美術館施設との連携による造形ワークショッププログラムの開発 : 北海道立釧路芸術館の平成21年度ジュニアアートスクールの事例
9
0
0
全文
(2) 釧路論集 -北海道教育大学釧路校研究紀要-第42号(平成22年度) Kushiro Ronshu, - Journal of Hokkaido University of Education at Kushiro - No.42(2010):155-162. 美術館施設との連携による造形ワークショッププログラムの開発 ―北海道立釧路芸術館の平成21年度ジュニアアートスクールの事例― 佐々木 宰1・藤 下 昌 世2 1 2. 北海道教育大学釧路校美術教育講座. 北海道教育大学大学院教育学研究科教科教育専攻美術教育専修(大学院生). On Development of Programs for Art Workshop in Co-operation with Museums -A Case of the Junior Art School in 2009 at the Kushiro Art Museum, HokkaidoTsukasa SASAKI1・Masayo FUJISHITA2 1 2. Department of Art Education, Hokkaido University of Education. Master Course, Department of Art Education, Hokkaido University of Education. 要 旨 北海道立釧路芸術館及び釧路市立美術館との連携による研究プロジェクト「美術館施設と学校教育の連携による芸術文 化環境形成のための基礎研究」が平成20年度からの3年計画で実施されている。この一環として、北海道立釧路芸術館の 教育普及事業であるジュニアアートスクール(平成21年度)におけるワークショップのプログラム開発が行われた。従来 からの連携の実績を基盤としたプログラム開発とその有効性が実践を通して確認された。. はじめに. である。. 筆者(佐々木)はこれまで北海道立釧路芸術館(以下、. 1.過去のワークショッププログラム. 釧路芸術館)との連携による美術教育を実践してきた1)。. (1) 平成18年度(モビール). 連携の端緒は、大学における美術教育の一環として、学外. 平成18年度のワークショップは、筆者(佐々木)が釧路. の美術館施設を利用しようと試みたことであった。様々な. 芸術館の教育普及事業であるジュニアアートスクールの講. 実践を重ねるにつれ、この連携は次第に大学と美術館施設. 師として、学芸員の協力のもとにプログラムの開発と指. の双方にとって互恵的なものとなっていった。例えば、大. 導、展示を行ったものである。平成18年11月3日、4日、. 学における教科教育研究の蓄積を、美術館施設の教育プロ. 5日の3日間で、約90人の親子が参加した。平成18年度の. グラムに応用することは、大学にとっては実践の拡大、美. ワークショップのプログラムは、透明素材を用いたモビー. 術館施設にとっては内容の充実という意味をもった。. ルの制作であった。ラミネートパウチフィルムに、様々な. このような連携の実績を背景に、大学や美術館施設、学. 色の透明セロファンを挟んでプラスチック板をつくり、そ. 校などを地域における教育資源ととらえ、これらの連携に. れをもとにモビールを制作した。完成したモビールを天井. よって地域全体の芸術文化環境形成を試みる研究プロジェ. から吊してスポットライトで光を当てると、モビールの色. 2). クトが構想された 。具体的には、北海道釧路市に設置さ. と形が壁面に投影される、という趣向であった。. れている釧路芸術館と釧路市立美術館の2館の協力を得な. 参加した子どもたちの年齢や造形的な能力の違いにも対. がら、美術館教育の先進事例の調査、ワークショップのプ. 応できる作業工程やモビールの構造を考案するために、か. ログラム開発、学校と連携した事業のモデル構築などが進. なりの準備時間を必要とした。. められている。このうち、美術館教育の先進事例調査の一. 結果として、小学校低学年から高学年、さらにそれ以上. 部については、英国ロンドンにおける美術館・博物館、アー. の年齢層の参加にも対応できるプログラムを開発すること. トギャラリーを事例として報告した3)。. ができた。制作後の展示においても、透明素材によるモビー. 本稿は、こうした連携事業のうち、平成21年度に行われ. ルと、壁面に投影された影によって、展示空間を満たすこ. た釧路芸術館におけるワークショップのプログラム開発に. とができた4)。. ついて、従前の連携事業との関連を踏まえて報告するもの. 社会教育施設のワークショップに、教科教育の造形教育. - 155 -.
(3) 佐々木 宰・藤 下 昌 世 のノウハウを生かしたり、学校教育では想定されない諸条 件への対応を試みたりすることを通して、大学と美術館施 設の双方にとって相互補完的な関係を再認識した。. 図2 プラダンによる影絵人形 (3) 平成20年度(版画) 平成20年度のワークショップは、釧路芸術館の企画展 「棟 方志功展」の関連事業として企画されたものである。 当時、 本学美術研究室学生であった滝田彩の卒業研究課題が「小 学生における版を使った表現の意義と教材開発」であった ため、滝田の卒業研究の一環としてプログラムの内容が開 発され、実際の指導も滝田によって行われた。 平成20年度の連携によるプログラム開発の特徴は、プロ. 図1 開発したモビール. グラムの開発主体が学生であることである。また、小学 (2) 平成19年度(影絵人形). 校における教材開発研究の一環として、釧路芸術館にお. 平成19年度のワークショップは、 前年度同様に筆者(佐々. けるワークショップのプログラム開発を構想している点で. 木)を講師としたジュニアアートスクールとして、平成19. ある。従前のプログラム開発は、生涯教育施設のプログラ. 年10月27日、 28日、 11月3日に行われた。平成19年度のワー. ム開発のために教科教育研究の知見を生かすというもので. クショップのプログラムは前年度のそれを発展させて、光. あったが、平成20年度はこの逆にあたる。. の造形のためのプログラムとした。. ワークショップは、平成20年11月29日、30日の2日間に. 「プラダン」と呼ばれる段ボール状の構造をもつ半透明. 行われた。主たる参加者は小学校第1学年から第6学年ま. のプラスチック板を用いて、影絵人形の制作を計画した。. での児童であった。ワークショップのプログラムは、プラ. 通常の影絵は、背面から光を投射してスクリーンに黒い影. ダンを版の材料に用い、等身大の版画を制作するもので. を映し出すのに対して、ここでは半透明の素材を用いるこ. あった。. とによって、スクリーンに白い影を映し出すことをねらっ. 半透明であるというプラダンの特徴を生かし、モデルに. た。プラダンで作った影絵人形には、 様々な色の透明カラー. プラダンを持たせ、透けて見えるモデルの輪郭を反対側か. シートを貼って、色とりどりの人形による白い影絵人形を. ら描きとった。それをもとに版を作り、長尺の画用紙に刷っ. 制作することと、それを使って影絵遊びをすることをプロ. た。. グラムの大きな柱とした。. 小学校学習指導要領では、図画工作の学習内容として 「版. 制作後の展示については、プラダンを多用した造作物を. 画」が明示されておらず、 「版に表す表現」という記載を. 学芸員とともに考案し、空間構成を行った。美術館の展示. 通して、その原理を生かした幅広い表現活動が示唆されて. 空間、スポットライト、造作物等、学校教育で提供できる. いる。他方、実際の授業では、従来の紙版画や木版画が行. 5). 造形活動や鑑賞体験との差別化を図った 。. われることが多い。滝田の開発したプログラムはこうした. 前年度に続いて、大学における教科教育研究及び教材開. 現状を背景としており、新しい素材の使用や、等身大といっ. 発の手法と、生涯教育施設としての展示等のノウハウとを. た特徴は、学校教材との差別化を図りつつも、指導要領で. を生かしながらワークショップのプログラム開発を進める. 求められている「版に表す表現」としての教材を意識して. ことができた。. いた。 平成20年度の事業を通して、従来の連携モデルから、学 生を中心とした連携のモデルを構築することができた。. - 156 -.
(4) 美術館施設との連携による造形ワークショッププログラムの開発 を展示した『トリックアートの世界展』であったため、 ワー クショップのプログラム開発は、 「ものの見え方の面白さ」 を体験できる活動を目指して進められた6)。 ワークショップのプログラム開発にあたって、「トリッ クの要素」と「小学校の全学年の年齢層への対応」という 2つの柱をもとに、検討が進められた。トリックアート の作品の要素を、 「見る方向や角度によって異なって見え ること」「本物のように見えて本物ではないこと」「光を当 てるなどの作用で、予期せぬ形や色が生まれること」など と解釈し、エッシャーやマグリットなどの錯視を応用した 作品、食品サンプルや万華鏡など、幅広い事例からアイデ アを得ようとした。トリックの要素を含んだ造形物やその 活動については様々なアイデアが提案されたが、小学校第. 図3 等身大の版画. 1学年から第6学年までの年齢層に対応し、限られた時間 内で作品完成まで導くことができるか、という条件を満た す案はなかなか得られなかった。制作活動における個人差 は、小学校の学級内においても指導の難しさとしてしばし ば指摘されている。器用な児童は早く仕上げて時間をもて あまし、他方、苦手な子どもは時間内に完成させられない。 そこで、能力に応じて自分なりの工夫を加えられるような 造形活動の要素を加えることにした。全ての児童が作品を 完成するような時間配分を基本とし、余裕のある児童は、 さらに時間をかけて工夫することで作品の質を高められる ようなプログラムが必要とされた。 さらに、児童が制作した作品は、展覧会の一部として展. 図4 平成20年度以前の連携モデル. 示される予定になっているため、一定の空間を構成する要 素として機能することが求められていた。空間を満たすた めには、ある程度の作品の大きさが必要になるが、作品を 大きくすると、限られた時間内の完成が難しくなる。 様々な案の検討を経て、コンパクトディスクやDVDディ スクなどの光ディスクを用いたミラーボールの制作と、万 華鏡の原理を応用したスコープの制作をすることになっ た。光ディスクによるミラーボールは、スポットライトの 光を当てることによって、多方向に独特の色と干渉模様を 含む光を反射させる。 「身近なものが、予期せぬ色と光を 生み出す」という点に着目した。ミラーボールが生じさせ る光を、スコープを通して見ることで、さらに予期せぬ色. 図5 学生を中心とした連携のモデル. と形を生む、という趣向である。 2.光の造形のワークショッププログラムの開発 (1) 展覧会との関連. (2) 光ディスクによるミラーボール. 平成21年度のワークショップは、平成18及び19年度と同. 光ディスクによるミラーボールは、直径12㎝のCD等の. 様に、釧路芸術館のジュニアアートスクールとして実践さ. 光ディスクを使って、正12面体になるように組み合わせた. れたものである。プログラムの開発・指導に関しては、佐々. ものである。正12面体は、12個の正五角形によって構成さ. 木と藤下(本学大学院美術教育専修大学院生)が行い、展. れるので、光ディスクの外周にこれを5等分する点を取. 示に関しては佐々木と釧路芸術館学芸員が行った。. り、12枚のディスクの外周上の点どうしが接するように組. 従来と同じように、ジュニアアートスクールの参加者が. み合わせると正12面体になる。ディスクの接合は透明粘着. 制作した作品は、釧路芸術館の展覧会の一部として公開・. テープで留めるだけであるから、外周に正確な点を取るこ. 展示されることになっていた。したがって、ワークショッ. と以外は、それほど難しい作業内容ではない。. プのプログラムも、展覧会の趣旨に応じたものである必要. ミラーボールの表面(鏡面)には、カラーマーカーや、. があった。展覧会は、錯視や錯覚の原理を使った美術作品. 透明カラーシートなどで装飾を施す。テグスで天井から吊. - 157 -.
(5) 佐々木 宰・藤 下 昌 世 し、回転させて光と当てると、光ディスクの反射膜で光が. の切り取りや組み立ての作業時には、児童に応じてサポー. 反射し、独特の虹色の干渉模様や、カラーマーカーやシー. ト学生が手伝うことにした。. トの模様が壁面や天井に映し出される。 ワークショップでは、児童が制作した多数のボールの光 と壁面の光の動きで空間を満たし、日常的な素材を使った 制作によって、ものの新しい見え方を提供することを計画 した。. 図7 「華麗だスコープ」の構造 (4) プログラム ミラーボール及びスコープの制作、作品の鑑賞活動を含 む一連のワークショップのプログラム原案を藤下が作成し た(表1)。 表1 ワークショップのプログラム. 図6 ミラーボールの構造. 企 画 名 日 時. (3) スコープ ミラーボールの光を見るための装置として、万華鏡の原 理を応用したスコープを考案した。鏡面シートを貼ったプ ラスチック板を箱状に組み立て、1面にプリズムシートを. 場 所 指 導. 貼った。これをのぞくと、プリズムシートによって拡散し た光が、箱の内壁の鏡面に反射して、不思議な模様になっ て見える。 「華麗だスコープ」と名付けた。. 参加児童 目的と内容. 鏡面シートについては、鏡面状の粘着シートや粘着テー プとして市販されているものを使った。 また、 プリズムシー トは、テーブルクロス用のビニール素材として市販されて. 方法と手順. いるものを使った。 プラスチック板に鏡面シートをきれいに貼り付けたり、 展開図を描き入れて正確に切り、組み立てる作業は、小学 校高学年程度の内容であった。そのため、プラスチック板. - 158 -. 「きらきらオブジェをつくろう」 2009年10月31日(土)・11月1日(日) 10時~ 15時 北海道立釧路芸術館・フリーアートルーム 佐々木宰・藤下昌世 (北海道教育大学釧路校) 指導補助学生 各日15人(小学生) 光ディスクなどの身近な素材を使ったミラ ーボールを制作し、光を当てることで生じ る色と形を体験する。 【ミラーボール】 ①光ディスクの反射を体験する ②光ディスクの外周に5箇所の印をつける ③12枚のディスクを組み合わせる ④表面にマーカーやシートで装飾する ⑤テグスをつける.
(6) 美術館施設との連携による造形ワークショッププログラムの開発. 材 料 等. 【スコープ】 ①展開図通りに切り抜かれたプラスチック 板に鏡面シートを貼る ②組み立てる ③プリズムシートを差し込む 【鑑賞】 ①ミラーボールを天井から吊す ②回転させてスポットライトを当てる ③スコープでのぞいて見る 【ミラーボール】 光ディスク、テープ、カラーマーカー、カ ラーシート、アクリル棒(3mm角) 、ビニー ルチューブ、ビーズ 【スコープ】 プラスチック板、鏡面シート、鏡面テープ、 プリズムシート. れは、平成18年度のワークショップで扱った「モビール」 の構造材を応用したものである。吊り糸をミラーボールに つけて、ほぼ全ての児童が午前中の2時間以内に作品を完 成させることができた。 午後からは、スコープの制作が行われた。あらかじめ展 開図が描き込まれたプラスチック板に、鏡面シート等を貼 り、展開図に沿ってプラスチック板を切って組み立てるこ とが主な作業内容である。気泡を含まないように平滑な面 に鏡面シートを貼り付ける作業は慎重さを要求されるが、 ほとんどの児童がこれを行うことができた。 プラスチック板を展開図通りに切ること、組み立てるこ とについては、多少の個人差はあるが、ほぼ全員が問題な くできた。スコープの先端に、プリズムシートを差し込ん で完成となる(図12)。所要時間は概ね1時間であった。. 3.ワークショップの実践 (1) 制作活動 平成21年度のジュニアアートスクールは、平成21年10月 31日、11月1日に行われた。10時から12時までの2時間で ミラーボールの制作を、13時から14時までの1時間でス コープの制作を、14時から15時までの1時間で鑑賞活動を 行うこととした。 ミラーボールの制作では、光ディスクの外周に5箇所の 印をつけることと、印を合わせて12枚の光ディスクを組み 合わせることが主な作業内容であった。 児童には光ディスクと同じ大きさで5箇所に印をした型 紙を配布して、12枚の光ディスクに印をつけるように指示 した(図8) 。しかし、 この作業は小学校低学年児童にとっ ては難しく、外周の印はかなり不正確なものとなること. 図8 型紙で光ディスクに印をつける児童. が、第1日目のワークショップで明らかになった。また、 印をつけた12枚の光ディスクの組み立て方については、完 成した作品を見せることで児童に気づかせようとしたが、 低・中学年児童はもとより、 高学年児童においても難しかっ たようである。他方、正12面体に組み上がったミーラー ボールに、マーカーやカラーシートで装飾する活動につい ては、児童は楽しみながらも集中力を維持して取り組んで いた(図9) 。 光ディスクに正確に印をつけ、組み立てを円滑に進める ために、第2日目のワークショップでは、テンプレートを 配布した(図10)。このテンプレートは、ディスクと印の 位置を印刷したA3判の紙である。最初に番号0の位置に 置いたディスクに5箇所の印をつけ、順次番号5、4、3、 2、1の位置にディスクを置いて、印をつけた箇所を粘着 テープで留めると、正12面体の半分(半球分)ができる。 これをもう一つ作って、それぞれを組み合わせると正12面 体になる。このテンプレートを使うことによって、第2日 目のワークショップに参加したほぼ全ての児童が、正確に 印をつけ、組み立てることができた(図11) 。 ミラーボールの吊り糸については、テグス、アクリル 棒、透明チューブ、ビーズなどを組み合わせて作った。こ. - 159 -. 図9 カラーマーカーやカラーシートによる装飾.
(7) 佐々木 宰・藤 下 昌 世 される虹色の干渉模様は、揺れながら色と形を変えて壁面 を回周する独特の変化を見せた。また、カラーシートやカ ラーマーカによる装飾は、光の当たり方によって壁面にぼ んやりとした形と色を映し出す。 スコープを通して見ると、周囲の光がさらに屈折してス コープの内壁に反射し、不思議な色と形の見え方となる。 児童は、スコープをミラーボールに近づけたり、遠ざけた りしながら、刻々と変化している色と形を楽しんだ。 約1時間の鑑賞活動を終えて、ワークショップの全プロ グラムが終了した。午前2時間と午後2時間の合計4時間 のプログラムの中に設定された、ミラーボールとスコープ の制作及び鑑賞活動は予定通り行われ、全ての児童が制作 と鑑賞活動を完遂した。. 図10 テンプレート. 図13 鑑賞活動 図11 テンプレートを使った作業. 図14 スポットライトの光を受けるミラーボール 図12 スコープの内部 (3) 展示 (2) 鑑賞活動. 平成21年11月21日から釧路芸術館で開催された「トリッ. 完成したミラーボールを天井から吊し、スポットライト. クアートの世界展」の展示空間の一部に、ワークショップ. で光を当てると、会場の壁面や天井、床面に反射光が揺れ. で制作された作品を使って空間構成をした。作業は佐々木. 動き、 参加した児童らの歓声が上がった (図13、 14) 。ミラー. と学芸員が協力して行った。. ボール自体の輝き方の変化はもとより、壁面や天井に投射. 与えられた空間は、幅3.5メートル、奥行き7.2メート. - 160 -.
(8) 美術館施設との連携による造形ワークショッププログラムの開発 ル、高さが約3メートルである。天井にはスポットライト を取り付け、27個のミラーボールに様々な角度から光を当 てて、壁面や天井に投影される反射光や干渉模様の効果を 探った。光源の種類や位置などには一定の制約があった が、空間の中で動く光の美しさや不思議さを感じるととも に、身近な素材の工夫を間近に見ることができるように配 慮した。 展示空間の入り口には紗をかけ、そこに映る光を背面か らも見られるようにした。ワークショップに参加した27人 の児童によって作られたミラーボールによるこのインスタ レーションは、「虹の華」と名付けられ、平成21年11月21 図15 展示. 日から平成22年1月20日の「トリックアートの世界展」の 会期中展示された。展示会場には観覧者が利用できるよう にスコープが複数置かれた(図15、16、17)。 4.結果と考察 (1) 結果 平成21年度のワークショッププログラムの開発は、これ までの3年間の蓄積を生かした形で行うことができ、当初 の条件を満たした内容のものとすることができた。 今回の開発では、大学院生も加わり、学芸員との連絡 調整をしながら素案を練り上げていった。過去のワーク ショップの実績から、会場、展示室などの空間的な条件や、 時間や児童の能力差といった条件については例年通りのこ. 図16 展示. ととして対応することができた。ただし、展覧会のテー マに即したワークショップのアイデアや、後の展覧会で空 間構成することができるような作品制作を構想するために は、かなりの試行と時間を要した。 特に、 「トリックアート」というテーマが含意するもの を捉え、児童に提供できる内容を考えていく作業は、学校 教育における教材研究とは逆の過程である。ワークショッ プのプログラム開発のために、 「トリックアート」の意味 を熟考することは、この展覧会自体のコンセプトそのもの を考えることでもあった。学芸員との連携は、展覧会のコ ンセプトや、これに連動する教育普及事業の意義について の意見交換を含むものであった。 従前のワークショップでは、プログラムの開発やその遂 行に意識が向けられていたが、連携を継続するにつれ、 ワー クショップを含む教育普及事業の目的やその在り方につい ての意識を共有するようになってきたといえる。 今回のワークショップは、従前からの連携の延長上にあ り、美術館施設と教育機関の相互補完的な協力によって可 能になったものである。展覧会のテーマに即したワーク ショップのプログラム開発、幅広い参加者への対応、限ら れた時間内での実践、そして児童が制作した作品によるイ ンスタレーションの展示の全てにわたって成果を残した。 開発したプログラムの実行可能性も検証できた。 同時に、今回の取り組みは、従来の互恵的な連携のもと での実践における一定の到達点を示唆していた。今後も同. 図17 展示. じかたちで連携を維持することは可能であると判断される. - 161 -.
(9) 佐々木 宰・藤 下 昌 世 一方で、連携がパターン化することも予想できる。開発し. 302.. たプログラムの学校等への提供、釧路市立美術館との連携. 4)空間構成「きれい色のワンダーランド」は、平成18年. など、新たな連携の在り方を追求するべき段階とも言え. 11月23日~平成19年1月28日の期間、釧路芸術館の企画展. る。美術館施設と教育機関の関係だけではなく、同一地域. 「コレクションギャラリー」展の一部として展示された。. にある芸術文化の教育資源として地域全体に機能する連携. 5)空間構成「ぴかぴかおばけプロジェクト」は、平成19. の在り方が必要になっている。. 年11月17日~平成20年1月20日の期間、釧路芸術館の企画 展「親子のアトリエ」展の一部として展示された。. (2) 課題. 6) 「トリックアートの世界展」は、高松市立美術館のコ. 前述の通り、継続的な連携事業によって、プログラム開. レクションを中心に企画された巡回展である。豊橋市美術. 発の実績が増え、連携の意識にも変化をもたらしてきた一. 博物館の会期(2009年8月22日~9月23日)の後に、北海. 方で、課題もまた明らかになってきた。. 道立釧路芸術館で2009年11月21日~ 2010年1月20日まで. 釧路芸術館でのワークショップのプログラム開発の課題. 行われた。以後、ふくやま美術館(2010年4月17日~6月. については、展覧会に連動しているという条件のため、内. 13日)、損保ジャパン東郷青児美術館(2010年7月10日~. 容に制約が生じることが挙げられる。また、参加者や参加. 8月29日) 、長野県信濃美術館(2010年9月4日~ 10月24. 形態の都合から、時間や空間、活動が制限される。すなわ. 日)、宮崎県立美術館(2010年11月3日~ 12月5日) 、八. ち、誰でも参加できて、一定の成果を残せるようなプログ. 戸市美術館(2010年12月18日~ 2011年1月30日)、高松市. ラムが求められる一方、ある程度の時間や労力をかけて深. 美術館(2011年4月15日~5月29日)を巡回する。本稿で. く追求する内容のプログラムはなかなか実行できない、と. のワークショップ及びその展示は釧路芸術館独自の企画で. いうことである。. ある。. 学校とは異なった広い空間や、美術館ならではの施設を 生かした特徴的なプログラムの創出とともに、地域の芸術. 参考文献. 教育の現状を踏まえた多様なプログラムの提供が今後の課. ・東京都写真美術館(監修)、森山朋絵(企画/編)、『影. 題である。. 像体験ミュージアム──イマジネーションの未来へ』、工 作社、2002.. 注. ・The Metropolitan Museum of Art, Eye Magic, A World. 1) これまでの連携による実践については以下で報告した。. of Optical Puzzles, Thames & Hudson, 2005, UK.. 佐々木宰、「道立釧路芸術館との連携による大学教育の試 み」、 『北海道生涯学習研究』 、第6号、2006、pp.109-118.. 付記. 佐々木宰、 「北海道立釧路芸術館との連携による美術教. 本稿は、平成20 ~ 22年度科学研究費補助金・基盤研究. 育実践研究」、『北海道生涯学習研究』 、第7号、2007、. (C)「美術館施設と学校教育の連携による芸術文化環境形. pp.85-94.. 成のための基礎研究」(研究代表者:佐々木宰、課題番号:. 佐々木宰、「北海道立釧路芸術館との連携美術教育実践研. 20530792)の成果の一部である。. 究(2)」 、 『北海道生涯学習研究』 、第8号、2008、pp.99-. なお、本稿の作成にあたっては、1、4章を佐々木が、. 108.. 2章のプログラム原案作成、3章の実践を藤下が担当し、. 佐々木宰・滝田彩、 「美術館施設との連携による造形教材. 全体を佐々木がまとめた。. の開発──北海道立釧路芸術館における版画ワークショッ. 本研究の遂行にあたり、研究協力者である北海道立釧路. プの事例」 、 『北海道教育大学紀要(教育科学編) 』 、第60巻. 芸術館の柴勤学芸主幹(当時、現北海道立函館美術館副館. 第1号、2009、pp.153-163.. 長) 、五十嵐聡美学芸員(当時、現北海道立近代美術館学. 2)平成20 ~ 22年度科学研究費補助金・基盤研究(C). 芸員) 、福地大輔学芸員をはじめ、同館のみなさまに多大. 「美術館施設と学校教育の連携による芸術文化環境形成. なご協力をいただきました。あらためて感謝いたします。. のための基礎研究」 (研究代表者:佐々木宰、課題番号: 20530792) 3)佐々木宰、「イギリスの美術館における教育普及活動 (1) ──ロンドンの美術館及び博物館、 アートギャラリー の事例」 、 『北海道教育大学紀要(教育科学編) 』 、第60巻第 2号、2010、pp.157-171. 佐々木宰、 「イギリスの美術館における教育普及活動(2) ──リバプール、オックスフォード、ケンブリッジの美術 館及び博物館、アートギャラリーの事例」 、 『北海道教育 大学紀要(教育科学編) 』 、第61巻第1号、2010、pp.291-. - 162 -.
(10)
関連したドキュメント
北区の高齢化率は、介護保険制度がはじまった平成 12 年には 19.2%でしたが、平成 30 年には
2013(平成 25)年度から全局で測定開始したが、2017(平成 29)年度の全局の月平均濃度 は 10.9~16.2μg/m 3 であり、一般局と同様に 2013(平成
アドバイザーの指導により、溶剤( IPA )の使用量を前年比で 50 %削減しまし た(平成 19 年度 4.9 トン⇒平成 20 年度
2011 (平成 23 )年度、 2013 (平成 25 )年度及び 2014 (平成 26 )年度には、 VOC
この延期措置により、 PM 排出規制のなかった 1993 (平成 5 )年以前に製造され、当 初 2003 (平成 15
z 平成20年度経営計画では、平成20-22年度の3年 間平均で投資額6,300億円を見込んでおり、これ は、ピーク時 (平成5年度) と比べ、約3分の1の
なお、平成16年度末までに発生した当該使用済燃
の 45.3%(156 件)から平成 27 年(2015 年)には 58.0%(205 件)に増加した。マタニティハウ ス利用が開始された 9 月以前と以後とで施設での出産数を比較すると、平成