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同時呈示された複数の物体に対する魅力判断—刺激固有性の検討—

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DOI: http://dx.doi.org/10.14947/psychono.33.27

同時呈示された複数の物体に対する魅力判断

―刺激固有性の検討―

鑓 水 秀 和

中京大学大学院心理学研究科

Attractiveness of multiple simultaneously presented objects:

Effects of stimulus specificity

Hidekazu Yarimizu

Graduate School of Psychology, Chukyo University

Previously, Yarimizu and Kawahara (2014) found that observers could judge the attractiveness of multiple hu-man faces as a whole, but it was unclear whether the result was specific to huhu-man faces. The present study investigat-ed this point by using non-face objects. Participants were briefly (1.5 s) presentinvestigat-ed with two frames, each depicting four pairs of shoes, and were required to choose the most attractive one. Although they failed to make a judgment within this time frame, they gave a definitive response when the exposure time was extended to 4.0 s. This finding confirmed that they were able to improve their judgment when sufficient time was given and judgment for attrac-tiveness of multiple objects as a whole was not specific to human faces.

Keywords: Impression formation, Attractiveness, Stimulus specificity, Object recognition, Judgment as a whole 問題と目的 我々は,日常生活において,複数の物体の全体的な価 値や印象を抽出し,どれが全体として最良か,あるいは どちらがより良いか選択することがある。例えば1つの カゴにいくつか盛られた果物を買うとき,カゴどうしを 比較してよさそうな方を選ぶことができる。また,パッ ク売りの肉や魚のより新鮮なものを選ぶこともできる。 しかし,そもそも全体としての印象を判断できるかど うかについてはほとんど検討されてこなかった。ただし, 顔の魅力について検討した研究は,グループ構成員全体 としての魅力を判断・評価できることを示している(鑓 水・河原,2014)。その研究では,あらかじめ個別に魅力 を評定された女性の顔画像が,4人を1組として2組呈示 された。実験参加者はどちらの組の魅力が全体として高 いかを答えた。その結果は,魅力の高い顔画像が魅力の 低い顔画像より多く混じる組のほうを,同数の組より有 意に高い確率で選択できることを示した。このことから, グループ全体としての魅力を判断することができると結 論づけられた。この研究では,全体としての判断を可能 にするメカニズムあるいは方略として2つの可能性が挙 げられた。1つ目はグループ内の複数の顔から平均化さ れた顔表象を産出し,平均顔表象の魅力を評価した可能 性である(平均化表象:Alvarez, 2011; Ariely, 2001; Chong & Treisman, 2003; Haberman & Whitney, 2009; Walker & Vul, 2014)。2つ目は個々の顔の魅力度を心的計算が可能な 形で(例えば数値として)抽出し,総和や平均などの統 計値を算出した可能性である。この2つの可能性の大き な違いは,複数の顔を平均化した1つの視覚表象から魅 力を決定するか,1つ1つの顔の魅力を特定した後の概 念表象(例えば,数)の操作で決定するかの違いである。 この可能性の検討を行う前に,全体としての印象判断 が顔についてのみ可能であるか,顔以外の物体の印象判 断にも可能かどうかを検討しておく必要がある。なぜな らば,我々は顔の知覚に関して熟達者である(Diamond & Carey, 1986)と同時に,顔の分析に特化したモジュール の存在(Calder & Young, 2005; Haxby, Hoffman, & Gobbini, 2000)が主張されているからである。もしそうであるな Copyright 2015. The Japanese Psychonomic Society. All rights reserved. Corresponding address: Graduate School of Psychology,

Chukyo University, 101–2 Yagotohonmachi, Showa-ku, Aichi 466–8666, Japan. E-mail: yarimizh@gmail.com

(2)

ら,顔という特別な刺激を使用したために全体としての 魅力の判断が可能であったとも考えられる。 全体としての判断は日常的に行っているものの(例え ば,1カゴの果物,パック売りの肉や魚の選択),これま で看過されてきた現象であり,実験的に検討する意義が ある。そこで本研究では,全体としての魅力の判断が顔 以外の対象でも可能かどうかを検討した。本研究では, この検討を行う対象として衣類,特に靴を刺激として用 いた。衣類はヒトの外見の魅力の向上に,その機能性を 超えて寄与する。また,靴は外出時に必ず目にする物体 であり,衣類カテゴリーの中でも出現頻度は上位である (Battig & Montague, 1969; Snodgrass & Vanderwart, 1980)。

さらに形状が多様なシャツ,ズボン,スカートなどと異 なり,靴は形状がある程度決まっていることも靴刺激を 使用する利点である。実際,顔刺激の比較対象として, 靴刺激が利用された例もある(Yamashita, Kanazawa, & Yamaguchi, 2011)。 実験1では,4足の靴を1組とした2枚のグループ画像 を継時呈示し,実験参加者はどちらが全体として魅力が 高いと思うかを答えた。実験 2では,実験1から各グ ループ画像の呈示時間のみを変化させ,十分な時間があ る場合の全体としての魅力の判断について検討した。な お,本研究のすべての実験は,実施に際して所属大学の 研究倫理審査委員会で承認を受けた。 実 験 1 目的 実験1の目的は,複数の靴の魅力を全体として判断す ることが可能かどうかを確かめることであった。実験で は4足の靴を1組とした2枚のグループ画像を継時呈示 した(実験1-A)。2枚のグループ画像は,必ず一方が魅 力の高い靴画像が多く混じる高魅力グループ(Attractive Group)であり,もう一方が魅力の高い靴画像と魅力の 低い靴画像が同数含まれる比較グループ(Control Group) であった(Figure 1)。実験参加者は,どちらが全体とし て魅力が高いと思うかを回答した。もし実験参加者がグ ループ全体としての魅力を判断できるならば,有意に高 い確率で高魅力グループを選択でき,判断できないなら ば2枚のグループ画像の選択率に差が認められないと予 測された。 実験1-Aでは,実験参加者が4足全体の魅力について 評価せず,それぞれのグループに属する靴1足を無作為 に選んで魅力評価することも考えられる。このため実験 参加者が,4足1組の靴のうち無作為に選んだ1足から そのグループ全体の魅力を推測する方略をとった場合の 期待値を算出するための統制実験(実験1-B)も先行研 究と同様に実施した。すなわち実験1-Bは,実験参加者 がそうした方略をとっていた可能性を検討することを第 一の目的とした。 実験1-Bの第二の目的は,靴どうしの魅力を一対比較 した場合,実験参加者が魅力の高い方を選ぶことができ るかどうかを確かめることであった。靴は日常生活にお いて身近な物体であるものの,魅力判断の研究対象とし て用いられた例は少ない。したがって,1足ずつ呈示し た場合,実験参加者は靴の魅力に基づいて,魅力の高い 方を選択できるか明らかにしておく必要があった。実験 1-Bには魅力の高い靴と魅力の低い靴を一対比較する試 行が含まれた。 実験1-A 方法 実験参加者 視覚に異常がない18歳から22歳までの 日本人大学生14名(女性10名,男性4名)が参加した。 刺激・装置 実験に先立ち,未使用の男性用運動靴を 1足ずつ撮影した810枚のカラー画像について,本研究 に参加していない実験参加者が魅力を評定した。そのう ち,魅力が高いと評定された靴画像28枚,および低い と評定された靴画像28枚を実験用靴画像として用いた。 魅力の高い靴画像は事前評定値の平均値+1.4標準偏差 から+2.3標準偏差の範囲に含まれた。魅力の低い靴画 像は事前評定値の平均値−1.4標準偏差から−2.3標準偏 差の範囲に含まれた。靴刺激の縦横の視角は2.8°×3.9° (観察距離 60 cm)であった。これら個々の靴画像を後 述する構成比率に従いランダムに選択し,グループ画像 を作成した。すべての靴画像は,Octave上で動作させた Psychophysics Toolbox によって,20.1 インチ液晶ディス プレイに呈示した。

Figure 1. Illustrated procedure of stimulus presentation (Exp. 1-A).

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手続き 実験では,画面の左右片方に1枚のグループ 画像を 1.5 s呈示し,約0.3 sの空白を挟んでもう片方に 次のグループ画像を1.5 s呈示した。そのうち1枚は必ず 高魅力グループであり,もう1枚は比較グループであっ た。比較グループは魅力の高い靴と低い靴2足ずつで構 成した。高魅力グループには,魅力の高い靴が3足と魅 力の低い靴が1足(以後,3 : 1条件),あるいは魅力の高 い靴が 4足(以後,4 : 0条件)の2条件を設定した。こ れは条件間の差の有無により,参加者の方略に対して今 後検討を加えることができる可能性があるためであっ た。実験参加者が特定の位置のみを注視することを防ぐ ため,画面内の左右両方に3×3マスの見えない格子(全 体の大きさは 20.4°×13.6°, 1マスは6.8°×4.5°, 左右の格 子間距離は6.5°)を想定し,この中の4マスを無作為に 選んで,マスの中心に靴画像を呈示した。実験参加者 は,左か右のいずれのグループが全体として魅力が高い と思ったかを,あらかじめ指定したキー(FまたはJ) を押して答えた。 実験は3 : 1条件,4 : 0条件各60試行からなる120試行 であり,無作為な順で実施した。高魅力グループの呈示 位置(左・右)と高魅力グループの呈示順(先・後)は 等しい頻度で無作為とした。各試行でどの靴画像が呈示 されるかは無作為とした。 実験1-B 方法 実験参加者 実験1-Bには,実験1-Aに参加していな い18歳から22歳までの日本人大学生 14名(女性10名, 男性4名)が参加した。すべての参加者が正常な視覚を 有していた。 刺激・装置 実験1-Aと同じ刺激と装置を使用した。 手続き もし実験参加者が,実験1-Aにおいて呈示さ れた2つのグループそれぞれから靴を1足ずつ無作為に 選んでそれらを比較していた場合,選択される靴の魅力 度についてはTable 1のような組み合わせがあり得る。例 えば,3 : 1条件では,高魅力グループ(Attractive Group) からたまたま選ばれた靴も, 比較グループ (Control Group)からたまたま選ばれた靴も両方とも魅力の高い 靴である組み合わせは 6通りある(Table 1のa))。同様 に,高魅力グループから選ばれた靴が魅力の高い靴で, 比較グループから選ばれた靴が魅力の低い靴である組み 合わせも6通りある(Table 1のb))。このようにして,条 件がそれぞれ3 : 1・4 : 0のときにたまたま選ばれるすべ ての組み合わせを示したのがTable 1の残りの部分であ る(C)からf))。 Table 1の組み合わせにそって,靴を1足ずつ画面の左 右に継時呈示した。実験参加者は,右か左かのいずれの 靴を魅力が高いと思ったか答えた。3 : 1・4 : 0条件の合 計 16通りずつ全32通りを無作為な順で4回繰り返し, 128 試行を実施した。その他の手続きは4 足 1 組の場合 と同一であった。 分析方法 Table 1の組み合わせに基づき,3 : 1条件に おいて2つのグループから無作為に1足ずつを抽出した 場合の期待値は式(1)で示される。このときのE(C)は チャンスレベルの値である。MはTable 1のb)f)を通し て算出された正答率の平均値である。高魅力グループ内 の魅力の高い靴と低魅力グループ内の魅力の低い靴の組 み合わせとなった試行の正答率の平均値をこの式の M に代入した。同様に,4 : 0条件のときの期待値は式(2) で示される。もし実験参加者が実験1-Aにおいて,2つ のグループそれぞれから靴1足ずつを無作為に選んだと すると,そのときの正答率は式(1),(2)から導かれる 期待値との間に差が認められないはずである。

{

} {

}

{

} {

}

( )= ( ) + + ( ) +( - ) E E × E × M × 6 6 3 :1 C 16 16 2 2 C 16 1 16 (1)

{

} {

}

E4 : 0)= ( )EC × 8 +M × 8 16 16

(2) E(3 : 1)は3 : 1条件の期待値,E(4 : 0)は4 : 0条件の期 待値,E(C)はチャンスレベルの値,Mは高魅力グルー プ内の魅力の高い靴と低魅力グループ内の魅力の低い靴 の組み合わせとなったときの正答率の平均を意味する。

E(3 : 1)とE(4 : 0)の値はFigure 2参照。

M (Tableのb)f)を通して算出された正答率の平均値) は魅力の高い靴(評定値が平均値+1.4標準偏差以上) と魅力の低い靴(評定値が平均値−1.4標準偏差以下)を 一対比較した試行である。第二の目的である一対比較時 の魅力の判断についても,このMの値を利用した。 Table 1.

Stimulus pairs and frequency of occurrence (Exp. 1-B). Stimulus pairs Frequency of occurrence

3 : 1 4 : 0

H–H 6a) 8e)

H–L 6b) 8f)

L–H 2c) 0

L–L 2d) 0

H: High attractiveness, L: Low attractiveness Refer to the text fora)–f).

(4)

結果と考察 結果を実験・条件ごとに示したものが Figure 2であ る。実験1-Aの平均正答率を符号順位和検定により条件 毎に比較した結果,3 : 1・4 : 0条件ともにチャンスレベ ル(50%)との間に有意な差は認められなかった(3 : 1 条件: T(13)=30, n.s., 4 : 0条件: T(13)=21, n.s.)。 そこで,実験参加者が靴に対する魅力に基づき,魅力 の高い靴を選択できるかどうかを確かめるために,実験 1-Bのうち,魅力の高い靴と魅力の低い靴の一対比較と なっている試行(Table 1のb)f))を抜粋し,正答率を 算出した(M: 83.1%)。符号順位和検定の結果,正答率 はチャンスレベルより有意に高く(T(13)=1, p<.01), 実験参加者は1足ずつ比較した場合には魅力の高い靴を 選択できたことがわかった。実験参加者の判断方略を推 定するため,式(1),(2)によって導かれた期待値(Fig-ure 2 の E(3 : 1)と E(4 : 0))と実験 1-A の平均正答率を 条件毎に比較した。その結果,3 : 1・4 : 0条件ともに有 意な差は認められなかった(3 : 1条件: t(15)=0.64, n.s., 4 : 0条件: t(15)=0.08, n.s.)。 結果は,複数の靴については顔と異なり,全体として の魅力の判断が難しいことを示した。しかし,実験1-B の一部試行を抜粋した分析から,一対比較ならば実験参 加者が靴どうしの魅力を比較できることは明らかとなっ た。加えて,実験1-Aの正答率と1-Bから導かれた期待 値に差が認められなかったことから,同時に複数呈示し た場合もおよそ1足ずつしか魅力を評価できなかったこ とが示唆された。 実験1-Aの手続きにおいて,すべての実験参加者に対 し,全体としての魅力を判断するよう教示した。顔につ いて同じ教示による同じ課題を実施した研究(鑓水・河 原,2014)では,実験参加者が複数の顔をグループ画像 の比較のために評価したことが確認されている。した がって,実験参加者が意図して1足ずつしか魅力を評価 しなかった理由はないと考えられる。むしろ,各グルー プ画像の呈示時間1.5 sでは,4足の靴すべてを魅力評価 が可能な段階まで認知できず,1足程度しか魅力の評価 ができなかった可能性が考えられた。そのため,実験2 では各グループの呈示時間を延長し,同時に呈示された 複数の物体の魅力を判断できるか否かを再度検討した。 実 験 2 目的 実験2の目的は,十分な時間がある場合に,顔以外の 物体でも全体としての魅力の判断が可能であることを確 かめることであった。実験1の結果は,各グループ1.5 s で呈示したとき,およそ1足しか魅力を評価できないこ とを示唆した。物体の検出やカテゴリー識別の研究は (例えば,Grill-Spector & Kanwisher, 2005; Joubert, Rousselet,

Fize, & Fabre-Thorpe, 2007),数百ミリ秒の時間スケールで それらの過程がなされることを示してきた。物体の魅力 判断に関する研究では,例えば布井・中嶋・吉川(2013) は1つの物体画像と商品ラベルを1秒呈示したうえで, 実験参加者に商品の魅力を評定させ,商品ラベルが魅力 判断に与える影響を示した。これらの研究の結果にした がえば,1足あたり1秒程度の呈示時間が,1つの物体の 魅力を特定後その他の刺激の魅力との照合など心的な計 算・操作が必要な場合の魅力判断においても,十分な時 間であると考えられた。そこで実験2では,各グループ の呈示時間を実験1-Aの1.5 sから延長し,4 sとした。そ れ以外の手続きは実験1-Aと同じであった。全体の魅力 を判断できるならば,実験参加者はチャンスレベルより 高い確率で高魅力グループを選択でき,できないならば, チャンスレベルとの差が認められないと予測された。 方法 視覚に異常のない 18歳から26歳までの日本人大学 生・大学院生14名(女性10名,男性4名)が参加した。 使用された靴刺激や実験装置は実験1と同じであった。 手続きは各グループの呈示時間を4 sとした点を除き, 実験1-Aと同じであった。 結果と考察 結果を条件ごとに示したものがFigure 3である。4 sず つ呈示した場合の平均正答率とチャンスレベル(50%) の差を符号順位和検定により比較した結果,3 : 1・4 : 0 Figure 2. Accuracy and standard error (%) for each

condition of Exp. 1-A and 1-B. The dash lines indicate the calculated values.

(5)

条件ともにチャンスレベルより有意に高い正答率で,実 験参加者は高魅力グループと比較グループを弁別できた (3 : 1条件: T(12)=5, p<.01, 4 : 0条件: T(13)=4, p<.01)。 したがって,十分な時間があれば,同時に呈示された靴 の魅力を全体として判断し,比較できることがわかった。 総 合 考 察 本研究の目的は,同時呈示された複数の物体の魅力を 全体として判断できるか否かを確かめることであった。 靴 4足を1組としたグループ画像を2枚継時呈示し,実 験参加者にどちらの画像のグループが全体として,魅力 が高いと思うか答えるように求めた(実験 1-A)。複数 の靴の魅力は顔とは異なり,1組1.5 sの短い呈示時間で は全体としての魅力の判断が難しいことが示された。一 方,実験1-Bの該当試行の分析から,一対比較(靴1足 ずつの比較)ならば靴どうしの魅力を比較できることは 明らかとなった。実験参加者の方略を推定する分析か ら,同時に複数呈示した場合も各組およそ1足ずつしか 魅力を評価していないことが考えられた。このため実験 2では,グループの呈示時間を4 sに延長して,実験1-A と同様の手続きで検討した。その結果,十分な呈示時間 があれば顔以外の物体でも全体としての魅力の判断が可 能であることがわかった。すなわち,顔に比べ,複数の 靴の全体としての魅力の判断には時間がかかることがわ かった。 本研究の特徴は,複数の物体全体としての魅力を扱っ た点にある。従来の研究では,1つの物体に対する魅力 の判断について検討がなされてきた(例えば顔: Lan-glois et al., 2000; Olson & Marshuetz, 2005; Willis & Todorov, 2006, 物体: Niimi & Watanabe, 2012)。本研究では,グ ループ全体としての顔魅力の判断が可能なことを示した 鑓水・河原(2014)の研究をもとに,対象を顔以外の物 体として靴に拡張した。ヒトの魅力は身体的要因だけで なく,衣服などによっても規定されると考えられる。こ のため本研究では,ヒトの魅力の向上に間接的に寄与す る物体においても,全体の魅力の判断が可能かどうかを 調べた。今回刺激として使用した靴は専用の売り場・店 舗が存在するほどに商品としての需要がある。今後の展 開として,消費者心理の観点から,例えば陳列された商 品全体に対する魅力の判断が購買活動に与える影響を検 討することなどは有益だろう。 本研究の結果から,十分な時間がある場合には,顔以 外の物体でも全体としての魅力の判断が可能であること がわかった。このことは単一の物体の魅力(好ましさ) 評価は顔の場合(Willis & Todorov, 2006)と同じく,100 ms の短い時間で決定できるとしたNiimi & Watanabe (2012) の研究と整合しないように思える。しかし,全体として の判断を可能にするメカニズムとしては,平均化された 視覚表象から判断した可能性と,1つ1つの物体の魅力 の特定後の計算から判断した可能性の2つが挙げられて いる(鑓水・河原,2014)。例えば,複数の靴を並列的 に分析し,平均化された表象を産出して魅力を判断した (顔表象の平均化: Haberman & Whitney, 2009; Walker &

Vul, 2014; Yang, Yoon, Chong, & Oh, 2013)と考えるには4 s という時間は長い。一方,今回の結果から,個々の靴の 魅力の分析後,全体の魅力値が算出されたと考えること はできる。全体としての魅力を判断するには,単一の物 体の魅力判断に要する時間の他に全体の魅力の計算過程 が必要とされることが示唆された。平均化のような素早 い大まかな判断とそうでない場合の詳細かつ正確な判断 については,異なるレベルの計算がなされていることが 指摘されている(Kahneman, 2003; 本吉,2014)。本研究 における課題,あるいは魅力を判断することのどちらか が,個々の物体の詳細な分析を必要としたのだろう。状 況に依存して複数の物体に対する素早い判断(例えば, 全体ではなく,典型性の高い物体から代表値を参照する など)ができるかどうかを検討することも今後の課題で ある。 靴以外の物体での検討も必要であるが,顔刺激の固有 性がグループ全体としての顔の魅力に対する素早い判断 (鑓水・河原,2014)に寄与することが示唆された。顔が 特別だと考えられる理由は複数挙げられるので(Calder & Figure 3. Accuracy and standard error (%) for each

condition of Exp. 2. The dash lines show chance level (50%).

(6)

Young, 2005; Diamond & Carey, 1986; Gauthier et al., 1999; Haxby et al., 2000;),本稿ではその原因の特定までは至ら ない。しかし,いずれの場合においても,我々が顔を素 早く特定できることの影響が,顔と靴の全体としての魅 力判断に必要な時間の違いとして反映されたと考えられ る。物体に対する興味の度合いや接触頻度の個人差が成 績に与える影響を検討すること,または顔以外の特別な 刺激(例えば生物性を備えた刺激,動物画像など)を利 用することによって,このメカニズムの詳細が今後検討 可能であると考える。 本研究の結果は,複数同時に呈示された物体の全体と しての魅力の判断が可能であることを示した。また,そ の判断には顔の場合と比べてより時間がかかる。その大 きな原因として,顔が他の物体とは異なる特別な刺激で あるためにグループ全体としても魅力の素早い判断が可 能なことが考えられるが,さらなる検討が必要である。 本研究は全体の印象の判断を顔以外の物体に拡張する第 一段階目の試みであると位置づけられる。 謝   辞 本研究の実施にあたり,中京大学心理学研究科の牧野 義隆教授,下村智斉助教に御指導・御助言を賜りまし た。辻敬一郎先生,石井明子氏,船橋亜希氏,菅野甲明 氏には貴重なご意見を頂きました。ここに記して謝意を 表します。 引用文献

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Figure 1. Illustrated procedure of stimulus presentation  (Exp. 1-A).
Figure 3. Accuracy and standard error  (%)  for each  condition of Exp. 2. The dash lines show chance level

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