• 検索結果がありません。

自己の学びに対する共感的リサーチと共有

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "自己の学びに対する共感的リサーチと共有"

Copied!
6
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)6. 特集:イノベーションデザイン論. 池本浩幸 Ikemoto Hiroyuki 産業技術大学院大学. Advanced Institute of Industrial Technology. 自己の学びに対する共感的リサーチと共有 Project based learning での活用事例. Empathic Self-Analysis and Discussion on Learning Experiences Case Study on a Project Based Learning. 1.はじめに イノベーション創出に資する人材育成の方法としてアクティブラーニン グ(能動的学修)が注目されており、その実践方法として PBL(Problem /. Project based learning)が知られている。. 湯浅らによれば、Problem based learning と Project based learning は、ともに. 現実的な問題に対し少人数のグループで取り組み、教員のファシリテーショ ンとサポートの下で学修者自身が学びをマネージして知識を構築する点が共 通しているが、Problem based learning では学習プロセスが明確に定義され活. 動に反映されるが、Project based learning ではそれが個別の実践に委ねられて いるという違いがあるとしている1)。. 筆者は所属する専門職大学院で Project based learning 型教育を実践してい. る。筆者が主担当教員を務めるプロジェクトのメインテーマは、顧客を含む 様々なステークホルダーの体験価値を重視した革新性のあるサービスデザイ ンの開発であり、2016年度のプロジェクトは終了し、2017年度のプロジェク ト活動を開始したところである。. 2016年度は「IoT を活用した新しいコミュニケーションサービスの開発」. をテーマとして7名の学生がチーム活動を行った。この活動では、これまで 意識しなかった人々のリアルな活動を IoT を用いて検知し、人々の新たなつ. ながりをもたらすコミュニケーションを提供することにより、人が潜在的に 持つ利他的行動を誘発し、環境問題や少子高齢化問題などの社会的課題の解 決に資する革新性のあるサービスをデザインして事業化することが目標で あった。また、2017年度は「人々の体験価値を向上させる ICT を活用した 在宅医療のサービスデザイン」をテーマとして3名の学生がチーム活動を. 行っており、2016年度の成果を踏まえて、患者、家族、ケアスタッフ等、在 宅医療に係わる人々の体験価値に着目し、ICT を活用して、関係者全員が人. 間らしく自尊心を持って行動でき、安心して生活できるようにするための革 新性のあるサービスをデザインして事業化することを目指している。. 本稿では、上記のような革新性のあるサービス創造をテーマとした Project. based learning 型教育において、サービスデザインで行う顧客コンテキストの. 共感的理解の重要性や方法を事前に体得させつつ、プロジェクトメンバーの 相互理解に基づくチーム活動を円滑に進めることを目的として、プロジェク トの初期段階で、学修者に教育での学びについて自身を顧客と捉えた共感的 リサーチを行ってプロジェクト内で共有・議論する方法と、その試行結果お.

(2) デザイン学研究特集号  Vol.25-1 No.97. よび効果について述べる。. 2.Project based learning 型教育. 筆者が所属する専門職大学院の Project based learning 型教育は、数名の学. 生が明確な目標を掲げ、できるだけ実際の業務内容に近いプロジェクトを一 年間で完成させていくプロセスの中で、実社会で真に役立つスキルやノウハ ウを修得させるものであり、次のような特色がある2−3)。 ・高度な業務遂行能力(コンピテンシー)の実践的な獲得 ・実社会の活動に近い大規模なプロジェクト ・産業界の声を取り入れたテーマ設定 ・きめ細やかな指導と客観的基準に基づく成績評価 ・多種多様な経歴のメンバー構成 この教育を通して獲得を目指すコンピテンシー(実社会における個人の能 力を表す概念であり、特にアーキテクトレベルの人材として求められるより 高度な業務遂行能力を表すもの)として、次の3つのメタコンピテンシーと 5つのコアコンピテンシーを挙げている。 〈3つのメタコンピテンシー〉 ⑴ コミュニケーション能力 ⑵ 継続的学修と研究の能力 ⑶ チーム活動 〈5つのコアコンピテンシー(創造技術専攻)〉 ① 発想力:企画アイデア力、実現アイデア力、独創力 ② 表現力:要求定義力、提案力、可視化力 ③ 設計力:機能デザイン力、感性デザイン力、機能と感性の統合力 ④ 開発力:開発準備力、実装力、テスト・問題解決力 ⑤ 分析力:データ解析力、ユーザビリティ評価力、マーケットリサーチ力 この教育手法は、長年の実績と最先端の取り組みによって構築されたもの. であり、社会人学生が多いこの専門職大学院の修了生の高い満足度からも、 実社会で即戦力として活躍できる人材を育成するために有効な教育手法であ ることが立証されている。. 3.自己の学びに対する共感的リサーチと共有 顧客の体験価値を重視した革新性のあるサービスデザインは、図1の「デ ザインドリブンな革新的サービス開発プロセスの実践」に示すように、次の 5つのプロセスで行われる。 ⑴ ビジョン構想(ゴール設定) ⑵ 顧客ニーズの理解(価値定義と課題設定). 図1 PBL 型学修におけるチームビルディングと学修者相互理解の位置づけ. 7.

(3) 8. 特集:イノベーションデザイン論. ⑶ 顧客価値の創出(価値共創コンセプト決定) ⑷ 実現イメージ構築(文脈価値の追求) ⑸ 実現に向けた編成(実現方法の最適化) さらに各プロセスにおいては、目的に応じて、UX デザイン、デザイン思考、. システム開発方法論、設計工学など多様な分野の手法やツールが利用される。 イノベーション創出に資する人材の育成では、実際の体験で裏づけられた 確信を伴う実践知の獲得が重要であり、プロセスや手法の本質を理解した上 で、既存の方法にこだわらず、顧客や環境などに応じて柔軟かつ大胆な発想 で取り組めるようにすることが大切である。特に革新性の高い優れたサービ スを創造するには、サービスデザインの上流段階で、サービスの顧客となる 人々が自身でさえ気づいていないような顧客インサイトを探りあて、共感的 なリサーチによってデザイン機会を見つけ出す必要がある。 そこで、Project based learning 型教育の中で、活動プロセスや手法は学修者. 自らが柔軟に考えられるようにしつつ、共感的なリサーチの重要性や方法を デザインに着手する前に体得できるようにすることを目指し、図1に示すよ うに、前記プロセスの前段階に「0.チームビルディング(活動の定義)」 を入れ、プロジェクトの初期段階で、学修者に教育での学びについて自身を 顧客と捉えた共感的リサーチを行ってプロジェクト内で共有・議論させる方 法を考案した。この方法で用いた様式は次の通りである。 ① 学ぶ自分の共感マップ  個々の学修者が自身の学びに対するインサイトをペルソナとして可視化 しプロジェクトチーム内で共有することが目的である。しかし、ペルソナ 法4)を本格的に行う時間が取れないため、共感マップを簡易ペルソナと して用いた。この様式を図2に示す。  共感マップは、XPLANE 社が開発した顧客インサイトを可視化し共感. 的に理解するためのツールである5)。共感マップでは、⑴顧客は何を見て. 図2 学ぶ自分の共感マップ. いるのか(SEE)?、⑵顧客は何を聞いているのか(HEAR)?、⑶顧客. は何を感じ、何を考えているのか(THINK AND FEEL)?、⑷顧客はど んなことを言いどんな行動をしているのか(SAY AND DO)?、⑸顧客. の痛みとは何か(PAIN)?、⑹顧客の得られるものは何か(GAIN)?、. という6つの視点から顧客インサイトを捉える。 ②  学びに関する人生満足度曲線.  個々の学修者が自身の学びに対するこれまでの体験を、自身の行動や感 情、その時の状況などに注目して自伝的に可視化し、プロジェクトチー ム内で共有し、理想的な学修体験を議論することが目的であるが、カス 図3 学びに関する人生満足度曲線. タマージャーニーマップ6)で用いるようなリッチなフレームは必要ない。 そこで、学修者の自身の学びをテーマとした人生満足度曲線(ライフライ ン)を用いることにした。この様式を図3に示す。人生満足度曲線とは、 自己の人生に対する満足度の時間的変化がどのようなものであったかを、 縦軸を満足度、横軸を誕生から現在までの時間軸としたスケールの中に線 や曲線で描いていくものである7)。 ③  学んだ体験の満足度に対する着眼点  学修者の互いの共感的な理解から意味のある問題定義を導く一方法とし て利用した。この様式を図4に示す。. 図4 学んだ体験の満足度に対する着眼点. ④ 学びに求めるものの構造分析 Why、What、How.  目的と手段からコンセプトを洗練する一方法として利用した。この様式.

(4) デザイン学研究特集号  Vol.25-1 No.97. を図5に示す。 ⑤ 学びで獲得するコンピタンスの現状と目標  なりたい姿のゴールを定量化する一方法として利用した。この様式を図 6に示す。尚、私が指導するプロジェクトではサービスデザインにおける コンピタンスとして、課題発見力、発想力、可視化力、プレゼンテーショ ン力、コーディネート力を独自に定めている。 ⑥ 学びのアウトカムと必要な資源  個々の学修者が持つ学びのためのリソース(知識やスキル)をどのよう 図5 学びに求めるものの構造分析 Why、What、. How. に統合してプロジェクト全体の学びのアウトカムを達成するのかをサービ スドミナントロジック8)の視点から議論することが目的である。この様 式を図7に示す。この様式は、サービスドミナントロジックに基づいて顧 客アウトカムと資源統合の現状からデザイン機会を探る一方法として筆者 が考案した CVCA(顧客価値連鎖分析)をベースにした記述法9) を簡略. 化したものである。. ⑦ ソーシャルスタイル分析  人間が習慣的にとる行動傾向を把握し、相互に支援できるようにするた めの一方法として利用した10)。(様式の図は省略) 図6 学びで獲得するコンピタンスの現状と目標. 4.実施結果 2016年度のプロジェクトチームは多様な経歴(社会人、留学生、新卒学 生)を持つ学修者7名(平均年齢31.7歳、当時)であった。また、2017年度. のプロジェクトチームは、社会人と留学生の学修者3名(平均年齢32.7歳) である。. 前記様式を用いた方法に取り組むにあたり、学修者には個人の内面に立ち 入った情報を扱うため他者に知られたくない情報は開示しないよう、また共 有した情報はメンバー以外には開示しないよう注意した。 どちらの年度においても、学修者の自己リサーチは一週間以内に全員が終 了した。共有と議論の場では、人生観や将来ビジョン、過去の失敗や会社で 図7 学びのアウトカムと必要な資源. の悩みごとなど Project based learning 型教育での学びの範囲を越えた幅広い. 情報の共有がなされた。これにより、プロジェクトチーム内の深い相互理解 が生まれ、信頼感、一体感が醸成されるとともに共感的リサーチの意義や効 用を全員が体得できた。 2017年度のプロジェクトチームは、現在、ビジョン構想の段階にあるた め、プロジェクトが終了した段階で、この方法の有効性について、ヒアリン グを行う計画である。既にプロジェクト活動を終えた2016年度プロジェクト の活動概要と学修者からヒアリングしたこの方法の効果を以下に述べる。 2016年度のチームは、サービスデザインの適用対象として、訪問看護サー ビスにおける看護師と患者およびその家族とのコミュニケーションの問題解 決を選択した。訪問看護サービスは、看護師などが患者の住まいを訪問し て、健康状態のチェック、リハビリ、医療的な処置、家族へのアドバイス、 看取りに至るまで多様な看護を提供し、患者が望む生活をできる限り質の高 い状態で支えるサービスである。高齢社会の到来もあり、そのようなサービ スを提供する訪問看護ステーションは、2017年4月現在で9千か所を超えて いる。 プロジェクトチームは、最初の活動として、サービスの顧客となる人々や ステークホルダーとなる関係者のインサイトを共感的に理解するため、訪問. 9.

(5) 10. 特集:イノベーションデザイン論. 看護師に密着してヒアリングやインタビュー調査を行いつつ、様々な状態に ある患者宅への訪問看護サービスに延べ60回以上も同行してサービス現場の 詳しい行動観察を行った。また、そのような活動から得られた情報や知見に 基づき、サービスデザインの様々な手法を用いて、ビジョンやデザインコン セプトを明確にして行った。カメラを用いたセンサーネットワークシステム の試作や、三次元プリンタによるロボットの制作、およびそれらを使ったプ ロトタイプの評価を経て、最終的に「訪問時間外で訪問看護の質を高めるコ ミュニケーションサービス」として、次のような特徴を持つサービスを開発 し、学修者の一人が経営する会社の事業として実施することになった。 ① 患者とケアスタッフの距離感を適切に保つことが、双方の不安、負担、 不満を解消する鍵であり、つかずはなれず見守ることをコンセプトとし て、センサーと連動して関係者をサポートするコミュニケーションロボッ トを試作した。コミュニケーションロボットの試作結果を図8に示す。 ② 上記サービスを導入し、訪問看護と訪問介護をハイブリッドで行う住宅 型有料老人ホームを新設し、入所者、家族、ケアスタッフ等の関係者全 員が満足できるビジネスをスタートする。(第一号施設を建設中) プロジェクト活動を終えた2016年度のメンバーに、チームビルディングと して行った自己の学びに対する共感的リサーチとメンバーとの共有につい 図8 プロジェクトで試作したロボット. て、その効果をヒアリングした。サービスデザインで行う顧客コンテキスト の共感的理解の重要性を理解し、その方法を事前に習得できたとする意見の ほかに、以下に要約するような意見があった。 ① 深刻な意見の対立が何度かあったが、プロジェクト活動を通してメン バーが何を得ようとしているのかを共有できていたので、相互理解の上 で全員が満足する解を出すことができた。 ② 内容によっては特定のメンバーだけに作業が集中することが起きたが、 メンバーが学んできたものを共有していたので、どのような作業であっ ても誰にでも発揮できる力があると考え、関連する作業をうまく分担 し、全員参加で取り組むことができた。 ③ この方法は、指導教員がチーム活動で起きうる上記のような問題を想定 し、それを解決できるよう予め実施してくれたものだと確信し、その期 待に応えようと考えた。 ヒアリングで得られたこれらの意見から、自己の学びに対する共感的リ サーチと共有が有効に機能したことが分かる。. 5.まとめと課題 筆者が指導している教育の一事例ではあるが、革新性のあるサービス創造 をテーマとした Project based learning 型教育の初期段階において、学修者が 教育での学びについて自身を顧客と捉えた共感的リサーチを行うことによっ て、サービスデザインで行う顧客コンテキストの共感的理解の重要性や方法 を事前に体得できることを確認した。また、リサーチ結果をチーム内で共 有・議論することによって、個々のプロジェクトメンバーの学びに対する考 えの背景にある欲求や困りごとを相互に理解し合うことができ、プロジェク トにおける様々な問題を解決し、チーム活動を円滑に進めることができるこ とが分かった。 一年間に亘って学生を指導した立場から考察すると、この方法を用いれば 誰でも上記のような望ましい効果が得られるわけではないと思われる。プ.

(6) デザイン学研究特集号  Vol.25-1 No.97. ロジェクトメンバーは、Project based learning 型教育に高いモチベーションを 持って参加していたほか、次のようなマインドセットを持っていた。 ・事実に共感した上で、新たな問題提起をしようと常に考えていた ・対立を乗り越えて、全員が満足する結果を出そうと前向きに考えていた ・自分たちは、創造的なものづくりで、必ず成功できると確信していた ツールやそれを使いこなすスキルがあっても、このようなマインドセット がなければ、それを活かすことはできない。プロジェクトの初期段階で行う 自己の学びに対する共感的リサーチと共有は、このようなマインドセットを 持つプロジェクトチームで実践してこそ効果を発揮するものと思われる。 以上は、筆者が所属している専門職大学院での事例と考察に過ぎない。本 稿で述べた方法を、イノベーション創出に資する人材育成の方法に発展させ られるよう改良しつつ実践事例を増やしていく。 参考文献 1)湯浅且敏,大島 純,大島律子:PBL デザインの特徴とその効果の検討,静岡大学情報学研 究,16,pp. 15-22,2011.. 2)川田誠一:専門職大学院大学における産業技術分野の横断型人材育成 ─ 産業技術大学院大学 における事例 ─,横幹,Vol. 8,No. 2,pp. 58-61,2014.. 3)三好きよみ,川田誠一:産業技術大学院大学における横断型人材育成とキャリアアップ 情 報アーキテクチャ専攻で学んだスキル・コンピテンシーをビジネスに活かす,横幹連合コン ファレンス予稿集,pp. 40-45,2011.. 4)ジョン . S. プルーイット,タマラ . アドリン著,秋本芳伸ほか訳:ペルソナ戦略 マーケティ ング,製品開発,デザインを顧客志向にする,ダイヤモンド社,2007.. 5)アレックス・オスターワルダー,イヴ・ピニュール著,小山龍介訳:ビジネスモデル・ジェ ネレーション ビジネスモデル設計書,翔泳社,2012.. 6)スティックドーンほか著,郷司陽子訳,長谷川敦士,武山政直,渡邉康太郎日本語版監修:. This is Service Design Thinking.: Basics-Tools-Cases:領域横断的アプローチによるビジネスモデ ルの設計,ビー・エヌ・エヌ新社,2013.. 7)河村茂雄:心のライフライン ─ 気づかなかった自分を発見する,誠信書房,2000. 8)R.F. ラッシュ,S.L. バーゴ著,井上崇通訳:サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用, 同文舘出版,2016.. 9)池本浩幸:CVCA を活用したサービスデザイン着想支援,情報処理学会全国大会講演論文集, 78号,pp. 4.35-4.36,2016.. 10)Merrill, D.W., & Reid, R.H.: Personal Styles & Effective Performance. Boca Raton, Fla.: CRC Press, 1981.. 11.

(7)

参照

関連したドキュメント

1.基本理念

共助の理念の下、平常時より災害に対する備えを心がけるとともに、災害時には自らの安全を守るよう

1.はじめに

金沢大学における共通中国語 A(1 年次学生を主な対象とする)の授業は 2022 年現在、凡 そ

本来的自己の議論のところをみれば、自己が自己に集中するような、何か孤独な自己の姿

国民の「知る自由」を保障し、

Our aim was not to come up with something that could tell us something about the possibilities to learn about fractions with different denominators in Swedish and Hong

職員参加の下、提供するサービスについて 自己評価は各自で取り組んだあと 定期的かつ継続的に自己点検(自己評価)