新 ・ コ ケ 百 選 New series of Koke-Hyakusen (Wonderful moss world) 秋山弘之:新・コケ百選 第22回 ヒラゴケ科(蘚類)
Hiroyuki Akiyama: Wonderful moss world, 22. Neckeraceae(Musci) 温帯から熱帯にかけて広く分布するヒラゴケ科 Neckeraceaeには,ヒラゴケ属Neckera Hedw.やオオ トラノオゴケ属 Thamnobryum Nieuwl.など日本の森 や渓流沿いではどこにでも見られる種があり,私たち にはとてもなじみ深い蘚類の一群です.二次茎は基物 から立ち上がってしばしば羽状に分枝し,葉は 平に ついて時に著しい横皺があること(リボンゴケやキダ チヒラゴケのように皺の無いこともありますが),蒴 柄は短いことが多く,蒴は直立した円筒形で,ヒラゴ ケ型の蒴歯を持つことなどの特徴でまとまっていま す.ヒラゴケ型蒴歯とは,全般に蒴歯の発達がよくな く,外蒴歯の歯片外面には横筋が発達せず平滑あるい はパピラをもち,内蒴歯は歯突起(セグメント)の発 達が良くなく線形で,間毛を欠くといった特徴でまと められる蒴歯のことです(秋山 1989, 野口 1976).ち なみに,外蒴歯の歯片に横筋が発達し,内蒴歯の歯突 起が披針形となり外蒴歯の歯片とほぼ同じ長さがあ り,ある程度の高さになる基底膜の上に間毛が発達し ているのがハイゴケ型蒴歯です.ヒラゴケ科の中でオ オトラノオゴケ属は,ハイゴケ型の蒴歯を持っていま す.またヒラゴケ科の仲間は樹幹に着生する種が多く ありますが,多くの種にとって分布の北限となる日本 列島では,なぜか谷間の石灰岩によく出てくることも 特徴の一つです. ヒラゴケ科は世界に約 200 種が知られています.長 年にわたってヒラゴケ科の種分類を研究してきたフィ ンランドのEnroth博士の協力のもと,分子系統分類を 精力的に推し進めているOlsson博士らの研究グループ は,ヒラゴケ科に 3 つの群を認めています(Olsson et al. 2009b).それは,(1)Neckera Group: ヒラゴケ型 の蒴歯をもち,蒴は沈生あるいは短く超出し,葉の中 肋の発達が弱い群,(2)Thamnobryum Group: ハイゴ ケ型の蒴歯をもち,蒴柄は長く伸び,中肋が長い群(主 に ア フ リ カ,南 米 に 分 布),そ し て(3)Pinnatella Group: ヒラゴケ型の蒴歯をもち,中肋が長い群です. 平凡社図鑑(岩月2001)によればヒラゴケ科の日本 産の属と種の数は,8 属 25 種,Iwatsuki(2004)では オオトラノオゴケ属をヒラゴケ科に含めている関係で 9 属 33 種,Suzuki(2016)では 8 属 27 種が認められて います.ところが近年の分子系統解析の進展とともに, 従来のヒラゴケ科の概念が大きく変貌を遂げてきまし た.それにともないいくつもの属がヒラゴケ科から他 の科に移され,逆にヒラゴケ科に新たに編入された属 や種も少なくありません.新しくヒラゴケ科のメン バーとされた属の代表は,元イトヒバゴケ科 Crypha-eaceaeのスズゴケ属Forsstroemia Lindb.,そして元タ イワントラノオゴケ科 Prionodontaceae のタイワント ラノオゴケ属 Taiwanobryum Nog. です.一方,別の 科に配属されたものとしては,2009年に設立されたミ ヤベゴケ科 Miyabeaceae に移されたシタゴケ属 Bisse-tia Broth. とタチヒラゴケ属 Homaliadelphus Dixon & P. de la Vardeがあげられます (Olsson et al. 2009a).
樹状の植物体を持ち外蒴歯の歯片の表側に横筋が発 達することでBuck & Vitt(1986)によってヒラゴケ 科から独立させることが提案されたオオトラノオゴケ 科Thamnobryaceaeは,いまや再度ヒラゴケ科のメン バーに収まっています(Enroth et al. 2019, Goffinet et al. 2008).オオトラノオゴケ属は後述する Porotri-chum (Brid.) Hampe など新大陸の属群と近縁である ことがわかってきています.同じように二次茎が立ち 上り,分化した柄の上部が羽状あるいは樹状に分枝す る点でオオトラノオゴケ属と似ているキブリハネゴケ 属Pinnatella M. Fleisch.は,蒴歯がヒラゴケ型ですの で,植物体の類似は見かけだけのものと考えるのが良 さそうです(前述のヒラゴケ科を3つに分ける体系で も,それぞれ別の群に当てられています).キブリハ ネゴケ属はタイワントラノオゴケ科として独立の科と して扱われていたタイワントラノオゴケ属と近縁であ ることが分かっています.[注:Suzuki(2016)では Goffinet et al.(2008)の見解を採用してスズゴケ属と タイワントラノオゴケ属をスズゴケ科 Leptodontace-ae に分類しています.しかしながら,スズゴケ科に は形態的なまとまりが認められず,また分子系統学的 解析からも単系統群とはならないため,スズゴケ科を 認めるのはすこし古くさいように思われます.] ヒラゴケ科を定義する形質と近縁科との違い ヒラゴケ科とその周辺の群については,近年分子系
統解析を中心とした研究が進んでいます.その結果系 統関係そのものは明瞭になりつつあるのですが,逆に 形態形質による科の定義が困難になっているのが現状 です.系統の分岐と形質の分化の程度が一致していな いのです(それだからこそ,形態形質に基づく系統解 析がうまくいかなかったわけなのですが).例えば,旧 来のヒラゴケ科には大きく二つのグループがあって, 一方は北半球に,もう一方はアフリカ・南米を中心に 南半球分布していることが系統解析から明らかになっ てきました.この南半球に固有となる群をミナミヒラ ゴケ科(新称)Orthostichellaceaeとしてヒラゴケ科か ら独立させる際,Enroth et al.(2019: 235)は,『新設 されたミナミヒラゴケ科とその結果再定義されたヒラ ゴケ科を,問題無く識別できる形態的な共有派生形質 は見当たらない』と記しているほどです.個人的な希 望としては,分子系統解析(体系分類)と種分類はと もに手を取り合って進んでほしいのですが,現状はど うもそうではありません.世界の多様性を正確に記述 する「種分類学」にこそ興味の中心があるものにとっ ては,なかなか理解が追いつかない事態であると感じ られてしかたありません.余談ですが,ヒラゴケ科と ミナミヒラゴケ科の関係は,前回扱ったナガハシゴケ 科Sematophyllaceaeの多くの分類群が南米に分布する 一方,その姉妹群のコモチイトゴケ科Pylaisiadelphace-aeは多くがアジアに見られることに似ています. 以下この小論では話が散漫にならないよう,日本に 分布する種群だけを扱うことにします. ヒラゴケ科の属の変遷 従来ヒラゴケ科とされた日本産の属について,どの ような取り扱いの変更があったかを Goffinet et al. (2008),Olsson et al. (2009a, b)を参照しながらまと
めると,以下のようになります. ○ヒラゴケ科Neckeraceae 1)Bissetia Broth. シタゴケ属 Miyabeaceaeミヤベゴケ科に所属が変更になりま し た.ミ ヤ ベ ゴ ケ 科 と い う の は Olsson et al. (2009a)によって設立された,ミヤベゴケ属 Miya-bea Broth. とシタゴケ属,タチヒラゴケ属の 3 属だ けを含む小さな科です.この科のメンバーでは,葉 の基部が茎に流れるかローブ状になり,葉頂は広く 鋭頭から鈍頭,葉細胞は小型で厚膜,しばしばくび れがあり(porose),中肋は欠くか弱く,蒴は直立 して相称,蒴歯は退化的で内蒴歯は無いか痕跡的と いったような特徴が共有されています.矮雄を持つ ことも共通点の一つです.
2)Homalia (Brid.) Schimp. ヤマトヒラゴケ属 キヌイトゴケ属のところでも触れますが,系統的 なまとまりについては,いろいろと問題の多い属の ようです.また,変種として扱われているヤマトヒ ラ ゴ ケ H. trichomanoides (Hedw.) Schimp. var. ja-ponica (Besch.) S. Heは基本種のナガエタチヒラゴ ケとは,中肋の長さや 枝を持つことなどで異な り,分子系統解析からも別種とするのが適当だとい う見解が出されています(Ignatov et al. 2019). 3) Homaliadelphus Dixon & P. de la Varde タ チ ヒ
ラゴケ属 ミヤベゴケ科に所属が変更になりました. 4)Homaliodendron M. Fleisch. キダチヒラゴケ属 狭義キダチヒラゴケ属 Homaliodendron とハゴロ モゴケ属Circulifolium属に分割されました.下の検 索表にも反映させましたが,両属の区別については Enroth & Koponen (2017)が参考になります. 5)Neckera Hedw. ヒラゴケ属
日本産13種のうちエゾヒラゴケを含む4種がスズ ゴケ属に移動させられました.新大陸のヒラゴケ属 は新設のExsertotheca S. Olsson et al.とAlleniella S. Olsson et al. に移されています(Olsson et al. 2011: 45).また北米西岸と台湾に分布するAlsia属は,一 時スズゴケ科に分類されたこともありますが(Goffi-net et al. 2008),現在はヒラゴケ属の異名とされて います(Olsson et al. 2011: 45).またチャボヒラゴ ケN. humilis Mitt.については,エゾヒラゴケとの関 係から考えて,これもスズゴケ属に含まれる可能性 が 高 い で す.さ ら に,カ タ ヒ ラ ゴ ケ N. polyclada Müll. Hal. は,新設された Enrothia 属に移されてい ます(Ignatov & Fedosov 2019).この属は今のとこ ろ 1 種だけが含まれる単型属ですが,他に N. war-burgii Broth.(日本未産)が所属する可能性があり ます(Olsson et al. 2010, p. 118).日本産のヒラゴケ 属では,まだ系統解析が終わっていない種があり, それらの所属は今のところ未確定です. 6)Neckeropsis Reichardtリボンゴケ属 葉頂が円形で中肋があまり長くならず,葉に横皺 があり,胞子体が沈生するかわずかに超出する種が まとめられていました(リボンゴケは例外で横皺が ない).Olsson et al. (2010)はリボンゴケ属が多系統
群であることを指摘しましたが,解析できた種数が 全27種中の7種と少なかったため結果を保留してい ました.後にOlsson et al. (2016)はさらに詳細な系 統解析を実施し,リボンゴケ属が5つの属へ分割さ れるべきことを明らかにしました.それらは狭義 Neckeropsis, Neckeromnion S. Olsson et al., Pengchengwua S. Olsson et al., Planicladium S. Ols-son et al.,そ し て Pseudoparaphysanthus (Broth.) S. Olsson et al.です.日本産4種のうち,リボンゴケは Planicladium属に,セイナンヒラゴケとヒメリボンゴ ケはNeckeromnion属に,トサヒラゴケはPengcheng- wua属にそれぞれ組み替えられました.狭義のNeck-eropsis属がもっとも多くの種を含みますが,リボン ゴケ属として日本から報告されていた4種はすべて 新設された属に移されたわけです. 一方,エビスゴケ属 Himantocladium (Mitt.) M. Fleisch. に分類されてきたエビスゴケは狭義 Neck-eropsis 属に移されました.結果,日本産種として はエビスゴケ属にはハネエビスゴケだけが残ってい ます(Olsson et al. 2016).リボンゴケが旧リボン ゴケ属から,エビスゴケが旧エビスゴケ属から移さ れてしまいましたので,混乱をさけるために両属と もに属の和名の変更が望ましいと考えます. 7)Pinnatella M. Fleisch. キブリハネゴケ属 狭義キブリハネゴケ属と Caduciella Enroth に分 割され,さらにいくつかの種がNeckeromnionとタ イワントラノオゴケ属に組み替えられました(Ols-son et al. 2010, 2016).また東南アジア産で日本に は分布しませんが,軟弱な植物体をしており立ち上 がる二次茎の柄につく葉が圧着する点で特異な形態 をしている P. mariei (Besch.) Broth. は,新設され た属である Caduciella Enroth に組み替えられまし たが(Enroth 1994),タイワントラノオゴケ属に入 れるべきとの見解もあります(Olsson et al. 2010). ○イトヒバゴケ科Cryphaeaceae 8)Forsstroemia Lindb. スズゴケ属 ヒラゴケ科に所属が変更になりました.以前はス ズゴケ科 Leptodontaceae Schimp. として扱われた こともありますが(Enroth 1991 他),現在はヒラ ゴケ科の仲間とすることで落ち着いています. ○トラノオゴケ科Lembophyllaceae
9)Dolichimitra (Lindb.) Broth. トラノオゴケ属
一時はヒラゴケ科に含める見解が出されましたが (Goffinet et al. 2008),従来通りにトラノオゴケ科 に含めるべきとの研究結果が最近になって出ていま す(Ignatov et al. 2019; Enroth et al. 2019). ○タイワントラノオゴケ科Prionodontaceae
10)Taiwanobryumタイワントラノオゴケ属 旧タイワントラノオゴケ科の一部はヒラゴケ科に 統合されています.そしてその際,タイワントラノ オゴケ属の定義にかなりの変更が加えられました (Olsson et al. 2009a, 2010).元々は,大型の植物体 をもち,二次茎の柄ははっきりせず,卵状披針形の 葉を密につけ,葉縁には粗い鋸歯があり,中肋は一 本で強壮,葉細胞は波状に肥厚(incrassate)して, 蒴柄は長く上部にはマミラがあり,蒴は直立して相 称,外蒴歯の歯片はパピラに覆われ,内蒴歯を持た ないという特徴で定義されていました.ところが, 系統解析の結果に基づいてキブリハネゴケ属からい くつかの種が移されたため,タイワントラノオゴケ 属の形態的なまとまりは失われてしまいました.形 態だけで両属を的確に認識するのは,現状ではかな り困難です. ○ シノブゴケ科Thuidiaceae[あるいはキヌイトゴケ 科Anomondontaceae(Goffinet et al. 2008: 125)] 11)Anomodon Hook. & Taylorキヌイトゴケ属
従来のキヌイトゴケ属は,狭義キヌイトゴケ属 (従来のほとんどの種を含み,イワイトゴケ属Hap-lohymeniumと姉妹群になります),Anomodontella Ignatov & Fedosov, Anompdontopsis Ignatov & Fedosov,そ し て Pseudanomodon (Limpr.) Igna-tov & Fedosov の 4 属に分割されました(IgnaIgna-tov et al. 2019).なぜここでキヌイトゴケ属を取り上げ るかと言うと,オオギボウシゴケモドキAnomodon giraldii Müll.Hal. をヒラゴケ科とする提案がこの論 文でなされているからです. 樹状に分枝する二次茎を持ち,葉が卵形で鋭頭に なるなどの点でキヌイトゴケ属の中ではかなり異質な 存在であったオオギボウシゴケモドキは,Olsson et al. (2010)によってヤマトヒラゴケ属に移されました. しかし,形態的な進化の面からは依然としてその所 属は不明確なままでした(Enroth et al. 2019).Igna-tov et al. (2019)はこの問題に新たな解決策を与えま した.つまりオオギボウシゴケモドキを新設した
Pseudanomodon属 (本属にはオオギボウシゴケモド キの他にもう一種,国外産のAnomodon attenuatus を含みます)に組み替え,ヒラゴケ科の仲間としたの です.ただし彼らが提示した系統樹の解釈には疑問 な点があり,特にヤマトヒラゴケ属との関係の検討は 不十分です.例えば,葉緑体DNAの4つの遺伝子を 合わせて解析した系統樹では,どう見てもOlsson et al. (2010)が提示したように,ヤマトヒラゴケ属に問 題となるヤマトヒラゴケとオオギボウシゴケモドキの 両方を含めるのが適当に見えます.一方,核ITS領域 を使った解析ではPseudanomodonの単系統は支持さ れますが,あまり明瞭ではありません.とりあえずこ こではIgnatov et al. (2019)の見解に従っておきます が,それはヤマトヒラゴケとオオギボウシゴケモドキ が,同じ属とするにはあまりに両種の形態が異なって いるからです.ちなみに他の日本産キヌイトゴケ属植 物では属の所属に変更はありません. 12)Heterocladium Schimp. イセノイトツルゴケ属 平凡社図鑑ではシノブゴケ科に入れられています が,Goffinet et al. (2008)で は Pteryginandraceae に移されました.Ignatov et al. (2019, fig. 3)によ る系統解析ではトラノオゴケ科に含まれることが示 唆されています.ただし日本産のイセノイトツルゴ ケH. capillaceum Ishibaは分子系統解析で検討され た種群に含まれていませんので,その所属について は今後の検討が必要です. 日本産ヒラゴケ科一覧 以上の変更を反映させると,日本産ヒラゴケ科は以 下のような 15 属 38 種 3 変種にまとめることができま す.「≡」は従来使われていた学名を示しています. Circulifolium S. Olsson et al. ハゴロモゴケ属(新称)
C. exiguum (Bosch & Sande Lac.) S. Olsson et al. (2010: 120)ヒメハゴロモゴケ
≡Homaliodendron exiguum (Bosch & Sande Lac.) M. Fleisch.
C. microdendron (Mont.) S. Olsson et al. (2010: 120)ホウライハゴロモゴケ
≡Homaliodendron microdendron (Mont.) M. Fleisch.
Enrothia Ignatov & Fedosovカタヒラゴケ属(新称) E. polyclada (Müll. Hal.) Ignatov & Fedosov (Fe-dosov & Ignatov 2019: 16)カタヒラゴケ
≡Neckera polyclada Müll. Hal.
Forsstroemia Lindb. スズゴケ属 F. cryphaeoides Cardotヒメスズゴケ
F. goughiana (Mitt.) S. Olsson et al. (2011: 45) ホ ソヒラゴケ
≡Neckera goughiana Mitt.
F. japonica (Besch.) Parisヒナイトゴケ
F. konoi (Broth.) Enroth et al. (2019: 20)タカネメ リンスゴケ
≡Neckera konoi Broth.
F. neckeroides Broth. フトスズゴケ F. noguchii L.R. Starkシライワスズゴケ F. trichomitria (Hedw.) Lindb. スズゴケ
F. yezoana (Besch.) S. Olsson et al. (2011: 45) エ ゾヒラゴケ
≡Neckera yezoana Besch.
Himantocladium (Mitt.) M. Fleisch. ハネエビスゴケ 属(新称)
H. plumula (Nees) M. Fleisch. ハネエビスゴケ Homalia (Brid.) Schimp. ヤマトヒラゴケ属
H. trichomanoides (Hedw.) Schimp. ナガエタチヒ ラゴケ
H. trichomanoides. var. japonica (Besch.) S. He (1995: 335) ヤマトヒラゴケ Homaliodendron M. Fleisch. キダチヒラゴケ属 H. flabellatum (Sm.) M. Fleisch. キダチヒラゴケ Neckera Hedw. ヒラゴケ属 N. borealis Nog. ナヨロヒラゴケ N. coreana Cardotコマノヒラゴケ N. humilis Mitt. チャボヒラゴケ (注)本種の所属 は未確定. N. fauriei Cardotサイシュウヒラゴケ N. flexiramea Cardotコメリンスゴケ N. nakaziame(Iisiba)Nog. モロハヒラゴケ N. pennata Hedw. ハネヒラゴケ N. pusilla Mitt. ヒメヒラゴケ
N. pusilla var. pendula Nog. サガリヒメヒラゴケ Neckeromnion S. Olsson et al. セイナンヒラゴケ属 (新称)
N. calcicola (Nog.) S. Olsson et al. (2016: 65) セイナ ンヒラゴケ
≡Neckeropsis calcicola Nog.
N. gracilentum (Bosch & Sande Lac.) S. Olsson et al.(2016: 65)ヒメリボンゴケ
M. Fleisch.
Neckeropsis M. Fleisch. エビスゴケ属(新称) N. cyclophylla (Müll. Hal.) S. Olsson et al. (2010: 120)エビスゴケ
≡Himantocladium cyclophyllum (Müll. Hal.) M. Fleisch.
Pengchengwua S. Olsson et al.トサヒラゴケ属 (新称) P. obtusata (Mont.) S. Olsson et al. (2016: 63) ト サ ヒラゴケ
≡Neckeropsis obtusata (Mont.) M. Fleisch. Pinnatella M. Fleisch. キブリハネゴケ属
P. ambigua (Bosch. & Sande Lac.) M. Fleisch. マメ ハネゴケ
P. makinoi (Broth.) Broth. キブリハネゴケ Planicladium S. Olsson et al. リボンゴケ属(新称)
P. nitidulum (Mitt.) S. Olsson (2016: 64) リボンゴケ ≡Neckeropsis nitidula (Mitt.) M. Fleisch. Pseudanomodon Ignatov & Fedosov オオギボウシゴ ケモドキ属(新称)
P. giraldii (Müll. Hal.) Ignatov & Fedosov (2019: 85) オオギボウシゴケモドキ
≡Anomodon giraldii (Müll. Hal.) Keissl.
≡Homalia giraldii (Müll. Hal.) S. Olsson et al. (2010: 120)
Taiwanobryum Nog. タイワントラノオゴケ属 T. anacamptolepis (Müll. Hal.) S. Olsson et al. (2010: 120) モミノキゴケ
≡Pinnatella anacamptolepis (Müll. Hal.) Broth. ≡Shevockia anacamptolepis (Müll. Hal.) Enroth & M.C. Ji (2006: 74)
T. speciosum Nog. タイワントラノオゴケ Thamnobryum Nieuwl. オオトラノオゴケ属
T. alopecrum (Hedw.) Nieuwl. キツネノオゴケ T. coreanum (Card.) Nog. & Z. Iwats. コ マ ト ラ ノ オゴケ
T. incurvum (Nog.) Nog. & Z. Iwats. カギバトラノ オゴケ
T. planifrons (Broth. & M. Yasuda) Nog. & Z. Iwats. ヒラトラノオゴケ
T. plicatulum (Sande Lac.) Z. Iwats. キダチヒダゴケ T. plicatulum var. japonicum (Sakurai) Nog. & Z. Iwats. ヒロハトラノオゴケ
T. subseriatum (Mitt. ex Sande Lac.) B.C. Tan オ オトラノオゴケ ヒラゴケ科の各属の形態的特徴と近縁属との違い 前項で示したヒラゴケ科大要はこれまで私たちが慣 れ親しんできたものから大きく変更されています.系 統関係を反映させて分類体系を構築する立場を採るな らば仕方の無いことなのですが,はたしてこうやって 提示される体系が,それぞれのグループが持つ形態の 類似点や近縁属との違いを論理的にうまく説明できる のかはしっかりと考えなければなりません.そしてそ の上で,この分類体系を受け入れるかどうかを決める のが良いと思います.それは,それぞれの科や属の形 態的特徴が明確でなければ,目の前にある世界を認 識・識別する上でも,蓄積された情報を体系立てて整 理する上でもうまく機能しない,言い換えれば役に立 たないからです. ヒラゴケ科について言えば,特に混乱しやすいのは ヒラゴケ属とスズゴケ属,そしてキブリハネゴケ属と タイワントラノオゴケ属の新しい関係です.このグ ループを研究した Olsson et al.(2011)も,論文中の 議論においてたくさんの言葉を並べてはいますが,ど の形態形質で両属をうまく識別できるかについては全 くコメントしていません.形態形質でしっかりと定義 されない状態なのですから,私たちはこれまで通りヒ ラゴケ属ならヒラゴケ属,スズゴケ属ならスズゴケ属 の,旧来の検索表を使うしかないでしょうし,それで 問題無いと思います.目下研究が進みつつあるハイゴ ケ科とその周辺でも(例えば,He 2019, Ku era et al. 2019),多くの属で今後このような事例が増えてくる と思われます.このような事態がなぜ起こるかと言え ば,研究者が悪いのでは無く,ヒラゴケ科では二次茎 の柄の分化,雌雄性,植物体の光沢,茎への葉の付き 方,葉の横皺,葉先の形状,中肋の長さ,蒴歯など, 分類する上で利用してきた形質が,岩上・樹幹着生と いう生き方にともなって,多くの群で繰り返し繰り返 し平行的に進化した結果だと考えるべきです.頻繁に 適応的変化が生じたため,形態の類似が類縁の近さの 指標にならないのです. ここでは平凡社版図鑑の検索表に必要な修正を加え て,日本産ヒラゴケ科の各属がどのように識別される のか示してみます.それぞれの属の特徴をできるだけ 書き出したために通常の検索表とは異なり,形質状態 が対になっていない部分もあります.またこの試みは あくまでも文献からの情報にだけ基づいたものですか ら,私自身の誤解やいずれ近い将来に修正が必要にな る点が少なくないことでしょう.ヒラゴケ属とスズゴ
ケ属については,上述のように形態で仕分けることが 難しいので,この検索表では一つにまとめています. またこの検索表は国外産の属や種には当てはまらない 点にもご注意ください. 日本産ヒラゴケ科各属への検索表(試行版) 1. 蒴歯はハイゴケ型;外蒴歯歯片下部に密に横条が あり,上部にパピラがある.内蒴歯はよく発達し て,歯突起は披針形.間毛がある. 2 1. 蒴歯はヒラゴケ型;外蒴歯歯片は全面にパピラが ある.内蒴歯は退化的. 3 2. 植物体は大型.葉は茎に丸くつくか, 平について も光沢はない.中肋は葉先近くに達し,背面に数 個の歯がでることがある.葉は茎に丸くついて光 沢は少ない.蒴柄は15 mmより長い. オオトラノオゴケ属Thamnobryum 2. 植物体は小型で,葉は強く 平について著しい光沢 がある.中肋は葉の中部のすこし上に達し,背面 は平滑.蒴柄は10 mm以下. ヤマトヒラゴケ属Homalia 3. 中肋は強壮で葉先近くに達する. 4 3. 中肋は細くて,葉先よりもずっと下で消えるか,ま たは欠く. 5 4. 植物体は中型.二次茎は羽状に分枝.葉に縦皺がで ることはない. キブリハネゴケ属Pinnatella 4. 植物体は大型.二次茎は不規則に分枝.葉面中央に 縦にうねった皺がある. タイワントラノオゴケ属Taiwanobryum 5. 葉先は鋭頭∼鈍頭 6 5. 葉先は鈍頭から円頭または切頭 10 6. 葉は著しく 平につき,光沢がある リボンゴケ属Planicladium 6. 葉はゆるく 平あるいは丸くつき,光沢は弱い. 7 7. 著しい横皺がある.植物体は固い.石灰岩上に生 育. カタヒラゴケ属Enrothia 7. 横皺は弱いか,はっきりしている.植物体は固くな い. 8 8. 二次茎は樹状に分枝し,基物から下向きに湾曲す る.中肋は葉先に達する.葉細胞は不規則な方形 ∼菱形,厚角で多くの小さいパピラがある. オオギボウシゴケモドキ属Pseudanomodon 8. 二次茎は不規則あるいは羽状に分枝,乾くと上向き に湾曲することが多い.中肋は弱く,長くても葉 中部まで.葉細胞は方形から紡錘形まで様々だが 平滑.葉翼部は方形に分化することがある. ヒラゴケ属Neckera+スズゴケ属Forsstroemia 10. 二次茎は 2‒3 回羽状に分枝し,枝は同一平面上で うちわ状となり柄部は明瞭. 11 10. 二次茎はまばらに不規則に分枝するか,あるいは 一回羽状に分枝,柄部は不明瞭. 13 11. 二次茎の枝につく葉も強く 平で植物体全体に強 い光沢がある.(葉はやや匙状で円頭,全縁あるい は弱い微歯があり,偽毛葉は線形.) ハゴロモゴケ属Circulifolium 11. 二次茎の葉はやや 平につくが光沢が見られるこ とがある.枝はやや丸くついて光沢はない(キダチ ヒラゴケで二次茎が枝を出す前の茎葉だけの状態 では,葉は強く 平につき強い光沢が目立つ). 12 12. 二次茎の茎につく葉,特に茎につく葉は強く 平 で光沢がある.葉の上部にはとさか状の二重鋸歯 がある.暖温帯各地に広く分布.(雌苞葉は葉状.) キダチヒラゴケ属Homaliodendron 12. 二次茎につく葉は横皺があり,あまり 平にならず 光沢もない.日本では琉球のみ.[雌雄異株.葉基 部の細胞は顕著にくびれがあり,葉頂は不規則な鋸 歯を持ち,造卵器を保護する側糸は受精後にラメン タ(ramenta)と呼ばれる葉状の構造に変化する. 多くの種は二次茎に柄が分化せず上部も羽状分枝し ないが,エビスゴケでは柄の分化が見られる.] エビスゴケ属Neckeropsis 13. 葉に横皺があまりない.中肋は長くて葉頂の 4/5 に達する.雌雄同株でよく胞子体をつける.日本 では琉球のみ.(葉細胞にくびれはない.葉頂は微 鋸歯を持つ.蒴柄は 2 mm ほどの長さがあって上 部にわずかにマミラがあり,蒴は雌苞葉から抜き 出る.) ハネエビスゴケ属Himantocladium 13. 葉には著しい横皺がある.中肋は葉の中部に達す る.雌雄異株だがトサヒラゴケ属のみ同株. 14 14. 葉に強い光沢があり,縦皺はない.葉先には微突 起がある.葉の上方の縁には微歯がある.(雌雄異 株.葉は強く 平につき,基部は耳状にならない. リボンゴケと東南アジア産の P. semperianum の 2 種のみからなる.) リボンゴケ属Planicladium 14. 葉に光沢はなく,明瞭な多くの横皺がある.葉先 は切頭から円頭で微突起はなく,葉縁はほぼ全縁. 雌雄異株あるいは雌雄同株(同苞). 15 15. 葉先は切頭になり角張る.葉面の横皺は深くて規
則的.蒴は苞葉の上にでる.主に石灰岩に生える. 雌雄異株.(形態的に多型な属.中肋は短い.蒴は わずかに雌苞葉から超出して,雌苞葉は 1.5 mm 長.セイナンヒラゴケは雌雄異株でまれにしか胞 子体をつけないが,胞子体が無い場合,東南アジ アに多産するN. lepineanumとの区別が難しい.) セイナンヒラゴケ属Neckeromnion 15. 葉先は円頭で,葉面の横皺はやや弱い.蒴は苞葉 の間に深く沈生する.多くは樹上や岩面に生える. 雌雄同株(同苞).(中肋は葉の中部以下まで.数 細胞からなる線状で短い偽毛葉を持つ.世界にト サヒラゴケ1種のみ.) トサヒラゴケ属Pengchengwua ヒラゴケ科の代表的な仲間の紹介 ○チャボヒラゴケ(図1‒2) やや乾燥する林内でも旺盛に生育して大きな群落を 樹幹につくるので,関西の低地林など暖温帯ではよく 目にする蘚類です.ヒラゴケ科の中では茎に葉が丸く つくという変わった特徴があります.国内ではより北 方あるいは冷温帯を中心に分布するとされるエゾヒラ ゴケ(図3)は,植物体の形状はチャボヒラゴケとよく 似ていますが,蒴が深く沈生する点で異なっています. ところが興味深いことに,エゾヒラゴケは分子系統解 析の結果からスズゴケ属として扱うことが妥当とされ ています.となると,チャボヒラゴケも同じくスズゴケ 属として扱うのが適当かもしれませんが,まだ調べら れていません.もっとも,種を広く採る研究者であれ ばチャボヒラゴケとエゾヒラゴケを同種として扱うの かもしれません. エゾヒラゴケとの分布の違い,気候帯に対応した棲 み分けについてはTanaka & Nishimura(2001)やShi-rasaki(2000)に詳しく論じられています.その関係は, 同様に非常に近縁で形態での識別が難しいイタチゴケ Leucodon sapporensis Besch. と ト ガ リ イ タ チ ゴ ケ L. nipponicus Nog.が冷温帯と暖温帯に住み分けているこ ととよく似ています(秋山1988).このような近縁種ペ アーが棲み分ける事例は少なくないのかもしれません. ○コメリンスゴケ(図4) ヒラゴケ属の中では,もっとも植物体が軟らかく, 着生する幹から垂れ下がって生えるのが特徴的です. 茎に対して 平に葉がつくことや葉の上部が波打つこ となどはヒラゴケ属に共通する形質です. コメリンスゴケが着生する様子や葉先の尖り具合, 葉上部に横皺が出る点などは,本州南岸に分布するシ ダ レ ウ ニ ゴ ケ Symphyodon perrottetii Mont.(図 5) にそっくりでよくだまされます.ただ,茎や枝はしっ かりとしているので枝先が多少とも斜め上に向く点 が,植物体全体が軟弱で基物に密着して全体が下向き に生えるシダレウニゴケと違うところです.シダレウ ニゴケの蒴壁には刺がありますから,胞子体があれば 区別は容易です.ただし,従来は1種とされてきた日 本産シダレウニゴケにもいくつかの種があり,中には しっかりとした枝を横に張り出すものもあります(秋 山2017). ○ヒナイトゴケとヒメスズゴケ ヒナイトゴケ(図6‒7)とヒメスズゴケ(図8)は, 植物体の形状が非常に似ており,胞子体をつけていな いと区別が容易ではありません(Stark 1987).前者 は蒴が雌苞葉から抜き出ていて,後者は沈生していま す.また,ヒナイトゴケは分枝が規則的で多数の無性 芽をつけますが,ヒメスズゴケは分枝がやや不規則で 無性芽をつけません.この両種の関係については,奇 妙な組み替えが提唱されたことがあります(Olsson et al. 2012).彼らによると両種は全く疎遠で,ヒナイ トゴケは中国に固有で大型の植物体を持つ Pseudop-terobryum属に分類されるというのです. 収斂や平行進化による形態の類似(他人のそら似) が至るところで観察されるのは確かですが,それは機 能に特化した,見た目での類似であり,綿密に検討す れば形態の類似は系譜の近さをかなり良く反映するも のです.ですから,彼らの結論を見て直感的に再調査 が必要性だと感じました.もちろんそれは,両種がと もに日本を分布の中心とする種だから,日本人研究者 にも真相を明らかにする「責任」があると感じたから でもあります.そして分かったのは,彼らの結論は 誤った系統推定に基づいていたということでした.要 約 す る と,中 国 産 Pseudopterobryum tenuicuspis Broth.のサンプルとヒナイトゴケのサンプルを取り違 えるミスを犯していたのです.もし彼らがヒナイトゴ ケを複数のサンプルについて解析していたら,このよ うな単純な誤りにはすぐに気づいていたことでしょ う.彼らの誤りを正し,かつ新たに加えたデータも合 わせて系統解析を行うと,従来通りにヒメスズゴケと ヒナイトゴケはきわめて近縁な姉妹群関係にあること がはっきりと示されました(Akiyama 2016).
図1‒16. 1. チャボヒラゴケ.2. チャボヒラゴケ胞子体.3. エゾヒラゴケ胞子体.4. コメリンスゴケ.5. シダレウ ニゴケ.6 & 7. ヒナイトゴケ.8. ヒメスズゴケ.9. リボンゴケ.10. リボンゴケ胞子体.11. ホウライハ ゴロモゴケ.12. オオトラノオゴケ胞子体.13. オオトラノオゴケ.14. タイワントラノオゴケ.15. キブ リハネゴケ.16. キダチヒラゴケ.(1‒8は著者撮影,他は平岡正三郎氏撮影).
その際,副産物として分かった興味深いことは,ヒ ナイトゴケでは地理的に離れた複数のサンプル間で DNAの配列にわずかな違いしか見出されませんでした が,ヒメスズゴケでは地域間の差が大きかったというこ とでした.ヒナイトゴケは大量の無性芽を頻繁につくり ますが,このことと地域集団間の遺伝的な変異の多寡 が関係しているのかもしれません.またヒメスズゴケは 中部以西に分布が限定されますが,ここでもまた,チャ ボヒラゴケとエゾヒラゴケの関係(Tanaka & Nishimu-ra 2001),あるいはイタチゴケとトガリイタチゴケの関 係(秋山1988)を彷彿とさせる例があるようです. ○リボンゴケ 属の変遷のところで詳述したように,旧リボンゴケ 属は文字通りバラバラに解体されてしまいました.形 態からはよくまとまっていると思われたグループが実 は多系統群の寄せ集めだったという好例です.東南ア ジアに行くと良く目にするキダチゴケ属 Hypnoden-dron(Mull. Hal.)Lindb. ex Mitt.が,分子系統解析の 結果いくつもの属に分割された場合と良く似ています (Bell et al. 2005).どちらの属も形態に基づく分類学 的整理を行ったのが,ライデンにあるオランダ国立植 物標本館の高名な分類学者 A. Touw 博士だったのは 奇遇なのでしょうか(Touw 1962, 1971).あるいは ヨーロッパ的まとめ好き(lumper)気質による分類 学的研究が直面する問題なのかもしれません.もちろ ん,だからといって不必要なまでに細かく分けすぎる のが良いというわけではありませんが. リボンゴケ(図 9‒10)はどこにでも見かける普通 種で,特に沢沿いの岩壁に大きな群落をつくっていま す.日が差せばピカピカと光るほど光沢が強いのがよ い特徴です.葉は強く平板になり全く横皺がありませ んし,葉頂は円頭ですが短い突起があって少しだけ凸 型になるなどの点に注意すると見分けやすいです. 同じ旧リボンゴケ属であったセイナンヒラゴケ(図 11)は,単型属のセイナンヒラゴケ属に移されていま す.西南日本の島嶼では結構見かけることが多く(例 えば屋久島の大川の滝近辺,奄美大島の湯湾岳山頂直 下,徳之島の天城岳など),集団のサイズもかなり大 きいです.産地は限られるのですが,絶滅危惧種とす るにはあまり相応しくないように思われます. ○キダチヒラゴケとホウライハゴロモゴケ 以前は日本に分布するキダチヒラゴケ(図16)に対
し て Homaliodendron scalpellifolium (Mitt.) M. Fleisch. という学名が使われていましたが,今は東南アジアに 広く分布する H. flabellatum と同種と考える人が多い ようです.この種はマレーシアやインドネシアなど東 南アジアで良く見かける普通種ですが,そこでは植物 体は強く 平に葉をつけて光沢も強いのですが,日本 のものにはそれほどの光沢はありません.極端なもの 同士を比較すると別種のようにも見えるほど違いま す.実はこの仲間は形態が非常に多型で,いくつかの 典型品のそれぞれを種と認める研究者もいますし(例 えば Ninh 1984,Pei et al. 2011),深い二重の鋸歯が 葉頂に発達するという形質を重視して形態が似ている 数種をすべて同種とみなす研究者もいます(例えば Enroth 1989).種の捉え方については,今後に残され た検討課題だと思います.単なる予測ですが,他の例 に漏れず,日本の植物も含めその実体は多数のローカ ル種に分れるのではないでしょうか. キダチヒラゴケで面白いのは,立ち上がる二次茎の 軸につく葉と分枝した枝につく葉の形がずいぶんと異 なることです.立ち上がった二次茎はしばらく側枝を あまり出さないのですが,大きめの葉を左右に広げて 見かけ上 平につけます.その姿は通常の分枝した植 物体とはかなり異なる形状をしていて戸惑わされるこ とがあります. 川沿いなどの林内で出会う, 平に葉をつけた植物 体が光沢を持つ種といえば,本州では上に紹介したリ ボンゴケが代表的ですが,日本でもより南の地域に行 くと,ずっと強く 平に葉が重なり合って森の中でぴ かぴかと妖しい光沢を放つホウライハゴロモゴケ(図 11)が姿を見せてくれます.以前はキダチヒラゴケと 同じ属に分類されていたのですが,上のヒラゴケ科大 要にも記したように今は別の属に分類されています. キダチヒラゴケにくらべて植物体はひとまわり小さ く,なにより葉が円頭で二重鋸歯は無くほぼ全縁なの で,違いははっきりしています.沖縄県では準絶滅種 に指定されています(沖縄県2018). ○オオトラノオゴケ属 オオトラノオゴケ属にはたくさんの種が記載されて います.ハイゴケ型の蒴歯と長い蒴柄を持つので,オ オトラノオゴケ科として独立されたこともあります が,現在はヒラゴケ科に分類されています.新大陸あ るいは南半球にもたくさんの仲間があって,それらの 種群はアジアのものとは系統が異なるようで,複数の
属 (Austrothamnium Enroth, Bryobuckia Enroth, Dannorrisia Enroth.などの新しく設立された属,ある いは以前からある Porotrichum Brid. & Hampe など) が広義オオトラノオゴケ属から分離独立させられてい ます(Enroth et al. 2019).その結果狭義のオオトラ ノオゴケ属は北半球温帯に限定されることになりまし た.しかし,そこで見逃せないのは,オオトラノオゴ ケとキツネノオゴケを除く日本産の種の多くが,いま だ系統解析の対象となっていないことです[Enroth et al. 2019: 240; Pei et al.(2011)ではオオトラノオゴ ケ(T. sandei という学名が使われている)とキツネ ノオゴケが姉妹群をつくるという結果がだされていま す].今後の研究の進展が待たれるところです. オオトラノオゴケ属の種を野外で見分けるのはなか なかやっかいですが,立ち上がる柄の様子(鱗片葉の 分化の程度と付き方)や主茎と枝につく葉の大きさと 形の違いの有無,葉の中肋背面上部に目立つ刺の程度 などに注目すると,ある程度は区別することができま す.例えばオオトラノオゴケ(図12‒13)の二次茎の 柄はあまりはっきりせず,柄につく葉は小さいですが 圧着しません.一方キダチヒダゴケの柄は長く伸びて 葉は鱗片状で圧着します.もっとも,生育環境の違い による種内の形態変異がとても大きいですから,自分 が採集した標本が典型品では無い場合,同定が難しく なります.どなたか分類学的な整理をしてくれないも のかとずっと思っています. 国外のオオトラノオゴケ属については,英国固有の 2 種とマカロネシア(アゾレス諸島,カナリア諸島, マデイラ諸島)固有の2種(いずれも渓流植物)の分 布と分化についての興味深い研究成果が発表されてい ます(Olsson et al. 2009c). ○タイワントラノオゴケ 本種は石灰岩の岩壁に大きな群落をつくって着生す る大型の蘚類です.キブリハネゴケ属だった種の相当 数がタイワントラノオゴケ属に組み替えられました. しかしながら両属の形態面の違いはあまりうまく説明 されていないように思います.タイワントラノオゴケ (図14)は柄につく葉も上部の葉と区別がなく,柄の 分化は判然しませんが,例えば中国南西部と台湾に分 布 す る Taiwanobryum guangdongense(Enroth)S. Olsson et al. は,小さい植物体にもかかわらずはっき りとした柄を持っていて(Akiyama & Enroth 2016), 小型のキブリハネゴケ(図 15)を思わせる形状をし ています.正直に告白するならば,外観も葉形や細胞 の様子も,キブリハネゴケ属にしか見えません. タイワントラノオゴケ属に一番近縁なのは,タイ北 部やミャンマー北西部からヒマラヤにかけて分布する 樹 幹 着 生 の Noguchiodendron sphaeocarpum(Nog.) Ninh & Pócs だ そ う で す(Olsson et al. 2016 他).二 次茎には長い柄が発達して上部は樹状に分枝,柄につ く葉は乾くと柄に沿ってくるくると巻き上がり,短い 柄の先に球形の胞子体を持つ蘚類です(Tanaka et al. 2003, p. 38に詳細な図があります). 多くのヒラゴケ科の写真を使わせていただいた平岡 正三郎さん(平岡環境科学研究所),原稿に有益なコ メントをいただいた古木達郎さん(千葉県立中央博物 館)ならびに2名の査読者の方に感謝します. 引 用 文 献
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(〒669‒1546 兵庫県三田市弥生が丘 6 丁目 兵庫県立大 学自然・環境科学研究所/兵庫県立人と自然の博物館) (受理:2020年1月31日)