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農林水産分野における多様な知的財産の役割と課題

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Academic year: 2021

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農林水産分野における多様な知的財産の役割と課題

尾㟢道

* (*農林水産省 , 千代田区 , 〒100–8950)

Roles and Challenges of Various Intellectual Property in the Field of Agriculture,

Forestry and Fisheries

Do OZAKI*

(*Ministry of Agriculture,Forestry and Fisheries,Chiyoda-ku,100–8950,Japan)

キーワード:知的財産権,種苗登録制度,地理的表示保護制度

Key Words:Intellectual property right, Seedling registration system, Geographic indication protection system 北陸作物学会報(The Hokuriku Crop Science)55:43 ~ 44(2020)

 農林水産分野における知的財産は多岐にわたる.農林水産省において知的財産権として制度を所管し,制度を 運用している種苗登録制度,地理的表示保護制度は重要であるが,これらはほんの一部に過ぎない.今回は,農 林水産分野における様々な知的財産について,(在来品種,優良な新品種に加え,栽培のノウハウや地域の風土 に育まれた特徴ある産物など,)多岐にわたる農水知財が抱える課題について,事例を上げながら解説する. 第1図 種苗法で保護対象となる新品種. 1.知的財産保護の重要性と種苗登録制度の課題  農林水産省は,農林水産物・食品の輸出拡大を推進して いる.その過程で,我が国の優れた食文化,それを支える 農林水産物が海外市場においても認知度を高め,市場での 評価を得ていくことは,それ自体大変望ましいことである. 他方,日本産農林水産物が海外でブランド化していくこと は,海外において模倣品が広がってしまう素地が拡大して いることに他ならない.これまで,国内で産地間競争をし ている限りにおいては起こりえなかったような模倣品が, 海外市場においては問題になり得る.ブランドだけでなく, 栽培ノウハウなどについても,海外市場への展開を図る中 で,これまでと違ったレベルでの戦略性,戦術性が求めら れてきている.  種苗登録制度は,種苗の育成者に育成者権を与えること を通じ,育成者が新品種の育成コストを回収することを可 能にし,次世代の優良な新品種育成のリソースとインセン ティブを確保することを通じて,農業の発展を目指す知的 財産権の制度である(第 1 図).

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- 44 -  育成者権に関する国際条約である UPOV 条約の下,諸 外国においても同様の種苗の育成者権の保護制度が整備さ れているが,近年,我が国で育成された優良な品種が海外 に持ち出され,無断で栽培される事態が生じ,問題となっ ている.  知的財産権は,無体物を国家が財産権を認めるものであ ることから,一般的に属地主義である.つまり,ある国(例 えば日本)において知的財産権として認められているから といって,ほかの国でその知的財産権を権利として主張す ることはできない.したがって,我が国で育成された優良 な新品種を海外への流出から守ろうとすれば,国内で品種 登録するだけでは足らず,主要な海外においても品種登録 を進め,権利化しておく必要があることになる.また,知 的財産権を行使し,権利を守るのは権利者自らの仕事であ ることから,海外においてどうやって権利の侵害を把握し, 権利を行使していくかが課題となる.  また,育成者権の保護の在り方については,こういった 海外への流出対策を含め,育成者が新品種の育成にリソー スを投入するインセンティブを確保することが種苗制度の 基本であるとの認識に立ち返り,将来にわたって優良な植 物新品種を我が国の農業者に持続的に供給していけるよ う,現在農林水産省で検討会を開催し,課題の整理を進め ているところである. 2.地理的表示保護制度  わが国には,地域固有の風土や食文化に根差した特色の あ る 食 品 が 数 多 く 存 在 し て い る. 地 理 的 表 示 制 度 (Geographical Indication = GI)は,そういった地域の産 品の名称を模倣から守るための知的財産制度である(第 2 図).  植物の新品種のように誰かが新しく開発したものではな いことから,地理的表示に係る知的財産は,誰か特定の者 に帰属する性質のものではない.一種の地域の共有財産と して守っていくものといえる.わが国の地理的表示の保護 制度を構築するにあたり,地域の生産者により構成される 「生産者団体」により,登録された工程を順守して生産さ れたものであることが担保されるよう,管理される制度と なっている.この地理的表示制度の下で,地域の在来種を 使った産品もいくつか登録を受け,その名称が登録要件を 満たさないものにより使用されるのを防いでいる. 3.農業分野における新たな知的財産権と今後の課題  これらの知的財産権としての制度の対象になっていない 知的財産も農林水産分野には多く存在し,地域の農業の「強 み」を支えている.例えば熟練の農業者のノウハウといっ たものであるが,農業においては,そういったノウハウを 地域で共有し,発展させてきたという特徴がある.近時に おいて,発展の目覚ましい IT 技術の活用により,そういっ たノウハウが共有可能になることにより,また流出の危険 も増大しているといえる.こういったノウハウについては, 外に流出しないようにどう管理するかが課題となる.元来, こういったノウハウについては,現場に知的財産としての 意識が薄く,守る必要性が認識されてきていなかった.今 後,スマート農業の時代の到来が予想されている中で,農 業における知的財産への意識を現場レベルで育てていくこ とが非常に重要である.      (2019 年 9 月 6 日受付,2019 年 9 月 6 日受理) 第2図 地理的表示とは.

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