながる 温暖化緩和効果があるかについて,欧州を中心に疑 問も呈せられ議論がなされているところである。最 終的に北海道農業の温暖化緩和ポテンシャルの見積 もりの試算結果は以下のようになる。1.作物の要求 に適合した窒素量の供給(合成肥料+有機質肥料)で は,現状の窒素施肥量から推定されるN2O 発生量は, CO2相当量に換算すると233 万 t であり,1 割および 2 割の減肥で,それぞれ 23.3 万t,46.6 万tの削減 となる。農地の管理による吸収は,堆肥施用,緑肥, バイオ炭などで1 t CO2/ha/yr 程度の吸収を達成でき る可能性がある。北海道の畑の面積・367,800 ha で 36.8 万 t (CO2)の吸収となり,畑に草地(飼料作物+ 牧草)面積を加えると1,026,200 ha で 103 万 t (CO2) の吸収となる。また,燃料削減では,例えば省耕起 では,4.6 万 t (CO2)の削減(125 kg CO2/ha/yr×畑の 面積367,800 ha)となる。窒素施用量を 2 割削減して, 畑+草地で1 t CO2/ha/yr の吸収を達成できるとする と全道で150 万 t の削減となり,現在の北海道全体 の排出量である7,132 万 t CO2/yr に対して 2%の削減 に相当する。 質疑応答 ・冷害対応との関連 問い:冷害の問題をどのように考えるか? 答え:2030 年代の気温の変動幅が現在並みと仮定す ると,2030 年代にも冷害リスクは残るので,現状か ら大きく変わった品種をすぐに導入することにはな らない。気候変動の長期的トレンドのなかで選抜し ていけば,耐暑性を持った品種が選抜されていくの ではないか。また,温度反応では品種の早晩性も大 きく関わる。 ・夏季の気温上昇程度と降水の予測 問い:道総研による北海道の温暖化の想定は,夏の 気温の上昇程度は他の季節と比べて低く,雨が増え るとの前提で評価している。実際,2010 年の猛暑の 時も夏季の降水量は増えた結果となった。一般的に 温暖化予測では降水量の予測結果はモデルによるば らつきが大きく,評価自体が困難であるという見方 が支配的である。最近の結果からはどのように評価 できるであろうか?
コメント+答え:梅雨明けが延びて多雨となり,太 平洋高気圧の強まりはない,と言われているので, そのような状況もあるのではないか?最近の予測 データでは,CMIP3(CMIP: Coupled Model Intercom-parison Project)では夏季の低温は無かったが,CMIP5 では低温も出てきている。モデルや色々な条件が変 わってきて,単純な気温上昇ではないといえる。 コメント+答え:8 月の気温が上がらないという話 に関して,気象庁の気象研の気象予測データでは, 北陸地方では気温は上がらず,多雨になるという予 測になっていて,リーズナブルである。 コメント:その他,温暖化での水資源の問題もある。 水稲については,河川融雪ピーク流量が,代掻き期 より早まるなら,検討が必要だ。 ・モデル論および温暖化影響評価手法論 問い:作物ごとに,モデルや手法が別々である。モ デル自体が癖を持っている。WOFOST では,温暖化 で生育期間が短くなって,収量が減る傾向が現れや すい。一方,過去データからの類推では,暑い年は おおむね日射も多いので収量が増える傾向にある。 手法の違いの影響をどう考えるのか? 答え:作物によって気象反応の研究蓄積レベルが違 うため,手法を変えざるを得ない。てんさいの例で は,気温による回帰モデルと WOFOST による予測 の両方を行った。WOFOST で気温だけ考慮した場合 は回帰モデルに近い結果となったが,日射量の減少 も考慮すると減収した。将来日射が減るかどうかは 気温上昇より不確実なので,予測結果を示す際には 前提条件をきちんと説明する必要がある。 問い:モデルの特性で,登熟量示数とプロセスモデ ルの違いがあるのではないか? 答え:最大収量がどう変化するかに関心があったの で,登熟量示数をポテンシャル収量と見なして用い た。 コメント+問い:両者の違いに意味はあって,プロ セスモデルの方が良いと考える。しかし,作物の温 度反応関係の蓄積が無ければ,登熟量示数もやむを 得ない。 答え:回帰式による将来予測では,予測値が外挿に ならないよう留意した。 コメント+問い:将来,ビックリすることがモデル で予測ができるか,実際に起きるかどうかの検討が 重要だ。 コメント+答えプロセスモデルだと,高温では出穂 が早くなる。しかし,実際に水温を上げて試験をす ると,出穂期は早まるが,熟期は早まらなかった。 地力窒素が出てきたと考えられる。モデルが仮定し ていないこともある。温暖化適応策として,品種だ けではなく,施肥管理も重要だ。 コメント+答え:水稲の食味関連形質の気温反応で は,ある温度までは蛋白含有率が下がるが,それよ り高温だと増える。地力窒素が出てくるためではな いか。一方,アミロースは生理反応のみ。高温時の 生育期後半の窒素の問題は無視できない。蛋白のよ うに土壌が絡んでくると単純なモデルでは無理で, 圃場データに基づく回帰式の方が見落としがないか もしれない。 問い:水稲の温暖化影響評価について道総研と北農 研の結果は異なる点がある。例えば,道総研は北海 道品種の「きらら 397」は良くなると評価した。北 農研は頭打ちになると評価した。もう少し詳しく説 明して欲しい。 答え:道総研は登熟量示数での評価であり,温度と 日射から見た最大可能収量である。北農研は現在の 品種・栽培時期のままだとどうなるか,の栽培試験 での評価である。一方で,東北品種の「ひとめぼれ」 の収量は高かった。温暖化後も出穂が極端に早まら ない程度の日長感応性を持つ品種が出てくれば,増 収になると思う。また,道総研側の報告は全国の品 種を入れた最大値の評価ということも言えるだろう。 問い:2030 年代の想定と,より高温の 2080 年代の 想定という違いもあるのではないか? 答え:栽培試験時の 2010 年の気象データは,2050 年から2100 年に相当した。道総研の 2030 年は,ま だ高温がマイルドなので,北農研の結果は一旦良く なってから落ちたところの評価をしている。 コメント:気候登熟量示数とは,稲側の情報ではな く,気候側からの情報ではないか。また,登熟量示 数は,十分繁茂した条件での最大収量の評価だが, 北農研の試験は,同じ品種であれば温暖化で生育期 間が短縮して繁茂量が稼げなくなる影響も見ている のではないか。 コメント:北海道の温暖化適応策では,延びた作期 に応じた熟期の品種を使っていくという発想の他に, 熟期が同じなら,延びた作期を作業の分散に活用す る,という考え方もある。北海道では,限られた期 間での作業のため,どうしても機械装備が過大に なってしまうが,これをバラして行うことができる。 また,生育ステージを意図的にずらして栽培するこ とで,障害型冷害のリスクも防げる話になる。 問い+コメント:道総研の結果については,農業気 象の専門ではない研究者が,よくここまでやられた という印象がある。短期間のプロジェクトの中で, モデル的な思考までできていた。 答え:やってみて思ったのは,過去データの蓄積が
重要ということだ。定期作況データや奨励品種決定 調査のような昔から取り続けた収量・品質データが あったので,病害や地力窒素の影響を加味した解析 ができた。研究の継続と,そのための人の数が大事 だと思った。 コメント:具体的な適応策を想定するのは今回の研 究のような地域スケールでのメッシュデータが大事 だ。アジア・世界規模だと表現できない。実際に, 現場に役立つのではないか。 コメント:府県での温暖化影響評価だと難しかった かもしれない。北海道は気象の年々変動が大きくか つオホーツクから道南までの地域間差も大きい。モ デルの作成,評価をする上では気象データに幅があ る強みがでた。 ・温暖化影響評価と異常気象対応のついて 問い+コメント:確率論的な話にしたほうが良いと 思う。幅のある予測が必要。シナリオやモデルの不 確実性も考慮すべき。次のステップでは,確率論で 考えて欲しい。 答え:道総研では,水稲について,現在の気温の変 動幅を仮に将来にもあてはめて検討したところ,冷 害リスクは現在とあまり変わらない結果になった。 遅い田植えの検討はまだやっていない。 問い:20~30 年の平均気温上昇もあれば年々変動も ある。温暖化対策と現場対策を分ける必要があるの ではないか?道総研として,温暖化と異常気象を分 けて考えているのか?異常気象への取り組みは? 答え:同じスタッフで年々変動と長期的トレンドの 両方に対応している。温暖化の影響については猛暑 だった昨年の事例が参考になる。極端な冷害年など には各種作物の被害解析を行い,道総研資料などの 形で公表している。 問い:道総研が今回の「将来の対策」を出す意義は 何か? 答え:年々変動と長期的トレンドの違いがある。育 種には10 年のスパンがかかる。耐病性の耐性をつけ る遺伝資源の導入をしている。本州で出ている病気 で,これから北海道に来そうで,遺伝資源のないも のへの対応は早めに考えなければならない。年々変 動で熟期や最適期も変わるため,現在の年々変動下 での技術を考える意義もある。 ・病虫害対策について 問い:温度~作物反応と虫や病気の反応があり,そ の 2 つの整理が必要である。昨年のてんさいは病気 でダメだった。病理の専門家が温暖化研究に入って きて欲しい。様々な条件下での現場の発生率の問題 がある。 答え:温暖化と降雨量の増加で,色々な病気や害虫 が発生しやすくなるだろう。猛暑だった昨年のてん さいでは褐斑病が多発した。育種では,日々,耐性 獲得に努めた品種改良は実施している。病虫害の発 生予測は難しいので,発生した時に対応を考えるの が基本。 問い:てんさいは,防除したのか? 答え:てんさいは褐斑病が出た。2010 年は,積算最 低気温が約1500℃・糖分は過去最低に近い約 15%と なった。過去の高温年にも褐斑病が多発し,低糖分 となった年があるので,積算最低気温による糖分の 回帰モデルは病害の影響も織り込んでいると言える。 昨夏は,初発からの進展が早く,多雨のためトラク タが畑に入れなかった。薬はあるが,対応は難しい。 圃場排水性向上と耐病性育種が必要と考える。 コメント:北海道,沖縄(石垣),アフリカ等,地域 での高温問題は別々に考えるべきだ。石垣では高温 でバッタの被害が大きくなった。昨年の猛暑で北海 道での高温影響の様相が見えたことはメリットであ る。 ・降雨と排水性の問題 コメント:将来の降水量が増えるとすると,圃場の 排水性向上は今後の大きな課題と思うが,具体的な 排水性の目安となるデータが少なく,そういう研究 の必要性を感じる。 問い:昨年,暗渠の有無で違いがあったのか? 答え:十勝普及センターの発表では,各種の排水改 良対策にそれなりの効果があった。傾斜均平による 表面排水改良も効果があった。これは,冬の水たま りによる秋まき小麦の凍害も防ぐし,昨年夏の小豆 の生育も良かった。 コメント:表面排水のためのレベラーは,必ずしも うまくいっていない場合もある。表層と 2 層目が同 じ水分だとうまくいくが,2 層目に水がたまるとう まくいかない。2 層目も大事で,またその指導も大 事である。 ・小麦栽培について コメント:3 年続きで小麦が不作になった。7 月 20 日からの高温でドライフラワーになってしまった。 一方,南の品種は実が入った。東北や関東との情報 交換が大事だと思う。「ゆめちから」は,兵庫県た つの市でも作っている品種だが,今年も収穫できた。 ここ 3 年でも耐えた。研究や技術開発は幅広くやっ て欲しい。 コメント:ミニマムイリゲーション,つまり表層 5
cm の好適環境が大事だ。北海道では,乾いてしまっ て効率が悪い。ごく少量の水やりが大切だと思うの で,技術開発が望まれる。 ・水稲の日長反応および試験方法について 問い:試験では日長を合わせたとのことだが,日射 量やその変化カーブを合わせなくても良いのか? 答え:温暖化後の日射は分からないので,日長を合 わせた。気温について,盛岡並みということになる。 なお,ランプによる光合成は生じない。 問い:北海道品種では日長反応はない。「きらら 397」は盛岡では,反応したのか? 答え+コメント:反応しなかった。出穂がばらけた。 北海道の稲品種は,日長をカウントする遺伝子の一 つが壊れていて日長に反応しない,と言われている。 札幌と盛岡の日長は20 分しか違わないが,品種の特 性は全く違う。本州の品種には日長反応に強弱があ る。「ひとめぼれ」よりも日長反応が弱い品種には “耐冷性最強”という普及品種がまだないが,日長反 応が全くない北海道の品種には“最強”がある。今後, 高温障害対策として「にこまる」の高温耐性を,北 国の品種に容易に載せられるかどうか?やることは いろいろある。 問い:北緯0 度から 45 度の水稲栽培地帯の真ん中に 石垣島はある。品種によって出穂は異なり,北のも のは早くなり,南のものは遅くなった。熊本での試 験はどうか? 答え:圃場でも TGC(温度勾配チャンバー)でも出穂 の早晩は品種によって異なった。単純に温度が高い ほど出穂が早まるわけではなさそう。TGC では水ス トレス症状やいもち病等がみられ,TGC そのものの 影響が無視できないかもしれない。 ・温室効果ガス緩和策についての議論 問い:雑草は残渣に入るのか?LCA 評価の中で,堆 肥からのでメタン放出量は考慮しているのか? 答え:雑草は入っていない。堆肥からのメタンと一 酸化二窒素は,カウントしていない。 問い:畑地だから,単位面積当たりの削減量が違う。 不耕起で有機物が多いから,メタンが多い。水田に 戻した場合,どうか? 答え:不耕起後の水田は検討していない。示したの は,通常の水田のデータである。 問い:転作後10 年後とかに,水田に戻すと,一気に ドバッと出るのではないか? 答え:ここでは 3 年のデータである。そのような長 期データはあまりない。 問い:夏に戻すのと,冬に戻すのとでは,冬の方が 少ないのか? 答え:その差はそれほど大きくはないだろう。 問い:残渣について,慣行のすき込みと,不耕起の そのまま載せておく状態では,土壌呼吸量の違いは どのくらいあるのか? 答え:有機物の分解は測ってみたが,意外と土壌呼 吸によって二酸化炭素が出た。すき込むから多いと は限らず,あまり変わらないかもしれない。土壌炭 素自体を見ないと何とも言えない。 問い:残渣をのせるのを何年も続けるとどうなるの か? 答え:森林のリター層のようになるのではないか。 カウントしていない。粗大有機物の評価は難しい。 今回は短期の評価であり,5 年以上の不耕起で見て いきたい。 コメント:この研究は,森林での炭素削減にも役立 つと思う。 コメント:石垣でも,ライシメータで測っている。 土壌中の炭素量がかなり多いので,10 年続けても, トレンドは分かるが収支まで評価するのは無理では ないか。 問い:土壌由来の二酸化炭素は,元々は光合成固定 されたものではないのか。作物が固定した二酸化炭 素も評価しなければならないのでは。そうすると, 二酸化炭素は,ほぼニュートラルになり,一酸化二 窒素とメタンのみになる。 答え:土壌での収支を見ている。 問い:畑での収支にはならないのか? 問い:マメ科の残渣はどうか? 答え:入れている。植物の固定量は,土壌として見 ている。 問い:残渣の収支は,元々大気だからゼロに戻るだ けではないか? 問い+コメント:土壌で見るのは,土壌肥料分野的 な見方ではないか? 答え:生態系で見ると全部だが,温暖化緩和策では, 土壌だけ見れば緩和効果の議論ができる。土壌とし て,増えるか,減るか,だけの話になる。 問い+コメント:一切,炭素を入れなければ,百年, 二百年経つとゼロになる。有機物を施用するからゼ ロにならない。加えたものによって変わるはずでは ないか? 答え:IPCC では,1990 年とか基準年があって,そ こからの短い年数で評価している。 問い:わらを入れないと,メタン放出量が少なくな るが,茨城だとその割合は 2 割程度。その年の稲由 来の放出量が多いようだ。今回のデータはわら由来 が非常に多いが,北海道の特徴ではないか?
答え:本州では,冬季間に稲わらは酸化的分解をす る。北海道では,冬季間の地温が低く,その分解が 遅いので,次の水稲栽培期間に多くの CH4が発生す る。北海道ではすき込んだ稲わらの 40~50%が CH4 になっている。したがって,稲わら持ち出し効果が ある。 問い:稲わらを持ち出すと温暖化ガス排出量が減る が,稲わらの収穫作業時の排出量も含まれているの か? 答え:温室効果ガス排出量の評価に,稲わらの収穫 作業も入っている。しかし,全体から見ると微々た るものである。 問い:持ち出した後の稲わらはどうしたら良いの か? 答え:ボイラー燃料として燃やすと良いのではない かと思う。ボイラー燃料として利用できれば,化石 燃料の消費を減らすことができ,さらなる CO2削減 にもつながる。 問い:この計算では持ち出した稲わらの扱いはどう なっているのか? 答え:何に使うかはやっていない。データはないが, ボイラー燃料を含め,いろいろな使いみちがあるは ずだ。 コメント:持ち出して燃やす際の問題点は,火力が 小さいということ。低温燃焼だとダイオキシン発生 の可能性がある。 答え+コメント:水田の場合,持ち出しは難しい。 排水効果も期待して,ほとんどすき込む。いかに排 水性が良くなるようにすき込むかが検討事項だ。 答え:持ち出せるところは,焼却する。 コメント+問い:バイオ炭を土壌に入れれば,長期 的に炭素の隔離はできるが,熱源にすれば化石燃料 の消費は減らせる。堆肥については,畑地への施用 をしてもしなくても,畜産からは必ず糞が出て,最 終的に土壌に戻る。畑の部分だけ見れば,炭素の出 入りはあるが,地域全体では,効果があるのかどう か,セットにして考えなければならない。 答え:家畜糞尿については,微妙な問題がある。堆 肥施用の温暖化緩和効果については,色々な議論が ある。バイオ炭は,化石燃料の節減につながるので あれば,そのまま燃料として燃やすのも良い。 コメント:システムの系をどこまで考えるかによっ て全く変わってくる。海外から輸入している飼料が 多い前沢牛は,飼料を自給すると二酸化炭素は減る。 しかし,グローバルに見ると,アメリカで牛肉を 作って輸入すれば,日本における排出量は最低にな る。系の見方が大事だ。 答え:畜産の計算は難しい。家畜糞尿をどう見るか も,家畜糞堆肥を畑作で使う場合の温室効果ガス排 出量評価に重要な問題だ.私の研究では,畑作では, 収穫まで,あるいはてんさいであれば製糖工場まで と区切っている。 問い+コメント:子供のころから,堆肥化や炭は良 いと言われているが,現実の農家では,ますます使 われていない。経済効果が出ないからだ。労働効果 を考えるとペイしない。現実的に経済効果を出すこ とを考えないと進んでいかない。地球全体で温室効 果ガス削減を考えなければならないが,現実は逆の 方向に行っている。 答え+コメント:農水省が,温暖化緩和に効くと判 断すれば,推進の可能性もある。経済支援の仕組み も考えて欲しいと思う。自分は科学的なデータを 取っていき,国に数値を出すところで貢献していき たい。 コメント:物質循環が大事だ。人間からの排せつを 含めて,上手に対応出来る仕組みが良い。稲わらも 家畜に食べさせるのが良い。地元での排出物をそこ で利用するのが最も良い仕組みではないか。 コメント:同感。海外から持ってくると安くて良い が,循環が壊れる。これから資源・エネルギーが高 価になってゆくならば,コストを下げる対応の中で, 結果的に温暖化も抑制されるのではないか。 ・適応策+緩和策およびその両立に関するコメント 問い+コメント:現在の作物で,温度,降水,日射 の変化に対する適応技術があると思う。その他とし て,新しい作目の導入はあるのか?また,降水が増 えることでもあり,緩和策の不耕起は,適応策とし てのメリットはあるのか? 答え:新しい作物として道南の厚沢部町では焼酎原 料用のサツマイモ栽培に取り組んでいる。また,落 花生のような本州の作物の試作に取り組む動きもあ る。地域のシステムを考えていきたい。 答え:経済効果や収量は,クロボク土では変わらな いが,減るところもあり,土壌の種類による。その 他,気象要因もあり,有効なところを見極めていき たい。 コメント:マメ科カバークロップを前作して,不耕 起を導入すると,窒素施肥量が少なくて済む。不耕 起で降水の浸透が増え,水利用効率が良くなること が多い。しかし,不耕起特有の被害として,土壌が 耕起より硬いので,石垣では台風の強風でトウモロ コシの茎が 2 年連続で折れてしまった。耕起では倒 れて被害が少なかった。 コメント:同じ技術でも,地域の環境,経済状態に よって効用が大きく異なる。気温の高い熱帯では有
機質の分解が早いので,家畜の糞,堆厩肥は化学肥 料のような肥効を示し,温帯圏とは違う技術になっ てしまう。また,不耕起栽培では,ラウンドアップ 耐性トウモロコシを組合わせた技術が南米で普及し ている。しかし,フィリピンでは,農民がラウンド アップを過剰に利用し雑草をことごとくなくしてし まう。アジア人らしい管理である。これによって土 壌侵食がかえって大きな問題になっている。温室効 果ガスの削減という意味で,人糞尿利用が見落とさ れている。JIRCAS の石垣にある拠点では,人尿肥 料の研究をしている。脱臭等,技術改良の余地はあ るが,世界70 億人の尿に含まれる窒素は,化学肥料 の年間生産の 20%に匹敵し,世界の石油消費の 2% を削減する潜在性がある。マメ科リターも気温が高 ければ,化学肥料の窒素と同等に使える。こういう ことを見直していかなければならない。 ・北海道農業に対する総括 コメント:道総研の今回の結果は,2030 年を想定し た大きなプロジェクト研究の一部だ。その中には, 温暖化,農家減少,規模拡大もある。2010 年の農林 業センサスでは,道内で 50 ha 以上の農家は増え, 50 ha 以下の農家は減っている。やめた農家の農地を 引き継いでいる。化石燃料や肥料はどんどん高価に なっている。自給率もどうなるか分からない。そう いう背景で,近未来の対応を考える必要がある。温 室効果ガスの削減も含めて,いろんなことを考える 必要がある。省力,省エネとしての不耕起といった パーツもあると思った。 コメント:肥料や燃料の高騰のため,窒素を減らす のはコストカットのメリットがある。1 つの技術で いろんな効果がある。2030 年,2050 年を考えた時に, そういうことが大切ではないか。 コメント:大面積での不耕起もあるかもしれない。 試験圃場は小圃場なので,そういう研究は個々の力 では難しい。オール北海道の体制作りが必要と痛感 する。 コメント:今の北海道品種を,小さい面積で収量最 大にするだけでなく,大きな面積での最適化も考え ていきたい。 コメント:2030 年にどうなるのか,個々の作物につ いて検討したが,地域の農業をどうするかを考えて いく必要がある。作付体系,栽培システムの提案も 必要だ。今回は,5 年間のプロジェクト研究の前 2 年の成果だ。残り 3 年でモデル地域について具体的 な提言もしていきたい。多面的な検討をしていきた い。 コメント:大変良い研究だった。20 年のタイムスパ ンがちょうど良い。中国黒竜江省では,直播ができ るかもしれないと,外国も同じように考えている。 アクティブに行きましょう。 ・農業気象学会 岡田益己会長講評;温暖化フォーラ ムは昨年,最初は盛岡で,鹿児島は中止になって, 北海道が 2 回目。温暖化は大きな話題になっている ので,追い風にしなければならない。気象と農業の 関係をつないで,稲,畜産,土壌肥料と一緒にやっ ていくくらいになればと思う。有意義だった。今後 は「観察力」が重要だ。昭和11 年,軽井沢の荻原さ んが,温床に落とした種籾を植えたら早く育った。 昭和17 年に体系化したが戦争の影響で広く普及しな かった。しかしその後,保温折衷苗代として北国に 普及した。また,1980 年の冷害年に,「コシヒカリ」 の耐冷性遺伝子に気付いた。そこから「ひとめぼれ」 「はえぬき」が生まれた。先日の鹿児島大会では, “温故維新”というフォーラムをやった。施設園芸で は,最近,省エネが騒がれているが,30 年前,石油 ショックのころに出来上がった技術が見直されてい る。2030 年に向けて,2050 年に向けて,継続してゆ くと進歩がある。施設の研究では,継続しなかった 自己反省を含めて,温故知新と研究の継続を提起し たい。
4.おわりに
このフォーラムで示されるように,北海道におい ては温暖化研究が大きく進展した。これには二つの 大きな背景があると考えている。一つは温暖化研究 が国内的に大きく推進される時代背景にあったこと である。農研機構は第2 期中期計画(2006~2010 年) で全国に温暖化研究チームを発足した。同時期に行 政的にも農林水産省は政策として温暖化対策を推進 する方向を打ち出した(例えば,農林水産省,2008)。 さらに大きな流れとして,北海道において G8 洞爺 湖サミットが2008 年に開催され,かつ主要テーマが 地球温暖化であったことである。このサミットが大 きな契機となり,北海道でも道として,行政的に温 暖化対策が強く推進されることにもなった。このよ うな研究組織の変化と行政的な推進による時代背景 の中,農研機構でも本フォーラムにおける濱嵜氏, 永田氏の講演に代表されるような温暖化対応研究の 交付金プロジェクト研究がいくつか立ち上がり,ま た道総研も温暖化研究のプロジェクトが実施される に至った。古賀氏についてもこれらのプロジェクト 研究が実施されている時期に,IPCC 第 4 次報告と予 定されている第 5 次報告での温室効果ガス緩和策関 係のCoordinating Lead Author(CLA) であるスコットランドのアバディーン大学のProfessor Peter Smith の 下での在外研究を実施し,ここでの成果も今回の講 演の骨子の一つとなっている。 また,もう一つの重要な背景としては2010 年の夏 季高温による農業への影響が深刻であったことであ る(例えば,北海道農政部,2011;広田など,2011)。 北海道で高温の年に深刻な不作になったのは北海道 開拓以来初めてであり,これまでよく言われていた 温度が低い北海道では暖かくなると農業生産には好 都合と言った北海道農業に対する単純な温暖化楽観 論に対して警鐘が鳴らされる年となった。このこと は温暖化適応の重要性を北海道の農業関係者により 強く認識させることになった。この2010 年の経験は, また,これまでのシミュレーションやチャンバー試 験等を中心とした影響評価研究から,圃場での実測 に基づく直接的な評価を可能とすることになり,温 暖化研究の新たな展開を迎えることにもなった。特 に,農業気象の専門家がいない道総研は,一方で, 定期作況データや奨励品種決定調査等に代表される 収量・品質の実測データの長期の蓄積がある。これ にプロジェクト最終年度の2010 年に 21 世紀末時の 気候温暖化シナリオにも相当する夏季の高温データ が加わることで,これまでのデータの蓄積がさらに 活かされ,実測をベースとしたデータの外挿ではな い評価が少なからず可能となったことも大きかった であろう。これは,北農研の水稲温暖化全国連携試 験でも同様なことが言える。また,道総研の温暖化 研究の中心的役割を果たした中辻氏と志賀氏は土壌 肥料分野の専門家ではあるが,作物モデル研究の経 験もあり(例えば,志賀,2003;中辻,2008),農業 気象分野の研究にも明るく,このような研究実績も 温暖化影響評価を実施する上で大きな役割を果たし たと思われる。 最後に本報告者の一人であり,本フォーラムの企 画立案をした広田は北農研における 3 人の研究に当 時のチーム長として関与し,また道総研についても プロジェクトの立ち上げから途中の研究経過を知る 機会もあった。したがって,これらの時代背景と共 に本フォーラムの開催と報告書の取りまとめの際に 感慨深いものを個人的に感じた次第である。2006 年 に北海道の同じ地で農業気象学会生態プロセス研究 部会による「地球温暖化の実態とそれが生態系と農 業活動に及ぼす影響」が開催された。この報告書の 「4.まとめ」でこの時点での提言がまとめられた(小 林など,2007)。本フォーラムの講演・議論を振り返 ると2006 年の提言からの研究の着実な進展・深化を 個人的には強く感じる。現在,この研究会から 5 年 以上の年月を経て,北海道では農業における温暖化 研究は2010 年および本フォーラムを契機に現実への 対応により踏み込んだ次の段階に入ったのではない かと考える。
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