5 国際女性 No. 32(2018) 1.二回目の国連総会に出席して 昨年の第71回に引き続き,第72回国連総会第三 委員会に政府代表顧問として1か月間出席した。 今回は昨年とはまた異なる緊張感をもって出席す ることになった。というのもこの1年間で世界の 情勢は大幅に変わったからである。たとえば,ア メリカ大統領がオバマ政権からトランプ政権へと 変わり,保護主義へと大きくシフトした。それに 伴い,世界各国でゼノフォービアが一挙に噴出拡 大していった感をぬぐえない。また,北朝鮮のミ サイル発射実験も続き,日本政府を含む安全保障 理事会では北朝鮮への制裁措置の件で神経をとが らせていた。加えて,ミャンマーでは60万人を超 えるロヒンギャがバングラデシュへと難民と化す という重大な人権問題を抱えていた。まさに問題 山積のなかで第72回国連総会は開催された。 今回の第三委員会の議長は,世界フォーラムが 毎年発表しているGGGI(Global・Gender・Gap・Index) 9年間連続1位を獲得しているアイスランド大使 のグナーソン氏が務めた。タイムマネージメント が大変厳しく,ステートメントも5分を超すと, マイクが容赦なく切られるため,ステートメント を途中で切られてしまい,残念そうにしている国 の代表の姿も多くみることになった。無駄のない 合理的な議事進行ではあったものの,シリア代表 はそれに立腹し大声で叫びまくったため,議事が 中断する場面もあった。そのため議場内が一時緊 張状態に包まれたが,ビューローの説得で落ち着 きを取り戻し,会議が再開された。このように国 の代表が感情的になる場面があっても,答弁権行 使などの国連のルールと気長な説得で誰もが排除 されることなく議論が進められていく場面にも居 合わせることが出来,大変勉強になった。 今回は,チェコからABC順に国の席が決めら れたため,第三委員会のJapan席は前列3列目の 左端の席となった。昨年の71回総会で左側に座っ ていた国家間の葛藤を抱えているイスラエル,イ ラク,イラン等の国とは列が変わり,穏やかな気 持ちで会議場にいることができた。日本政府が最 も神経を払っている北朝鮮の代表席のほぼ真後ろ に座ることになったのでその動向も視野に入りや すいポジションになった。会議場でも座る席によ って随分と見える世界が変わることを実感した。 2.ステートメントの発表 国連総会は第一〜六委員会まで同時開催されて おり,第三委員会では人権(女性・子ども・障害者, 先住民等),社会開発,民族自決権,犯罪問題等を 議論する場になる。193か国の代表とEU,ILOな どの諸団体の代表が参加し,各国からのステート メントや特別報告などが連日行われた。今年は, 最終的に64本の決議が可決された。その中で,政 府代表顧問として昨年同様,「社会開発」,「女性の 地位向上」,「児童の権利」,「先住民の権利」,「人 権諸条約」の5つのステートメントを発表した。 今回は日本政府代表部社会部の尽力で,日本のス テートメントの発表順位は1番目,2番目を獲得 することができ,存在感を示すことができたよう に思う。ただ毎回,初っ端にステートメントを発 表する緊張を強いられることになった。一方,ト ランプ政権に代わったアメリカはオバマ政権だっ た昨年度と異なり,順位が下方に下がっており, アメリカの人権問題への取り組み姿勢が大幅に下 がったことがうかがえた。尚,ステートメントの 詳細は,「国連日本政府代表部」HPに掲載されて いるため参照されたいが,主に日本政府として
第72回国連総会第三委員会報告
布 柴 靖 枝
6 国際女性 No. 32(2018) 2030アジェンダSDGsを推し進め,子ども・女 性・障害者・高齢者・LGBTIの人たちを含め,誰 一人として取り残さない社会の実現のために政府 として最大限の努力をしていくという主旨の内容 で貫かれている。また,昨年,喧々諤々の議論の 末,LGBTIの人権状況が特別報告事項として取り 入れられることになったが,今回から初めて行わ れるようになったLGBTI人権問題特別報告は特 に荒れることなく進められた。 3.国連,政府,市民社会にますます求められる パートナーシップ 第72回国連総会では,NGO,NPOを含む市民社 会は重要なパートナーとして位置付けられており, さらに重要視されていることを強く感じた。それ は日本政府代表部内においても実感することにな った。というも2017年は,日本政府は非常任理事 国の任期の最終年でもあり,その上,北朝鮮の核 ミサイル問題のために安全保障理事会で大変な多 忙を極めていた。にもかかわらず,別所浩郎特命 全権大使,そして星野俊也大使ともゆっくりとお 話をする機会を設けてくださった。別所大使の話 によると,第三委員会グナーソン議長にも政府代 表顧問が女性のNGOの推薦を受けて出席してい ることを伝えたところ,先見の明があると褒めら れ鼻が高かったと報告をいただいた。星野大使も 赴任された早々で多忙をきわめているにも関わら ず,会いたい人がいたらセットアップするからと まで提案してくださり,とても心強く有難く思っ た。日本政府も市民社会とのパートナーシップを 大切にしようとしていることを実感することにな った。 4.ジェンダー平等と経済発展,平和は不可分 国連では,今,人権問題(ジェンダー平等),経済 発展,平和は不可分として議論されている。ジェ ンダー平等なくして,経済発展や世界の平和はあ りえないという視点である。安全保障理事会でも 平和のために女性の参加が不可欠であるという視 点から2242議案が2015年に採択されており,PKO 活動や紛争後の平和構築,紛争予防の推進に女性 参画を推進している。ちなみに総会として並行し て開催されていたシンポジウムはほぼ,平和構築, 平和維持のためにいかに女性が参画すべきか,と いうものが大半であった。また,50年以上紛争下 にあったコロンビアなど女性の市民社会が平和構 築に大きく寄与したという事例報告もされていた。 また,これと並行して若者の平和構築活動参画の 動きも進んでいることがうかがえた。 5.ジェンダー・パリテ(50–50の数値目標を 含むジェンダー平等)へ 国連事務総長グテーレス氏は,2017年9月に 「ジェンダー戦略(System-wide・Strategy・on・Gender・ Parity)」を発表し,2030年に先立って2026年まで に国連職員のジェンダー・パリテを実現すると発 表した。また,事務総長に人事権のあるシニアポ ジションは2021年までにジェンダー・パリテを実 現するという大胆な戦略を発表し,益々ジェンダ ー平等が数値目標として推し進められるとこにな った。それを受けて各国のステートメントもジェ ンダー・パリテを目指す動きを見せる内容のもの が多くみられた。アイスランドでは,それに加え て2022年までに男女の賃金格差を解消して,世界 で初めてイコール・ペイを達成する国を目指すと いうステートメントを述べていた。この勢いの中 では日本はよほど気を入れていかないと益々取り 残されてしまうのではないかという危惧すら感じ た。 6.貴重な経験に感謝,そして我々がすべきこと 日本ではあまり報道されていない多くの人権問 題に触れ,その紛争の背景に見え隠れする大国の 残した負の遺産と矛盾を垣間見る思いであった。 私たちが今すべきこと。それは,2030アジェンダ SDGsを推し進めることに他ならない。それが女 性の地位向上のみならず世界の平和につながるこ とを再確認する機会となった。政府代表部の齊藤 純公使をはじめとする社会部の皆さんにも大変お 世話になった。志の高い方々と共に一つの役割を 担う重責と達成感を感じる貴重な経験になった。 (ぬのしば・やすえ・会員,国連総会第三委員会日本政府 代表顧問,文教大学人間科学部教授)