耳下腺唾石症 の1例
柿 本 晋 吾2)・ 立 川 拓 也1)・ 福 武 知 重1) 吉 村 匡 史1)・ 山 下 敏 夫2)・ 中 山 尭 之3) 1) 市 立岸 和 田市 民病 院 耳 鼻 咽喉 科 2) 関 西 医科 大 学 耳鼻 咽 喉科 3) 中 山耳 鼻 咽 喉科,気 管 食道 科 唾 石 症 は,一 般 的 に ほ と ん ど が 顎 下 腺 に 発 生 す る と され,耳 下 腺,舌 下 腺 に 発 生 す る こ と は,稀 で あ る.今 回 我 々 は 耳 下 腺 唾 石 の1症 例 を 経 験 し た の で 報 告 す る.症 例 は41歳 女 性 で3年 来 の 反 復 す る右 耳 前 部 腫 脹,硬 結 を 主 訴 に 受 診 した.シ ア ロ グ ラ フ イ ー,CT に て ス テ ノ ン管 に石 を確 認,耳 下 腺 唾 石 症 と診 断 し,手 術 を施 行 した.術 後 唾 液瘻,顔 面 神 経 麻 痺 を 認 め ず,経 過 良 好 で 現 在 ま で 再 発 を 認 め な い.若 干 の 文 献 的 考 察 を 加 え報 告 す る. キ ー ワ ー ド:唾 石 症,耳 下 腺 は じめ に 耳 鼻 咽 喉 科 領 域 の 唾 石 症 例 は,し ば しば 経 験 さ れ る疾 患 で あ るが,そ の ほ とん どが 顎 下 腺, 顎 下 腺 管 に存 在 す る唾 石 の 報 告 で あ る.一 方, 耳 下 線,舌 下 線,小 唾 液 腺,お よび そ の排 泄 管 に存 在 す る唾石 症 例 の 報 告 は比 較 的稀 で あ る. 今 回 著 者 らは右 耳 前 部 の硬 結 を主 訴 に来 院 し, CTス キ ャ ン,単 純X線 撮 影 で 耳 下 腺 唾 石 症 と 診 断 し,手 術 的 に唾 石 摘 出 を行 っ た症 例 を経 験 した の で 若 干 の 文 献 的 考 察 を加 え報 告 す る. 症 例 症 例:41歳,女 性 主 訴:右 耳 前 部硬 結 既 往 歴,家 族 歴:特 記 事 項 な し 現 病 歴:平 成4年 頃 よ り右 耳 下 腺 部 の 腫 脹 を 繰 り返 し,そ の た び に化 膿 性 耳 下 腺 炎 と して 加 療 され て い た.平 成7年7月5日 頃 よ り右 耳 前 部 に硬 結 を認 め た た め,近 医 耳 鼻 咽 喉 科 を受 診 し,平 成7年8月11日 右 耳 下 腺 唾 石 症 の 疑 い で 当科 紹 介 とな る. 初 診 時 所 見:右 耳 前 部(耳 下 腺 前 縁 に相 当す る部 位)に5mm×5mmの 可 動 性 不 良 な硬 結 を触 知 した.視 診 上,右 耳 下 腺 軽 度 腫 脹 と右 ス テ ノ ン開 口部 か ら膿 の 排 出 が 認 め られ た. 検 査 所 見 X線 検 査:単 純X線 前後 面 で 下 顎 骨 上 行 枝 外 側 に5mm×4mmの 石 灰 化 陰 影 が 認 め られ た(図 1). CTス キ ャ ン:右 耳 下 腺 前 縁,咬 筋 後 縁 に相 当 す る部 位 にX線 で 認 め られ た もの と同 様 の 石 灰 化 陰 影 が 認 め られ た(図2). 耳 下 腺 造 影:右 ス テ ノ ン管 開 口部 か ら注 入 し た造 影 剤 は石 灰 化 に 一 致 す る部 位 で途 切 れ て お り,腺 実 質 は造 影 され なか っ た.唾 石 の存 在 部 位 と して右 耳 下 腺 導管 内 が 考 え られ た(図3). 以 上 よ り右 耳 下 腺 導 管 内 唾 石 症 と診 断 した. 手 術 所 見:平 成7年11月29日 全 身 麻 酔 下 に 手 術 を施 行 した.皮 膚 切 開 は耳 下 腺 腫 瘍 摘 出術 に 準 じた 耳 前 部 か ら頸 部 に 達 す る約4cmのS字 状 切 開 を行 い,耳 下 腺 浅 葉 を露 出 した.露 出 した 耳 下 腺 を表 面 か ら触 診 す る と,X線,CTに て 唾 石 が存 在 した部 位 に一 致 して硬 結 が 触 知 さ れ た.硬 結上 の 耳 下 腺 被 膜,実 質 を慎 重 に分 離 し, 耳 下 腺 導 管 を確 認 した.唾 石 は 導 管 内 に存 在 し て お り(図4),導 管 を走 行 方 向 と平 行 に切 開図1 単純X線(前 後 面) 図2 CTス キ ャ ン(単 純) し,唾 石 を 摘 出 し た.摘 出 し た 唾 石 は5×3× 3mmの 大 き さ で あ っ た(図5).唾 液 瘻 を 予 防 す る た め,切 開 し た 導 管 を6-0ナ イ ロ ン 糸,耳 下 腺 被 膜 を4-0吸 収 糸 で 縫 合 し た.さ ら に 生 体 糊 を 塗 布 し,皮 下 埋 没 縫 合,皮 膚 縫 合 を 行 い 手 図3 耳 下 腺造 影 図4 手術 所 見 術 を終 了 し た.尚,創 部 ス テ ノ ン管 共 に ドレ ー ン チ ュ ー ブ は 留 置 し な か っ た. 術 後 経 過:術 後 耳 下 腺 部 の 腫 脹,疼 痛 は 認 め
図5 摘 出 した唾 石 な か っ た.術 後12日 目 に 軽 快 退 院 し た. 考 察 耳 鼻 咽 喉 科 領 域 の唾 石 は顎 下 腺 お よ び 顎 下 腺 管 に存 在 す る症 例 が大 部 分 を 占 め,耳 下 腺,舌 下 腺,小 唾 液 腺,お よび そ の 導 管 に 存 在 す る唾 石 は比 較 的 稀 で あ る1)∼4).耳下 腺 唾 石 症 は,本 報 告 まで に114例 が 報 告 され て い る5)6).本 邦 の 耳 下 腺 唾 石 は 唾 石 症 全 体 の5∼10%で 欧 米 に 比 較 して そ の 発 生 頻 度 は 少 な い3)7)とされ て い る. 性 差 は2:1∼3:1と 男 性 に多 く,発 症 年 齢 は 幼 小 児,高 齢 者 を 除 く全 年 齢 層 に分 布 して い る3).唾 石 の 存 在 部 位 と して,約80%が 導 管 内, 残 り20%が 腺 内 に 存 在 して い る鋼.唾 石 の 成 因 と して 炎症 説,細 菌 説,異 物 説,外 傷 説 等 が 考 え られ て い るが,い まだ ど れ と決 定 し得 な い の が 現 状 で あ る9). 臨 床 症 状 と して耳 下 腺 部 腫 脹,疼 痛 が 主症 状 で あ り,確 定 診 断 と して 画 像 診 断 の 有 用 性 が報 告 され て い る.耳 下 腺 唾 石 は カル シ ウム が 主 成 分 で あ る た め,単 純X線 で 描 出 され る こ とが 多 く,CTス キ ャ ン は唾 石 の 存 在 部 位 診 断 に有 用 と され て い る5脚 .耳 下腺 造影 は導管 内唾石 と 腺 内唾 石 との 鑑 別,耳 下 腺 唾 石 以 外 に疾 患 との 鑑 別 に 有 用 な 検 査 法 と考 え られ る.Yuneら は 単 純X線 で 証 明 し得 な いX線 透 過 性 の 唾 石 は唾 液 腺 造 影 を施 行 す る こ とで容 易 に発 見 さ れ,そ の 頻 度 は45%で あ る と 述 べ ら れ て い る10).ま た RIシ ン チ グ ラ ム,特 に,99mTcシ ン チ グ ラ ム は 腺 組 織 の 機 能 状 態 の 把 握 に 有 用 で あ り,手 術 施 行 の 際 に 腺 組 織 を 保 存 す る か 否 か の 判 定 に 利 用 さ れ て い る11).今 回 の 症 例 に 対 し て は,ス テ ノ ン 管 か ら の 唾 液 の 流 出 が 良 好 で あ っ た た め, 腺 機 能 は 良 好 と判 断 し,RIシ ン チ グ ラ ム は 施 行 しな か っ た.耳 下 腺 唾 石 症 の 鑑 別 診 断 と し て 皮 下 結 石,静 脈 石,血 管 腫12)13)が挙 げ ら れ る が, 幾 つ か の 画 像 診 断 を 組 み 合 わ せ る こ と で,こ れ らの 疾 患 と の 鑑 別 は 可 能 と思 わ れ る. 治 療 法 は 保 存 的 治 療 と外 科 的 治 療 に 大 別 さ れ る.保 存 的 治 療 と し て,唾 液 の 分 泌 を 亢 進 さ せ, 唾 石 の 自 然 排 泄 を 期 待 す る 方 法11),導 管 前 方 に 移 動 し て き た 唾 石 を 鉗 子 等 で つ ま み 出 す 方 法, さ ら に 最 近 で はESWL(extracorporeal shock wave lithotripsy)の 有 用 性 も 報 告 さ れ て い る. 唾 石 に 対 し てIroら が1989年 に は じめ て 報 告 を 行 い14),国 内 で は 松 原 が 顎 下 腺 唾 石 に こ れ ら を 用 い た 報 告 を 行 っ て い る.今 後 の こ の 方 法 の 有 用 性 が 注 目 さ れ て い る15).一 方 外 科 的 治 療 と し て 口 内 法 と 口 外 法 が 施 行 さ れ て い る .口 内 法 は 顔 面 に 傷 を 残 さ ず,手 術 侵 襲 が 少 な い と い う 利 点 の 一 方 で,深 部 の 唾 石 摘 出 に は 適 さ な い と い う 欠 点 が あ る.ま た 口 外 法 は 深 部 の 唾 石 摘 出 に は 適 し て い る が 顔 面,頸 部 に 傷 を残 す と い う 欠 点 が あ る.藤 原 ら は 最 近 の17例 の 報 告 を ま と め, 唾 石 が 咬 筋 前 縁 よ り 開 口 部 側 に 存 在 す る 症 例 で は100%口 内 法 が 選 択 さ れ(5/5),そ れ よ り 腺 体 側 に 存 在 す る 唾 石 に 対 し て50%(2/4) が 口 外 法,腺 体 内 の 唾 石 に 対 し て100%(3/3) 腺 摘 出 さ れ て い た と 報 告 し て い る5).篠 原 ら11), Ivyら16)も 同 様 の 報 告 を 行 っ て い る.ま た 多 数 の 結 石,耳 下 腺 機 能 廃 絶 症 例 に 対 し て 腺 摘 出 術 も提 唱 さ れ て い る12)17). 次 に 耳 下腺 唾 石 に 対 し て ど の 時 期 に 外 科 的 治 療(特 に 腺 内 唾 石 や 咬 筋 前 縁 よ り腺 体 側 に 存 在 す る 導 管 内 唾 石 に 対 し て)に 踏 み 切 る か が 大 き な 問 題 に な っ て く る.有 川 ら18)は 腺 深 部 の 小 唾 石 は 放 置 し て も特 に 問 題 は な い の で 保 存
的 療 法 で観 察 す べ き と報 告 して い るが,耳 下 腺 唾 石 か ら外 瘻 孔 を生 じた 症 例 も報 告 さ れ て い る19)20).著者 ら の症 例 は 発 症 後3年 余 りで 耳 前 部 に硬 結 を触 知 し,こ の 間 に 腺 内 唾 石 が 導 管 内 に移 動 した もの と考 え,3ヵ 月 間 の 経 過観 察 を 行 っ た.そ の 時 点 のCTで 唾 石 の 位 置 に 変 化 が 見 られ ず,患 者 が 摘 出 を 強 く希 望 した た め 外 科 的 治療 に踏 み切 っ た.特 に激 しい症 状 を訴 え た り,外 科 的 治療 を早 急 に 必 要 と しな い 患 者 に 対 して は数 ヵ月 の 経 過 観 察 を行 い,次 の 段 階 で 治 療 方 針 を決 定 す る こ と も必 要 と思 わ れ た. 皮 膚切 開 に 関 して,耳 下 腺 全 体 を露 出 す る こ とで 唾 石 以 外 の疾 患 の有 無 を確 認 で き る こ と, 単 に硬 結 部 に切 開 を い れ る場 合 よ り傷 は大 きい が,目 立 ち に くい とい う理 由か ら腫 瘍 摘 出 に 準 じた,S字 状 切 開 を選 択 した.ま た症 例 に よ っ て は反 復 性 耳 下 腺 炎 を起 こ して い る場 合 もあ り, 顔 面 神 経,ス テ ノ ン管 の保 護 とい う点 か ら もS 字状 切 開 は有 用 で あ っ た.さ らに術 中唾 液 腺 造 影 を行 う こ と も可 能 で,唾 石 よ り遠 位 端 の細 か い 唾 石 の描 出 も可 能 と考 え た.術 後 合併症 で あ る唾 液 瘻 を予 防 す る 目的 で,今 回 の 症 例 で は切 開 した ス テ ノ ン管,耳 下 腺 被 膜 を縫 合 し,さ ら に生 体 糊 を塗 布 した.ス テ ノ ン管 狭 窄 防止 策 と して チ ュ ー ブ の 挿 入 を施 行 した報 告 もさ れ て い る7)が本 症 例 は 唾 石 の 存 在 部 位 が 耳 下 腺 前 縁 の 導 管 内 と深 部 で あ り,ま た近 くに顔 面 神 経 が 走 行 して い た た め,チ ュー ブ に よ る神 経 損 傷 の 可 能 性 を考 え,留 置 は 行 わ な か った.巨 大 な 唾 石 で な け れ ば 排 泄 管 を縫 合 し,そ の 上 を 耳 下 腺 実 質 で覆 う こ とで唾 液瘻 は予 防 で きる と考 え る. 以 上,反 復 性 耳 下 腺 腫 脹 を き た し画像 診 断 よ り耳 下 腺 唾 石 症 と考 え られ た症 例 を若 干 の 文 献 的 考 察 を付 け加 え て 報 告 した. 参考 文 献
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Sialolithiasis in the parotid gland:A case report
Shingo Kakimoto2), Takuya Tachikawa1), Tomoshige Fukutake1), Masafumi Yoshimura1), Toshio Yamashita2), Takayuki Nakayama2)
1 ) Kishiwada City Hospital, Otolaryngology 2 ) Tansai Medical University, Otolaryngology 3 ) Nakayama ENT Clinic, Otolaryngology
Sialolithiasis in the parotid gland is a lower case than submandibular salivary stone. The patient, a 41-year old female, visited our hospital with the chief complaint of rt preauricular induration and repeated swelling in the rt-parotid lesion. An examination showed purulent discharge from the rt-parotid duct orifice and palpable small induration in the rt-preauricular lesion.
The sialography and plain CT scan findings revealed calcification in the rt-parotid stenon's duct. A surgical operation was performed with rt-preauricular incision. A stone of rice-grain size existed in the stenon's duct of the rt-parotid gland. The patient recovered completely without salivary fistula or facial nerve palsy. Discussions were made on the possible causes of this lesion.