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酒米の高温障害を軽減する栽培支援システムの開発

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Academic year: 2021

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Copyright 近畿作物・育種研究会(The Society of Crop Science and Breeding in Kinki, Japan) 63

1.はじめに

 兵庫県は日本酒の原料である酒米の日本一の産地で,特 に酒米品種「山田錦」は,県南東部で 3,630ha(2012 年) の作付けがあり,生産量は全国の酒米の 23.1%を占め,質, 量ともに日本一の酒米と評価されている.  一方,最近の温暖化の影響により,「山田錦」では米の 充実不足や白未熟粒による検査等級の低下や酒造適性の変 化が問題となっている.兵庫県立農林水産技術総合セン ター酒米試験地(兵庫県加東市沢部)の気象感応調査にお いて,温暖化の影響と推測される生育などの変化が認識さ れ始めた 1998 年前後の 10 年間を比較すると,1998 年以 降は出穂期が 2 日,成熟期は 7 日も早くなり,穂数も 10%増加し,平均気温も移植期から出穂期は 0.4℃,出穂 期から成熟期は 2.1℃も上昇している.「山田錦」の産地で は温暖化適応策として登熟期間の高温を回避するために遅 植えを実施しているが,産地の気象情報や品質と気象との 関係などの科学的な情報が不明確であるため,遅植えのた めの最適な移植期を決定することが困難で,的確な適応策 が実施できていない.そこで,兵庫県立農林水産技術総合 センター,宮崎大学農学部,(独)農研機構・近畿中国四国 農業研究センター及びみのり農協の 4 機関は,2010 年度 から 2012 年度の 3 年間に農林水産省の「新たな農林水産 政策を推進する実用技術開発事業」において,高温障害を 受けにくい最適移植期を決定できる生産支援システム「山 田錦最適作期決定支援システム」や週間天気予報から白未 熟粒の発生が予測される圃場を表示する「山田錦高温障害 警戒システム」を開発し,2013 年度から「山田錦」産地 へ普及を図っている.本報告では開発した 2 つの栽培支援 システムの概要と「山田錦」産地での温暖化適応策の課題 を紹介する.

2.「山田錦最適作期決定支援システム」の概要

 「山田錦最適作期決定支援システム」(第 1 図)は名前の とおり,「山田錦」の玄米品質や酒造適性などの品質にお いて最適な登熟条件となる出穂期に出穂させるための移植 栽培での移植期,直播栽培での播種期という作期の決定を 支援するシステムである.システムの構成は,兵庫県の「山 田錦」産地の 50m メッシュ単位の日平均気温データベー スと最適な作期を推定,表示するプログラムからなる.最 適な作期の推定は「山田錦」発育動態予測モデル(須藤ら 1992)を適用し,最適な出穂期から遡及的に移植期を予測 する.発育動態予測モデルには生育圃場の日平均気温デー タと日長データが必要である.日長データは天文日長で圃 場の緯度より求める.生育圃場の日平均気温データは, Ueyama(2008)の手法を応用し,温暖化の傾向が認められ る 1996 ∼ 2010 年の 15 カ年の 4 ∼ 11 月の日平均気温の平 均値を用いて,兵庫県南東部の「山田錦」産地を網羅する 標準地域2次メッシュ 17 エリアを対象に 50m メッシュ単 位で開発した.  「山田錦」において品質や酒造適性が最適となる登熟条 件を明らかにするために,登熟期間の気温と玄米品質や酒 造適性との関係を調査した.「山田錦」の玄米品質や酒造 適性は登熟期間の中でも生育初中期の出穂後 11 ∼ 20 日目 までの 10 日間の気温との関係がいずれの形質においても 強いことが認められた.この期間の平均気温が 23℃以下 の場合,検査等級は特等以上となり,酒造適性の消化性を 示す糖度は 10 度以上となった.以上の調査結果から,「山 田錦」の最適な登熟条件を出穂後 11 ∼ 20 日目の 10 日間 の日平均気温が 23℃以下であることとし,50m メッシュ 単位の気温情報とともにシステムの基盤情報として組み入 れた.  システムは Microsoft 社の表計算ソフトウェア「Excel」 で操作し,その操作手順は,対象圃場の緯度と経度情報の 入力から始める.その位置情報の入力から該当する 50m メッシュの日平均気温データベースが検索される.緯度,

酒米の高温障害を軽減する栽培支援システムの開発

池上 勝・加藤雅宣

兵庫県立農林水産技術総合センター(〒 679−0198 兵庫県加西市別府町南ノ岡甲 1533) 要旨:兵庫県立農林水産技術総合センター,宮崎大学農学部,(独)農研機構・近畿中国四国農業研究センター 及びみのり農協の 4 機関は,近年の高温障害で品質低下が問題となっている兵庫県の酒米品種「山田錦」に おける温暖化適応策として 2 つの栽培支援システムを開発した.開発したシステムは,高温障害を受けにく い最適移植期の決定を支援する「山田錦最適作期決定支援システム」と週間天気予報から白未熟粒の発生が 予測される圃場を表示する「山田錦高温障害警戒システム」である. キーワード:水稲,酒米,山田錦,温暖化適応策,栽培支援システム 2014 年 4 月 30 日受理 連絡責任者:池上 勝(Masaru_Ikegami@pref.hyogo.lg.jp) 作物研究 59:63 − 65(2014)

総 説

(2)

64 経度情報は「Google Maps」などのウェブ上の地図サービ スからも取得可能である.その後,苗の種類として稚苗か 中苗を選択し,計算を進めると第 1 図に示すように最適な 移植期と出穂期が表示される.  システムは 2013 年度から兵庫県の「山田錦」産地の関 係農協や農業改良普及センターに配布し,利用されている. また,三木市吉川町地域においては,システムにより予測 した移植日の等値線図を「移植日マップ」として生産農家 約 730 戸に配布した.

3.「山田錦高温障害警戒システム」の概要

 気象庁の週間天気予報などの気象予測情報を利用して, 「山田錦」において高温障害による乳白米や背白米などの 白未熟粒の発生を予測するシステムとして「山田錦高温障 害警戒システム」(図 2)を開発した.「山田錦」では出穂 後 11 ∼ 20 日目の 10 日間の平均気温が 26.5℃以上になる と白未熟粒が多発することが明らかになっており(池上ら 2011),このシステムは「山田錦」産地の 50m メッシュ単 位の気温データベースと神戸地方気象台が発表する週間天 気予報における最高及び最低気温の情報を利用して,白未 熟粒の多発が予測される地域を地図上に赤色で表示する. 現在,システムの対象地域は「山田錦」産地の中で三木市 に限定されているが,2013 年度より関係農協で利用が開 始されている.「山田錦」で出穂後 11 ∼ 20 日目の登熟期 間に当たる 9 月 1 半旬∼ 2 半旬の約 1 週間前から神戸地方 気象台の発表する週間天気予報の気温情報をホームページ 上から入手し,システムに取り込み予測を開始する.

4. システムを利用した高温障害を軽減する栽培支

援と課題

 森田(2011)は,高温登熟障害を克服する技術を高温回 避技術と高温耐性強化技術に分類し,さらに各技術の内容 を予防的技術と治療的技術に分けている.遅植えは高温回 避技術の予防的技術に分類されており,「山田錦最適作期 決定システム」は予防技術を支援するシステムである.そ して,治療的技術の実施が必要かどうかの判断の参考情報 を提供するのが「山田錦高温障害警戒システム」である. 開発した 2 つのシステムが「山田錦」における高温障害を 軽減する栽培支援につながることを期待したい.  高温障害を軽減する根本的な栽培支援とは,その年の気 象に即応できる効果の大きい治療的技術の開発である.現 在,水稲で出穂期以降に治療的に対応できる技術は穂肥の 調節により登熟期の窒素栄養条件を高める方法や落水時期 の遅延などである.また,「山田錦」については効果の科 学的検証が不十分であるが,夜間入水が白未熟粒の発生を 軽減することを確認している(竹下 2014).開発した「山 田錦高温障害警戒システム」が効果を発揮するには,より 効果的な治療技術が必要である.今後,高温障害を軽減す るための効果的な栽培技術の開発に取り組む必要がある.

引用文献

池上 勝・藤本啓之・小河拓也・青山喜典・大塩哲視・加 藤雅宣・須藤健一・土田利一・平川嘉一郎・矢野義昭・ 荒木悦子・植山秀紀・芦田かなえ・竹下伸一(2011)酒 米品種山田錦における白未熟粒の発生と登熟期間の気温 作物研究 59 号(2014) 第 1 図 山田錦最適作期決定システム概要図. 第 2 図 高温障害警戒システムによる表示例. 注:高温障害の発生が予想される地域(白線で 囲んだ部分)が赤色に表示される.

(3)

65 との関係.日作紀 80(別 2):208−209. 森田 敏(2011)イネの高温障害と対策−登熟不良の仕組 みと防ぎ方−,農文協,東京,100−123. 須藤健一・池上 勝・中川博視・堀江 武(1992)水稲の発 育動態予測モデルによる酒米品種「山田錦」の出穂期予 測.近畿作育研究 37:12−15. 竹下伸一(2014)夜間かけ流しによる酒米・山田錦の高温 障害対策.技術普及,51(2):64−65.

Ueyama, H. (2008) Estimating monthly mean air temperature using a radiative cooling scale. Theor.Appl.Climatol. 94: 175 −185.

酒米の高温障害を軽減する栽培支援システムの開発

Development of Cultivation Support System to Reduce the High Temperature Damage

to Rice Grain of Sake-brewing Rice

Masaru Ikegami and Masanobu Kato

Hyogo Prefectural Technology Center for Agriculture,Forestry and Fisheries (1533 Minaminookakou, Befu, Kasai, Hyogo, 679−0198, Japan)

Journal of Crop Research 59 : 63 − 65(2014) Correspondence : Masaru Ikegami(Masaru_Ikegami@pref.hyogo.lg.jp)

参照

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