がんを切らずに治すために
放射線治療の最近の動向
櫻
井
英
幸
1.は じ め に 癌に対する治療は, これまで手術療法が中心で, 放射 線治療は脇役であった. 昨年制定されたがん対策基本法 が, 放射線治療の推進を最重要課題として挙げた理由に は, がん罹患率の増加だけでなく少子高齢化社会での非 侵襲的がん治療, つまりがんを切らない治療へのニーズ が高まることを予測したためと えられる. また, 癌治 療の目的が 長期生存 から よりよい生存 へとシフ トし, 患者並びに医療者の quality of life (QOL) への意 識が高まったことで, 放射線治療の役割は今後ますます 重要になってくることが予想される. 本稿では, 放射線 治療の最近の動向に関して, 私自身の研究も含めて紹介 する. 2.物理工学的な放射線治療の進歩(治療装置の進歩) 放射線治療は非侵襲的治療であり, 形態と機能の温存 により QOL を高く保てる治療法である. 理想の放射線 治療は, 正確に癌にだけ放射線を照射し, 周りの正常組 織に照射せずに癌の根絶をはかることにある. すなわち ①正確性が高い, ②線量の集中性が良いことが必要条件 である. 正確性を高める治療として, 画像誘導放射線治療があ る. 腫瘍と臓器の解剖学的位置関係は, 消化管のガスや, 体重減少, 呼吸の動きなどにより毎日一定の位置を保つ とは限らず, 照射部位のずれを生じることがある. 画像 誘導放射線治療では, 治療装置自体に CT を撮影する機 能や, X 線で病巣を追尾する機能が内蔵されており, 治 療前および治療中に病巣を確認しながら放射線治療を行 うため正確性が高い. 線量の集中性を高めた治療法としては, 定位放射線治 療, 強度変調照射法がある. 転移性脳腫瘍や比較的小さ な肺腫瘍の場合は, 定位照射法 (いわゆるピンポイント 照射) により, 多方向から放射線ビームを 1か所に集中 する方法が有用である. 病巣が大きい場合や病巣近くに 正常組織が存在する場合には, 強度変調照射法が有用で ある. これは, 体の多方向から 3次元的に強度の異なる ビームを照射し, 病巣には 等で十 な線量を, 正常組 織には少ない線量を照射できる新しい照射法である. こ れらの治療方法については, 今年度の新規放射線治療装 置の導入により実現してゆく予定である. 腫瘍にのみ放射線を集中させる最も有効な方法は, 放 射線を体外から照射するのではなく, 腫瘍の中に放射線 を出す線源を埋め込む方法である. 最近では, 線源の小 型化とコンピュータを用いた遠隔操作が可能となったこ とから, 高線量率小線源治療が主流となった. しかも CT ガイド下で体表から線源ガイド針を挿入し, 画像をもと にした最適化線量計算が行えるようになった (画像誘導 小線源治療). この方法は, 複数のガイド針を安全で的確 に挿入可能であるばかりでなく, 最適化された線量を腫 瘍に投与できるため, 今後さまざまな腫瘍の局所制御に 役立つ治療法である. 321 Kitakanto Med J 2007;57:321∼322 1 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態腫瘍制御学講座腫瘍放射線学 平成19年9月26日 受付 論文別刷請求先 〒371-8511 群馬県前橋市昭和町3-39-22 群馬大学大学院医学系研究科病態腫瘍制御学講座腫瘍放射線学 櫻井英幸3.生物学的な放射線治療効果の増強 放射線を腫瘍に対していくらでもかけられれば, すべ ての腫瘍は制御可能である. しかし実際には, 生体にか けられる放射線の量に制限があるため, 放射線単独では 治らない腫瘍も少なくない. 最近では, 照射期間中に同 時に化学療法を行う化学放射線療法が進歩している. 多 くの化学療法剤は放射線の効果を増強する効果がある. 化学放射線療法における効果の増強は, 放射線と化学療 法の効果を単に足し合わせた効果ではなく, いわゆる相 乗効果をもたらすことが期待されている. 化学放射線治 療は, 脳腫瘍から呼吸器, 消化器, 婦人科腫瘍など多くの 領域で発展している 野である. 癌を温めることにより放射線治療効果を増強する治療 として温熱療法 (ハイパーサーミア) がある. 1990年代 から放射線と温熱療法の併用により, 局所進行癌の治療 成績が向上するとの臨床試験の成績が発表されるように なってきた. 放射線照射を受けた細胞は, DNA に損傷を 受けるがその多くは修復され, 細胞は回復する. 温熱は この回復を抑制する効果がある. 現在, 大規模な臨床試 験によって温熱療法の有用性が示された疾患は, 頭頸部 癌, 進行乳癌, 子宮頸癌, 悪性黒色腫などである. 群馬大 学でも, 胸壁浸潤型肺癌, 進行下部直腸癌などで優れた 成績を報告している. 温熱療法は手間のかかる治療法 のわりには保険点数が安いので日本ではほとんどの施設 がやめてしまったが, 著者は局所進行癌の放射線治療を 増強する方法として有効と え研究をすすめている. 4.重粒子線治療 群馬大学で平成 21年度から稼働する重粒子線治療は, 物理工学的利点 (線量 布がよい)と生物学的利点 (X 線 の約 3倍の効果がある) の両方を兼ね備えた夢の放射線 治療である. 正常組織への影響が少なく, しかもこれま での X 線治療に抵抗性をしめす骨肉腫や悪性黒色腫な どの難治癌でも良好な効果が期待できる. また, 肺や肝 臓では数回の治療で癌を根治することが可能で, 患者の 肉体的, 社会的負担が少ないことが利点としてあげられ る. 重粒子線治療に関しては, 日本が世界をリードして おり, 普及型装置が各地に整備されれば, 癌医療の一 野を担うことが期待されている領域である. この大きな プロジェクトの成功には, 群馬大学のみならず県内外の 関連施設の協力が必須であるが, その中心的役割を担う のはわれわれ放射線腫瘍医であり, 襟を正し慎重かつ大 胆に診療と研究を進めていかなければと思っている. 5.お わ り に 最近 10年のあいだに放射線治療はかなり発展し, 手 術とともに癌の有効な局所療法の 1つとして認知される ようになってきたと思われる. 放射線治療は高度化する 一方で複雑化し, 大きなリスクを抱えるようになってき たのも事実である.がん対策基本計画には,「手術と比較 して相対的に遅れている放射線療法及び化学療法を推進 する. (中略) 特に, 放射線治療については, 近年の放射線 療法の高度化等に対応するため, 放射線治療計画を立て たり, 物理的な精度管理を支援したりする人材の確保が 望ましい」と記載されている. 今後は, がんプロフェッ ショナル養成プラン等を有効に利用して人材の育成に努 めるとともに, 放射線治療の質的管理を専任で行う人材 の確保が必要である. 6.文 献
1. Sakurai H, Mitsuhashi N, Harashima K et al. CT-fluoroscopy guided interstitial brachytherapy with image-based treatment planning for unresectable locally recur-rent rectal carcinoma. Brachytherapy 2004; 3: 222-230. 2. Sakurai H, Kitamoto Y, Saitoh J-I, et al. Attenuation of chronic thermotolerance by KNK437, a benzylidene lactam compound,enhances thermal radiosensitization in mild temperature hyperthermia combined with low dose-rate irradiation. Int J Radiat Biol. 2005; 81: 711-718. 3. Asao T, Sakurai H, Harashima K et al: The
synchroni-zation of chemotherapy to circadian rhythms and irradia-tion in pre-operative chemoradiairradia-tion therapy with hyper-thermia for local advanced rectal cancer. Int J Hyperth-ermia 2006; 22: 399-406.
4. Sakurai H, Hayakawa K, Mitsuhashi N et al: Effect of hyperthermia combined with external radiation therapy in primary non-small lung cancer with direct bony invasion. Int J Hyperthermia 2002; 18: 472-483.
がんを切らずに治すために ―放射線治療の最近の動向― 322