地域環境計画における生態学的資源評価手法の開発
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(2) 能とその課題の解明(目的 1) ・地域環境計画支援ツールとしてのエコロジカル・ ツールの開発と適用(目的 2) をねらいとした。. 2. 研究方法 本研究では、はじめに、環境計画の関連用語、概念 の整理を行いながら、地域環境計画が地域の特性を具 現化し、 現実的、 具体的な計画として展開するため に必要となってくる 地域 や 環境 の捉え方およ びその具体的方法について整理した。 地域. の捉え. 方では、 環境を構成する様々な要素の均質性、 結節 性、関係性などを総合的に考慮して求められる「計画 地域」 (窪谷 1988)の概念が有効であることを指摘し た上で、環境を 資源 の観点から質的に評価する方 法(「自然誌学的アプローチ」)とそれに基づく資源評 価概念の有効性を論じた。 ここで筆者は、 「自然誌学 的アプローチ」 を「植物社会学的アプローチ」(地域 のあらゆる植生とその生育環境の観察、記述に基づく 植生タイプの識別およびそれらの立地、構造、生態、 遷移、民俗との関わりを明らかにする手法)と「民族 生物学的アプローチ」 (聞き取り調査や文書の記録、. 図 1.資源特性の具現化プラットフォームの構築イメージ. フィールドワークにおける観察から人々の生活文化と 植物・植生との連関性を把握し、植物・植生の 素材. 目的、機能、有効性、課題等について考察した。. としての資源特性 を明らかにしてゆく手法)に整理. 二つ目のテーマは、 「地域環境計画におけるエコロ. し、資源評価の基礎データを得るための重要な手法と. ジカル・ツールの開発と適用−福井県. して着目した。また、それら手法に基づく資源評価の. 区における生態学的資源評価」である。筆者が主任技. 概念として、環境の価値を、有形の(可視的、実体的. 術者として参与した福井県里地河川環境保全モデル事. な)資源に備わる特性の集合体として質的に評価(類. 業(対象地:福井県. 型・具現化)するためのプラットフォーム構築イメー. 事業を契機に始動した地域環境計画の事例を取り上. ジ(図 1)を明らかにし、本研究のエコロジカル・ツー. げ、 独自のエコロジカル・ツール(生態学的資源評価. ル開発に用いた。. 手法)の開発と適用に着手し、それによって解決され. 本研究における資源特性の具現化プラットフォーム. た課題(本研究の貢献)や新たな課題について考察し. は、地域環境計画の目的・目標に関連した資源の 素. た。具体的には、生態資源(生物群集とその生息・生. 材・ 材料としての特性 (以下、 資源特性と呼ぶ) を. 育基盤の有機的集合体の視点から捉えられる自然資源. 一つひとつ具体化することで、総体的な「環境の価値」. と定義し、本論文では主に植生を扱う)を対象とし、. の評価に寄与することをねらいとしている。. ①資源解析、②総合評価の順に進められた。. 以上を踏まえ、本研究では、先述の 2 つの目的(目. 資源解析では、 植物社会学的アプローチと民族生. 的 1、2)に対応して、それぞれ対象と方法の異なる 2. 物学的アプローチに基づき、 植物社会学的な植物群. つテーマに着手した。. 落の記載、 現存植生図、 潜在自然植生図、1948 年植. 一つ目のテーマは、 「地域環境計画におけるエコロ. 生・土地利用推定図の作成ならびに聞き取り調査、ア. ジカル・ツールの実態とその機能・有効性に関する考. ンケート調査、文献調査を通しての植生、民俗(生活. 察」である。近年、様々な分野、関係主体から注目さ. 文化) との関連情報の収集・ 整理を行った。 さらに. れ、地域環境計画への適用が期待された国内外の事例. は、それぞれのアプローチから得られた情報を「記載. (アメリカの全米ギャップ分析計画、ドイツの景観計. 文」 、「生態資源データベース」にそれぞれまとめ、そ. 江市河和田地区)ならびにその. れらを総合評価の「たたき台」とした。. 画)に係るエコロジカル・ツールをレビューし、その. 博士学位論文要旨. 江市河和田地. 72.
(3) 総合評価では、まず、資源特性の的確な規定が必要. 表 1.資源特性 30 項目の概要. となるため、 実際の地域環境計画における 2 つの指 針(1. 自然の保護、2. 自然の利用)に対応させた 2 つ の資源特性分類群: 「生態系の構造・ 機能および生物 多様性の保全に関わる特性( I 類) 」 と「人々の生活 文化(資源としての用途)に関わる特性( II 類) 」を 設定し、それぞれの分類群から 15 項目ずつ、計 30 項 目の資源特性を規定した(表 1) 。次に、 個々の資源 (認められた植物群落)が 30 の特性を有しているか否 か の判定を行った。ここでは、構築された記載文、 生態資源データベース中で資源特性との関連性が示唆 された箇所を資源特性判定の根拠とし、その箇所を記 載文、生態資源データベース中で下線表示することを. 表 2.評価マトリックス. 通して、判定の客観性の向上に努めた。判定結果は、 特性の「在/不在」に対応した 1/0 情報として、行タ イトルに資源名、 列タイトルに資源特性 30 項目が配 置された行列表(評価マトリックス) (表 2) にまと められた。 また、1 資源あたりの特性数を資源特性 I 類、II 類別に集計し、それぞれ ES、AS として数値化 した。さらには、個々の資源について、ES、AS をそ れぞれ X 軸、Y 軸とする図上に配置させ、 個々の資 源の環境機能特性、生活利用特性を比較した。また、 資源特性の空間的な分布状況を明らかにするため、対 象地を最小セルサイズ約 100 × 100m のメッシュに 2. 分割し、メッシュ図上での資源の「在/不在」にした がって ES、AS を 1 セル毎に合計、表示した。本研究 では前者を資源配置図、後者をメッシュ図と呼ぶ。. 3. 成果および考察 全米ギャップ分析計画、ドイツ景観計画では自然誌 学の手法や成果物(野生生物とその生息地情報、植生 図など)が重視され、地域環境計画を展開する上での 「具体的措置の提示」 や「保全のための意思決定(保 全優先度評価) 」 に寄与することが重視されていた。 植生図などの自然誌学をベースとするエコロジカル・ ツールは、地域の環境に係る定性的なデータに基づく. とされた。その主な特徴(①∼③) 、問題点(④∼⑥). 記述、現状分析を可能とし、計画の指針などを決定す. は以下の通りである。 ①自然誌学的な定性的データに基づき、自然景観の. る際の意思決定基準としての適性を備え、地域環境計. 「質」を解明している点. 画に大きく貢献していることが示唆された。一方、自. ②野生生物潜在分布域の推定などを通して、空間の. 然誌学的な手法をベースに日本で全国的に実施されて. ポテンシャルを解明している点. いる自然環境保全基礎調査では、その目的は「資料の. ③保全優先度評価などを通して、地域環境計画の意. 提供」に留まっており、地域環境計画への活用など、. 思決定支援をねらいとしている点. エコロジカル・ツールとしての応用技術は開発途上に. ④植生のもつ構造の細部、特性が反映されにくい相. あることが示唆された。 分析から得られたエコロジカル・ツールの特徴や問. 観植生図が採用され、植生のもつ多様な特性間の. 題点は本研究のエコロジカル・ツール開発での参考点. 関係解析、評価を十分行うことができない(全米. 73. 地域環境計画における生態学的資源評価手法の開発.
(4) ギャップ分析計画) ⑤環境の持つ多様な特性が評価に盛り込まれていな い(全米ギャップ分析計画) ⑥最終的に提示される保全措置の内容が行政施策に 特化しており、地域住民が実践すべき具体的な行 動案に関する記述が具体性に欠く(ドイツ景観計 画) 以上を鑑み、次のようなエコロジカル・ツールが開 発目標とされた。 ①自然誌学的アプローチに基づき、景観の質及び多. 図 2.メッシュ図. 様な資源特性を記述的に解明することの出来るエ. 表 3.メッシュ図におけるセル類型とその特徴. コロジカル・ツール ②地域関係者の意思決定を支援することを目的とし て、最終的に、地域特性を反映した行動案を導出、 提示することの出来るエコロジカル・ツール 本研究のエコロジカル・ツール開発では、おもに総 合評価の過程で 3 つの成果(資源配置図、メッシュ図、 EcoMatch マトリックス)を導出した。 資源配置図は、 「自然性を重視した評価尺度」と「生 活利用に係る評価尺度」 の双方から対象資源(植生) を評価することで、従来の地域環境計画では具体化さ れていなかった地域固有の資源を見出すことに貢献し た。この結果、対象地では、自然林(シラカシ群集、 ケンポナシ−ケヤキ群落、ネコヤナギ群集) 、二次林. characteristic matrix) と は、TWINSPAN( Hill 1979;. (オクチョウジザクラ−コナラ群集など) が ES、AS. Gauch & Whittaker 1981) に基づく表操作を経た評価. 共に高く、両特性に優れた特筆すべき資源であること. マトリックスを指す。 表操作の結果、 植物群落 4 グ. などがわかった。. ループ( a ∼ d 群)と資源特性 2 グループ(甲類、乙. メッシュ図は資源特性の空間分布を把握する際に使. 類) が区分され、 それぞれの構成要素から各グルー. 用され、 メッシュ図上で表示された総計 2111 セルは. プの意味が判読された。その判読の結果、①「環境機. ES 合計、AS 合計の値に基づき 4 タイプ(セル類型 I. 能の保全と生活利用との両立を図る上で適した資源 a. ∼ IV) に類型された(図 2、 表 3) 。 この結果、 資源. 群」 、 ②「環境機能の向上のために努力の必要な資源. 特性の集中するセルなどを見出すことが可能となり、. b 群」 、③「くらしに役立つ生活利用の特性を見出し、. それぞれのタイプのセルにおいて環境保全と生活利用. 環境保全との両立を図ることが望ましい資源 c、d 群」. の両立を考慮した資源マネジメントの方向性、可能性. と解釈された。EcoMatch マトリックスを参考にする. を空間ベースで具体的に示せることがわかった。例え. ことで、個々の植物群落に備わる資源特性の傾向が明. ば、セル類型 I は、環境機能と生活利用の係る特性が. らかになると同時に、それらの特性をさらに生かし、. 集中しているセルであり、環境保全と利用を両立させ. 育むために必要な資源マネジメントをさらに具体化で. た持続可能な資源マネジメントを見出す上で注目すべ. きることがわかった。. き場所と判定された。 さらに、 セル類型 I ∼ IV は、. 4. 本研究の貢献(解決された課題)および 創造性. 構成資源と潜在自然植生の配分状況に基づき、それぞ れ a、b の 2 タイプに細区分された。 その結果、 それ ぞれの細区分は、立地(山地、低地河畔、低地田畔) との対応関係が認められ、それぞれの細区分に対応し. エコロジカル・ツールの開発は、福井県里地河川環. た資源マネジメント(プラン野山、プラン河、プラン. 境保全モデル事業をきっかけとした福井県. 田)を導出することが出来た。. 田地区における実際の地域環境計画の展開( PDS サ. EcoMatch マトリックス(Ecological resource-Material. イクルとしての設計 Plan →実行 Do の過程)に沿って. 博士学位論文要旨. 74. 江市河和.
(5) 象については具体化されていなかった。つまり、従来 の地域環境計画では、「地域特有の緑」、 「地域性あふ れる水辺」とは一体どのような景観あるいは資源を指 すのか という問いに対する明確な答えが欠落してい た。これに対し、生態学的資源評価手法では、従来の 地域環境計画では具体化されていなかった地域固有の 生態資源(例えば、ケンポナシ−ケヤキ群落、ネコヤ ナギ群集など)を見出すことに成功し、資源特性、地 域特性に配慮した行動案(資源マネジメント)を具体 的に導き出すことができた。例えば、プラン野山と関. 図 3.地域環境計画における生態学的資源評価手法の機能. 連するケンポナシ−ケヤキ群落については、認められ 行われた。本論文で開発されたエコロジカル・ツール. た資源特性(気候・気象緩和適性、防災資源、工芸材. (生態学的資源評価手法) の成果が地域関係者へ提供. など) の内容が考慮され、 「漆器木地資源林、 環境保. された結果、そのエコロジカル・ツールには、地域環. 全林としての保全・育成→伝統的地場産業(漆器産業). 境計画の展開に際して、以下のような効果があること. との連携による地域活性化→福井豪雨災害・崩壊地の. が考察された(図 3) 。. 自然再生→小学校と連携した幼苗育成、 教育資源化」. 生態学的資源評価手法のうち、資源解析から導出さ. など、地域の自然環境保全と産業・教育活動との両立. れた現存植生図、潜在自然植生図などは、主に地域の. やそれらの持続可能性に配慮した方法を具体的に提示. 現状分析に供され、地域環境計画の初期の過程( PDS. することに成功している。. サイクルで言う設計 Plan の過程) における計画指針. 生態学的資源評価手法の開発と適用を通して、地域. 「自然の保護と利用」の決定に貢献していた。一方、. に存在する資源とそれらの地域特性に配慮した資源マ. 総合評価から導出された資源配置図、メッシュ図、評. ネジメントが具体化され、これを契機として河和田地. 価マトリックス( EcoMatch マトリクス) は、 指針を. 区では、その成果に理解を示した地域関係者による行. 具体的に推進するための資源マネジメント(プラン野. 動が徐々に展開された。その開発について、実際の地. 山、プラン河、プラン田)を導出すること、およびそ. 域環境計画への参与、適用を通した具体的方法論とし. れらの内容をさらに具体化することに貢献し、地域環. てまとめている点が本研究の創造性に係る特徴であ. 境計画の「設計 Plan 」の過程から「実行 Do 」の過程. る。. への移行を促す役割を果たすことがわかった。 引用文献. 生態学的資源評価手法の成果は、報告会、刊行資料. 窪谷順次( 1988) 『現代地域計画論−都市・ 農村土地利. (矢ヶ崎ほか 2006)の配布を通して地域へ提示された。. 用調整と環境問題』,農林統計協会.. 河和田地区では、導出された資源マネジメント(プラ. Gauch, H. G. & R. H. Whittaker (1981) Hierarchical. ン野山、プラン河、プラン田)をさらに具体化するこ. classification of community data. Journal of Ecology, No.. とを目的として、 地域住民、NPO を主体とする新た. 69, pp. 135-152.. な実施主体「河和田環境会議」が創設される運びとな. Hill, M. O. (1979) TWINSPAN-a FORTRAN program for. り、本手法の成果が参考されてゆくことになった。具 体的には、 河和田環境会議内の NPO、. arranging multivariate data in an ordered two-way table. 江市河和田. by classification of the individuals and attributes. Cornell. 小学校が主体となり、地域の資源を生かした学習活動. University, Department of Ecology and Systematics.. プログラムの企画やボランティアによる潜在自然植生 主要構成種の育苗活動が進められた。 河和田地区に関わる従来の地域環境計画(. 江市. 江市(2000a)『. 江市環境基本計画』,. 江市(2000b) 『. 江市環境基本計画に基づく環境配慮. 指針』 ,. 江市.. 江市.. 2000a、2000b)では、保全・創出すべき目標として「地. 矢ヶ崎朋樹・武井幸久・向川泰弘( 2006)『見つめてみ. 域特有の緑」 、 「地域性あふれる水辺」などが掲げられ. よう身近な環境−むかし、いま、未来の河和田』,国. ていたが、目標を達成するために着目すべき資源の対. 際生態学センター.. 75. 地域環境計画における生態学的資源評価手法の開発.
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