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多人数質問調査法の現在(7)―ネット調査の利点と制約―

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234 © 2020 計量国語学会 解説

多人数質問調査法の現在(

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―ネット調査の利点と制約―

林 直樹(日本大学) 田中 ゆかり(日本大学) 要旨 本稿では,近年重要性を増してきたネット調査について概説するとともに,その利点と 制約を簡単に整理する.さらに,本稿著者がこれまで実施してきた言語意識等について尋 ねた調査データを用い,面接調査とネット調査の回答傾向の違いを確認する.最後に,ネ ット調査の今後の課題について触れる. キーワード:ネット調査,質問紙調査,面接調査,社会言語学的調査,調査法の利点, 調査法の制約,Satisfice,不適回答,言語意識 1.はじめに 1990 年代後半のインターネット普及に伴い,従来の対面式面接調査・郵送調査に代わっ てインターネットを利用した通信調査(以下,ネット調査)が注目されるようになった. 黎明期は面接調査・郵送調査との比較・検討といった色合いが強かったようだが,2000 年 代に入ると市場調査領域において活用されるようになり(工藤公久・村上智章・岸田典子・ 仁瓶哲也・出口敬子,2018),個人情報保護法の施行(2005 年)やオートロックのマンシ ョンが増加したことによる飛び込み調査の困難化といった社会状況の変化に伴い,ネット 調査のニーズは増すこととなった(埴淵知哉・村中亮夫・安藤雅登,2015;埴淵知哉・村 中亮夫編,2018).現在では,公的統計においてもネット調査を活用する方針が打ち出さ れている(総務省,2014). ネット調査には,メールを自身で送信し,回答を依頼する方法,自身で作成したアンケ ートフォームをウェブ上にアップし回収する方法,調査会社に委託して回収する方法など いくつかの方法がある. 本稿では,ネット経由の質問紙調査(以下,ネット調査)に焦点を絞り,その利点と制約 について主に先行研究に基づき整理する.その上で,著者らが実施した調査会社に委託し た面接調査とネット調査による計4 種の全国方言意識調査データを対照し,ネット調査の 特性を探る.最後に,ネット調査の課題について簡単に触れる.

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235 2.インターネット利用・ネット調査の現状 2.1 インターネット利用率と回答デバイスの変化 ネット調査は,インターネットを利用することを前提としているため,インターネット 利用率が高くなればなるほど実施しやすくなると考えられる.総務省(2019)によれば, 2018 年 10 月~12 月の調査時において,インターネット利用率は個人で 79.8%である. このことは,日本国内に居住する約8 割が理論上はネット調査に参加することが可能な状 態となっていることを示す. インターネット利用デバイスの変化もネット調査設計を左右する重要な要件である. 2010 年には,モバイル端末によるインターネット利用者数がパソコンによる利用者数を 超えた(総務省,2019).そのため,現在のネット調査は,パソコンでなくモバイル端末, とくにスマートフォン(以下,スマホ)による回答行動を想定した調査設計が求められる ようになってきた. 2.2 ネット調査利用率の高まり ネット調査は2000 年代に入って利用率が増すこととなった.井田潤治(2019)によれ ば,日本における市場調査の「アドホック調査」のうちネット調査を利用するのは2003 年 に14.1%だったのに対し,2016 年は 49.7%まで上昇している.この傾向が続くとすれば, マーケティング調査の領域では,今後ネット調査は最も利用される調査手法となっていく だろう. 3.ネット調査の利点 ここでは,主に先行研究で指摘されているネット調査の利点を整理する. 3.1 価格が相対的に安い まずは費用の安さを利点として挙げることができる.調査会社や調査方法によるものの, 何らかのかたちによる対人調査と比較すると,概して安価に実施できるのがネット調査の 特徴である.数百サンプルであれば,100 万円を下回るコストで実施できることもある. 比較のため面接調査の例を挙げると,費用の目安は,「計画標本3000 人,回収率 50%, 回答者数1500 人 程度の選挙調査で最低 2000 万円程度」(前田幸男,2019)といわれて いる.さらに,「面接調査の経費が高騰し,文科省科研費でも特別推進や新学術領域,基盤 研究S など上位の費目でないと面接調査を実施することが現実的には難しくなっている」 (小林良彰,2019)という指摘もある. 3.2 大規模調査を可能にする 2 点目の利点として,回収数の多さを挙げたい.面接調査では困難な数万単位でサンプ ルを回収できることは,ネット調査の大きな魅力である. 一般的に,面接調査は回収サンプル数が多ければ多いほど莫大な労力,あるいは時間が かかることになる.一方,調査会社に委託するネット調査の場合は,調査会社の登録モニ ターの中から条件に合致するサンプルに対して実施するため,回答者の選択と依頼,配布, 回収といった調査票調査において大きな負担となる部分の時間と費用が大幅に軽減される.

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236 サンプル数を増やすことも容易で安価である.3.1 で示した計算式に基づくと,面接調査 で万単位のサンプルを収集しようとすると約1 億円になり,一般的な研究者が個人で行う 研究として事実上不可能な価格となる.このような指摘は松田謙次郎(2018)でもなされ ている.そのため,サンプルが多くなければできないような統計的な分析を行いたい場合 などは,ネット調査が優先順位の高い選択肢となってくるだろう. 3.3 データ回収までの時間が短く,データ入力過程が不要 前節で述べた大量のサンプルを回収できることに加え,調査にかかる時間が短いのもネ ット調査の利点である.ネット調査では,一般的に調査実施期間は3 日~1 週間程度であ る.この調査期間は,調査票の郵送・回答者からの郵送といったプロセスを踏む郵送調査 と比しても短い. 16,000 サンプルに対して面接調査を行った 2015 年社会階層と社会移動(SSM)調査で は,第Ⅰ期調査が1 月 31 日~3 月 22 日,最終調整が 11 月 15 日~12 月 20 日であるた め,調査に約1 年を要している(保田時男編,2018). さらに,データは回答と同時に自動的・電子的に蓄積されるため,データ入力の過程が 不要である.調査の実施が1 週間,その前後 1 週を事前・事後の確認期間と想定しても, 調査票確定から3 週間程度で調査データが納品されることになる. 3.4 集団を絞り込んだ調査がしやすい ネット調査は,各社の登録モニターに対して実施される.このモニターは,属性情報と 紐付いており,事前にどのようなサンプルに調査票を送付するか限定したい場合などは, かなりの程度まで属性を絞り込んだ指定をすることができる. これは,居住地域・性別・年代・職業など,社会言語学的研究においては基本の属性分 析をするためのデータを入手しやすくなったということを意味する.3.2.で述べたように, ネット調査は多くのサンプルを収集することができるため,これらの属性を複数掛け合わ せても,統計的分析に耐えうるサンプル数を確保することが比較的容易となった. 3.5 調査設計の工夫で回避できる問題がある 三浦麻子・小林哲郎(2016)では,「回答必須条件付与による欠損値の排除・尺度項目の 提示順序のランダマイズによる順序効果の相殺・回答に応じた後続質問項目の分岐・画像 /音声を利用した刺激の活用」といった点をネット調査の利点として挙げている.尾崎幸謙・ 鈴木貴士(2019)においても,「無回答を許容しない」という制約を課すことができること をネット調査の利点とする. 設計や設問の工夫によって,欠損値や後続質問の分岐に際しての判断ミスに起因する無 効回答の回避や,提示順のランダマイズによる順序効果の相殺,多様な刺激提示が可能で あるところなどは,ネット調査の利点といえる. 4.ネット調査の制約 一方で,ネット調査には注意すべき制約も存在する.主として先行研究に基づきネット 調査の制約を整理する.

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237 4.1 「カバレッジ誤差」と「調査慣れしたサンプル」 この問題は,2.2 で述べた現状や,3.4 で述べた利点の裏返しともいえる. ネット調査を委託する場合,委託先の業者の登録モニターに回答を依頼することになる. モニターは任意の登録制であるため,回答者には一定の偏り(最低でもインターネット環 境にあり,調査会社に自らモニター登録をするという偏り)があるということになる.さ らに,2.2 で述べたように,インターネット利用者が全国でも 80%程度であること(総務 省,2019)を踏まえると,インターネットを利用していない 20%程度の人物には調査がで きない.また,モニターに対する調査となるため,そもそもランダムサンプリング調査は 不可能である.つまり,ネット調査には,モニターという枠の母集団と目標母集団とのず れによる「カバレッジ誤差」が生ずる(埴淵知哉・村中亮夫・安藤雅登,2015)ことは避 けられないという点に注意が必要である. 佐藤博樹(2009)によれば,モニターには次のような特性がある. ①学歴が高い,②未婚率が高い,③自営業(雇人なし)が多い,④専門・技術的職業 が多い(女性は事務職も多い),⑤労働時間は男性が短く女性が長い,⑥給与は男性が 低めで女性が高い,⑦転職経験率が高く転職回数も多い さらに,埴淵知哉・村中亮夫・安藤雅登(2015)によれば,日本リサーチセンターに登 録されているモニターは,年齢にかかわらず都市部居住者が多いことが指摘されている. 登録者に都市部居住者が多いという指摘は,大隅昇・前田忠彦(2008)にもある. 社会的属性の偏りだけではない制約もネット調査には存在する.山田一成・江利川滋 (2014)において,Web 調査で「この 1 ヶ月間に何件くらいインターネットの調査に参加 しましたか.」という質問をしたところ,回答者の7 割が平均して 1 日に 1 件以上,1/3 が 平均して1 日に 2 件以上参加している結果が示されている.従来の面接調査にこれほど頻 繁に参加することは希だと考えられるため,ネット調査の多くは調査慣れをしている回答 者に対して行ったものにならざるを得ないのも,制約の一つといえる. 4.2 回収率の低さ 調査会社や調査内容にもよるものの,回収率は概して低い.とりわけ長大で複雑な調査 は中断率が高くなるため,短く簡易な内容の方がネット調査に向いているといえる.この 問題を解決するために調査を分割して行うこともあり得るものの,分割調査を行った場合, 別々に実施した結果や解釈をひとまとまりの調査として分析・解釈することが適切かどう かという新しい問題も生じてくる. 一方,ネット調査ではモニターに対して調査の諾否を確認する2 段階調査のような方法 を用いて,回答者を事前に選別し回答率を上げる工夫もできる.簡潔な事前調査を行うだ けで,実施する調査に不適なサンプルを事前に除いておくことも可能となる1 1 たとえば,ネット調査によりアクセントの自然さを尋ねた林直樹(2019)では,スクリーニング 調査として,モニターに調査趣旨や協力依頼を提示した.首都圏生育者を対象として,36,628 人

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238 4.3 制御の困難さ:「中断」と「回答時間」 回答者の側に立つと,調査者と対峙する面接調査は時間拘束力が強いのに対して,ネッ ト調査は原則的にいつでもどこでも調査協力ができる利点がある.しかし,この裏返しと してネット調査は常に中断の可能性がある. 場合によっては,簡潔な調査であるにもかかわらず,調査協力者が複数日に渡って回答 することもある.回答者にもさまざまな事情があり,このような事態が生じるのも仕方の ないことであるのだが,中断履歴のあるデータが中断履歴のないデータと同列に扱えるか どうかも,検討を要する問題となるだろう.山田一成(2019)では,公募型 Web 調査に おいて「少なくとも4 割超が何らかの理由で一時的に回答を中断している」ことを指摘し ている. なお,先行研究によれば,マトリクス形式で回答を求める設問により中断率が上昇する (工藤公久・村上智章・岸田典子・仁瓶哲也・出口敬子,2018)可能性が指摘されている. 個々人の事情は仕方ないものとして,調査設計の時点で中断率を下げられるようであれば, そのような工夫は十二分にしておくべきだろう.また, 設問画面がスマホ対応していない ことにより複数回答選択可の設問における選択数が少なくなる(仁瓶哲也,2015)という 指摘もあり,回答者の利用デバイスを想定した画面設計時の配慮も不可欠といえるだろう. 4.4 回収データにおける「Satisfice」と「回答傾向の偏り」 入力過程不要の電子データを入手したとしても,そのまま分析に移行することは難しい. ネット調査における回収データには,不適回答が少なからず含まれるという制約があるた めである.ネット調査における不適回答の多くは,Satisfice(目的を達成するために必要 最小限を満たす手順を決定し,追求する行動)によるものであるといわれている.不適回 答の問題はネット調査に留まらない(荻野綱男,2018)2ものの,ネット調査においては より深刻な問題である.

ネ ッ ト 調 査 に お け る Satisfice を抽出する主な方法には,IMC (Instructional Manipulation Check)と,DQS (Directed Question Scale)がある(三浦麻子・小林哲郎, 2018).

IMC とは,設問(調査文)に「ここからが本題です.提示文を読んだことの証明として, “その他”を選び自由回答欄に『読んだ』と入力してください」といった文言を入れるこ とにより一般的な回答方法とは異なる方法を指定し,回答者が精読しているかどうか確認 するものである.この方法により回答行動を分析した Oppenheimer, Meyvis, & Davidenko (2009)では,複数調査を比較した結果,設問で指定したものとは異なる回答行 動をする「違反群」が14%~46%程度含まれることを指摘している.さらに,同様の枠組 みで日本国内におけるネット調査を実施・検討した三浦麻子・小林哲郎(2015)では,ス クリーニング調査における教示文読み飛ばしによる「違反群」の割合が,調査会社によっ に対しスクリーニング調査を実施した上で,1,349 人に対し調査依頼を行い,結果的に 896 人から 協力を得た.ただし,このようにスクリーニング調査を行っても,不適回答は896 人中 112 人12.5%)みられた. 2 荻野綱男(2018)によれば,紙の調査票を用いた調査における不適回答は全回答の 7.7%.

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239 ては80%を超えたことも報告されている. DQS とは,「この項目では『ほとんどあてはまらない』をお選びください」といったか たちで,尺度項目の中に確認事項を織り込む方法である.三浦麻子・小林哲郎(2015)で は本調査においてこの方法による確認が行われ,「違反群」において20%程度の Satisfice が生じることを明らかにしている. この二つの方法を組み合わせて調査を行った三浦麻子・小林哲郎(2018)では,IMC 違 反率が6.9%~36.0%,DQS 違反率が 2.6%~13.7%であった.さらに,モニター調査とク ラウド調査3を比較すると,モニター調査は回答に違反率が高く,男性・若年という属性に 違反率が高いことが指摘されている4 この他にも,項目間の事実関係から矛盾回答を抽出する方法(尾崎幸謙・鈴木貴士,2019) が提案されている. また,以上のような問題に加え,ネット調査による回答は,「意見設問では,郵送ランダ ム調査に比べてWEB モニター調査の回答者は「批判的」な傾向の回答が多」い(佐藤博 樹,2009)という指摘もある. 5.ネット調査を利用した言語調査 従来ネットを利用した言語研究としては,WWW コーパスを用いたものが多く,本稿で 解説するネットを通じた質問紙調査を用いた調査研究事例は,それほど多くない. そのような中において,早い段階からネット調査を取り入れた言語研究として,塩田雄 大(2005;2006)がある.これは,「公開型ウェブ世論調査」として質問内容をネット上 に掲げ,そこにアクセスした人から協力を得るというものである. 調査会社に委託した大規模な言語調査事例としては,全国1 万人以上を対象に方言と共 通語についての意識を尋ねた2015 年全国方言 Web 意識調査(田中ゆかり・林直樹・前田 忠彦・相澤正夫,2016),ならびに 2016 年全国方言意識 Web 調査(田中ゆかり,2018) がある.これらは,調査会社に委託した面接調査による2010 年全国方言意識調査(田中 ゆかり,2011)と 2015 年全国方言意識調査(田中ゆかり,2016)のネット調査版として 企画されたものである.いずれも方言と共通語についての好悪や使い分け意識等を尋ねて いる.これら4 種の調査では,ほぼ同じ項目を用いているため,面接調査とネット調査と いう調査方法による回答傾向の違いを検討することが可能である55.1 でその比較を通じ た調査方法による相違について言及する. 5.1 4 種の「全国方言意識調査」における面接調査とネット調査の比較 3 クラウドとは,「『クラウドコンピューティング(Cloud Computing)』を略した呼び方で、デー タやアプリケーション等のコンピューター資源をネットワーク経由で利用する仕組みのこと」(総 務省,2018)とされている.クラウド調査は,受注者である回答者をクラウド経由で探す調査とい える.心理学研究においては,大学生を対象とした調査と同程度の信頼性があると指摘されている (白木優馬・五十嵐祐,2015). 4 林直樹(2019)で実施した調査においても,同様の傾向がみられた. 5 調査間においては,ワーディングや選択肢,項目の加除など多少の違いを含む.詳細はそれぞれ 著者らによる本文中の引用文献に記した.

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240 以下では,5 で触れた 4 種の全国方言意識調査における 2 種の面接調査と 2 種のネット 調査の結果を示し,そこから読み取れるネット調査特性の記述を試みる. 調査概要は,表1 のとおりである. 表1:全国方言意識調査 調査概要 調査名 調査方法 サンプル 抽出方法 調査人数 回収率 2010 年 調査 面接調査 (他項目とのオムニバス調査) 層化三段 無作為抽出法 1,347 32.1 2015 年 調査 面接調査 (他項目とのオムニバス調査) 層化三段 無作為抽出法 1,201 30.3 2015 年 Web 調査 Web 質問調査 モニターから抽出事前登録された 10,689 28.4 2016 年 Web 調査 Web 質問調査 事前登録された モニターから抽出 20,000 13.8 表1 から,Web 調査は面接調査に比べると回収率が低いことがわかる.とくに,2016 年Web 調査は 2010 年調査・2015 年調査・2015 年 Web 調査と比較しても回収率が低い といえる.これは,調査委託会社が2015 年 Web 調査と異なることに起因する可能性もあ る. 以下では,全国方言意識調査で一貫して調査項目とした,「出身地方言が好きか嫌いか (出身地方言好悪)」・「家族に対してどの程度出身地方言を使用するか(対家族方言使用)」・ 「同じ出身地の友人に対してどの程度出身地方言を使用するか(対同郷友人方言使用)」・ 「違う出身地の友人に対してどの程度出身地方言を使用するか(対異郷友人方言使用)」・ 「共通語が好きか嫌いか(共通語好悪)」・「方言と共通語をどの程度使い分けているか(方言 と共通語の使い分け意識)」の六つの項目について,調査ごとの結果を対照する. 調査ごとの違いを把握するため,当該のクロス表に対してχ二乗検定を行った.χ二乗 検定の結果,有意差が認められたクロス表には残差分析も行い,どのセルが特徴的な値を 示しているのか併せて確認する.クロス表では,調整済み残差値が+2 以上の値を示したセ ルを四角で囲み( ),本文で当該セルの回答が他のセルに比較して「多い」と言及す る.なお,表2~7 中には当該セルの百分比の数値のみ示す. まず,出身地方言の好悪の結果を表2 に示す. 2:出身地方言好悪 調査名 好き どちらでもない 嫌い わからない 2010 年調査(n = 1,347) 64.6 32.8 2.5 0.0 2015 年調査(n = 1,201) 63.7 27.5 4.2 4.7 2015 年 Web 調査(n = 10,689) 45.7 38.3 8.9 7.1 2016 年 Web 調査(n = 20,000) 44.8 40.2 8.3 6.7 χ2 = 437.67, df = 9, p < 0.01 表2 から,面接調査は「好き」が多く,Web 調査は「好き」以外のいずれかが多い.

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241 次に,家族に対してどの程度出身地方言を使用するか質問した項目の結果を,表3 とし て示す. 表3:対家族方言使用 調査名 使う 使うことがある 使わない わからない 2010年調査(n = 1,347) 42.5 22.1 32.8 2.5 2015年調査(n = 1,201) 47.5 21.4 28.5 2.7 2015年Web 調査(n = 10,689) 34.2 29.0 30.0 6.8 2016年Web 調査(n = 20,000) 32.1 29.1 28.7 10.1 χ2= 394.21, df = 9, p < 0.01 表3 から,面接調査は「使う」が多く,Web 調査は「使う」以外のいずれかが多い.た だし,「使わない」は2010 年調査・2015 年 Web 調査の双方に多い. 続いて,同じ出身地に生育した友人に対してどの程度出身地方言を使用するか質問した 項目の結果を,表4 に示す. 4:対同郷友人方言使用 調査名 使う 使うことがある 使わない わからない 2010 年調査(n = 1,347) 44.8 22.6 28.8 3.7 2015 年調査(n = 1,201) 50.4 21.9 25.0 2.7 2015 年 Web 調査(n = 10,689) 32.9 32.3 26.2 8.6 2016 年 Web 調査(n = 20,000) 30.5 33.3 24.4 11.8 χ2 = 524.16, df = 9, p < 0.01 表4 から,面接調査は「使う」が多く,Web 調査は「使う」以外のいずれかが多い.表 3 と同様,「使わない」は 2010 年調査・2015 年 Web 調査の双方に多い. 異なる出身地に生育した友人に対してどの程度出身地方言を使用するか質問した項目の 結果を,表5 に示す. 5:対異郷友人方言使用 調査名 使う 使うことがある 使わない わからない 2010年調査(n = 1,347) 26.7 23.1 45.1 5.1 2015年調査(n = 1,201) 24.9 25.4 46.3 3.4 2015年Web 調査(n = 10,689) 12.2 27.2 48.5 12.1 2016年Web 調査(n = 20,000) 11.7 26.0 45.4 16.9 χ2 = 706.11, df = 9, p < 0.01 表5 から面接調査は「使う」が多く,Web 調査は「使う」以外のいずれかが多い. 共通語は好きか嫌いか質問した項目の結果を,表6 に示す.

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242 表6:共通語好悪 調査名 好き どちらでもない 嫌い わからない 2010年調査(n = 1,347) 53.7 41.4 2.9 2.0 2015年調査(n = 1,201) 56.5 39.1 3.2 1.2 2015年Web 調査(n = 10,689) 36.8 51.1 4.9 7.2 2016年Web 調査(n = 20,000) 34.8 55.0 4.6 5.6 χ2 = 472.39, df = 9, p < 0.01 6 から,面接調査は「好き」が多く,Web 調査は「どちらでもない」または「わから ない」が多い. 最後に,方言と共通語をどの程度使い分けているのか質問した項目の結果を,表7 に示 す. 表7:方言と共通語の使い分け意識 調査名 使い分け ている どちらとも いえない 使い分けて いない わからない 2010年調査(n = 1,347) 37.8 54.9 7.3 2015年調査(n = 1,201) 46.2 10.5 41.1 2.1 2015年Web 調査(n = 10,689) 40.3 ― 43.6 16.1 2016年Web 調査(n = 20,000) 40.2 20.9 31.4 7.6 表7 は選択肢が調査間でまちまちなため,χ二乗検定が行えなかったが,2015 年 Web 調査に「わからない」が,2016 年 Web 調査に「どちらともいえない」が多いようである. 調査を実施した時期の違いを捨象して以上の結果を総合すると,面接調査は好悪につい ての質問において「好き」,使用程度についての質問においては「使用」が多いようだ.一 方,Web 調査は好悪についての質問においては「どちらでもない」,使用程度についての 質問においては「使う」以外のいずれかの回答をすることが多いようだ.ネット調査では, 意識設問に対する批判的な回答があるとする佐藤博樹(2009)との関連が想像される. また,質問にかかわらずネット調査に「わからない」が多く認められた.ただし,これ は面接調査では「わからない」という選択肢を明示的に設けなかったことによると推測さ れる.調査員による面接調査のため,選択肢としては示さず,どうしても回答が得られな かった場合のみ「わからない」と調査員が記入したのに対し,Web 調査では「わからない」 を調査画面に最初から選択肢として明示した. 一方,それ以外の質問において,2016 年 Web 調査では中間選択肢の「どちらでもない」 が多い理由については,調査方法や調査対象,あるいは委託調査会社や調査実施年,回収 率が低いためなのか,よくわからない6 6 増田真也・坂上貴之・北岡和代・佐々木恵(2016)は,DQS 型の設問に違反する群に中間カテ ゴリを選ぶ傾向があることを指摘しており,この傾向は回答者の「関心がない」「答えたくない」 といった非回答の現れである可能性を考察している.ただし,増田真也・坂上貴之・北岡和代・

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243 以上,近接する時期に実施した面接調査とネット調査を用いた4 種の全国方言意識調査 共通する項目の回答を比較してきた.その結果,面接調査とネット調査の回答傾向の違い は少なからず認められ,その差異の背景は先行研究で指摘される傾向にかなりの程度従う 結果であった.つまり,ここで示した面接調査とネット調査による回答傾向の異なりは, われわれの調査固有の問題ではないと思われる. 6.ネット調査の制約を緩和する方法 ネット調査の利点と制約を先行研究から確認した上で,言語調査事例として著者による 言語意識調査の面接調査とネット調査の結果を対照した.ここでは,ネット調査の制約を 緩和する方法について先行研究と著者の経験を踏まえ述べたい. まず,モニターの代表性についての制約を緩和する方法として,多重クォータ法(割り 付け)によるネット調査の実施が有効だろうと考える.3.4 で述べた登録モニターのさま ざまな属性を指定した調査を行うという考え方である.小林良彰(2019)では,性別・年 齢・都市規模・職業による割り当て(クォータ)を実施すれば,面接調査による調査結果 と相違がほぼ生じないことを指摘している.ネット調査は「全数として××サンプル」と いった漠然としたかたちで委託すると,ネット利用率が高い若年層や都市部の人物の回答 が意図せず多くなってしまい,そのため回収データもモニターの偏りに即した偏りが生じ る可能性が高い.割り当てによって,この偏りを緩和することができる.5.1 で示した 2015 年と2016 年の全国方言 Web 意識調査は,回答傾向を地域・年代・性で分析をすることを 前提としたため,地域(12 ブロック)・年代(10 代刻み)・性別(男女)を調査直近の国勢 調査の結果を用いて割り付けた上で,調査を委託した7 2 点目は,調査設計による Satisfice の回避と事後における不適回答の抽出によって,こ れらの制約を緩和することである.三浦麻子・小林哲郎(2015)によれば,あらかじめス クリーニング調査によって Satisfice 傾向にある回答者を抽出できる設問を投入しておく と,Satisfice の含まれにくいデータを得やすくなるとする.その方法としては,複雑で長 い予想を裏切るような教示文の指示に従うか否かという「強め」の設問から,特定選択肢 への過度の集中や相互矛盾する回答が生じていないかといった Satisfice チェック項目を 投入するといった工夫が提案されている.実施する調査の目的と質問タイプなどにふさわ しいSatisfice チェック項目を投入することによって,より適切なデータを入手することが 可能になるだろう. それでも生ずる不適回答については,事後のデータクリーニングを丁寧に行うことによ ってその影響を緩和することが可能だろう.不適回答の抽出策としては,回答時間が記録 されるというネット調査の利点を生かし,極端に短いあるいは極端に長い回答時間の回答 者を除去することが可能である.Web 調査の教示違反に対する対応を検討した稲垣佑典・ 前田忠彦(2016)では,教示違反率とページ遷移時間に負の有意な関係がある,すなわち ページ遷移時間が早いほど説明文を読み飛ばしていることを指摘している.また,特定選 佐々木恵(2016)でも指摘されているとおり,本当に中間項目を選んだのか,非回答で選んだのか の峻別は難しい. 7 とはいえ,各ブロック内の都市規模についてまでは指定できなかったので,各ブロック内の都市 部に居住する回答者が多いということは否定ではない.

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244 択肢に過度に集中する回答者を除去することも有効だろう.しかし一方で,どこまでがデ ータのクリーニングといえるのか,行き過ぎると都合のよいデータだけを残す(データの 改ざん)ということにつながらないか,という懸念も生ずる.同時に,不適回答をデータ から除くことにより「選択バイアス」が生じ,想定母集団からの乖離を生む可能性がある ことが尾崎幸謙・鈴木貴士(2019)において指摘されている. 3 点目は,中断率を下げるために回答のしやすさを工夫する,という提案である.4.3 で 述べたように,中断率を下げるためには,その調査自体に何らかの楽しみを見出してもら うことが一つの手のようだ.近年盛んに言及されているゲーミフィケーションや,イラス トや動画,音声などの多様な刺激を調査に取り入れるといったことなどが考えられる.中 断率とは別の問題だが,調査回答率を上げる研究者側の努力も必要である.ネット調査に 限らず,回答率は当該調査への「理解度」によって左右することが指摘されている(埴淵 知哉・山内昌和,2019).調査趣旨やテーマなどの理解度を高めるには,調査に協力しても らうための調査者側からの情報発信,ならびにその後の結果報告を,モニターを含む一般 の目の届くところにまで広くわかりやすいかたちで発信することが重要になるだろう. ネット調査の制約緩和策の4 点目としては,調査方法を組み合わせたカクテル調査を提 案したい.目新しい提案ではないが,複数の調査方法を組み合わせることによって,調査 方法の利点と制約を相互補完するという考え方である.一般に,調査は一度行えばそれで 良いというものではないため,他の方法による比較・対照を行うことは結果の信頼性を高 める上で重要になるだろう.国勢調査で調査を行うことができなかった「不詳」群をイン ターネット調査により分析した研究(埴淵知哉・山内昌和,2019)で指摘されているよう に,面接調査では協力を得られなかった群においても,ネット調査では協力するサンプル が存在したという報告は,言語調査にも適用可能だろう.これまでも,社会的活躍層に対 して面接調査を行うに際して,多くの場合調査実施日時に在宅しておらず,調査できない 問題があった.このように,特定の属性に対しては,ネット調査を活用することが効果的 かも知れない8 7.終わりに インターネットの利用状況は社会状況の変動によって容易に変わりうるため,本稿で述 べたようなネット調査とそれを取り巻く環境がいつまで続くのかはわからない.また,近 年は各調査会社のモニター登録者の減少も指摘されている(宮下公一,2017). では,ネット調査は制約が少なからずある上に先行きもあまり明るくないようだから, 手をつけない方がよい調査方法なのだろうか.悲観的に見ればそうかも知れない.しかし, 繰り返し述べてきたように,ネット調査はさまざまな制約をもつ反面,それを補う利点も 多い.あまり悲観的にならずに,調査事例を積み上げていきながら検証していくのが現実 的選択だろうと著者は考える. 新しい事象や広く多人数に確認したいことについては,ネット調査は向いている.その 点においてネット調査は,簡易なWWW 検索で当たりをつけてから,本格的な調査を設 8 一方で,異なる調査方法で得たデータを同列に分析・解釈することは難しいという別の問題も生 ずる.

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245 計・実施するのに似ているところがあるかも知れない.自身の調査目的やテーマがネット 調査に向いているのかどうか,ネット調査の制約を補完するためにはどのような方法があ るのか等々,日々更新されるネット調査の環境や制約の緩和方法などに注意を払いながら, 調査方法の利点と制約を踏まえた調査設計を行うという調査法選択の基本に忠実でさえあ れば,制約にからめとられずにネット調査を言語調査にも活用していくことができるので はないだろうか. 付記 本稿は,大学共同利用機関法人統計数理研究所共同研究課題一般研究2「調査方法の異 なる大規模言語意識調査データの比較分析」(2017 年度),同「異なる手法を用いた話者類 型の抽出とその比較・分析」(2018年度),JSPS科研費基盤研究(C)15K02577,同18K00623, 基盤研究(B)18H00673,若手研究 19K13203 の成果の一環である. 文献

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248

Tutorial

Recent Methods of the Questionnaire Research with the Large Sample

Size (7):

The Benefits and Limitations of Online Research

HAYASHI Naoki (Nihon University) TANAKA Yukari (Nihon University)

Abstract:

This paper will present an overview of online research, which has gained in significance in recent years, as well as a brief summary of its benefits and limitations. Furthermore, using the data from a questionnaire about language awareness conducted by the authors, this paper will confirm the difference in response tendencies between interview research and online research. Lastly, this paper will discuss future issues of online research.

Keywords: Online Research, Questionnaire Survey, Interview Research, Sociolinguistic Research, Benefits of Research Method, Limitations of Research Method, Satisfice, Inappropriate response behavior, Language Awareness

参照

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