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高齢者口腔外科手術後に生じた房室解離の1例

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Academic year: 2021

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(1)

       Key wordS:合併症一房室解離一降圧剤一高齢者一循環系疾患 高 齢 者 口 腔 外 科 手 術 後 に 生 じ た 房 室 解 離 の 1 例

中村勝 津田真 竹内友康 森山浩志 広瀬伊佐夫

  松本歯科大学 歯科麻酔学講座(主任 広瀬伊佐夫教授) 矢島八郎 原科直哉 山岡稔 松本歯科大学 口腔外科学第2講座(主任 山岡 稔教授)

A Case of AV Dissociation in Postoperative

Oral Surgery of an Elderly Patient

MASARU NAKAMURA MAKOTO TSUDA TOMOYASU TAKEUCHI

HIROSHI MORIYAMA and ISAO HIROSE

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       (Chiefご」PrOf、乙Hirose)

HACHIRO YAJIMA NAOYA HARASHINA and MINORU YAMAOKA

Del)aγtment〔ゾOral andルttzxi〃bfaclal Surgery U,」VatSu〃tO to」Dental Co〃ege        (Chief PrOf M. Ya〃辺oha)

S㎜mary

   We reported on the condition of an elderly patient with cardio and cerebrovascular disease−hypertension, post cerebral infarction, diabetes mellitus−who treated with a combi− nation of nicardipine, diltiazem and dipyridamol and who developd recurrent AV dissocia’ tion after minor oral surgery.    The patient required aggressive pharmacological treatment with isoproterenol for hemodynamic restoration. It is strongly believed that the reason for this complication was the over dose of the two calcium channel blockers for quiet bed rest.    The following are important for the physical control of the elderly when treated with polypharmacy vasodillator.    1)Thorough understanding of the patient’s past history.    2)Exhaustive observation of the the cardiovascular alteration in pre−and postoperative (1986年11月1日受理)

(2)

松本歯学 12(3)1986 375 evaluation.   3)Attention to changes in the effects of frequently used anti−hypertensive and anginal drugs after admission to the hospital. 緒 言  近年,医学の進歩に伴い,高齢者の歯科受診患 者の著しい増加とともに,循環系合併症を有する 患者も増加傾向にある.また高齢で循環系に疾患 のある患者の多くは,数種類の投薬を受けている. 同時にその数種類の薬剤併用による相互作用も未 知であることが多く,特に循環動態に及ぼす影響 を充分に把握した上での歯科治療,口腔外科手術 が必要となる.今回,我々は,脳梗塞,糖尿病の 既往があり,高血圧及び心肥大を呈する高齢者の 口腔外科手術後に低血圧を伴う房室解離の頻発し た症例を経験した.原因については,常用薬の相 互作用による低血圧を伴う冠不全が強く疑われ た.本症例の経過の詳細とかかる高齢者の管理に ついて,若干の考察を加えて報告する. 症 例  患者:鈴○静○,76歳,女性  初診:昭和58年4月7日  主訴:左側頬粘膜部の腫脹  家族歴:特記事項なし  既往歴:50歳時,高血圧症と診断され,以後, 降圧剤(薬剤名不明)を服用.66歳時,心肥大を 指摘される.72歳時,脳梗塞と冠不全を併発し入 院する.同時に糖尿病も発見される.後遺症とし て右側半身麻痺及び言語障害が存在したが,リハ ビリテーションを行い歩行可能となり,言語障害 もほぼ消失した.本院転入院当日に,リハビリテー ションを受けていた病院から,1)ユビデカレノ ン(ノイキノン⑱)30mg/day分3,2)塩酸ジル チアゼム(ヘルペッサー⑱)180mg/day分3,3) ジピリダモール(アンギナール⑧)75mg/day分 3,4)塩酸ニカルジピン(ペルジピン⑱)60mg/ day分3,の4種類を処方された.  現病歴:昭和58年5月,左側頬粘膜部の腫瘍摘 出術を受ける.昭和60年6月,左側頬粘膜部の小 豆大腫瘤に気づき,本院第2口腔外科を受診した.  現症:身長144.5 cm,体重42 kg,血圧192/92 mmHg,脈拍78回/分で整脈であった.  口腔内所見:左側頬粘膜に幅1cm,長さ2cm 程の弾性硬の腫脹を認めた.開口障害等無し.  臨床診断名:頬粘膜線維腫  術前臨床検査(表1):尿素窒素27.8mg/dlと 高値を示したが,他に異常所見は認められなかっ た.  胸部X線所見二心胸郭比63%と心肥大を呈す るが臨床的には心不全の徴候はなかった(図1).  術前心電図所見(図2):心拍数70回/分,第1 誘導,aVL, V5∼6においてT波の逆転がみられ, 心筋虚血が疑われた.第II誘導の異常Q波,第III 誘導,aVF, V、一、のQSpattern等より,陳旧性心 筋梗塞が疑われ,また左室肥大も明らかであった.  処置ならびに経過:入院日当日,術中の高血圧 表1 術前臨床検査 血    液 血 液 化 学 肝  機  能 腎  機  能

赤血球

394xloソ耐 Urea N 27.8㎎/劔 Total P 6・6 9μ 糖 (一)

白血球

4400・/m㎡

Na

140mEψ

GOT

27 吻

ウロビリノ∼ゲン (±)

血色素

11.5 g/d坦

K

3・9・Eψ

GPT

14 吻

蛋白

(一)

血球容積 35  % Cl

96 mEψ

γ・GTP

25 W

ESR

10∼22mm/h

Ca

4.4mEψ

A声

1.8

ワ氏反応 (一)

(3)

中村他:高齢者口腔外科手術後に生じた房室解離 発作を懸念し,静脈内鎮静法を用いて、局所麻酔 下で手術を施行することにした.当日は,手術開 裟 愛 図1:術前胸部X線像 始時刻が午後となっているため午前中に、常用薬 4種類を服用していた.前投薬は,硫酸アトロビ ンO.4 mg,塩酸ベチジン35 mgを筋肉内投与し た.手術室到着時血EE130 ,’ 74 mmHg,脈拍62回/分 整脈,呼吸状態,心音等にも異常は認められなかっ た.入室後,静脈確保を行ない,ジアゼパム(ホ リゾン8)5mgを緩除に静脈内へ投与し,至適鎮 静度に達した.その際の血EEIO8/58 mmHg,脈拍 60回/分と下降傾向を示した.鼻孔カニューレにて 3e/分の酸素吸入を行い数分後血圧116/56 mmHgと上昇傾向を示したので,3%塩酸プロピ トカイン4mlを浸潤麻酔し,手術を開始した.術 中血圧に著しい変動は認められなかったが,徐脈 傾向にあったため,硫酸アトロピン0.3mgを静脈 内投与した.しかし著明な改善はみられなかった. 手術は40分間で終了した(図3).術中心電図所見 (図4)では,徐脈性の洞調律に.結節性調律や 心室内変行伝導が一過性に認められたが、血圧は 平均で110/55mgHgと充分に保たれていた. 85/87/22 S1 13:56 S三 r!’. 皿 }一一.).−A‘°一゜一一L;一.一一L−“:一一v−一

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図2:術前心電図

(4)

松本歯学 12(3)1986  術後経過:病棟帰室後(15時20分),脈拍54回/ 分と徐脈傾向にあったが血圧120/60mlnHgと安 定していた.自覚症状もなく経過していた.帰室 後1時間40分(17時)に常用薬が4種類とも投与 された.心電図モニターは術後3時間30分(19時 まで)行ったが,異常所見さ認めなかった.常用 薬服用4時間後(21時)に,血圧90/40mmHg,脈 拍48回/分となり,頭重感,眩量を訴えた.再び心 電図モニターを装着,徐脈性房室解離と診断した (図5:上段).同時に血糖値測定を行なったが, 低血糖は認められなかった.直ちに200mlの維持 輸液にイソプロテレノール(プロタノールL⑧) 0.2mgを混注し,心電図モニター下にて60滴/分 の割合で滴下した.数分後に洞調律に回復し,血 圧120/46mmHg,脈拍64回/分に上昇,自覚症状の [] ll  言 lll {§  ) 1 5 i{}1  t l}i ANESTHEStA REoonc k 凹冗 ツ60. ,Z3㎜○木o江婿η6ぽ         ㎜ぬ OS】L  618 ⑭ぬ @ 8ヨ’098z 浴D訂け■◎●■ 剛ぬr〔〔1 ■・ モ Hんe”1話励 …a臼㎜ow忍【… タ” タ3∂ レγ“づ鍋況i旭工7 ”脚㎞ o≠・1 怩W「』 恒∞n尾 hr●

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黶gu情 刷皿 o.       膓㎜㎝       { .“『 M τ  月刃   織 図3 術中経過記録 377 消失も認められた(図5:中段,下段).処置開始 2時間後(23時),血圧120/46mmHg,脈拍66回/ 分と安定したので滴下を中止し,経過観察を行っ た.15分後(23時15分)に,再び房室解離が出現, 滴下を再開した.収縮期圧130mmHg,脈拍70回/ 分前後に点滴を調律し,処置開始8時間後に房室 解離の消失をみたので,点滴を中止した.翌日(術 後1日目),午前8時30分より常用薬をユビデカレ ノン,塩酸ニカルジピンの2種類とし,1日3回 の服用を指示した.他の2剤は中止して経過観察

とした.その日1日の血圧変動は,収縮期圧

150 一一 114 mmHg,拡張期圧70∼50 mmHgで上昇 傾向を示していた.術後3日目の朝より常用薬4 種類の投与を開始した.ところが夕刻より,血圧 低下を伴う房室解離が再び出現,前回同様イソプ ロテレノール(プロタノールL⑱)にて対処した. この一連の房室解離の原因として,4種類の常用 薬による相互作用が強く疑われた.翌日(術後4 日目)より,薬剤投与前に血圧測定を行ない,そ の結果により投与量を決定することにした.薬剤 の効果が消失してくると思われる朝には,常用薬 4種類の服用(ただし収縮期圧130mgHg以下の 場合は服用中止)を指示.また薬剤の効力が残っ ていると思われる昼,夕には,常用薬4種類を1/ 2量だけ服用(ただし収縮期圧170mmHg以上の 場合は,常用薬全量とした.)する1・2)こととした. 以後,血圧の変動を観察しながら投薬を行った. 夕刻には,軽度の血圧低下を認めるが,心電図学 的には問題はなく経過し,入院11日目に退院と なった. 考 察  今回我々が経験した症例の血圧変動を図にして みると(図6)早朝には血圧上昇傾向があり,夕 刻に血圧低下傾向が認められる.また常用薬全種 服用時は,極端な血圧低下を来し,収縮期圧が100

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一 図4 術中心電図

(5)

L s’1 図5:術後心電図 上段:矢印はP波を示し、心房と心室の調和がとれていないことを示す。 中段:治療開始8分後のもので,洞調律に回復していることがわかる。 下段:血圧が122/46mmHgと上昇傾向が認められ,洞調律に変化はなかった。 血圧 mヅH9

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1日目 2日目 3日目 4日目 5日目 6日目 7日目 8日目 9日目 10日目 11日目 入院

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   退院

Q錠(但し13(〆50以下の場合中止) P錠(但し 170/100以上の場合2錠 図6:入院中の血圧日内変動

(6)

松本歯学 12(3)1986 mmHgになった時に房室解離が生じている.  ユビデカレノン,ジルチアゼム,ジピリダモー ルの最高血中濃度に達する時間は,6時間後,3 ∼5時間後,1時間後であり,ニカルジピンの時 続時間は5∼7時間となっている.それぞれ薬剤 の投薬から昼の投薬までの時間が短かいために, 夕刻に効果が相乗的に増強したものと思われた.  房室解離は比較的希な不整脈とされ通常頻拍性 としてみられるが,徐脈性は少ない.  房室解離の原因として,冠動脈疾患,リウマチ 性心尖,ジギタリスーキニジン中毒などの結果と して,出現が多い3)とされている.  今回出現した房室解離の原因として,次のよう なことが考えられる.  (1)入院当日までリハビリテーションを受けて おり,毎日3kmの歩行が義務づけられていた. 当院においては,床上安静であった.高齢者の場 合,運動系,呼吸循環系,精神神経系への刺激が 著しく減少すると,薬剤の効果が強く現われるこ とカミある.  ② 洞結節は加齢による変化が強く現われる部 位である.高齢老では,膠原線維,細網線維,弾 性線維の増加,脂肪浸潤,結節細胞減少がみられ, 組織学的変化に起因する房室伝導抑制が生ずるこ とがある4・5).またこのような組織学的変化から, 心筋に対し電気生理学的抑制作用を有する薬物に 高い感受性を示す傾向にもある6).  (3)転入院時に処方された4種類の循環系疾患 治療薬のうち3種類が(ユビデカレノンをのぞく) が降圧作用を有しており7),特に2種類のカルシ ウム拮抗剤併用が,降圧作用を著しく発揮したも のと思われる.  塩酸ジルチアゼムの降圧作用は,比較的緩徐で, 降圧の目的のみに使用した場合,心筋収縮力抑制 作用や徐脈作用を呈することがあり,房室伝導抑 制作用が認められている8・9).  塩酸ニカルジピンについては,塩酸ジルチアゼ ムのような刺激伝導系に対する影響はほとんどみ られない.そのため伝導障害を起こす危険性は少 ないが,強力な降圧作用を有している1°・11).ジピリ ダモールに関しても降圧作用を有している12)こと が知られている.ユビデカレノンは虚血性心疾患 患者に投与すると,ST下降,不整脈が出現する ことがあるとされている13).また徐脈傾向にあっ 379 たことも以上の事から明白である.よってこれら の諸原因が相剰的に出現した症例と思われる. 結 語  今回我々は,高齢老の循環系疾患合併患者の口 腔外科手術後に生じた房室解離の1例を報告し た.その原因については,当院において床上安静 であったため,4種類の循環系の薬剤の効果が相 剰的に強く現われたと思われる.  従って,かかる患者の全身管理に関しては,以 下のこと充分に把握し検討することが重要であ る.  1)全身的既往歴の把握  2)術前,術後の十分な循環動態の観察  3)環境の変化と常用薬の効果 文 献 1)Moser, M.(1977)Report of the Joint National  Committee on Detection, EvaIuation, and  Treatment of High Blood Pressure. JAMA,17:  237,3:255−261. 2)The Joint National Committee on Detection.  (1980)The 1980 Report of the Joint National  Committee on Detection, Evaluation, and  Treatment of High Blood Pressure. Arch  Intern. Med,140:1280−1285. 3)石川恭三編,竹下 彰(1979)新心臓病学 第1  版,139−140.医学書院,東京. 4)Davies, M. J. and Pomerance A.(1972)Quanti・  tative study of ageing intemodal tract. British  Heart Jounal.34:150−152. 5)Himori, N., Ono, H. and Taira, N.(1976)Simu1・  taneous assesment of effects of coronary  vasodilators on coronary blood flow and the  myocardial contractility by using the blood  −perfused canine papillary muscle. Japan. J.  Pharmacol. 26:427−235. 6)外畑 巌,平田幸夫,加藤林也(1983)合併症を  有する老年者虚血性心疾患の治療一不整脈.Ger・  iat. Med.21:109−115. 7)渡辺 務,山崎 昇,小川宏一,小林 正,鈴木  与志和,伊藤隆之,伴 昌明,加藤伸勝(1982)  本態性高血圧症に対するDiltiagem(Herbesser  ⑱)との二重盲検群間比較試験.医学のあゆみ,  120:854−891. 8)高田重男,池田孝之,麻野井英次,久保田幸次,  村田義治,小川 純,服部 信(1982)塩酸ジル  チアゼムの心不全に対する臨床的応用.医学のあ  ゆみ,120:902−904.

(7)

9)小林正(1984)カルシウム拮抗剤の使用上の注   意と副作用 ジルチアゼム(ヘルベッサー⑧).診   断と治療,72:1319−1320. 10)田中謙次郎,木田 修(1984)カルシウム拮抗剤   の使用上の注意と副作用 ニカルジピン(ペルジ   ピン⑧).診断と治療,72:1323−1324. 11)山田和生,中島光好,外山淳治,水野 康,山崎   昇,渡辺 務,外畑 巌,安井昭二,小川宏一,   神戸 忠,青木久三,藤波隆夫,平川千里,竹澤   英郎,鏑木恒男(1981)本態性高血圧症に対する   Nicardipine hydrachloride(YC−93)の臨床効   果一二重盲検法によるEcarazinehydrachloride   との比較.医学のあゆみ,118:306−324. 12)緒立博丸(1983)抗凝固薬.臨床麻酔,7:   1245−1250. 13)日本医薬情報センター編(1986)ユビデカレノン.   日本医薬品集,第10版,1131−1132.薬業時報社,   東京.

参照

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