窒素紫外レーザ励起色素レーザの波長可変性
井上行夫
土屋明佐々木秀行
菅原理夫 (昭和49年8月31日受理)Wavelength Tunability of Dye Laser Pumped by
Ultraviolet Nitrogen Laser
YukioINOUE AkiraTSUCHIYA HideyukiSASAKI
MasaoSUGAHARA
Abstract The purpose of this experiment is to investigate the wavelength tunability of the dye laser, in which the dye solution was exited by rapidly repeated pulse of ultraviolet nitrogen laser light. The investigation was conducted by the following two tuning methods; 1)Changing the concentration of the dye solution, and mixing two dye solutions. 2)Using a diffraction grating as one of the laser resonator mirrors. The experimental results of the丘rst tuning method were compared with the previously reported results for the flashlamp pumped dye laser, and approximately the same wavelength shift resulted. The second tuning method was proved to have the following two advantages: 1)Only a single dye solution was required to obtain approximately the same results. 2)The emission bandwidth of the dye laser was narrowed.1.緒
言 色素レーザは波長可変性という他のレーザにないユ ニークな特徴を有する。さらにこの色素レーザは回折 格子を組み合わせることにより,色素レーザ特有のブ ・P一ドな発振波長幅を狭めることができ,しかも出力 において大した損失もないことから,現在回折格子は ほとんどの色素レーザに組み込まれ,分光学1),物性2) などの理工学分野に広く用いられている。筆者らはさ きにフラッシュランプを用いて色素レーザを製作し, その波長シフト特性について報告したが3),このたび 励起効率がよいとされている窒素レーザを製作し,そ の繰返しパルス紫外光で色素を励起し,フラッシュラ ンプ励起の場合と同様に色素の濃度変化および混合に よる波長可変(tuning)の実験を行った。その結果, 波長シフト範囲が多少短波長側ではあったがフラッシ ュランプ励起の場合と同様の傾向を示すことを確認し た。さらに回折格子を共振器の片側ミラーとして用い ることによるtuningをも試みた。そして回折格子によるtuningが色素の濃度変化および混合による
tuningよりも優れていることを認めた。 本論文では窒素ガスレーザの製作およびこのレー一ザ を用いて光励起した色素レーザの波長可変性,特に回 折格子を用いた時の波長可変性について報告する。 2.窒素レーザ装置の製作 紫外発振窒素レーザ装置にはレーザ管の構造上横電 界型と同軸型とがあるが,筆者らは比較的容易に製作 できる同軸型を自作した。この型のレーザは1966年 Geller, AltmanおよびDeTempleによって報告さ れたもので4),特に急峻な電流の立上がりを必要とす るので,レーザ管,コンデンサ,スパークギャップスイ ッチなど全回路同軸構造になっている。装置の摸式図 を図一1に示す。直流高圧電源はネオソトランス(2M1
0
HV電極 ↓ N2ガス i\同軸ケーブル 図一1窒素レーザ装置 M20
次電圧15kV,短絡電流20mA)の出力を半波倍圧整 流したものであり,直流20kV以上の高電圧が得られ る。この電源の出力端には放電用コンデンサとして長 さ5mの同軸ケーブル(RG8A/U,特性インピーダン スSOΩ)を10本束ねたものを用い,全体の容量を4850 pFとした。同軸ケーブルの先端にはスパークギャッ プスイッチを取り付け,そのギャップ間隔を調整して 約20kVの放電電圧で繰返し放電するようにした。レーザ管は3つの電極をもつ全長1160mm,内径5mm
φ,外径8mmφのパイレックスガラス管であり,銅 編組で電気的に遮へいした。両端の電極にはスパーク ギャップスイッチから同軸ケーブルを二分して接続 し,中央の電極は接地電極とした。すなわち放電部分 を2セクシ・ン(500mm/セクション)に分割し並列 接続とした。レーザ管内は数torrになるように真空 ポンプで引きながら窒素ガスを流した。ガス流量はマ イクロバルブを用いて微調した。また共振器は反射率 100%,曲率半径3mのアルミ蒸着ミラーM、と平行 平面透明石英板M、とで構成し半球面系とした。 こうして製作した窒素ガスレーザで色素レーザ共振 器を光励起することにより,色素レーザの発振が得ら れた。 3.濃度変化,混合による波長シフト 実験および測定系を図一2に示す。色素セルは図一3に示すような平行平面セルで,10mm×20mm×1
Mmtの透明石英板2枚を間隔1mmで向かい合せ,
その間に色素溶液が入るようにした。そして石英板の 片面をアルミ蒸着し,この面と相対する透明石英板と で共振器を構成するようにした。この色素セルからの 発振光は写真型分光器でスペクトル撮影をし,またモ ノクロメータを用い光電子増倍管で光電測光して相対 平均出力を求めた。 BSl BS2 L、
分光器 DC一μμA →一一 N、レーザ光 一← 色素レーザ光 図一2 濃度変化,混合による波長シフト測定系 (BS1, BS2:ビームスプリッタ, L二f=50mm石英 レンズ,M:ミラー, P.M.:光電子増倍管) 透明石英板 (10×20×1m∋ 100%R N、レーザ光一 ;誉 アルミ ぽ 1} Si 1!:i ・)’ l 捻一
:1∵皇 8欝 色素レーザ光 1 色素溶液 6328nm 図一3 平行平面色素セル 5345nm 6500nm 5900nm 5700nm 332nm a b C d e 図一4 発振した色素の発振波長 a:K−Fluorescein 5×10−3Mエタノール溶液 b:Na−Fluorescein 5×10−3Mエタノール溶液 c:Rho 6G 3×10−3Mエタノール溶液 d:RhoB 3×10−3Mエタノール溶液 e:Cresyl violet 1×10甲3Mエタノール溶液このセルを用いて発振した色素のスペクトル写真を 図一4に示す。このうち主にRhodamine 6G(Rhodam・ ineは以後Rhoと略す)を用いて波長シフトの実験 を行った。 3.1濃度変化による波長シフト Rho 6Gエタノール溶液の濃度を変化させた時の発 振波長および光電測光で得られた各濃度での相対出力 を図一5に示す。フラッシュランプ励起の場合3)と同 様に濃度の増加とともに発振波長は長波長側ヘシフト するが,シフトできる波長範囲はレーザ励起の方が約 30nm短波長側になる。これはフラッシュラソプ励起 およびレーザ励起の波長および時間に対するレーザ利 1.0
R
豆 曇α5 0 550 560 570 波長[nm〕 図一5濃度変化による波長シフト a:Rho 6G 5×10−3M, b:Rho 6G’3x10−3M c:Rho 6G 1×10−3M, d:Rho 6G 8×10“4M 盲 旦 翼. 570 Rho6G 10 Rho B O 5 5 混合比 0 10 図一6Rho 6GとRho Bとの混合比変化による波長シフト (1は発振波長幅) 得の相違によって生ずるものであり,Bass, Deutch およびWeberによって理論的,実験的に確認されて いる5)。 3.2 2種類の色素の混合による波長シフト Rho 6GとRho B(ともに3×10−3Mエタノール 溶液)の混合比を変えて波長シフト特性を調べた。結果を図一6に示す。RhoBの増加とともに長波長側
ヘシフトしたが,フラッシュランプ励起の場合3)に比 べてRho Bの比率の少ない時のシフト量が大きいこ とがわかる。すなわちレーザ励起の場合の方が急激に 長波長側ヘシフトした。これはエネルギ移動によって RhoBのけい光が増感されることによる波長シフト であるから,レーザ励起の方がけい光増感効率が良い ことを示している。 同様な実験として濃度一定のRho 6G(3×10−3Mエ タノール溶液)と濃度変化させた同量,同溶媒のRho BおよびCresyl violetとの混合溶液について波長 シフトを調べた結果を図一7に示す。Rho Bとの混合 の場合は濃度の増加とともに長波長側ヘシフトする が,一方Cresyl violetとの混合の場合は短波長側 ヘシフトした。この場合けい光増感によって波長シフ トするとすれば,Cresyl violetの発振波長(約650 nm)側すなわち長波長側ヘシフトするはずであるの に逆に短波長側ヘシフトするのは,むしろCresyl violetのロスの影響を受けているためである。これは フラッシュランプ励起の場合のロス用色素導入による・ 波長シフトと同じ傾向である3)。 580 盲 豆 翼570 } Rh・6G・Rh・B lR・・6G+Cresyl…1・・/
濃 度〔M〕 図一7Rho 6G(濃度一定)とRho BおよびCresyr violet(濃度変化)との混合による波長シフト(1 は波長幅)L1 回折格子 →N、レーザ光 →色素レーザ光 分光器 図一8 回折格子による波長シフト測定系 (L1, L2:f=50,80mm石英レンズ, M:ミラー) 100%R アルミ蒸着 ilぶ,;llご:::三:::ミ ・:こ _ザ光ノN2v 、 、 、 、 、、 、卜’L ”:、 、、.∴・’㍉・’、 P三1びペミ\ゴ;ぶ’ 、 、 \こご・ご. ここ 二1・ ?F くミ \ミ’、 ミ 2/色鱈・一ザ光 透明石英板 (20×20×1mm) 図一9 くさび形色素セル 4.回折格子による波長シフト 色素溶液 実験および測定系を図一8に示す。色素セルは図一9
に示すように20mm×20mm×lmmtの石英板から成
るくさび形とした。すなわちこのセルの片側のアルミ 蒸着面とこれに相対する回折格子とで共振器を作るよ うにし,セルのみで共振器を作るのを防いだ。レンズ L1, L,は石英レンズであり発振光を平行光線にして 回折格子に入射させた。また回折格子は垂直軸のまわ りに回転できるような構造にしてあり,入射角度を変 えることによって,発振光の波長をシフトできる。発 振光は写真型分光器でスペクトル撮影した。 Rho 6G(3×10−3Mエタノール溶液)を用いて得ら れたスペクトル写真を図一10に示す。波長シフト幅は 25nm(566∼591nm)である。 Rho 6Gの濃度変化 によるtuningで得られたシフト幅(10nm)と比較 して大きいのはexternal tuning(回折格子など)を 6328nm 5910nm、 図一10回折格子による波長シフト 5660nm 用いるとself tuning(濃度変化)のカットオフ波長 を越えることができるからである6)。 また発振波長幅は理論的に次のように与えられる。 回折格子は格子定数をd,入射角をi,回折角をθ, 波長を2,次数をmとすれば m2=d(sinθ一sin i) という関係がある。実験は一次光の反射を使っている からi=一θ,m=1として 2=2dsinθ となる。回折角の拡がり角を4θとすると 4λ=2dcosθ∠1θ と表せる。実験に用いた回折格子はブレーズ角9(= θ)=8°,1/d=1,400本/mmであり,4θとして色素 レーザビームの拡がりから実験的に求めた値Aθ=1m radを代入して Aλ≒0.1〔nm〕 となる。一方,光電測光により測定した発振波長の半 値幅は約0.5nmであった。これに対して色素の濃度 変化および混合によるtuningの場合の発振波長の半 値幅は数nmllである。 以上のことからわかるように,回折格子を用いた tuningでは発振波長幅を狭めることができる。また このtuningでは単一色素から機械的操作のみで濃度 変化および混合の場合と同様な波長シフトが得られ, さらに発振波長が安定しているなど多くの利点を有す る。表一1に各tuning法による波長シフト特性をまと表一1各種tuning法による波長シフト特性 tuning法 濃度変化 混合溶液の 混合比変化 混合溶液の 混合濃度変化 回折格子 使用色素溶液 (溶媒:エタノール) Rho 6G (8×10“4∼5×10−3M) Rho 6GとRho B (ともに3×10−3M) Rho 6G(3×10−3M)