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発達の遅れを伴う子どもの問題行動に悩む母親への子育て支援 : Parent-Child Interaction Therapy(PCIT)を取り入れたアプローチ

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Ⅰ.問題と目的 一般に発達の遅れを伴う子どもを養育する親 は,定型発達児を養育する親と比較すると,よ り高いレベルのストレスを経験するリスクがあ ると言われる(鈴村 2012)。発達の遅れを伴う 子どもをもつ親が相談機関を訪れた際の主訴と しては,「かんしゃくがひどい」,「親の言うこと を聞かない」,「多動で落ち着きがない」,「衝動 的である」といった子どもの外在化問題行動に 関することが多いことが指摘されているが(井 澗 2010),そのような問題行動への対応に苦慮 し,「子どもにどのように対応したら良いか分か らない」との挫折感や育児不安につながるケー スも非常に多いと言える。しかし,子どもの問 題行動に対し,決まりや構造等について一貫性 をもち,子どもと肯定的にやり取りをすること を親が学んでいくと,子どもの行動は改善する 傾 向 に あ る こ と が 分 か っ て い る(Coyne & Murrell 2009)。 また,発達の遅れを伴う子どもとの相互交流 の難しさや問題が親に与えるストレスも大きく, 杉山(2013)は,子どもがもつ特性(例:自分 のことを一方的に話す等,他者とのやり取りの 難しさ)が,親に子どもに対して「育てにくい」,

実践報告

発達の遅れを伴う子どもの問題行動に

悩む母親への子育て支援

―Parent-Child Interaction Therapy(PCIT)を取り入れたアプローチ―

古 川   心

(立命館大学心理・教育相談センター/立命館大学人間科学研究所) 発達の遅れを伴う子どもの場合,定型発達児に比べてかんしゃく等の問題行動を示すことが多い との報告がある。それは子どもを養育する親にとってはストレスとなり,自分の対応について自信 を喪失したり,罪悪感を抱いたり,子どもへの怒りにつながる可能性が指摘されている。発達の遅 れを伴う子どもたちの支援では,子ども本人への直接的な支援はもちろん,一番身近な存在である 親への支援の重要性が強調されており,子どもへの適切な関わり方や問題行動への対応について具 体的に示すことが大切となる。本研究では,発達の遅れを伴う子どもの問題行動への対応に悩んで いることを主訴に相談に訪れた母親に対して行ったカウンセリングの中で,子どもへの適切な関わ り方や問題行動への対応について,親への心理教育と実践によるペアレンティングスキル向上のた めのトレーニングを目的として Parent-Child Interaction Therapy(PCIT:親子相互交流療法)を取 り入れた。結果,親から,子どもへの関わり,問題行動への対応についての自信を回復させたこと, 子どもへのストレスが軽減したことの報告がみられた。その事例を通して,発達の遅れを伴う子ど もの親への支援のあり方について検討した。

キーワード:発達の遅れ,親,カウンセリング,Parent-Child Interaction Therapy(PCIT) 立命館人間科学研究,No.35,93 101,2017.

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「関わりにくい」といった感情を芽生えさせ,親 子関係を構築することをさらに困難にすること や,子どもへの虐待やマルトリートメントに結 びつく可能性を指摘している。また,この問題 が改善されない場合,乳幼児期における課題で あるアタッチメント形成が阻害され,基本的信 頼感や安心感が育まれず,その後の子どもと他 者との相互交流が,より困難になるといった悪 循環につながる可能性についても指摘している。 齊藤(2014)は,発達の遅れを伴う子どもの親 への支援で最初に取り組むべき課題は,親の子 どもへの対応における自信の喪失や罪悪感,同 時に必然的に存在する子どもへの怒りであると 述べている。また,酒井(2010)は,発達の遅 れを伴う子どもへの支援において,子どもと親 との相互作用に着目し,援助者は,親が子ども の特性と表現様式への理解を深め,養育の質を 高められるよう支援し,それによって子どもと 親の間に安定したアタッチメント関係が構築さ れることの重要性を述べている。 つまり,発達の遅れを伴う子どもの親への支 援では,親が一番苦慮している子どもの問題行 動に対してどのように対応するかについて具体 的な方法を示すことや,日常場面での親の困難 や悩み,子どもに対するネガティブな感情等を 理解し,受容すること,親子の安定した関係を 構築するような相互交流を促進させることが非 常に重要であると言える。 実際に,発達の遅れを伴う子どもの親へのカ ウンセリングの中で「どんなに困っているか, 子どもがかんしゃくを起している様子を見ても らいたい」,「子どもが言うことを聞かなくて困っ ている,具体的にどのように声をかければ良い のか,この子に合った方法が知りたい」という 発言が聞かれることは多い。これに対し,筆者は, 親への支援方法として,Parent-Child interaction Therapy(PCIT:親子相互交流療法)を取り入 れることが有効なのではないかと考えた。 PCIT とは,アメリカフロリダ大学名誉教授 の Sheila Eyberg 博士によって 1970 年代に考案 された行動療法である。2 歳∼ 7 歳までの破壊 的行動(乱暴なことば遣いや行動,反抗的,言 うことをきかない,かんしゃく,多動等)のあ る子どもとその親を対象として作られたもので, 親子関係に直接的に介入する方法をもつ。既に アメリカやオーストラリアなどで問題行動(反 抗挑戦性障害,破壊的行動障害等)を呈する事 例において,多くのランダム化比較試験が行わ れており,メタアナリシス研究によればアメリ カ心理学会の提示するエビデンスに基づく治療 のガイドラインにおいて「よく確立された well-established」治療に位置付けられている(Thomas & Zimmer-Gembeck 2007; 加茂他 2014)。セラ ピーは,親子が一緒に遊ぶ場面を通して行われ, 相互交流における不適切なパターンを変化させ ることで,子どもの問題行動を減少させていく ことを目的としており,二段階で構成されてい る(Hembree-Kigin & McNeil 1995)。第一段階 は,Child Directed Interaction(CDI)とよばれ, 子どものリードに親が従いながら遊ぶ中で,親 は子どもへの適切な関わりについて学び,親子 間に安定した関係性を構築することを目的とし ている。親は,CDI スキルとして,子どもの適 切な行動の強化子となり得るポジティブな注目 の仕方と,子どもにとって侵入的になり,親子 関係に悪影響を及ぼすと考えられる関わり方を 避けることについて学ぶ(Eyberg & Matarazzo 1980)。 第 二 段 階 は,Parent Child Interaction (PDI)とよばれ,CDI で学んだスキルをベース に子どもと関わりながら,親が子どもへの効果 的なしつけの方法を学び,子どもの不従順な態 度を減少させることを目的としている(Eyberg & Matarazzo 1980)。親は,PDI スキルとして, 子どもへの効果的な指示や一貫した態度でしつ けを行う方法について学ぶ(Hembree-Kigin & McNeil 1995)。

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PCIT の一番の特徴はその構造にあり,セラ ピストは,親と子どもが一緒に遊ぶ場面を別室 で観察し,子どもとの関わり方について,トラ ンシーバーを使って,親に対し,その場でアド バイスをするライブコーチングを行う。その際, セラピストは,親もしくは子どもの行動だけに 注目するのではなく,親子の関係性およびやり 取りを介入対象と捉え,セラピーを通して,親 子がよりポジティブで効果的なコミュニケー ションの方法についてのスキルを獲得できるよ う に サ ポ ー ト を 行 う(Harwood & Eyberg 2006)。いわば,親が子どものセラピストとなっ て関わることをセラピストが支える形でプロセ スが進み,それぞれのケースのニーズに合わせ たペアレンティングスキルの練習が可能となっ ている。 本研究では,発達の遅れを伴う子どもの問題 行動への対応に悩んでいることを主訴に相談に 訪れた母親に対して行ったカウンセリングの中 で,子どもへの適切な関わり方や問題行動への 対応について,親への心理教育と実践によるペ アレンティングスキル向上のためのトレーニン グを目的として PCIT を取り入れた事例につい て,親の発言の変化の分析を通して,親への支 援のあり方について検討することを目的とする。 Ⅱ.方法 1. 事例の概要 (1)クライエント:発達の遅れを伴う男児(3 歳) の母親 A(40 歳代,パート勤務) (2)主訴:子どもの問題行動(かんしゃく,多動, 衝動性)にどのように対応したら良いか分から ない(A の初回面接時の発言から)。 (3)家族構成:夫(40 歳代,会社員),A,子 ども(3 歳,保育園年少) (4)来談経緯:A は子どもへの対応に困難さを 感じ,発達障害児に対する相談機関を探すうち に,立命館大学に「たどりつき(A の発言によ る)」,X 年 5 月,相談申し込みを行った。 (5)子どもの成育歴および問題歴:妊娠中およ び分 時に特筆すべきことはなく,1 歳半検診 で保健師より発達がゆっくりであることを指摘 され,個別面談を受けた。その際は経過観察と いう判断だったが,2 歳 9 ヵ月時,保育園入園 申請の際,発達検査を受けることを勧められ, 専門機関を受診。B 市の発達相談センターで発 達の遅れを指摘され,保育園では加配を付ける ことになった。A は,それをきっかけに「これ までは個性の範囲と思っていたが,診断名がつ く可能性があることを指摘され,何かしないと いけないと焦る気持ちが生じた」と話し,「特に, 子どもの問題行動についてどのように対応した ら良いのか分からずに困っている」と子どもへ の関わりに苦慮していることを述べた。 2.アセスメントと援助方針 A は,子どもの問題題行動への対処方法につ いて知りたいという思いが特に強く,初回面接 で面接者(立命館大学教員)が子どもへの対処 方法について,例として実際にその場で示して 見せると,すぐにそれを真似し,子どもが適応 的に行動するということがあった。それについ て A は,「今は先生の真似をしたからできたけど, 家ではこう上手くはいかないと思う」と話し, 自分の子どもへの対応について自信が持てない こと,より効果的な方法についてもっと知りた いと思っていることを述べた。そこで,その後 の面接を担当することになった筆者は,カウン セリングで A の悩みや問題について聴くことに 加え,子どもへの効果的な関わり方についての 心理教育やペアレンティングスキル向上のため のトレーニングを行うことが望ましいのではな いかと判断し,その方法として,PCIT を取り 入れることにした。

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3. PCIT の実施 臨床ケースにおいて PCIT を実施するために は,PCIT-International が認める正規のイニシャ ルワークショップへ参加することや,アドバン スワークショップへの参加や定期的なスーパー ヴィジョンを受けること等によって研鑽を積む ことが求められている。本研究では,上記の条 件を満たしている筆者がセラピストとして PCIT を実施した。また,PCIT が適切に実施されて いるか検討するため,適宜 PCIT インターナショ ナルマスタートレーナーによる Skype を使用し た遠隔スーパーヴィジョンを受けた。 4. 面接構造 面接は,立命館大学人間科学研究所にて 1 回 60 分,基本的に毎週 1 回行った。1 回の面接は, ①困っていることや子どもへの関わり方等につ いて話し合う時間(30 分程度),② PCIT の方 法を取り入れた実践の時間(20 分程度),③ふ り返りの時間(10 分程度)という構造で実施し, X 年 5 月から X + 1 年 4 月までの間,全 31 回行っ た。 5. 倫理的配慮 面接を開始するにあたり,研究活動の一環で あること,研究内容を開示することを説明し, 同意を得た。個人情報の取り扱いについては, 得られたデータや個人情報は匿名化し,研究目 的以外には使用しないこと,専門学会,学術専 門誌等を通じて研究発表をする際にも個人の特 定につながるものは発表しないことを文書及び 口頭で説明し,了解を得た。 Ⅲ.面接経過 全 31 回の面接過程を 3 期(第 1 期:子どもと の関係の改善・ペアレンティングスキルへの自 信の回復,第 2 期:子どもの変化に伴う葛藤と 新たな問題行動への対応,第 3 期:細々した日 常の困りごとへの対処方法を整理・終結)に分 けて記述する。以下,面接内の A の発言は「」で, セラピストの発言は<>で示す。また,# は面 接回数を表す。 第 1 期(X 年 4 月∼ 8 月):子どもとの関係の改 善・ペアレンティングスキルへの自信の回復 第 1 期は,A が子どもとの関係を改善し,自 身のペアレンティングスキルに対する自信を回 復させていった時期であった。面接開始当初, A は,日常の困りごとや心配に加え,子どもに 発達の遅れがあると指摘されたことに対して「こ の子の将来がどうなるかと思うと不安(#1)」, 「まさか自分が子どもにこんな目に遭わされると は思わなかった(#2)」といった不安や焦り, 怒りの感情を詳細に語った。また,子どもとの 関係では,「子どもとやり取りすることがとても 難しい(#1)」,「子どもの集中力が散漫で,関 心が次々に移り変わるので,落ち着いて遊べな い(#2)」等,子どもに対する関わり方の難し さとそのストレスを話した。加えて,「子どもの 気持ちを大事にしたいと思うが,ついイライラ して大きな声を出して叱ってしまうことがあり, 落ち込む(#2)」と子どもとの関わりの中で挫 折感を抱いていることや,上手くいかないこと によるペアレンティングスキルへの自信の低下 が語られた。面接では,発達の遅れについて A の理解を促すために正しい情報を提供するとと もに,A と子どもとの関係を温かく安定したも のへと変化させることを目的に CDI を実施した。 A は,「子どもとのやり取りが豊かになると書か れていたが,うちの子がそうなるとはとても思 えない(#3)」と PCIT への期待と不安につい て語ったものの,ライブコーチングの方法につ いては,「これまで,子どもの問題行動を相手に 説明してもうまく伝わらないことが多かったが, 実際に子どもの様子を見てもらえるので,困っ

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ている部分を分かってもらえている感じがする (#3)」,「その場で対応について教えてもらえる ところが良い(#4)」と話した。 その後,A は,子どもと外出した際のエピソー ドについて「これまでは,遊びを切り上げて帰 ることが難しく,かんしゃくを起こして大声で 泣くことが多かったが, 早く帰って,遊ぼう と言うと,スッと切り替えられることができた (#9)」と驚きをもって報告し,セラピストが親 子関係が良くなってきたことについて触れ,<お 母さんと遊ぶことが楽しいんですね(#9)>と 言うと,「最近,ちょっとやり取りができるよう になってきたので,私も楽になってきた(#9)」 と話し,子どもと関わることの楽しさを実感し ている様子がうかがえた。   また,PDI を実施した際には,A は「分かり やすい指示を出すことで,子どもが言うことを 聞いてくれるということがよく分かった。でき る,という自信になった(#14)」と述べた。セ ラピストが<お母さんが一貫性をもって対応し ていることが子どもの混乱を防ぎ,より指示に 従いやすくさせていますね(#14)>,<親子 の関係が良くなっていることも大きく影響して いると考えられますよ(#14)>と話すと「ずっ と練習してきたことがこうやってつながるんで すね(#14)」と話した。 第 2 期(X 年 9 月∼ X+1 年 2 月):子どもの変 化に伴う葛藤と新たな問題行動への対応 第 2 期は,子どもの変化に伴って A に生じた 葛藤と子どもの新たな問題行動への対応が話題 の中心となった時期であった。A は,子どもに ついて「遊びに集中できるようになってきた (#15)」,「一緒に遊ぶことを求めている感じが あって,成長したなと思う(#16)」と話し,そ の変化を喜ぶ一方で,「このまま発達の遅れがな くなって,他の子に追いついたら良いのにと思 う(#16)」,「できることが増えたけど,他の子 と比べたらまだまだゆっくりしている感じがし て, 早くしなさい とかきつく言ってしまう時 がある(#16)」と葛藤が生じていることが示唆 された。セラピストは,<面接を通して,A さ んの気持ちを話してもらうこと,一緒に整理を することで,お子さんにきつく言ってしまうこ とが防げると思います(#16)>と話し,A が カウンセリングを受けることの意味について確 認をした。 また,この頃,A は,「人への興味が増して, 関わりたいという気持ちがあるが,上手くいか ずに,叩いたり,大きな声を出したりしてしま うことがある(#17)」と子どもの新たな問題行 動について話した。セラピストは,<お子さん と A さんとの関係がしっかりできて,楽しい経 験をたくさんしているので,人と関わりたいと いう気持ちが出てきたからこそ生じてきた問題 と考えられますね(#17)>とポジティブな側 面をフィードバックすると共に,「子どもに対し て 止めなさい とか ダメ と言って叱ってし まうことが増えた(#17)」A に対し,PCIT の 方法を使った実践では,CDI スキルに焦点を当 て,子どもへの効果的な関わり方について再確 認した。A は,「子どもが褒められて嬉しそうに するのを見るのは嬉しい。これまで,私が注目 しようがしまいがこの子には関係ないのかなと 思っていたので(#19)」と自分自身の変化と子 どもの変化について振り返った。さらに,「初め の頃は本当に理解できない感じがあったが,今 は子どもが何をしたいと思っているか,少し分 かるようになった(#19)」と話し,関わること の難しさやストレスが減少したことについて話 した。 その後,A は,子どもへの関わり方について「夫 にも説明し,普段の関わりでも使って関わると 上手くいくよとアドバイスした(#20)」,「保育 園の先生から園での活動に参加できる時間が延 びたことや,お友だちとのやり取りが増えたこ とを聞き,先生にも PCIT のプリントを見せて,

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これの効果があったと思いますと話した(#24)」 と報告する等,効果を実感している様子がみら れた。 第 3 期(X+1 年 3 月∼ 4 月):細々した日常の 困りごとへの対処方法を整理・終結 A が対応に苦慮していた子どもの問題行動(か んしゃく,多動,衝動性)は,第 2 期でかなり 落ち着き,A からは,「(問題行動が)前ほど気 にならなくなった(#25)」,「前よりも集中して 遊べるようになった(#26)」と報告があった。 第 3 期では,A が日常場面で困っていることへ の対処方法を話し合うことが中心となった。A は,「これまで子どものことをいろいろな所で相 談してきたが, まだ小さいからね とか もう 少し様子を見ましょう といってお茶を濁され るような感じがしていたが,ここでは困ってい ることについて具体的にどのように対応してい け ば 良 い か を 教 え て も ら え た の で 良 か っ た (#27)」,「私の関わり方を変えることで,子ど もの行動を変えていくことができるということ が分かった(#28)」と話した。また,「困ること, 心配なことはまだまだたくさんあるけど,私の 捉え方も大きく影響するということが分かった し,こう対応したら良いということが分かるよ うにもなったことはすごく大きな変化だと思う (#30)」と述べ,子どもへの関わり,問題行動 への対応について自信を回復させたことがうか がえた。A の主訴の解決,子どもへの効果的な 関わり方についての理解と定着がみられたこと から終結を提案し,了承が得られたため,振り 返りの最終面接を行うことと,フォローアップ で A への面接を行うことを決めた。 最終面接では,親子で遊ぶ様子を記録したビ デオを用いて,#1 と #30 の比較から,A と子 どもの変化について振り返りを行った。#1 では A が話しかけても子どもは反応がほとんどなく, 一人でおもちゃを動かして遊び,A は静かに見 守っていることが多かった。また,子どもは自 分の思うようにオモチャを使えないとオモチャ を投げ,A が拾うという場面が多くみられた。 一方,#30 では,お互いに顔を見て話をする, 二人で交互に積み木を積むなどのやり取りが多 くみられた。また,子どもが,自分でできない ことについて A に「○○してください」と言っ て頼むなど,適応的な行動が増えた様子も観察 された。A からは,「同じオモチャを使って遊ん でいるのに,全然違うことをしている。こんな に変わったんだと思った(#31)」と変化につい て改めて実感している様子がうかがえた。その 後,X+1 年 8 月のフォローアップ面接で,大き な問題もなく生活できている様子が A から語ら れたため,面接を終結した。 Ⅳ.考察 発達の遅れを伴う子どもの場合,自分の要求 をうまく言語化できなかったり,周囲から求め られていることに応えられるだけのスキルが十 分に身についていないことなどから,欲求不満 が生じやすく,定型発達児に比べて,かんしゃ く等の問題行動を示すことが多いとの指摘があ る(McDiarmid & Bagner 2005)。 そ の よ う な 子どもの問題行動に対して,親が「やめなさい」 と怒鳴ったり,オモチャを取り上げる等の罰を 与えるという対応は,日常場面でも臨床場面で もよく観察される。その結果,一時的に子ども の問題行動が止まることが往々にしてあるので, 繰り返されてしまうが,その効果は長続きせず, 問題行動自体がなくなることはほとんどないと 言える。 Patterson(1982)は,子どもの問題行動と親 の養育態度が相互に影響し合って悪循環を引き 起こす「Coercion Theory」を提唱したが,本 研究で取り上げたケースでも,子どもの問題行 動に対して A が対応への困難さや自身の無力感 を抱き,厳しく叱ったり,感情的に怒ることが

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生じ,そのことがさらに子どもの問題行動を引 き起こしていると考えられた。A が PCIT の理 論をベースとした子どもへの効果的な関わりに ついて学ぶことを通して,子どもに対し,適切 に関わる場面が増え,子どもが A との遊びを楽 しむ姿がみられるようになる等,親子関係にお ける悪循環が改善されていったと考えられる。 Zisser & Eyberg(2010)は,子どもの問題行動 を変化させるためには,まず親子関係を安定し た温かいものへと変化させる必要があるとして いる。また,それに加えて,子どもの問題行動 に対する親の認識を客観的で寛容性のあるもの へと変化させることが,子どもの問題行動をさ らに悪化させることを防ぐとし,その方法とし て PCIT の理論を取り入れることが有効である と述べている。本研究では,カウンセリングの 枠の中で,そのプロセスに沿って心理教育の方 法およびペアレンティングスキル向上のための トレーニングとして PCIT の理論と実践練習を 取り入れるという形を取ったため,本来の PCIT のプログラムとは異なるが,先行研究で報告さ れているような親の認識の変化と同じような変 化が示されたと考えられる。つまり,面接を通 して,A は,子どもの良い行動に注目していく ことで新たな視点をもつことが可能となり,問 題行動を起こした子どもの意図について考える ことで,自身の不適切な思い込み(例:問題行 動が多い,関わりにくい等)を再構築すること が可能となったと言える。また,子どもにとっ ては,國吉(2013)が言うように,A に関心をもっ て見守られ,受容されていることを実感し,安 心感をもつ経験となり,そのことが A への信頼 感に結びついたと言える。 発達の遅れを伴う子どもの親への支援におい て,支援者から親への一方的な教示(たとえば, 家庭や学校現場での支援方法,専門機関による 支援の情報を伝えてアドバイスすること等)は, 親の抵抗を強め,同時に親の自尊心を踏みにじ る結果となりやすく(齊藤 2014),親の養育上 の困難さや悩みなど,その実態を把握し,親の 気持ちを考慮した上で支援がなされる必要があ るという報告がある(新村 2011)。今回,カウ ンセリングの中で親のストレスや育児に対する 悩み,子どもへの怒りや自身の無力感等につい て十分に聴く時間を設けたことで,セラピスト と親の間に信頼関係を構築することができたと 考えられる。セラピストから尊重され,受容さ れた経験は,親に子どもを尊重し,受容するこ とを可能にさせたと考えられ,セラピストから 親,親から子どもへの良い関係性の循環が生じ たと言える。また,親との関係性を大切にしな がらセラピストが具体的な対処方法について PCIT の理論を取り入れた心理教育,ライブコー チングを使ったペアレンティングスキル向上の ための実践を行ったことが,親の子どもへの理 解を促し,スキル習得のモチベーションを維持 させたと言える。特に,セラピストが親子の遊 ぶ様子を観察し,その場で A に具体的な関わり 方や子どもの行動の意味について直接アドバイ スを行ったことは,セラピストから理解されて いるということを実感しやすくさせ,問題につ いてセラピストと親が協力して取り組むという 構造をより強固に形成することができたと考え られる。 A は,当初,子どものかんしゃくや衝動性, 多動性に注目することが多かったが,プロセス を経て,次第に子どもを客観的に観察できるよ うになり,日常生活でも子どもの問題行動に注 目するのではなく,肯定的に子どもの変化を捉 えることができるようになった。その背景には, 「尊重されること」や「受容されること」を通し て構築されるセラピスト―親間および親―子ど も間の信頼関係が大きく影響していると考えら れる。発達の遅れを伴う子どもの問題行動に悩 む親への支援方法として,親の困難や怒り,挫 折感や焦燥感を共に受け止め,子どもを肯定的

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にとらえる視点を常に提供しながら寄り添うセ ラピストのあり方が重要となると言える。その 方法として,カウンセリングおよび PCIT を取 り入れた支援は有効であることが示唆されたが, 今回は一つの実践事例における報告のみに留 まったため,他の対象者へも実施し,さらに効 果を検証することが今後の課題である。 謝辞 本研究に快くご協力いただきました A さん親 子,そして,研究に際し,常に温かいご支援・ ご示唆をいただきました立命館大学教授の谷晋 二先生に心より感謝を申し上げます。 引用文献

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(受稿日:2016. 5. 31) (受理日[査読実施後]:2016. 8. 30)

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Practical Research

Support for Mothers of Children with Developmental

Delays: An Approach Using Parent-Child Interaction

Therapy(PCIT)

FURUKAWA Kokoro

(Ritsumeikan Counseling Center / Institute of Human Sciences, Ritsumeikan University)

It has been reported that compared to typical developing children, children with Developmental Delays(DD)tend to exhibit more behavioral issues(e.g., tantrums). Some studies have suggested that those behavioral issues can cause significant stress for their parents, which can decrease self-confidence in their parenting, increase any sense of guilt, and/or make them upset with their own children. When supporting children with DD, emphasis should be placed not only on the importance of supporting the children themselves but also their parents. In order to improve parenting skills, it is important to show parents how to properly handle behavioral issues in their children. In this study, the author counseled a mother who mainly wanted to discuss her trouble in responding to the problematic behaviors of her child with DD. The author introduced PCIT to the mother as training to improve her parental skills by learning appropriate interaction with her child and response to her child s inappropriate behavior. As a result, the mother reported that she had increased her self-confident in parenting and interaction with her child, which helped reduce her stress and deal more effectively with her child s behavioral problems. The purpose of the current study is to analyze a way of support to parents who have problems responding to their children with behavior problems through this case.

Key Words : developmental delays, parents, counseling, Parent-Child Interaction Therapy(PCIT)

参照

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