20世紀初頭のエチオピア南西部カファ地方の歴史解明にむけて ─オーストリアに所在するF.J. ビーバー資料群のデジタル・アーカイヴズ構築─
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(2) 34. 世紀初頭エチオピア無文字社会の歴史解明にむけて」 (基 課題にあたる)にて,F.J. ビーバー資料群のアーカイヴ ズ化に取り組んできた。 一次資料として高い価値を有する資料の詳細解明やデ ジタル化を含むアーカイヴズ研究は,資料データをデジ タル・アーカイヴズ化(データの準備・管理・長期的保 存・利活用・促進など)し,オープン・データやオープン・ アクセスに基づいて広く国際的に公開,共有,利活用可 能な状況を構築することにより,世界各地の研究者,あ るいは現地の人々が資料にアクセスすることが可能にな る。ただし,こうした一連の作業には様々な専門的技術 と知見が必要であり,文化人類学を専門とする筆者一個 人で遂行するには限界がある。こうしたなか,2019 年 度に開始した本研究では,オーストリアにおいてデジタ ル人文学に関する実績がある ACDH-CH と協力し,同 センターに既に蓄積された技術を用いて F.J. ビーバー資 料群のデジタル・アーカイヴズ化を進めている。 研究期間は,2019 年度から 2021 年度である。そのう ち,2019 年 10 月 1 日から 2021 年 3 月 31 日までの期間 は,ACDH-CH に客員研究員として所属している。他方 で,オーストリアでの研究・滞在は,2019 年 9 月末か ら 2020 年 3 月末まで,その後 2020 年 9 月末から 2021 年 3 月末までの 2 回,合計 1 年間の滞在を予定している。 オーストリアでの在外研究期間を 2 回に分けることで, データ準備のための作業時間に余裕をもたせた。 共同研究者は,交付申請書では杉本豪のみとなって いる。しかし実際には,本研究は筆者と杉本に加え, ACDH-CH に所属する Daniel Schopper,Martina Trognitz, Seta Štuhec(いずれも専門はデジタル人文学),Mehmet Emir(写真・映像技術)をはじめとした共同研究者から なるプロジェクト・チームで遂行している。また,オー ストリア国立図書館が所蔵する F.J. ビーバー資料群のデ ジタルデータの共有にむけて,同図書館の Katrin Jilek にも研究協力者として参加してもらっている。. 4. 上記の研究者を共同研究者として選ぶに 至った経緯. F.J. ビ ー バ ー 資 料 群 は, 主 に オ ー ス ト リ ア の ウ ィ ー ン に 位 置 す る 国 立 図 書 館(Österreichische Nationalbibliothek) ,世界博物館(Weltmuseum Wien),ヒー ツィンク区博物館(Bezirksmuseum Hietzing)に所蔵さ れている資料のほか,F.J. ビーバーの孫 K. ビーバー個 人蔵の資料から構成されている。このうち,筆者はヒー ツィンク区博物館所蔵および K. ビーバー個人蔵資料に ついて,2014 年より整理作業や資料詳細の解明に継続. 吉 田 早 悠 里. 的に取り組んできた。2018 年になると,整理・デジタ ル化の作業が完了した資料について,データの共有・保 存・利活用が新たな課題として浮上した。資料詳細を解 明し,資料のデジタル化を完了しても,それらを筆者が 個人的に保管し続けるのであれば,その資料は「眠って いる」に等しいからである。 日本国内では,デジタル・アーカイヴズ化と公開は, 資料を所蔵する諸機関や大学が主体となって自前のシス テムやサーバーを用いて実施することが一般的である。 加えて,こうした一連の作業には様々な専門的技術と知 見が必要であるほか,大半の機関が外部の資料は取り扱 いの対象外としているため,筆者一個人が主にオースト リアの諸機関に分散している F.J. ビーバー資料群のデジ タル・アーカイヴズ化と公開を日本国内で実現すること は至難である。また,F.J. ビーバー資料群の場合,資料 そのものがオーストリアの諸機関に所蔵されていること を鑑みれば,オーストリアの研究機関との国際的研究協 力は不可欠である。加えて,資料の現物とデジタルデー タの保存・公開が,オーストリアと日本のふたつの国に 分かれることで将来的に何らかの不都合が生じることも 懸念し,オーストリアでのデジタル・アーカイヴズ化を 実現するための方途を模索した。 こうしたなかで,2018 年 5 月,ACDH-CH の杉本豪 に F.J. ビーバー資料群のデジタル・アーカイヴズ化につ いてメールで相談することにした。筆者は,2017 年初 旬にオーストリア科学アカデミーの研究者を介して杉本 を知り,阿部泰郎(現・龍谷大学)と筆者がオーストリ ア科学アカデミーにて企画・主催した国際ワークショッ プ『Archives as Cultural Heritage: Cases from Japan, Africa and Europe』(2017 年 6 月開催)にてデジタル・アーカ イヴズに関する講演を杉本に引き受けて頂いた経緯があ る。その後も,ワークショップの成果物の刊行にむけて 杉本とメールでのやりとりを継続していた。 杉本は,F.J. ビーバー資料群のデジタル・アーカイヴ ズ化に関する筆者の相談をうけて,筆者のオーストリ ア渡航の日程(2018 年 6 月)に合わせて ACDH-CH で の会合を設けてくれた。初回の会合には,筆者,杉本, Daniel Schopper,Martina Trognitz が 参 加 し た。 筆 者 は F.J. ビーバー資料群の概略とデジタル・アーカイヴズ化 にむけたデータ準備の状況について説明するとともに, Martina Trognitz から ACDH-CH にて可能なことについ ての説明を受けた。その後,ACDH-CH にて F.J. ビーバー 資料群のデジタル・アーカイヴズ構築を進めるべく,メー ルで資料データに関するやりとりを行うようになった。 加えて,当時,筆者は,国際エチオピア学会への参加 を通じて以前から交流をもっていた Sophia Thubauville.
(3) 20 世紀初頭のエチオピア南西部カファ地方の歴史解明にむけて. (ドイツ・フロベニウス研究所)と共同で,第 20 回国 際エチオピア学会(2018 年 10 月開催)にて発表パネル 「Archives and Collections for/in Ethiopian Studies」を企画 し,その準備を進めていた。 以上のように,F.J. ビーバー資料群に関する国際共同 研究が,事実上,走り出していたなかで,筆者は国際共 同研究強化 A について知った。国際共同研究強化 A に よって ACDH-CH の研究者らとの共同研究が実現した 場合には,F.J. ビーバー資料群のデジタル・アーカイヴ ズ化がより一段と加速することが期待できたため,杉本 の協力を得て申請することにした。. 5. 研究の進展状況 本研究では,F.J. ビーバー資料群のなかでも K. ビー バ ー の 個 人 蔵 資 料 に つ い て, そ の デ ジ タ ル デ ー タ を ACDH-CH の ARCHE(A Resource Centre for the HumanitiEs, 人 文 科 学 の た め の 資 源 セ ン タ ー)(e.g. Trognitz and Ďurčo, 2018)を活用して順次,公開してい く予定である。本研究の最初の成果が,F.J. ビーバーが 家族に送った絵葉書(cf. 吉田,2018)のデジタル画像 の公開である(Yoshida et al., 2020)。本稿執筆時(2020 年 4 月)は,本国際共同研究強化 A の課題実施期間の 1 年目を終えたばかりであるが,期間内に写真資料や文字 資料のデジタルデータを公開するべく,メタデータの準 備を進めている。また,将来的には,複数の機関が所蔵 する F.J. ビーバー資料群を相互参照できるようにする予 定である。 F.J. ビーバー資料群は,エチオピア,とりわけ南西部 カファ地方に暮らす人々にとっても重要な価値を有する ものである。F.J. ビーバー資料群のなかでも,F.J. ビー バーが 1904 年,1905 年,1909 年にエチオピアを訪問し た際に収集した民族学的資料,当時撮影した写真資料 は,当時のエチオピアの様子や,人々の生活,文化を知 ることを可能にする貴重な資料である。ただし,エチオ ピアに暮らす多くの人にとって,オーストリアを訪れて F.J. ビーバー資料群を実際に目にすることは容易ではな い。そこで現在は,エチオピアに所在する研究機関とデ ジタルデータの共有について具体的な話し合いを進めて いる。F.J. ビーバー資料群のデジタル・アーカイヴズが 完成した暁には,データの閲覧,ダウンロード方法,活 用方法などについて,エチオピアでもワークショップを 実施したいと考えている。. 35. 6. 国際共同研究を推進していく上での工夫 や直面した課題およびその解決策 筆者の場合,既にオーストリアの共同研究者との国際 共同研究に着手している状況での申請および採択であっ たことから,現地での研究面での困難や課題は特にな かった。他方で,現地への渡航,および現地での生活の 準備に戸惑った。 国際共同研究強化 A は,採択結果の発表が申請年度 の 1 月下旬であり,翌年度末日までに交付申請を行うこ とになる。筆者の場合は,唯一のインフォーマントであ る K. ビーバーがご高齢であることから,可能な限り早 く研究に着手する必要があった。採択結果が発表された 2019 年 1 月末,筆者は既に翌 2019 年度の授業担当が決 まっていた。しかし,2019 年 9 月から開講予定であっ た講義科目を,2019 年 4 月から 7 月に開講することに より,2019 年度から在外研究が可能になるように所属 大学(当時は南山大学)に配慮して頂いた。また,授業 の開講時期の変更が困難な科目については学内の教員に 代替講師を引き受けて頂いた。 その後,2019 年 9 月末の渡航にむけて,5 月から現地 での住居の確保をはじめ,6 月にはオーストリアの短期 滞在ビザ(ビザ D)の取得手続きをはじめた。また,現 地で在留許可に切り替えるために,無犯罪証明書や銀行 口座の残高証明等の書類を手配した。現地での滞在開始 1 ヶ月目は,生活を始めるための準備として,住民登録, 銀行口座の開設,携帯電話の契約,そして滞在許可取得 のための手続きに多くの時間を割くことになった。. 7. 国際共同研究を行うにあたって感じたこ と,気づいたこと 日本では,一般的に人文・社会科学系の学問分野は個 人研究が中心である。また,文系の場合は,理系とは 異なって研究室の単位で研究を進めることも稀である。 そのため,若手研究者が複数の共同研究者から構成さ れる共同研究プロジェクトの研究代表者や PI(Principal Investigator)としての経験を積む機会は,決して多いと はいえない。 こうしたなか,筆者にとって国際共同研究強化 A は, 異なる研究分野を専門とする共同研究者(本研究の場合 は,デジタル人文学,情報処理やプログラミング)と 共同研究に取り組む,またとない機会となった。特に, F.J. ビーバー資料群に関する研究プロジェクトを全体的 な視点で把握し,プロジェクトを進めていく経験をする.
(4) 36. ことができたことは,自らの研究の幅を広げるとともに, 国際的な研究者としてのキャリアアップにおいて極めて 貴重な機会となったといえる。. 謝 辞 本研究の遂行にあたっては,K. ビーバー,G. ビーバー 夫妻に大変お世話になりました。また,南山大学と名古 屋大学,および ACDH-CH には多くの便宜を図って頂 きました。深く感謝いたします。. 参考文献 Austrian Centre for Digital Humanities and Cultural Heritage, Austrian Academy of Sciences “ARCHE” (https://www.oeaw.ac.at/ acdh/tools/arche /) (2020 年 4 月 20 日閲覧). Bieber, Friedrich Julius (1920) Kaffa: Ein altkuschitisches Volkstum in Inner-Afrika. Nachrichten über Land und Volk, Brauch und Sitte der Kaffitscho oder Gonga und das Kaiserreich Kaffa, Erster Band, Münster i. W.: Aschendorffsche Verlagsbuchhandlung. Bieber, Friedrich Julius (1923) Kaffa: Ein altkuschitisches Volkstum in Inner-Afrika. Nachrichten über Land und Volk, Brauch und Sitte der Kaffitscho oder Gonga und das Kaiserreich Kaffa, Zweiter Band, Wien: Verlag der “Anthropos” -Administration. Trognitz, Martina and Matej Ďurčo (2018) “Ein Schema, Sie Alle Zu Binden. Das Innenleben Des Digitalen Archivs ARCHE,” Mitteilungen Der Vereinigung Österreichischer Bibliothekarinnen Und Bibliothekare 71(1): 217-231. 吉田早悠里 (2018)「F.J. ビーバーの絵葉書:1904 年,1905 年, 1909 年のエチオピア訪問」『アルケイア―記録・情報・歴史 ―』13: 17-55。 Yoshida, Sayuri, Klaus Bieber and Gertrude Bieber (2020) “The postcard collections of Friedrich Julius Bieber,” ARCHE (https:// id.acdh.oeaw.ac.at/fjbieber-postcards) (2020 年 4 月 20 日閲覧).. 吉 田 早 悠 里.
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