日本建築学会技術報告集 第 27 巻 第 65 号,219-224,2021 年 2 月 AIJ J. Technol. Des. Vol. 27, No.65, 219-224, Feb., 2021 DOI https://doi.org/10.3130/aijt.27.219
折紙型立体抵抗機構を用いた木
造住宅用履歴型制振装置の開発
その 1:基本形状モデルの検討
DEVELOPMENT OF HYSTERESIS
DAMPER FOR WOODEN HOUSES
INSPIRED BY ORIGAMIC
THREE-DIMENSIONAL RESISTANCE PART 1:
CONSIDERATION ON BASIC SHAPE
MODEL
川口健一ー ーーーー * 1 高橋祐貴ー ーーーー * 2 横山眞一ー ーーーー * 3 田口朝康ー ーーーー * 4 西野晃充ー ーーーー * 5 キーワード: 木造住宅,耐震壁,狭小壁,鋼板,折紙,制振 Keywords:Wooden house, Seismic shear wall, Narrow wall, Thin steel plate, Origami, Damping
Ken’ichi KAWAGUCHI
ーーー * 1Yuki TAKAHASHI
ー ーーー * 2Masakazu YOKOYAMA
ー ー * 3Tomoyasu TAGUCHI
ーー * 4Akimitsu NISHINO
ー ーーーー * 5Mechanical properties of new origami inspired reinforcing and hysteresis-damping device using thin steel plates are proposed and investigated. Results of FEA and full-scale experiments are indicated and discussed. FEA showed better stiffness, yield strength and efficient plasticized area of the device than simple flat pates, due to three-dimensional geometrical resistance system. The experimental results agreed well with the FEA results. Damping of the device is also examined and discussed.
*1 東京大学生産技術研究所人間・社会系部門 教授 (〒 153-8505 東京都目黒区駒場 4-6-1) *2 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻 博士課程 *3 岡部㈱技術開発部 部長 *4 岡部㈱技術開発部 部長代理・博士(工学) *5 岡部㈱技術開発部 主任
*1 Prof., IIS, The Univ. of Tokyo, Dr. Eng.
*2 Graduate Student, School of Engineering, The Univ. of Tokyo *3 General Manager, Research and Development Div., Okabe CO., LTD. *4 Deputy General Manager, Research and Development Div., Okabe CO., LTD.,
Dr. Eng.
*5 Chief, Research and Development Div., Okabe CO., LTD.
本稿は文献 5),6) に新たな考察を加えて取りまとめたものである。
折紙型立体抵抗機構を用いた木
造住宅用履歴型制振装置の開発
その 1:基本形状モデルの検討
Development of hysteresis damper for
wooden houses inspired by origamic
three-dimensional resistance
Part 1:Consideration on basic shape
model
川口健一 *1 高橋祐貴 *2 横山眞一 *3 田口朝康 *4 西野晃充 *5 キーワード: 木造住宅, 耐震壁, 狭小壁, 鋼板, 折紙, 制振 Keywords:Wooden house, Seismic shear wall, Narrow wall, Thin steel plate, Origami, Damping
Ken’ichi KAWAGUCHI **1 Yuki TAKAHASHI **2
Masakazu YOKOYAMA **3 Tomoyasu TAGUCHI **4
Akimitsu NISHINO **5
Mechanical properties of new origami inspired reinforcing and hysteresis-damping device using thin steel plates are proposed and investigated. Results of FEA and full-scale experiments are indicated and discussed. FEA showed better stiffness, yield strength and efficient plasticized area of the device than simple flat pates, due to three-dimensional geometrical resistance system. The experimental results agreed well with the FEA results. Damping of the device is also examined and discussed.
1.序論 1.1 研究背景 本報では、木造住宅において従来提案の少ない幅 600 ㎜以下の狭 小壁に適用可能な新しいタイプの補剛制振部材の開発のために行っ た実験と数値解析により得られた知見に関して報告する。本研究で は、折紙のように薄板を折り曲げて用いることで折り目の持つ立体 的な剛性を用いて、安価な薄板鋼板を用いた図 1 のような補剛制振 部材を新たに提案し、その力学性状を数値解析と実験により調査し ている。この補剛制振機構では鋼板と横桟からなる鋼板の装置を梯 子のように左右の柱間に複数配置する。この装置の制振部材として のエネルギー吸収性状についても検討するため、以降この補剛制振 装置をダンパーと呼ぶ。横桟部分の長さを調節することで狭小壁に 設置することが可能であり、また角度変化に依存した水平力を発揮 するため性能は柱間の距離によらず、さらには壁面に開口を設置す ることも可能といった特長がある。 1.2 既往研究 薄い鋼板が折れ曲がる際の挙動を積極的に工学応用したものとし て自動車分野ではクラッシュボックスと呼ばれる衝撃エネルギー吸 収装置がすでに開発されている1)。これは薄肉鋼管の立体的な座屈性 状を操作することで薄肉鋼板の塑性化する面積を増やしなるべく多 くのエネルギーの吸収を行おうというものである。鋼板は比較的折 り曲げ加工がしやすいという特徴を持つため、クラッシュボックス は折紙工学の分野などでも研究されている。クラッシュボックスで 想定するのは自動車の衝突時に発生する瞬間的な衝撃荷重と大変形 の吸収性状であるが、木造住宅の制振に用いる際の変形は層間変形 角で 1/100rad~1/50rad、大きくても 1/30rad と比較的小さく、また、 繰り返しを伴う荷重である点が大きく異なる。本研究では鋼板の折 紙型の立体抵抗機構を用いたダンパーの剛性、塑性化性状及びエネ ルギー吸収能力の向上について有限要素法を用いた数値解析及び実 験の両面から検討を行っている。その 1 では、比較的単純な形状を 有し、折り曲げ部分により柱と横桟の直角を維持するダンパー(基本 形状モデル)について調査した結果について報告する。 (a) ダンパー概要図 (b) 力学モデル 図 1 提案するダンパーの概要 2.有限要素解析 まず、基本となる形状のダンパーの性能及び変形性状を調査する ために汎用非線形有限要素解析プログラム Marc.Mentat ver.2005 に よる数値解析を行った。解析モデルを図 2 に示す。鋼板の要素は三 角形 6 節点 2 次要素のシェル要素である。横桟の一つの端部にこの 本報は文献 5),6)に新たな考察を加えて取りまとめたものである。 *1 東京大学生産技術研究所 人間・社会系部門 教授 (〒 1 5 3 - 8 5 0 5 東 京 都 目 黒 区 駒 場 4 - 6 - 1 )
*1 Prof., IIS, The University of Tokyo, Dr.Eng.
*2 東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻 博士課程 *2 Graduate student, School of Engineering, The University of Tokyo
*3 岡部株式会社 技術開発部 部長 *3 General Manager, Research and Development Div., Okabe.CO., LTD.
*4 岡部株式会社 技術開発部 部長代理 博士(工学) *4 Deputy General Manager, Research and Development Div., Okabe.CO.,
ような鋼板ダンパーが 2 枚で 1 対、取り付けられ、柱にビスで接続 される(図 1(a))。鋼板、横桟、柱の 3 部分に分けてモデル化を行っ た。鋼板は初期剛性としてヤング係数 205000N/mm²を与え、図 3 に示 す非線形材料とした。横桟は木材を想定し、異方性を考慮した線形の 材料定数を与えた。柱部分は実際には木材であるが、ダンパー部分の 性能を見るため極めて高いヤング係数を与え剛体のように扱った。 柱と鋼板、横桟と鋼板をつなぐビスは柱、横桟の表面の節点と鋼板の 節点間の相対変位(相対的な回転角を含む)を拘束する剛体リンクに よって模擬した。ビスの配置は図 5(c)中の丸で囲んだ箇所とし、す べてのモデルで共通している。各物体同士の接触は考慮しているが 摩擦は不明点が多いため、摩擦係数を 0 として、摩擦力は考慮して いない。1 本の横桟の両端に合わせて 4 枚接合される鋼板のうち 1 枚 分のみをモデル化し拘束条件は対称性を考慮した境界条件として入 力した。要素数及び自由度数の例を挙げると、num-BT で 5,024 要素、 自由度数 52,788 であり、一番要素の多い num-2CTr では 15,089 要素、 自由度数 145,080 となっている。載荷は柱上下の変位を制御し正負 交番載荷を行った。載荷履歴を図 4(a)(b)に示す。図 4(b)で繰り返し 回数を減らしているのは多数のモデルを計算する目的で計算コスト の削減のためである。またこの解析では疲労特性を考慮していない ため繰り返し回数が減ったことによる剛性やエネルギー吸収への影 響はないと考えられる。変位制御点の反力から鋼板一枚分の柱の回 転角-水平力関係を算出した。実験と比較するため、これを鋼板の枚 数である 12 倍することで横桟が 3 本設置された場合の柱頂部にかか る水平力 Q との関係を算出した。数値解析を行った鋼板形状の一覧 を図 5 に示す。形状をパラメータとして 7 つのモデルを作成した。 リブ付きモデルは斜線部分を直角に折り曲げてリブとしている。こ のうち三角円弧・2 連モデルは折り曲げた形状は可展面とならないが 比較のしやすさのために展開図として示している。板厚は全て 1.2mm としたが、円弧モデルのみ板厚 1.6mm と 2.0mm のモデルの計算を行 った。 3.数値解析結果 鋼板の変形図を図 6(a),(b)に示す。円弧モデルの 1.6 ㎜・2.0 ㎜ は変形性状が同じだったため 1.2mm の場合のみ示している。変形図 は正面からと横桟側から見た変形を表示している。コンターで表示 しているのは鋼板の表面部分のミーゼス応力であり、ミーゼス応力 が降伏応力度(340N/mm²)以上となっている部分を黒く表示している。 加えて降伏応力度以上となっている部分を塑性化面積として算出し た。表 2 に結果の一覧を示す。このうち 2 連モデルは実際には横桟 3 本の配置とすることは不可能であるが、単純な性能比較のためほか のモデルに合わせ水平力を 1.5 倍することで 3 本分の剛性及び降伏 点を表示している。また降伏荷重は接線剛性が初期剛性の半分に低 下した時点での荷重とし算出した。 3.1 鋼板の変形性状 num-C1,num-T1 では変形性状は一致しており圧縮力を受けている 鋼板の下半分で正面からみて手前側に面外変形を生じている。上半 分の引張側は柱側のビス周辺での塑性化が顕著となっている。num-BT 及びリブ付きモデルでは圧縮側で num-C1,num-T1 と逆向きの面外 変形が生じているがこれは施工のしやすさの観点から柱側のビス留 め部分の折り曲げが 180 度逆向きになっているためと考えられる。 図 2 解析モデル概要 図 3 鋼板材料特性 表 1 木材材料定数 (a) 繰り返しが多いパターン (b) 繰り返しが少ないパターン 図 4 載荷履歴 (a)円弧(C1~C3) (b)三角(T1) (c)大三角(BT) (g) 2 連(2CTr) (d)三角リブ付き (e)台形 (f)三角円弧 (T2r) (TRr) (CTr) 図 5 解析モデル形状名称及び展開図一覧 表 2 解析モデル一覧 板厚 リブ幅 剛性 降伏荷重 塑性化⾯積塑性化⾯積割合 [mm] [mm] [kN/rad] [kN] [mm²] [%] num-C1 1.2 × 図4(a) 633 2.8 10,179 20.9 num-C2 1.6 × 図4(a) 924 5.3 11,821 24.2 num-C3 2 × 図4(a) 1,132 9.1 13,360 27.4 num-BT ⼤三⾓ 1.2 × 図4(b) 747 6.4 19,953 28.9 num-T1 1.2 × 図4(a) 796 4.3 16,192 27.9 num-T2r 1.2 10 図4(b) 1,058 8.4 23,897 38.4 num-CTr 三⾓円弧 1.2 10 図4(b) 1,079 8.6 25,634 40.9 num-TRr 台形 1.2 10 図4(b) 1,422 9.4 27,389 32.8 num-2CTr 2連モデル 1.2 10 図4(b) 1,002 8.1 42,809 40.3 モデル名 形状 円弧 三⾓ 載荷履歴 0 200 400 600 0 30000 60000 ひずみ ε [×10⁻⁶] 応⼒度σ[N/mm²] E11 7500 NU12 0.4 G12 500 E22 300 NU23 0.016 G23 500 E33 300 NU31 0.016 G31 500 ポアソン⽐ せん断弾性係数(N/mm²) ヤング係数(N/mm²) R5 0 10 50 150 90 90 10 50 150 谷折り 山折り リブ 10 90 50 150 リブ 山折り 谷折り 80 0 10 50 150 90 R50 50 100 20 5 90 90 谷折り 山折り 25 0 250 50 90 100 R50 ⼭ ⼭折折りり ⼭ ⼭折折りり
(1) num-C1 (2) num-T1 (3) num-BT (a) リブなしモデル (1) num-T2r (2) num-CTr (3) num-TRr (4) num-2CTr (b)リブ付きモデル 図 6 変形角 1/30rad 鋼板変形図(変形倍率 2.5 倍で表示) 座屈によって生じるヒンジラインに着目すると num-TRr を除く 2 つ のリブ付きモデルではヒンジラインとリブが交わる変形状態となっ ていることがわかる。num-TRr はヒンジラインがリブを避けるように リブがない鋼板の上下端に向かって伸びていく変形を示している。2 連の num-2CTr では中間部分、横桟の間の鋼板の変形が大きく、上下 の端の部分の面外変形は比較的小さくなる結果となった。 3.2 剛性及び降伏荷重 図 7 にリブなしモデルの回転角―水平力関係の比較を示す。回転 角とは柱上下の変位制御点に与えた変位で生じる柱の傾きを指す。 剛性を見ると num-C1 が低くなっており、num-T1,num-BT ではほとん ど差はない。降伏時の荷重は高い方から num-BT, num-T1, num-C1 の 順番となっており剛性よりも顕著な差が確認できる。また降伏点付 近では num-C1,T1 では折れ点がはっきりと確認できるが num-BT では はっきりとせず降伏後の剛性も一番高くなっている。これは num‐BT ではもともと面積が大きく、ヒンジラインが長くなったため面外変 形が生じた後の剛性も高くなったと考えられる。続いて表 2 で三角 モデルのリブの有無で比較するとリブをつけることによって剛性で は約 30%,降伏荷重では 95%もの向上が確認できる。 図 8 にリブ付きのモデルの包絡線を比較したものを示す。最も剛 性が高いのは num-TRr であり、リブは変形していないもののヒンジ ラインが長くなることで剛性が高くなったと考えられる。ただし全 面積に対する塑性化面積割合はリブ付きモデル(表 2 中リブ幅が× でないもの)の中で最も低く塑性化させる材料の効率という面では ほかのモデルに比べ低下している。次に表 2 にて円弧モデルの鋼板 図 7 回転角―水平力関係 形状比較 図 8 リブ付きモデル包絡線比較 図 9 num-2CTr,num-CTr 履歴ループ比較 の厚さで比較すると厚くなるにつれ剛性及び降伏荷重、塑性化面積 のすべてが向上している。最後に num-CTr とそれを上下 2 連につな げた形に製作した num-2CTr の比較を図 9 に示す。num-2CTr は-1/30rad の時点で計算が収束せず解析を停止している。2 つのモデル を比較すると剛性・耐力は同程度であるが履歴ループの大きさはわ ずかに改善が見られる。中間部ではビスにかかる引き抜き力が小さ くなっており、ビス周辺での局部的な変形が低減されたことで座屈 によって生じる鋼板全面の面外変形がより直接的に発生し大きくな っているためだと考えられる。 3.3 変形機構とエネルギー吸収性能 鋼板の変形は座屈前では面内の圧縮力で耐える機構であるが座屈 後の塑性変形では図 10 に示すようなヒンジライン部分の曲げ剛性に よって力を発揮する機構となっている。そのためヒンジラインが長 い num-BT は座屈後の曲げ剛性が高いため num-T1 や num-C1 に比べ降 伏後の剛性が高くなっている。また柱のビスの接合部が鋼板の中心 面から外れているため、座屈前からこの板の曲げ変形はすでに生じ ており、初期剛性が低下していく過程で徐々に鋼板の曲げ剛性によ る抵抗力が優位な状態に移行する。このためリブを付けて板の曲げ 剛性を高くすると初期剛性が向上すると考えられる。 次にエネルギー吸収量を評価するために図 11 の理想履歴曲線を 考える。これは初期剛性を開発目標である約 1000kN/rad とした場合 の履歴型ダンパーの理想的な履歴曲線であり、それぞれのモデルが これに対しどの程度のエネルギー吸収能力を持つかの基準とする。
いくつかのモデルについて 1/30rad 時の履歴曲線の面積を図 11 の履 歴曲線の面積で除したものをエネルギー吸収効果 E としヒンジライ ンの長さ L との相関を図 12 に示す。図中のヒンジライン長さは図 6 の変形図から計測し図 10 の①②③に対応する圧縮側のヒンジライン の長さを合計したのち引張側も考慮して 2 倍にした値である。リブ のない num-C1,num-BT,num-T1 ではヒンジライン長さ L とエネルギー 吸収効果 E にはおおむね線形の比例関係が成り立つ。ただしリブの ある num-T2r,は近似曲線から大きく外れており、ヒンジライン長さ が近い num-T1 と比べるとエネルギー吸収効果が 2 倍程度になってい る。主な要因として考えられるのはリブの塑性化である。リブはヒン ジラインの剛性を高める効果があることに加え、座屈後の変形では 塑性変形もする。これにより表 2 の塑性化面積では num-T1 に比べ num-T2r は 50%程大きくなりエネルギー吸収量の増加に寄与している と考えられる。 続いて図 7,図 9 の履歴ループに着目すると、どのモデルにおいて も 2 回目以降の初期剛性が大きく落ちるスリップ性状が確認できる。 図 10 の変形機構をもとに考察を行うと圧縮時に生じるヒンジライン ②は引張を受けるときはもとには戻りにくく、代わりに図中①のビ ス取り付け部の折り目が変形すると考えられる。これにより柱の回 転角は鋼板に直接には伝わらず、②のヒンジラインに圧縮時の変形 が引張時も残ったままとなってしまいスリップ性状の要因となって いると考えられる。 図 10 鋼板の変形機構 図 11 基準とする理想履歴曲線 図 12 E - L 相関図 4.実大実験概要 実験は図 13 に示す実大試験体によって行った。試験方法は文献2) に準じているが狭小壁の試験体軸組は文献 3)を参考に試験体を製作 した。一部の試験体ではホールダウン金物(以下 HD)の代わりに、 文献 4)で検討されている偏心がなく柱脚の浮き上がりを低減する金 物(以下PB)を使用した。PB の形状を図 14 に示す。また横桟は木 材と角形鋼管の 2 種類を用意した。柱と鋼板とつなげるビスには外 径 5.5mm、長さ 75mm の木ビスを用い、横桟と鋼板を接合するビスは 木材の場合は外径 5.5mm、長さ 45mm の木ビス、鋼管の場合は外径 6mm、 長さ 25mm のドリルビスを使用した。ビスの配置は解析モデルと一致 している。試験体数は各ケース1体である。変形角は上下の水平変位 から算出し、水平力は梁頂部に加力した値をロードセルによって記 録した。試験体一覧と実験結果を表 3 に示す。2 連モデルのような偶 数本しか配置できないものについては 2 本または 4 本としている。 表中の試験体形状は 3 章の数値解析モデルの名称と対応しており、 寸法も一致している。図 15(a)(b)に載荷履歴を示す。(b)は各変形角 を 3 回ずつ繰り返している。基本的には図 15(a)の載荷履歴とした が、exp-2CT1r、exp-2CT2pr でのみ図 15(b)の載荷履歴を採用し、エ ネルギー吸収性能を検証した。また本研究ではダンパーを配置した 狭小壁全体での性能を目標性能としているため枠組みや柱脚を含め た値で剛性、エネルギー吸収、荷重変形関係を比較している。 (a) 試験体寸法 (b) 計測位置 (c) 試験体写真 図 13 実大実験 試験体概要 図 14 柱脚金物 PB 形状図 (a) 繰り返しなし (b) 3 回繰り返し 図 15 載荷履歴 表 3 試験体一覧 板厚 鋼材 リブ幅 柱脚 横桟材料 横桟本数 剛性 降伏点 [mm] [mm] [本] [kN/rad] [kN] exp-C1 1.2 SPHC × HD 3 543 2.9 exp-C21 SS400 × HD 3 562 4.8 exp-C22p SS400 × PB 3 661 7.6 exp-C3 2.3 SS400 × HD 3 581 8.6 exp-TRr 台形 1.2 SPCC 10 HD ⽊材 3 429 2.9 exp-T1r 1.2 SPCC 10 HD ⽊材 3 507 2.5 exp-T2r 1.6 SS400 10 HD 鋼管 3 852 7.2 exp-CTr 三⾓円弧 1.2 SPCC 10 HD 鋼管 3 925 6.6 exp-2CT1r 1.2 SPHC 10 HD 4 940 11.2 exp-2CT2pr 1.2 SPHC 10 PB 2 528 9.8 形状 円弧 1.6 ⽊材 三⾓ 2連モデル 鋼管 試験体名
(a)exp-C1 (b)exp-C3 写真 1 1/50rad 時の変形の様子(円弧モデル) 図 16 変形角―水平力関係 板厚比較 5.実験結果と考察 5.1 板厚による比較 (exp-C1,exp-C21,exp-C22p,exp-C3) 円弧モデルの変形角が 1/50rad 時の変形を写真 1 に示す。1.2 ㎜の 試験体は圧縮側で面外方向の変形が始まっているのに対し、2.3 ㎜で は面外変形は確認できなかった。変形は柱に固定しているビスと横 桟取り付け部のビス周辺に集中している。図 16 に履歴ループの包絡 線を示す。exp-C1,exp-C21,exp-C3 で 0.07rad あたりで荷重が上昇し ているのは横桟の木口と柱が接触したためである。また数値解析で は鋼板を厚くすることで剛性と降伏点荷重の両方が増加していたが、 実験では降伏荷重のみ増加している。唯一剛性が上昇したのは exp-C22p のみであり、このことから PB を用いない場合は柱脚部で HD の 偏心による変形が先行し、柱の浮き上がりによるロッキング変形を していたためと考えられる。 5.2 リブ付きの試験体 (exp-T1r,exp-T2r,exp-TRr,exp-CTr) リブ付き試験体の変形を写真 2 に示す。横桟に木材を用いた試験 体 exp-T1r,exp-TRr は終局時に横桟取り付け部のビス部から木材が 割れていることが確認された。特に exp-TRr では 1/15rad の時点で 鋼板にビス取り付け部以外の変形がほとんど生じておらず、横桟取 り付け部に対して鋼板が強すぎる結果となった。exp-T1r も圧縮側で 横桟取り付けビス周辺に局部的な変形が生じており、数値解析とは 異なる結果となった。また横桟に鋼管を用いた試験体 exp-T2r,exp-CTr のうち exp-T2r ではリブ形状が不連続となる隅部に変形が集中 し鋼材が裂けることで終局状態を迎えた。exp-CTr のみ数値解析と同 様の変形を示し、ビス周辺の局部変形ではなく、全体が変形している。 座屈による鋼板のヒンジラインもはっきりと確認できた。この試験 体では変形角が大きくなった際に柱にとりつく一対の鋼板が柱軸面 に対して対称的に面外変形することで、互いの鋼板のリブ同士が接 触し、面外変形を相互に拘束する現象が確認できた。最終的に柱取り 付け部のビス穴周辺の引きぬけ変形によって約 1/20rad で終局状態 を迎えた。それぞれの履歴曲線の包絡線を図 17,図 18 に示す。横桟 が木材の試験体耐力は数値解析値結果に比べ大きく下回っている。 一方、鋼管を用いた試験体は数値解析結果とよく一致する。
(a) exp-T1r (b) exp-TRr 写真 2 1/30rad リブ付き試験体 横桟:木材
(a) exp-T2r (b) exp-CTr 写真 3 1/30rad リブ付き試験体 横桟:鋼管 図 17 変形角―水平力関係 横桟:木材 図 18 変形角―水平力関係 横桟:鋼管 写真 4 exp-2CT2pr 1/15rad 変形の様子 5.3 二連モデル (exp-2CT1r,exp-2CT2pr) 数値解析と実験の結果の対応が最もよかった exp-CTr を上下に二 つ繋げた exp-2CT1r,exp-2CT2pr を作成し実験を行った。横桟本数が 違うのは exp-2CT1r では 4 枚,exp-2CT2pr では 8 枚の鋼板を使用し たためである。また柱側ビス穴周辺の引きぬけ変形を防ぐためにワ ッシャー(外径 13 ㎜,厚さ 1.0mm)を挟んでビスを打ち込んだ。写真 に変形の様子を示す。変形性状に違いはみられなかったため柱脚を PB とした試験体の変形のみを示している。下側の横桟に見える線は
鋼管成型時の溶接跡である。鋼板の上下端部分の面外変形性状は数 値解析結果とよく一致しており、また exp-CTr で見られたような鋼 板同士の接触もみられた。中間部の変形は数値解析と逆方向の面外 変形が生じている。破断や穴抜けは生じず、1/15rad を 3 度繰り返し た時点で実験を終了とした。exp-2CT1r,exp-2CT2pr の包絡線を図 19 に示す。実験時の横桟本数がそれぞれ違うため水平力を横桟本数で 除して3本分に単純に換算した値で比較している。exp-2CT2pr は exp-2CT1r に比べ主に降伏荷重が高くなっており、板厚を厚くした場 合と同様に柱脚を HD とするとロッキングによる浮き上がりが生じ ていることを確認した。図 20 では図 19 と同様に横桟 3 本分に換算 した exp-2CT1r のθ=1/30rad 時の履歴曲線を繰り返し 1 回目と 3 回 目で比較している。1 回目からスリップが確認されておりこれは数 値解析結果と一致している。また 3 回目はさらにスリップが大きく なっている。この履歴曲線に対して 3.3 節と同様の方法でエネルギ ー吸収効果 E を算出した。繰り返しの 1 回目では E=39%、3 回目で は E=18%に低下している。num-2CTr の E を計算すると E=61%となっ ており、繰り返し一回目から解析結果を下回る結果となった。この 理由として実験では数値解析に比べ繰り返し時の剛性が低下するス リップがより強く出ていることが挙げられる。このように実験結果 が解析値を下回る理由について変形が見やすい exp-CTr を用いて考 察する。写真 5(a)(b)に実験後の exp-CTr の鋼板の変形を示す。 写真 5(a)の全体図を見ると圧縮時に生じたヒンジライン②の変形は 引張を受けても一部残っていることがわかる。(b)のヒンジライン ①では 3.3 節で述べた変形が実験でも生じており解析と同様にこの 変形がスリップの要因の一つとなっていると考えられる。加えて解 析では考慮していないビス周辺の局部的な変形や柱脚部の変形、繰 り返しによる鋼材の疲労などが更なるエネルギー吸収の低下の要因 だと考えられる。 6. 結論 比較的安価で折り曲げ加工がしやすい鋼板に注目し、鋼板の立体抵 抗機構を用いた補剛制振装置を提案し、その挙動とダンパーとして の検討を有限要素解析及び実験の両面から行い以下の知見を得た。 1. リブなしの形状では圧縮時に生じるヒンジラインを長くするこ とで降伏荷重及び降伏後の荷重が向上することを確認した。 2. 鋼板の端部を折り曲げリブを設けることで曲げ剛性が上昇し、 ダンパー自体の剛性が高くなることを数値解析により確かめた。 3. 数値解析の変形性状から本装置の鋼板の変形機構を明らかにし、 ヒンジラインの長さとエネルギー吸収量が対応していることを 示した。 4. 数値解析から考察した、ヒンジラインの変形が残り続け履歴曲 線のスリップ性状の要因となる傾向が実験においても生じるこ とを確認した。 5. 実験では数値解析では考慮していなかった横桟の割れ、ビス穴 周辺の引き抜き変形、鋼板隅部の亀裂等の脆弱な終局状態が確 認されたが、exp-CTr では数値解析モデルと変形及び荷重変形 関係の両面で良い対応を示し十分な剛性を持つことがわかった。 狭小壁に対して初期剛性を補う、補剛装置としては一定の効果が確 認されたが、ダンパーとしてはさらにエネルギー吸収を増やす必要 があることがわかった。そこで、その2では、本報で明らかになった 図 19 2 連モデル 変形角-水平力関係 包絡線 図 20 exp-2CT1r 1/30rad 履歴ループ (a) 全体の変形 (b) 引張側ヒンジライン①の変形 写真 5 終局後の exp-CTr の変形の様子 ヒンジライン長さとエネルギー吸収量に着目して、折り紙としての 機構を活用し、ヒンジラインを長くすることでダンパーのスリップ 性状を改良する試みについて報告する。 参考文献 1)中澤 嘉明 断面形状制御によるクラッシュボックスの衝撃エネルギー吸 収性能の向上 日本機械学会誌 2009. 8 Vol. 112 No.1089 p.94 2)木造軸組工法住宅の許容応力度設計,公益財団法人日本住宅・木材技術セン ター,2017.3 3)葛原彩乃,坂田弘安,山崎義弘,小谷竜城,伊藤洋路,藤弘東,木質狭小幅真壁 の 力 学 的 挙 動 に 関 す る 研 究 , 日 本 建 築 学 会 大 会 学 術 講 演 梗 概 集 ,pp49-50,2014.9 4)田口朝康,里村憲光,西野晃充,大橋好光,伸び部を有する柱脚金物を用いた モーメント接合に関する研究,日本建築学会大会学術講演梗概集,pp.407-408,2018.9 5)高橋祐貴,川口健一,田口朝康,西野晃充,横山眞一,杉本浩章,大矢俊治,折紙 型立体抵抗機構を用いた木造住宅用履歴型制振機構に関する実験及び数値 解析による基礎的研究,生産研究,71 巻,6 号,2019,pp.1065-1069 6)高橋祐貴,川口健一,田口朝康,西野晃充 折紙型立体抵抗機構を用いた木造 住宅用履歴型制振機構に関する基礎的研究 日本建築学会大会学術講演集, pp.437-438, 2019 [2020 年 6 月 3 日原稿受理 2020 年 9 月 4 日採用決定]