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2040年を見据えて動く薬局業務 ─今、薬剤師が踏まえておくべきこと─

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6 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2018年12月号

■調剤報酬0.19%引き上げに至る議論の過程

 最近、保険薬局は逆風のただ中にあるように感じま す。2018年度診療報酬改定では、設備や人員体制な ど評価体系が全く異なる院内調剤の報酬と同じ土俵で 比較され、「薬局は高い(儲け過ぎ?)」とバッシングを 受け、現在もその流れは続いています。  2018年度改定の議論では、財務省から、調剤報酬 の技術料を国庫負担の金額ベース(国費ベース)で 400億円削減する、という案も出されました。これ は総医療費に換算すると1,600億円に相当します(医 療費ベース)。これがどれほど衝撃的な数字かは、現 在の調剤費と照らし合わせると分かります。2017年 度の医療費約42.2兆円中調剤費は約7.7兆円で、そ のうち薬剤師の技術料は約1.9兆円です。1,600億 円というと技術料の約8%に当たります。  1年間の処方箋枚数を8億枚とすると、処方箋1枚 当たり▲200円で、薬剤師1人当たり1日30枚の処方 箋を扱う場合、月22日勤務として1人当たり▲約13万 円 / 月の減収になる計算です。財務省案がそのまま通 っていたら、薬局は大きなダメージを受けたでしょう。  そうした意味では、最終的に調剤報酬の0.19%の 引き上げ、医療費ベースで約160億円の上乗せで決 着したことは、ある程度評価できると個人的には考え ます。ただし、前回に引き続き、外枠で224億円の 引き下げがあり、実質的には64億円のマイナスとな りました。  皆さんは、こうした診療報酬の配分がどこで審議さ れているかご存知でしょうか。多くの人は、中央社会 保険医療協議会(中医協)を思い浮かべたのではないか と思います。確かに、中医協では各項目の点数設定な どを行います。しかし、その元になる診療報酬の予算 配分を決定するのは内閣です。その結果は、点数を話 し合う前の前年12月に、診療報酬の改定率として示 されます。つまり、薬局・薬剤師の役割を説明し適正 な評価を得るためには、内閣に働きかけることのでき る薬剤師国会議員を送り出すことも大切なのです。政 治に関心がない方も多いと思いますが、そうした実情 もあります。

■影響大きかった調剤料の引き下げ

 ところで2018年度改定では、薬局に対する予算は どのように配分されたのでしょうか。続いて、お金の 動きを振り返ってみましょう。  今改定でマイナス評価となったのは、大型門前薬局 に関わる調剤基本料の特例の範囲拡大や在宅への訪問 薬剤管理指導の同一建物内居住者の新区分、後発医薬 品調剤体制加算の基準の厳格化、そして調剤料の引き 下げなどです。引き下げ額は総額で130億円ほどに なりますが、このうち最も削減額が大きかったのは調 剤料です。点数でみるとわずか2、3点なのですが、 総額約100億円の引き下げとなっています。  反対にプラス評価となったのは、後発医薬品調剤体 制加算3の新設、地域支援体制加算などです。中でも、 薬剤服用歴管理指導料、かかりつけ薬剤師指導料など の引き上げには予算がかなり割かれました。引き上げ 分の財源は、調剤料などでの削減分約130億円と、 改定率の引き上げ分約160億円を合わせた計約290 億円です。そのうち、薬歴管理指導料などの引き上げ に、実に約240億円が振り向けられました。「モノか らヒトへ」という役割のシフトが重視されていること は明白です。  そのほか外枠での224億円の減額が、これらの予 算とは別に、調剤基本料3、特別調剤基本料の引き下 げなどに反映されました。大手薬局にとっては厳しい 改定になったと思われます。  今改定の議論から、次回以降の改定では次のような ことが予想されます。今回約100億円の削減となっ た調剤料は、さらに引き下げられる可能性があるでし ょう。後発医薬品に関わる加算も、仮に残っても次の 改定までである可能性が高いと考えます。

2018年度改定から読み解く

薬局のこれから

株式会社メディカルグリーン 代表取締役社長

大澤光司

2040年を見据えて動く薬局業務

─今、薬剤師が踏まえておくべきこと─

第1回

(全3回) 2018_12_06-07 新連載(責).indd 6 2018/11/14 18:53:24

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7 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2018年12月号  後発医薬品に関しては、国は骨太方針2017で 「2020年9月までに使用割合を80%とし、で きる限り早い時期に達成する」ことを定めていま す。一方、調剤レセプト平均では、後発医薬品の 数量シェアは70%を超え、そのために今改定で 調剤報酬での加算の最低区分が75%以上とされ たという経緯があります。80%を超えるのは時 間の問題でしょう。そうなると、加算で誘導する 必要もなくなるわけです。ただ、加算が削減され ても、その予算は必ず他の項目に回されます。そ れがどこなのかを、私たちは考えておかなければ いけないと思います。後発医薬品調剤体制加算は 約1,000億円程度ですが、主に振り向けられる のは在宅業務ではないかと考えます。

■医薬分業の次のトレンドを考える

 表は、改定で新設された地域支援体制加算の算 定要件です。ここには、薬局に対するさまざまな メッセージが盛り込まれています。調剤基本料1 を算定する薬局以外で、地域支援体制加算を算定する のはほぼ不可能だと思いますが、その施設基準にはこ れからの薬局に必要とされる役割が挙げられています。  そのほか、在宅療養支援に関わる医療機関や訪問看 護ステーション、また地域包括支援センターやケアマ ネジャーなどとの連携体制の整備、医薬品に関する安 全情報の共有などについても改めて記載されています。 さて、皆さんの薬局では今、何人くらいの多職種と連 携していますか。  連携先の数や連携回数は、診療報酬の入退院支援加 算や、ケアマネジャーに関する介護報酬でも一部算定 要件に加えられています。薬局に対しても、次回改定 で連携実績について、踏み込んだ要件が設定される可 能性もあります。皆さんの薬局でも、連携先を増やし ていってほしいと思います。  マーケティング用語に、製品やサービスが市場に登 場してから衰退するまでの動向を意味する、「ライフ サイクル」という言葉があります。ライフサイクルは、 サービスを導入していく「導入期」から始まり、市場に 受け入れられ右肩上がりに伸びる「成長期」、やがて市 場が飽和状態になり、売り上げが天井を打つ「成熟期」 に達し、そのままだと売り上げは次第に低下していき 「衰退期」を迎えます。そのため、成長期の段階で次の トレンドを考え、手を打つことが必要であるというの がライフサイクルマネジメントの考え方です。  先日、日本薬剤師会が発表した2017年度保険調剤 の動向では、医薬分業率は全国平均で72.8%と上昇 し、調剤件数、処方箋枚数ともに増加していました。 しかし、それらの伸びは昨年度よりも鈍化し、処方箋 枚数が17県で前年度より減少するなど、これまでに ない変化の兆しが見られています。医薬分業率はそろ そろ頭打ちになるかもしれません。  ライフサイクルでいうと、成熟期から衰退期に向か う段階です。調剤だけでは成長が見込めない段階に入 るということです。しかし、まだ発展途上の分野もあ ります。私はそれが在宅医療だと考えています。処方 箋枚数は急速に伸びており、今後もさらなる増加が見 込まれます。  高齢者数がピークを迎える2040年に向け、薬局・ 薬剤師がどのような役割を担うべきなのか、次の流れ を考える時期に来ています。この連載ではその役割を 考えていきたいと思います。 ◆地域支援体制加算:35点(新設) 【施設基準】 (1) 地域医療に貢献する体制を有することを示す相当の実績があること(調剤基本料1算定の場 合は、(12)を参照。1年に常勤薬剤師1人当たり、以下の全ての実績を有すること。 ①夜間・休日等の対応実績400回 ②重複投薬・相互作用等防止加算等の実績40回 ③服用薬剤調整支援料の実績1回 ④単一建物診療患者が1人の場合の在宅薬剤管理の実績12回 ⑤服薬情報等提供料の実績60回 ⑥麻薬指導管理加算の実績10回 ⑦かかりつけ薬剤師指導料等の実績40回 ⑧外来服薬支援料の実績12回 (2) 患者ごとに、適切な薬学的管理を行い、かつ、服薬指導を行っていること。 (3) 患者の求めに応じて、投薬に係る薬剤に関する情報を提供していること。 (4) 一定時間以上開局していること。 (5) 十分な数の医薬品を備蓄していること。 (6) 適切な薬学的管理および服薬指導を行うにつき必要な体制及び機能が整備されており、患者 に対し在宅に係る当該薬局の体制の情報を提供していること。 (7) 当該保険薬局のみ、または当該保険薬局を含む連携する近隣の保険薬局において、24時間 調剤並びに在宅患者に対する薬学的管理および服薬指導を行うにつき必要な体制が整備され ていること。 (8) 当該地域において、在宅療養の支援に係る診療所または病院および訪問看護ステーションと の連携体制が整備されていること。 (9) 当該地域において、他の保健医療サービス及び福祉サービスとの連携調整を担当する者との 連携体制が整備されていること。 (10) 当該保険薬局以外の医療従事者等に対し、医薬品に係る医療安全に資する情報の共有を行う につき必要な体制が整備され、一定の実績を有していること。 (11) 特定の保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が8割5分を超える場合にあっては、当 該保険薬局において調剤した後発医薬品のある先発医薬品及び後発医薬品を合算した規格単 位数量に占める後発医薬品の規格単位数量の割合が5割以上であること。 (12) 調剤基本料1を算定している保険薬局については、下記の基準を全て満たすこととし、(1) を適用しない。 ① 麻薬及び向精神薬取締法(昭和二十八年法律第十四号)第三条の規定による麻薬小売業者の 免許を受けていること。 ②在宅患者に対する薬学的管理および指導について、実績を有していること。 ③ かかりつけ薬剤師指導料またはかかりつけ薬剤師包括管理料に係る届出を行っていること。 表 「地域支援体制加算」の算定要件 2018_12_06-07 新連載(責).indd 7 2018/11/14 18:53:24

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6 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2019年1月号

■「ツアーコンダクター」と「PTA 会長」

 地域包括ケアシステムでは、多職種の連携が欠かせ ません。多職種には、ケアマネジャーや介護職など医 療職以外の人も含まれます。そうしたチームにおいて、 薬局・薬剤師が担う役割は2つあると、私は考えます。 例えるならば、「優しいツアーコンダクター」と「頼れ る PTA 会長」の役割です。  ツアーコンダクターは、個人の経験則や解釈に基づ く口コミ情報とは違い、プロとして旅先の状況を踏ま えて確実な情報を提供します。薬剤師も、薬のプロと してセルフメディケーションを含む薬物療法を、安全 かつ効果的に行うための正しいアドバイスを行います。 新潟県薬剤師会の在宅医療委員会の調査によると、居 宅の介護職が行っている服薬準備や飲み易くする工夫 として、「ご飯やおかず、ゼリーに(薬を)混ぜる」「粉 砕・カプセルをはずす」などが多く挙がっていました。 こうした場面で、“ツアーコンダクター”である薬剤師 が適切なアドバイスをすることが、不適切な支援の是 正につながるのです。  もう1つの“PTA 会長”とは、生徒の父母と学校側 の間に立ち、調整をする存在です。それと同様に、薬 剤師はチームの中で、介護職など他職種と、医師との 情報交換を橋渡しすることができる存在なのです。  頻繁に訪問し患者さんの生活を間近で見ている介護 職は、医師や薬剤師が知らない情報を持っています。 しかし、敷居の高さもあり、医師にはそうした情報を 伝えにくいものです。その情報を治療に役立てるため、 薬剤師が代弁者となって医師に伝えることが大切です。

■初回在宅訪問では 服薬状況と症状を確認

 薬物療法の目的は、きちんと薬を服用してもらうこ とで、患者さんの病状、ADL(日常生活動作)、そし て QOL を改善・維持することです。そのため薬剤師 には、①服用状況が悪い場合、その理由を探り改善対 策を取る(服薬支援)、②患者さんの病状、ADL、 QOL に薬が与える影響をアセスメントする――とい う2つの機能が求められます。それが、ポリファーマ シーや残薬への対策にもなります。  初回の在宅訪問では、薬の服用状況とともに、必ず 症状も確認します。残薬があっても、服用させること が何より優先されるわけではありません。薬なしでも、 症状が安定していることもあるためです。  例えば、血糖降下薬を服用していない状況でも、血 糖値が正常範囲ならば、薬は不要かもしれません。む しろ服薬により、低血糖を引き起こすリスクがありま す。医師に、服薬状況と一緒にそうした症状の情報を 伝えることで、治療方針は変わります。  ADL や QOL の評価も大切です。薬の副作用によ って、ADL や QOL が低下している場合は、薬剤や 用量の変更などの提案が必要になります。  2017年に発表された厚生労働科学研究班の調査 結果では、在宅訪問業務において薬局薬剤師が対応す ることで、薬の副作用が軽減した患者が8割以上に上 ったと報告されています。副作用が出ると、それを疾 患による症状ととらえてさらに薬が追加される――い わゆる処方カスケードに陥るのを防ぐためには、薬剤 師の役割がポイントになるのです。

■服用しない理由に応じた対策を取る

 一方、新たな残薬を生み出さないためには、服用で きない理由をしっかりと考えて対処することも求めら れます。服用しない理由はさまざまです(表)。  最も多い理由は、「残薬や併用薬が多くなりすぎ整 理がつかなくなったため、飲めない」です。取るべき 対応策は、まず残薬の整理ですが、その際には重複や 相互作用、併用禁忌などに該当する薬がないかにも留 意し、問題があれば処方の見直しを提案します。併せ て、一包化することを想定して、吸湿性もチェックし ておくといいでしょう。  また、保管場所や保管方法が適切かを確認すること

ポリファーマシーと残薬をめぐる問題

株式会社メディカルグリーン代表取締役社長

大澤光司

2040年を見据えて動く薬局業務

─今、薬剤師が踏まえておくべきこと─

第2回

(全3回) 2019_1_06-07 2040年を見据え(責).indd 6 2018/12/12 19:03:50

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7 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2019年1月号 も案外重要です。訪問業務を手がける薬剤師ならば、 家に上がって初めて冷蔵保存の薬が室内に無造作に置 かれているのを見つけ、ショックを受けたことが一度 はあるのではないでしょうか。保管場所を一緒に決め、 お薬カレンダーの利用など、患者さんの状態と能力に 応じた管理方法を考えることも必要です。  「何の薬か理解していないため、飲まない」という患 者さんも少なくありません。その場合は、患者さんが 薬の作用を理解できるように説明したり、理解を助け るための服薬支援を行います。最近は、テレビ番組や 週刊誌などの影響で、「薬の副作用が怖いため、飲ま ない」という人もときどき見られます。恐怖心を取り 除くためには、副作用について説明して対応策を話し 合い、納得してもらうことが大切です。  2005年の全国老人クラブ連合会の調査によれば、 入院外の高齢者では、処方されている薬の種類が多い ほど、薬の飲み残しのケースが増える傾向にあること が示されています。特に6種類以上になると、65% の人が「飲み残しがある」と回答しています。ポリファ ーマシーが、残薬の要因の1つになっているのです。 ただし、そうした情報は医師にはなかなか伝えられず、 薬剤師も知らないことはよくあり、問題が連綿と続い ている状況です。  だからこそ高齢者の薬剤管理は、訪問看護師やケア マネジャー、介護職など多職種が連携して見守ること が必要です。その際に、薬剤師もツアーコンダクター として、また PTA 会長として、多職種に貢献する意 識を持ちましょう。  徳永薬局株式会社では、保険調剤薬局を主軸として、 介護事業(居宅支援事業所・デイサービス・サービス 付き高齢者住宅)、エンバーミング事業、医療機器卸 業などを行っています。  主軸である保険調剤薬局では、「地域社会への貢献 と患者さまのニーズに合わせた薬局作り」を基本に、 「地域でまた行きたい薬局の一番になる」を会社理念と して活動しています。  同社の特徴の一つである在宅医療部では、小児在宅 医療から終末期・末期 がん患者まで幅広く対 応。在宅医療部6店舗 のうち、4店舗に無菌 調剤室を構え、うち1 店舗では陰圧ケモシー ルドによる抗がん剤調整なども行っています。  東京都市部では超高齢化に向かい在宅療養患者が急 増。それに伴い、看取り件数も増加し、現在では年間 約500人の看取りの手伝いをしています。この数は 今後さらに増加するでしょう。地域住民が住み慣れた 地で最期まで安心して生活ができるよう、また、地域 のかかりつけとして薬剤師のみならず、他職種との連 携を図りながら今後も取り組んで行きます。

在宅医療では年間500人の看取りに関わる

他職種連携を図りながら地域のかかりつけを目指す

在宅医療部統括部長 小林輝信氏 地域の元気を応援中!

薬局 File



- File.6-

徳永薬局(徳永薬局株式会社)

(東京都稲城市) ▲無菌調剤室での調剤の様子 ●本社所在地:東京都稲城市矢野口305-1 ●設立:1982年(徳永薬局開局:1984年) ●店舗数:53店舗(ほかに連携子会社、 介護事業、エンバーミング事業など あり) ●従業員数:354名(内、薬剤師200名) ●URL:http://www.tokunaga-p.jp/ 徳永薬局株式会社 プロフィール 表 服薬状況が悪いケースとその対応策 飲まない(飲めない)理由 対応策 ①残薬や併用薬が多くなりすぎ整理が つかなくなったため、飲めない。 残薬を重複や相互作用、併用禁忌などに留意しながら整理する。 ②何の薬か理解していないため、飲ま ない。 薬効を理解できるまで説明。またその理解を助けるための服薬支援をする。 ③薬の副作用が怖いため、飲まない。 副作用について、恐怖心をとりつつ対 応策を話し合い、納得して服薬できる ようにする。 ④特に体調が悪くないため、飲まない。 (自己調整) 基本的な病識や薬識を再度説明し、服用意義を理解していただく。 ⑤錠剤、カプセル、または粉薬が飲め ない。(剤形上の理由) 患者ごとの適切な服用形態の選択と医師への提案。嚥下ゼリー、オブラート、 簡易懸濁法などの導入提案。 (日本薬剤師会「在宅服薬支援マニュアル」より) 2019_1_06-07 2040年を見据え(責).indd 7 2018/12/12 19:03:51

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8 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2019年2・3月号

■在宅機能が“選ばれる薬局”のポイントに

 地域包括ケアシステムの構築が推進される中で、保 険薬局に求められる役割は変わりつつあります。厚生 労働省が2015年にまとめた「患者のための薬局ビジ ョン」では、2025年までにすべての薬局がかかりつ け機能を持つ、という目標が掲げられました。次期国 会に提出予定の改正医薬品医療機器等法案にも、全薬 局へのかかりつけ機能の義務化を明記する方針が示さ れています。  そうした時代になれば、患者さんからかかりつけと して選ばれるのはどのような薬局なのかが、薬局にと って大きなテーマになります。私は、差別化を図る重 要なポイントの1つになるのが、在宅医療機能だと考 えています。  長年薬局に訪れていた患者さんが1人で来局するこ とが困難になり、「薬を自宅まで届けてほしい」と依頼 してきたときに、「うちでは在宅はやっていない」と断 るようでは、かかりつけ薬局として選ばれるとはとて も思えません。実際、当薬局には「近隣に在宅医療を やっている薬局がない」と、ときどき遠方から訪問薬 剤管理指導の依頼が舞い込みます。当然、当薬局から は距離的に対応できませんから、依頼者の近所にある、 在宅医療を手がけている薬局をご紹介しています。こ れは、機能による薬局の選別を意味しています。  このように、在宅は薬局選びの上で大きなポイント になります。反対にいえば、今後は高齢者が増加し、 地域包括ケアが進むことが明らかですから、在宅をや らない薬局は淘汰されるリスクが高くなると思います。

■“自分の患者さん”意識で芽生える責任感

 なぜ在宅を敬遠する薬局が多いのか、理由はさまざ まだと思いますが、少なくとも薬剤師であれば特別な スキルは必要ではないと考えています。訪問する場合 には、医師から事前に、疾患名や注意すべき点、時に は検査値なども記載された診療情報提供書がもらえま す。薬局の窓口業務では、医師がそこまでの情報を提 供してくれることはまずないのではないでしょうか。 つまり、ある意味在宅業務のほうが多くの情報を得ら れるということです。  また、患者さんが来て、薬局を出ていくまでの比較 的短い時間に、処方箋監査や薬歴のチェック、調剤な どをやらなければいけない窓口業務とは違い、在宅は 時間的にも余裕があるため、診療情報をもとに十分な 準備もできます。さらに、患者さんとのコミュニケー ションも取れ、感謝の言葉をいただくことも少なくあ りません。薬剤師にとって、在宅は窓口業務ではなか なか味わえない、やりがいを感じられる現場だと考え ます。  その醍醐味は、やってみないと分かりにくいものか もしれませんが、一度やり始めると、理解できる方も 多いと思います(参考:表)。  当薬局では、薬剤師ほぼ全員が在宅医療を担当して います。面白いことに在宅医療を始めると、薬剤師に 今まで以上のやる気や責任感が芽生え、変化していく 姿を見ることができるのです。やはり、「自分の患者 さん」という意識を持つようになるのでしょうか。そ して、患者さんが困っていれば、「“自分が”何とかし なければ」と行動するようになります。  薬局の窓口業務では、かかりつけ薬剤師でなければ、 次に患者さんが来局するときに誰が応対するのか分か りません。だから、その場では患者さんに対して責任 感を持って仕事をしても、“自分の患者さん”だという 意識は持ちにくいものなのかもしれません。こうした 差は、医療従事者として患者さんと接する上で、意外 と大きな違いとして現れるのではないかと思います。  先日、難病のお子さんの在宅医療の依頼がありまし た。その都度、無菌調製した上で、薬剤を週3回届け なければなりません。しかし、それを担える薬局があ れば、そのお子さんは病院を退院して自宅で生活でき るのだそうです。

“選ばれる薬局”になるために

持つべき機能とは

株式会社メディカルグリーン代表取締役社長

大澤光司

2040年を見据えて動く薬局業務

─今、薬剤師が踏まえておくべきこと─

第3回

(全3回) 2019_2-3_08-09 2040年を見据え(責).indd 8 2019/01/17 9:20:46

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9 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2019年2・3月号  このようなケースでは、薬局探しは家族にとって大 きな問題です。無菌調製と訪問薬剤管理指導を行う薬 局が非常に限られているからです。在宅で治療が受け られないからではなく、薬の供給が確保できないから 退院できない――そういう例は意外と多いと聞きます。

■在宅の意義を他の薬局機能とセットで考える

 在宅医療で果たして採算が取れるかといえば、現状 では難しいでしょう。今後も、在宅単独で経営が成り 立つようになるのかは分かりません。ただ、その意義 を他の薬局機能とセットにして考えると、話は別です。 かかりつけ薬局として選ばれるために在宅医療という 機能を持ち、それにより多くの患者さんが集まり、 OTC や調剤などで在宅医療をカバーするだけの利益 を上げられれば、それは1つの経営戦略として成り立 つのではないでしょうか。  経営効率は大切です。しかし、在宅だけを切り取っ て、時間当たりの単価だけで「やる・やらない」を判断 するのは医療ではないと思うのです。  ただ一方で、仮に在宅医療だけで採算が取れるよう になったとしても、在宅専門薬局がかかりつけ薬局と してよいのかは分かりません。普段から OTC や雑貨 を販売しつつ処方箋調剤を行っていることで、患者さ んが薬局を訪れてくれ、こちらも「相談があればいつ でも来てくださいね」と言えるわけですから。  かかりつけ薬局として、地域に選ばれる薬局になる ためには何が必要なのか、1人ひとりの薬剤師が考え ていくことが大切だと思います。 (了)  あけぼの薬局は、1996年の開局時より在宅医療を 見据え、クリーンベンチを導入し県内でもいち早く在 宅医療に取り組んできました。  現在では10店舗中5店舗に、無菌室もしくはクリー ンベンチを導入し、中心静脈栄養療法の患者や在宅緩 和医療患者に対する医療用麻薬の注射製剤を供給。ま た、10店舗すべてが在宅医療へ係わりを持っており、 より高度な在宅医療を 地域密着型で業務展開 しています。  弊社理念の「既存の 薬局の概念を覆せ!」 が示すとおり、保険医 療の分野だけでなく、 薬局製剤のノウハウか ら化粧品製造業許可を取得しての製造・販売やアロマ 講習、乳がんヨガ、地域住民を対象とした健康工房等 さまざまな活動をしています。これらの活動は社員か ら提案されたもので、各社員が積極的かつ自分自身が 楽しみながら実施できるよう会社全体で支えています。  今後も医療の枠にとらわれず、地域に貢献しつつ社 員自身がやりがいのある業務展開を目指していきます。

「既存の薬局の概念を覆せ!」を合言葉に

社員の提案を活かした活動を展開

在宅支援室室長 坂本岳志氏 地域の元気を応援中!

薬局 File



- File.7-

あけぼの薬局つくば手代木店(株式会社メディカルサポート)

(茨城県つくば市) ▲ 地域住民を対象とした健康工房 開催の様子 ●本社所在地:茨城県坂東市沓掛3244-5 ●設立:1996年(あけぼの薬局つく ば手代木店開局:2006年) ●店舗数:10店舗 ●従業員数:90名(内、薬剤師65名) (パート含) ●URL:http://www.akebono1. com/ 株式会社メディカルサポート プロフィール ▲ あけぼの薬局つくば 手代木店の外観 表 在宅訪問業務の始め方 黙って待っていても、なかなかチャンスは訪れない。 自ら動くことが大切!  例) ●在宅関連の研究会、研修会、学会に参加する      この場合、懇親会に必ず出ること!         コミュニケーションは飲みニケーション     ●在宅関連メーリングリストに登録する    ●市民講座、ケアマネジャー対象の研修会を実施する (資料提供:大澤光司氏) 2019_2-3_08-09 2040年を見据え(責).indd 9 2019/01/17 9:20:48

参照

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