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わが国自治体における予算編成改革に関する考察

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(1)

わが国自治体における予算編成改革に関する考察

著者

稲沢 克祐

雑誌名

商学論究

66

4

ページ

233-249

発行年

2019-03-10

URL

http://hdl.handle.net/10236/00027934

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 本稿の目的と研究手法

わが国の自治体では、 高度経済成長期などに集中的に建設された施設・道 路・橋・上下水道といった資産が老朽化してきていることが近年指摘されて いる。集中的に作られた資産が老朽化していくのだから、 その集中する時期 には、 自治体財政の大きなストレスとなる1)。一方で、 人口減少・少子高齢

わが国自治体における予算編成改革に関する考察

− 233 − 1) 総務省によれば、「現在の投資額 (新規建設・更新建設を含む)」に対する更新費用の 規模は、 公共施設は1.5倍、 道路は1.7倍、 橋りょうは3.8倍、 上水道は3.3倍であり、 要 旨 人口の減少・少子高齢化、施設・インフラの老朽化等による財政ストレ ス下において、わが国自治体が予算編成の目的である財政規律の堅持、戦 略的資源配分を達成していくための手法をアクションリサーチ及びケース スタディーによって検討したところ、次の手法の有効性が検証された。第 1に、「中期財政計画における各年度予算との連動」であり、中期財政計 画の中に財政目標値の設定と財政対策が記載されることが要件となる。第 2に、「行政評価を活用する成果志向の予算編成」であり、事中評価の導 入が有効な事項となる。

キーワード:財政ストレス (Fiscal Stress)、中期財政計画 (Medium-term Fiscal Plan)、行政評価を活用する予算編成 (Performance Budgeting)、成果志向の予算編成 (Outcome-oriented Budget Making) 、 事 中 評 価 (Intermediate Evaluation in the Fiscal Year)

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化という現実も、 自治体財政にインパクトを与える要因となる。人口の将来 予測によれば、 2040年には、 約7割の自治体で2010年に比べ2割以上が減少 し、 65歳以上人口が40%以上を占める自治体が半数近くになる2)。人口減少・ 少子高齢化による財政的インパクトについては、 一般的に、 生産年齢人口の 減少によって経済規模が縮小することによる地方税収・公営企業会計収入の 減少、 高齢化による社会保障支出の増加が指摘される3) 本稿の目的は、 わが国の自治体が直面する環境変化の中で、 いかにして予 算編成の目的である財政規律の堅持、 戦略的資源配分を達成していくかを検 討することにある。 研究手法として、 予算編成改革に取り組む又は取り組もうとしている自治 体が、 どのような課題を抱え、 それをどのように解決していくのかという問 題意識の下、 研究手法として、 ケーススタディーおよびアクションリサーチ (共同実践研究)4)を用いて検討している。 Ⅱ章において、 わが国自治体の予算編成改革の現状を概観し、 Ⅲ章では予 算編成の目的と課題を整理する。当該課題への対応としてⅣ章では、 予算編 成改革の視点と成果志向の予算編成について整理する。その上で、 Ⅴ章では、 予算編成改革の視点のうち、 規律性改革について兵庫県篠山市および長野県 塩尻市のケーススタディーを基に検討し、 Ⅵ章では戦略性改革について塩尻 大きな財源不足が予測されている (総務省 (2012) 1頁)。また、 個別の自治体では、 たとえば、 兵庫県篠山市は、 平成の大合併に伴い建設した公共施設等の更新時期であ る2040∼2050年以降に集中的更新が予測されており、 その時期には、 単年度で現在の 投資額の10倍を超えることが予測されている (篠山市 (2017) 53、 54頁)。 2) 国立社会保障・人口問題研究所 (2013)「日本の地域別将来推計人口 (平成25 (2013 年) 3月推計)」 3) 人口減少・少子高齢化による地方財政への影響については多くの議論がある。たとえ ば、 井田 (2016) では、 地方財政の歳入・歳出への影響を整理した後、 自治体が対応 すべき守備範囲 (7∼10頁)、 地方行政サービスの最適な提供方法 (10∼11頁) など について提案している。 4) 矢守 (2010) では、 アクションリサーチ (共同実践研究) とは、「望ましいと考える 社会的状態の実現を目指して研究者と研究対象者とが展開する共同的な社会実践」と している。なお、 行政評価導入に係るアクションリサーチの事例については、 松尾 (2009) 93−117頁がある。

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市におけるアクションリサーチを基に検討する。

 わが国自治体における予算編成改革の現状

わが国自治体における予算編成改革の経緯をおおまかに捉えれば、 第1期 として1980年代前後の行政改革期、 第2期として、 1990年代後半から始まる NPM (New Public Management:新公共経営) 改革の影響を受けた行政改革 期、 そして第3期として現在から将来を想定する時期である。第1期は、 「標準予算」、「事業別予算」など、 それまでの歳出項目を細分化して予算統 制する「項目別予算 (Line-item budgeting)」とは異なる視点からの予算編 成方式が、 実験的に導入された時期である。これには、 1960年代、 70年代の 米国における PPBS (Planning, Programming and Budgeting System)、 ゼロ ベース予算 (ZBB : Zero-Based Budgeting) などの試みが影響していた。第 2期は、 英国等における NPM 改革の影響を受けて、 行政評価に着手する自 治体が増加してきた時期であり、「行政経営」の名を冠する組織が設置され る自治体も現れた時期である。予算編成に係る改革手法としては、 施策目的 別に財源を包括的に各部局に配分する方式、 執行時の効率化による不用額を 弾力的に繰り越すことを認める方式、 中期財政計画と単年度予算との連動を 強める方式などが挙げられる5)。こうした手法は、 現在 (第3期) も自治体 において進められている一方で、 とん挫している自治体もある。したがって 現在取り組まれている予算編成改革の現状は、 主に第2期から継続中の自治 体、 第2期の取組みを継続しながら新たな局面6)または、 Ⅳ章で解説する 「成果志向の予算編成」へと改革を進めようとしている自治体、 第2期の取 組みを中止して新たな手法を模索している自治体とに分かれるだろう。 5) 包括的財源配分の例として、 兵庫県川西市の「総額管理型包括財源配分方式」、 不用 額の弾力的繰越の例として、 横浜市の「メリット予算」、 中期財政計画と各年度予算 の連動の例として、 三重県四日市市の「戦略プラン」が挙げられる。 6) 新たな局面とは、 市民参加型予算、 予算編成情報の徹底的な開示などが挙げられる。 いずれも本稿の対象とはしない。なお、 Ⅱ章の記述は、 稲沢 (2015) 34頁による。

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 予算編成の目的と課題

1 予算編成の目的 予算の目的は、 第1に、 総額を統制することであり、 財政規律の堅持であ る。予算編成の当初の段階で債務残高等を含む予算総額を経営層 (自治体で は首長・副首長に加えて、 主に財政担当部長、 計画担当部長等) が決定する ことによって達成されるものである。第2に、 戦略的資源配分であり、 政策 の決定に関して限られた資源を最も経済効率性の高い施策に配分するという ことである。予算編成の中核において達成される目的である。第3に、 アウ トソーシング等の市場原理および繰越の弾力化などを手法とする効率的執行 であり、 予算執行において達成される目的である7)。予算編成改革を主題と する本稿では、 予算編成段階で達成される第1と第2の目的について、 以下、 現状と課題を整理する。 2 これまでの予算編成の現状と課題 これまでの予算編成の問題点は、 ウィルダフスキー8)によれば、 増分主義、 投入統制、 単年度予算の3点に整理される。 第1の増分主義とは、 予算査定において、 前年度までの予算を既定費9) してほぼ無条件に認める一方で、 歳入(税収)の増分をどの新規事業に配分 するかを検討していくものである。このような増分主義が支持されていた根 拠としては、 限られた時間内で全ての事項を検討する余裕がないという査定 の現実ゆえに、 前年度予算を前提として編成作業を進めていくことが合理的 だからという査定側の作業効率性の視点もある。 7) 予算の目的については、 田中 (2003) の整理を基にしている (田中 (2003) 266頁)。 8) 3点に言及している著作では、 たとえば、 ウィルダフスキー (1983年) を参照。 9) わが国自治体の制度会計には「既定費」の用語はないが、 たとえば、 英国中央政府は、 既に制度上の理由等で支出が認められているために議決の対象としない事項を既定費 とし、 一方で、 国会における議論と議決の対象とする議定費とに分類している。本稿 の既定費は、 前年度予算で計上されている「現計予算」の意味で用いている。

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査定側が増分主義を採る限り、 税収増分の獲得を目指して、 要求部局は獲 得予算の最大化を図るという行動を採ることになる。しかし、 昨今のように 税収が減少する中で、 その増分がなくなると、 増分の配分による優先順位付 けは困難になる。結果、 前年度予算の縮小的踏襲になりかねず、 行政課題の 解決のために施策を選択するという戦略的資源配分の視点がなくなる。 第2の投入統制とは、 前述の項目別予算を意味している。確かに、 従来は 細分化することで各項目の歳出額の統制が可能となり、 かつ歳出総額の統制 もできた。しかし、 歳出総額が大きくなるとともに、 歳出の多くが人件費や 扶助費、 公債費などの統制に適さない義務的経費となってきたことで、 投入 統制は、 増分主義とともに壁に行きあたることになる。すなわち、 財政規律 の堅持において課題があると言える。また、 人件費等の投入資源の性質に着 目した予算科目のみでは、 事務事業や施策の目的に対する予算編成には適さ ず、 戦略的資源配分の点において課題を抱える。 第3の単年度予算の問題点は、 初年度の支出額が小さくても、 2年度目以 降に支出額が増大する可能性のある事業において顕在化する。すなわち、 複 数年度にわたる財政負担を検討したうえで初年度に予算を付けるべきかどう かを論ずる必要があるにも関わらず、 初年度の予算額の議論に終始してしま うという問題がある。加えて、 一度開始された事業を止めることは、 始める ことに比べればはるかに難しく、 結局、 後年度の巨額な事業費を予算化せざ るを得ないということになる。これは中長期における財政規律の課題である。 さらに、 単年度予算の下では、 決算時に予算が余っていると過剰だと見られ て翌々年度予算が削られることから、 年度末の駆け込み執行となりがちであ る。これは、 予算執行の効率性の課題であると言える。

 予算編成改革の手法

1 予算編成改革の視点 前章で述べた予算の3つの目的のうち、 第1の財政規律の堅持 (この目的 を以下「規律性」という) と第2の戦略的資源配分 (以下「戦略性」という)

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は、 予算編成の目的でもある。すなわち、 予算編成段階では規律性と戦略性 の視点から統制し、 さらに予算執行の段階では執行の効率性 (この目的を 「効率性」という) の視点から統制する。統制の主体は議会であり、 当該議 員を選出した住民ということになる。議会および住民がいかに予算編成に参 画していくかという「参画性」の視点が求められることになる。加えて参画 のためには、 いかに予算情報の透明化を図るかという「透明性」の視点が重 要になってくる。以上の5つの視点、「規律性」「戦略性」「効率性」「参画性」 「透明性」を予算編成改革の視点とし、 具体的アプローチをまとめたのが第 1表である。予算編成改革を主題とする本稿では、 予算編成段階の改革視点 である「規律性」と「戦略性」について検討する。 2 NPM 改革と成果志向の予算編成 1980年代の英国・ニュージーランド、 北欧で進められた NPM 改革が、 1990年代後半からわが国各地で取り組まれるようになってきた。NPM 改革 では、「行政活動によって住民生活の質がいかに変わったか(以下、「成果」 という)」を重視する。一方で、 投入統制では財政当局が成果に目を向けな いで投入資源の配分を行い、 投入資源配分に係る現場の裁量をなくしてしま 第1表 予算制度改革の視点、具体的アプローチ、事例 視 点 具体的アプローチ 規 律 性 中期財政計画の策定 (財政指標による管理) 戦 略 性 ● 集権的予算編成 (トップ・マネジメントの強化)総合計画と予算との連動分権的予算編成(枠配分予算) 効 率 性 ● 予算の効率的執行(インセンティブ予算) ● 分権的予算編成 (枠配分予算) 参画性 議会 議決権の積極的行使、議会による評価の活用 住民 市民参加型予算 透明性 ● 予算編成過程の公開 ● 財務情報の網羅性・わかりやすさの向上 (出所) 稲沢ほか (2012) 30頁、図表110を加筆修正

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う。そこで成果を重視した改革を進めていくためには、「権限なきところに 結果責任なし」という人間の行動原理に従って投入資源の配分を現場に移譲 することになる。配分を任された現場では、 成果を最大化するにはどのよう な配分をするのがよいのかという視点が求められることになる。この視点を 具体化した予算編成を「成果志向の予算編成」と呼ぶことにする。 成果志向の予算編成においては、 まず、 前述した「単年度予算」の問題に 対処するために「中期財政計画と各年度予算との連動」が求められる。さら に中期財政計画による財政規律の中で重要政策への資源配分を集権的に実施 していく「集権的予算編成」が必要となる。また、「成果」を問う限り、「成 果」を測定する行政評価から得られる情報を基にして配分をする必要がある。 こうした成果志向の予算編成として、 行政評価を予算編成に活用する方法 がある10)。具体的には、 施策対象の評価 (施策評価) と事務事業対象の評価 (事務事業評価) の二層構造による評価を前提として、 事務事業の上位目的 である施策の目標達成という視点から事務事業を相対化して、 優先化・劣後 化を図ることになる。重要事業を意味する実施計画事業については、 経営層 による予算編成 (集権的予算編成) を組み合わせることになる11)。たとえば、 優先化された事務事業には、 投入資源 (事業費・人件費) の増加による成果 数値の向上という方向性が決定される。一方で、 劣後化された事務事業には、 10) 予算編成への評価の活用は、 一般に「業績予算 (performance budgeting)」と呼ばれ る。業績予算とは、 田中 (2005) によれば、「業績や評価に関する情報を産出し (情 報の産出)、 業績・評価情報によって予算編成・資源配分における意思決定の質を改 善する (意思決定の質の改善) こと」と定義されている (田中 (2005), p 32)。また、 OECD (2007) では、 業績予算の類型として、「提示型 (Presentational)」、「業績情報 提供型 (Performance-informed budgeting)」、「直接的・計算式型 (Direct / formula per-formance budgeting)」に3分類し、 これらの中では、 業績情報提供型が最も望ましい、 としている (OECD (2007), p 12., 邦訳:茂木・平井 p 12)。本稿では、 こうした定 義、 分類の視点から自治体における行政評価の予算編成への活用事例を検討すること を目的とするのではなく、 あくまでアクションリサーチによる分析を目的とするため、 業績予算の用語は用いていない。 11) 事務事業評価のみの場合に、 優先化は「実施計画事業」などのように、 金額基準 (ソ フト事業100万円、 ハード事業1,000万円など) により決められているものの、 その実 施計画事業から優先化を行うためには、 後述する集権的予算編成が必要となる。

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投入資源の減少による執行の効率化または段階的撤退という方向性が決定さ れる12) 予算編成への行政評価の活用形態については、 事業課が要求内容を検討し 財政課も当該情報による査定を行う類型、 一定の財源を事業課に配分して各 事務事業の予算編成を委ねる類型に分類される。ここで、 いずれも行政評価 に基づく事業課の要求が起点になることから、 財政当局から事業部局への査 定権限の分権という意味で「分権的予算編成」と呼ぶ。以上をまとめると、 「中期財政計画との連動」、 行政評価の活用を前提とした「集権的予算編成」、 「分権的予算編成」の3点が、 成果志向の予算編成手法と言ってよい。

 規律性の視点−中期財政計画と予算との連動

1 中期財政計画の意義 Ⅲ章で指摘したように、 単年度予算には規律性の視点から課題がある。そ の対応のための具体的アプローチとして、 複数年度予算または中期財政計画 がある。ただし、 現行の地方自治法では、 複数年度予算として継続費、 債務 負担行為、 繰越明許費を例外的に認める単年度予算が原則であることから、 中期財政計画が現実的なアプローチとなる。 翻って、 これまでも各自治体で「中期財政見通し」といった名称のものが 作成されてはいる。だが、「見通し」であり、「計画」とは歴然と異なる。 「見通し」は予測に過ぎないがゆえに、 数値予測を外れても特に軌道修正の ための改善策が求められるものではない。一方で「計画」と呼ばれるからに は、 数値「予測」ではなく、 計画「目標値」から離れてきた場合、 換言すれ ば、 財政規律の点から問題が生じた場合には、 何らかの改善策が検討されて 財政規律を堅持しなければならない。以上の点から、 中期財政計画に求めら れる要件は、 第1に、単なる財政見通しを超えて持続可能な財政運営のため の数値目標が設定されていること、 第2に、歳入歳出ギャップなどの財政規 12) ここで、 効率化とは、 成果数値を一定にして、 コストを下げることを指している。

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律の問題に対する財政対策が盛り込まれていることである。 数値目標の設定については、 まずは歳入歳出ギャップの解消が目標となろ う。一方で、 中長期的な財政収支の動向に構造的な要因が考えられる場合に は、 当該要因に関連する財政目標値の設定が求められる。たとえば、 弾力的 な財政運営を持続的に行っていくことに課題があれば、 経常収支比率と地方 債残高比率といった指標から目標値を設定するなど、 財政のフローとストッ クの両面から設定されることになろう13) 2 財政目標値による財政運営の検討 (兵庫県篠山市のケーススタディー) 兵庫県篠山市 (2018年9月30日現在人口41,857人) では、 行財政改革期間 における財政指標による目標管理を実行している14) 平成合併の第1号事例である篠山市は、 2010年度から合併算定替の縮小期 に入っている。その縮小期を前に、 市財政の窮乏から脱却してまちづくりを 進捗させるために、 2008年11月に「篠山再生計画(行財政改革編)」を策定 し抜本的な行財政改革に着手している15) 第2表に示す篠山市の長期的財政収支見通しは、 前述した財政計画に求め られる2つの要件を満たしていると考えられる。第1に、 当該見通しが「篠 山再生計画」において策定される中で、「2020年度には収支均衡させ財政調 整基金からの繰り入れをなくすこと」、「2018年度には実質公債費比率を協議 団体水準以下 (18%以下) とすること」という財政目標が当初計画策定段階 で設定されていることである。第2に、 行財政改革計画の目標値を「行革取 組分」として表中に反映させていることである。 さらに、 篠山再生計画の特長として、 第1に、 行財政改革の効果を詳細に 検証し、 実質公債費比率等の推計を盛り込んだ財政収支見通しを毎年度ロー リングしながら、 検証の結果を次年度の予算編成に反映させている点である。 13) 中期財政計画については、 稲沢 (2012)、 稲沢 (2010) などを参照。 14) 兵庫県篠山市の事例については、 稲沢 (2013) を基にしている。 15) 篠山市 (2008)。なお、 篠山市では、 行財政改革編に続けて2009年1月には、「篠山再 生計画 (まちづくり編)」を策定している。

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第2に、 検証に当たっては、 外部有識者で構成する篠山再生計画推進委員会 に財政収支見通しの達成度、 行財政改革の進捗度を示して意見を聴取した上 で、 当該意見を毎年度の予算編成に反映させている点である。なお、 その反 映の効果も、 次年度の委員会にて検証されている。 規律性改革の成果として、 篠山市では、 第1の目標としている「2020年度 には収支均衡させ財政調整基金からの繰り入れをなくすこと」については、 1年早い2019年度中には達成見込みであり、 第2の「2018年度には実質公債 費比率を協議団体水準以下 (18%以下) とすること」については、 現時点 (本稿脱稿の2018年10月20日現在) で2018年度中に達成の見込みである。 3 長期財政推計と総合計画との連動(長野県塩尻市のケーススタディー) 長野県塩尻市(2018年10月1日現在人口66,929人)では、「第5次塩尻市 総合計画 (2015∼2023年度)」において、 より戦略性を高め、 実効性のある 計画とするために、 総合計画期間中の財源推計と当該計画における達成目標 とを関連付けた財政計画が必要不可欠という認識から、「中期戦略」や「実 第2表 篠山市の長期的財政収支見通し (単位:億円) 項目 年度 2007 2008 2009 省略 2018 2019 2020 2021 歳入総額 169.4 176.4 192.2 131.2 132.6 133.6 132.1 行革計画分 (自主財源確保) − 0.0 0.2 0.2 0.2 0.2 0.2 歳入計 A 169.4 176.4 192.4 131.4 132.8 133.8 132.3 歳出総額 181.9 182.1 199.4 142.3 140.2 140.1 138.5 行革改革分 (人件費分) − △1.5 △2.3 △2.2 △2.2 △2.2 △2.2 行革改革分 (その他) − △2.4 △3.7 △4.5 △4.5 △4.5 △4.5 歳出計 B 181.9 178.2 193.4 135.6 133.5 133.4 131.8 歳入歳出差引 A−B △12.5 △1.8 △1.0 △4.2 △0.7 0.4 0.5 財政調整基金残高 23.3 28.7 35.8 0.0 0.0 0.4 0.9 基金残高合計 52.5 59.3 65.8 31.3 30.6 31.0 31.5 地方債残高 482.1 444.1 406.9 150.0 143.1 136.2 129.3 実質公債費比率 (%) 19.5 21.7 22.7 17.1 15.3 13.9 14.2 (出所) 篠山市 (2012) 7頁を基に筆者作成

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施計画」と連動させた財政推計を策定している16) 9年間の推計期間が3期に分けられており、 各期の推計方針は第3表のよ うに述べられている。 当該財政推計において財政計画の第1の要件である「財政目標値の設定」 がされている箇所は、 第3表中、 下線で示した部分である。まず、「プライ マリーバランスの黒字化を保つ」という目標について、 具体的には、 塩尻市 (2015) において、「公債費は、 2015年度にしおじりワイン債の満期一括償還 等のため、 34億3千万円余と期間中のピークとなる見込みだが、 プライマリー バランスの黒字化を保つため、 2016年度以降は32億円前後で推移する見込み」 とされている。公債費に数値目標を設定すれば投資的経費総額の目標設定に なることから、 長期的な投資事業計画と各年度予算額とを連動させた財政目 標値と理解できる。また、「基金残高を勘案した実施可能な事業規模」とい う目標については、 第4表に示すとおり、 長期財政推計の構成要素として 「財政調整基金残高」の欄が設けられており、 塩尻市 (2015) では、「2023 年度末の財政調整基金残高は8億7千万円となり、 標準財政規模の5.0%の 第3表 塩尻市長期財政推計の各期の推計方針 期 推計期間 (年度) 推計方針 Ⅰ 2015∼2017 2015年度は当初予算ベースで、2016∼17年度は2014年 度実施計画 (2015∼17年度) において計画された事業 等を踏まえて、財政状況を推計する。 Ⅱ 2018∼2020 プライマリーバランスの黒字化を保ちつつ、確保でき る財源から実施可能な普通建設事業等を算出した上で、 新体育館建設事業費を確保し推計する。 Ⅲ 2021∼2023 普通交付税の合併算定替措置が終了し、合併特例債や 過疎対策事業債等の有利な起債制度も終了するため、 基金残高を勘案した実施可能な事業規模で推計する。 (出所) 塩尻市 (2015) より筆者作成 16) 塩尻市の財政推計に関する記述については塩尻市 (2015) を参照。

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水準を確保」とされている。 財政計画の第2の要件である「財政対策として、 歳入歳出ギャップなどの 財政規律の問題に対する財政対策を盛り込むこと」については、 塩尻市 (2015) によれば、 以下のプロセスによって財政推計を進めている点から、 要件を満たしていると理解できる。すなわち、 まず推計の当初では、 各年度 の実質収支をゼロ、 すなわち実質収支均衡を当初の目標に設定する。さらに 行政改革などの実施による実質収支の黒字化に目標値を設定し計画期間終了 時点の財政調整基金残高の目標値が設定されている。その上で、 各般の行政 改革を盛り込んだ結果の実質収支の推計において、「実質収支を毎年2億円 とし、 2分の1は翌年度に繰り越し歳入余剰金とし、 残りの2分の1につい ては財政調整基金に積み立て」とされている。第4表は、 上記の方針を反映 させた長期財政推計と言える。

 戦略性の視点からの予算編成改革−長野県塩尻市におけるア

クションリサーチ

1 塩尻市におけるアクションリサーチの概要 本章では、 戦略性の視点からの改革として、 総合計画の目標達成と財政改 第4表 塩尻市長期財政推計の概要 単位:百万円 2018 2019 2020 2021 2022 2023 歳入合計 A 27,309 26,277 27,702 26,479 26,604 26,636 歳出総額 B 27,817 26,220 28,127 26,606 26,629 26,799 差引額 (A−B) C △508 57 △425 △127 △25 △163 財政調整基金取崩対応額 D 408 43 225 177 75 213 減債基金取崩対応額 E 合併特例債取崩対応額 F 300 100 400 150 150 150 翌年度へ繰越すべき財源 G 実質収支 (C+D+E+F−G) 200 200 200 200 200 200 財政調整基金残高 2,516 2,573 2,448 2,371 2,396 2,283 (出所) 塩尻市 (2015) より筆者作成

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革の実現のために、 行政評価の活用によって分権的予算編成・集権的予算編 成へと予算編成を転換させていった塩尻市において実施してきているアクショ ンリサーチから検討する。 塩尻市におけるアクションリサーチは、 2016年8月の訪問を契機に、 2017 年6月から2018年10月の本稿脱稿時点まで、 行政経営システム全般に関する 相談と職員研修を通じて実施している。2017年度にアドバイスした相談事項 としては、「行政経営システムに関する事項」「包括予算に関する事項」「第 2期中期戦略に関する事項」であり、 職員研修については、 施策評価シート の仕組みと指標設定の理解を深めることを目的に実施している。そのほか、 訪問時に行政経営システム全般に関するアドバイスなど、 メール、 訪問、 研 修を通じたアクションリサーチとなっている。 2018年度 (本稿脱稿の10月20日時点まで) にアドバイスした相談事項とし ては、「行政改革基本方針に関する事項」「行政経営システムと行政改革基本 方針との連動に関する事項」「財務分析に関する事項」である。また、 新規 の事項として、「実際の事務事業評価シートのチェックとアドバイス」を実 施している。職員研修は、 事務事業評価の仕組みと指標設定の理解を深める ことを目的に実施している。そのほか、 2017年度と同様に、 訪問時に行政経 営システム全般に関するアドバイスなど、 メール、 訪問、 研修を通じたアク ションリサーチとなっている。 2 塩尻市における成果志向の予算編成改革の経緯と成果 合併自治体である塩尻市では、「第5次塩尻市総合計画」の策定時となっ た2014年度に、 地方交付税の特例措置 (合併算定替) の段階的縮小が2017∼ 2021年度にわたる5年間実施されることで歳入減少を予測していた。この期 間は、 当該総合計画の期間 (2015∼2023年度) の、 ほぼ中間に位置する5年 間である。したがって、 投資計画も含めて計画目標達成のためには、 縮小す る歳入の中で必要な事業を実施していくための実効的な仕組みを構築するこ とが喫緊の課題であった。

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ここで、 実効的な仕組みとは、 財政規律を堅持しながら優先性の高い事業 を実施可能にするための行財政運営を意味する。前者の財政規律堅持のため の仕組みとして、 まず、 前章で検証した長期財政推計がある。後者の優先性 の高い事業実施のための仕組みとしては、 以下に検証する「事中評価を中心 とした行政評価システム」である。 塩尻市では、 第4次総合計画期間中 (2006∼2014年度) の2012年度に行政 評価を開始していた。Ⅱ章の分類に従えば、 NPM 改革の影響を受けた第2 期の行政改革期の取組みを継続しつつ、 成果志向の予算編成へと改革を進め ようとしている自治体であると言える。 すなわち、 当時の行政経営システム (行政評価、 実施計画、 予算編成) の 現状は、 行政評価において事務事業評価を全事業に実施し、 施策評価も第4 次総合計画に基づいて実施していた。また、 実施計画の対象を主に新規事業、 市長マニフェスト事業、 ハード事業 (1,000万円以上)、 ソフト事業 (500万 円以上) として、 毎年3年間分のローリングを企画課によって実施し、 予算 編成では、 政策的経費は実施計画も含めて財政課による一件査定、 経常的経 費は事業部枠による枠配分予算を実施していた。これらの行政経営の取組み について、 塩尻市は課題を第5表のとおりに整理している。 総合計画の実施に合わせて、 こうした行政経営システムの課題に対して基 第5表 前総合計画期間中の行政経営システムの課題 行政評価の課題 実施計画の課題 予算編成の課題 ・全事業評価のため担当課 の負担が大きいこと。 ・施策評価と事務事業評価 が効果的に連動していない こと。 ・予算を確保するために、実施 計画の要求額が膨らむ傾向にあ ること。 ・ローリングを実施の可否、実 施しないのであれば、事業進行 状況による変動に対応するため の仕組みが必要 ・実施計画との2段階査定によ る担当課の負荷が大きいこと。 ・N年度の事後評価をN+2年 度の予算編成に活用しているこ とのよる評価情報の適時性の課 題。 ・事業部枠の中での根本的なス クラップ&ビルドができていな いこと。 (出所) 塩尻市 (2018) の図を基に筆者作成

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本的な考え方を「成果志向 (行政運営を計画重視から成果 (決算) 重視に転 換)」「行政資源の効率的配分 (行政評価によってスクラップ&ビルドのでき る仕組みの構築)」「職員の意識改革 (職員のコスト意識や政策立案能力の向 上を図る仕組みの構築)」の3点に置き、 第6表に示す改革方針に基づく行 政経営システムを構築した。 なお、 第6表における「予算編成の改善方針」には、 筆者が2008年4月か らアクションリサーチを実施している埼玉県秩父市の取組み17)に示唆を得た という18) 第5表と第6表から、 塩尻市の行政経営システムの特長を次のように整理 できる。第1に、「事中評価」の導入により、 行政評価を予算編成に活用す る体制を整えたことは、 より成果志向の予算編成に向けた取組みになった点 で評価できる。第2に、 実施計画事業という、 総合計画において重要な位置 づけにある事業について、 これまでのボトムアップ型の2段階査定を廃止し、 首長を中心とする集権的な査定に移行したことは、 集権的予算編成を採用し た点で評価できる。第3に、 各事業部に事務事業の改廃と新規立案の権限を 一定程度委ねる「包括予算制度」は、 分権的予算編成を採用した点で評価で 第6表 行政経営システムの改善方針 行政評価の改善方針 実施計画の改善方針 予算編成の改善方針 ・事務事業評価対象は主要事業 のみ ・事務事業評価は担当者が記入 することで政策上の位置付け、 コストを意識できるようにする。 ・「事中評価」を導入し、現状 の課題を翌年度の予算編成に連 動。 ・実施計画の「補正」対応とい う考え方を導入。 ・実施計画の対象事業はハード 事業のみとし、最終査定額で予 算額確定 (2段階査定の解消)。 ・ソフト事業は、行政評価で方 向性を確定し、予算額は予算編 成で確定。 ・行政評価と連動させ、事 中評価の結果を予算編成に 活用。 ・「包括予算制度」を導入 し、事業部内でスクラップ &ビルドできる仕組みを構 築。 (出所) 北野 (2018) の図を基に筆者作成 17) 秩父市におけるアクションリサーチについては、 稲沢 (2015) を参照。 18) 北野 (2018) による2018年7月20日の全国市町村国際文化研修所 ( JIAM)における研 修での説明および研修時配布資料では、 先進自治体からの情報収集として、「埼玉県 秩父市の新井課長との出会い ( JIAM 研修) と資料提供」が言及されている。

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きる。 第Ⅳ章で検討したように、 成果志向の予算編成の要素は、 集権的予算編成、 分権的予算編成、 中期財政計画との連動3点である。塩尻市の事例は、 前述 したように集権的予算編成及び分権的予算編成を予算編成過程に採り入れ、 さらに第Ⅴ章で検討した長期財政推計と予算編成とを連動させていることか ら、 成果志向の予算編成の要素を全て満たしているものと評価できる。

 おわりに

篠山市と塩尻市の事例では、 中期財政計画と各年度の予算編成との連動を 通じて、 予算編成の第1の目的である「総額の規律の維持」は達成できてい ることが確認された。また、 塩尻市の事例からは、 集権的予算編成と分権的 予算編成によって、 第2の目的である「戦略的な資源配分」を目指す予算編 成の実施が確認されている。今後、 中長期的な財政ストレスが予想されるわ が国自治体において、 こうした事例に学ぶ予算編成改革が求められていると ころである。 今後に向けて、 中長期的な計画目標の達成に資する財源確保をどうすれば よいか、 中長期的な資源配分の重点化をいかにして決定していくかという中 期財政計画、 長期財政推計と連動した中長期的な財源配分に関する課題が、 わが国の自治体には残されていると考える。 (筆者は関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科教授) 【引用文献】 井田知也 (2016)「人口減少社会の中で求められる行政サービス改革」 地方財政 2016年 6月号 :413頁 稲沢克祐 (2015)「基礎自治体における財源減少時期の予算編成改革」日本地方自治学会 編『基礎自治体と地方自治 (地方自治叢書27)』勁草書房:340頁 稲沢克祐 (2013)『自治体の財政診断と財政計画−決算重視による財政マネジメント−』 学陽書房 稲沢克祐 (2012)『増補版 行政評価の導入と活用−予算・決算、 総合計画−』イマジン 出版

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稲沢克祐、 鈴木潔、 宮田昌一著、 日本都市センター編 (2012)「第1章 変貌する都市自 治体の予算編成」 自治体の予算編成改革−新たな潮流と手法の効果−』ぎょうせい 稲沢克祐 (2010)『自治体 歳入確保の実践方法』学陽書房 ウィルダフスキー (小島昭訳) (1983)『予算編成の政治学』敬文堂 北野幸徳 (2018)「行政評価を核とするマネジメント∼予算・決算、 総合計画への活用∼ 塩尻市における取り組み」(2018年7月20日 全国市町村国際文化研修所 研修配布 資料) mimeo. 国立社会保障・人口問題研究所 (2013年)「日本の地域別将来推計人口 (平成25 (2013年) 3月推計)」 篠山市 (2012)「篠山再生計画(行財政改革編)進捗状況等報告」(篠山市ホームページ 2018年10月6日確認) 篠山市 (2008)「篠山再生計画(行財政改革編)」(篠山市ホームページ 2018年10月6日 確認) 塩尻市 (2015)「塩尻市長期財政推計〈平成27年度∼平成35年度」(塩尻市ホームページ 2018年10月6日確認) 総務省 (2012年)「公共施設及びインフラ資産の将来の更新費用の比較分析に関する調査 結果 平成24年3月」 田中秀明 (2005)「業績予算と予算のミクロ改革 (上)」 季刊 行政管理研究 No. 110 : 2555頁 田中秀明 (2003)「資源配分と予算の戦略的統制」山内弘隆・上山信一編著『パブリック・ セクターの経済・経営学』NTT 出版 松尾貴巳 (2009)『自治体の業績管理システム』中央経済社 矢守克也 (2010)『アクションリサーチ 実践する人間科学』新曜社

OECE (2007) “Performance Budgeting in OECD Countries”. OECD Publishing. (邦訳 茂 木康俊・平井文三訳 (2010)『世界の業績予算−政策評価・行政評価に基づく新たな予 算編成システム−』財団法人行政管理研究センター

参照

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