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大脳皮質および大脳基底核の咀嚼運動制御における機能的意義

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(1)

〔総説〕

松本歯学31:1∼9,2005

     key words:咀噌一高次中枢一顎運動

大脳皮質および大脳基底核の咀嚼運動制御における機能的意義

増 田 裕 次

松本歯科大学 総合歯科医学研究所 顎ロ腔機能制御学部門

Functional significance of cerebral cortex and basal ganglia in the control of masticatory movement

YUJI MASUDA

Diひision of Orα1 and Maxillofaciα1 Biology, lnstitute/’or Orα1 Science, Mα彦sumoto Dental UniversitOr

Summary

  It has been㎞own that masticatory movemen七, especially during chewing, is controlled by the brain s七em. However, as mastication is a sequential action from food intake七〇swal− lowing, the higher brain such as the cerebral cortex and basal ganglia is thought to be needed fbr the contro1 of the masticatory sequence. In the cerebral cortex,七he cortical mas− ticatory area(CMA), to which the repetitive electrical stimulation induces七he rhythmical jaw movements like masticatory movements, may be involved in七he control of mas七ication. Based on jaw movement patterns, the CMA is divided into two parts. One is the part of the CMA in which a T−pat七ern similar to jaw movements during food−transport(initial stage) in natural mastication is evoked by electrical stimulation. The other part of the CMA is more dorso−medially located, and a C−pattem similar to jaw movements during chewing can be induced. The CMA is suggested七〇play an important role in the initiation and/or per− fbrmance of masticatory movement. In七he striatum, which is the input area of the basal ganglia, the ventral part of the putamen receives the input from the CMA. Furthermore, the input from the T−pattern inducing CMA is broader than that from the C−pattem induc− ing CMA. Neurons in the ventral part of the putamen change their firing frequency during mas七ica七ion depending on the mastica七〇ry sequence, not on the mas七icatory cycles. Most of 七hem alter their activities during the initial stage. From七hese findings, it is suggested tha七 七he cerebral cortex and basal ganglia are significant in the control of complex functions dur− ing the initial stage, and in making the masticatory sequence smoo七h.

はじめに

近年,高齢社会を向えて,QOLの向上のため

に食べる楽しみを維持することが重要であると言

われている.また,咀噌・嚥下障害をもつ患者さ

んに対しての適切な指導の必要性が叫ばれてい

(2005年3月29日受理)

(2)

る.そのために,咀噌を制御する神経機構を解明

していかなければならない.では,研究の対照と

する咀曜とはどう考えるべきか.口腔生理学では

古くから「咀囑とは,食物を摂取してからこれを

食塊にして嚥下するまでに口腔,咽頭で行われる

すべての生理的過程のことを言う」1)と定義され

ている.このように咀噌は多くの口腔器官や組織

の複雑な機能が巧妙に協調して行われる.咀聡運

動とはこのような一連の過程の中で行われる運動

のことを示す.つまり,咀幡運動は「口腔内に摂

取した食物を切断・破砕して唾液と混ぜ合わせ,

嚥下に適した大きさと硬さをもつ食塊を形成す

る,顎・舌・顔面のリズミカルな協調運動であ

る」2)と定義されている.このような咀噌運動が

スムーズに行われるメカニズムを明らかにするこ

とにより,社会的あるいは臨床的な問題を解決す

ることができると考えられる.

 古くは,除脳動物(中脳で切断し,上位の脳の

影響を除去した動物)でもロ腔内に食物を挿入す

ると咀噌様の運動を行うことができるとの結果か

ら,脳幹部で咀噌運動が制御されていると考えら

れていた3).また,これまでの咀階運動の神経制

御機構の研究から,開口と閉口が交互に起こる顎

運動のリズム性を形成しているのは,下位脳幹の

中枢リズミ形成機構であること4−6)や,食物の硬

さに合わせて噛む力のコントロールが脳幹部で行

われることが明らかとなっている7−9).このよう

に,咀噌運動を制御する脳部位として,脳幹部が

重要であることは,よく知られている.しかし,

上述した咀噌運動をスムーズに行うために脳幹部

の制御だけで十分であろうか? 咀噌運動は一連

の運動であり,咀噌の進行に伴い口腔内の食物の

特性が変化し,それに対応して運動が変化してい

くものである1°−12).このように目的の異なる運動

が順次行われることを考えると,高次の脳の役割

が重要であると考えられる.本稿では,大脳皮質

あるいは大脳基底核という運動制御における高次

中枢が咀噌運動の制御にどのような役割を持って

いるかについて考察する.

咀噌運動の制御に関わる大脳皮質

 大脳皮質には機能局在が存在し,大脳皮質一次

運動野,運動前野,補足運動野などの運動制御に

関連した領域は,随意運動の制御に関係すると言

Human

Cat

Monkey

購難

Rabbit

図1:種々の動物における大脳皮質咀噌野の局在

われている.これらの領域にはそれぞれ体部位局

在があり,顎口腔領域を支配する領域は咀噌運動

の制御にも関連するとの報告がある13・14).一方で

これらの領域とオーバーラップするが,連続電気

刺激を与えることでリズミカルな顎運動を誘発す

ることができる領域を大脳皮質咀噛野と呼んでい

る15’21).ここではこの大脳皮質咀噌野に焦点をし

ぼり,他の運動性皮質についてはこれまでの総

説22’24)を参照されたい.

 ヒト,サル,ネコ,ウサギなど種々の動物で連

続電気刺激を与えることにより,リズミカルな顎

運動を誘発することができる大脳皮質領域(図

1)が見出されている15−21).さらに,刺激部位の

相違により,違ったタイプの運動が誘発されるこ

とも明らかとなっている.特にウサギでは,いく

つかの誘発される顎運動と実際の咀噌運動との類

似性が論じられている2°・21).図2Aにウサギ大脳

皮質咀噛野へ連続電気刺激を与えた部位とその刺

激により誘発される顎運動の軌跡を表す.また,

図2Bに実際に咀噌しているときの咀階筋筋電図

活動と顎運動の軌跡を示す.ここで,ウサギの咀

噌運動について述べると,顎運動軌跡を記録した

実験から,食物の取り込みや移送を行うstage

I,臼歯部で臼磨・粉砕するstage H a,一連の

咀囎過程終了時にみられるs七agelbの3つに分

類されている’°).stage Iでは咬筋活動が小さく,

不規則な運動が認められ,stage llでは咬筋活動

が大きく,咬合相を持った規則正しい特徴的な運

動を行う.このようにまったく異なった運動が,

咀噛が進むに連れて,スムーズに移行しているこ

とがわかる(図2B).一方,大脳皮質咀噌野刺

(3)

松本歯学 31(1)2005 3

Al

B

A2

C d b  ◆  ’ a   .

     ノ

. ◆ o

?96

Mass−一一一M−}嚇蜘酬榊鰍鞠←一ヤー一’2mV

       2sec

     Stage I      S聯na      S顧級)

     ⑫Pヅ

図2:  A:ウサギ大脳皮質咀噌野刺激により誘発される顎運動   (Masudaら21)より改変引用)   A1:大脳脂質咀噌野において顎運動が誘発された刺激   部位を誘発された顎運動によって分類し,それぞれ○,   △,口,●で示す.A2:A1で示した部位の刺激で誘   発された顎運動の前頭断における軌跡を示す.(分類に   ついての詳細はLiuら2°}を参照)  B:ウサギ自然咀噌時の筋電図活動(Mass:咬筋, Dig:   顎二腹筋,T且:甲状舌骨筋)と顎運動(Ver, Hor:顎   運動の垂直成分と水平成分).下段に一連の咀囎を3つ   のstage(1, ll a, ll b)に分類したときの各stageで   の顎運動の軌跡を示す.

どの障害が認められた.また,咀噌運動が引き起

こされた場合にも,咀鳴運動が途中で中断するな

どの結果が見出され,大脳皮質咀噌野は咀囑の開

始や遂行に関係すると考察されている.しかし,

臼磨運動を行っている際の運動軌跡や咀噌筋筋活

動量を調べると,大脳皮質咀噌野を破壊しても,

変化を起こさないことが明らかとなり,脳幹部で

の咀噌パターンを形成する神経ネットワークには

影響を及ぼしていないと考えられた.しかし,破

壊直後ではない(1日以上経過している)ので,

脳幹部で大脳皮質からの影響無しにパターン形成

を可能とするような可塑的な変化が起こった可能

性がある.Nari七aら26)は覚醒サルを用いて,大

脳皮質咀噌野相当部の大脳表面を冷却し,咀囎運

動に対する影響を調べた.冷却という可逆的な方

法を用いることにより,一時的に大脳皮質神経細

胞の不活による効果を調べることができた.図3

に皮質冷却前と皮質冷却時の筋電図活動および顎

運動を示す.ウサギの破壊実験の結果と同様に,

サルに食物を提示してもそれを受け入れる行動が

認められなくなり,口腔内に飼料を挿入しても,

拒絶するような行動が認められた.すなわち,咀

噌運動の開始に障害が認められた.また,咀噌が

開始された場合にも,すぐに中断する傾向にあっ

た.咀瞬運動が開始から嚥下まで遂行されたとき

の顎運動を分析すると,食物の取り込みや移送に

かかる時間が延長し,臼歯部での臼磨を行ってい

激により誘発される運動を,大きく2つに分ける

と,実際の咀噌運動と同様に,咬筋活動が小さ

く,咬合相を持たない運動と,咬筋活動が大きく

咬合相を持つ運動が誘発される2°・21).前者は咀囎

野の背内側から誘発されて,後者は咀噌野の腹外

側から誘発される.このように大脳皮質咀噌野刺

激により実際の咀噌運動と類似した運動が誘発さ

れることは興味深いことである.

大脳皮質の咀噌運動に対する役割

 では,大脳皮質咀噌野の働きはどうかと考える

と,その部を破壊して,咀噛運動にどのような影

響を及ぼすかを調べた研究がある.まず,ウサギ

の大脳皮質咀噌野を吸引除去した実験25)では,破

壊後1∼2日は自発的な摂食が認められず,口腔

内に飼料を挿入しても,口腔内の飼料をこぼすな

tN       くく;}  一一一ノ湊湖冷一v・’___麟∼。ぴ・へ轡∞的  一^v・・…“。M・・一一一一一一’一”・ha−・“〈ぷぱ  一→ pm−・・一一一・・一・一・Pt,・y・一・be・・一一一←

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        3s      3s 図3:サルにおける皮質咀噌野冷却の咀囑運動に対する影響   の例(Naritaら26}より改変引用)   (A):冷却前,(B):冷却中に咀噛困難を示した例,   (C):冷却中に飼料の取り込みで障害が見られた例,   (D):冷却中に咀噛運動が中断した例.Ver, Hor:顎運   動の垂直成分と水平成分.MA:咬筋, AD:顎二腹筋,   GG:オトガイ舌筋, GH:オトガイ舌骨筋, TH:甲状   舌骨筋の筋電図活動.

(4)

る期間の咀噛周期が不安定になることが明らかと

なった.臼磨時の咀噌筋筋活動量は1咀噌周期に

おける閉口筋活動量の低下と筋放電持続時間の延

長が認められ,各咀噌筋活動の時間的関係の変調

も観察された.このように,一過性の不活では顎

運動パターンにも影響が認められ,パターン形成

にも関与していることが示唆された.また,咀噌

中の大脳皮質咀噌野の神経活動を記録した実験か

ら27・28),咀噌に関連した活動を示すニューロンが

多く存在し,咀噌周期に一致したリズミカルな活

動を示すものと,咀噌周期に一致せず,持続的な

活動を示すニューロンが見出されている.これら

の結果から,大脳皮質咀囑野の咀噌に対する役割

としては,一連の咀曜運動の開始や遂行をスムー

ズに進行させる役割があると推察される.

咀噌運動の制御に関わる大脳基底核

 次に,大脳基底核ではどのような部位が咀噌運

動に関係しているかについて紹介する.大脳基底

核は,前脳および中脳の基底部に分布する神経核

群であり,尾状核,被殻,淡蒼球,視床下核,黒

質により構成されている29)(図4).さらに,被

殻と尾状核は合わせて線条体と呼ばれている.古

くから大脳基底核は,その障害によりパーキンソ

ン病や舞踏病などの疾患が誘発されることから,

随意運動機能に重要な役割を担う高次中枢である

と考えられている3°).大脳基底核は大脳皮質から

入力を受けて,大脳皮質に出力する皮質一基底核

   A

Caudate

  Body

  Head

Putamen and gl◎bus pa{lidu

   B

Caudate nucleus nal capsu|e Ta目ofcaudate Thalamus

  Putamen

Globus pallidus

  Amygdala

 図4:大脳基底核の構成(Waxman29)より改変引用)

ループを形成している.大脳皮質から大脳基底核

の入力部である線条体への投射は広範な皮質領野

から起こるが,線条体の中でも被殻は一次運動

野,補足運動野,体性感覚野からの投射を主に受

けている.線条体に入力された情報は大脳基底核

内で統合処理され,視床を介して大脳皮質へ,あ

るいは脳幹へ送られることで運動の調節に関わっ

ていると考えられている31).

 Takadaら32)はサルの前頭皮質の運動性皮質か

らの皮質線条体投射を調べたところ,一次運動野

や補足運動野に存在する口腔領域の運動に関係す

る領域は被殻腹側に投射していると報告してい

る.また,同じくサルを用いた実験で,運動性皮

質を電気刺激して線条体から誘発電位を記録した

際,皮質の下肢,上肢,顔面領域の刺激による誘

発電位が被殻の背側から腹側に向かって記録され

た33).サルの被殻腹側を電気刺激した場合,顔面

領域の運動が生じることも報告されている34).線

条体で被殻と尾状核の相違が明確にされていない

ラットについても運動性皮質から線条体への投射

が解剖学的に調べられており,線条体の背側から

腹側に向かって眼球,上下肢,顔面領域に対応し

た皮質からの投射を受けていることが見出されて

いる35).ラットでは線条体の腹側が口腔領域の運

動の調節に関与していると考えられており,サル

やウサギの被殻腹側と同様の機能を持っている可

能性が考えられる.また,ラットの線条体腹側を

イボテン酸注入により破壊すると,飼料の取り込

み量が減少し,飼料の取り込みや,飼料をロ腔内

に保持し臼磨する行動に障害が現れたとの報告が

ある36・37).このように,被殻においても顎顔面領

域を含め,体部位局在があることが示され,被殻

腹側がロ腔領域の運動に関与することが示されて

いる.そこで,ウサギを用いて,前述の大脳皮質

咀噛野から被殻への投射を電気生理学的手法と解

剖学的手法を合わせて調べた38).図5は,咀噌運

動を誘発することができる大脳皮質咀噌野への電

気刺激による誘発電位と,被殻内において記録さ

れた部位を示している.記録された電位が皮質刺

激前の基線から3SDを超えて認められたものを

誘発電位(図5A)とすると,誘発電位が記録さ

れた部位は被殻の腹外側に位置していた.(図5

BまたはC;BとCの詳細については後述)さら

に,大脳皮質咀噌野からの投射部位を順行性の神

(5)

松本歯学 31(1)2005 5 A、4.。一、、.、一、,.。_“、、.、一、,.。  D8・oし..L−−s−._K−_LL−S−−

 D6.5一L一一人∼し_一

 D7.0し_L_一一一一一一  D7.5 一L_一一一一一5^へ D8.o一レ

一一し_一Ls

A

  A3.0 D8.5一一 DS.e一し” D9.5 L_レ Die.O Dto.5 DU、0

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〉一レーレー・u−一一 いレーし一一 レーし一レーい L・・一・・し一レレ

k

亡口・r・・p。・s・vea・ea   A3.0 V−L−一し_し一        ioOms

 一一一

A2.0 トニ」・…v Al.0 AO.0

C

  A3.0 A2.0 AtD AO.0

PUT PUT  :responsive site  X  :non responsive site 図5:被殻から記録された大脳皮質咀噌野刺激による誘発電   位の例(A)と誘発電位が記録された部位の分布(B,   C)(Masudaら38)より改変引用)

  A:前交連最尾側端レベルの脳前頭断組織をOmmと

    して前方2mmのレベルで右側被殻における前頭     断面上での各記録部位での誘発電位を示す.上段     の数値は正中からの距離を,左端の数値は脳表面     からの深度を示す(単位mm).ラインで囲って示     されたResponsive areaは誘発電位が記録された領     域を示す.   B:T一パターンの顎運動を誘発する皮質部位を刺激し     たとき.C:C一パターンの顎運動を誘発する皮質     部位を刺激したとき.     C一パターンの顎運動を誘発する皮質部位を刺激し     たときに誘発電位が記録された領域は,T一パター     ンと互いにオーバーラップが認められた.しかし,     最大振幅を示す部位(○)は開口優位性パターン     に比べやや内尾側であり,誘発電位の出現部位の     広がりは狭い傾向が認められた.Abbreviations:     AC, Anterior Commissure;PUT, Putamen;GP,     Globus Pallidus;CN, Caudate Nucleus;IC, In−     temal Capusule;EC, External Capusule

経標識物質であるバイオサイチンを注入したとき

に被殻内で標識された神経終末の分布を図6(A

とBの詳細については後述)に示す.大脳皮質

A2.0 A1.0 AO.0

B A3.e

A2.0 Al.O AC A◎.0 図6:T一パターン(A)およびC一パターン(B)の顎運動を   誘発する皮質部位からの神経終末の分布.(Masudaらss}   より改変引用)   前交連最尾側端レベルの脳前頭断組織をOmmとして   組織を再構築した.トレース内のドットは標識終末を   示す.誘発電位が認められた部位にほぼ一致して終末   が認められた.C一パターンの顎運動を誘発する皮質か   らの神経終末の分布は,T一パターンに比べ,標識終末   の分布密度が少なく,その分布はより腹側に限局する   傾向が認められた.   AbbreViations:図5に同じ

咀噌野ニューロンが被殻腹側に投射していること

が明らかとなった.つまり,大脳基底核の入力部

である被殻において,腹側部が咀噌運動の制御に

関わっている可能性が示唆された.

咀噌運動に対する大脳基底核の役割

 大脳基底核は自動性の高い運動のみならず,随

意運動の適切な発現に重要な役割を担っていると

考えられている.とりわけ複数の運動を組み合わ

せて1つの目的を達するような運動(順序運動)

の学習に関与するという報告がなさている39−44).

咀噌運動は食物を口腔内に取り込み,食物の性状

に合わせて咀噌力を調整しつつ嚥下するために咽

頭へ食物を移送するといった,多種多様な筋が複

雑に絡み合った一連の運動であり,順序運動の1

つであると考えられる.このことから,大脳基底

核が咀噌運動の調節に関与があるということは十

分に推察される.実際にこれまでの研究において

顎運動と大脳基底核との関連について報告もいく

つか見受けられる.Pisa36)はラットの線条体腹外

(6)

側を破壊すると口,舌の運動に障害が起こり,摂

食量の現象が認められたとの報告をしている、同

様にJichaら45)も線条体腹外側を破壊することに

より摂食量の減少と,下顎の無目的な振戦様運動

の増加を報告している.また,ラット線条体の腹

側にドパミン作動薬を注入したところ,下顎の垂

直性顎運動が誘発された46).解剖学的にも,ラッ

ト線条体腹側→黒質網様部背外側→三叉神経運動

核へ投射する運動前ニューロンの経路が示されて

いる47).しかし,咀噌運動との直接の関わりを示

した研究は少ない.ひとつの手がかりとして,ウ

サギの大脳皮質咀噌野において誘発する運動が異

なる2つの領域から被殻への投射に相違が認めら

A

Ver Gaw movement) neuronal aCtivity {imp’。.1・)’9     0

B

  日 撃戟E1・・l/・ 撃撃 |ll| lll』  lllh 撃欠_ll `㌔   lll 撃撃「 欄ll脳 i幽撒;’;;;ll、      .・吟      8     12     16 C UT

ることからうかがえる38).咀噛運動での食物の

り込みや移送のときの運動に類似した運動(T

ターン)を誘発する領域から被殻への投射(図

B,6A)は,臼磨運動に類似した運動(Cパ

ーン)を誘発する領域(図5C,6B)よりも

範囲に投射していることが明らかとなった.ま

,各皮質の刺激による誘発電位のピークの潜時

調べると,Tパターンを誘発する領域の刺激に

る誘発電位の方がCパターンを誘発する領域

激のものより短かった.この結果は,Tパター

の運動に皮質から被殻への投射が深く関わって

ることを示し,食物の取り込みや移送のための

動の制御に被殻が重要な役割を持つことが示唆

れた.また,被殻が咀噌運動の制御にどのよう

役割を持っているかを知るためにMasudaら48)

,ウサギを用いて自然咀噌運動中の被殻ニュー

ンの活動を記録した.記録された被殻ニューロ

のうち,60%以上が咀噌運動に関連して発射活

を変化させたが,いずれも咀噌周期に一致した

動を示さなかった(図7,8).そのうち,

0%のニューロンは咀噌運動におけるstage Iの

に活動変化が認められた(図8).残りは咀噌

C er aw novement) eur◎nai cljvlty impro’1 s) 0  4 P er

aw

overnent) tage l    stage tl

ms

7:咀噛運動の開始から終了まで発射頻度が上昇した被殻  ニューロンの活動(Masudaらes)より改変引用)  A:10回の咀噌試行の結果を咀噌運動の開始時点(縦    線)で揃えて,上から顎運動の垂直成分および    ニューロン活動のラスター表示とヒストグラム表    示を表す.ヒストグラム上の破線は安静時の発射    頻度の平均+2SDの値を示す.  B:ニューロンの記録部位(*).Abbreviations:図5    に同じ.  C:ニューロン波形の40回の重ね書き.単一ニューロ    ン活動であることを示す. 2 eu「onal ctivity (iれ哨P/O.fs}0       4      0     4      8     A2

       S

8:咀噌運動のstage Iで発射頻度が上昇した被殻ニューロ  ンの活動(Masudaら‘8)より改変引用)   3回の咀噌試行の結果を咀噌運動の開始時点(A)およ  びstage lからstage Hへの移行時点(B)で揃えて,  上から顎運動の垂直成分およびニューiliン活動のラス  ター表示とヒストグラム表示を表す.ヒストグラム上  の破線は安静時の発射頻度の平均+2SDの値を示す.

(7)

松本歯学 31(1)2005

運動中に持続的な発射頻度の変化があったもの

(図7)と,stage lに加えてstage Hの間に変

化したものであった.さらに,被殻から入力をう

ける淡蒼球のニューロンの活動では同様な結果が

得られたが,被殻ニューロンより複雑な活動を示

し,stage lに加えてstage Hの間も発射頻度が

変化するニューロンが多く記録された.これらの

結果を合わせて考えると,咀噌運動において,被

殻を入力部とする大脳基底核は,咀囎運動におい

て食物の取り込みあるいは移送するときの運動の

制御とそれから臼磨運動へと移行する一連の過程

をスムーズに行うために重要な役割を持つ可能性

が考えられる.

おわりに

 本稿で述べたように,種々の研究結果から,咀

曜運動の遂行に関わる大脳皮質や大脳基底核の役

割を考えると食物を噛み砕くための1回1回の開

閉口運動の制御というよりは,取り込みから臼磨

に至るまでの運動の制御や一連の過程としての咀

階運動の遂行をスムーズに行うために重要である

と考えられる.咀囎という口腔機能を考えた場

合,咀噌の開始から臼磨運動に至るまでは,運動

はもとより,感覚や自律機能を含む統合した機能

が要求されると考えられる.つまり,口腔内に

入った食物を探索する運動中には感覚機能を鋭敏

に保たねばならず,事実,咀噌筋の筋感覚は臼磨

運動中よりも感度を高くするように制御されてい

る可能性が示唆されている49).高次脳の働きが,

食物の取り込みから臼歯部への移送という咀囎の

初期の段階において,より統合的な機能を必要と

することに深く関わっていると考えられる.しか

し,咀噌の統合的な機能を神経生理学的に調べた

研究はほとんど無いのが現状である.咀噛に対す

る高次脳の働きをきっかけとして,より統合的な

機能の解明が待たれるところである.

参考文献

1)河村洋二郎(1972)歯科医学生のための口腔生

 理学,改訂版,永末書店,東京.

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 版,東京.

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