デザイン実践研究のかたちを探る
12
0
0
全文
(2) 4. 特集:社会実践のデザイン学. ①. ② e.g. their “Designing”. そのコミュニティならではの 生きていくための 様々な創造的活動. ⑤. Use Centered Design Design Thinking Living Lab.. ③. 製品、ことばの輸入. 模倣・収集 「デザイン」. ⑥. ④. それぞれの解釈. ⑦ わたしたちの. 「デザイン」. 誰が、なぜ、なにを、どう、 デザインしているのか || デザイン研究. わたしたちの日常の中の 様々な創造的活動. 図1 「デザイン」ということばの位置付け. しかし結局はことばと同様に表面的な形式ばかりを輸入しようとしている印 象を否めない。「デザイン」ということばは、既に元の design からは切り離. されて我々の日常に浸透しており、我々はこのことばを日本語として考える べきだ。デザインとはこういう意味なのだからこう振る舞うべきである、と 語ることはできる。しかし、語源に. ってその意味を頼ってもあまり意味が. ない。それでは、デザインということばがまず先にあり、それに合わせて行 動する、という本末転倒の状態に陥ってしまう。この国で育ったカタカナ表 記の「デザイン」と向き合おう、とまず提案したい。 我々は、日常のまだはっきりと形の整っていない、あるいは説明するには 複雑すぎる、様々な創造活動にデザインということばを使ってきた(図1 ⑥)。多義性、多様性こそカタカナ表記の「デザイン」の持ち味である。し たがって「デザインとは何か」という問いから始めても、答えには. りつか. ない。どんな活動を指して「デザイン」ということばを割り当てているの か。この「どんな活動」の内容を専門家として説明することによって、デザ インとは何かをデザイナーがプロジェクトとして関わるコミュニティさらに は社会に示し、コミュニティの他のメンバーや他領域の専門家にデザインの 専門性や存在価値を示すことができるはずである(図1⑦)。 いま必要なデザイン研究として、後輩デザイナーに、デザインに関わる (巻き込まれる)人に、そしてデザインに興味を持つ人に向けて、「こんな 時」「こんなやり方」「こんな考え方」「こんな事例」を示し、参考にしつつ 前に進んでもらうための手かがりこそ、形にして残していくべきだと考えら れる。. 3.デザインの現場から 冒頭で、生きることの全てがデザインであると述べた。我々デザインの専 門家=デザイナーは日常の中で、何をもってデザインと呼んでいるのか。そ して、その中でデザイナーはどういう立場なのか。どんな人材が、何を、ど.
(3) デザイン学研究特集号 Vol.27-2 No.102. んなふうにデザインしているのか。そして、実践の中で何を試しながら、ど う学ぶのか。図1⑥に倣って、我々はどんな活動をデザインと呼んでいるの かを見直してみたい。ここではナラティブ[注9]を介して、筆者自身の経 歴からひとりのデザイナーのデザインの実践、研究、学びについての考え方 の変遷を追い、デザイン実践の形を概観する。説明の中では、一つひとつの デザイン活動のまとまりをプロジェクトと呼び、その結果としての成果物は すべて「作品」と呼ぶ。まずは約40年のデザイン活動の全体像を図2に示 す。図には筆者の教員としての実践も表記したが、本稿ではデザイン実践の 部分だけを取り上げる。. 3.1. 学生時代:デザインを学ぶ、という実践. 筆者は80年代前半の大学生時代、美術系学部でグラフィックデザインを学. んだ[注10]。学生である自分にとっては、演習授業をはじめとして様々な 課題で示される目的に表現で応えることがデザインだった。 演習授業では、教員から与えられた架空の課題に対して、表現で答えを示 す。作品に対する教員のコメントから、デザインに取り組む上で必要とされ る知識・技術とその獲得方法を学んだ。さらに、制作過程でのクラスメイト. 9)キャサリン・K・リースマン『人間科学のためのナラ. との対話や講評会での作品比較から、表現の多様性や類似性について考える. ティヴ研究法』クオリティケア、2014. 10)当時の美術系デザイン教育は、基本的に個人の専門性. 会を得た。. を高めることに主眼が置かれていた。その専門的なス. 課題の多くは正解を求めるのではなく、表現の方向性を示す制約的なもの. キルは演習授業の中で身につけるカリキュラム構成に なっていた。表現の基礎として、タイポグラフィ、イ. が中心で、コンテンツは自分で考える必要があった。. ラストレーション、平面構成、色彩構成、写真などを. 講評も答として正しいかどうかではなく、新しいもの、面白いもの、教員. 学んだ。いずれも演習授業として、ほぼ毎週提示され る小さな課題に応えることで、体験的に学んでいった。 学生時代. 社会人. 大学教員. 仮想の課題 ↓ 本物の課題 (企業とのコラボ). コメント (評価) 伝達デザイン (伝える) カッコいい、美しいデザイン(もの) 見せ方(図解) 友人につられて入学 アートを語る同級生たちへの違和感 実はすごい教員ばかりだった 図解表現との出会い 居場所. デザイン実現のための技術への興味 (印刷、写植、コピー機、コンピュータ…) 写真はダメだった…. 作品. デザイン チーム. わたし. 「陸の孤島」 からの脱出 バイク、 クルマ、 おもちゃ…プロダクトデザイン 巨匠:杉浦康平 流行:バウハウス、 印刷技術. 納品. 研究. 教材開発の悩み 当初:かっこいいメディアを! 結果:作り込むほどに学ばない…. デザイン チーム. 現役でなきゃ説得力がない 背中を見せる デジタルメディアのデザインどうする?. 依頼者 わたし. 納品. 消費者. 来歴を知る、社会を変える. 納品. 市民? 消費者? ユーザ?. 消費者(使う人). ワーク ショップ デザイン. 経験の 視覚化. 旅するデザイン:デザイン=生きること. 依頼者 メンバー. コンテンツ 探しの旅. 文化 (博物館) 教育. 科学 (専門家). ・道具のデザイン ・展示のデザイン ・学びのデザイン ・実践のデザイン. 担当者. 経済 (企業). 生活世界. 教室や実験室では 体験できない デザインの 実践と学び. 担当者. 依頼者 わたし. 他分野へ の応用. 担当者. 注文 デザイン チーム. 知識の 視覚化. 依頼者. チームの成果 クオリティよりも関係性 デジタルメディアの利用. 図2 筆者のデザイン経験の視覚化. 表現 学生. デザイン実践. 依頼者. 注文. 入力 ?. サークル活動(人形劇) サークル仲間(総合大学のメリット). 教材 教員. 現場で役に立ったこと 現場で学んだこと. 表現. クラス内で比較. 「イケてる」 友人、 先輩、 後輩. デザイン 教育・研究. 注文. コメント (評価) 表現. ヒューマン リソース (就職支援) 人材確保. 伝票でもなんでも カッコよくしたる!. 教員. お題 (課題). わたし. セールス プロモーション (販売支援) 売るため. コミュニティ 社会. デザイン 表現 担当 わたし. コミュニティ 飛び込む→味わう→しでかす→巻き込む→ 可能性呈示 たのまれもしないのに、やりすぎる !? ビジネスじゃないからできる !?. 5.
(4) 6. 特集:社会実践のデザイン学. を唸らせるものなど、制約に対してどれだけ掘り下げたか、はみ出したかを 問われる場になっていた。自分の作品が他者のものと並べられることで、試 行錯誤の過程や表現に対するこだわりが、結果として作品のクオリティに現 れることを身を以って体験することができた。オリジナリティを生み出すた めには、それまでに自分が手に入れた知識や経験を総動員しなければならな い。したがって授業以外の生活、例えばサークル活動や展覧会鑑賞、遊びや 旅など、それまでの経験や好きな作家の考え方や技法を調べて試すことも重 要な学びだった。このような作品制作過程は表現実験の場であり、制作プロ セスは研究活動と呼べるものだったと思う。 筆者にとって学生時代のトピックは、インフォグラフィックスの可能性に 気づき、自分と図解表現との相性の良さを実践の中で確信できたことだ。筆 者のインフォグラフィックス作品デビューは学部3年の夏、アルバイトで関 わった大学10周年記念冊子の中にある(図3)。このアルバイト自体が筆者 のデザインの原点となる経験だったのだが、その中でも一人で任された図解 図3 筆者が初めて印刷指定を通して制作 したインフォグラフィック 『筑波大学その十年』p76、筑波大学、 1983. 表現は今も強く記憶に残っている。表現自体は、今見れば Adobe Illustrator を使えば数分で制作できるようなものだが、当時はこのような表現もデザイ ナーがスケッチをもとに版下指定をして、出来上がった版下に色指定をし て、色校正を確認した上で、本番の印刷に回された。この工程自体が楽し かったのはもちろんだが、自分がデータや情報をもとに視覚表現を組み立て ることが得意だ、という自信が持てたことと、様々な視覚表現メディアのデ ザインはダイアグラムやインフォグラフックスの考え方を応用できると確信 できたことが研究成果であり学びである。. 3.2. 商業デザイン:セールスプロモーション・広告・宣伝. 80年代後半から90年代前半、筆者は企業内デザイナーとして、様々なデザ. インプロジェクトに関わっていた。複数の職場に勤めたが、いずれもクライ アントの求めるデザインを請け負う外注先企業である。職種としてはアート ディレクターと呼ばれ、実質的な制作は外注する。とはいえ、上司の計らい で「コスト的に支障がなければ」という条件で外注と自身による内部制作を 半々くらいの比率でこなしていた。 セールスプロモーションの業務は、クライアントの製品を宣伝する店頭販促 物の制作や、製品を取り扱う流通業、小売業や消費者に向けての景品開発な どがその内容である。自社の営業担当者が引き受けてきたクライアントのプロ ジェクトを、クライアントの担当者に向けて表現で応える、という構造になっ ていた。チラシやポスターだけでなく、店頭で商品周りを装飾する POP(Point. of Purchase Advertising)の制作や、購入時の景品として商品のロゴを入れて 配布する様々なグッズ開発を担当し、当時の技術として存在するほとんどの. 印刷表現を体験することができた。景品はコンペで選考されることが多く、 情報収集力やプレゼンテーション力も鍛えられた。クライアントのライバル 企業や他業種のアプローチを分析したり、実際に店舗やクライアント主催の イベントを回るなど、研究的な活動も含めてのデザインプロジェクトであった。 転職して関わった広告制作は、求人や人材育成をテーマとした特殊なもの で、いわゆる求人雑誌のための広告デザインや企業パンフレットの制作が主 な業務であった。一つの雑誌の中に自身の担当する複数の企業の広告が掲載 されるため、同時に複数の異なるコンセプトの表現が求められる。クライア ントの理解と表現のバリエーションの広さが不可欠だ。業務の流れは、自社.
(5) デザイン学研究特集号 Vol.27-2 No.102. の営業担当の受注から始まり、クライアントについての資料集めやインタ ビューからコンセプトを固め、広告表現の試案を作って提示し、担当者との ディスカッションやクライアントの内部確認の手続きを得てゴーサインを得た ら、入稿作業に入る。様々な業種の企業経営者や評価の高い社員のインタ ビューの機会を多く得られたことや自分で広告用コピーを書く機会が多く、 業界ごとの特徴や魅力的な会社の特徴を実際に肌で感じ、言葉で説明する経 験を重ねた。また、同時に膨大な量のデザインを並行して行うための思考方 法や作業の効率化、コスト管理など、経済活動としてのデザインについての 知識を深めることができた。このあと、宣伝部に異動し、ここまでの経験を 総動員して自社のブランディングに関わることとなった。宣伝部におけるクラ イアントは自社が発行する様々なメディアの編集長で、新聞、テレビ、車内 吊り、店頭広告など、セールスプロモーションで経験した全てが役に立った。 実務時代の学びを総括すると、業務としてのデザイン以外に様々なデザイ ンを経験できたということだ。広告や宣伝ツール制作を実現するためには、 様々なステークホルダを説得する必要があり、立場や利害の異なる関係者の 調整を行いながら、自分の意図するデザインを進めていく必要がある。説得 のための資料作りや広告の試案など、相手の理解を得るためにはコミュニ ケーションもデザインされる必要がある。業務の中で多くの失敗もしたが、 それらは作品のデザインに対してではなく、確認漏れや連絡を怠ったことに よるコミュニケーションのトラブルがほとんどであった。. 3.3. アカデミアでのデザイン1:知識の視覚化. 90年代後半から現在まで、筆者は主に大学教員としてデザインに関わって. きた。着任当初の社会的状況として、DTP がある程度現場に浸透しデザイ. ナーがグラフィックソフトでデザインを行うことが一般的になりつつあっ. た。また、インターネットを使った情報発信が比較的身近になったのもこの 頃である。このことは教育カリキュラムにも影響を与え、コンピュータ室の 設置や演習授業の中にソフトウェア使用体験が組み込まれるなど、自身が学 んだ時代とはカリキュラムも大きく変化していく時期だった。筆者として も、学生時代から関わるコンピュータグラフィックスやデジタルコンテンツ ならではの動きを用いた視覚表現に焦点を当て、研究や教育に関わり始めた。 ウェブデザイン黎明期の当時、デザインの教材として使える資料はあまり なく、自ら作ることにした[注11]。このような表現がきっかけで他大学や 企業と繋がり、デジタルコンテンツ開発という研究の方向性が定まった。 情報デザイン分野が立ち上がったのもこの時期だが、話題の中心は道具の ユーザインタフェースなど、プロダクトデザインの文脈で捉えられることが 多かった。しかし筆者は、グラフィックデザインの拡張としてのデジタルコ ンテンツにこだわっていた。様々な「知識」を題材に、動的で対話的なデジ タルコンテンツを制作し、教材とした。また共同研究(共創)としても、博 物館や新聞社、行政などとの共同プロジェクトを進め、このような一連の動 的なインフォグラフィックスとしての画面デザインの可能性を追求してお 11)原田泰、「グラフィック・プレゼンテーション:動的. り、その成果が博士論文となっている[注12]。. な表現を利用したデザイン教育のためのディジタル教 材」デザイン学研究作品集7巻1号、日本デザイン学 会、2001 12)原田泰、ダイナミックインフォメーショングラフィッ クス:動的な図解表現を用いた知識の視覚化、博士論 文、筑波大学、2005. 3.4. アカデミアでのデザイン2:経験の視覚化. 2000年代後半ごろから、「知識の視覚化」の成果が縁で、様々な専門分野. からの依頼で研究プロジェクトに誘われ、そのメンバーとしてデザインを担. 7.
(6) 8. 特集:社会実践のデザイン学. 当する機会が増えた。その中で美術教育や教育学の専門家とつながり、ワー クショップという経験的な学びの場のデザインと出会うこととなった。当初 はワークショップ内で使用するツールの開発担当だったが、ワークショップ 終了後の資料や報告書のデザインにも関わるようになり、それをワーク ショップ活動中に仕上げられないか、という期待から「リアルタイムドキュ メンテーション」というコンセプトが生まれた。もともと「知識の視覚化」 プロジェクトにおいても活動終了とともに報告書が出来上がるようなチャレ ンジは行なっており、ワークショップではリフレクションムービー[注13] の制作も担当していたので、「いける」という予感もあり、活動終了ととも に新聞あるいは冊子形式のメディアを作り上げるプロジェクトを研究として 進めることとなった[注14]。 「知識」は知識化された時点で説明の構造を持ち、机の上に広げてデザイ ンすなわち魅せ方の工夫を考え施すことは可能だ。しかし「出来事」はいま 目の前で起こっている。したがって、ある程度展開の予測はできたとして も、どの場面をどう切り取ればどのような価値が生まれるのかは活動の全体 像が見えはじめてからでないと判断できない。ワークショップは屋外やイベ ントスペースなど、机上の編集デザイン活動の環境から離れたところで実施 されるので、持ち帰ってデザインして次の機会に関係者にシェア…では、手 間もタイムラグも大きすぎる。様々なアプローチが考えられるが、筆者らは 現在もその方法を模索中である。. 3.5. アカデミアでのデザイン3:デザイン街に出る. 2010年代に入り、ユーザセンタードデザインの文脈から、デザイン思考や. サービスデザイン、さらにはインクルーシブデザインといった考え方が、デ ザインの新たな潮流として取り上げられるようになった。この流れによっ て、デザイン専門家ではない様々な分野の人々が「デザイン」ということば に触れる機会が増えたといえる。他分野の専門家から我々デザイン領域の専 門家に協働の働きかけが起きたり、逆に我々デザインの専門家からの働きか けに他領域の専門家が興味を持ってくれたり、という願ってもない状況が生 まれてきた。こうした背景もあり、デザインを専門としない人々の表現活動 を取り込んだ領域横断型の研究プロジェクトがたちあがり、筆者も参加させ てもらうことができた[注15]。 函館をフィールドとしたワークショップ形式のデザインプロジェクトも複 数回実施され、異なる専門領域の研究者・教育者、異なる大学の学生たち、 地元の生活者たちが交わることで、プロジェクト内で表現活動の成果物が生 まれたこと以上に、参加した人々の変化や、その周辺の人々に化学反応が起 13)福崎千晃、池本和弘、曽和具之「学びの振り返りを促 すドキュメンテーションの可能性」デザイン学研究研 究発表大会概要集(61)、412-413、日本デザイン学会、. 2014. 14)等々力心太朗、原田泰、「出来事の持つ構造を記録と して視覚化するデザイン」デザイン学研究 . 研究発表. きていることが実感できた。また、従来のデザインする人と使う人を分けた 活動モデルでは説明し得ない、地方都市ならではのデザインアプローチのヒ ントを得ることができた[注16]。 筆者はこの経験を応用し、地域と関わりながらデザインを広めていく活動. 大会概要集(57)、26-27、日本デザイン学会、2010. を立ち上げ、冒頭に述べたように「デザイン、街へ出る」と名付けて現在も. ラットフォームの構築、科学技術振興機構(JST)戦. 継続している。このプロジェクトでは、函館市内の様々なコミュニティにま. 15)須永剛司ほか、情報デザインによる市民芸術創出プ 略的創造研究推進事業、2006年度∼2011年度 16)枠組み構築型デザインプロセスと名付けた。 原田泰「やってみてわかる」プロセスからデザイン・ プロジェクトをとらえ直す(〈特集〉実践するデザイ ナーたちのデザイン知)、デザイン学研究特集号21巻 3号、48-53、日本デザイン学会、2014. ずは入っていき、様々な人間関係を築きながら、必要に応じて、デザインし て見せたり一緒にやってみたりを繰り返し、そのコミュニティに貢献すると いう活動である。できる限り学生にもその場に居てもらうことで、デザイ ナーとしての関わり方や成果の出し方を学んでもらう機会としている。.
(7) デザイン学研究特集号 Vol.27-2 No.102. 対話. 表現. 依頼者 お題 課題・要件. わたし. 解釈・決裁. 解釈. 表現. 作品. 解釈. 依頼者. 意図 表現. 作品. わたし デザイン プロジェクト. エンドユーザ 自分を含めた社会. 図4 行為(作業)に焦点化したデザインプロセス. 図5 コミュニケーションに焦点化したプロセス. 4.40年近いデザイン活動を振り返って 紙面の都合もありあまり詳しくは語れなかったが、筆者の経歴からひとり のデザイナーの実践、研究、学びを概観してみた。このように全体を眺めて みると、これまでのデザイン研究ではあまり語られていない視点をいくつか 発見することができた。それは、人間関係の中での創造と価値、アウェイで の実践、繰り返しと組み合わせによる応用と継続、である。. 4.1. 人間関係の中での創造と価値. ここまで挙げてきたさまざまなデザイン活動を、個人のスキルとして説明. すると図4のようになる。矢印が示すのは作品制作の作業の流れで、デザイ ナーがクライアントの監修のもと、作品をエンドユーザーに届けるという、 因果関係に即した構造だ。 しかし、「現実はコミュニケーションの中にある」とする社会構成主義的 視点[注17]からデザインのかたちを捉え直してみると、図5のような構造 で表すこともできる。図中の矢印は対話の中で形成された価値や意味の流れ だ。赤で示した矢印は、図4のモデルでは語られない。実務的な作業はデザ イナーの作業の範疇だとしても、何かを創造するという活動の全体像は、ス テークホルダー全員の関与によって成り立っていると考える方が現実に即し ている。 この関係性はデザインプロジェクトチームとエンドユーザの関係について も言える。自分がデザインアウトカムの利用者だったら?というユーザ視点 は表現者の中にも必ずあるはずだし、目の前の作品についての対話はなくて も、日常のコミュニケーションの中で、「あの人だったらこう読み解くだろ う」「この人ならこう使うだろう」といった感覚値も表現を固める判断材料 になるはずだ。様々なマーケティングデータが提供されたとしても、その解 釈は表現者たちに委ねられており、これによってその表現に責任を持つとい う当事者意識も育まれるのではないだろうか。 17)ケネス・J・ガーゲン. 『あなたへの社会構成主義』ナカニシヤ出版,2004. デザインの評価についても比較してみよう。図4のような作業フローを評 価の前提とした場合、そのフローを正しく実行したかどうかの評価はできて. 9.
(8) 10. 特集:社会実践のデザイン学. 科学 生活世界. 文化. 大衆. 経済 デザイナーの 社会への関わり方 境界を揺さぶる/溶かす 領域をつなぐ 図6 分断された様々な専門的コミュニティへのデザイナーの関わり. も、創造的な活動になっていたか、新しい挑戦を盛り込んだかなど、イノ ベーションにまつわる創意工夫を見いだすのは困難だ。一方、図5のモデル では、矢印の部分にどのような対話があったのかを捉えれば、そこに創造的 活動を生み出した手がかりを見いだすことができるはずである。 今日のデザイン研究は、デザインアウトカムの評価を研究成果とする方法 が中心となっている。道具のデザインであれば、意図した機能が実現してい るか、計画通り運用されたか、使い手が意図通りに使ったか、何回成功した か。使い手に注目すれば、開発者の意図通りに見えているか、開発者の意図 通りに使ってもらえたか、開発者の意図どおりの効果を利用者に及ぼした か、何人中何人がそれを良いと言ったか。製品やサービスの保証としてこの ような評価は不要とは言わない。しかし、研究成果の意義として、これらが 「使える知」なのかは問い直す必要がある。 人の営みは機械の連続運動とは違う。表面上は全く同じプロセスに見えて も、関わる人、時間や場所、条件など、状況にあわせて様々な試行錯誤や創 意工夫が行なわれている。結果として提示されるひとつのもの・ことでも、 それに対する感情は常に変化する。ある瞬間に高い評価を得たとしても、そ れが永遠に続くわけではない。ある課題が解決され取り除かれたとしても、 それは世界のバランスが変わっただけで、別の課題が顕在化することにな り、いつか課題が全てなくなるということはない。そもそも課題解決など為 せるものなのか。こうした現実を保留にして、架空の課題研究を行っても、 それをデザインとは言い難い。 こう考えると、デザインの知恵をとらえるためには、一つひとつの結果よ りも、生活世界の中で脈々と続く生き方=デザイン活動の中身をじっくり吟 味していくしかない。図5のモデルを前提としてデザインプロジェクト内の コミュニケーションに注目することが、これからのデザイン研究の方法や成 果の手がかりとなるはずである。.
(9) デザイン学研究特集号 Vol.27-2 No.102. 4.2. アウェイでの実践. デザインが実践されている場所はどこか。デザインを作業としてみれば、. それは道具のある場所、すなわち自分のオフィスや机の上、パソコンの中、 ということになる。しかし図5のモデルを前提にすれば、それはコミュニ ケーションの起こる場所を指す。つまりクライアントやエンドユーザの所属 するコミュニティの中である。各コミュニティにはそのコミュニティならで はの作法や価値観がある。筆者のデザインプロジェクトにおける経験から言 うと、現代社会のコミュニティは図6に示すような「科学」「経済」「文化」 といったカテゴリで分断されており、さらにそれぞれのカテゴリの中も様々 な専門性で分断されている。各コミュニティにはその境界を守ろうとする力 が働いており、硬直化に向かっている場合がほとんどだ。デザイナーが呼ば れたり、デザイナーが入り込んで面白さを感じるのは、こうした壁を振動さ せたり溶かしたり、さらには他の境界と結びつける必要性が生まれた時だ。 そして、デザイナーがある日コミュニティに入ってきて「これが未来の姿で す」と専門家然として訴えても、大抵は拒否反応に打ちのめされてしまう。 本当に必要とされるデザインを実現するためには、個々のコミュニティに合 わせた参入の仕方や関わり方が必要なのは間違いない。さらに、誰と組むか も重要だ。創造性がコミュニケーションの中で発揮される以上、最適あるい は最高の作品として成果を呈示するためには、それなりのパートナーを見つ けなければならない。最適なパートナーを見つけプロジェクトに巻き込むた めのノウハウや、チームで活躍できる人材の育成方法なども、デザインスキ ルとして持っておく必要があるのではないだろうか。単発のプロジェクトに 限らず、継続的な活動では、実績を積みつつ徐々に信頼を得ていくような関 わり方もあるだろう。. 4.3. 繰り返しと組み合わせによる応用と継続. 筆者が関わった様々なデザインプロジェクト間のつながりについても触れ. ておきたい。 デザイナーによっては、どのプロジェクトを見てもそのデザイナーの特徴 が現れるような作品を作り続ける例もある。しかし筆者の場合は、どちらか というと毎回その時その文脈でしか実現できないデザインを志向して実践を 続けてきた。視覚表現が中心とはいえ、関わったメディアも多岐にわたり、 自分で見る限り作風というようなものも特に現れていないように思う。た だ、筆者なりの表現へのこだわりはあり、それは学生時代に培われ、現在の 実践にも繋がっている。 本稿で語ってきた筆者のデザイン経歴から、デザインのための技を抽出し て関係性を表現したものが図7である。緑の円でハイライトした部分が、筆 者のデザインスキルを支えるキーワードだ。筆者の場合、インフォメーショ ングラフィックスという表現についてのスキルと自信が、デザインプロジェ クトを繰り返し進めていく上での核となっている。また、趣味的な活動も表 現の糧となっており、幼少の頃から好きだったアニメーションや人形劇は、 様々な形で実践や研究に取り入れてきた。インフォグラフィックスとアニ メーションを組み合わせて UI に応用したものがダイナミック・インフォグ ラフィックス。エディトリアルデザインをイベントの最中に完結させるた. め、可搬性の高い情報機器を最大限導入して実践したリアルタイムドキュメ ンテーション。グラフィックデザインと図解をその場で手描きで仕上がる. 11.
(10) 12. 特集:社会実践のデザイン学. テーマ ▼. 方法 ▼. 視点 ▼. もの・ことの来歴、 成り立ちを知る. 市民が表現する社会 社会実践型デザインラボ. デザインプロセスの 視覚化. デザイナーが何をしているのかを 知ってほしい. デザインワークショップ デザイン街に出る PJ:地域資源の活用 市民としてのデザイン 街を味わう. 現象学 ナラティブ 地域ならではの 社会構成主義 デザイン 一人称/二人称研究. アウトドア・プログラミング. みんなの木づかいプロジェクト. 次世代デザインの かたちを探る 子どものための プログラミングワークショップ. 国境なきデザイン集団 PJ:デザインの学びに焦点. グラフィックレコーディング. 経験の視覚化. ドキュメントウォール リアルタイムドキュメンテーション 技術を駆使したグラフィックデザイン リアルタイムビデオ リアルタイムペーパー/ブック 手描きのグラフィックデザイン. 活動内容の 情報・価値を 伝える. ワークショップデザイン 博物館展示. 知識の視覚化. モーション グラフィックス. 動的図解表現(博士論文) Dynamic Info-Graphics. デジタル教材開発. デザイン作品制作. Flash/ActionScript Director/Lingo Web. 様々な専門領域に コンテンツを 求める. オリジナルコンテンツを生み出す. インフォグラフィックスベースのインタフェース DTP. 様々な業種の 経営者や社員を取材 ライティング. 広告・宣伝. デザインの 量産、システム化. インフォグラフィックスベースの広告 デジタルメディア開発 コンピュータ・グラフィックス セールスプロモーション. もの・ことの 情報・価値を 伝える. プロトタイピング (パッケージ、POP etc.) プレゼンテーション 3D タイポグラフィ. 情報処理. エディトリアルデザイン. デザインを学ぶ. インフォグラフィックス 建築模型制作. 人形劇. 専門的デザインの 学びを味わう. グラフィックデザインの基礎 映画. アニメーション. イラストレーション. 工作. 音楽. 図7 筆者のデザイン経験の視覚化(時間軸を下から上への流れで表現). チャレンジから始まったドキュメントウォール。デジタルコンテンツと人形 劇を組み合わせたパフォーマンス。この活動を継承し、街の中に展開できる 工作と地域資源の道南スギとセンサーなどを組み合わせた IT 屋台開発。プ. ロジェクトとしては場当たり的なものもあるが、そのアイデアの根底には筆 者の表現に対するこだわりや実験が埋め込まれている。 一般にデザイン手法研究は、複数の手法を手続き的に組み合わせる提案は. 見られる。しかし、現プロジェクトと過去や未来の実践との繋がりに注目し、 シリーズやバリエーションとして応用、転用されたアイデアや技法などの中 にこそ、デザインの実践知が含まれているのではないか。新たなテーマやプ ロジェクトはそれまでの実践の成果や新たなプロジェクトの試作が実社会で 人々の目に触れる機会があればこそ、繋がって進められてきたものである。.
(11) デザイン学研究特集号 Vol.27-2 No.102. 5.実践の中のデザイン知を捉えるために ここまで、「デザインとは何か」を問わずに、「何をデザインと呼んできた のか」という視点から、デザイナーの一人称視点で様々なデザイン実践を概 観することで、デザインの専門性や実践のための知識・技術がどのようなも ので、どのように引き継がれていくかを捉えようと試みた。 紙面の都合もあり、この問いに明確に応えることはできなかったが、長期 にわたって続くデザインプロジェクトの数々を、担当した本人のナラティブ で振り返ってみたことで、いくつかの収穫があった。 まず前提として、そもそも我々は生活者として、ありとあらゆるものやこ とのデザインに関与している。わざわざ共創と宣言しなくても、共創の渦の 中に既に取り込まれてしまっているのだ。そのうえで筆者の場合、デザイン の専門家としてさまざまなデザインプロジェクトを主催、あるいは他者の主 催するプロジェクトに参加してきた。これらのプロジェクトはデザインの フィールドにステークホルダーを呼び込むのではなく、デザイナーである筆 者が相手のコミュニティに飛び込んでいって実践するものであった。した がって、まず対象コミュニティに入っていくための作法を身につける必要が あり、コミュニティを理解するためにそのコミュニティの中に居る、という 状態を作る必要がある。そこからパートナー関係を育み、共創的にそのコ ミュニティを未来に動かしていく活動を行う。こうして、デザインの結果と してものやこととしての成果物が生まれる。何をデザインしたのかは出来上 がった成果物に込められているが、デザインの知はその成果物の生まれる過 程とそのための対話の中にある。筆者が対象コミュニティに居る限りデザイ ンプロジェクトは続く。 プロジェクトの中で、何が、なぜ、どう、デザインされたかを語れるの は、それに携わった人々だけである。その人々=「わたしたち」で構成され るプロジェクトメンバーがデザインを進めていく。この前提によって、プロ ジェクトのオリジナリティは担保されている。そして、その内容を周囲の 人々に伝えるためには、デザインしている姿を直接みてもらったり、活動の 区切りを一つの単位として振り返り物語として説明するなど、デザイン活動 と並行してコミュニケーションの仕組みを創造する必要がある。筆者はこう したデザインの語りを支援する手段として、リアルタイムドキュメンテー ションやデザインプロセスの視覚化をテーマとしたグラフィクデザインの活 用可能性を模索している。 このようなデザインのナラティブを、他のデザイナー、他のデザイナーの 実践についても収集してみたら、そこにはどのようなデザインの姿が浮かび 上がるだろうか。個別のデザインプロジェクトには、それに携わったデザイ ナーにしか見えない景色があるはずだ。 実生活の中の生々しいデザインの中からデザイン知を抽出するために、筆 者らは科研費を利用して「社会実践型デザインラボラトリー」という研究グ ループを立ち上げた[注18]。このチームを活動の要として、様々なデザイ ンプロジェクトを実践し、デザインに必要な知識、技術、態度、これらを省 察するメタ認知、実行のための情熱とその醸成の過程を明らかにしたい。そ のために、以下のような課題に取り組んでいる。 18)当事者デザインを循環させるための社会実践型ラボラ トリーのモデル構築(研究課題/領域番号18K11957) 2018-04-01–2021-03-31. デザインプロセスの記述方法:何をどう残すべきか? デザインプロセスの視覚化:他者でも読み解ける表現方法は?. 13.
(12) 14. 特集:社会実践のデザイン学. デザインプロセス表現を用いたナラティブ:デザイン知の抽出は可能か? デザイン知の応用、活用:抽出されたデザイン知は活かせるか? 本稿もこれらの課題に応えるためのプロトタイプである。 この社会実践型デザインラボラトリーの研究成果は、科研費の成果報告の 他にもデザイン学会の情報デザイン研究部会などを通して、継続的に報告し ていく計画である。.
(13)
関連したドキュメント
ら。 自信がついたのと、新しい発見があった 空欄 あんまり… 近いから。
Google マップ上で誰もがその情報を閲覧することが可能となる。Google マイマップは、Google マップの情報を基に作成されるため、Google
1.実態調査を通して、市民協働課からある一定の啓発があったため、 (事業報告書を提出するこ と)
ファミリーホームとは家庭に問題がある子ど
・如何なる事情が有ったにせよ、発電部長またはその 上位職が、安全協定や法令を軽視し、原子炉スクラ
学校の PC などにソフトのインストールを禁じていることがある そのため絵本を内蔵した iPad
夫婦間のこれらの関係の破綻状態とに比例したかたちで分担額
C :はい。榎本先生、てるちゃんって実践神学を教えていたんだけど、授