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ゼニゴケ (Marchantia polymorpha L.) 造精器特異的電位依存型イオンチャネルMpVICSPER1の機能解析および精子超低温保存法の開発

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 生年月日

学位論文審査結果の報告書

本籍(国籍)

学位の種類

学位記番号

学位授与の条件

(博士の学位) 十川太輔

昭和(邑^、 3年

和歌山県 博 文題目 1 2月

生第

54

学位規程第5条該当

(工 6日

学位論文受理日

判立論文審査終了日

審査委員

ゼニゴケ 学) 電位依存型イオンチャネノレM ⅥCSPER1の機能角早析 三谷匡

ハ4αrchaπtia 011πor haL.)ミ告半青暑昌4寺星毛白勺

および精子超低温保存法の開発 号 令和 令矛口 2年 2年 指導教員 (主査) (副主査) (副主査) (副査) }月 2月 24日 6日 秋田求

大和勝幸

大和勝幸

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ノノ'「で〆'ι÷, 'fl で'. ^ @ 、松 △冏

(2)

受精は、精子が卵に接近して融合することで成立する。一般に、受精の際には精 子誘引物質が卵から放出され、精子はその濃度勾配を感知して卵ヘ向かう。この現 象は精子走イヒ性ど呼ばれ、植物から動物に至るまで広く見られる。精子走イヒ性に関 する研究は 100年以上前から行われている。動植物において、初めて精子走イヒ性が 見つかったのはシダ植物のワラビであり、その精子誘引物質はりンゴ酸イオンであ つた佃fe丘er1884)。精子走イヒ性のしくみは、ウニやホヤなど一部の生物で理角羣が進 んでいるが、精子が精子誘引物質の濃度勾配を認識し、卵に接近するしくみについ ては未だ不明な点が多く、生物種間の共通性・多様性に関する知見も乏しい。 本研究では、精子走化性研究の実験プラットフォームとしてゼニゴケを用いる。 ゼニゴケは、半数性、低い遺伝子冗長性、充実したゲノム情報、容易で選択肢が多 い形質転換系など、これまで精子走化性研究に用いられてきた生物種にはない特性 を兼ね備えている。そのため、ゼニゴケを加えることで動植物の精子走化性の知見 をさらに広めることができると考えた。また、本研究は多数の形質転換体の作製や 系統間の交配を伴い、多数の「生きた」試料・の長期安定的保存が必要であった。こ れまでゼニゴケの胞子、無性芽および葉状体の保存は可能であったが、精子の保存 については例がなかった。これらを受け、本研究の第一部ではゼニゴケにおける精 子走化性に関わる因子MPⅥCSPER1の解析について、第二部ではゼニゴケ精子超 低温保存法の開発について報告する。 これまで、ゼニゴケにおける精子走イヒ性のしくみは不明であり、関与する遺伝子 も分かっていなかうた。そこで、ゼニゴケをモデルとした精子走化1生関連遺伝子の

探索力敢台められた。それまで、マウスの Ca2'チャネノレ CatsP賀(R伽etal.20OD、ヒ

メツリガネゴケのグルタミン酸受容体様チャ才ソレGLR(0血Zetal.2017)、ホヤの

Ca2゛トランスポーターPMCA(YOSMdaetal.2018)が精子内の Ca2゛濃度を制御して精 子走化性に関与すると報告されていた。苔類ゼニゴケにおける精子走化性でも、イ 内 JJ-, の し二 ,

(3)

オンチャネノレ、あるいはトランスポーターが関与すると推測された。そこで、トラ ンスクリプトームおよびプロテオーム解析により発見されていた、電位依存型イオ ンチャネノレのホモログをコードし、ゼニゴケの造精器特異的に発現する膜タンパク

質遺伝子 Zohage・gated !0π Ch伽πel qf'SP五R"11, MPPICSP五R1 に着目した。

MPⅥCSPER1 の類似タンパク質を調ベたところ、そのホモログは噛乳類などの動 物、鞭毛菌類、コケ・シダ植物、藻類には見つかったが、被子植物では認められな かった。ホモログをもつ生物はいずれも精子あるいは鞭毛をもつことから、 MPVICSPER1は鞭毛形成や鞭毛運動の制御に関与する可能性が予想された。また、 MPⅥCSPER1 およびそのホモログには 4 箇所の 10ntransportdomain が保存されて いた。脊椎動物の電位依存型イオンチャネノレと比較したところ、 MPⅥCSPER1 の 10n transpod domain にも1莫電位変イヒを検出する S4令頁ナ或および Ca2十選択フィノレター

である CavAb領域のアミノ酸配列が保存されていた(T脚getal.2014)。これより、 MPⅥCSPER1 が電位依存性 Ca2ーチャネルとして機能するこどが示唆された。続い て、 MPⅥCSPER1 の機能を明らかにするため、ゲノム編集によりその機能欠損株 MpviCψのlg0株を作出した。MPガC即のlg畩隹株の葉状体は正常な形態と成長を示した が、雄器托辺縁部の形態にはわずかな違いが認められた。一方、精子については、

鞭毛運動に伴う精子尾部の振動が MPW硲〆が即株の精子で V2 以下に低下してい

た。 MpviCψerlg0株の精子の平均運動速度も里予生株と比較して 10 15μms、1(里予生株 の 37.0 56.9%)に低下しており、方向車云換もできなくなっていた。さらに、 Mpvi硲〆がg0株の精子は造卵器ヘの走化性を示さず、野生型雌株と交配しても胞子 の形成は見られなかった。以上の結果から、MPⅥCSPER1は遊泳速度の増加および

方向転換に関与していると考えられる。今後、 MPⅥCSPER1の精子における局在、

透過させるイオンの種類、膜電位に対する応答性、上流および下流のシグナル伝達、 鞭毛運動制御のしくみを明らかにする必要がある。 次にゼニゴケにおける生体試料の長期安定保存法のーつとして、精子の超低温保

(4)

存法を開発した。一般に、凝固点よりも低温では、細胞内外で氷晶形成力迹台まる。

氷晶が細胞内で発生・成長すると、物理的に細胞内構造に障害を与える(AsaMm

1967)。細胞外の氷晶形成では、細胞は脱水によるダメージを受ける可盲を性がある

(Asa駈加1962)。そのため、細胞を生きた状態で超低温保存するには、氷晶を形成さ

せずに固化させるか、発生した氷晶から細胞を保護する必要がある。この時、凍結 保護剤(cwoptoteC壮Veagents, CPA)による処理や脱水による細胞内溶質濃度の上

昇、あるいは制御された冷却過程で固化させることが重要である N能山197の。ゼ

ニゴケ精子の超低温保存条件を設定するため、まず一般的な CPA である糖、アル コール、有機溶媒、タンパク質(pegg2007)が精子の運動に及ぼす影響を評価した。 スクロースは3%、グリセロールは4%、 DMS0およびDN佃Aは 10%以上でそれぞ れ精子運動を阻害した。しかし、これらの水溶液を水で置換して除いたところ、部 分的に運動能の回復が見られた。これらの結果より、スクロースおよびグリセロー ルの各濃度は2%、卵黄は5%に設定し、この水溶液をSGY として用いた。 次に、冷却過程を設定した。冷却過程で適切に脱水するため、SGYに懸濁した精 子を・1゜cmm・.の速度で・80゜C まで冷却し、その後は直ちに、液体窒素中(196゜C)に 浸漬した。超低温処理後に常温で解凍すると、精子は保存前の 67.6 75.5%の生存 率、543%の平均運動速度を維持していた。さらに、超低温保存した精子を野生株 雌と交配したところ、多数の胞子が形成され、胞子は正常な葉状体に成長した。以 上の結果より、超低温保存した精子は全体的として平均運動速度は低下するもの の、受精能を維持していることが明らかとなった。 最後に、上記のゼニゴケ精子超低温保存技術の他のコケ植物精子ヘの応用を検討 した。対象として、ゼニゴケに比較的近縁である苔類ジャゴケ属ヒメジャゴケを選 んだ。その結果、超低温保存後でも一部のヒメジャゴケ精子は鞭毛運動を維持した 状態で遊泳しており、ゼニゴケ精子の保存技術が他のコケ精子にも利用可能である 事が示された。以上の結果は、植物精子の超低温保存に成功した最初の報告である。

(5)

本論文は、ゼニゴケ(UのCh飢t放P0沙形ωアhaL.)に見いだされた造精器特異的電位

依存型イオンチャネル MPVICSPER1の機能解析、およびゼニゴケ精子超低温保存

法の開発を試みたものである。 受精は、精子が卵に接近して融合することで成立する。一般に、受精の際には精 子誘引物質が卵から放出され、精子はその濃度勾配を感知して卵ヘ向かう。との現 象は精子走イヒ性と呼ばれ、植物から動物に至るまで広く見られる。精子走イヒ性に関 する研究は 100年以上前から行われている。動植物において、初めて精子走イヒ性が 見つかったのはシダ植物のワラビであり、その精子誘引物質はりンゴ酸イオンであ つた四fe丘er1884)。精子走イヒ陛のしくみは、ウニやホヤなど一部の生物で理解が進 んでいるが、精子が精子誘引物質の濃度勾配を認識し、卵に接近するしくみにっい ては未だ不明な点が多く、生物種間の共通性・多様性に関する知見も乏しい。 本研究では精子走イヒ注研究の実験プラットフォームとしてゼニゴケが用いられ た。ゼニゴケは、半数性、低い遺伝子冗長性、充実したゲノム情報、容易で選択肢 が多い形質転換系など、これまで精子走イヒ陛研究に用いられてきた生物種にはない 特性を兼ね備えている。そのため、ゼニゴケを加えるととで動植物の精子走イヒ陛の 知見をさらに広めるととができると考えられた。また、本研究は多数の形質転換体 の作製や系統間の交配を伴い、多数の「生きた」試料の長期安定的保存が必要とな つた。とれまでゼニゴケの胞子、無性芽および葉状体の保存は可能であったが、精 子の保存については例がなかった。以上を受けて、本論文では前半でゼニゴケにお

ける精子走イヒ性に関わる因子 MPⅥCSPER1 の解析について、後半でゼニゴケ精子

超低温保存法の開発について報告された。 とれまで、ゼニゴケにおける精子走化性のしくみは不明であり、関与する遺伝子

も分かっていなかった。しかし他の生物種では、マウスの Ca2゛チャネノレ Catsper

(R伽 etal.20OD、ヒメツリガネゴケのグノレタミン酸受容体様チャネルG王R (0丘izet

al.2017)、ホヤの Ca2゛トランスポーターPMCA (Yoshidaet al.2018)などが精子内の

Ca2、濃度を御Π卸して精子走イヒ陛に関与すると報告されていた。苔類ゼニゴケにおけ る精子走イヒ性でも、イオンチャネル、あるいはトランスポーターが関与すると推測

文審査結果の要 旨

△冊

(6)

された。そこで本論文では、トランスクリプトームおよびプロテオーム解析により 発見されていた、電位依存型イオンチャネルのホモログをコードし、ゼニゴケの造 精器特異的に発現する膜タンパク質遺伝子 Voltage、gatedlon chalmelofspEkn l,

MPVICSPER1に着目した。 MPVICSPER1の類似タンパク質を調ベたところ、そのホ

モログは噛乳類などの動物、鞭毛菌類、コケ・シダ植物、藻類には見つかったが、 被子植物では認められなかった。ホモログをもつ生物はいずれも精子あるいは鞭毛

をもつことから、 MPVICSPER1は鞭毛形成や鞭毛運動の制御に関与する可能性が予

想された。また、 MPⅥCSPER1およびそのホモログには4箇所の10ntr釦Sportdoma血 が保存されていた。脊椎動物の電位依存型イオンチャネルと比較したところ、

MPⅥCSPER1の 10n杜狐SP0犹domainにも膜電位変化を検出する S4領域および Ca2゛

選択フィルターである CavAb 領域のアミノ酸配列が保存されていた(T釦getal

2014)。これより、 MPVICSPER1 が電位依存性 Caカチャネルどして機能することが

示唆された。続いて、 MPⅥCSPER1の機能を明らかにするため、ゲノム編集により

その機能欠損株Mpvi卯〆r1部株が作出された。 Mpvi郡〆r1部雄株の葉状体は正常な形

態と成長を示したが、雄器托辺縁部の形態にはわずかな違いが認められた。一方、

精子については、鞭毛運動に伴う精子尾部の振動がMpvvi硲P.r1郡株の精子でν2以

下に低下していた。 Mpvvicsperlg'株の精子の平均運動速度も野生株と比較して

10 15μms、'侮チ生株の37.0 56.9%)に低下しており、方向車云換もできなくなってい

た。さらに、 MPν加〆r1部株の精子は造卵器ヘの走イヒ性を示さず、野生型雌株と交

配しても胞子の形成は見られなかった。以上の結果から、 MPⅥCSPER1は遊泳速度

の増加および方向転換に関与していると考えられる。今後、 MPⅥCSPER1の精子に

おける局在、透過させるイオンの種類、膜電位に対する応答性、上流および下流の シグナル伝達、鞭毛運動制御のしくみを明らかにする必要がある。 次にゼニゴケにおける生体試料の長期安定保存法のーつとして、精子の超低温保 存法が開発された。一般に、凝固点よりも低温では、細胞内外で氷晶形成が始ま る。氷晶が細胞内で発生・成長すると、物理的に細胞内構造に障害を与える

(Asabina1967)。細胞外の氷晶形成では、細胞は脱水によるダメージを受ける可能性

がある(Asahi加 1962)。そのため、細胞を生きた状態で超低温保存するには、氷晶

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を形成させずに固化させるか、発生した氷晶から細胞を保護する必要がある。この

時、凍結保護剤(CW叩rotectiveag伽ts,CPA)による処理や脱水による細胞内溶質濃度

の上昇、あるいは佑噺卸された冷却過程で固化させることが重要である(Mazut

197の。ゼニゴケ精子の超低温保存条件を設定するため、まず一般的な CPAである

糖、アルコール、有機溶媒、タンパク質四egg2007)が精子の運動に及ぼす影響が評

価された。スクロースは 3%、グリセローノレは 4%、 DMS0および DNⅡA は 10%以 上でそれぞれ精子運動を阻害した。しかし、これらの水溶液を水で置換して除いた ところ、部分的に運動能の回復が見られた。これらの結果より、スクロースおよび グリセロールの各濃度は 2%、卵黄は 5%に設定し、この水溶液を SGY として用い られた。 次いで冷却過程が設定された。冷却過程で適切に脱水するため、SGYに懸濁した 精子を、1゜c min、1 の速度で、80゜C まで冷却し、その後は直ちに、液体窒素中(196゜C) に浸漬した。超低温処理後に常温で解凍すると、精子は保存前の 67.6 75.5%の生存 率、543%の平均運動速度を維持していた。さらに、超低温保存した精子を野生株 雌と交配したところ、多数の胞子が形成され、胞子は正常な葉状体に成長した。以 上の結果より、超低温保存した精子は全体的として平均運動速度は低下するもの の、受精能を維持しているととが明らかとなった。 最後に、上記のゼニゴケ精子超低温保存技術の他のコケ植物精子ヘの応用が検討 された。対象にはゼニゴケに比較的近縁である苔類ジャゴケ属ヒメジャゴケが選ば れた。その結果、超低温保存後でも一部のヒメジャゴケ精子は活発に遊泳してお リ、ゼニゴケ精子の保存技術が他のコケ精子にも利用可能である事が示された。以 上の結果は、植物精子の超低温保存に成功した最初の報告である。 以上のように、本論文は、精子走イヒ性のメカニズム、その共通性および多様性と いう重要な問題を解決するために、ゼニゴケ精子に存在する電位依存性 Ca2、チャネ ルが精子走イヒ性に必須であるととを示し、同時に、植物精子の超低温保存法の開発 に初めて成功したものでもあり、博士(工学)論文として価値あるものと認める。

参照

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