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新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

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新科目『公共』とコラボレーションした

英語表現Ⅰの授業実践

English Expression I Collaborating with a New Civics Subject “Public”

本田 亮

神奈川県立上溝高校

HONDA Ryo

Kanagawa Prefectural Kamimizo High School

Abstract

By the revision of the Course of Study in high school, which will be valid from 2022, civics

subjects as well as English ones will be largely restructured (Ministry of Education, Culture,

Sports, Science and Technology, 2018a). The present paper reports how English Expression I

lessons collaborate with the new civics subject “public.” Focusing on having and expressing one’s

own opinions on school affairs, and speaking and writing fluency development, 242 1st graders in

one Kanagawa Prefectural public high school worked on various English tasks from summer

vacation to December. From the analyses of the final writing test, it was found out that the

students became fluent writers of English and succeeded in conveying their own ways of thinking

in English, objectively. Also, the present paper gives an approach as an example of developing

high school students’ English fluency with long term perspectives.

キーワード: 他教科とのコラボレーション 意見文ライティング 流暢性向上

1. はじめに

コミュニケーションに使える英語力の育成を目指し、聞く力や読む力のみに留まらず、話す力や書 く力をも育成する英語の授業は、旧来のいわゆる文法訳読式の授業に取って代わるものとして徐々に 高校現場に広がってきている。しかし、現在行われている授業の多くは、あくまで言語の運用スキル の向上、すなわち第二言語習得プロセスではほぼ中間地点(村野井, 2006)とされる内在化の促進を目指 すものであり、「その先」の活動としてディベートやディスカッションなどの活動や、教科書本文の題 材に関連した内容についてさらに学びを深めることは少ない(ベネッセ教育総合研究所, 2015, p. 5)。 またこのようなコミュニケーションを重視する英語教育の方向性は、2021年から実施される大学入 学共通テストの問題例でも見受けられる。従来の知識重視から、情報伝達を核としたコミュニケーシ 59

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ョンスキル重視へと大きく舵を切るものとして考えられる。 さて、2022 年から学年進行で改訂される高等学校学習指導要領では、英語科はもちろんのことであ るが、それ以上に国語科や地理歴史科、公民科で大幅な科目編成の見直しが行われる。現行の学習指 導要領では、公民科の科目として①「現代社会」を履修するか、②「政治・経済」と「倫理」の両方 を履修するか、のどちらかがすべての高校生に求められているが、2022 年以降の入学生は、「現代社 会」が廃止され、新設される「公共」を必履修科目として全員が履修することになる。渡邉(2018a)は、 「公共」の内容は現行の「現代社会」と大きく変わるものではないとしながらも、「①授業内容につい て、現代社会の諸課題との結びつきを一層強めたものにすること、②授業方法について、活動的なも のにすること、の二点が確認できる」(p. 4)としている。この二点を換言する形で、渡邉(2018b)は、新 科目では「活動・実践する主体性が一層求められている」と説明する。つまり、「公共」は現行の「現 代社会」よりも、より現代社会の諸問題を認識し、解決策を考え、意見調整を図り、可能であるなら ば実践することに重きを置いている科目と言える。例えば筆者の勤務校では、公民科の授業の中で具 体的な事例や映画などの映像作品を通して過労死の問題を扱い、生徒個々人がより自分自身に関わる こととして労働問題を認識し、データを用いてその現状を把握し、原因を探り、個人と社会の双方の 視点から解決策を考え、それを小論文にまとめて共有する、という授業実践を行っている。2 今回、英語科と「公共」のコラボレーションを行うこととし、「英語表現Ⅰ」の授業内で意見文を 書くタスクをゴールとした。その理論的根拠を高校の英語科で使われる検定教科書と関連させて述べ たい。大田(2017)は、現状の「コミュニケーション英語」各科目の教科書の本文は生徒が内容を理解 することもままならず、その本文を題材として発表活動を行うどころか、それ以前に運用スキル向上 のための練習を行うことすら困難だと指摘する。生徒自身が「コミュニケーション英語」の教科書を どのように認識しているかを調査したHonda (2016)でも、生徒は教科書本文を難しいと感じているこ とが示され、読解にかかる学習上・心理上の負担が大きい。さらに本田(2018)では、仮に辞書を用い たとしても高校生は多義語を含む教科書の文の6~7割程度しか正しく解釈できないとされた。それ ゆえ、今回はインプットとなる英文難易度のコントロールが比較的容易な「英語表現Ⅰ」で行うこと が適切であると考えたのである。 また本校では、公民科の授業において、異なる立場から考えることを促すため、接続詞を指定した 説明や意見表明(例:「○○について『しかし』と『例えば』を1度以上ずつ用いて説明せよ/考えを述 べよ。」)を頻繁にさせている。このような枠組みで考えることに慣れているため、英語で思考する場 合であっても公民科で練習している意見表明文の枠組みをトピックと言語を変えて活用させた。

2. 実践内容

2.1 目的

本授業実践の目的は大きく次の3つである。 (1) School Rules(学校のルール)について自らの意見を持ち、それを英語で話したり書いたりする活動を 通して、自分の考えをわかりやすく伝える(公共とのコラボレーション)。 (2) (1)の活動やその他の活動を通して、より多くの英語を一定のスピードを伴って話したり書いたり できるようにする(流暢性の向上)。 60 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

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(3) 許可・必要・禁止などを表す助動詞表現を意味のある文脈で使うことで、その習得を促す(文法事 項の内在化)。

なお、このような活動でありがちな「英語で意見を言えれば十分」という考え方は採用していない。 CLIL のように英語を主として用いるわけではないものの、内容(School Rules について自分と異なる視

点に留意しながら言ったり書いたりすること)と言語(一定の英文量の産出と助動詞表現の定着)の両方 を大切にした実践であり、本論文では最後のライティングテストの結果について考察する。なお、本 授業実践の目的については、授業担当者3名で事前に十分に話し合い、共有した。

2.2 生徒と日常の指導

本実践対象の生徒は、初回授業で実施したアンケート及び中学3年での英語の内申点によると、他 教科に比べて英語に対する苦手意識が強く、中学英語が十分に定着しているとは言えなかった(英語が 他教科よりも得意と答えた生徒は4分の1にも満たなかった)。そのため「コミュニケーション英語Ⅰ」 の授業では、音読やペアワークを中心とした活動を多く取り入れ、生徒が耳で聞いて8割以上内容が わかるような理解可能なインプットをインテイクとして取り込んでいく過程に重きを置いた授業を展 開した。また、今回の授業を実施する「英語表現Ⅰ」を行うクラスは、40 人クラスを出席番号順で機

械的に2つに分けた約20 人の少人数である。教科書は啓林館の「Revised Vision Quest English Expression

Standard」を用いており、文法シラバスをベースとして演習をしつつ、同時に授業の中では教科書 を使わない方法で様々な活動を取り入れている。授業では最初の5~15 分程度で帯活動を行い、流暢 性向上のためのトレーニングをする。内容は定期テストまでの期間ごとに変えており、生徒に理解可 能なインプットを提供しつつ、意味が介在するインタラクションを行うこととしている(表1)。 1 「英語表現Ⅰ」での帯活動の例(2018 年度前半) 時期 帯活動の内容 入学~5 月中間テスト 6 月後半~夏休み 8 月末~10 月中間テスト Small Talk→Mini-Chat Sentence Repetition

Small Talk→Mini-Chat→3-Minutes Writing

一方、授業のメインの時間帯では、文法の解説と演習をし、正確性の伸長を図っている。ただし、 文法解説の中でも「説明は短く簡潔に行う」「問題演習の中で気づかせる」「解答解説の前後にペアで の活動を取り入れる」ことを心掛けている。文法演習と種々の帯活動を通して、第二言語習得の両輪 とも言える正確性と流暢性をバランスよく伸ばすよう心掛けているのである。 いずれの科目でも、教師が一方的に説明をして生徒がノートやプリントにその内容を写す時間はで きるだけ減らし、教室が「使える」英語を身に付けるための練習の場になるようにしたい。言語運用 のスキルを着実に身に付けさせることを目指し、生徒にとって理解可能なインプットに多く触れる機 会を確保し、教師や友人、教科書本文とのメッセージのやり取りをしながら、それらの表現を間違い ながらも繰り返し使っていくことによって、定着を図りたい。その結果として、少しずつであっても 自己表現活動で文法に則った形で英文を話したり書いたりできるようになることを目指す。各単元に 61 本田 亮

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おいて繰り返し様々なタスクを行うことで、教科書で用いられている英語のインテイクを促進し、よ り高度なL2 中間言語の形成を促進することを目指す。また、「英語表現Ⅰ」ではおよそ3週間に1回 程度の割合でALT の授業があり、そこでは様々な方法で言語使用を促し、流暢性の伸長を図っている。 これらの様々な活動を有機的に組み合わせることにより、夏休み明けごろから英語を使って表現す ることが生徒にとって苦ではなくなりつつある様子が見受けられた。今回の一連の活動は、1年生の 夏休みから12 月ごろにかけて断続的に行った。

2.3 トピック

今回扱うトピックは「School Rules(学校のルール)」である。これは教科書(Vision Quest)の Lesson 5

前半のCan-do 記述として「学校の規則を述べることができる。」とあったことより着想を得た。 一連の活動のテーマを「School Rules」に設定した理由は以下の通りである。高等学校の学習指導要 領で新設された「公共」の内容の2(3)には、「自主的によりよい公共的な空間を作り出していこうと する自立した主体となることに向けて,幸福,正義,公正などに着目して,課題を追究したり解決したりす る活動を通して,次の事項を身に付けることができるように指導する。」(文部科学省, 2018a, p. 94)とあ る。指導要領の解説によると、この文脈において「公共的な空間」とは国や社会等であるとされてお り(文部科学省, 2018b)、確かに Vision Quest には少子高齢化社会に関してグラフを読み取ったうえで、 意見を述べる活動が紹介されているのだが、(もちろんそのような活動の意義は認めつつも、)今回は 本校生徒にとってもより身近な学校生活にフォーカスをし、何らかの意見を持つことから練習するこ ととした。換言すると、本校生徒にとって国や社会等は規模が大きく、簡単にはイメージすることが 難しいのではないかと考え、彼らにとって最も身近な「公共的な空間」である学校を場としたほうが より柔軟な意見を持ちうると考えたのである。なお、母語である日本語で考える場合にも同様であろ うが、外国語である英語を用いて読んだり聞いたり意見を表明したりする場合、そのトピックが身近 なものかまたイメージしやすいものか、という点が生徒の心理的ハードルを下げるためには大きいこ とがわかっている(Honda, 2017)。この点から考えても、生徒により身近な題材を設定することは理に 適っていると言えるのではないか。

またこのテーマ設定により、「~することができる/~することができない(can, be able to/ cannot, be not allowed to)」「~するべきだ/~するべきでない(should/ should not)」「~しなければならない(must, have[has] to)」「~してはならない(must not)」「~する必要はない(don’t have to, don’t need to)」などの助

動詞表現(文法化されたものも含む)を練習・定着させることが可能である。これらの日英対応の訳と して捉えがちな言語の宣言的・ ・ ・知識・ ・を、意味のある文脈で使用することで、より高度な言語運用・ ・スキル・ ・ ・の 獲得につなげたい。 ところで、このような生徒自らの考えを問うタスクを行う際には、英語力以前の問題がある。つま り、何らかの意見を求められた際、高校生に限らず「わからない」と答える人が多いことである。例 えば、片岡(2004)は、以下のように指摘する。 「なぜ『わからない』のかというと、考えていないからだ。なぜ考えていないのか、その理 由はきわめて単純なものだ。考えられないからだ。ではなぜ考えられないのかというと、自 前できちんと考えるための豊富な材料をまず持っていない (中略) そして、自分ひとりで 最後まで論理をつきつめて考えをまとめる、というような訓練の蓄積も、悲しいかなゼロで 62 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

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あるからだ。」(片岡, 2004) あくまでも筆者の主観であるが、仮に自分の考えを持っていても、「空気を読む」ことを過度に強い られてきた現代の若者は、自分の意見をあえて表現しないことが多い。このような傾向は本校生徒に も見受けられるので、実際に自分で考え、意見を持ち、それを表現するプロセスを経験すること自体 にも十分意義があると考えた。さらにこの活動を通して、文部科学省(2018a)が指摘するように規則や ルールは誰かから与えられるものではなく、自らが主体的に考え、よりよく構想し、日々改善してい くものであることも体験的に学ばせたい。

2.4 具体的な指導手順

トピックの選定 まず、中間ゴールとなるスピーキングテストに向けて、高校生の間で賛否が分かれそうなトピック を生徒各人がより自分の考えを持てるものを選べるように3つ選定した。トピックは、他社を含めた 教科書のテーマや、過去の判例集を参考にした。設定した3つのトピックは以下の通りである。

1. Should every student belong to one or more club activities? (全員が1つは部活に入るべきか?) 2. Should high school students be banned from dyeing their hair or wearing accessories? (髪を染めたり、ア

クセサリーを付けたりするのは禁止すべきか?)

3. Should junior high school students be allowed to bring snacks to schools? (中学生も学校にお菓子を持 っていってもよいか?) ① 夏休みの課題 <資料>参照 B4 両面一枚に3つの STEP を設定した。STEP 1 では、学校生活に関する 80 個の語句を日本語とと もに提示し、そのうち3分の1程度について、穴埋めをさせた。これは教科書の該当ページを見れば すぐにできるエクササイズであり、STEP 2, 3 ですぐに活用できる語句を中心に集めている。 STEP 2 では、出身中学校、通学中の高校、理想の学校の3つについて、ルールをそれぞれ5個以上 ずつ単文の形で書き表す。ここでは明文化されたルールに限らず、例えば「部活動の先輩には大きな 声で挨拶をする」などの明文化されていないルールも書いてよい。なお、ヒントとして7つの助動詞 表現を与えた。 STEP 3 では、⓪で設定した3つのトピックについて、理由付けをする練習をした。具体的には、3 つのトピックそれぞれについて、賛成の立場と反対の立場からbecause に続くように1文程度で理由 を述べる。英語が苦手な生徒にとっては少し難しめの内容である。 夏休み前最後の授業でこの課題を配付し、10 分程度で簡単に説明をした。特に STEP 3 については、 答えが一通りでないことや現在の自分の意見とは異なる立場から理由付けをすることのねらいを話し た。この宿題は夏休み明け最初の授業で回収し、提出点を記録した後、STEP 2, 3 については ALT に よる主語や動詞の使い方に関わる簡単な添削を施して返却した。なお、STEP 1 は 10 月の中間テスト の出題範囲の一部とするため、スピーキングテスト終了後に模範解答例を配付した。 ② スピーキングテスト <資料>参照 63 本田 亮

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10 月前半に実施したスピーキングテストも3つの STEP からなり、1日目に STEP 1 を、2日目に STEP 2, 3 を行った。2日目には ALT の授業を充て、試験官および評価者の役割をお願いした。日本 人教員(JTE)は、生徒の待ち時間に練習相手をし、助言を与えた。 STEP 1 では、学校のルールに関する5つの単文を日本語で事前に与え、1人ずつ JTE のところに来 て、順不同で日本語で言われる5つの文を口頭で英訳した。事前には解答となる英文は与えていない ので、生徒各自で英訳し、友人同士で確認していた。(解答例はスピーキングテスト終了後に配付した。) 約20 人のクラスであるので、20 分程度で全員を終え、待ち時間には STEP 2, 3 の準備をさせた。なお、 授業内では事前に10 分程度の準備時間を与え、その他の準備は各自で行わせた。 STEP 2 は、夏休みの課題とした出身中学校、高校、理想の学校の3つのうち、アイデアが多く浮か び、英語でより多く言えそうなもの1つを選び、30 秒の制限時間内により多く英語で言うものであっ た。言えば言うほど点数になるので、英語が得手不得手に関わらず達成感や悔しさを感じられる。夏 休みの課題として提出したプリントにALT が添削をしているので、それを参考に練習をさせた。 STEP 3 では、夏休みの課題として扱った3つのトピック(部活動、アクセサリー、お菓子)から1つ 選び、命題に賛成か反対かを明らかにした上で、理由や具体例をつけて30 秒以内に英語で述べる。教

師からは、「最初に立場を明らかにする」「for example や because などを用いるとよい」といった程度

の簡単なフォーマットのみを提示した。生徒の多くは事前に25~40 語程度の下書きを作り、暗記をし て臨んでいた。待ち時間には友人同士やJTE に聞いてもらいながら練習を重ねていた。なお、STEP 2, 3 を合わせて約 20 人 1 クラスの生徒に対して 30~40 分程度であった。 ③ まとめのライティングテスト(12 月上旬実施) 一連の取り組みの最終タスクとして、2学期期末のテスト返却の授業において、最終のライティン グテストを行った。生徒には期末テスト1週間前の試験範囲発表の際に、このライティングテストの 実施を告知し、授業内でも口頭で説明した。内容は、スピーキングテストのSTEP 3 で扱った3つの トピックのうち1つを選んで自分の意見を書くというものであり、成績評価の材料とすることを伝え た。夏休みの課題以降で配付したプリント類や自作のメモ、教科書、ノート、電子辞書等の持ち込み をすべて認めたが、試験中に友人と相談したりスマートフォンを使用したりすることは許可しなかっ た。また、理由や具体例の列挙の方法として、「Yes, I think so.[No, I don’t think so.] There are ~ reasons. First, …. Second, ….」の形を示したので、多くの生徒はこの形を採用した。なお、ほとんどの生徒はス ピーキングテストの際のメモで事足りると考えていたようでそのメモを持ってきていたが、制限時間 が25 分もあるということを当日発表し、また「がんばって最低 40~50 語は書こう」という声かけを 行ったため、多くの生徒はその場で新たな理由や具体例を考えて付けたし、また推敲をしていた。 評価はJTE が作成した基準にしたがって、ALT が学年全員分を行った。なお、金谷・堤(2017)にお いて堤が「『教師が熱心に添削すればするほど、生徒の学習意欲が低下する』という『添削のパラドッ クス』」(p. 48)と紹介しているように、教師が英作文の添削に手間をかけてもなかなか成果が出づらい どころか、生徒の英語学習意欲にとっては逆効果にもなり得るため、ALT に依頼した英作文の添削は 大きく文の構造が乱れている部分や意味がわかりづらいグローバルエラー1~2 か所程度のみに限定 し、それ以外のエラーには目を瞑ってもらった。 64 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

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3. ライティングテスト結果と考察

3.1 概観

ここからの分析は全12 クラスのうち、筆者が授業を担当した3クラス(60 名)のライティングについ て行う。まず、この60 名分の英作文の概観を述べておきたい。英文の平均語数は 61.03 (SD=29.29)、 中央値は58.5 で、最大で 227 語、最小で 26 語である。文の数は平均で 7.55 (SD=3.73)、中央値は 7.0 である。また、1文あたりの語数は平均で8.26 (SD=1.80)、中央値は 8.13 である。ここで、総語数や 文の数は生徒によってばらつきが比較的大きいが、1文あたりの語数については、平均付近により集 まっている。この点については、生徒の英語力のレベルによってその文の性質が異なっている可能性 がある(金谷他, 2017, p. 138)。この点については、以下で詳しく分析したい。3

3.2 言語的側面

ここでは、文の性質を分析の中心に据え、生徒の英語習得の様子を確認したい。 ①. 文の長さ・複雑さ(重文・複文の使用) 接続詞や修飾語句を用いて(適度に)長い文を書けることは、英語力があることを意味すると考える。 例えば生徒の英作文で、接続詞で複数の節を結んでいる例として以下のものがある。4

(1) They want to do a lot of things, but don’t have enough time to do.

(2) But, you will be deprived of free time when you participate in club activities.

ただし、(3,4)のように Because を文頭にし、「なぜならば~である。」という節の形で書き表している

誤用は大変多い。

(3) Third, it is important for you. *Because you should enjoy your school life.

(4) Junior high school students should be able to bring snacks to school. *Because there are times when they are hungry during class.

この生徒は関係副詞when を正しく使えるが、それでも because を正しく使うことができていない。 また、therefore, however などの2音節以上の接続詞はほとんど見られない。これらの語は定期テス ト等で出題をしても問題なく正解できていることから、受容語彙にはなっていると考えられるが、依 然発表語彙になってはいない。考えられる理由として、therefore を用いるべき場面では so を、また however を用いる場面では but をそれぞれ用いることが多いためではないかと考えられる。 ②. 後置修飾(分詞、関係節)

(5) If there are students eating snacks, the class is disturbed by them.

(厳密な意味では後置修飾ではないが)関係詞 what を正しく使える生徒もいた。 (6) from club activities you can learn what you can’t learn in the lesson

関係節の中でも非制限用法で、前の節全体を受けているものは、レベルが高いと言えるだろう。 (7) You can make friends, which makes you enjoy any club [activities].

. 3人称の代名詞の使用

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適切に代名詞を使用している(使用しようとしている)ことも言語発達段階において1つのステージ に到達しているとみなされる(金谷他, 2017)。言語習得の段階が進んでいない場合、例えば students を 何度も繰り返して使用しがちである。

(8) (前文の every student を受けて) Second, they can enjoy more activities. . 語順、be 動詞の誤挿入

基本的な「主語+動詞+目的語」レベルでの語順のミスはグローバルエラーとみなされるだろう。

(9) *If we can bring snacks, more interesting school life. (主節の主語・動詞がない) (10) *I think should junior high school students be allowed to bring snacks to schools.

また連結詞(copula)として be 動詞が適切に使用できることは英語習得の発達段階の 1 つとして重要

とされているため(Pienemann, 1998)、それを過剰使用・過少使用することは、まだその発達段階に到

達していないことを意味している。 (11) *[W]e are not concentrate to study. (12) *There are will be many accessories.

(13) *[C]lub activities very good thing. (動詞なし)

また、一般動詞のhave と助動詞の have を混同している例も見受けられる。 (14) *I have not time because I work part-time.

. 無生物主語

今回は比較的無生物主語構文が使用している例が多かった。通常日本語ではあまり使用されない構

文であり、これを正しく使えることはある程度の言語習得段階に達していることを意味すると考える。

(15) Eating something sweet will activate your brain.

(16) I think playing with friends or working part time will enhance my high school life [more] than club activities.

(17) Snacks make us happy.

(18) [P]articipating in club activities makes mind and body stronger. .その他の要素

いわゆるIt~to 構文は、生徒にとってなじみがあるためか散見される。誤りもほとんどない。

(19) I think that it is more interesting to have various friends.

また、学習指導要領上は一応中学内容ではあるが、助動詞+受動態もライティングで正しく使用でき

ることは褒められるべきであろう。

(2,再掲) But, you will be deprived of free time when you participate in club activities.

この時点では未習であるが、wish を用いた仮定法もあった。

(20) I wish I had studied more.

他にもbe likely to や群前置詞なども見受けられる。 (21) students are likely to eat sweets even during class (22) Also in order to concentrate on the class, [we] need sugar.

66 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

(9)

(23) I enjoyed school thanks to club activities.

ただし、一見高度に見える要素でも単に和英辞典で調べたものをそのまま書いただけと考えられるこ

とも多い。この例では本来to の後ろに名詞句が必要である。

(24) *In addition to, it’s not…(後略)

したがって、上記の(21-23)の正用の表現もルールベースで使用しているわけではなく、和英辞典等で

調べた形をそのまま書いただけのものかもしれない。

また、参照元が与えられたTopic 文の場合もある。例えば、次の(25)は論題の表現(wearing accessories) をそのまま使っているために、動詞の形が誤っている。

(25) *[W]e wearing some accessories to make fashion.

ただし、some を加えられていることから、accessories(名詞)を修飾することはできる段階までは到達し ていると考えられる。語内部の屈折はできていないが1語を越えた名詞句(決定詞句)内の操作ができ ている点は興味深い。 ⑦. 文と文のつながり(つなぎ言葉) 前述のように、「第一に、第二に…(First, Second, …)」という表現は全体に示したので、多くの生徒 が使用していた。ここでは他のものについて取り上げる。

(26) If we become a working member of society, we get[have] money problem. Then, we…(後略) (27) For example, we can make friends that have same hobbies, …(後略)

結論を述べる前のつなぎ言葉として、so を用いている生徒は大変多い。

(28) So, I think junior high school students should be allowed to bring snacks to schools また、次のような例もあった。

(29) Actually I could meet a best friend at junior high school.

これらのつなぎ言葉は、単に意見を伝えるという目的のためには必ずしも必要なものではないが、よ り円滑に情報伝達のために有効な表現であるので、教員が型として教えることもある程度必要かもし れない。一方で、必ずしも必要でないゆえ、指導をしたからといって簡単に身に着くとは限らない。 適切な場面で適切なつなぎ言葉の使用ができる生徒の言語習得段階は、比較的高いと言えるだろう。

3.3 内容的側面

続いて、内容的な側面の考察である。ここでは意見を伝えるうえで必要な要素として、客観性に焦 点を絞って考察する。ここでの「客観性」とは、「自己の立場のみを絶対視するのではなく、さまざま な考えや立場の人がいることを想定して意見を述べていること」と定義する。 ①. さまざまな考えを前提に置くこと いわゆる相関代名詞を用いて、「~という人もい(れば…という人もい)る」という表現はコミュニケ ーション英語Ⅰの教科書本文中に2回ほど出てきたものであるが、多くの生徒が発信モードで使用し ていたことには驚かされた。

(30) some students don’t like to belonging to a group

(31) some students are better [at] study[ing] than club activities

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(10)

(32) some students may come to school [to] play in a club, but other students come to school to learn many things

また、not all~の形で、少数意見にも配慮する姿勢が見られたものもある。

(33) Not all the students need to belong to club activities because some students can not balance between study and club activities.

この(33)を書いた生徒は、いわゆる文法や読解の力は平均的な生徒であるが、この 1 文に限らず、意 見文全体を通して多くの立場の生徒の考えに配慮していた。今回のタスクのように何かを表現させる ことで、生徒の新たな一面が見られることがあり、それを見いだせたたことは喜ばしい。この作文を 褒めたところ、英語の学習にそれまで以上に前向きになり、現在、英語力を著しく伸ばしている。 ②. 自己の意見を絶対視しないこと 自分の考えから適切に距離を取り、相対化することは高校生でも難しいものである。次の(34)は、 確かに多くの高校生の正直な気持ちを表しているかもしれない。しかしながら、すべての生徒がそう であるとは限らない。

(34) Everyone hates school’s class.

一方でコミュニケーション英語Ⅰの教科書で直前に扱った表現(not only A but also B)を用いて、自分 以外の意見にも注意を払っているものもあった。

(35) (部活動全員参加に反対意見を述べた後で) but belonging to club activities have not only bad things but also good things. For example, we can make friends that have same hobbies, …(後略)

この生徒はもともと英作文が得意な生徒であるが、単に英語が得意であることは客観性の高い文章を 書けることを意味するわけではない。したがって、自分と異なる意見にも言及している点は評価に値 するだろう。

なお、以下のような譲歩の表現は見られなかった。

(36) it seems that ~, it is true that ~, you may say that ~, it looks like ~ など

生徒は、外国語としての英語を学んでいるので、当然これらの表現を日常的なインプットとして受 け取っていない。今後明示的に指導していく必要があるだろう。また言語能力を知識ではなく運用ス キルとして捉えるならば、指導してすぐにできるわけではないことに留意し、繰り返し使用を促して いくことが必要になると考える。

4.まとめ

本実践は、公民科の新科目「公共」との連携を掲げながら、同時に英語の運用スキルを養成しよう としたものである。テーマを「School Rules」としたうえで、スピーキングとライティングのタスクに 取り組ませた。また、ライティングテストの英作文を分析・考察した。 最終タスクとして取り組んだライティング試験では、事前の準備と持ち込みが可能であったことを 考慮しても、概ねよい出来であったと考えられる。金谷他(2017)の基準では、本校は3つのレベルの うち中位または下位の高校として位置づけられるが、同書の7章で紹介されている同レベルの高校の 生徒の英作文例と比べると、(タスクの内容は異なり、客観的な指標があるわけではないが、)基本的 68 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

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な語順等の誤りは少なかった。これは、毎回の授業冒頭でMini-Chat をしたり、3-Minutes-Writing など

30~40 語程度の英文を何度も書いたりして鍛えた成果と言えるかもしれない。(もちろんスピーキ

ングテストの段階で教員が手を入れている場合もある。)

本校の「英語表現Ⅰ」では上述の通り、正確性と流暢性を言語習得の両輪と捉えたうえで、その両

方をバランスよく伸ばすことを目指してきた。Nation (2009)は第二言語習得のために大切な考え方と

して、(a)Meaning-Focused Input、(b)Meaning-Focused Output、(c)Language-Focused Learning、(d)Fluency Development の 4 strands のそれぞれに対して授業時間・学習時間を均等に4分割して割り当てること が理想的である、と述べている。25%ずつ4分割して割り当てることが、日本の一般的な高校生にと って有益であるかまた現実的に可能であるかについては議論が分かれるところであるが、この考え方 はつねに心に留めておくべきだと考える。 本稿執筆時点で、本研究の対象生徒は2年生の2学期を終えるところとなる。本実践のあとも、さ まざまな方法で書く活動に取り組んでおり、生徒が楽しみながら力を伸ばしている。例えば、教科書 本文に出てきた5つの熟語や慣用表現から、2つ以上を用いて物語や説明文などを20 語以上で創作すCreative Writing の課題を学期に2回程度課しているのだが、2年生になってからは、条件を大きく 上回る80 語以上の作品や、慣用表現を5つ全部使う力作も多く見られる。この Creative Writing は生 徒が創意工夫をしながら取り組んだものなので、JTE か ALT が添削することにしているのだが、分量 が多く嬉しい悲鳴を上げている。たくさんの英語を調べながらでも書けるようになってきたことが、 生徒たち自身も楽しいのではないかと考えている。12 月の期末テストでは、意見文のライティング問 題を課した。まだ細かな文法・内容面までの分析はできていないが、40 語以上書くことができた生徒 が87.1%であった。この割合には授業者として大変満足している。 本実践は、公民科の新科目「公共」との連携を掲げながら、英語の運用スキルの養成を目指してス ピーキングとライティングのタスクを行ったものである。しかしながら、課題もある。 第一に、「公共」の側面から考えると、他者の意見を読み自己の意見と比較して思考を深める段階が 足りていない。今回は時間的な問題もあり、ペアやグループでの意見交換をしてお互いの作文を読ん だり、言語面・内容面でのピアフィードバックをしたりすることができなかった。本来であれば、他 者の考え方に触れることで自分の意見を客観的に見つめなおすことができるであろう。第二に、今回 のように身近な生活に密着した問いではなく、より社会的な問いについて考えたり、テーマそのもの を生徒自らが設定し、問題解決の方法を考えたりする取り組みも考えられよう。第三に、言語習得の 側面から考えると、スピーキングやライティングのみに限らず、リーディングやリスニングで得た情 報を再構成してスピーキングやライティングで表現するなどの技能統合的なタスク設定も可能であろ う。第四に、譲歩表現や接続表現、パラグラフライティングなどの英語の論理構成を明示的に指導す る必要性も感じた。これらの知識を積み上げていくことで、今後より高度な活動につなげたい。最後 に分析に関しても課題がある。言語的な側面からの分析を行ったものの、生徒の英語力の発達段階・ ・は 見えてきてはいない。何ができる生徒はすでに何ができていると言えるのか、ある2つの文法項目の 習得に順序があるのか、そもそも生徒の英語力は本当に伸びていると言えるのか等はまだまだわから ないことが多い。今後ある程度の期間を確保して縦断的に観察したり、他の熟達度を測る基準や指標 (例えば CEFR や英検・GTEC などの英語熟達度測定試験の結果)とすり合わせたりすることも必要で ある。次回以降への課題としたい。 69 本田 亮

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謝辞

本授業実践においては、授業の構想段階より筆者の同僚の渡邉大介先生(公民科)と後藤鈴音夏先生 (英語科;現、神奈川県立愛川高校)に大変多くのご助言を頂きました。厚くお礼申し上げます。また、 本論文に貴重なご意見を頂いた査読委員の先生方にも、この場をお借りして厚くお礼申し上げます。

1 本稿の内容は、第43 回関東甲信越英語教育学会神奈川大会(2019 年 8 月 10 日、横浜国立大学)にお ける筆者による自由研究発表を大幅に加筆・修正したものである。また本実践を紹介したものとして、 本田(2020)がある。 2 筆者の勤務校は神奈川県教育課程研究推進校の指定を受け、新科目「公共」のモデル及び参考にな る授業実践の研究を行っている。今回の授業実践を行った 2018 年度は第1期(3年)の最終年であり、 公共と他教科、公共と特別活動、公共と総合的な学習の時間などの教科・領域横断型の取り組みを実 施した。本稿は、公共と英語科のコラボレーションの取り組みを報告するものである。 3 ライティングの分析にあたっては、筆者が過去に分析に協力した金谷他(2017)の第7章を参考にし た。T-Unit や AS-Unit などの分析を今回行わなかった理由としては、英作文全体の複雑さではなく、 個々の文法事項がどのように表出するのかを確かめることに主眼を置いたからである。なお、金谷他 (2017)では6コマの物語を英語で再現する課題であったが、今回のような意見文に対してもその分析 の枠組みが十分に応用可能であると判断した。 4 生徒の英作文例はスペリングミスも含め原文のままであるが、意図される意味がわかりづらい部分 は筆者が[ ]内を補った。また下線と太字は筆者による。

引用文献

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Honda, R. (2017). Japanese senior high school students’ perception of authorized English textbooks. 東京学芸 大学附属図書館所管修士論文

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資料

夏休みの課題の表面(実物は B4 両面 1 枚) 71 本田 亮

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夏休みの課題の裏面

スピーキングテスト評価用紙

72 新科目『公共』とコラボレーションした英語表現Ⅰの授業実践

参照

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