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大阪府能勢町棚田における緑肥利用による水稲の持続的安定生産に関する研究

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Academic year: 2021

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Copyright 近畿作物・育種研究会(The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan) 43

緒  言

 山間部の過疎化に伴う農業労働力減少で,棚田の放棄水 田がそのまま荒地となり,農業生産環境の悪化を助長して いる.一方で,国内の棚田を保全するために様々な活動や 試みが地域で実施されてきている.著者らは大阪府の北部 の能勢町神山の棚田で,ボランティアの方たちの助けによ り,約 20 年間耕作が放棄されてきた水田の再生に 2010 年 から取り組んできた.当初は生態保全について考慮し減化 学肥料・減農薬で栽培した.その結果,水稲栽培では品種 の選定を適切に行うことにより,大阪平野部での水稲栽培 と比較しても大幅な減収にならないことを実証した(瀧野 2011).しかし,再生から 2 年が経過し,今後さらに減化 学肥料・減農薬栽培を続けると地力が減る一方で,登熟期 の気温が低いことも原因して減収をもたらすことが推察さ れた.そこで本研究では,土壌に緑肥作物(ナタネとレン ゲ)を鋤きこみ,有機物を増加させることにより,収量が 持続的安定的に得られるか数種の水稲を用いて試験栽培を 行った.また棚田の景観について品種特性と環境との調和 を踏まえて考察した.

材料と方法

 試験水田は既報(瀧野 2011)と同様に大阪府能勢町神 山の棚田の高度の異なる 3 水田(能勢:上段 213m2,中段 385m2,下段 699m2)と堺市に存する本学教育研究フィー ルド内の約 660m2の水田(府大)とした(第 1 表).供試 品種は水稲 4 品種を用い,緑肥作物を能勢ではナタネ(N: P:K=0.7:0.4:1.1),府大ではレンゲ(N:P:K=0.5:0.1: 0.4)(日浦 1982)とした(第 1 表).ナタネとレンゲの播 種は 2012 年 11 月初旬に行った.播種量は,慣行の 3kg/ 10 a とした.また緑肥の鋤き込みは移植の約一カ月前に 行った.移植は能勢で 2013 年 5 月 15 日に手植え(栽植密 度 16.6 株/m2)し,府大では 5 月 22 日で機械植え(栽植 密度 20.0 株/m2)した.除草剤の散布を能勢では 1 回(6 月 10 日)に行い,殺虫剤は省いた.府大では,除草剤の 1 回(6 月 15 日)施用とし,殺虫剤は省いた.施肥は両地 点の水田で無肥料とした.調査として,生育および収量調 査を 20 株について行った.調査方法は既報(瀧野 2011) に準じた.さらに気象観測および土壌分析を行い,気象観 測は既報(瀧野 2011)と同様の方法で行った.土壌分析 は移植前と収穫後の 2 回で,土壌の作土層を各水田につき 3 地点で採取して行った.

大阪府能勢町棚田における緑肥利用による

水稲の持続的安定生産に関する研究

簗瀬雅則

1)

・原田早妥佳

2)

・森川利信

1) 1)大阪府立大学大学院生命環境科学研究科(〒 599−8531 大阪府堺市中区学園町 1−1) 2)大阪みどりのトラスト協会(〒 541−0054 大阪府大阪市中央区南本町 2−1−8) 要旨:著者らは大阪みどりのトラスト協会との連携で環境保全の立場から,大阪北部の山間部に位置する能 勢町神山の放棄棚田(能勢水田)において 2010 年より水田再生を試みた.2010 年と 2011 年では無施肥栽 培での結果,水稲作として再生可能であることが明らかとなった.但し,大阪平野部の中央に位置する(府 大)水田との収量比較では,供試 4 品種において能勢水田が少なくなった.本試験では能勢水田で緑肥を利 用して,その効果を検討した.その結果,特に早生の 2 品種において府大水田と同等の収量が得られたが, 早生・晩生各々 1 品種では府大水田より劣る結果となった.しかし赤モチは出穂期に鮮やかな赤色の穂を現 し,棚田景観保全の一助となった.以上のことから,緑肥を利用することにより,早生品種においては収量 確保の効果が一部確認できたが,品種によらずその効果を安定させるためには土壌および植物体の今後の詳 細な分析・検討が必要である. キーワード:品種,環境保全,緑肥,収量,棚田 2014 年 5 月 15 日受理 連絡責任者:簗瀬雅則([email protected]) 作物研究 59:43 − 46(2014)

資 料

第1表 供試品種と緑肥の有無

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結果と考察

 本研究では,能勢および府大の両地域で減農薬栽培を 行ったが,両地域とも特に目立った病虫害および雑草の被 害は確認できなかった.また緑肥の生育状況は能勢におけ るナタネの苗立ち歩合が低く生育量も少なく,府大でのレ ンゲは生育量が多くなった.ナタネは播種後すぐの 11 月 上旬の気象条件の寒冷化が,発芽に悪影響を及ぼしたもの と考えられる.また今回ナタネとレンゲの使い分けた理由 は,能勢では夏の気象条件だと府大より気温が低く,比較 的分解されやすいと考えたナタネを使った.  気象観測の結果を第 1 図および第 2 図に示した.第 1 図 では両地点の栽培期間中の平均気温と日較差を示した.栽 培期間中の平均気温は能勢の方が府大に較べて,2 ∼ 3℃ 低く推移した.栽培期間中の日較差は,7 月下旬から 8 月 上旬と 9 月中旬以降で能勢の方が大きく推移した.第 2 図 の日射量では,7 月上旬以降,能勢の方が低く推移した.  供試品種の出穂日を第 2 表に示した.いずれの品種にお いても能勢では府大に較べて 2∼7日が出穂が遅くなった. また,能勢および府大とも早い出穂順で朝紫,キヌヒカリ, モチミノリ,赤モチとなった.  両試験地における供試 4 品種の収量データを第 4 表に示 した.そのうち m2当たり穂数と m2当たり籾数は,供試 品種全てにおいて能勢で府大に較べて少なくなった.この ことは,栽培期間中の平均気温は能勢が府大に較べて常に 2 ∼ 3℃低く推移していたこと(第 1 図)との関係が推察 される.また早生の 3 品種の登熟歩合は,能勢で府大より 高くなった.特にキヌヒカリにおいて有意差を示す結果と なった.これは 7 月下旬∼ 8 月上旬の日較差が能勢で府大 より大きくなり(第 1 図),登熟期の気象条件が好条件で あったためと推察される.しかし,晩生の赤モチの登熟期 間は出穂期後約 45 日間のため,9 月に入ってからの期間 は能勢では気温(第 1 図)および日射量(第 2 図)とも府 大より低く推移したことから,赤モチの登熟条件には不十 分な気温であったと考えられる.登熟歩合および,籾千粒 重も低下し,低収量の大きな要因となったと考えられる.  またこれまでの他の調査結果では,朝紫の標準的な栽培 での収量は 450g/m2で,穂数は 325 本/m2となっており(猪 谷 2000),本研究での能勢での朝紫の収量は 311g /m2で, 穂数が 272 本/m2と少なくなった.また赤モチについては 標準的な収量は 436g /m2で,穂数は 422 本/m2であり(高 田 2002),本研究での能勢の赤モチの穂数は 413 本/m2 同程度であったが,収量は 324g /m2と 100g /m2ほど小さ くなった.この減収要因として,籾数および千粒重の低下 が推察される.  土壌分析データを第 3 表に示した.移植前と収穫後に能 勢および府大で土壌を採取し分析し,全窒素と全炭素およ び C/N 比を示した.移植前の C/N 比が,能勢で 10.0 ∼ 10.8,府大で 9.2 と,府大の方が低くなった.このことは, 能勢の土壌が粗粒有機物をより多く有している可能性を示 唆している.さらに今後も採取点数および回数を増やすな どして,土壌の詳細な分析が必要であると考えられる.能 勢では府大のレンゲに較べて N,P,K とも含量の多いナ タネを鋤きこんだ.しかしナタネの生育状況を観察した結 果,レンゲとは大きな生育量の差が見られた.それにも関 わらず両水田のキヌヒカリとモチミノリは,それぞれ同等 作物研究 59 号(2014) 第 1 図 両試験地における栽培期間中の平均気温と日較差.

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45 の収量を示した.両地域におけるナタネおよびレンゲの緑 肥としての効果はさらに検討する必要がある.  土壌の移植前と収穫後の C/N 比を較べると,能勢が府 大より C/N 比が多くなっていたことから,能勢で土壌中 の窒素がより有効に植物体に多く吸収された可能性は考え られる.しかし直接的および実証的な結果は示されていな いので,植物体の窒素含有量や SPAD 値などの分析が必要 であると考えられる.  本研究の大きな目的の一つとして棚田景観保全がある. これに対応できる赤モチは見事な赤色を呈し,周辺の森林 景観と同調していたと思われた.したがって,能勢の朝紫 および赤モチの収量性は,あまり高くは期待できないが, 棚田景観に合う品種と考えられる. 大阪府能勢町棚田における緑肥利用による水稲の持続的安定生産に関する研究 第 2 図 両試験地における旬毎の平均日射量. 第2表 供試品種の出穂日(2012 年) 第3表 移植前と収穫後における土壌中の全窒素含有量および全炭素含有量と C/N 比

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引用文献

猪谷富雄 (2000)“赤米・紫黒米・香り米 −「古代米」の品種・ 栽培・加工・利用−” 農文協,東京.1−160. 高田 聖・坂田雅正・岩崎昭雄(2002)紫黒米品種‘朝紫’ の収量および機能性成分に及ぼす登熟温度の影響 日作 四国支報 39:22−23. 瀧野 博・原田早妥佳・天満和久・簗瀬雅則・森川利信(2011) 古代米品種を活用した大阪府能勢町における耕作放棄棚 田の再生と保全.作物研究 56:89−91. 日浦 晃(1982)“農業必携.自給肥料”.全国高等学校農 場協会 東京 p154.

The effect of green manure on the continuous consistent rice production in terrace paddy

field at Nose town of Osaka.

Masanori Yanase1), Sanae Harada2)and Toshinobu Morikawa1)

1)Graduate School of Life and Envioronmental Sciences, Osaka Prefecture University

 (1−1 Gakkuen-cho, Naka-ku, Sakai 599−8531, Japan)

2)Foundation of Osaka Green Trust(2−2−2 Minamihonmachi Chuo-ku Osaka city 541−0054, Japan)

Summary: The regeneration of abandoned terraced paddy field in Nose was tested from 2010 in collaboration with the Association of Osaka Green Trust and Osaka Prefecture University from the standpoint of environmental preservation. It became clear for the field to be able to produce a rice crop again as a result of unfertilized cultivation in 2010 and 2011. However, yield comparison with the paddy field located in the center part of the Osaka Plain (Osaka Prefecture Univ.) showed lower yield in the Nose paddy field in all 4 varieties. The effect of green manure was examined by experiments at the fields in Nose and Osaka Prefecture Univ. The results that two early varieties showed similar yield between both fields while one early and one late variety showed lower yield in Nose, suggesting further study is necessary to address the effect of green manure. Nevertheless, the late variety ‘Akamochi’ red rice cake expressed the skillful red ear, and became an aid of landscape preservation for terraced paddy fields during grain filling period.

Key words: Green manure, Yield, Terraced Paddy Field, Varieties,

Journal of Crop Research 59 : 43 − 46(2014) Correspondence : Masanori Yanase([email protected]) 作物研究 59 号(2014)

参照

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