Ⅰ.はじめに
本稿は,地方の私立短期大学(所属:鳥取短期大学 生活学科 情報・経営専攻)における経済ゼミナール 教育の実践(2008 〜 2012 年度)の紹介を目的として いる。 周知のように,短期大学は 4 年制大学とは異なり 2 年間での修学が基本となるため,その学習内容を専門 的に深めることが難しい。また学生の高校別の出身を みると,本専攻の場合,普通科よりも実業系(商業・ 工業ほか)が多いため,基礎学力の質にばらつきが見 られる。1)さらに短期大学の性質上,より就業を意識 した能力の獲得に比重が置かれるため,経済学的な専 門性よりも資格や検定などの実学的な能力が求められ る傾向にある。したがって,短期大学の場合,経済的 専門性を深める時間が決定的に不足する状態となって いる。換言すれば,専門学習を通した学生の主体形成 (考える力・生きる力など)を育みにくい現状がある といえる。全国的にもそのような問題を抱えている短 期大学は少なくないだろう。 その中で,改めてゼミナール教育の重要性が増して きているのが近年の状況である。さらに,地方の大学 においては,多様な意味で「地域」関連科目の取り扱 いが大きな焦点となっているのが全国的な傾向だろう。 本稿では,このような状況認識のもとで実践した自身 のゼミナール教育の到達と課題などを記録的に述べて いきたい。Ⅱ.カリキュラムと「特別研究」
鳥取短期大学 生活学科 情報・経営専攻の「特別研 究」とは,一般的にいうゼミナール教育(以下,「特 別研究」と示す)のことである。この科目は 2 年次通 年科目(必修科目)として設置されている。いわば, 4 年制大学でいう卒業研究に相当するものである(表 1)。 この科目は,「問題発見・解決能力及び表現能力」 の獲得を狙ったもので,他の履修科目で培われた知識 や技能を高度化・専門化するための基幹科目としてカ リキュラム上に位置付けられている。つまり,1 年次 に修得した知識や技能を,ゼミナール教育を用いてレ ベルアップさせることがその主な目的である。各指導 教員はそれぞれの専門分野を活かしながら,少人数制 の教育を行っている。筆者の場合,本科の担当科目と して,経済学・経営学・キャリアプランニングなどが あるため,「特別研究」ではその分野に関連した専門 教育を行っている。 また本専攻の場合,普通科,実業系(商業・工業ほ か)などの多様な学生構成による入学時の習得知識の ばらつき,国語・数学・社会などの基礎的学力の差 異2)や,短期大学特有の多忙感(1 年次後期には就職 活動を意識せざるをえないため,1 年次前期からなる べく多くの単位を履修することが望まれること,資格 や検定取得に費やす時間を確保せざるを得ないことな ど)から,「特別研究」の前半期(2 年次前期)は専 門性を深めることよりも,1 年次に学習した基礎的知 識・技能の復習に多くの時間があてられることになる。 したがって,「特別研究」における専門性の深化は, 2 年次後期に集中して行わざるをえないのが実状であ る。その結果,卒業時点での専門性の到達度は,4 年 制大学の卒業研究等と比較すると,授業担当者の立場 からは不満の残るものとなっている。3)また他の担当 者からも,専門的な知識や考え方を深める物理的な時 間が足りないという声が聞こえてくる。このような中 で,本専攻では,カリキュラム全体の再編成や各授業Instructional Practice
The Journal of Economic Education No.32, September, 2013実践記録
地方の私立短期大学における
経済ゼミナール教育の実践
─「地域」キーワードの導入・展開を中心に─
A Practice of the Economic Seminar in a Local Private College
表 1 鳥取短期大学 生活学科 情報・経営専攻のカリキュラム(平成 25 年度入学生用) 1 年次カリキュラム 2 年次カリキュラム 教養科目 1 年次前期 1 年次後期 2 年次前期 2 年次後期 日本国憲法 日本語 A 労働と人生 韓国・朝鮮語Ⅱ 人間学 国際関係論 人権論 実践スポーツ ヒトと科学 日本語 B 心理学 芸術 英語 A 健康科学 山陰論 実践スポーツ ドイツ語Ⅰ 英語 B 健康科学 中国語Ⅰ ドイツ語Ⅱ 韓国・朝鮮語Ⅰ 中国語Ⅱ 専門教育科目 基礎共通系 ●経済学 基礎数学 プレゼンテーション演習 基礎統計 ビジネス文書演習 ●基礎ゼミ 人間関係論 表計算演習 ●キャリアプランニング コミュニケーション ●文章表現演習 ●ライフデザイン ビジネス 実務系 基礎簿記 生活と法律 経営学 ●現代社会論 資格簿記 A 簿記Ⅰ 中小企業論 地域経済論 資格簿記 B ●生活経済学 ●ビジネス実務概論 企業の法律 ビジネス実務実習 簿記Ⅱ コンピュータ会計 ビジネス実務実習 ビジネス実務演習 A ビジネス実務演習 B 情報処理系 ●情報処理総論 ●ウェブデザインⅡ ウェブデザイン演習 ウェブプログラミング演習 ●情報処理実務 デザイン論 プログラミング プログラミング 情報数理 資格情報処理 A 資格情報処理 C データベース ネットワークの基礎 資格情報処理 B マルチメディア演習 ●ウェブデザインⅠ コンピュータグラフィックス 特別演習 プロジェクト演習(情報) ●特別研究 ●特別研究 プロジェクト演習(ビジネス) 出所: 「鳥取短期大学 カレッジガイド 2014」より作成。 注 1:●は卒業必修科目。 注 2:就職対策講座や海外研修などの特別科目,図書館司書科目は記載していない。
科目内容の高度化を模索しつつ,「特別研究」に対す る重要性を高め,授業内容の改善を図ることで学生の 学習成果の向上に向けた努力を続けている。今回取り 上げる実践事例も,現代の学生像やニーズ,大学のカ リキュラム・ポリシーにそって授業内容を再編成した ひとつの例である。
Ⅲ.研究テーマの「自由選択制」と「地域」
キーワードの導入
そのような状況下で,筆者が学生の学ぶ意欲を最大 限に引き出し,学生の専門性や「生きる力」を伸ばす 方策として考案したものが,研究テーマの「自由選択 制」である。「自由選択制」といっても何か新しい特 別な方法ではなく,それは単純に研究テーマの決定に 関わる裁量の多くを学生に委ねるというものである。 しかし,教員が責任をもって指導できる専門領域には 限界があるため,許容範囲・条件を設けその中で学生 に選択・決定してもらった。それらの範囲や条件は以 下の通りである。 それは,「経済・経営など,広くビジネスに関する 分野ならばどのようなジャンルを選択してもよい」, または「自分の将来的な進路に役立つ分野ならばどの ようなジャンルを選択してもよい」というものである。 いかなるゼミナールにおいても,研究テーマについて は,指導教員がおおよその見通しと方向性をもって学 生に決定させるのが一般的であろう。しかし,筆者の 場合は,上記の条件に学生が従う限りにおいて,自分 の指導範疇を超えない限りにおいて,学生の自主性を 尊重する指導方針で臨んだ。本学の学生を想定した場 合,「選択に対する自由と責任」を与えた方がより自 主性を喚起できると考えたからである。その結果, 2008 〜 10 年の特別研究論文テーマに関して,学生は 表 2 のテーマを導き出し,研究を行うこととなった。 研究テーマの「自由選択制」を導入したことにより, 学生の学習意欲の向上,研究に対するモチベーション の維持について,学内の授業評価アンケートの結果か らすれば,ある程度満足度の高いものとすることがで きた。これを筆者なりに解釈すると,最近の学生は, 短大入学以前の生活の中で「選択に対する自由と責 任」を実感する経験が乏しいため,研究テーマを自分 自身で選択するという行為自体を魅力的なものとして 感じているようだ。4)また自己の知的好奇心を満たし つつ学習できることも学生側にとって大きなメリット となっている。 しかし,指導する教員の専門分野は,非常に限定さ れた狭い領域であるから,「自由選択制」を導入する ことによって,教員が学生を指導するための事前の学 習量・事前の資料準備も膨大にならざるをえなかった。 また本学の場合,資料の調べ方・本の読み方・まとめ 方・発表の仕方について未経験の学生が多数を占めて おり,当然,それらの指導に費やす時間が多くなった。 したがって,教員としての労働が過密化する中で,こ の「自由選択制」によるゼミナール運営も次第に重荷 となっていった。 さらに,上記の自由選択制は「学生の学ぶ意欲の向 上,研究に対するモチベーションの維持」という観点 からみれば,一定の成果を残してはいるものの,専門 性を深めることには限界があった。なぜなら,自分で テーマを選択しているとはいえ,基礎資料の検索や提 示については教員が行っていたため,研究スタイルが どうしても受動的になってしまい,指示された内容を 超えて研究に没頭することができなかったからである。 表 2 2008 〜 2010 年度の特別研究テーマ一覧 2008 年度 1 経営学の基礎理論と概要 2 原油価格変動の原因と影響 3 トヨタ生産方式について~ジャスト・イン・タイムとかんばん方式~ 4 台湾経済史について 5 ワーキングプアの現状と対策 6 食料自給率低下と米の新規活用法 7 任天堂の発展とその背景 8 プレミアリーグのクラブ経営~放映権料を中心として~ 2009 年度 1 オイルメジャーの再編と企業行動~ ExxonMobil を中心に~ 2 婚活の現在~こんかつのいま~ 3 電力買取補償制度─日独比較にみる現状とあり方─ 4 日本マクドナルドのバリュー戦略 5 現代のファミリーレストランとシステム経営 6 地上デジタル放送の概要 7 映画産業の現状と新しい動き 2010 年度 1 ソニーのゲーム市場における経営戦略 2 W 杯における経済効果について 3 若者のコミュニケーションの変化とその評価について 4 ナイキのマーケティング 5 電気自動車が抱える問題に対する各社の対応 6 東京ディズニーリゾートが成功した理由 7 携帯音楽プレーヤーの歴史とその特徴について 8 プロ野球におけるビジネスモデルの変化別の見方をすれば,研究自体が学生自身の生活から 「少し遠い世界の出来事」のように感じてしまう傾向 にあったともいえる。これらの問題については,資料 検索や文献調査が主たる研究方法となっていたことも 関係しているかもしれない。その中で,「特別研究」 の指導内容を筆者なりに模索した結果,ひとつの対処 案が浮かび上がってきた。それが,研究対象の中に 「地域」というキーワードを取り入れることであった。 この場合の「地域」とは,「学生が身近に感じるこ とができる生活領域のこと」を意味している。つまり, 学生にとって身近な生活領域である「地域」問題を取 り扱うことで,学生自身がもつ潜在的な問題意識を先 鋭化させることを狙ったものである。どのような学生 であれ,自身の生活領域であれば,なんらかの問題意 識を日常的に抱いている。その問題意識を研究テーマ, ひいては経済問題とリンクさせることで,学生の研究 に対するモチベーションや研究内容の質的向上に繋げ ることができるのではないか,これが「地域」キー ワード導入の背景である。 そして特別研究のテーマ選択にあたって,従来の 「経済・経営など,広くビジネスに関する分野ならば どのようなジャンルを選択してもよい」,「自分の将来 的な進路に役立つ分野ならばどのようなジャンルを選 択してもよい」という条件に加えて,「地域に関する 問題を扱うならばどのようなジャンルを選択してもよ い」という条件をつけ加えた。この結果,2011 年以 後の「特別研究」では,「選択に対する自由と責任」 と「地域」をゼミナール運営の両輪として位置付け展 開することとなった。表 3 が 2011 〜 12 年の研究テー マ一覧である。 「地域」テーマを導入したことによって,主に 2 つ の変化が生じた。ひとつは「地域」テーマを選択する 学生が増えたことである。いまひとつは,研究に対し て学生自身がより積極的に取り組むようになったこと である。以下で,「地域」関連テーマとそれを選択し た学生の問題意識を示しながら説明する。 2011年度は,9人の学生のうち3人の学生が「地域」 に関わるテーマを選択した。一人目のテーマは「鳥取 県の中山間地域とコミュニティビジネス」である。こ の学生の問題意識は,「鳥取県東部の中山間地域問題 (過疎化・高齢化)をコミュニティビジネスによって 解決できないか」というものであった。二人目の学生 のテーマは,「鳥取県中部地区の農業と農産物」であ る。この学生の問題意識は,「鳥取県中部地区の代表 的な農産物(20 世紀梨や大栄スイカ)を広く社会に 情報発信することができないか,そのための方策は何 か」である。三人目のテーマは,「鳥取県の地域活性 化〜境港市を中心として」である。この学生の問題意 識は,「漫画家・水木しげるのゲゲゲの鬼太郎,NHK 連続テレビ小説の題材となったゲゲゲの女房,境港市 の水木しげるロードに代表される地域おこし・地域活 性化が成功した理由は何か」ということである。3 つ のテーマ,いずれもが自身の居住地域・生活領域の問 題を社会経済的な側面から捉えたものである。またい ずれも当該学生にとって非常に身近な問題を取り扱っ ている。 2012 年度は 3 人の学生が「地域」テーマを選択した。 一人目のテーマは,「鳥取県智頭町 日本 1/0 村おこ し運動」についてである。この学生の問題意識は, 「集落自治・高齢化対策の先進事例である鳥取県智頭 町がその取り組みを維持・発展させられた背景・要因 は何か」である。二人目のテーマは,「食を使った地 域活性化の取り組み〜琴浦グルメストリートプロジェ クト」についてである。この学生の問題意識は,「鳥 取県の豊富な食・地域資源を,地域活性化の手段とし て有効活用するためには何が必要か,鳥取県琴浦町の 事例から教訓を得ることはできないか」である。三人 目の研究テーマは,「サブカルチャーを利用した地域 活性化」である。この学生の問題意識は,2012 年度 表 3 2011 〜 2012 年度の特別研究テーマ一覧 2011 年度 1 水不足と海水淡水化事業 2 漁業と乱獲問題 3 ファストファッションのリサイクル問題 4 外食産業の事業形態の比較と経営の効率性 5 サムスン躍進の背景 6 鳥取県の地域活性化~境港市を中心として~ 7 日産自動車の変革と再生 8 鳥取県中部地区の農業と農産物 9 鳥取県の中山間地域問題とコミュニティビジネス 2012 年度 1 鳥取県智頭町 日本 1/0 村おこし運動 2 食を使った地域活性化の取り組み~琴浦グルメストリートプロジェクト~ 3 サブカルチャーを利用した鳥取の活性化 4 ドイツサッカーリーグ ブンデスリーガの繁栄 5 ゲーム業界の現状と今後─ SCE と任天堂の今後─ 6 ガソリン価格の決定要因とその影響 7 マクドナルドの経営について 8 パチンコ業界の現状と問題 9 外食産業の現状と変化
に発足したサブカルチャーを利用した「まんが王国鳥 取県」事業は,地域活性化策として有効かどうか」で ある。いずれの学生も自身の日常的な問題意識をベー スとしていることがわかるだろう。 以上のように,「地域」というキーワードを研究 テーマに加えたことで,学生自身が「研究」に対して 親近感を抱くようになり,それによって自発的・主体 的に研究に携わることができるようになった。5)その 意味で,「選択に対する自由と責任」と「地域」とい う 2 つのキーワードを両輪としたここまでのゼミナー ル教育が一定の成果を残していると個人的には考えて いる。
Ⅳ.「地域」とゼミナール教育
「地域」分野を研究テーマの条件に加えることで, 学生の学習方法やゼミナールの運営方法なども変更し た。具体的には,ゼミナール教育に地域学習とフィー ルドワーク学習を連動させた。地域を研究するために は,その地域を正確に知ることが必要となるため,ま ず学生自身にフィールドワーク学習を体験させた。次 に,「集団」だけではなく「個人」でフィールドワー クを実行させた。フィールドワークを行うためには, 工場見学などとは違って,受け入れ先との双方向のや り取りが求められるため,スケジュール管理,質問事 項の精査,アンケートなどを行う必要がある。以上の 事柄をスムースに実施するには,学生が自ら主体的に 考え計画・行動・評価していかなければならない。い わば研究の PDCA サイクルが必要となる。当然,今 まで以上に学生間や他人とのコミュニケーションも必 要となった。 2012 年度の「特別研究」では,地域テーマを選択 した学生ひとり一人が地域の関係各所を訪問し,ヒア リングを行った。この作業を通して,学生は,地域の ことを五感で体験し,よりリアルな課題を発見し,ま たその背景を文献調査だけでなく,現場の生の声と照 らし合わせて考察することができた。本専攻の学生は, パソコン操作・情報処理の技能については長けている が,人間関係は苦手という学生が比較的多くの数を占 めるが,こういった教育的問題の解決策としても, 「地域」要素の導入は効果的であったと思われる。従 来は「学生―教員」,「学生―コンピューター」とで完 結していた関係の中に,「地域」の社会関係が加わる ことによって,学生は従来よりも広い関係の中で判 断・選択・行動しなければならなくなった。むしろ学 生の方が積極的にそのような関係の広がりを求めてい たのかもしれない。 また 2011 年度には,中国地方 5 県の 10 大学 50 名が 集った,「中国 5 県地域づくり学生フォーラム」(於: 三次市作木町上地区自治交流センター)に参加するこ とができた。このフォーラム内で,本ゼミの参加学生 が鳥取県の中山間地域問題を説明し,その解決策とし てのコミュニティビジネスの可能性について分析と提 案を行うことができた。当日は,9 件の研究・活動報 告やワークショップが行われたが,本ゼミ生が学外で 研究発表を行うのは初めてのことであり画期的なこと であった。 参加学生の感想6)にもあるが,現場のリアルな声を 聴く体験,自身の研究に対するひとつの社会的評価や 意見を得る体験,ワークショップを通して他大学の学 生や地域の住民の方々と交流する体験,そのどれもが 本人にとって新鮮かつ刺激的な出来事だったようであ る。フォーラム以後,この学生は指摘された質問につ いて再考し問題意識をさらに深め,その成果を学内発 表会や論文発表会の中で纏め上げることができた。 2012 年度は諸般の事情によりこのフォーラムに参加 できなかったが,2013 年度以降も継続して参加する 方向である。Ⅴ.おわりに
これまで述べてきたように,「地域」キーワードの 導入と展開によって,地域社会について自ら主体的に 問題を発見し,その解決策を探るスタイルをゼミナー ル教育の中で確立することができた。また,学生個々 にとっては,「地域」を研究することで,学びの主体 性だけでなく,資料の収集や整理,スケジュール管理, アンケート調査,他者とのコミュニケーションといっ た事柄を経験し,人間的素養を高めることが出来たと いえる。7)これは地域社会に貢献しうる職業人の養成 という地方の短期大学の教育的使命に合致したもので あるだろう。8)しかしながら,今回紹介した教育実践 例は,専門性の深化,経済教育の進展という意味では, 大きな課題を残していると言わざるをえない。 経済教育の在り方も大学のカリキュラム・ポリシー との関係上,一様ではないため,短期大学における経 済教育をいかに定義し,いかなる水準まで発展させる 必要があるのか,これらの論点については今後深めて いく必要があるだろう。また高等教育機関という性質 上,その教育が学生のキャリア形成と一体となって進められるべきものであり,その面から見た場合,今回 の実践例はいかなる意味を持つのか,また経済教育と キャリア教育の関係性などについても検討する必要が あるだろう。さらに近年では,PBL(Problem Based Learning)型学習カリキュラムやソーシャルラーニン グの導入が大きなトレンドとなっている。その潮流の 中で短期大学における経済教育はいかにあるべきか, その論点や方法論なども考慮しつつ,本学・本専攻に おけるゼミナール教育・経済教育の一層の発展を模索 していくつもりである。 註 1) 本専攻の平成 21 〜 25 年度における実業系高校(商業・ 工業ほか)出身者の割合は,52.2%である。年度毎の差異 はあるものの,普通科よりも実業系出身の学生の割合が, 若干上回る状態にある。また,実業系出身者においても, 商業系,工業系,農業系など多様である。従って,高校 までの学習の内容・到達度に違いがみられる。 2) 実業系高校の場合,専門科目を学ぶ必要がある為,いわ ゆる 5 教科(国・数・英・理・社)に対する学習時間が 普通科よりも不足せざるをえない。例えば,商業系では 簿記,情報処理系ではパソコン操作技法などに相対的に 多くの時間が費やされる。 3) 授業時間・研究時間の物理的制約から,特別研究では主 に先行研究の学習に多くの時間が費いやされる。そのた め,学生個々の研究は,オリジナリティや研究の幅と いった点では,十分であるとは言えない。この点を学生 の実態に合わせた形で向上させていくことが,短期大学 における教育のひとつの課題ではないだろうか。 4) 本学が「自己点検・評価活動」のために実施している在 学生アンケートの結果によると,「協調性」や「ルール・ マナーの遵守」「他人を理解しようとする態度」などに比 べて,「自分の考えを伝える力」や「積極的に行動する態 度」に関わる「リーダーシップ」「判断力」「一般的教養」 「知的な面での自信」などの項目において,他の短大生よ りも本学の学生は低い自己評価となる傾向が確認されて いる。このことから,本学の学生を前提にする際には, 「選択に対する自由と責任」,別の視点から言えば「選択 に対する自己肯定感」を与えることが,学ぶ意欲の向上 に繋がるのではないかと考えている。 5) 本専攻では,大学・教務部が実施する授業評価アンケー ト以外にも,学生の学習成果を図るために,基幹科目に 対する学生の自己評価アンケートを独自に実施している。 その結果を見ると,本ゼミで「地域」を選択した学生の 自己評価は高くなる傾向にあることが確認できた。 6) 「中国 5 県地域づくり学生フォーラム」への参加:参考 URL(鳥取短期大学 生活学科情報・経営専攻 お知ら せ):http://www.cygnus.ac.jp/subject/economy/news/20 111212000994.html 7) 本専攻のディプロマ・ポリシー(学位授与の方針)は, 「情報処理とビジネス実務の専門知識と技能を修得してい る」,「主体的に調べ,考え,まとめ,表現する力を獲得 している」,「情報活用能力を活かし,地域社会に貢献し うる力を身につけている」である。特別研究での学習成 果は,これらのディプロマ・ポリシーを体現するもので あることが期待されている。また,本専攻では,社会人 基礎力,ビジネス実務能力,情報活用力の 3 つの力に焦 点をあてた新しいカリキュラムを平成 25 年度から展開し ている(表 1)。 8) 本学の建学の精神は,「地域の発展に貢献する人材を育成 すること」であり,ディプロマ・ポリシーは,「人間関係 を大切にし,幅広い視野をもって社会生活を送ることが できる」,「職業および実際生活における専門的・実践的 能力をそなえている」,「社会の構成員として,よりよい 地域社会を形成しようとする」である。また,雇用主や 卒業生へのアンケートを実施し,地域が求める人材を育 成する努力を続けている。 参考文献 [1] 長谷川義和「地域を知り・地域に出ることと経済学教育」 『経済教育』第 31 号,2012 年 9 月 [2] 和田寿博・河音琢郎・上瀧真生・麻生潤編著『学びの一 歩─大学の主人公になる』新日本出版社,2003 年 4 月 [3] 岡田知弘・品田茂著『行け行け!わがまち調査隊─市民 のための地域調査入門─』自治体研究社,2009 年 7 月 [4] JCIRP 短期大学調査チーム『短期大学学生に関する調査 研究─JJCSS 調査全体集計結果報告─』短期大学基準協会, 各年版(2008 ‐ 2012 年) [5] 鳥取短期大学自己点検・評価運営委員会『平成 24 年度 自己点検・評価報告書』鳥取短期大学,2012 年 6 月 [6] 鳥取短期大学地域交流センター『研究報告書 大学と地 域の関係性(1)・(2)』,2011 年 3 月・2013 年 3 月