14 はじめに 「陸(おか)マイラー」という言葉をご存知だろうか。 「陸マイラー」とは,航空会社が飛行機に搭乗するたび に利用者に対して発行する「マイレージポイント(以降マ イレージと表現)」を,飛行機に乗る機会があまりないの にもかかわらず熱心に収集している人たちのことである。 航空会社の Web サイトには, 百貨店を始め, インテリ ア・家具,グルメ,家電,金融からギフトショップに至る まで様々な企業や商店街が発行するポイントを 「マイレー ジ」に交換できる仕組みが紹介されている。彼らはこれら を利用して日常の買物で得たポイントをマイレージに換え て保有し, 別のポイントプログラムで提供されている商品 と交換したり, 電子マネーや商品券に換えたうえで様々な 商品を得ているのである。 こうした「陸マイラー」の出現の背景には,ポイントプ ログラムの全業種的な普及とそれを支える IT システムの 進化がある。 本稿では,まずポイントプログラムとそれを支える IT システムの概要を述べ, 次にポイントプログラムの今後と その今後に大きな影響を与えるであろう電子マネーの動向 を報告する。そして最後に,電子マネー決済やクレジット カード決済,ポイントカード機能を + 枚の IC カードで実 現したショッピングモールを, 今後の商店街のポイントプ ログラムのあり方を占う先駆的な事例として紹介する。 24 ポイントプログラムとは ポイントプログラムとは, 来店していただいた顧客に対 して,来店頻度や購入金額に応じたポイントを発行する マーケティング手法である。 そもそも旅客航空会社が始め たフリークエント・フライヤーズ・プログラム(搭乗距離 に応じたポイントを発行・加算し, 一定ポイント以上貯ま ると無料航空券と交換する仕組み)を,企業や店舗が「顧 客囲い込み」の道具として発展的に転用し,小売業を中心 に全国的に普及したものである。 ポイントプログラムは,次回以降の購買時に「割引を受 けられる」, 若しくは 「景品と交換できる」 といった将来 的な特典を与えることで, 新規顧客の固定客への誘導や顧 客維持のツールとして活用されている。 ポイント付与の対 象は自社商品であり, 店頭での値引きとは異なり将来の購 買を誘発するインセンティブとなる。 来店頻度や購入金額 に応じて発行されるポイントは,「常連客」になればなる ほどこうした恩恵を受けられる仕組みをおのずと創り出す ことができ, 例えば獲得ポイント量が多ければ多いほどポ イント付与率を高めるなど, 企業や店舗はこの仕組みを利 用して優良顧客の囲い込みを図っているのである。 一般に, 貯めたポイントを次回以降の購買に利用する顧 客は全体の約 0 割程度といわれている。 現存するポイント プログラムでは,「永久不滅ポイント」を提供しているセ ゾンカードなど一部を除き,,∼- 年の有効期限を設定して いる場合が多い。 未消化のポイントは有効期限経過ととも に消滅するため, 店頭の販売価格での競争や値引き対応よ り収益の向上が図れるともいわれている。 こうしたメリットがある反面, ポイントプログラムを運 用する企業や店舗は未消化のポイントが隠れた債務になっ
特集
ユビキタス技術の動向
IC タグ 情報インフラ セキュリティ 9
ショッピングモールにおける
ポイントプログラムと電子マネー
Point Program and Digital Cash in Shopping Mall
土
屋
博
つち や ひろし * キーワード:ポイントプログラム,ポイント,電子マネー *日本電気ῌ第一国内 SI 推進本部 +30-年 ++ 月生まれ,長野県出身。+322 年中央大学理工学部卒 業,同年 NEC 入社 VAN 事業グループへ配属。コンビニエンスス トアのネットワーク構築等に携わる。その後,インターネット関 連のソリューション企画・開発・販売支援を行う E ビジネス事業 部を経て現職(第一国内 SI 推進本部)。環境情報ソリューション, RFID 等のユビキタス技術を応用したソリューションの企画・開 発業務に従事している。POS POS ている点に留意する必要がある。多くの企業や店舗では, 実際にポイントが使用された時点で会計処理する支払い主 義を採用しているが, 会計期間に発行したポイント量と使 用されたポイント量が一致しないため, 実際どの程度のポ イント発行残高を抱えているか不 明 瞭 で,万が一,ポイ ントの大量還元がなされると資金繰りがショートしてしま うリスクが存在する。そのため最近では,ポイントを発行 した時点で費用処理する発生主義で会計処理するケースが 増えてきている。 一方, 利用者がポイントプログラムから得るメリットは “お得感”だとされている。有効期限内であれば自身の裁 量で懐具合に応じたポイントの活用ができ, ある種水戸黄 門の印 籠 のように, 利害の反する相手に対して割引等の要 求をのませることが自然にできるためである。 もともと東 南アジアやアラブ諸国のように店頭で「値切る」の慣習の ないお国柄である。 ポイントプログラムは日本人向きなの かもしれない。 こうした状況下, ポイントプログラムは様々な業種・業 態に普及し,今や様々な企業やショッピングモールから 様々なポイントカードが発行されている。 野村総合研究所 の調査によれば,消費者が貯めているポイントは,スー パー系(.-4. %),携帯電話会社(.,41 %),家電量販店 (.,4, %)の順となっており,以下ドラッグストア,クレ ジットカード会社,レンタルビデオと続いている。調査で は ,**/ 年度のポイント発行総額をおよそ . /** 億円と推計 しており,国内の個人消費約 -** 兆円の約 +/ %に当たる 約 ./ 兆円相当の消費に対してポイントが付与されている と報告している。 34 ポイントプログラムの運用を支える IT シ ステム ポイントプログラムを運用するに当たって, それを支え る IT システムには正確性と迅速性が求められる。ポイント プログラムの運用規模によってそのシステム規模も異なる が,機能的なシステム構成からいえばどの規模の IT シス テムにおいてもおおむね三つの部位から構成される(図ῌ1)。 (1) 店舗システム ポイント管理システムなど関連する処理システムと顧客 データや取引データを送受信し, ポイントカードのデータ の読取り,書込みを行うハードウエア及び処理システム。 中核機器であるポイントカードのリーダ / ライタには, 小 型のテンキーやディスプレイ,プリンタ,ポイント管理用 アプリケーションなどを内蔵しているものがあり,顧客 データの登録やメッセージ入力,実績レポートの出力,ポ 図ῌ1 ポイントプログラムを支える IT システム概念図 イント照会,レシート出力,ポイント付与率の設定・変更 などを単体で処理できる製品もある。 ポイントカードの媒 体には大きく磁気カードと IC カードがあり,白濁式リラ イトカード,ロイコ式リライトカードが多数使用されている。 (2) ポイント管理システム 取引きに応じたポイント量の加減,ポイント残高照会, ポイント付与率設定・変更, クラス別ポイント付与率の設 定・変更,実績集計・出力などを行う情報処理システム。 大規模システムの場合,商品管理,受注管理,決済処理, 経理仕訳処理など関連するシステムとの連携支援機能を実 装している。 (3) 顧客情報システム(顧客データベースシステム) ポイントプログラムの運用に必要な会員情報, ポイント 利用履歴などを一元的に管理するデータベースシステム。 会員管理マスタ,ポイント管理マスタ,クラスマスタなど, マスタ類を含むデータベースへのデータの登録・削除, 検 索,照会,一覧表示など統合的に管理する。 最近は,カード媒体やそのリーダ / ライタ等ハードウエ アの高機能低価格化やデータベース技術の進化によって, ポイントプログラムの運用規模に合わせた IT システムの 導入が可能である。 44 ポイントプログラムの今後と電子マネー ポイントプログラムの全業種的な普及は, 利用者に平均 +*枚を超えるポイントカードの所有をもたらした。その反 面,ポイントカードの氾 濫 を招き,日々意識して使われて いるカードは多くて - 割,ポイント利用率も発行総額の 0 割程度という状況である。 ポイントが企業や店舗のコスト(販売促進費)で賄われて いることを勘案すると, 利用率が決して高くないこの現状 電気設備学会誌 ,**2年 / 月 38 338
も“悪い状態ではない”といえないわけではない。しかし, ポイントプログラムの本来の目的からすれば, 今後はむし ろポイントの利用率を高める工夫が必要である。 その方法の一つとして,今,注目を集めているのが, 「ポイントに流動性をもたせる」企業連携である。具体的 には, 利用者の行動パターンやマネーフロー上にある企業 同士が, 互いのポイントを相互利用できるようにすること により利用者のポイント活用範囲を広げ, 顧客数や来店機 会数を共同で増やそうとする取組みである。 互いに互いの 顧客を紹介しあい,同時に囲い込む「相互送客」の構築で ある。 現在, この企業連携の中核を成しているのが,「陸 マイラー」まで出現させた航空会社のマイレージであり,楽 天や TUTAYA のポイントであり, そして, 今後ますます その位置付けを高めるものと想定される電子マネーである。 電子マネーとは,「現金を現金と同じ価値をもつ電子 データに変換したもので,電子的に決済する手法の一つ」 である。電子マネーは,日本銀行券のように国家が発行し その価値を保証する公的通貨ではなく, ポイントと同類の 企業通貨に当たる(表ῌ1)。 電子マネーが近年になって急速な普及を見せている要因 は,大きく - 点ある。 まず第一に,非接触 IC チップ「FeliCa」の登場によっ て,駅の自動改札機,スーパーやコンビニなど,電子マ ネーを使える場所が増えた点が挙げられる。 FeliCa は, + 枚の IC チップ中に複数のサービスエリアを作ることがで きるため多目的に利用できるほか, リーダ / ライタとの相 互認証時に最大 +0 のサービスを同時に処理する優れた高 速性を兼ね備え,高速処理が求められる上位アプリケー ション向けにコマンドが用意されている。 こうした技術的 特長が, 改札での混雑緩和を課題としていた交通系やレジ での迅速な処理を志向していた流通系のニーズを満たし, 瞬く間に普及した。 第二に電子マネーを使える人が増えた点が挙げられる。 ,**.年からまず NTT ドコモの端末に「おサイフケータ イ」 として FeliCa チップが搭載され, その標準機能とし て電子マネー「Edy」の利用が可能になった。今やほとん どの携帯電話に搭載されており, 一人 + 台以上保有してい るといわれる若者を中心に手軽に利用できる人が増加した。 そして第三に挙げられるのが, 電子マネーそのものにポ イントプログラムが導入されている点である。 「レジの待ち時間が短縮される」「スムーズに改札口を通 過できる」といった利便性のほかに,使える場所が増えて, 使える人が増え, そして使えば使うほど電子マネーが還元 されるとなれば,利用が加速するのも自明の理である。 表ῌ1 主な電子マネーと利用状況 ※出所:ビジネスメディア誠 ,**1/*3/,2 の掲載記事より抜粋 こうした電子マネーの動向を勘案すると, 企業や店舗が 模索する「相互送客のための連携」は,今後,電子マネー 発行会社を中心に進むものと愚推する。 ポイントプログラ ムを提供する企業同士の連携には,「互いの事業領域を侵 さない」という条件が壁となり,具体化に時間とパワーを 要することが多い。ショッピングモール(商店街)等,企業 体でない団体にとっては交渉のハードルも高い。その点, 公的通貨同等にあまねく場所で自社の電子マネーを流通さ せることを志向する電子マネー発行会社との連携であれば, 企業や店舗の事業領域と重複することは少なく, なにより 互いの利用者の利便性を格段とアップさせることができる。 54 電子マネー決済・ポイトカードシステム 東京の五反田商店街,及び大森銀座商店街では,交通系 IC カード 「Suica」,及び「PASMO」の電子マネー決済 やクレジットカード決済,ポイントカード機能を + 枚の IC カードで実現するシステムを昨年 1 月より運用している (写真ῌ1)。 利用者は所有する Suica, 若しくは PASMO の番号を登録するだけで,交通系 IC カードをそのまま商 店街のポイントカードとしても利用でき, 店舗に設置され たマルチ端末に IC カードを + 度かざすだけで電子マネー 決済,及びポイント処理が同時に行える仕組みである。 実は,この仕組みを導入することによって,両商店街と も電子マネー発行会社との間に理想的な相互送客を実現し ているのである。 IC *1ῌ*1 *1ῌ*2 Edy ! - ,1* " 02 *** , ***" # $ *1ῌ*1 %& '() ICOCA JR*+, -*/" ,1, -." / *** $ *1ῌ*1 %& '() nanaco -./012 HLDGS ./1" ++ 2.2 - -**" *1ῌ*. 3 45 6 PASMO PASMO 789 :; ./," , *2- ,-+" *1ῌ*- 3 45 6 Suica JR<+, + 2/. " +3 33* , ***" # = WAON 2>/ 1*" . 1** ?@A B<( CD PiTaPa 4EF KANSAI 13" +0 *** ?@A =
NTT網 ① ② IC ③ IC ④ ⑤ ④ ① ⑤ ② ③ ポイントシステム ASP 電子マネーセンタ クレジット情報 処理センタ 店舗 顧客 suica/ PASMO 写真ῌ1 大森銀座商店街の風景 「Suica」は,JR 東日本が事業展開している交通系 IC カードで,,**+ 年のサービス開始以降,電子マネー対応 Suica が + 111 万枚(,**1 年 0 月時点),電子マネー非対応 のものを含めると , +,+ 万枚(同)が既に発行済みである。 電子マネーの利用件数は平均 03 万件/日,定期券を除く 切符の利用を含めると + 0** 万件 / 日となる。 一方, 「PASMO」は首都圏の鉄道 ,- 事業者,バス -+ 事業者が 共同で立ち上げた PASMO 協議会加盟事業者を母体とす る交通系 IC カードで,昨年 - 月のサービス開始直後わず か + か月で -** 万枚が発行されたことは記憶に新しい。 共 に乗車券 / 定期券としてだけではなく, 電子マネーとして 買物でも使われるように駅構内の店舗や沿線の店舗への展 開を図っている。 一方,五反田商店街,大森銀座商店街は,共に都心の駅 前に立地する商店街である。 五反田商店街では 「GO ポイ ントカード」, 大森銀座商店街では 「ミルパカード」 とい うポイントプログラムをショッピングモール全体で導入し, 顧客の囲い込みを志向している。 商店街のポイントカード機能を交通系 IC カードに同居 させる方法は,商店街にとって,IC カードを乗車券 / 定 期券として利用して通勤・通学してくる人を新たな囲い込 みの対象として招き入れることができ,また,Suica, PASMO にとっても,IC カード利用者の動線上に自社電 子マネーの活用の場を広げ, 商店街のポイントプログラム をインセンティブとする自社電子マネーの流通促進が期待 できるものである。互いの顧客を紹介しあって囲い込む, 正に理想的な「相互送客」になっているのである。 両商店街で運用する IT システムの概要は,図ῌ2,3に 示すとおりである。+ 枚の交通系 IC カードを + 度かざす だけですべての処理を完結させる IT システムは,利用者 に電子マネーとポイントプログラムの複合利用など新しい 付加価値を提供しながら,商店街での購入機会や電子マ 図ῌ2 電子マネー決済・ポイントカードシステム概要図 ※出所:シー・アール総研「おくと PASu」システム説明書より編集 図ῌ3 電子マネー決済・ポイントカードシステム概要図 ネーの利用機会を増やす確かな動機を与えている。本 IT システムは,商店街の IC カード事業に詳しいシー・アー ル総研(東京都港区 / 代表取締役:但野裕一氏)と NEC イ ンフロンティア(東京都千代田区 / 代表取締役:木内和宣 氏)によって構築されており,その特長は大きく下記 , 点 である。 (1) 運用に必要なアプリケーションを ASP 利用 ポイントプログラムの運用に必要なアプリケーションが ASP で提供されている。個々の店舗は煩わしい決済業務 や IT システムへの投資リスク,セキュリティリスクなど から開放され店舗経営に集中することができる。 (2) マルチ端末 Suica,PASMO の電子マネー決済,クレジット決済, 商店街のポイント処理を + 台で処理できるマルチ端末を店 舗に導入している。これまではそれぞれのシステム用に 別々の端末を複数台用意する必要があり,費用面,運用面 電気設備学会誌 ,**2年 / 月 40 340
① NEC
WDH 149mm 230mm 90mm 15 4 25
ISO JISI JISII PSTN ISDN LAN プリンタ ② IC NEC WDH 85mm 160mm 35mm TTL 16 2 15 IC IC EMV ③ IC JR WDH 95mm 150mm 60mm IC IC FeliCa ① ② ③ 図῍4 マルチ端末とマルチ端末からの出力例 で店舗側の重い負担となっていたが, それが解消されてい る。マルチ端末には小型のテンキーやディスプレイ,プリ ンタが内蔵されており, 前記のアプリケーションサービス と連動した様々な業務をこれ + 台でこなすことができる (図῍4)。 64 おわりに 最近は,直接電子マネーとは関係のないポイントを,い かにして電子マネーに交換し, 現金に換金するか指南する インターネットサイトが人気を呼んでいる。 それだけ多く の利用者が「使えないポイント」をたくさん持っていて, 電子マネーや現金への交換や換金を望んでいることの現わ れであろう。本来,ポイントプログラムは顧客の囲い込み や自社商品の「未来の購買」を誘発させるためのもので, 必ずしも自社の製品の購入につながらない電子マネーや現 金への交換や換金は中小のポイント提供者にとって頭の痛 いところである。その点,五反田商店街,大森銀座商店街 の事例に見られる交通系電子マネーと商店街ポイントプロ グラムの連携は,電子マネー発行企業にとっても,商店街 にとっても, また利用者にとってもメリットを享受できる もので,今後,先駆的な事例として全国に広がりを見せる ものと思われる。 参 考 資 料 ASP:アプリケーションサービスプロバイダ(Application Ser-vice Provider) ビジネスに必要なアプリケーションソフトをネットワー クを通じて提供する事業者,若しくはサービス 参 考 文 献 +)「,*+* 年の企業通貨」:東洋経済新報社, 野村総合研究所, 情 報・通信コンサルティング一部,企業通貨プロジェクトチーム 著,p4--∼-2 ,)「おくと PASu」説明書ほか:ῌシー・アール総研