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共生社会構築と障害のある子どもの教育

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論 説

共生社会構築と障害のある子どもの教育

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The education of children with disabilities

in the realization of an inclusive society

南館こずえ

Kozue MINAMIDATE

Abstract

To realize an inclusive society, a child with disabilities should not be excluded from a school in the local community, if he or she and the guardians wish to attend the school. There is a child at the center of a case, which the child and the parents sued the boards of education in 2018 because they took measures that the child should attended to a special school: even though, the child and the parents refused the action. According to the order of enforcement of the school education act, a board of education designate a special school if a child has disabilities. However, the child and the parents wish to attend a local school, the board of education should respect to rights of their self-determination. Based on the general comment of the Convention of Rights of Persons with Disabilities, segregated models of education, which exclude students with disabilities from mainstream and inclusive education on the basis of disability, contravene the Convention. The Convention requires States parties to take all appropriate steps to ensure that reasonable accommodation is provided.

Key Words: an inclusive society, disabilities, anti-discrimination act on the basis of disabilities, reasonable accommodations, entering a school

キーワード:共生社会、障害、障害者差別解消法、合理的配慮、就学 1.障害をもつという観点からの共生社会の構築を 近年、障害のある人々の権利擁護に向けた国際的な取組は進展してきていると言われ ている。2006 年、国際連合において「障害者の権利に関する条約(以下、障害者権利条 約という。)」が採択され、日本政府は 2007 年にこの条約に署名し、以降、条約批准に 向けて国内法整備を進め、その過程において「障害を理由とする差別の解消の推進に関す 2020 年 3 月 1 日受付 2020 年 3 月 1 日受理

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る法律(以下、障害者差別解消法という。)」を 2013 年に制定し、2014 年に障害者権利 条約を批准している。では、障害のある人の権利保障は、進展したと言えるのか。 共生社会においては、人種、信条、性別、経済的又は社会的関係によって差別され ず、むしろそれらの違いを尊重し、誰も取り残されない、つまり、排除されない仕組みの 構築が必要になる。障害をもつということに関しても同様であるべきだが、障害のある子 どもが地域の学校で学ぼうとすると、「地域の学校で学ぶのは無理だ」「障害が重度なら ば、なおさらだ」「障害に特化した特別支援学校があるじゃないか」と言われる。学校教 育は能力を育む場所であり、その一方で、能力を評価される場でもある。ある行為ができ にくいことは、個人の能力のみにその原因を求めがちである。このような環境において は、障害のある子どもとない子どもが共に生き学ぶこと、つまり、能力によって差別され ない仕組みを逆説的になるが作り上げていくことは、共生社会の構築のためには必然であ る。 共生社会においては、障害を理由に学校から子どもを排除することは、合理的な区別 ではなく、差別である。共生社会においては、学校の入り口でゲートキーパーが障害の有 無をチェックするべきではないからである。 2.障害者権利条約が求める平等及び無差別とは 1)障害者権利条約に規定されているインクルーシブ教育 障害のある子どもの教育については、条約の第 24 条において締約国に対してインク ルーシブ教育を制度化するように求めている。障害のある子どもの教育の権利を差別する ことなく、障害のない人との機会の均等を実現するために、インクルーシブで質の高い無 償の初等及び中等教育にアクセスすることができること、いわゆるインクルーシブ教育制

度(Inclusive Educational System)を確保2(構築)すべきであるとしている。障害のな

い子どもを差別せずに、教育を受ける権利を保障するには、インクルーシブ教育の制度化 が必要になるというのである。 2)障害者権利条約におけるインクルーシブ教育の意味 2006 年に策定された障害者権利条約については、国際連合の条約の監視機関(障害者 権利委員会)が、各条解釈を一般的意見(general comment)として作成し公表してい る。一般意見は、条約の文言の意味を詳細に解説し、締約国において障害のある人々の権 利を保障するための法整備を行うように求めている。 平等及び無差別(第5条関係)の一般意見においては、障害を理由とした差別を解説 し、さらに各条について何が差別に当たるのか入念に解説している。2013 年に制定され た障害者差別解消法は、障害を理由とした差別を禁止しているが、定義規定は設けられて

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おらず、各則をも設けられていない。したがって、条約における障害を理由とした差別を 参考にすべきである。 一般意見では、平等及び差別がないことは最も重要なことであり、障害のある人にと っては権利でもあるという確認からはじめられている。さらに、締約国に対して平等を促 進し、差別がない状態を保つことは、直ちに実現すべき分野横断的な義務であると述べて いる。つまり、このことは斬新的に実現すべきものではない3と注意を喚起している。条 約で規定している自由権については即時的な義務が締約国に対して生じるが、社会権は斬 新的でも良いと言われ、インクルーシブ教育を制度化することについて斬新的でも良いだ ろうという解釈がなされることがある。とは言うものの、障害を理由した差別はインクル ーシブ教育の制度の完成を待つ必要もなく、即時、救済されなければならないことをここ で確認することができる。 一般意見では、障害のある子どもを直接的又は間接的に排除する入学試験を含む、標準 化された評価の仕組みは差別であり、平等及び無差別を規定している第 5 条及び教育を 規定している第 24 条に違反している4としている。さらに、障害を理由に主流にある学 校教育(Mainstreaming)及びインクルーシブ教育から排除する分離モデルは、合理的配 慮が提供されるようにあらゆる適切な措置を締約国に求めている条約の規定に違反する5 としている。つまり、合理的配慮が提供される仕組みが整備されれば、主流にある学校教 育から排除されることはないことになる。したがって、特別支援学校への就学を障害を理 由に強制することは、条約の趣旨に反することを導き出すことができる。 3)インクルーシブ教育を巡る策定過程での攻防 障害者権利条約の策定過程では、インクルーシブ教育を強い文言として結実させたい 勢力と、できる限り自国の教育制度の範囲に収めるべく規定を弱めようとする政府代表と の思惑が拮抗していた。日本政府は後者で、「インクルーシブ教育制度を確保する」とい う文言は強すぎると述べていた。条約に「可能な限り」、もしくは「努力的に」という単 語を加えるべきであると提案していた。その理由としては、居住する地域で教育が提供さ れるのは理想ではあるが、学区の外の学校に通う障害のある子どもが存在することを挙げ ていた6。学区の外に通うということは、特別支援学校への就学を意味していた。この日 本政府の提案は、条約の文言として採用されなかったが、国内にある特別支援学校の位置 づけを変えることなく、つまり、抜本的に教育の仕組みを改革することなく条約は批准さ れた。結果的に、批准後も特別支援学校への就学の仕組みは残り、インクルーシブ教育の 制度外なのか内なのか、障害によって特別な教育が必要である場合には、地域の学校から 排除されることは合理性があるという主張を温存させることになっている。しかし、これ はインクルーシブ教育とは言えない。

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策定過程での議論を、もう一つ紹介する。インクルーシブ教育については、障害者がど こで学ぶかを選択できる権利が与えられるべきであるという選択権が草案において検討さ れていた。「すべての障害のある人々は、自身のコミュニティーにおいて、インクルーシ ブで利用可能な教育を選択することができる」としていたが、これに対して、参加してい た NGO から障害のある本人ではなく、政府が選択権をもつと誤解されかねないという懸念 の表明があり、選択権として規定されないことになった7。この選択権を巡る議論は、需 要な示唆を与えると考える。つまり、インクルーシブ教育は、障害を理由に障害のある子 どもにのみ特別に与えられるべき学校を選択する権利であるのか、それとも、地域社会の 一員として障害の有無にかかわらず地域の学校への就学が保障されるべきであり、特別支 援学校への就学を求める場合に離脱できる自由はあるべきだとするのか制度設計そのもの に関わるからである。選択権であれば、障害のあるなしを区別され、障害がある場合には 学校を選択する権利が付与されることになる。しかし、障害者権利条約においては、政府 が障害者にどこで学ぶのかを選択するのではなく、政府がインクルーシブ教育を整備すべ きであるという規定になっていることから、インクルーシブ教育においては基本的に地域 の学校への就学を障害の有無にかかわらず保障され、障害を理由に排除されない制度づく りが必要になる。 3.障害者差別解消法施行後のインクルーシブ教育を求める声 1)障害者差別解消法の仕組み 障害者権利条約を批准するための国内法制度の整備過程において制定された障害者差 別解消法は、「全ての国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格 と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資すること」を第1条の目的に掲げてい る。障害者差別解消法は、障害のある人の日常生活、社会生活全般を対象範囲にしている が、既述のとおり、本稿では学校教育、特に義務教育段階の公立学校と障害及び差別を検 討の対象にしている。また、障害者差別解消法は先に述べたように総則のみの法律で、各 則の規定は設けられていない。 障害者差別解消法は、公立学校に対して不当な差別的取扱いを禁止し、合理的配慮の 提供を義務付けている。障害のある本人及び保護者が学校に対して「社会的障壁の解消」 を求めが起点となり、関係者による話し合いを経て合意形成できたものを合理的配慮とし て提供することになる。 「社会的障壁」とは、学校教育では障害を理由として授業に参加できない状態を言 い、例えば、電動車いすを利用している子どもが体育の授業の際に体育館の入口に階段が あり、体育館に入ることができず、授業を受けることもできないことなどが考えられる 8。検討の際には、当該障害者の性別、年齢、障害の状態を考慮し、提供者にとって過重 な負担にならない範囲で提供されることになる。当事者同士の話し合いによって内容を決

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定するというこの点こそが、この法律の最大の特徴である。障害を理由にして平等な取扱 いがされずに権利利益が侵害されている状態にあるため、それを解消させるために合理的 配慮が必要になる。提供者にとって過重な負担にならないものであるが、障害のある子ど もに生じている差別状態は解消されなければならないため、「要求された内容は過重な範 囲にあるので提供できない」と言って、何も行わなくとも良いという誤解があるが、何も 行わないのは差別になる。例えば、「体育館の入口にエレベータを設置することなどでき ない」と、何もしないことを正当化してしまう場合などがそれにあたる。障害は多様であ り、教育環境も様々であるため個別事情に合わせて提供されるべきであるので、話し合い を行うことは必然である。 学校教育では、まず、保護者と担任が話し合うことになるが、状況に応じて保護者の 支援者が同席したり、管理職が同席したりすることもある。では、合意形成できない場合 は、「永遠に話し合いが続くのか」「誰が仲裁に入るのか」「決裂した後は、裁判か」等 と言われるが、実はそれを実質的に解決させる仕組みを備えていない。同法のもとでは、 障害者差別解消支援地域協議会が各自治体に設置されたが、困難事例の情報共有にその役 割を限定しているので、直接、紛争解決に当たることはない。 しかしながら、本来、話し合いでは子どもの学びを成立させるための知恵を出し合い、 様々な工夫の可能性を検討することによって、障害のある子どもの学びの場を作り出すべ きである。 2)障害を理由に地域の学校への就学を排除された A さん 障害のある A さんは、2018 年 4 月に地域の小学校 1 年生になることを希望していた。 保護者は、地域の小学校への入学を希望したが、教育委員会は特別支援学校への就学を判 断し措置した。そこで保護者は、障害を理由に差別されたとして 2018 年 7 月に提訴し た。これは、障害者差別解消法が施行後はじめての教育裁判となった。この裁判は、 2020 年 3 月 18 日に判決が下される。 (1)改正された障害のある子どもの就学手続き 障害者差別解消法が制定された 2013 年には、学校教育法施行令も改正されている。こ れまでは就学基準にある障害の種類と程度のある子どもは原則特別支援学校に就学してい たが、「障害の状態、本人の教育的ニーズ、本人・保護者の意見、教育学、医学、心理学 等専門的見地からの意見、学校や地域の状況等を踏まえた総合的な観点から就学先を決定 する仕組み」9となった。法改正の通知においては、中央教育審議会初等中等教育分科会 報告「共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育の 推進」を引用し、「市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本 人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニ

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ーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会 が決定することが適当で」10あり、これが改正当たっての基本的前提であるとしている。 A さんの裁判は、この改正後に提訴されたものである。 (2)「地域の学校で学びたい」 障害のある子どもが地域の学校で学ぶ取り組みは、各地域で行われている。むしろ、地 域での取り組みの格差が広がりつつある。学校教育法施行令においては就学先を指定する 権限は教育委員会にあるとしているが、保護者が地域の学校への就学を希望している場合 にはその意向に沿って特別支援学校ではなく地域の学校を指定する教育委員会は現に存在 する。したがって、一律な判断がなされている訳ではない。A さんの住む自治体では、そ のような判断はなされなかった。 A さん及び保護者は、自身の住む自治体の学校で学ぶことが自然であり、A さんと保護 者の願いに耳を傾けようとせずに、さらに、何が合理的配慮として提供できるのか等の検 討もせずに、障害を理由に特別支援学校に措置するのは差別だと述べている。 (3)裁判での論点 裁判での中心となった論点は、特別支援学校に A さんを措置したことが、行政に与え られた権限の逸脱、濫用に当たるか否かにある。 学校教育法施行令によると、小学校に就学する場合には 10 月 31 日までにその市町村 に住所がある就学予定者の学齢簿を教育委員会が作成し、保護者に対して 1 月 31 まで に、入学期日と就学すべき学校を通知する。視覚障害者、聴覚障害者、知的障害者、肢体 不自由者又は病弱者については、市町村教育委員会は 12 月 31 日までに都道府県教育委 員会に氏名などを通知し、これを受けた都道府県教育委員会は 1 月 31 日までに、その子 どもの保護者に対して入学期日、就学すべき特別支援学校を通知11することになってい る。小学校への就学通知は、居住の事態があれば当然に付与される12ものである。先に述 べた学校教育法施行令の改正通知は、文部科学省は就学先の決定にあたっては、「本人・ 保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重」13すべきである と述べている。では、本人及び保護者が望んでいない場合であっても、地域の学校ではな く特別支援学校への措置を行政が強制できるのか。 (4)A さんの就学相談 一般的には、障害のある子どもの就学相談は、就学する前の年の夏頃から始まる。A さ んと保護者はある意味真面目14に就学相談に出向き、地域の小学校への就学を希望してい ることを伝え、合理的配慮として提供して欲しい支援内容についても伝えている。この時 相談対応に当たった職員は、A さんの障害はこれまで対応したことのない重度であり、特

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別支援学校への就学判断は適切であったと裁判の口頭弁論で述べている15。被告 K 市の 教育委員会の措置は、この職員の判断を追認する形で措置した。準備書面では、「保護者 の意見については最大限尊重し、合意形成には努力するものの、絶対にこれに従わなけれ ばならないというものでは決してない」16と述べている。 障害のある子どもの就学に際しては、障害者解消法施行後は、入学後にどのような合理 的配慮が提供されるべきか検討し、これについて合意形成しなければならない。特に、公 立学校に対しては合理的配慮を提供する義務が生じるため、就学相談の過程でどのような 配慮を希望するのか、それらが就学先の学校において提供可能なのかを検討し、具体的に 何をいつから行うのか合意しなければならない。しかし、A さんの提供されるべき合理的 配慮については検討すらされなかったことが口頭弁論の中で17明らかになった。K 市は明 らかに、障害者差別解消法での差別行為を行ったことになる。 (5)裁判で問われていること K 市としては A さんの障害については、これまで同程度の障害のある子どもの小学校 への受け入れ実績がないことを特別支援学校への措置の理由にあげている18。しかし、他 の自治体での受け入れ実績はあり、実際に、K 市は当該の自治体に就学相談の期間中に 視察に行っている19。したがって、障害が重度であることや受け入れ実績がないことは、 特別支援学校への措置を正当化できるものではない。 学校教育法施行令には学校指定の措置権は K 市にあるのだから、本人及び保護者の意 向に拘束されないとしているが、本人及び保護者が望まないことを強制する権限までをも 行政に付与されていないと考えるべきである。既に述べたように、障害者権利条約の一般 意見においては、合理的配慮の提供を締約国に求めているのだから、主流にある学校制度 から分離することは差別に当たるとしている。「障害のある子どもがどこで学ぶのか?」 このことは、どう生きるのかという問いと等しい。行政による措置は、本人及び保護者の 自己決定権を侵害することはできず、拮抗する場合は自己決定が優先されるべきであろ う。 4.障害者権利条約と学校教育法及び障害者差別解消法 ---共生社会構築に向けて--- 子どもが小学校に入学する時に、「あなたはこの学校に通うことはできませんよ。なぜ なら、障害があるからです」と行政から言われることは、何をもって正当化できるのかと いう問いを検討してきた。一般的には、小学校に入学することによって、居住している地 域社会の子どもたちと出会う。この出会いの機会を障害を理由に奪うことはできない。 この点を問題にしているのは、実は、行政担当者だけではなく、私たちの自身にも障 害があるのだから特別な学校で学ぶのは当然だという考え方が根強くあり、このことも同 時に問題にしたいからである。重度障害であったり、多動であったりすると、担任は一人

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しかいないのにどうやって授業するのか、無理だという反論をする人々がいる。一緒に学 ぶことに取り組んでいないのにも関わらず、即座に否定できるのかを問い返したい。A さ んの裁判を支援する過程において、「障害があるのだから特別な学校に行くのは当然だ」 「むしろ、わがままを言っている」ということを言われることがあった。 実はこれは、最近の問題ではない。障害のある子どもの教育を巡っては、「共に生き共 に学ぶ」学級づくりの取り組みが展開されてきた。これは、被差別部落及び在日朝鮮・中 国の子どもの教育を保障するための取り組みに端を発し、70 年以降に取り組まれてきた ものである。本人保護者の意向を尊重して学校を指定する自治体も増えてきているが、述 べてきたように法制度の厚い壁があり、それを補完、補強するように人々の中にある根強 い区別を正当化する思いがあり、それを突破するのは難しい現状もある。 また、障害者差別解消法が制定されたが、利害関係者が対立した時に、法律にはその紛 争解決の仕組みを備えていないという問題がある。特に、学校入学時などは対立が深ま り、調整するための時間が足りない場合は裁判せざるを得ないという状況になる。また、 合理的配慮は就学した学校において提供される配慮であるため、教育委員会がその学校に 就学させるべきではないと判断する場合には A さんの事例のように合理的配慮を求めて いたが、当該の自治体はその必要性について検討すらしなかったことが明らかになった。 この点、指定する予定のない学校の合理的配慮を検討しなかったことが差別にあたるのか については、裁判の判決を待たなければならない。条約の一般意見では、合理的配慮の提 供を締約国に求めているのだから、主流にある学校教育から排除されることは差別にあた るとしているが、特別支援学校への就学ありきの議論では合理的配慮に関する話し合いの 席にもつくことができなかった。 障害者権利条約の批准を目指して法整備したのであれば、本来であれば、障害の有無に かかわらず地域の学校に就学できるようにインクルーシブ教育を制度化し、そのための手 続きを整えるべきであった。それがすぐに可能とならないのであれば、少なくとも、障害 のある子どもの就学先指定を教育委員会が行う場合には、障害のある子ども及び保護者の 自己決定を尊重し、自己決定権を侵害すべきではないことを通知等において補完すべきで あった。これを明確に示さなかったために、A さんは犠牲になってしまった。裁判闘争の 間望まない学校での生活を強いられ、二度と戻らない子ども同士の時間を奪うことになる のだから、早急な対応が求められる。 1 2019 年 6 月 9 日に行われた第 11 回共生科学会シンポジウムでは、2つの事例を紹介し ながら「合理的配慮の理念と現実」と題して話題提供させていただいた。2つの事例 は、障害に関わり派生した事例ではあるが、本人及び保護者の要望は共生社会構築に 際して反対の方向を向いている。本稿を執筆するにあたり、本来ならば 2 つの事例に

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ついて論じるべきであるが、A さんの裁判に関して新たな情報を得たため、A さんに焦 点をあてて論じるべきではないかと考えた。それに伴い、タイトルを変更させていた だいた。 以下は、シンポジウムで取り上げた B さんの事例である。 障害のある B さんは、現在 2 年生。地域の小学校に通っている。入学後、B さんが困 ったり、苦手なことを手伝うための「お世話係」が必要だと保護者が要望し、数名の 子どもたちがその役割を担った。2年生のクラス替えによって、「お世話係」は B さん と別のクラスになった。そこで、保護者は合理的配慮としてかつての「お世話係」を B さんと同じクラスにするように学校に求めた。保護者は、即時クラス替えをすること を求め続けるため、話し合いは成立していない。クラス替えが行われるまでは、保護 者は B さんを登校させないと言っている。加えて、訴訟をすると言って弁護士が学校 に面会を求めている。 問い :共生社会→クラスメイトを指定するのは、合理的配慮なのか? 考え方 :合理的配慮とは言えない。クラスメイトを指定することは、共生社会の構成 員を指定することになり、〇〇は良いが△△はダメだというように排除する 論理にもつながる。一般的には、〇〇さんがいないと教室に入ることができ ない等、クラス編成を巡り保護者から様々な要望が寄せられる。B さんの要望 は、その配慮が行われなければ差別取扱いとなる合理的配慮とすべきではな く、教育活動において行われる一般的な配慮に含まれるべきものとすべきで ある。したがって、B さんの要望は、障害を理由とした差別と言うことはでき ないと考える。 2 障害者権利条約の公定訳は、次のサイトに掲載されている。 外務省「障害者の権利に関する条約」 〈https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000018093.pdf〉(2020.2.28.閲覧)

3 Committee on the Rights of Persons with Disabilities (2018) “General comment

No. 6 on equality and non-discrimination”. United Nations

なお、内閣府障害者政策委員会の会議資料に暫定訳が掲載されているが、「差別である (is discrimination)」と訳すべきところを「差別的である」と翻訳されていること があり、英文を確認しながら参照すべきである。この度は、訳し直しをした。 4 同上 5 同上 6 障害者権利条約の策定過程での議論は、日報において確認することができる。紹介した 日本政府の発言は、第 6 回特別委員会の報告で確認できる。 障害者権利条約アドホック委員会(2005)「第 6 回 日報」 〈https://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc6sum3aug.htm〉(2020.2.28.閲覧) 7 選択権を巡る議論は、第 6 回特別委員会で行われたため、注 6 で紹介した日報に議論の 要約が掲載されている。 南舘こずえ(2010)「障害者権利条約と教育」『教育と文化 2010 Winter 58』教育総研 36-43 8 体育館で行われた入学式に電動車いすの生徒が参加できないという相談があった。エレ ベータが設置されている学校であったが、体育館の入口に階段があったため、急遽、 当事者を抱えて移動することになったということであった。入学後の体育の授業に参 加するためには、入口の段差解消が必要になったため、同性の教師が抱えて移動する ことになった。簡易な昇降機が設置されていたが、座位が不安定なために本人は利用 できないと拒否していた。スロープの設置等も検討したが、段差を解消するためには 巨大なスロープが必要になることや工事に時間が要することもあり、人力での移動に なった。これらは、物理的なアクセスの問題だが、これに加えて、体育の授業にどの ようにしたら参加することができるのか、教育内容の変更調整も必要になる。これら

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を当事者と話し合って合意形成する過程が重要である。 9 文部科学省(2013)「学校教育法施行令の一部改正について(通知)25 文科初第 655 号」 〈https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1339311.htm〉 (2020.2.28.閲覧) 10 同上 11 文部科学省 「障害のある子どもの就学先決定について」 〈https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/shugaku/detail/1422234.htm〉(2020.2.28. 閲覧) 12 学齢簿の作成に当たっては、原則的には住民登録された住所に基づくが、例えば DV 被 害から避難してきた子どもなどは、居住の実態が確認できれば就学通知が送付される ようになっている。ここから除外されているのは、教育を受けさせる義務のない外国 籍の子どもたちである。 13 前出 注 8 14 就学相談を行う義務は教育委員会にはあるが、障害のある子ども及び保護者は就学相 談を受けなければならない訳ではないため、何もアクションを起こさなければ地域の 学校の就学通知が届けられる。つまり、障害者専用のラインに乗らなければ、地域の 学校への就学は実は可能である。この際に問題になるのは、どのタイミングで合理的 配慮の話し合いをもつのかということである。スロープ設置など工事時間を要する場 合には、就学予定の学校に出向き、話し合いを入学前に行う必要がある。 15 就学通知処分取消等請求事件(2019)(行ウ)第 58 号 横浜地方裁判所 口頭弁論 K 市証人 裁判傍聴メモより 2019 年 11 月 18 2018 年 7 月に提訴された裁判は、2020 年 3 月 18 日に判決が下される。 16 就学通知処分取消等請求事件(2019)(行ウ)第 58 号 横浜地方裁判所 被告 K 市準 備書面(8)2020 年 1 月 6 日 17 同上 18 同上 19 前出 注 14

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