海外協定校と連携した日本語教育インターンシップについての一考察 : 派遣と受け入れ双方の観点から
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(2) 北海道教育大学紀要(教育科学編)第68巻 第2号 Journal of Hokkaido University of Education(Education)Vol. 68. No.2. 平 成 30 年 2 月 February, 2018. 海外協定校と連携した日本語教育インターンシップについての一考察 ―― 派遣と受け入れ双方の観点から ――. 伊藤(横山)美紀・児玉 陽子* 北海道教育大学函館校 *. カルガリー大学. A Study on Japanese Teaching Internship in Collaboration with a Partner Institution: Perspectives from both Dispatching and Receiving YOKOYAMA ITO Miki and KODAMA Yoko* Hokkaido University of Education, Hakodate Campus *. University of Calgary. 概 要 本稿では第一筆者の所属する日本の大学で日本語教育を学ぶ学生が第二筆者の所属するカナ ダの海外協定校の大学に日本語教育インターンとして派遣された際の実践を整理し,その成果 と課題を実践データおよび派遣側指導教員と受け入れ側指導教員の視点から考察する。派遣さ れたインターンは,海外の日本語教育現場での様々な取り組みを目の当たりにし,日本語学習 者とのインタラクションを適切に行いながら授業を行う重要性を実感した。また,現地では, 日本語の授業時間外でも学生や地域の日本語教育関係者と交流する機会が豊富にあり,イン ターンはカナダの日本語教育現場に対する理解を深めることができたと思われる。受け入れ大 学にとってもインターンによる日本文化の紹介や,様々な連携を構築できたことが有益であっ た。今後の課題として,派遣側では事前指導の充実,受け入れ側ではインターンの自律的な問 題解決を促すような実習の計画が挙げられる。. 1 はじめに. ガリー大学に日本語教育インターン(以下,イン ターン)として派遣した際の実践を整理し,その. 本稿では,第一筆者の所属する北海道教育大学. 成果と課題を,インターン本人へのインタビュー. 函館校(以下,函館校)で日本語教育について学. 結果,および,派遣側指導教員と受け入れ側指導. んでいる学生を第二筆者の所属するカナダのカル. 教員の視点から考察する。本稿で扱うインターン. 213.
(3) 伊藤(横山)美紀・児玉 陽子. シップは海外協定を結んでいる大学間での実施で. 業を経験したことがない学生がほとんどであり,. あったが,同協定校へのインターンとしての学生. 学生にとってこの模擬授業は非常に新鮮であるの. 派遣は初めての試みであり,派遣前の手続きから. と同時に,技術的かつ心理的にハードルが高いも. 現地での受け入れまで,試行錯誤が多い派遣で. のとなっている。. あった。本稿で扱うインターンシップは2015年の. 学生は初級の日本語授業の現場で使われている. 9月2日から同年12月14日の約3か月半に渡り実. 日本語や,初級の日本語学習者が理解する日本語. 施した。同年度に派遣したインターンは1名であ. をイメージすることが難しいため,教師の発話や. る。. 作成するワークシートや板書等に,未習の日本語. 本稿で扱うデータには,インターンと受け入れ. 表現を用いることが多い。本授業では,学生に,. 側指導教員による実習記録,インターンによる帰. すべての未習語彙や文法を排除することは求めて. 国後の報告書, 受け入れ側指導教員による報告書,. いないが,日本語学習者が日本語教師の使う日本. および派遣側指導教員がインターンの帰国後にイ. 語をどのくらい理解するかを丁寧に確認すること. ンターンに対して行ったインタビュー結果を含む。. を大切にさせている。その方法の一つとして,学 生が模擬授業で用いる日本語の難易度を事前に検. 2 日本語教育インターンシップ実施に向け ての準備. 1. 討する演習も行っている 。 これらの模擬授業の体験と同時期に,学生は「日 本語教育支援実習」を履修する。この授業では,. 函館校では,2006年度から日本語教員養成プロ. 学内外の日本語教育現場の見学やアシスタント活. グラムが開講されている。図1は,本稿で取り上. 動を通して,これまでの授業で学んだことと現場. げているインターンが入学した年度の日本語教員. との関連について学ぶ。. 養成プログラムの授業科目の一覧である。図1で. 上記のすべての科目を履修し,その他の履修条. 示された必要単位を取得し,申請した者には, 「日. 件を満たした学生が本プログラムの最終履修科目. 本語教員養成プログラム修了証明書」が発行され. となる「日本語教育実習I」または「日本語教育. る。. 実習II」の実習活動として本インターンシップに. 本プログラムでは,現場性を重視している。本. エントリーすることができる2。. プログラムの必修科目である「日本語教育概論」. インターンの選考にあたっては,2015年5月に. 「日本語教育法I」および「日本語教育法II」で. 函館校において派遣説明会を行い,同年6月にイ. 学生は国内外の日本語教育の現状に対する理解を. ンターン候補の選考を行った。候補となったイン. 深め,多様な日本語教授法について学ぶ。これら. ターンは,クレジットカードの取得の他,カナダ. の科目を履修した後,学生は必修科目である「日. への入国手続きのために,日本語と英語のバイリ. 本語教育演習I」および「日本語教育演習II」で,. ンガルによる履歴書を作成した。派遣側指導教員. 全員が一人ずつ模擬授業を行う。学生は模擬授業. はその履歴書の作成指導を行った。インターンは,. 後の振り返り活動によってさらに実践力を身につ. カナダへの入国準備と同時期に大学寮の申請も. けることができる。 「日本語教育演習I」では主. 行った。その後インターンは,カナダに渡航する. に初級の指導を,「日本語教育演習II」では主に. までの3か月間にわたり,現地で使用されている. 中上級の指導を扱っている。. 教科書の範囲の予習を行った。特に,英語で書か. とりわけ初級を扱う模擬授業には,学生が日本. れている部分の内容理解を重点的に行った。. 語教育の現場を理解するために必要な要素が非常. なお,当該年度の本インターンシップは,国際. に多く取り込まれている。この時期の学生(主に. 交流基金の「国内連携による日本語普及支援:海. 2年次)は,本プログラム以外の科目でも模擬授. 外日本語教育実習生(インターン)派遣」の助成. 214.
(4) 海外協定校と連携した日本語教育インターンシップ. 図1 日本語教員養成プログラム(平成25年度入学生用). 215.
(5) 伊藤(横山)美紀・児玉 陽子. を受けて実施した。これにより,往復航空賃,住. Japanese 301: Continuing Japanese I は,初級. 居費,海外旅行損害保険料の一部が支援された。. 後半のコースである。授業は週1回のラボを含め 週4回行われる。Japanese 301で使用している教. 3 日本語教育インターンシップの実施内容. 科書は,『初級日本語げんきII[第2版]』(ジャ パンタイムズ,2011)で,13課から17課までを扱. インターンは2015年9月から同年12月までの秋. う。本コースでは同教科書対応のワークブックも. 学期の間,週に3回,多様なレベルの日本語の授. 使 用 し て い る。Japanese 301は,2015年 に は 3. 業に参加した。表1は,インターンが参加した日. コース開講されたが,インターンはこのうちの1. 本語コースとその開講時間帯,およびその他のイ. つのコースで活動した。. ンターンの活動についての平均的な週間スケ. Japanese 331: Intermediate Japanese I は,中. ジュールを示している。. 級 学 習 者 が 対 象 で, 週 3 回 授 業 が 行 わ れ る。. Japanese 205: Beginners’ Japanese I は初めて. Japanese 331で使用している教科書は,『中級の. 日本語を学習する学生を対象としたコースで,週. 日本語[改訂版]』 (ジャパンタイムズ,2009)で,. 1 回 の ラ ボ を 含 め 週 5 回 授 業 が 行 わ れ る3。. 1課から6課までを扱う。Japanese 331では同教. Japanese 205で使用している教科書は, 『初級日. 科 書 対 応 の ワ ー ク ブ ッ ク も 使 用 し て い る。. 本語げんき I[第2版]』(ジャパンタイムズ,. Japanese 331は,2015年には2コース開講され,. 2011)で,1課から6課までを扱う。本コースで. インターンは両方のコースで活動した。これらの. は同教科書対応のワークブックも使用している。. コースは全て1コース当たりの受講可能人数が32. Japanese 205は,2015年には4コース開講されて. 名で,1コマあたり50分の授業である。. いる。. インターンは,はじめはこれらの日本語の授業 表1 現地週間スケジュール 月曜日. 水曜日. 木曜日. 金曜日. J205-02: Beginners’ Japanese I. J205-02: Beginners’ Japanese I. J205-02: Beginners’ Japanese I. J205-02: Beginners’ Japanese I. 11:00. J331-01: Intermediate Japanese I. J331-01: Intermediate Japanese I. J331-01: Intermediate Japanese I. 12:00. J331-02: Intermediate Japanese I. J331-02: Intermediate Japanese I. J331-02: Intermediate Japanese I. 13:00. J301-01: Continuing Japanese I. J301-01: Continuing Japanese I. J301-01: Continuing Japanese I. 14:00. 現地の指導教員と のミーティング. 現地の指導教員と のミーティング. 9:00. 火曜日. 10:00. 15時以降. 216. チュートリアル. クラブ活動・ チュートリアル. 現地の指導教員と のミーティング. 現地の指導教員と のミーティング カルガリー日本語 学校の授業見学 (19時から).
(6) 海外協定校と連携した日本語教育インターンシップ. の見学を行った。その後,授業のアシスタントを. 4−1 成 果. 行いながら,授業のための教材作りや授業の一部. 本節では,派遣側としての成果を,日本語の授. の担当時間を徐々に増やしていった。インターン. 業内,日本語の授業時間外,および学外の3つの. は,授業内では,出欠確認や配布物・回収物の確. 場から述べる。. 認や机間巡視をした。また,必要に応じて学生に. まず,インターンは日本語の授業内で様々なこ. 援助や励ましを与えた。授業時間外には,作文の. とを学んだ。インターンは,日本の大学とカナダ. 添削,漢字・語彙学習のサポート,漢字の小テス. の大学の違いを肌で感じることができたことが非. トや教材の作成,同小テストの採点・入力,宿題. 常に有益であり,本インターンシップの最大の魅. の確認等を行った。インターン期間の終盤では,. 力であると帰国後のインタビューで話している。. 仕上げとして実習授業を行った。実習授業では,. 「学生が楽しめる授業」を考え,実践する重要性. 現地指導教員の指導のもと,インターンが授業1. は,渡航前の函館校の日本語教員養成プログラム. 回分のすべてを行った。また,実際に成績の評価. 内の授業で指導してはいたものの,学生自身がこ. 対象としては使われなかったが,テストを作成す. の点について実感し,行動に移すためは,現場の. る練習として実習で取り上げた内容を含んだ単元. 力が大きかった。. テストを作り,テストのための練習問題として学. また,インターンは,日本文化紹介では自身が. 生に与えた。. 日本文化を発信する立場になり,日本の文化に対. インターンは,日本語の授業以外の活動にも積. する現地の学生の反応を体験することができた。. 極的に参加した。表1にある通り,インターンは. 受け入れ側指導教員の指導により,文化紹介に関. 週に3回, チュートリアルを行った。これは,コー. わる活動を通して企画力も向上したことが,イン. スの単位認定のための必要な時間には数えられな. ターンへのインタビュー結果,および実習記録か. いが,コースの担当教員によって日本語学習支援. らわかる。. が必要であると判断された学生やさらなる日本語. さらに,函館校から派遣されたインターンが1. 学習を希望する学生など,少人数の学生を対象に,. 名であったこともあり,インターンは様々な経験. 日本語学習のサポートを行うものである。. を複数回に渡って積むことができる環境に恵まれ. 学外の活動としては,インターンは毎週金曜の. た。実習授業も文化紹介も共に二度行うことがで. 19時から,地域の日本語学校の授業を見学した。. きた。インターンが複数回の経験を積むことで成. また,インターンは,インターン期間中にカル. 長したとみられる事例を表2および表3に示す。. ガリー大学の学生を対象とした日本文化紹介を企. 表2はインターンの二度の実習授業による教え方. 画し,二度実施した。市内のチャーター・スクー. の変化,表3は二度の文化紹介による文化紹介方. ルの中学部での授業を見学し,同スクールでも日. 法の変化を,インターンへのインタビュー結果か. 本文化紹介を行った。アルバータ州の日本語教師. らまとめたものである。インターンは,表2の日. 会への参加や,日本領事館主催のイベントボラン. 本語の授業および表3の日本文化紹介のいずれに. 4. ティアとしての活動も行った 。. おいても,一度目はインターンによる説明が多く, 現地の学生とのインタラクションが不足していた. 4 成果と課題. が,二度目は,学生とのインタラクションを増や していることがわかる。. 本章では,本インターンシップの成果と課題に. 表2の実習授業でインターンは,10分間の休憩. ついて考察する。成果と課題のそれぞれについて,. を挟んで同じレベルのJ331-01を教えている。10. 派遣側指導教員と,受け入れ側指導教員の双方の. 分の休憩時間は,インターンが自身の実習授業を. 観点から述べる。. 振り返るには十分な時間とは言えないが,それに. 217.
(7) 伊藤(横山)美紀・児玉 陽子. も関わらずインターンは10分休憩後のJ331-02で. うとしている。. は, 「声のトーンをあげた」 「自分からウォームアッ. これらのインターンの学びは,受け入れ側指導. プで積極的に笑った。話しかけた。」と述べており,. 教員による報告書でも指摘されている。以下にそ. 一度目とは異なる方法を試みている。. の記述の一例をあげる。. 表3の日本文化紹介では,一度目と二度目の間. 「(前略)はじめは,教師から学生への一方. が16日間ある。この期間にインターンは一度目の. 的な活動や見方が多く,実際に授業を受けてい. 振り返りを反映させながら新たな内容の日本文化. る学生たちの姿や反応があまり頭に浮かんでこ. 紹介を計画した。インタビューでインターンは一. ない教案であったが,話し合いを重ねていく中. 度目の文化紹介について「うまく話せなかった。. で,インターンもそれに気づいたようで,常に. 使う英語を間違えた」と,失敗した点を主にあげ. 自分が教えるクラスの学生を念頭におくという. たが,二度目の文化紹介ではこの点は改善された. 点に焦点をおいて教案を作り直した。」. ことに触れ,さらに,「テンポよくできた」「学生. ここで指摘したいのは,現地の指導教員との「話. の反応をみた」 「学生に質問を投げかけた」と,. し合い」を通してインターンが学んでいることと,. 学生を意識して実践したことを述べ,それを成功. 現地の指導教員は,インターンに指摘をするとい. 体験として肯定的に捉えている。また,文化紹介. うよりはむしろ「気づかせる」ことを重視した話. の流れについても二度目には考え直し,学生を飽. し合いを行っているということである。このよう. きさせないような工夫を試みている。表2と表3. な気づきを重視した話し合いを経て,インターン. のいずれにおいてもインターンは,一度目は,聞. はより具体的に次回の授業に向けて,自身の授業. き手が理解したかどうかの確認が不足していた. 方法についての改善点などを整理することができ. が,二度目は学生に質問や確認をしたり,長い口. たと考える。. 頭説明を避けジェスチャーを使って簡潔に説明し. そして,インターンは,日本語の授業時間外で. たりすることで,学生の活動を早めに取り入れよ. も 貴 重 な 経 験 を し た。 そ の 例 と し て,TA. 表2 インターンによる二度の実習授業の振り返り 一度目の実習授業 (J331-01) ・テンポが悪かった。 (反応を気にしすぎた。 次にどうしようかと考えていた) 。. ⇒ 10分 休憩後. 同レベルの別クラスでの二度目の 実習授業(J331-02) ・声のトーンをあげた ・自分からウォームアップで積極的に笑った。 ・自分から話しかけた。. 表3 インターンによる二度の日本文化紹介の振り返り 一度目の文化紹介 「伝統芸能」. 二度目の文化紹介 「書道」. ・うまく話せなかった。使う英語を間違えた。 ・こ ち ら か ら の 情 報 量 が 多 く て 一 方 通 行 に なった。 ・全部きかせてから工作をした。 ・テンポが遅かった。 (わかったかどうかが不 安で遅くなった。 ) ・紹介映像が長すぎた(2~3分) 。. ・テンポよくできた。学生の反応をみた。 ・ 「ただ話すだけじゃだめ」と考えた。 「やっ たことありますか」というような質問をな げかけた。 ・活動にメリハリをつけるようにした。 ・前 回いろいろできなかったので,とにかく 「できる」を目指した。 ・楽しみながら準備して作れた。 (2回やって よかった!). 218. ⇒ 16日後.
(8) 海外協定校と連携した日本語教育インターンシップ. workshop(ティーエー・ワークショップ)への. より,より深いつながりを構築することができた。. 参加を挙げる。このワークショップでは,学期の. 2つ目は,「受け入れ大学とインターンのつな. はじめに日本語コースだけでなく,カルガリー大. がり」である。幸いなことに,今回は,受け入れ. 学内の多様なコースのティーチングアシスタント. 側の大学が学科全体でインターンを好意的に受け. (以下,TA)が集まり,TAを行うにあたって. 入れた。これにより,充実したインターンシップ. の心構えや技術を修得する。インターンを始める. を実施することができたといえる。. 前にこのワークショップに参加し,カナダの大学. 3つ目に「受け入れ側の大学の学生と日本のつ. における教育の制度や現状について学べたことは. ながり」を挙げる。インターンとの交流により現. 貴重であったと考える。. 地の学生の日本に対する興味と関心が高まったの. 加えて,インターンは,大学の外でも学んだ。. は言うまでもないが,今回,国際交流基金と連携. インターンは,地域の日本語教師会に参加し,そ. した日本語教育インターンを受け入れたことによ. こで日本語教育に関わる多様な人々と交流した。. り,カルガリー大学の学生1名が翌年,国際交流. また,市内の日本語学校に継続的に観察に行き,. 基金関西国際センターでの6週間の訪日研修に招. そこで幼児から成人までの幅広い年齢層に応える. 待され,参加することができた。これは毎年確約. 地域の日本語教育現場を見学した。同日本語学校. されているものではないが,年によっては,受け. への訪問は,外国語としての日本語教育だけでは. 入れ大学の日本語の学生が翌年,国際交流基金に. なく,継承語としての日本語の教育現場を観察す. よる日本での日本語学習者訪日研修に参加できる. 5. る貴重な機会にもなった 。同日本語学校への訪. というものである。このような機会は受け入れ大. 問の他にも,カルガリー市内の公立チャーター・. 学にとって非常に有益である。. スクールの中学部の日本語授業を観察し,大学以. 4つ目に「自己とのつながり」を挙げる。まず,. 外の公立教育機関における日本語教育の現状を垣. インターンの受け入れにより,現地指導教員は日. 間見ることもできた。. 頃の教育活動や自己の教育信念を知り,それを振. 次に,受け入れ側指導教員の視点から成果を考. り返る機会,すなわち自己を見つめる機会を与え. 察する。受け入れ大学にとっても,インターンの. られた。そして,この受け入れは,現地の学生お. 出身地の伝統芸能についてのユニークな日本文化. よびインターン自身にとっても,このインターン. 紹介や,日本の最新情報や若者ならではの斬新な. シップを通して多様な文化に遭遇することによ. アイディアなどの共有が,現地学生の日本語学習. り,自己を見つめる機会になったと思われる。. におけるモチベーションの向上につながったこと. 4−2 課 題. が有益であった。受け入れ側では,本連携を通し. 次に,本インターンシップを実施することに. て以下の4つの「つながり」を作れたことが大き. よって明らかになった課題を述べる。まず,イン. な成果であった。. ターンの帰国後,派遣側指導教員からインターン. 1つ目は, 「現地学生とインターンのつながり」. に対し「カナダに行く前にもっとやっておけばよ. である。インターンは,このインターンシップを. かったと思うこと」を尋ねたところ,2点の回答. 通して現地の学生と互いの言語,文化,生活につ. があった。1点目は,英語の勉強である。特に日. いて学び合うことができた。特に現地の学生は,. 本語教育現場でよく使う語彙と文法用語を予習し. 同世代の日本語母語話者との対話を通し,日本語. ておくべきだったと回答している。インターンは,. だけでなく,日本文化や日本の生活様式や日本人. 派遣先の主要言語である英語を学ぶ重要性を渡航. の考え方を知り,体験することができた。また,. 前に十分に認識できていなかった可能性がある。. 現地の学生がインターンの世話役を務めたり,学. 今後の事前指導では,より現地の日本語教育現場. 外での文化研修の際にガイドをしたりすることに. をイメージさせながら現地で使用されている言語. 219.
(9) 伊藤(横山)美紀・児玉 陽子. の指導を行う必要がある。2点目は,自分ができ. 方が見通しをもつことで,より自律的なインター. そうな日本文化紹介の準備をもっとしておくべき. ン活動が期待できると考える。. だったという回答である。具体的には,日本文化 の紹介で使えそうな道具や写真を持参すること と,英語での説明を準備しておくことである。こ. 5 まとめ. れも今後の事前指導項目に取り入れる必要がある。. 本稿では日本語教育インターンシップの成果と. また,本インターンシップでは,現地の指導教. 課題を派遣側指導教員と受け入れ側指導教員の視. 員による指導負担が大きかった。今後は,渡航前. 点から考察した。. の教案指導および模擬授業に関わる指導をさらに. 派遣側にとっては,インターンが海外の日本語. 充実させる必要がある。さらに,現地の指導教員. 教育現場での様々な取り組みを目の当たりにでき. による報告書では「プレゼンテーションスキルの. たことと,学習者とのインタラクションを適切に. 向上」 と 「学生の反応を活かしたフィードバック」. 行いながら授業を運営していく重要性を実感でき. も,今後必要なスキルとして挙げられた。今後,. たことが大変有益であった。また,日本語の授業. 短いインターン期間中に効率よくこれらのスキル. 時間外において現地の学生や地域の日本語教育関. を向上させるためには,インターン中だけに限ら. 係者と交流をする機会が豊富にあり,カナダの日. ず,渡航前の函館校の日本語教員養成プログラム. 本語教育現場に対する理解も深まったと思われる。. 内の授業を通して継続的に指導していく必要があ. 受け入れ大学にとってもインターンによる日本. ると考える。. 文化の紹介を実施できたことや,様々な連携が生. 最後に,インターン希望者を増やすことも今後. まれたことが有益であった。本稿で取り上げた「4. の課題である。渡航にかかる費用が多ければ多い. つのつながり」は,今後のインターンシップを向. ほど,学生が躊躇する可能性が高まる。現在,日. 上させる大切な基盤となると思われる。. 本語教員養成プログラム内の1年生向けの授業. 今後,派遣側指導教員は,渡航前に現地の日本. で,インターン経験がある3年生や4年生による. 語プログラムの内容をインターン候補により効果. 研修発表会の実施や,高校生向けのオープンキャ. 的に理解させ,より具体的な事前準備をさせるこ. ンパスでのポスター発表を通して,現地でのイン. とが課題である。受け入れ側指導教員は,今回の. ターン経験を後に続く学生に伝えているが,今後. 実施経験を基にインターンのタスク量を調節しな. さらにその効果的な方法を模索する必要があると. がら,インターンの自律的な問題解決活動を促す. 考えている。. ような実習指導を計画し,導入していくことが今. 受け入れ側においては,今回が初回であったた. 後の課題である。. め,現地でのタスク量の調整が不十分であり,現 地の指導教員だけでなく,インターンの負荷も大 きすぎた可能性がある。インターンにとって非常. 謝 辞. に勉強になったことは事実ではあるが,実習記録. 参考資料を提示しながらインタビューに答えて. や観察ノートにおいては,指導教員によるフィー. くださったインターンに感謝申し上げます。. ドバックの質の保証のためにも,インターンの記 入量を制限することも一つの方法である。また, インターンと現地の指導教員の間でお互いの見通. 付 記. しを立てるために,インターン期間全体のスケ. 本稿は2016年8月18日に2016 CAJLE(Canadian. ジュールを事前に共有することも今後取り組むべ. Association for Japanese Language Education). き課題である。インターンと現地の指導教員の双. Annual Conferenceで行ったポスター発表に基づ. 220.
(10) 海外協定校と連携した日本語教育インターンシップ. いており,大会予稿集に掲載された原稿に新たに. index.html(2017年9月12日最終閲覧). 加筆したものである。. 国際交流基金関西国際センター「国内連携による日本語. 本インターン派遣は,国際交流基金「国内連携. 中島和子(2011)「カミンズ教育理論と日本の年少者日本. により日本語普及支援:海外日本語教育実習生. 語教育」,ジムカミンズ著,中島和子訳著『言語マイノ. (インターン)派遣」から助成を受けた。. リティを支える教育』慶応義塾大学出版会.. 普及支援(大学生訪日研修) 」http://www.jfkc.jp/ja/ training/cooperation.html(2017年9月12日最終閲覧). 坂野永理, 池田庸子, 大野裕, 品川恭子, 渡嘉敷恭子(2011) 『初級日本語げんき I[第2版]/ Genki: An Integrated. 注 1 日本語の難易度を検討する演習については,伊藤他 (2015)を参照されたい。 2 函館校では,2014年4月に「国際地域学科」が新設 された。本学科の「日本語教員養成プログラム」では「海 外日本語教育インターンシップ」という選択必修科目 が新設され, 「日本語教育実習I」および「日本語教育 実習II」とは別に単位が認められるようになった。 3 カルガリー大学では,ラボのタスクとして,それぞ れの学生にオンライン上で課題を与え,それを提出さ せている。 4 チャーター・スクールとは,現地の教育局または文 部大臣に認可されたパフォーマンス・コントラクト(学 力向上契約)のもとで独立的に運営される公立校のこ とである。カナダのチャーター・スクールでは,州で 必須とされている指導要領をもとにカリキュラムを組 むが,特定の分野(理数系,文系,美術系など)に特 化された教育内容が魅力となっている。 5 「継承語」という言葉は,1988年に言語学者の中島和 子氏によって“Heritage Language”の日本語訳として 発表された用語である。継承語教育とは親が自分の母 語・母文化を子どもに伝えること,子どもにとっては. Course in Elementary Japanese I [Second Edition]』 ジャパンタイムズ. 坂野永理, 池田庸子, 大野裕, 品川恭子, 渡嘉敷恭子(2011) 『初級日本語げんきII[第2版]/ Genki: An Integrated Course in Elementary Japanese II [Second Edition]』 ジャパンタイムズ. 坂野永理, 池田庸子, 大野裕, 品川恭子, 渡嘉敷恭子(2011) 『 初 級 日 本 語 げ ん き I ワ ー ク ブ ッ ク[ 第 2 版 ]/ GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese Workbook I [Second Edition]』ジャパンタイ ムズ. 坂野永理, 池田庸子, 大野裕, 品川恭子, 渡嘉敷恭子(2011) 『 初 級 日 本 語 げ ん きII ワ ー ク ブ ッ ク[ 第 2 版 ]/ GENKI: An Integrated Course in Elementary Japanese Workbook II [Second Edition]』 ジ ャ パ ン タ イムズ. 三浦昭,マグロイン花岡直美(2008) 『中級の日本語[改 訂版]/An Integrated Approach to Intermediate Japanese [Revised Edition]』ジャパンタイムズ. 三浦昭,マグロイン花岡直美(2008) 『中級の日本語[改 訂 版 ] ワ ー ク ブ ッ ク / An Integrated Approach to Intermediate Japanese Workbook [Revised Edition]』 ジャパンタイムズ.. 親から継承する言語を学ぶことである(中島(2011) ) 。 一般的に,カナダでは,これに加えて公用語と異なる. (伊藤(横山)美紀 函館校准教授). 言語の場合に継承語と呼ばれている。. (児玉 陽子 カルガリー大学講師). 参考文献 伊藤(横山)美紀,木塚あゆみ,伊藤恵(2015)「多人数 の教授法授業に模擬授業を取り入れる効果と課題―教 案指導の際に支援システムを活用した実践例から―」 人文論究84,pp.1-9. 伊藤(横山)美紀,児玉陽子(2016) 「日本語教育インター ン シ ッ プ 派 遣 お よ び 受 け 入 れ の 成 果 と 課 題 」2016 CAJLE Annual Proceedings, pp.95-99. 国際交流基金「国内連携による日本語普及支援:海外日 本語教育実習生(インターン)派遣」http://www.jpf. go.jp/j/project/japanese/teach/dispatch/support/. 221.
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