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道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究 : 道徳的価値に迫る問題解決的な学習を目指して

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Academic year: 2021

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(1)Title. 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究 : 道徳的価値に迫る 問題解決的な学習を目指して. Author(s). 長谷, 博文. Citation. 北海道教育大学紀要. 教育科学編, 67(1): 71-79. Issue Date. 2016-08. URL. http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/handle/123456789/8024. Rights. Hokkaido University of Education.

(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第67巻 第1号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 67, No.1. 平 成 28 年 8 月 August, 2016. 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究 ― 道徳的価値に迫る問題解決的な学習を目指して ―. 長 谷 博 文 北海道教育大学釧路校臨床教育学研究室. A Study on the New Instruction Method in Becoming a Subject of Moral Education Lesson Aiming to the Problem Based Learning of the Approach to Moral Value. HASE Hirofumi Kushiro Campus, Hokkaido University of Education. 概 要 道徳が教科化され,道徳科における問題解決的な学習が学習指導要領(一部改正)に示され たことにより,問題解決的な学習の在り方について考察する必要があると考える。さらに,問 題解決的な学習として行われている授業実践について,その課題を明確にし,改善策を探って いる。自分の立場を明確にして,児童生徒が主体的に学びながら,本時の目標を達成するため の中心発問を設定することで,道徳科の特質を踏まえた授業展開になることを考察した。. 1.はじめに. 習等を適切に取り入れることが示された。 これまでの道徳授業では,読み物資料を通して,. 平成27年3月に学習指導要領が一部改正され,. 主人公や登場人物の言葉や行為から,その心情を. 領域として扱われていた「道徳の時間」が「特別. 想像し,理解するという流れが多かった。この授. の教科 道徳」 (以下,「道徳科」という)として. 業では,本時で扱う道徳的価値に迫ることができ. 教科化された。. るよう発問を構成し,児童生徒の発言を適切に取. 教科化により,道徳教育の目標が養うべき道徳. り上げることで,道徳的心情を高めるということ. 性を明確にした内容に変更され,道徳科の目標も. について効果があったと考える。. どのような学習を行うかを示した内容が追加され. 一方,心情理解のみに偏った授業だけを行うこ. た。とりわけ,指導方法の工夫については,問題. との限界や,道徳的判断力を高めることをねらい. 解決的な学習や,道徳的行為に関する体験的な学. とした授業にはそぐわないという面もあるのでは. 71.

(3) 長 谷 博 文. ないかと考える。. 「単なる日常生活の諸事情とは異なる」問題を. 本稿では,学習指導要領(一部改正)に対応し. 扱うということは,学級の中で起こっている様々. た効果的な指導方法を探るため,道徳科における. な諸問題を直接的に扱うことではなく,表面的に. 問題解決的な学習に着目し,道徳的価値に迫る問. は問題となっていないが,道徳的価値と照らして. 題解決的な学習の授業の在り方について考察して. 取り上げていくべき内容である。つまり,児童生. いきたい。. 徒から見ればうまくいっていると思っていること. また,本稿を進める上で,学習指導要領(一部. や,当たり前のように行っているがその意義を見. 改正)や文献から道徳科における問題解決的な学. 出していないことなどを取り上げるということで. 習の在り方について明らかにするとともに,問題. ある。. 解決的な学習に取り組んでいる学校の授業実践か. 道徳科の特質の一つとして,自己の生き方につ. ら,課題となっていることを明確にし,その改善. いての考えを深める学習が挙げられる。この特質. 策を考察していきたい。. を踏まえると,児童生徒が将来に向けて,難しい 判断を伴う事柄や,自他の不利益が発生してもや り通さなくてはならない事柄など,様々な場面で. 2.研究の目的. 適切に判断し行動するために必要となる道徳的価. 本稿の目的は,次のとおりである。. 値を養うための授業づくりが求められる。そのた. 1)道徳科における問題解決的な学習の在り方を. め,道徳的価値を深めていくための「問題」を設. 考察する。. 定していかなければならない。. 2)道徳科における問題解決的な学習の授業実践 から課題を明らかにし,改善策を提案する。. 問題解決的な学習について,解説では,次のよ うな記述がある。 道徳科における問題解決的な学習とは,ねら. 3.研究の方法. いとする道徳的諸価値について自己を見つめ,. 1)については,文献等から先行研究を基に考 察する。また,2)については,問題解決的な学 習に取り組んでいる学校の授業実践から,その課 題となっていることを分析し,課題解決のための 方策を考察する。. これからの生き方に生かしていくことを見通し ながら,実現するための問題を見付け,どうし てそのような問題が生まれるのかを調べたり, 他者の考え方や感じ方を確かめたりと物事を多 面的・多角的に考えながら課題解決に向けて話 し合うことである。. 4. 道徳科における問題解決的な学習の在り 方. (p.91,下線は筆者). 「物事を多面的・多角的」に捉えるには,自分 の見方を広げるための話合い活動が必要である。 適切な教材を用いて,登場人物の行為を自分ごと. ⑴ 学習指導要領解説 特別の教科 道徳編から. として考え,互いの考えを交流し,時には議論す. 小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編. ることで,これまで気付かなかった新たな考え方. (以下, 「解説」という)では,道徳科で扱う「問. に触れることで,児童生徒は自分の見方や考え方. 題」について重く捉えたい。. を広げることができる。. 道徳科における問題とは道徳的価値に根ざし た問題であり,単なる日常生活の諸事象とは異 なる。. 72. (p.91,下線は筆者). 道徳科における問題を提示し,その問題を解決 するために話合い活動を行うことが,道徳科にお ける問題解決的な学習と捉えることができる。し かし,道徳に関する問題においては,明らかにこ.

(4) 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究. の考えが正しい,またはこの方法だと皆が幸せに. を判断基準としているのかなど,自身が大事にし. なれると方向付けるのは,特定の価値観を押し付. ている道徳的価値によって判断をしているのであ. けることになり,道徳授業にはふさわしくない。. る。. したがって, 道徳科における問題は提示するが,. 柳沼氏が提唱している問題解決的な学習では,. その解決については,様々な方策があることを認. 児童生徒が主体的に考え,判断し,解決すること. め,あくまでも本時で扱う道徳的価値を深め,本. を大切に授業づくりが行われている。このような. 時の目標を達成することを目指して授業づくりを. 授業を行うことで,児童生徒は判断が難しい問題. 行っていくべきと考える。道徳科における問題解. についても,自分なりに納得した解をもち,懸命. 決的な学習は,本時の目標を達成するための手段. な判断を下していくことができると考える。. の一つとして捉えたい。. つまり,道徳科の授業で道徳的判断力や道徳的 実践意欲・態度を養うには,有効な指導方法であ. ⑵ 柳沼氏の問題解決的な学習から. るといえる。. 柳沼氏は, 「問題解決的な学習で創る 道徳授 業 超入門」 (2016)の中で,道徳科における問. ⑶ 永田氏の問題追求のスタイルから. 題解決的な学習について,次のように述べている。. 永田氏は,道徳科の授業は学級の問題を取り上. 問題解決的な学習で創る道徳授業では,子ど もが自ら道徳的問題を考え,主体的に判断し, 解決していく。子どもが自ら道徳的問題に取り 組み,問題の原因を探るだけでなく,解決する ために「何をすべきか」 「なぜそうすべきか」 「ど う行動すればよいか」 「何ができるか」まで具. げて,その直接的な解決を図る時間ではないこと から,相互の学び合いの中から,自分の中の解決 を追求する営みが中心となる授業とすることを主 張している。 その上で,「道徳教育」(2015.5)では,次のよ うに述べている。. 体的に考え,判断し,議論する。. ⑶「問題追求」の授業で自己の納得と答えを. . 見付ける. (p.20,下線は筆者). これまで行われてきた読み物資料を場面ごとに 捉え,登場人物の心情理解を図る授業では,児童 生徒は自分ごととして考えることは難しい面もあ る。柳沼氏は,そのような授業スタイルから脱却 するため,道徳科における問題解決的な学習を提 唱している。 問題解決的な学習を取り入れることにより,本 時で明らかにしたい,またはじっくりと考えてい. この営みは,言い換えれば,道徳的な「問題」 の追求の過程である。 道徳授業で言う「問題」とは,学級で起こる 狭い問題に限らない。(中略) だからこそ,子どもが問題を追求し,自己の 「納得」と「答え」を得ることを主眼とした学 習観が今,重要になるのである。 . (p.72,下線は筆者). きたい「問題」や「課題」を提示するため,児童. 道徳的な「問題」を日常生活や社会問題,教材. 生徒は,この時間で何を考えていくのかを明確に. から幅広く設定し,追求していく過程を大切にし. することができる。さらに,解決策を考えていく. なければならない。その過程で,児童生徒は問題. ことで,自分の問題として捉え,自ら道徳的な問. に対する自他の考えを交流し,多面的・多角的な. 題に対し向き合っていくことができると考える。. 見方を養う中で,自分の中で納得する「解」をも. 道徳的な問題は,明らかに正しくないと判断さ. つことができるような授業づくりが必要であると. れる問題を除き,その多くは正解がない。日常生. 捉えている。. 活では,自分が何を大切にして行動するのか,何. 納得する「解」について,永田氏は「自己の『納. 73.

(5) 長 谷 博 文. 得』と『答え』を得る」と述べており,問題解決 的な学習で目指すべき方向性が見えてくる。 道徳授業について,学校の教員とディスカッ. 5.問題解決的な学習の授業の実際とその課 題. ションをすると,道徳授業の目指す方向や収束の. 「私たちの道徳」(文部科学省,2014)に掲載. 仕方が分からないとの声を聞く。教科教育の授業. されている「二通の手紙」を教材として用いた授. では,学級全体で問題の解決策について合意形成. 業実践から,道徳科における問題解決的な学習の. をして収束することになるが,道徳授業では一つ. 授業について考察していきたい。. の考え方や解決策に収束する授業スタイルにはな らない。. ⑴ 活用のための指導資料から. 道徳科における問題解決的な学習については,. 「私たちの道徳 中学校 活用のための指導資. その名称から「問題」を「解決する」授業と誤解. 料」(文部科学省,2014)(以下,「指導資料」と. され,道徳的価値を一つに収束されるように思わ. いう)には,「二通の手紙」の授業展開として,. れるが,一人一人の児童生徒がそれぞれの納得す. 登場人物の心情理解を図るための事例とともに,. る「解」を導き出す授業と考えると,授業の終末. 問題解決的な学習の授業展開の事例も掲載されて. のイメージをもつことができる。. いる。 指導資料の問題解決的な学習の事例は,表1に. ⑷ 道徳科における問題解決的な学習とは. 示したとおりである。. 本節までの考察をまとめると,道徳科における 問題解決的な学習では,道徳的価値を深めていく ための「問題」を設定し,その問題について児童 生徒が主体的に考え判断し,議論しながら相互に 学び合う学習活動が展開される。その上で,自分 の納得する「解」を導き出すことのできる学習と いえる。. 〔表1〕 「私たちの道徳 中学校 活用のための指導 資料」(p.77). 事例② 元さんの判断を通して,社会における法やき まりの意義を考える展開 【主な学習】 ①規 則に反して姉弟を入園させた元さんの判. 道徳的価値を深めるための 【 問題 】(設定) 〔集団〕 ・問題について,主体的に考え,判断 する ・考えたことを議論する(相互の学び 合い). 断に賛成か反対かについて考え,その理由も 含めて意見を交流する。また,相手側の意見 を聞いて考えたことも述べる。 ※弟の誕生日だからという姉の思い,また,重 大な事故が起きることもあるということに ついても考慮して考えさせるようにする。 ②自分が元さんの立場だったら,このようなと き,どのように対応すると思うか話し合う。. 〔個人〕. 納得する「解」をもつ 〔図1〕道徳科における問題解決的な学習のイメージ. ③法やきまりはなぜあるのか,それを破ること でどのような問題が起きるのかについて話 し合う。. (下線は筆者). 「元さんの判断に賛成か反対か」と自分の立場 を明確にして議論をさせた後,「自分が元さんの. 74.

(6) 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究. 立場だったら」と,自分ならどのような対応をす. ◎元 さんはどんな対応をすればよかったので しょう。 ・元さんが一緒に入園する ・動物園の職員が一緒に入園する ・上司の許可を取ってから入園させる. るのかと問い,解決策を考えさせている。 本時で扱う「問題」については,事例としては 提示していないが,「法やきまりはなぜあるのか」 る。. 展開後段. ということが,本時で扱うテーマになると考え. ⑵ A中学校の授業実践から 北海道釧路管内のA中学校で公開された「二通 終末. の手紙」を教材とした授業(2015年実施)につい て考察する。. ○法やきまりはなぜ大切なのでしょう。 ・きまりを破ると迷惑をかけてしまう ・法 やきまりを守ることで快適に過ごすこ とができる ・法 やきまりを守った方が気持ちがよいか ら □「私たちの道徳」p.139を読む。 ○ワ ークシートに今日の授業で学んだことを 書きましょう。. 第3学年20名の生徒を対象とし, 「C-(10)遵 法精神」について学ぶ授業である。. ①自分の立場を明確にする. 本時の目標は次のとおりであった。. この授業では,本時で考える「めあて」を生徒. きまりを遵守し,確実に義務を果たすことで, よりよい社会をつくろうとする道徳的実践意欲 を培う。. に示した後,資料「二通の手紙」の元さんの行動 について考えている。 元さんの判断についてどう思うかを問うこと で,元さんの行動を客観的に捉え,その判断に賛. 道徳的実践意欲を養う目標となっていることか. 成か反対かを明確にしている。資料を読んだ時に,. ら,本時で学んだことを日常生活で生かすことを. 元さんの判断に共感する生徒や,違和感を覚える. ねらいとしているとも捉えられる。. 生徒など,生徒一人一人が自分の経験や大切にし. 本時の展開の概要を表2に示す。. ている価値観と照らし合わせて感じているはずで ある。そのため,元さんの判断について,自分の. 〔表2〕授業の概要. 立場を明確にしていくことが,生徒にとって自分. 導入. ○きまりは大切ですか? ○あなたはきまりを守っていますか?. の本音を語ることのできる土台になるであろう。. 〔めあて〕 法やきまりはなぜ大切か考えよう。. る気持ちもあるけど,どちらかといえば賛成」と. 展開前段. □資料「二通の手紙」を範読する。 ○子 どもたちを入園させた元さんの判断につ いてどう思いますか。 ※心 情メーターを使用し,賛成か反対か,自 分の思いを示す。 <賛成> ・弟が動物を見たがっている ・弟 を喜ばせたいという姉の気持ちに応え るべき ・追い返すなんてかわいそうだ <反対> ・結局,いろんな人に迷惑をかけていた ・子 ど も だ け で 入 園 さ せ て 大 き な 事 故 に なったら大変 ・動物園のきまりを守っていたら安全だから. また,心情メーターを用いることで,「反対す いう微妙な気持ちについても表現することができ る。 授業では,生徒が心情メーターを持ちながら, 小グループの中で議論する姿が見られた。どの生 徒も,自分はこのように考えるということを自分 ごととして話をしており,特に,賛成と反対で主 張の違う生徒同士では熱心に議論を重ねていた。 生徒によっては,議論により心情メーターの位 置が変化していた。これは,自分のもっている価 値観だけで判断していたが,議論を行うことによ り,他の生徒の考えを聞き,今まで自分が気付か なかった違う視点で物事を考えることができるよ うになったのではないかと考える。. 75.

(7) 長 谷 博 文. 自分の立場を明確にすることにより,自分と他. たのかという疑問が残る。. 者との考えの違いを認識しながら議論を重ね,物. 本時の目標と中心発問を見比べた時,元さんの. 事を一つの方向だけでなく,様々な見方で考える. 望ましい行動を考え,解決策を集団で検討すると. ことができるようになる。. いう展開が本時の目標を達成するための営みとは 思えない。 中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編 (以下,「中学解説」という)では,本授業実践 で扱った「C-(10)遵法精神」について,次のよ うに記述されている。 自分たちを拘束すると感じる法やきまりが自 分たちを守るだけではなく,自分たちの社会を 安定的なものにしていることを考えさせ,より. 〔図2〕心情メーターによる自分の考えの表出. ②望ましい解決策を検討する. よいものに変えていこうとするなど積極的に法 やきまりに関わろうとする意欲や態度を育てる (中略). (p.44,下線は筆者). 中心発問として, 「元さんはどんな対応をすれ. 中学校段階では,小学校で学んだ法やきまりの. ばよかったのでしょう。」と設定している。生徒. 意義を再確認し,法やきまりを自分たちを拘束す. は様々な状況や条件を設定し, 「元さんが一緒に. るための嫌なものではなく,むしろ自分を守って. 入園する」や「上司の許可を取ってから入園させ. くれることを認識させる必要がある。さらに,法. る」などの方法を考え,発表していた。. やきまりを守ることによって社会が安定し,安全. これは,資料の登場人物が不利益を得ないよう. に生活することにつながることを意識させていく。. な方策,または満足するような方策を考える展開. 中学解説の内容からも,中心発問で元さんの望. になっていた。. ましい行動を考えさせていくことが,本時で扱う. 生徒からは,多くの考えが出され,どの方法が. 道徳的価値を深める発問とはいい難い。. よいのか検討がなされるなど,活発な議論をして. 資料「二通の手紙」を通して,自分の立場を明. いた。. 確にして話し合い,多面的な見方を広げていくと いう展開は,道徳的判断力を養う上でも有効であ. ⑶ 授業実践から見える課題. るといえる。. 本授業実践では,問題解決的な学習を取り入れ. しかし,道徳科の授業についても,他教科の授. たことにより,提示された問題を自分ごととして. 業と同様に,本時の目標を達成するための営みで. 考えるなど,生徒が主体的に学んでいる姿が見ら. あることから,目標に迫ることのできる展開を目. れた。生徒が活発に発言し,議論している様子は,. 指すべきである。. まさに道徳科の授業で目指している「考え,議論. 道徳科における問題解決的な学習では,指導資. する道徳」に近づいているといえる。. 料の展開にも見られるが,「どのように対応した. 反面,本時の目標は,「きまりを遵守し,確実. らよいか」を話し合う展開が示されている。つま. に義務を果たすことで,よりよい社会をつくろう. り,資料の中で起こっている問題を解決するため. とする道徳的実践意欲を培う。」となっており,. の方策を探る活動が位置付けられている。. この目標を達成するための授業になっていたの. 授業の構想を考える際に,機械的に問題解決的. か,またはこの目標に迫るための展開になってい. な学習の指導過程に当てはまるのではなく,解決. 76.

(8) 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究. 策を探ることが本時の目標に迫ることができるか. 道徳科の問題解決的な学習の授業では,自分の. どうかを十分に検討する必要があると考える。特. 立場を明確にして,自分ごととして考え議論する。. に,中心発問については,授業の中で児童生徒に. その後に,本時で扱う道徳的価値について,自分. 最も考えさせたい箇所であることから,慎重に検. と向き合って考えを深め,他の生徒の考えを聞き. 討することが求められる。. ながら多様な考え方や感じ方を学ぶことのできる 授業展開が望ましいと考える。. 6.道徳科における問題解決的な学習の授業 についての考察. 道徳的価値を理解したり,意義について考えを 深めたりする授業づくりをしていくことが,道徳 科の特質を生かした授業といえるであろう。. ⑴ 道徳的価値に迫る授業展開 道徳科における問題解決的な学習についての課. ⑵ 本時の目標を達成するための中心発問の設定. 題は,前述のとおり,次の2点と考える。. 本授業実践では,元さんの行動に対して賛否両. ①中心発問が本時で扱う道徳的価値を深めるも のになっていない。 ②資料の中の問題を解決する方策を考えること が,本時の目標を達成するための活動になっ ていない。. 論あり,生徒の考えも分かれてくる。本時の目標 が「きまりを遵守し,確実に義務を果たすことで」 とあることから,元さんの行為に反対の立場をと る生徒の意見を取り上げ,中心発問に生かしたい。 反対の立場をとる生徒からは,その理由として 「動物園のきまりを守っていれば安全だから」と. 学習指導要領(一部改正)に示されている道徳. いう考えが出される。そこで, 「動物園のきまり」. 科の目標には, 「道徳的な判断力,心情,実践意. に焦点を当て,中心発問とする。. 欲と態度を育てる。」とあり,これらの道徳性の 諸様相は,道徳的価値を実現するための内面的資 質である。 つまり,道徳科の授業では,この内面的資質を 高めていくことが求められる。道徳科の授業にお いて,内面から表出される道徳的行為だけを取り 上げ,その良し悪しや上手くいかなかったときの 改善策だけを話し合う授業では,内面的資質は高. (中心発問) ◎なぜ,動物園のきまりはあるのだろうか? (予想される生徒の反応) ・事故を防止するため ・入園者の安全を守り,楽しく動物を見るため ・動物園のきまりは,入園者だけでなく,職員 のことも守っている. まらないと考える。. 元さんの行動に賛成の立場をとっていた生徒で. ただし,道徳教育は,道徳性を養うことを目指. あっても,賛成の視点から「動物園のきまり」の. していることから,その要となる道徳科では,授. 意義について,様々な考えが出されると予想され. 業の中で学んだことを日常生活や今後出会うであ. る。このような中心発問を設定することで,きま. ろう様々な場面に生かすことのできる指導も大切. りを遵守し,確実に義務を果たすことの大切さや,. である。授業の中で内面的資質を高めることを中. よりよい社会をつくっていくことにつながること. 心としながら,自分が考えて納得した解を実行で. を自覚できると考える。. きるような授業づくりが求められている。. また,動物園のきまりが,入園者だけでなく,. 課題①・②については,資料の中のすべての登. 職員のことも守っていることに気付くことができ. 場人物が満足し幸せになるための方策を考えてい. れば,中学生ならではの視点をもつことができる。. るが,そのことが,生徒の内面的資質を高めてい. このような中心発問は,生徒の発言の予測を. るとは思えない。. しっかりと行うことで,事前に設定することがで. 77.

(9) 長 谷 博 文. きると考える。もし生徒から「動物園のきまり」 についての発言がなければ,補助発問で引き出し. 7.まとめと今後の課題. てもよいであろう。. 本稿では,道徳科における問題解決的な学習に. 児童生徒の発達の段階や資料の活用方法にもよ. おいて,授業の中で道徳的な問題の解決策を検討. るが,本授業実践のように,自分が大切にしてい. することを否定しているものではない。あくまで. る道徳的価値によって判断が分かれる場合,望ま. も,解決策を検討することが,道徳的価値を深め. しい解決策を考えることは,道徳科の特質を生か. るものなのか,本時の目標を達成するための活動. した授業にはならない。内面的資質を養うために,. になっているのか,の2点を検討することが大切. 中心発問では,しっかりと本時で扱う道徳的価値. ではないかということである。. について取り上げ,児童生徒がこれまでの経験を. 道徳科における問題解決的な学習の在り方につ. 振り返りながら,自分と向き合って考えることの. いては,自分ごととして道徳的な問題に向き合い,. できる展開を目指すべきである。. 主体的に学ぶ学習スタイルであることを見出すこ とができた。とりわけ,提示した問題について, 児童生徒が道徳的に判断し,その判断について議. 資料の内容に関する【問題】の提示. 論をしていくことの重要性について考察した。 道徳科における問題解決的な学習の授業実践に. 考え方A. 考え方B 議 論. 【中心発問】 道徳的価値を深める発問. ついては,その課題を明らかにし,どのように改 善すべきかを示すことができた。授業では,道徳 的価値を深める中心発問を設定することにより, 道徳科の特質を生かした授業になることを考察し た。 学習指導要領(一部改正)では,新たな指導方 法として問題解決的な学習が示されたが,その具. ○内面的資質の向上. 体は本稿で取り上げた事例以外に多くの実践があ. ○道徳的価値の深化・自覚. る。児童生徒と一緒に問題を考え,その問題を学. ○日常生活での実践への意欲化. 級全員で考えていくスタイルや,映像教材等を使 用したスタイルなど,様々な授業が考えられる。. 〔図3〕道徳的価値を深める中心発問のイメージ. 今後は,より多くの問題解決的な学習の事例を 収集し分析するとともに,中心発問だけでなく授. 道徳科の授業では,児童生徒はこれまで自分が. 業全体を見通した効果についても検討する必要が. 思っていたことや感じていたことを振り返り,他. ある。また,授業前後の児童生徒の変容から,問. の児童生徒の考え方に触れることで,今まで気付. 題解決的な学習による効果や課題について検討. かなかったことを発見することができる。つまり,. し,手探りの状態で道徳科の授業づくりを行って. 1時間の授業を終えた時に,道徳的価値の高まり. いる教師に方向性を示すことのできる理論を構築. が見られることになる。. し,道徳科の特質を踏まえて授業実践を行うこと. そのため,教師は本時の目標を明確にするとと. のできる手立てを示していく。. もに,道徳的価値を深め,自覚することのできる 中心発問を何度も検討し,中心発問を指導過程に 位置付け,授業実践を重ねていく必要がある。. 引用・参考文献 柳沼良太,2016,問題解決的な学習で創る 道徳授業 超入. 78.

(10) 道徳の教科化における新たな指導方法に関する研究. 門,明治図書,p.20. 永田繁雄,2015,道徳教育5月号「問題追求のスタイル を中核に据える」,明治図書,p.71-73. 文部科学省,2015,小学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編,p.91. 文部科学省,2015,中学校学習指導要領解説 特別の教科 道徳編,p.44. 文部科学省,2014,私たちの道徳 中学校,寛済堂あかつ き株式会社,p.140-145. 文部科学省,2014,私たちの道徳 中学校 活用のための指 導資料,p.76-77.. (釧路校准教授). 79.

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