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JAIST Repository: 企業の境界と知財戦略

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JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/ Title 企業の境界と知財戦略 Author(s) 後藤, 吉正; 玄場, 公規 Citation 年次学術大会講演要旨集, 28: 960-965 Issue Date 2013-11-02

Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/11866

Rights

本著作物は研究・技術計画学会の許可のもとに掲載す るものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Science Policy and Research Management.

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2H02

企業の境界と知財戦略

○後藤吉正(名古屋大学)、玄場公規(立命館大学) 1.はじめに 知財戦略の目的は知財権を活用して競争優位を獲得することであり、競争力を創出する知財ポー トフォリオの形成や競合他社に対する効果的な権利活用などが主な内容と考えられている。一方、 多岐にわたる企業活動のうちで、どこまでを社内で行うのか、どこまでを発注・委託・共同などに より社外に依拠するのかは「企業の境界」(boundary of the firm)の問題と呼ばれ、企業経営上の 重要課題である。本報告は、企業の境界と知財戦略の関係を検討し、企業の境界が知的財産による 競争力を規定する主要な要因の一つとなることを事例で検証するものである。 企業の境界の決定要因は能力理論と取引費用理論の2 面から議論されてきた。企業間に能力の差 異があり、必要な能力の獲得には時間と費用を要することが、企業の境界を決定する要因とするの が能力理論である。(Wernerfelt1984) (Chandler1990) 企業に必要な活動を社外から調達する場 合には、市場取引を介して行われるので、調達には市場関係者の合意や契約などの幅広い費用を要 する。これを取引費用と呼ぶ。一方、必要な企業活動を企業内に取り込むには様々の統合費用が必 要となる。この取引費用と統合費用のバランスが企業の境界を決定する要因とみるのが取引費用論 である。(Williamson1975,1985) ところで、企業の境界は特許の効力を左右する。特許は権利者以外による製造・販売等を排他す る権利であるので、自社と競合他社が保有するそれぞれの特許権が一定でも、自社と競合他社の企 業活動の範囲によって、相手に対する排他権の効果が異なる。このことは、特許を用いた競争優位 の要因として企業の境界を検討する必要性を示している。小田切らは特許の専有可能性が高いと技 術の取引費用が低くなりそれが企業の境界に影響することを示した。また、企業の境界が特許によ る専有可能性に影響し、企業の境界と特許による専有可能性は相互作用があると報告している。(小 田切 2010)しかし、企業の境界が特許による専有可能性に作用するメカニズムについては踏み込 んだ議論はしていない。 本報告は、企業の境界が特許による競争優位を産むこと、及びそのメカニズムを事例を用いて検 討する。更に、この事の経営戦略と知財マネジメントの関係における意義にも言及する。 2.リサーチクエスチョン 特許による競争優位と企業の境界との関係を検討するために、本報告は、次の2 つのリサーチク エスチョンを設定する。 RQ1 :企業の境界が、特許による競争優位を左右するのか RQ2 :企業の境界が、特許による競争優位を創出するメカニズムは何か

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以上のリサーチクエスチョンを次の手順で解明する。まず最初に、特許権の本来機能を検討し て、企業の境界が競争優位を生み出す幾つかのメカニズムを仮説する。次にこのメカニズムが実際 に機能するか否かを事例研究で確認する。事例には、通信LSI、DVD ドライブ、パソコン CPU を 用いる。事例研究の結果を踏まえて、2 つのリサーチクエスチョンへの解を考察する。 3.企業の境界と特許にもとづく競争優位に関する仮説 特許権の経営的な効力は既に詳細に解明されてきた。事業における特許の効果は他社による特許 発明の実施を排他する権利である(丸島 2011)ことを踏まえ、企業の境界が特許による競争優位 を発生させる次の4つのメカニズムを仮説する 【仮説1】企業の境界によって、他社特許の効力を最小化し、自社特許の効力を最大化することが できる。 自社と競合他社が特許権で争う場合を想定する。自社特許による競合他社への効力は、自社特 許の権利範囲と競合他社が実施(製造・販売等)する範囲と規模で決まる。競合他社特許による 自社への効力は、競合他社特許の権利範囲と自社が実施(製造・販売等)する範囲と規模で決ま る。これら2 方向の効力のバランスが特許係争の力関係を決定する。従って、仮に競合他社の特 許と実施範囲・規模が同じであっても、自社が実施する範囲と規模、即ち、企業の境界が競合他 社の特許の効力を最小化できる可能性がある。 更に、業界の商習慣等によって、技術的に特許発明を実施する範囲(製品)と特許実施料が課 せられる範囲(製品)が異なる場合も少なくない。例えば、画像CODEC 特許は機器の中のシス テムLSI が実行するが、実施料を徴収する対象はテレビ受信機や携帯電話などの機器である。従 って、この特性を踏まえた企業の境界により、自社の実施料支払いを最小化し、他社からの収入 を最大化することが考えられる。 【仮説2】企業の境界を跨いで、特許の実施権の保有と実施権の実行を分離できる。 特許権者がもつ実施権や他社とのライセンス契約によって得た実施権を自らが実行する以外に、 ライセンス契約の子会社条項を用いて子会社で、have-made 権を用いて外注先で実行すること ができる。これにより実施権という特許制度に関する優位性と、子会社や外注先が保有する生産 能力に関する別の優位性の結合が可能である。 【仮説3】企業の境界は、自社特許で他社を排他したい対象を、標準化によって特許実施許諾が必 要となる範囲から外すことができる。 市場に供給される自社製品と他社製品との界面で、互換性や相互接続性が必要な場合には、技 術仕様の標準化が行われ、その結果、標準に必須な特許(標準必須特許)は第三者への実施許諾 が不可避となる。この為、標準必須特許で他社の実施を排他することはできない。しかし、自社 製品と他社製品との界面の位置を調整して、界面の内側に排他権を行使したい特許が存在するよ うに界面を設定すれば、特許による排他権を行使できる。これは企業の境界の問題である。

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4.事例研 4.1.第 3 第3 世 は通信事 あったQ 実用化を 方式の実 業活動が されると Qualcom 特許ライ つの事業 す。 多数の ている。 料を機器 いQualc ある機器 許ライセ の特許収 また、 の顧客に 電話メー 料支払を 的な地位 このよ は撤退す 用したこ 研究 3 世代携帯電 世代携帯電話 事業者や携帯 Qualcomm は を図るために 実用化には、 が必要であり と、導入が広 mm は事業の イセンス事業 業に留まる経 図 のCDMA 基本 更に、CDM 器から徴収す comm は、特 器メーカとの センスの構造 収入を可能に Qualcomm に権利行使し ーカはQualc を回避できた 位を獲得し、 ように Qualc するが通信L ことにある。 電話通信LS 話の国際標準 帯電話メーカ は、携帯電話や に携帯電話等 通信方式技術 、Qualcom がり第3 世代 の整理に踏み 業に特化する 経営判断を下 図‐1 Qual 本特許を保有 MA 特許は機 する商慣習と 特許実施料を のクロスライ 造が、Qualco にした。 m は多数の C しない条件を comm の通信 た。この特許 世界トップ comm は競争 LSI は継続す 仮説1 が検 I 準に採用され はこの方式技 や基地局を手 の機器とそれ 術の開発加え mm はこれら 代携帯電話の み切った。機器 との観測もあ した。こう lcomm の特 有するQual 機器内のシス なっているた を支払う必要 センスによっ omm の極め CDMA 基本 盛り込んだ 信LSI を採用 ライセンスの クラスの半導 争優位の知財 するという選 証された。 た通信方式 技術に懐疑的 手掛けていな れに用いる通 え、通信LS らの全企業活 の国際標準と 器と通信LSI あったが、Q して出来上が 特許ライセン lcomm は、多 ステムLSI に ため、通信L 要がない。こ って実施料収 めて多額(例 本特許の保有 CDMA 特許 用すると、有 の構造はQu 導体メーカ 財戦略を構築 選択、及び、携 CDMA は、 的で、実用化 なかったが、 通信 LSI の SI、携帯電話 活動を手掛け となった。し I というハー Qualcomm がった Qua スと通信LS 多額の特許実 にて使用する LSI は製造・ このため、Qu 収入が相殺さ 例えば、2013 有を梃子に、 許の実施許諾 有力特許権者 ualcomm が となることに 築した。それ 携帯電話業界 Qualcomm 化が進まなか CDMA 方式 の事業を展開 話、基地局、 た。CDMA しかし、機器 ードウェア製 は通信LSI lcomm の事 SI 事業の構図 実施料を得る るが、携帯電 ・販売するが ualcomm は されることが 3 年 4‐6 月 機器メーカに 諾契約を締結 者である他の が携帯電話用 に貢献したと れが可能とな 界の特殊なラ m が開発した かった。R& 式の有効性を 開した。即ち 特許ライセ 方式の有効 器事業が赤字 製造事業から とラインセ 事業構造を図 図 るポテンシャ 電話業界では が携帯電話は は、主要な特 がない。この で1,960 百 に対して Qu 結した。この の機器メーカ 通信LSI 事 と思われる。 なったのは、 ライセンス商 たが、当初 D 会社で を実証し、 、CDMA センスの企 効性が実証 字に陥った 撤退し、 センスの2 図‐1 に示 ルを持っ は特許実施 は製造しな 特許権者で のような特 百万ドル) ualcomm のため携帯 への実施 事業で寡占 機器から 商慣習を利

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4.2.DV DVD プ は、有力 して強い ドライブ 2004 年 Solution 委ねた。 ① 親会 セ ② 日 会社 ③ 合弁 託 い。 な 図-2 か 国・台湾 となり、 合弁子 の実施権 以前に締 に、実行 4.3.パソ intel の された。 図‐3 1993 年か VD ドライブ プレーヤーは 力特許の保有 い需要があり ブ事業に特化 :Toshiba S ns(PLDS))。 合弁子会社 会社である ンス契約を締 欧の親会社の 社にも適用 弁子会社は、 した。韓国 。更に、韓国 かった他の有 から分かるよ 湾企業の低コ 約80%の市 子会社3 社が 権を合弁子会 締結していた 行できる点に ソコンCPU のパソコンC (Gawer200 の左側に 1 からintel が ブ は特許力によ 有で競争優位 、これに応 化した合弁の Samsung St これら日欧 社は図-2 に示 図‐2 日欧の有力特 締結し、DV の出資比率を された。 、Have-mad ・台湾の親会 国・台湾の親 有力権利者よ ように51%子 スト生産が結 市場シェア が高い市場シ 会社を経由し たクロスライ に妙味がある U CPU 事業に 02) 1987 年にパ が開発し、普 よる競争優位 に成功した企 えて 3 組の 生産子会社 torage Tech の有力特許権 示す次の知財 2 DVD ドラ 特許権企業3 VD 特許支払 を51%とす de 権を用い 会社には合弁 親会社は生産 より優れた価 子会社条項と 結合した。こ (2010 年)を シェアを獲得 て韓国・台湾 センス契約 。これで仮説 おいても、企 ソコンメー 普及させたバ 位を実現でき 企業が存在す 日本・欧州 を設立した( hnology(TSS 権企業3 社は 財戦略を実践 ライブ合弁子 3 社は、それ 払いを大幅に ることで、① てDVD ドラ 弁子会社が得 産コストが低 価格競争力を とHave mad こうして合弁 を獲得するに できたのは、 湾企業で実行 を変更するこ 説2 が検証 企業の境界が カ Compaq スアーキテ きなかった事 する。DVD の有力特許権 (2000 年:Hi ST を、2007 はDVD ドラ した。(新宅 子会社の知財 れい以外の有 削減した。 ①で締結した ライブの生産 得た実施権が 低いため、合 をもった de 権によって 弁子会社3 社 に至った。 、日欧有力特 行できたから ことなく、即 された。 が梃子となっ q が導入した クチャを示す 事例とされる ドライブは 権企業と韓国 itachi-LG d 7 年:Philip ライブの生産 宅2005) 財戦略 有力特許権者 たクロスライ 産を韓国・台 が適用される 合弁子会社3 てクロスライ 社は2つ競争 特許権企業3 らである。3 即ち他の有力 って特許権に たバスアーキ す。Compaq が、DVD ド はパソコン周 国・台湾企業 data storage ps & Lite-O 産をこの合弁 者を含めてク イセンス契約 台湾の親会社 るので実施料 社は合弁会 イセンスの効 争力を合わせ 3 社がもつ D 3 社が合弁子 力特許権者の による競争優 キテクチャを q アーキテク ドライブで 周辺機器と 業がDVD e(HLDS)、 n Digital 弁子会社に ロスライ 約は合弁子 社に生産委 料負担がな 会社を作ら 効果と韓 せ持つ企業 DVD 特許 子会社設置 の同意なし 優位が形成 を、右側に クチャは、

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tel CPU bus に取得して、 PU を他社が 優位が確立し いたバス制御 による競争優 intel の 3 社 事例で示した ことが要因で 呼ぶバス制 主メモリ 術仕様は広 バスのイン Bridge は intel 以外 の市場シャ アーキテク h Bridge、 SI の先に e を CPU s)を公開 それを他 が開発・製 た。Intel LSI の供 優位に影響 社は、もと た競争優位 である。

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5.2. 企業の境界が、特許による競争優位を創出するメカニズム 次に、RQ2 を考察する。4.で検討した 3 つの事例は、3.で提起した競争優位を創出するメカニ ズムに関する3 つの仮説が適切であることを実証している。それらは; (1)企業の境界は、他社特許の効力を最小化し、自社特許の効力を最大化できる (2)企業の境界を跨いで、特許の実施権の保有と実施権の実行を分離できる (3)企業の境界は、自社特許で他社を排他したい対象を、標準化によって特許実施許諾が必要と なる範囲から外すことができる ここで、(3)は、有効性が広く認知されている標準化の open-closed 戦略と類似しているが本質 的に異なる。open-closed 戦略は、標準必須特許以外に有用特許を保有するように標準化の範囲を 設定することに眼目があり、企業の境界に踏み込んでいない。 5.3.経営戦略と知財マネジメントの関係 本報告は、企業の境界は特許による競争優位を創出することを示した。これは知財マネジメント の枠組みについて大きな意義を持つ。「三位一体の知財経営」「戦略的知財マネジメント」の重要性 が提起されて久しい。しかし、これらの論点は知財業務の範囲内であり、最初に経営戦略が策定さ れ、それを支えるように知財業務をマネジメントすることを暗黙裡に想定しているように思われる。 企業の境界は経営戦略の重要課題である。本報告が示すように、特許による競争優位が生まれる ように企業の境界の問題を解くことが事業競争力を形成し、それが経営戦略の一角を担っている。 6 .結論 本報告は、企業の境界が競争優位の知財戦略を創出することと、その創出メカニズムを示した。 今後は、本報告で検討した3 事例以外の事例を取り上げ、本報告で提示した 3 つのメカニズム以外 のメカニズムの存在の探索が課題である。 ≪文献≫

Wernerfelt1, B. (1984) “A Resource-Based View of the Firm”, Strategic Management Journal, 5,171-180.

Chandler,A.D.,Jr. (1990) “Scale and Scope”, Belknap Press

Williamson, O.E (1975) “Market and Hierarchy”, New York: Free Press

Williamson, O.E (1985) “Economic Institutions of Capitalism ”, New York: Free Press Gawer,M. ,Cusumano, M (2002)”Platform Leadership”, Harvard Business School Press

小田切宏之、中村健太(2010 )“特許による専有可能性と企業の境界の相互作用”、

日本知財学会誌、Vol7, No1, 2010:4-13

新宅純二郎,善本哲夫(2005),“光ディスクの標準化による国際競争と国際協調戦略”,

東京大学COE ものづくりセンターMMRC Discussion Paper No.53 立本博之(2007)“PC バスアーキテクチャの変遷と競争優位”、

東京大学COE ものづくりセンターMMRC Discussion Paper No.171 丸島儀一(2011)“知的財産戦略”、ダイヤモンド社

参照

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