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マーケティングにおける環境要因の実証分析

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日本経営診断学会論集20, 25–31 (2020) 統一論題

マーケティングにおける環境要因の実証分析

Empirical Analysis of Environmental Factors in Marketing

有馬賢治*

立教大学

Kenji Arima*

Rikkyo University, Tokyo

*[email protected] 抄録:本論では,マーケティング領域で影響が想定される環境要因を先行研究から整理し,Web調査によりマーケティング管 理者が意識する環境要因の実態把握を試みた。調査では,日本の B to C企業からの回答を集約し,その傾向を分析した。分析 にあたり,企業の業種と規模による環境要因の重要度の差異の存在を仮説として設定した。仮説の検証作業により,企業のマー ケティング管理者が意識する環境要因には,業種,規模ともに多くの要因で有意な差が認められた。さらに,日本企業でマーケ ティング管理者の意識がどのような環境要因を重視しているのかを企業の属性別に分析した。分析結果を踏まえ,環境要因から の経営診断に対する示唆を提示した。 Key Words:環境要因,環世界,B to C企業,業種,規模 1. 緒言 企業活動では,自社の状況を俯瞰的に把握するために 環境分析を実施する。国際情勢,経済状況,競合企業, 取引関係,立地特性,主要顧客などの環境要因を分析し て特定することにより,企業の戦略は方針が明確化され る。その意味では,環境分析は戦略策定に先立つ経営診 断の要因であると捉えることができる。 ここでわれわれが使用する「環境」という言葉は,日 常生活でも頻出するものであり特殊な用語ではない。し かしながら,日常的な用語であるために,当該分野にお ける「環境」概念に備わる意味を厳密に吟味する議論は 必ずしも多くはない。そこで本論では,辞書などで示さ れる「環境」の字義的意味を踏まえつつ注 1),経営学お よびマーケティング領域で想定している企業の環境理解 を整理し,それらの要因の企業での受け止め方の実態を 調査する。そのうえで,企業が重視する環境要因の優先 順位を確認し,経営診断に対する若干の示唆を提示して みたい。 2. 環境概念の確認と整理 「環境」とは,辞書にみられる字義的意味を踏まえて 端的に捉えるのであれば,人間や生物などの主体を外的 に取り囲むものを意味する言葉である。ここでの取り囲 むものには複数の要因が想定できるが,一般的用語とし て使用される際には「自然環境・地球環境」を意味して いる場合が多い。こうした特徴を踏まえたうえで,社会 科学分野などでの語句の使用方法を確認してみたい。 2.1 隣接科学にみる「環境」概念の使用方法 国立研究開発法人科学技術振興機構で示される研究分 野一覧の細目のなかで「環境」という用語が含まれる分 野は161ある。そのなかで社会科学の近接領域で「環境」 という用語を使用した分野は,経済政策の環境経済学, 会計学の環境会計,サービス情報学の社会・環境サービ スなどであり,これらの分野で使用される「環境」は「自 然環境・地球環境」を想定している場合が多い。また, 「環境学」などの総合的な領域を取り扱う場合でも,同 様の使用方法である。 一方,「環境」にそれ以外の意味を持たせている分野 は,研究分野一覧の細目内では人文社会情報学の「メ ディア環境」や子ども学の「文化環境」などである。 以上のように,「環境」という用語が修飾語を伴わず に使用される場合は,概して「自然環境・地球環境」を 想定していることを指摘できる。 2.2 経営学・マーケティング研究での「環境要因」 隣接科学と比較した場合,経営学やマーケティング研 究での「環境」の使用法は,「市場環境」のような修飾 語を伴わない表記においても総じて「自然環境・地球環 境」以外の要因をも想定した幅広い解釈がなされてい る。先行研究よりその点を整理してみたい。 経営学領域の研究成果でマーケティング研究と比較的 共通項が見いだせる代表的な研究には,利害者集団との 相互関係に注目した山城[1]による 「対境理論」, 業界の競 争要因に注目したPoter[2]による「ファイブ・フォース・ モデル」,伝統的なシステムズ・アプローチの立場から 環境を整理した Kast and Rosenzweig[3],Johnson and Scholes[4]によるPEST分析などがある。また,近年の研 究では,Babatunde and Adebisi[5],Klovien[6],Foss 受付日:2020年3月28日

受理日:2020年8月9日 公開日:2021年6月8日

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マーケティング研究注2)での代表的な説明には,1950 年代以降に提示されたHoward[9],McCarthy[10]らに端 を発する使用可能手段と環境要因との関係性の整理や, Kotler[11]による「ブロード環境」と「タスク環境」の 分類などがある。 これらの研究では,「環境」という用語に複数の環境 要因が存在していることを前提としたうえで議論がなさ れ,要因別に企業に与える影響を分析する場合が多い。 当該分野での特徴は,「環境」とは企業に対して影響 を与える多数の外的要因の集合体であり,個々の環境要 因を企業側からは管理不可能な要因とみなしている点で ある。その際に,「自然環境・地球環境」は,他のビジ ネスに影響を与える要因と並列した一要因であり,これ に対応することを主体の活動における中心的課題として いない点が隣接科学とは大きく異なっている。 2.3 「環境」概念の特徴と当該分野での留意点 ここまでのレビューを踏まえ,当該分野での環境概念 の特徴を整理したい。経営学,マーケティング領域での 「環境」は,主として企業などの主体を取り囲む複数の 要因から構成される概念であり,企業に対して外部から 影響を与える管理不可能な存在として認識されている。 また,当該分野で「環境」が分析される場合は,主体 の属性の違いが強く意識される点が他の隣接科学と異な る特徴としてあげることができる。企業は,業種や規模 を基準としてさまざまな分類が可能である。そのため, 環境分析では,企業の属性によって重視する環境要因, また要因から与えられる影響の度合いが異なると先行研 究で捉えられている。したがって,当該分野での分析で は,企業属性の差異を踏まえたうえで特定した環境要因 を分析する必要性があることを指摘できる。 企業属性を踏まえた環境要因の分析を進めるうえでの 理論的根拠を支える考え方として,生物学的観点から環 境を分析したUexküll[12]による 「環世界 (Umwelt)」 の 概念が参考になる。 Uexküllによれば「環世界」とは,生物が各々保有す る種特有の感覚器によって知覚される世界と説明される。 生物は,知覚経験により外界の刺激に対し適切な反応を 行う。その際に,生物は自身を取り囲む無限の情報のな かから,自身の生存に必要な特定の情報のみを選択的に 感受する。そして,生物は,自身が知覚可能な世界の特 定の部分のみで生息しているとUexküllは説明する。 生物は,同じ対象を認識しても,種が異なる場合には, 感覚器の違いにより知覚される情報が異なる。そのため, 客観的・物理的に存在している環境要因が同じ世界で あったとしても,それぞれの種によって知覚する要因と 生息する世界が異なることをUexküllは「環世界」とい う概念で説明している。 Uexkülの考え方を参考にするのであれば,当該分野 の発想に類似したものであると考えられる。企業は,自 社を取り巻く環境から要因を無限に抽出できる可能性が あるが,実際には各企業の必要に応じて環境要因を選択 し,特定化していると考えられる。 Uexküllの「環世界」の解釈に従えば,当該領域で「環 境」と表される用語は,企業などの主体を取り囲み,目 的を達成するために行う活動に影響を与える複数の要因 から構成され,企業に備わる属性によって意識される要 因が異なるものであると説明できる。こうした当該分野 での環境に対する理解を念頭に置いたうえで,本論では 調査仮説を設定し,企業の属性により意識される要因が 異なるか否かを確認する。そのうえで,企業の属性別に みた場合にどのような環境要因が重視されているのかの 実態を分析する。 3. 仮説の設定 3.1 主体分類の必要性 ここで本論での作業仮説を設定したい。マーケティン グ活動を前提として主体(企業)を検討する際には,主 体の属性によって環境要因の影響の度合いが異なってく る可能性が想定できる。例えば,主体が提供する財の特 性(有形・無形),流通チャネルでの役割(製造・流通) によっても環境要因は異なることが推測できる。また, 同業であっても,産業財を扱うか消費財であるかによっ ても考慮すべき要因は多くの点で異なる可能性がある。 一方,主体に備わる属性を細分化し過ぎてしまうと, 想定上は主体が無数に設定できてしまう。しかしなが ら,そのような状況のままでの分析は困難であるため, 主体の類型化が必要とされる。そこで本論では,主要な マーケティングのテーマとして扱われることが多い消費 財の市場に限定し,業種と規模に着目した分類を基礎と して仮説を設定する。そのうえで,各主体が重視する環 境要因の実態を分析してみたい。 3.2 調査対象と仮説の設定 マーケティング活動の主体となる企業に外部から影響 を与える環境要因には,さまざまなものが想定できる。 既存研究で提示された主な要因は,自然,地理,文化, 宗教,技術,政治,法律,経済,社会,人口動態,教育, 競争,仲介業者,利害関係者,顧客などである。 本論の分析では,主体の属性別で重視する環境要因の 差異の確認を意図している。そこで,既存に提示された 要因を参考にしつつ,国内消費財市場で重視される可能 性の高い要因で質問項目を設定する。これらの項目のな かで,マーケティング業務を管理する担当者が重視して いる要因を調査により把握する。 なお,本論での主体は B to C 企業に限定し,企業の 業種間(具体的には製造業,小売業,サービス業)と, 規模により重視する環境要因の差異が発生する可能性を

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日本経営診断学会論集20 (2020) 想定して仮説を設定する。 ここまでの前提を踏まえると,仮説は次のようになる。 仮説1) 業種により,マーケティング管理者には環境要 因に対する意識に差異が発生する。 仮説2) 規模により,マーケティング管理者には環境要 因に対する意識に差異が発生する。 上記仮説をインターネット調査により検証し,その結 果に則して各主体となる企業が重視する環境要因の分析 を進める。 4. 調査概要と質問項目 4.1 調査概要と回答企業の属性 本調査は,同内容の質問項目でインターネットによる モニター調査を3回(①2008年6月18日∼7月2日,② 2011年6月28日∼7月25日,③2017年4月21日∼5月 16日) 実施した。調査は,必要に応じて回答企業の時系 列での変化を分析できるように間隔を開けて同一の質問 で実施した。実施のタイミングは,社会情勢などの変化 が企業に相応の影響を与えていたと推測される時機 (リー マンショック以前,東日本大震災後など)での実施を試 みているが,結果が充分に反映できている保証はない。 しかしながら,比較分析を行うことにより同一属性の企 業の変化はある程度読み取れる可能性はあるので一定程 度の蓋然性は高めることができると判断している。なお, 本論での仮説検証のための分析は,3回の独立した調査 結果の比較にとどまる。同一企業から得られた回答によ る時系列分析は別稿に譲りたい。 サンプルは,調査会社(NTTコムオンライン・マーケ ティング・ソリューション株式会社)に登録したモニター から抽出した。本調査のモニターは,同社に自主的に登 録した5万人超の「ビジネスモニター」と称されるカテ ゴリーの登録者で,国内でB to Cを主たる業務とする製 造業・小売業・サービス業に従事し,マーケティング業 務に携わり,かつ当該企業のマーケティングに関わる意 思決定に関与する役職者に該当する人物から抽出した。 同一企業からの重複回答を極力回避するために,回答 者が登録した時点での情報に基づき,同一企業に回答者 が重ならない形で配信を選別した。モニター登録者が登 録時点と①∼③の調査時点で転職などにより業種,職位 などが変更されている可能性を考慮し,アンケート回答 画面でも確認のために本調査で必要となる基本的属性の 回答も求めた。その結果,モニター登録時の属性と本調 査での属性が明らかに異なり,本調査で求める属性の条 件に合致しない回答者は有効回答から除外した。回収率 は2008年26.0%,2011年21.0%,2017年25.5%であっ た。回答者の所属企業属性をまとめると表1になる。 本分析での規模区分は,中小企業法で定める従業員数 による区分に従い,製造業では300人以上を「大企業」, 299人以下を「中小企業」,小売業では50人以上を「大 企業」,49 人以下を「中小企業」,サービス業では 100 人以上を「大企業」,99人以下を「中小企業」とした。 4.2 質問項目 質問項目は,「御社でマーケティングを実行する上で 制約を与える企業の外的要因としてどのようなものを考 慮されていますか。各項目についてお答え下さい」とい う問いに対して,「競合他社」「経済状況」「消費者の嗜好」 「海外企業の動き」「技術変化」「業界の規制,法規」「自 然,気候」「流行」「社会的要因」「文化的要因」「流通業 者」「取引企業」「金融機関」「地域社会」「債権者」「株主」 「その他」の 17 項目について,「特にあてはまる」∼「全 くあてはまらない」の5段階のリッカート尺度のなかか ら1つを選択する形で回答を得た。そして,「特にあては まる」を5点,以下順に1点ずつ減じ,「全くあてはまら ない」を1点に換算した。 質問文では,環境要因に関する詳しい説明は付与せ ず,名称のみを提示した。したがって,名称から推測で きる内容は回答者の判断に委ねている。「その他」への 回答は,2008 年が 0,2011 年は 1,2017 年が 1 で,全 体への影響は小さいため除外して分析を進める。 紙面の都合上,表の掲示は省略したが,年別に相関分 析で各質問項目の採用パターンを確認した結果,各年の どの質問項目間にも有意な正の相関が認められた。 5. 分析結果 5.1 業種別比較 企業の業種と規模の違いによる環境要因に対するマー ケティング管理者の意識に差があるかどうかを検証する ために,各環境要因の調査年別,業種・規模別の平均値 を算出し,その差を比較した。 本論では業種別に異なる規模区分を採用したため,業 種と規模を同時に比較することができない。そこで,業 種に関しては独立変数を業種,従属変数を環境要因とす る対応のない1要因の分散分析を,規模に関しては業種 ごとに独立変数を規模,従属変数を環境要因とする対応 のない t 検定を実施した。業種別の結果は,表2 のよう にまとめられる。 業種別比較では,各調査年で10 以上の要因から統計 的に有意な差が認められた。多重比較の結果,他の2業 種と相互に有意な差が認められた要因には,表中に*を 記した。*の数は,差異が認められた他業種の数を表し ている。 3 業種間で有意な差が認められた要因は,2008 年は 表1. 回答者所属企業の属性

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「消費者の嗜好」 「自然,気候」 「流行」 の3要因,2011年 は「流通業者」の1要因,2017年は「流通業者」の1要 因であった。2業種のうち他の1業種とは有意な差が認 められた要因の数は,2008年は9要因,2011年は11要 因,2017年は10要因であった。有意な差が認められな かった要因は,2008 年は「債権者」「株主」の 2 要因, 2011 年は「社会的要因」「金融機関」「債権者」「株主」 の4要因,2017年は 「経済状況」「社会的要因」「文化的 要因」「金融機関」「地域社会」の5要因であった。 各調査年を通じて業種間で有意な差が一度も認められ ない要因はなかった。 5.2 規模別比較 各調査年の業種別に規模の差を比較するために実施し たt検定の結果は,表3, 4, 5にまとめられる。 業種別に調査年別の結果をみると,製造業では各調査 年とも有意な差が認められた要因のほうが多かったが, 「取引企業」 と 「金融機関」 の2要因は全調査年で有意な 差が認められなかった。調査年別の特徴は,2011 年が 有意な差が認められない要因が7要因と最も多く,2008 年は4要因,2017年は2要因であった。 小売業では,「地域社会」が全調査年で有意な差が認 められなかった。調査年別の特徴は,2011 年が有意な 差が認められない要因が11要因と最も多く,2008年は 9要因,2017年は3要因であった。 サービス業では,「自然,気候」「流行」の2要因が全 調査年で有意な差が認められなかった。調査年別の特徴 は,2008年が有意な差が認められない要因が12要因と 最も多く,2011年は5要因,2017年は6要因であった。 業種別にみられる特徴は,製造業では各調査年ともに 規模による有意な差が認められる要因を多く認めること ができたが,小売業とサービス業は相対的に少なかった。 6. 発展的分析 分析結果より,各調査年で業種別,規模別共に平均値 に有意な差が認められる要因を多く検出できたので,調 査年別に業種・規模別の上位5要因を整理した。結果は 表6になる。 6.1 上位要因の全体的傾向 表6に示された調査年,業種,規模別の全体から理解 できることは,マーケティング管理者が第一に意識する 重比較結果 表4. 年・規模別の小売業t検定結果 表5. 年・規模別のサービス業t検定結果

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日本経営診断学会論集20 (2020) 環境要因は,時代の変化や業種・規模にかかわらず「経 済状況」が9で最も多く,次いで「競合他社」の7であっ た。上位1, 2位が,この2要因となった企業属性は,今 回の調査で分類した 18 属性のなかの 9 属性であり半数 を占める。しかも,両要因の平均値の差に注目した場合 には,最大でも 2011 年大規模製造業の 0.33 ポイント, 最小では2017年中小製造業の0.01ポイントと非常に 差であり,多くの企業属性でこの2要因を同列で重視し ている傾向を読み取ることができる。 6.2 上位要因の業種別傾向 業種別の傾向に注目すると,共通の傾向は前述の「経 済状況」「競合他社」が全企業属性で重視されている点 であるが,差異は3位から5位で顕著に表れた。製造業 では「技術変化」と「業界の規制,法規」が,小売業で は「消費者の嗜好」「流行」「社会的要因」が,サービス 業では「消費者の嗜好」「社会的要因」「業界の規制,法 規」が規模に関わらず共通して上位に入った。 製造業では業界に関わる要因が上位を占めるが,小売 業とサービス業では業界に関連する要因と市場に関わる 要因を並列して重視する傾向が読み取れた。 6.3 上位要因の規模別傾向 規模別での傾向の分析に際し,まず上位5要因の業種 別平均値の差にt検定で有意な差がみとめられた要因数 に注目した。調査年によるばらつきはみられるものの, 製造業では3∼5,小売業では1∼3,サービス業では2∼ 4の範囲で有意差が認められる要因がみられた。注目で きる点は,業種別での有意差が認められる要因の数であ る。同じ要因が同様の順位で上位に来ていても,製造業 では平均値に有意な差が認められたものが多く,小売業 では少ないという結果であった。したがって,環境要因 に対するマーケティング担当者の意識の差が規模によっ て大きい業種は製造業であり,小売業では規模による意 識は小さく,サービス業は両者の中間程度であるという 傾向が読み取れる。また,製造業のみにみられた傾向と しては,中小企業で「取引企業」が3回の調査すべてで 上位に入ったが大企業では入らなかった点である。 年別の特徴的な要因に注目すると,2011 年大規模製 造業で「海外企業の動き」が5位に入った点と,2017年 の中小サービス業の「社会的要因」「業界の規制,法規」 は平均値が2点台となった点である。2017年の中小サー ビス業では,マーケティング管理者は実質的には「経済 状況」「競合他社」「消費者の嗜好」の3要因しか環境要 因として重視していないという顕著な傾向が読み取れた。 以上の分析結果より,B to C企業のマーケティング管 理者が意識する環境要因は,今回の分析に使用した企業 属性においては全般的に競合と経済状況を重視している が,製造業では技術や法規を次いで重視する傾向があ り,小売業とサービス業では消費市場に関わる要因を次 いで重視する傾向に大別できることが理解できた。 7. 結言 本論で設定した仮説のうち,仮説1)業種により環境 要因の意識に差異が発生する,は明確な有意差が認めら れたので検証できたと考えられる。仮説2)規模により 環境要因の意識に差異が発生する,は製造業に関しては 多くの要因で有意差を認めることができたが,小売業と サービス業では調査年によりばらつきがみられ,三分の 一から半数程度の要因にしか有意差を認められない年も あった。したがって,一律に規模により差異が発生する とは今回の調査結果からは断言できないが,ある程度の 傾向は確認できたと考えられる。 仮説の蓋然性が相応程度に認められたことを前提とし て,環境要因が業種と規模によりどのような差異を有し ているのかを考察してみたい。 まず,製造業では,景気や競合に関わる要因と技術や 法規などの製品開発に関わる要因が重視され,消費者の 動向に関わる要因は前述の要因よりも相対的に軽視され ていることが判明した。規模に注目した場合には,中小 企業で景気や競合に加えて取引企業の影響を意識してい る傾向が表れた点も注目に値する。 本論での調査結果が,マーケティング管理者から得た 回答による結果であることを念頭に置いた場合,製造業 で意識が向けられる環境要因の優先順位で,先行研究で 想定されていた見解と異なる側面が判明したことを指摘 できる。 先行研究では,顧客に関わる要因を最優先して説明す る記述が多かったわけであるが,本調査では経済状況や 表6. 年・業種・規模別の環境に関する上位5要因

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与えうる要因を顧客に関わる要因よりも重視している傾 向が表れていた。本調査は,同内容の質問で時期を変え て3回実施しており,その結果から読み取れる傾向なの で相応に蓋然性が高いと考えられる。今回の調査では除 外しているが,B to B企業に同内容の質問をした場合に は,さらに顕著な傾向が顕在化することも推測できる。 一方,小売業とサービス業には環境要因の捉え方に比 較的類似性がみられ,景気や競争に関わる要因は製造業 と同様に重視しているが,次いで消費市場に影響を与え る要因を重視する傾向が表れていた。また,規模による 差異が製造業ほど顕著にはみられなかった点も業種の特 性を反映していると考えることができる。 さらに,3回の調査結果に基づく本論での分析結果を 参考に検討するのであれば,時代の変遷の中でも,企業 が環境要因で重視する要因に大きな変化はみられなかっ たことにも注目する必要がある。前述のように,すべて の業種で主として意識が向けられる要因は,景気や競争 に関わる要因であり,B to C企業であっても顧客となる 消費者の嗜好などの要因はそれ以降に位置づけられる場 合が多かった。したがって,経営診断の観点から捉えた 場合に,診断者は顧客よりも優先される環境要因に対す る対応の重要性を企業に助言する必要があることを指摘 できる。 また,研究潮流との関連で考察した場合に,顧客との 価値共創の視点が注目される昨今であるが,環境分析の 戦略的活用を想定するのであれば,景気動向や競争力を 企業が優先して重視している実態を踏まえての検討が必 要であることを本論から示唆することができよう。 以上,本論の分析結果より,B to C企業が想定してい る環境要因の優先順位を実証的に明示できたわけである が,企業のマーケティングに関わる意思決定での優先順 位は,時代を越えてある程度の幅で安定的であることも 確認できた。また,規模による差異は平均値の優位差が 認められた要因も多数確認できたが,優先順位の序列に 大きな差異は表れておらず,一定程度の類似性が存在し ていることも理解できた。一方,業種により意識される 要因の優先順位に違いが存在していることは明示できた と考えられるので,その点は今後の理論的整理では留意 すべきことを指摘できる。 本論での分析は,外的環境要因しか考慮していない が,企業には人事や経理など他部門の内的環境要因も存 在する。それらに関する分析は別の機会に譲りたい。ま た,字義的意味内容から確認できた主体と環境との相互 作用との関わりで,主体から積極的に環境に対して働き かける姿勢に関する分析も残された課題である。 今後は解析の精緻化を進め,同一企業での経年変化や 環境要因と企業の意思決定要因や資源配分との関連性の 分析,また他の環境要因を踏まえたうえでの顧客との価 値共創の在り方についてさらに分析してみたい。 [1] 山城 章,『経営学全書1 経営原論』丸善,1970. [2] Porter, M., Competitive Strategy, Free Press, 1980. [3] Kast, F. E. and Rosenzweig, J. E., Organization and

Management: A Systems and Contingency Approach

(4th ed.), McGraw-Hill, 1985.

[4] Johnson, G. and Scholes, K., Exploring Corporate

Strategy(3rd ed.), Prentice-Hall, 1993.

[5] Babatunde B. O. and Adebisi, A. O., Strategic Envi-ronmental Scanning and Organization Performance in a Competitive Business , Environment Economic

Insights̶Trends and Challenges, Vol. 64, No. 1, pp.

24–34, 2012.

[6] Klovien , L., Performance Measurement System Compatibility with Business Environment,

Economics and Management, Vol. 17, No. 2, pp. 433–

440, 2012.

[7] Foss, N. J. et al., The Role of External Knowledge Sources and Organizational Design in the Process of Opportunity Exploitation , Strategic Management

Journal, Vol. 34, No. 12, pp. 1453–1471, 2013.

[8] Grosanu, A. and Bota-Avram, C., The Influence of Country-level Governance on Business Environment and Entrepreneurship: A Global Perspective ,

Amfiteatru Economic, Vol. 17, No. 38, pp. 62–78, 2015.

[9] Howard, J. A., Marketing Management: Analysis and

Decision, Richard D. Irwin, 1957.

[10] McCarthy, E. J., Basic Marketing: A Managerial

Approach, Richard D. Irwin, 1960.

[11] Kotler, P., Marketing Management Analysis, Planning,

and Control (2nd ed.), Prentice-Hall, 1972.

[12] Uexkül J. and Kriszat, G., Streifzüge durch die Umwelten

von Tieren und Menschen, Bedeutungslehre, 1934.

注 1) 「環境」の基本的な意味を辞典類で確認すると,代表的 な国語辞典の説明では 「①めぐり囲む区域。②四囲の外 界。周囲の事物。特に,人間または生物をとりまき, それと相互作用を及ぼし合うものとして見た外界。自然 的環境と社会的環境とがある」(新村出編,『広辞苑第 七版』岩波書店,2018)や,「①四方のさかい。周囲の 境界。まわり。②まわりの外界。まわりをとり囲んで いる事物。特に人間や生物をとりまき,それとある関 係を持って,直接,間接に影響を与える外界。自然的 環境と社会的環境とに大別する」(日本国語大辞典第二 版編集委員会・小学館国語辞典編集部編,『日本国語大 辞典第二版第三巻』小学館,2002)と説明される。また, 英単語の environment は「中期英語のenviroune(n), 英語の environ, 仏語の environner(取り巻く,囲む, 包囲する) を語源とし,1827年にThomas Carlyleによっ て発明された言葉」 (Hendrickson, R., The Facts on File

Encyclopedia of Word and Phrase Origins, Revised and Expanded Edition, Facts on File, 1997)であり,意味

内容は 「個人,組織または集団の存在と発展に影響を及 ぼす外的な境遇・状態・事物の集合体」(Simpson, J.,

Oxford English Dictionary (2nd ed.), Oxford

Univer-sity Press, 1989)と説明される。

2) マーケティング用語辞典などの environment あるい は marketing environment の説明では「環境とは企 業が利用できる活動方針に影響を与える外部の諸勢力」 (Baker M. ed., Macmillan Dictionary of Marketing

and Advertising (3rd ed.), Macmillan Press, 1998)

や,「マーケティング環境とは,企業のマーケティング 計画や業績に直接または間接的に影響を与える事物や 諸勢力で構成される。一般的には企業の統制外にある と 考 え ら れ て い る」(Lewis B. R. and D. Litter eds.,

The Blackwell Encyclopedic Dictionary of Marketing,

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日本経営診断学会論集20 (2020)

Empirical Analysis of Environmental Factors in Marketing

Kenji Arima*

Rikkyo University, Tokyo *[email protected]

Abstract: This paper analyzed the environmental factors that managers value in marketing. We arranged and specified environmental factors from previous studies. Using internet surveys, we analyzed the trends of Japanese B to C compa-nies. The hypothesis set the difference in the importance of environmental factors between type of industry and size of company. The analysis revealed that marketing managers of these companies focused on different environmental factors depending on type of industry and size of company. The survey revealed the priorities of environmental factors for the com-panies. Furthermore, we suggested management diagnosis.

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