年間のあゆみ ∼図書館における 急増する留学生
サポートへの挑戦∼
著者
西村 美雪, 大友 美里, 吉植 庄栄
雑誌名
東北大学附属図書館調査研究室年報
号
4
ページ
95-104
発行年
2017-03-22
URL
http://hdl.handle.net/10097/00104402
95
東北大学附属図書館本館 留学生コンシェルジュ 5 年間のあゆみ
∼図書館における 急増する留学生サポートへの挑戦∼
西村 美雪,大友 美里,吉植 庄栄
はじめに
平成 24(2012)年 11 月に東北大学附属図書館本館(以 下,「当館」)において開始した,留学生による図書館 利用・学習相談サービス「留学生コンシェルジュ」は, 平成 28(2016)年で 5 年目を迎えた。東北大学(以下, 「本学」)においてもグローバル化の進展と全学体制で の対応が加速度的に進む中,留学生支援の一翼を担い, 利用者のニーズに応えつつ試行錯誤しながらも年々発 展を続けてきた。 平成 28(2016)年 11 月現在,コンシェルジュ数は 7 名, 国籍は 5 ヶ国となり,この 5 年間日本語・英語・母語(特 に留学生数の多い国を中心に)を話せる留学生を安定 して雇用することができている。 本稿は,この留学生コンシェルジュの 5 年間の歩み を振り返るとともに,新たに浮上してきた課題と今後 の展望について報告するものである。1.留学生をとりまく環境の変化
1.1 我が国の高等教育機関における留学生の概況1 我が国の高等教育機関への留学生は,本稿執筆時の 最新データである平成 27(2015)年 5 月現在,208,379 人を数える2。昭和 58(1983)年時点での留学生は,約 1 万人であることを考えると,この 30 年で約 20 倍に増 大した。この結果は,これに至るまでに施策された,数々 の留学生増加政策の結果である。この政策について代 表的なものを振り返る。 昭和 58(1983)年,第一次中曽根政権にて,「21 世紀 への留学生政策に関する提言」が打ち出された。これ は通称「留学生 10 万人計画」と呼ばれ,21 世紀を迎え るに当たり,日本へ留学する学生を 10 万人まで増やす, というものであった。この計画が策定された背景には, 我が国の受入れている留学生の数が,昭和 58 年当時, 他の先進諸国に比べ際だって少ないこと3,留学生交流 が,諸外国との相互理解の増進や教育,研究水準の向上, 開発途上国の人材育成等に資するものであり,文教政 策及び対外政策上,重要な国策の一つであると考えら れたことがあげられる。 この計画が推し進められた結果,留学生の急増によ る現場の混乱はあったものの,平成 15(2003)年には 留学生が 10 万人を超え,当初の計画が達成された。 その後,平成 20(2008)年には,「グローバル 30」 と「留学生 30 万人計画」が示された。前者は,審査の 結果選ばれた 30 の国内高等教育機関に対して,補助金 を支給し,国際化の拠点とする「国際化拠点整備事業」 計画である。選考の結果,30 機関よりも少ないが,国 立大学 7 校(本学,筑波大学,東京大学,名古屋大学, 京都大学,大阪大学,九州大学),私立大学 6 校(慶應 義塾大学,上智大学,明治大学,早稲田大学,同志社 1 本章は主に次の文献を参照した。 寺倉憲一.我が国における留学生受入れ政策─これまでの経緯と「留学生 30 万人計画」の策定.レファレンス.2009,59(2), p.27-47.髙良要多.グローバル時代における我が国の大学の展望:日本・米国・欧州の留学生政策の比較.同志社政策科学院生論集 = Doshisha policy and management review. 2012, 1, p.43-58.2 日本学生支援機構.平成 27 年度外国人留学生在籍状況調査結果.http://www.jasso.go.jp/about/statistics/intl_student_e/2015/index.html. (参 照 2016-12-14).
3 注 1 前掲寺倉論文によると「米国が 31 万 2 千人,英国が 5 万 3 千人,ドイツ(当時の西ドイツ)が 5 万 7 千人,フランスが 11 万 9 千人の留学生を受け入れており」(p.29)とあり,我が国の約 1 万人という数は圧倒的に少なかったと言えよう。なお当計画の 10 万 人という数は,フランス程度までに増やす(同論文 p.28)という意図から算出された数字である。
大学,立命館大学)の計 13 大学が選ばれた。これら大 学は,5 か年計画で 2 ~ 4 億円が支援される。 採択された各大学においては,英語による授業のみ で学位が取得できるコースの増設や,専門スタッフに よるサポート,日本語・日本文化に関する学習の機会 の提供,インターンシッププログラムによる日本企業 での就業体験の場の提供などといった留学生受入体制 の充実,採択大学の海外事務所設置を促進させ,人的 交流を活性化する戦略的な国際連携の推進などの取組 を行い,留学生にとって魅力ある教育研究環境の提供 を目指すこととなった。その結果,日本の大学の国際 化を推進し,日本のみならず,グローバルな社会で活 躍できる人材の育成が期待されている。 後者は,平成 20(2008)年 1 月に当時の福田政権が 打ち出したもので,平成 32(2020)年には,留学生を 30 万人にするという計画である。同年 4 月には,具体 的な骨子が公表され,この新たな留学生政策について, アジア,世界 との間のヒト・モノ・カネ・情報の流れ を拡大する「グローバル戦略」展開の一環として位置 付けた上で,平成 32(2020)年頃を目途に 30 万人の留 学生受入れを目指すという目標が明示された。この目 標達成のために「1. 日本留学の誘い」「2. 入試・入学・ 入国の入り口の改善」「3.大学等のグローバル化の推進」 「4. 受入れ環境づくり」「5. 卒業・修了者の社会の受入 れ体制の推進」に取り組むことが示されている。 以上,国の政策による留学生増加の経緯を紹介した。 特に,「グローバル 30」と「留学生 30 万人計画」が策 定された平成 20(2008)年から平成 27(2015)年まで, 留学生は約 12 万人から一気にその当時の人数の 1.5 倍, 約 20 万人にまで増加し,8 万人が増加した。この状況 はまさに「急増」と言っても過言ではないであろう。 国内大学では「急増」に対して「教育体制」「施設設備」 「人的サポート」等の拡充が焦眉の急である。特にこ れまで我が国に留学しなかったような学生が大量に入 国して来ることから,語学力,素養,そしてモチベー ションといったあらゆる点で,これまでの留学生対応 経験や先例に則っているのみで現場を運営していくこ とが困難なことは,想像に難くない。本学の課題とし ても,これは同様である。 1.2 本学でのグローバル化に対応する動き 前述の通り,本学は文部科学省が推進する「国際化 拠点整備事業(グローバル 30)」の拠点大学の一つとし て採択(平成 21(2009)年~平成 25(2013)年)され て以降,キャンパスのグローバル化が推進されてきた。 特に,英語での学位取得が可能なコース(FGL プログ ラム)や,交換留学プログラムの拡充等,世界のリー ディング・ユニバーシティにふさわしい質の高い人材 を育成するために制度・環境の整備が進められた。 平成 25(2013)年 8 月には,その年に就任した里見 総長による「里見ビジョン」が策定された。これは里 見総長の 6 年間の任期中に,本学の目指すあるべき姿 (7 つのビジョン)とその実現の柱となる施策や工程 表を示したものであるが,その中に,重点戦略として 「グローバルリーダー育成」「グローバルな修学環境の 整備」「世界を牽引する研究」「国際社会との連携強化」 といった課題が挙げられている。その後,平成 26(2014) 年には「東北大学グローバルビジョン」が打ち出され た。世界を牽引する人材を育成することを掲げたグロー バルビジョンにより,当館においても,受入留学生の みならず,留学希望の日本人学生に対しても様々な観 点からの「グローバルラーニング支援」を推進してい くこととなった。 さらに本学は,同年から「グローバル人材育成推進 事業(全学推進型)」に採択された。国立大学で唯一, グローバル 30 との両方に採択された大学であり,政府 や関係組織からの本学への期待の高さが伺える。 学生に向けては「東北大学グローバルリーダー育成 プログラム」(TGL プログラム)を新たに策定している。 これは「東北大学の特長である柔軟で強固な「専門基 礎力」に加え,その専門能力を充分に発揮し,産学官 のさまざまな分野でグローバルに活躍するために必須 となる「グローバル人材としての能力」を身につける ための実践プログラム」 4というもので,4 つのサブプ ログラム(語学力,国際教養力,行動力の育成と海外 研鑽)から成っている。このプログラムには TGL ポイ ントという制度がある。プログラムによって指定され た正課及び課外の活動に学生が参加することで,この TGL ポイントを得ることができる。このポイントによ り達成度を評価することができ,「東北大学グローバル リーダー認定証」や「TGL プログラム修了証」を取得 4 東北大学グローバルラーニングセンター.TGL プログラムとは.http://www.insc.tohoku.ac.jp/japanese/global/about/. (閲覧日 2016-12-2).
97 東北大学附属図書館本館 留学生コンシェルジュ 5 年間のあゆみ~図書館における 急増する留学生サポートへの挑戦~ することができる。 1.3 本学留学生の概況 本学の留学生数は 1,989 人(平成 28 年 11 月現在)で, 東日本大震災後の影響で一時的に減少した年もあるが, 年々増加している(表 1)(表 2)。多様な受入プログラ ム,支援体制が整い,留学生の学びのためのインフラ 整備が着実に進んでいる。 以上が現況であるが,1.1 で述べたように,国策「留 学生 30 万人計画」での達成目標を目指して,現在全国 的に留学生が急増傾向にあり,本学でもこの傾向は同 じである。実際平成 27(2015)年度秋入学者が約 300 人(研究生等も含む)から 1 年後の平成 28(2016)年 度秋では約 500 人に増加した。現在の留学生数は,今 後年単位で大幅に増加していくことが予想される。 1.4 ラーニング・コモンズ設置とグローバルフロア新設 平成 26(2014)年の留学生コンシェルジュ導入の報 告7にあるように,当館では平成 24(2012)年の 10 月 のラーニング・コモンズ設置(=ハード面)に伴う人 的支援(=ソフト面)が課題となっていた。そのよう なニーズと留学生コンシェルジュの導入のタイミング が重なり,効果的に図書館利用や学習支援に結び付け ることが可能な環境となった。 また,平成 26(2014)年 10 月には 1 号館空調設備工 事が完了し,約 3 年間をかけての大改修の最終段階と して本館 2 階に「グローバルフロア」が新設された。 グローバル学習室とグローバル資料室の 2 室から成 るグローバルフロアは,日本人学生と留学生がともに 学び,グローバル人材を育成するための設備,環境, 資料が整備されている。 グローバル学習室は,可動式の机椅子やホワイトボー ドを備え,グループ学習やイベント等様々な用途での 利用が可能なスペースと,留学生向け図書や海外留学 支援資料コーナーの 2 つから構成される。一方,グロー バル資料室は,国際機関(国際連合,欧州連合)関係資料, 震災ライブラリーから成り,全体が静寂エリアに指定 されている。 先行して完成していた本館 1 階のフレキシブルエリ ア等と同様,学生が自身の利用目的にあわせて選択で きる学習スペースが加わり,オープン直後から当フロ アは人気のフロアとなった。留学生が日本人に外国語 会話を気軽にレクチャーする「グローバルカフェ」が 学生によって自発的に開催されるほか,グローバル関 連のイベント会場としても日々活用されている。 留学生コンシェルジュサービスは,開始以降改修等 の事情により1号館レファレンスデスク内,2 号館,グ ローバル学習室,再びレファレンスデスク内と活動場 所をたびたび変えることとなったが,現在は本館 1 階 のレファレンスデスク内最前列に置かれ,留学生だけ でなく,一般の利用者からのクイックレファレンスに も応じている。 5 東北大学グローバルラーニングセンター.留学に関する統計データ,外国人留学生数.http://www.insc.tohoku.ac.jp/japanese/aboutus/ date/(参照 2016-12-20). 6 東北大学.外国人留学生数.http://www.insc.tohoku.ac.jp/japanese/overseas/overseas/02/overseas0203/(参照 2016-12-20). 7 情報サービス課.ラーニング・コモンズにおけるピア・サポート:留学生コンシェルジュの導入事例報告.東北大学附属図書館調査 研究室年報. 2014,2,p.45-49. 表 1 東北大学留学生数推移(平成 28 年 11 月現在)5 表 2 出身国別の留学生内訳(平成 28 年 5 月現在)6
2.留学生コンシェルジュ 5 年間の活動
留学生コンシェルジュサービスが開始された平成 24 (2012)年度から今年度,平成 28(2016)年度の 5 年 間に渡る活動について,9 つの視点で報告する。 2.1 留学生コンシェルジュの 5 年間の概要 留学生コンシェルジュサービスは,導入以来留学生 施策充実経費により運用している。実施以前この経費 は,留学生向け資料購入や利用案内作成費用に充当す るだけにとどまっていた。そのような中,前述した全 学的グローバル支援の推進,ラーニング・コモンズ設 置のタイミングなどが重なり,当時の当館スタッフ, 本学の留学生担当の先生方の尽力の結果,ついに直接 サービス導入の運びとなった。特に,スタッフの人選 や研修内容に至るまで,多くのアドバイスを先生方に いただいたことは大きなアドバンテージであった。そ れを背景にして選ばれた有秀な留学生達の勤務状況が 評価されたことにより,結果として継続的な予算獲得 につながった。 また,当初からイベントなどの企画立案ができ,個々 の専門性を活かしつつ,母語での対応が可能なスタッ フを雇用できたことは,その後の多様な活動を行う上 で不可欠な要素となった。 以後,人件費・物品費として,毎年 80 ~ 90 万円が 付いている。5 年目となる本年は,さらに新規事業(4.2 にて後述する。)を申請し,採択されている。 2.2 コンシェルジュデスクにおける利用者対応 留学生コンシェルジュサービスの認知度の上昇とと もに,コンシェルジュデスク利用者が年々増加してい る。平成 27(2015)年 10 月から,4・10 月の新学期の 繁忙期に対応するため,コンシェルジュデスクを 10 時 からオープンした。不慣れな新入留学生をサポートす るため,可能な限り一日のデスク稼働時間を長くした いと考えた。この頃から徐々に,母国を同じくするコ ンシェルジュの担当曜日に合わせて,わざわざ相談に 訪れる留学生も増え,さらに対応件数の増加につながっ た(表 3)。留学生にとって,欠かせないサポートの場 として定着しつつあることを実感できた。 2.3 新入留学生向けガイダンス 当サービスの導入当初から,留学生向けのガイダン スを 4 月と 10 月に実施していた。説明言語は,留学生 のほとんどが理解すると思われる「英語」を用いてい たが,平成 27(2015)年度からは,英語以外の各母語 によるガイダンスを開始した。 アジアからの留学生は全体の 8 割以上を占め(前掲 表 2 参照),その中でも中華人民共和国や中華民国(台 湾),インドネシア,タイ,マレーシア,ベトナムといっ た国の割合が高い。彼らのなかには英語が不得手な場 表 3 コンシェルジュデスク対応件数 写真 1 コンシェルジュデスクでの対応の様子 写真 2 インドネシア語による館内ツアーの様子99 東北大学附属図書館本館 留学生コンシェルジュ 5 年間のあゆみ~図書館における 急増する留学生サポートへの挑戦~ 合もあることから,母語によるガイダンスは非常に効 果的であった。実施にあたっての広報では,コンシェ ルジュの母国コミュニティのネットワークを活用し, 効率的に参加者を集めることができた。 母語でのガイダンスは来日したばかりの留学生に とって安心でき,不安をとりのぞく重要な要素となる。 母語によるサポートを積極的に取り入れることにより, 疑問に思う事の理解度が上がり,コンシェルジュの継 続的利用につながることが期待される。 2.4 講習会への参画 平成 26(2014)年度までは,参考調査係が主催して いる通常の図書館講習会(日本語で行う一般学生向け) の一部分を担当していた。具体的には「レポートの書 き方」講習会の大部分について,日本語を十分に理解し, 運用できるコンシェルジュスタッフに参画してもらっ ていた。これには大学院生であり,日本語で数多くの レポートや論文を書いてきた,という経験を活かそう としたものであった。 しかし彼らの母国語や母国の情報を活かした講習会 の内容の方が妥当と判断し,平成 27(2015)年度から, 特に中国語と韓国語のスタッフに「中国語図書の探し 方」「中国語論文の探し方」「韓国語文献の探し方」と いう内容を作成してもらい,実施してもらった。留学 生の絶対数が多い中国語文献の講習会は,それなりの 参加者があったが,韓国語文献は苦戦した。本学には 韓国研究者,学習者の絶対数が少ないのが原因であっ た。また中国語文献の方も,本来,本学の中国学の教 員・学生向けに企画したものの,想定していたこれら の所属者の参加者がほぼ皆無であった。 平成 28(2016)年度はその反省から,オーダーメイ ド講習会にコンシェルジュが準備したコンテンツを入 れて,その部分の説明をコンシェルジュに依頼するよ うにした。オーダーメイド講習会とは,本学教員から のオーダーを受けて独自に内容を設定する図書館講習 会で,主に授業の 1 コマ~数コマを利用して行ってい る。オーダーは文系理系さまざまからあり,受講する 学生の学年や習熟度,ニーズに合わせ,個別に講習案 を作成し実施する。従来,留学生クラスに対しての館 内見学等は担当していたが,平成 28(2016)年度から は,実際の講習内容の部分にも新たに参画を開始した。 中国関係専攻の研究室に対しては,先に述べた中国文 写真 3 タイ語に翻訳した資料を使用したガイダンス 図 1 各国語で作成した広報資料 写真 4 中国語文献の探し方を講習 写真 5 留学生クラスの授業では館内ツアーも行った
献講習会の内容を活かして,中国文献調査法の講習を 担当するなど,大学院生としての研究実績と経験を存 分に活かす機会となった。 2.5 グローバルセッションと留学生コンシェルジュ ウィーク 平成 27(2015)年から,新しい試みとして,留学生 コンシェルジュの特性を生かしたイベント「グローバ ルセッション」(表 4)を実施している。企画内容は, 留学生コンシェルジュの特技を生かしたもの,専門分 野をわかりやすく説明することで,留学生・日本人学 生ともに親しめる内容とすることを考慮した。 また先述したガイダンス,講習会など他の行事を集 中して行い,同じ週に開催することで,その一週間を 「留学生コンシェルジュウィーク」と冠したキャンペー ンを行うようにした。 基本的な条件として,毎回何らかの館内資料をイベン ト内で使用した後一定期間展示し,当館資料と参加者 をつなぐことに留意している。先述したように「グロー バル学習室」は多様なグローバルに関わる学生をはじ め教職員組織が自由にイベントを行って良い空間であ る。ここで敢えて当館も企画を行う際には,図書館ら しさ,つまりここでは,利用者と当館資料とをつなぐ, という効果を最も重視している。世界各国の風俗や文 化,日本の習慣や郷土料理の図書が,当館には少なか らず所蔵されている。実際利用者からも,こんな資料 が図書館に有ったことは意外であった,という意見が 多かった。このように書棚で眠っている資料に陽の目 が当たることは,我々図書館員の仕事の醍醐味である。 第 1 回には,留学生を含む一人暮らしの学生向けに, コンシェルジュの 1 人が自身の経験を踏まえた自炊術 を講話した。会場ではコンシェルジュ自作のオリジナ ルレシピも配布し,高評価を得た。 第 2 回には,コンシェルジュの専攻でもある言語表 現の国による違いについて講演し,特に留学生が気を 付けるべき日本語の独特な表現(とくに「すみません」) について紹介した。多言語を使うコンシェルジュなら ではの企画となった。 第 3 回では,これまでの講演形式から趣向を変え,ワー クショップ形式を取り入れた。母国の年末年始の風習 を複数のコンシェルジュが紹介し,続いて年賀状やグ リーティングカードを参加者と一緒に作成した。欧米 からの留学生も中国の精細な切り絵を作成するといっ た「教え合い」が発生し,和気藹々とした会となった。 2 年目となる平成 28(2016)年の第 4 回には,4 月の 新学期に合わせ,「留学生コンシェルジュウィーク春」 を開催し,留学生コンシェルジュの紹介を始め,留学 生・日本人学生も参加する英語による図書紹介プレゼ ン大会を開催した。 表 4 グローバルセッション 回 テーマ 担当者 参加 者数 1 安くて簡単!おいしい!家計も 安心!大学生・留学生のための 自炊講座 葉(台湾)25 2 「すみません」ってお礼の言 葉?-感謝場面で使われる表 現の違いに気をつけよう!日本 語・英語そして時々タイ語- サリン ラット (タイ) 10 3 オリジナルグリーティングカー ドを作ろう! 全員 8 4 みんなで選ぼう!東北大図書館 のおすすめ本を紹介・コンシェ ルジュと外国のゲームを楽しも う! 全員 21 5 世界の小麦粉料理-簡単・節約 レシピ集- 全員 18 写真 6 グローバルセッションの様子(1) 写真 7 グローバルセッションの様子(2)
101 東北大学附属図書館本館 留学生コンシェルジュ 5 年間のあゆみ~図書館における 急増する留学生サポートへの挑戦~ 2.6 選書・推薦図書の展示 コンシェルジュデスクでの留学生対応や,講習会と いった直接サービス以外にも,グローバル学習室に配架 する留学生向け及び留学希望者向け図書の選書も行っ ている。選書や日々の配架作業を通じて,資料の内容 を理解し利用促進と充実を目的としている。 留学生向けの図書は,日本語学習用図書や日本文化 を学ぶための図書,海外で読まれている人気小説,日 本の小説の各国語翻訳版などの多岐にわたる。 また,海外留学を希望する学生向けの留学情報の実 用書や語学学習テキスト等も重点的に選定している。 さらに,コンシェルジュ自身も留学生であるという 経験や視点から,おすすめの図書を選び,POP を作成 してディスプレイする常設展示を設置するほか,留学 生コンシェルジュウィークで行ったイベントのテーマ に連動してポスターを作成し,関連図書の展示を行っ ている。イベントには参加できなかった利用者も,展 示を通して当館の多彩な資料の一端に触れることがで きているようだ。 2.7 SNS 等の活用 (1)Facebook 当サービス開始から,広報媒体として活用している。 主に留学生向けに図書館利用情報,イベント案内の各 種情報を,日本語,英語の他,母語による多言語で発 信している。現在(平成 28(2016)年 12 月),400 人 以上がフォローしており,有効な広報ツールとなって いる。 (2)専用ウェブサイト Facebook に加え,平成 27(2015)年には,新たに専 用ウェブサイトを作成した。スタッフの自己紹介のほ か,実施したイベントのアーカイブを掲載している。 当館の英語版ウェブサイトから公開することにより, 海外に向けての PR 効果も期待できる。 (3)グローバル版 Twitter 平成 28(2016)年 10 月には,Twitter アカウントも 開設し,多言語でのツイートを開始した。英語を中心 にコンシェルジュ達の母語を時折混ぜて活動を PR する 他,特に留学生に向けた様々な情報発信を行っている。 従来から運用されている当館の日本語版アカウントの 多言語版として位置付けており,フォロワーは 70 人(平 成 28 年 12 月 13 日現在)に達し,着実に利用者が拡大 していることがうかがえる。 2.8 オープンキャンパスその他 恒例となったオープンキャンパスでの高校生への講 話は,留学生と触れ合い,グローバルな大学生活を体 感する良い経験として毎回好評を博している。平成 28 (2016)年度には,講話のほか,コンシェルジュの母語 のミニ会話講座や伝統遊びをといった新たなメニュー も行った。 写真 8 コンシェルジュリコメンドコーナー 写真 9 イベント関連図書の展示 図 2 グローバル版 Twitter 画面
2.9 成果報告 この 5 年間の留学生コンシェルジュとして勤務した 者は,延べ 28 人の大学院生(専門研究員も含む)であ る。現役大学院生として多忙な中,年数回の職員との 情報交換会や業務を外部に発表する機会も持ってきた。 導入翌年の平成 25(2013)年 7 月には,地元紙8や 大学新聞で当サービスが紹介された。学内のみならず, 一般市民からも本学の留学生への注目が集まってきた と言える。 同年 12 月には,京都大学図書館機構主催の講演会に おいて,当サービスの導入メンバーの一人である横山 美佳情報サービス課専門員(当時)及びコンシェルジュ の兪 幜蘭(ユ キョンラン)氏(韓国出身・教育学研究 科。平成 25(2013)~ 26(2014)年にコンシェルジュ として勤務)が当事業の成果を発表した9。 英語のみならず,特にアジア圏からの留学生を意識 したサポートは,当時他大学ではあまり例がなく,参 加者から高い評価を受けた。
3.5 年間の歩みから見えるもの
3.1 現役コンシェルジュの声 当サービス開始当初からのスタッフ,于楽(ウ ラク・ 中国出身)・アルフィアン(インドネシア出身)両氏に ヒアリングを行った。 (1)長年コンシェルジュをやってきての感想 ・震災後は一時的に留学生が減ったが,初期よりコン シェルジュデスクの利用者が増えた。イベントにも 多数の参加者も増えてきたと思う。今の方がいろい ろやれて充実している。 ・職員や他のコンシェルジュが皆優しいです。利用者 からの質問が高度な時,職員が手伝ってくれるほか, 研究で忙しくて出勤できないとき,他のコンシェル ジュが代わりに出勤してくれ,非常に働きやすい環 境だと思う。 (2)良くなったこと ・最初は手探り状態だったが,徐々に認知度が上がっ てきた。自分自身も図書館のことに詳しくなれてよ かった。 ・留学生へのサービスが多様になったこと。例えば多 言語の図書館オリエンテーションや講習会などを行 うようになった。もう一つは Facebook や Twitter のよ うなソーシャルメディアを通して図書館の情報を発 信したことで,コンシェルジュを頼りに来る留学生 の数が増えた。 (3)課題だと思っていること ・メンバーが忙しくなり,メンバー間の情報共有が難 しい。全員集まってのイベント運営が行えない。 ・日本人学生の相談が少ないこと。相談内容が自分に は難しくて職員の方に質問するケースが多かった。 (4) これまで携わった仕事で一番記憶に残っていること ・オープンキャンパスで,日頃接することが少ない高 校生に自分の国の紹介をすると,とても反応が良く うれしかった。 ・インドネシア語での図書館ガイダンスを行ったこと。 3.2 主な課題 コンシェルジュの活動が認知され定着する一方で, 以下のような課題も浮上してきた。 8 河北新報 平成 25(2013)年 7 月 25 日夕刊 3 面 9 平成 25 年度 京都大学図書館機構 講演会「大学のグローバル化における図書館の役割~留学生サービスから考える」会期・会場: 2013 年 12 月 11 日(水), 京都大学附属図書館. 写真 10 スウェーデン語会話講座103 東北大学附属図書館本館 留学生コンシェルジュ 5 年間のあゆみ~図書館における 急増する留学生サポートへの挑戦~ (1) 本館を利用しない留学生へのサポート(アウト リーチサービス) ⇒市内に 5 キャンパスが点在する本学では,本館を利用 しない他キャンパス所属の留学生が多い。彼らに対 してどのようにサポートするかが課題である。 (2)図書館のリソースとサポート体制を発信する役割 ⇒学内のみならず海外の潜在的利用者,本学への留学希 望者への PR が東北大学自体への興味関心を集めるこ とにつながる。 (3)ニーズに応じたサポート ⇒留学生はとりわけ出身国のコミュニティの結びつきが 強く,その中で各種情報共有がされる傾向がある。 また,近年留学生をサポートする学生サークルや外 部団体の存在も大きい。しかし,図書館の利用に関 しての知識は,対応時の様子や聞き取り調査の印象 から,不十分と言わざるを得ない。また,大学院か らの本学入学者に対してはより手厚くかつ効率的な サポートが求められる。 (4)安定したサポート体制確立と,継続した進化 ⇒ 1 章で述べたように,年々本学に入学する留学生が, 急速に増加している中,コンシェルジュを中心とし たサポートスタッフの組織化を進め,安定したサポー ト体制を確立しなくてはならない。また,今後も急 増は続くことが予想されるため,これまでの経験や 達成に安住せず,常に先を見据えて当事業を先に進 める必要がある。
4.さらなる展開へ ∼全学的サポートへ向けて
4.1 海外大学図書館におけるオンラインサポート 海外の図書館では,以下のような,ウェブサイト上 での問い合わせ窓口を展開していることが多い。これ は英語圏であれば,誰でも気軽に使えるサービスである。一般的には,「ASK a Librarian」「ASK Us」のような バナーを設け,図書館スタッフとのオンラインチャッ トや問い合わせ先の電話番号,電子メール,訪問利用 の予約といった問い合わせ方法の選択肢を掲載し,24 時間世界中どこからでも受付可能とするものである10。 4.2 留学生サポートのための新規事業 そこで,このようなサービスを当館の留学生サポー トに導入できないかと考えた。しかし,本学のように アジア圏からの留学生が多い環境では英語のみの対応 では不十分である。その結果,オンラインかつアジア 圏を含む多言語サポートの実現を目指し,今年度創設 された「学習支援委員会」及び下部組織である「学習 支援実施部会」の1事業として以下の留学生サポート 事業を企画,遂行することとなった。 (1) ウェブを介したビデオチャットシステムを利用し た全学的サポートの試行 ⇒当館への直接来館者以外からの相談に対し,当館の留 学生コンシェルジュを中心に,リアルタイムで対応 する体制を構築する。 また,当サービスにより,当館所蔵の古典籍等に興 味を持つ海外の人々の要望にも応えることができ,PR 効果も期待できる。
(2)多言語版の図書館 Basic Userʼs Guide の刊行 ⇒主要言語(英語・中国語・韓国語・インドネシア語)
10 Library of Michigan University. Ask a Librarian. https://www.lib.umich.edu/ask-librarian. (参照 2016-12-20). 図 3 ASK a Librarian ページ例
については小冊子を作成し配布する。それ以外の言 語(フランス語,ドイツ語,タイ語,ベトナム語な ど)は英語版ウェブサイトからの PDF ダウンロード にて提供する。 両事業を通して,多国籍の留学生の図書館施設・リ ソースの活用を目指す。なお両事業は,留学生施策充 実経費の新規事業として採択されている。
5.まとめ
この 5 年間,留学生コンシェルジュは,留学生の学 習支援・相談,学習や研修における不安解消を目的と した活動を行ってきた。また自身の留学生としての経 験を活かしつつ学内の留学生にとどまらず,留学を目 指す日本人学生に対しても多文化交流を積極的に行っ てきた。その継続的な活動,新たな取り組みへのチャ レンジにより,一定の成果を上げたといえるが,今後 は全学の留学生支援・留学希望者へのサポートといっ た新たな役割を担う存在になるであろう。 何故なら本学の留学生数は,今後も一層の増加が予 想されるからである。具体的には,本学第 3 期中期目 標期間に受入留学生 3,000 人,海外留学体験学生 1,000 人に拡大することを目指している11。 この背景の下,コンシェルジュに求められるスキル やサービスが増大するだけではなく,事務サイド,学 内諸部署との連携など,様々な側面からのバックアッ プ体制の整備も不可欠となると予想される。また新た な公募型予算の獲得による運営資金の拡大や,量的・ 質的サービスの拡大(例えば,グローバルラーニング センターとの一層の連携や人的協力の推進といった中・ 長期的な体制確立)も常に視野に入れて行かねばなら ない。 当館内のピア・サポートからスタートした留学生コ ンシェルジュであるが,今後は以上の点に不断に留意 し,より充実した留学生サポートを実現することで, 全学のグローバルラーニング支援の担い手の一員とな る。本学での学習・研究に希望を抱いて来日した留学 生・研究者たちが,スムーズに学習・研究生活を送れ るようコンシェルジュ・職員一体となって推進してい きたい。 謝辞:サービス開始当初の状況や,今後の課題につい てご教示いただいた横山総務課専門員を初め,当事業 に関わった皆さまに心より御礼申し上げます。図 5 多言語による図書館 Basic Userʼs Guide ガイド見本
11 東北大学 第三期中期目標・中期計画(平成 28 ~ 33 年度)中期目標・中期計画一覧表 http://www.bureau.tohoku.ac.jp/kohyo/kicho/ itiran2016-2021.pdf. (参照 2016-12-20).
図 4 本館の留学生コンシェルジュを中心とした連携イ メージ図