ロシア・ウクライナの基幹産業と機械設備需要
2009年3月
競輪補助事業
社団法人 ロシアNIS貿易会
序 文
ロシア・
CIS諸国のいくつかの国では、過去数年、資源・素材産業の活況や消費ブー
ムが生じ、経済が急成長を遂げてきた。これらの国々では、経済発展を次のステージ
に進めるべく、製造業の育成、基礎インフラの近代化と刷新、科学技術・イノベーシ
ョンの促進などが課題として意識されるようになった。これに伴い、我が国の企業に
とっても機械設備を輸出する可能性が高まっていた。だが、そうした矢先に発生した
のが、米国のサブプライム問題を端緒とする世界的な金融・経済危機である。
ロシアNIS貿易会では今年度、(財)JKAの補助を賜り、同諸国のなかでもとりわけ機
械設備需要が大きいと考えられるロシアとウクライナを対象に、その基幹産業の動向
と機械設備需要についての調査事業を実施した。とくに、昨今の経済危機の影響を、
なるべく分析に盛り込むよう務めた。本報告書は、その成果をまとめたものである。
本報告書が、ロシア・
CIS市場に関する理解を深め、同諸国向けの機械設備輸出促進
の一助となることができれば、これに優る喜びはない。
2009年3月
社団法人 ロシアNIS貿易会
会 長 西岡 喬
目 次
第1章 経済危機がロシアの主要産業セクターに及ぼしている影響
... V.シュヴィトコ 1第2章 ロシア・ウクライナの自動車産業
... 坂口 泉 12第3章 ロシアの工作機械産業・市場の動向
... 31第4章 ロシア造船業の現状と課題
...「ヴァエンヌィ・パラード」社 53第5章 ロシア産業の諸様相と機械設備需要
... 73第6章 危機に直面するウクライナ産業 ―鉄鋼業と化学工業を中心に―
... 服部 倫卓 93統計資料1 ロシアの鉱工業・農林水産業の品目別生産高
... 107統計資料2 ロシアの企業別機械生産実績 ―農機、荷役機械、建設機械―
... 116統計資料3 ウクライナの鉱工業・農林水産業の品目別生産高
... 124第1章
経済危機がロシアの主要産業
セクターに及ぼしている影響
ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 主任研究員V.シュヴィトコ
1.産業全般の状況
2008年の秋にロシアの金融部門を襲った金融不安が国内の金融部門に対して大きな打撃を 加えたのは、周知のとおりである。9月に勃発した資本流出の急増は、同年5月にすでに始ま っていたロシア企業株の株価下落傾向に拍車をかける一方、金融部門における流動性不足を招 いた。その結果とされる2つの大きな影響、つまり①金融市場で発生した信用危機と、②金利 の大幅な上昇は長期化し、半年経った現在でもその影響が強く感じられており、信用の回復と 貸出金利の下方誘導こそがロシア金融当局の最大の課題であり、中期目標であるとされている。 また、「銀行危機」の再来に関する懸念は依然として根強く、公的資金の投入とロシア式の 金融緩和策(ロシア中銀は、欧米の金融当局とは対照的に、政策金利と位置付けられる商銀向 けの融資の金利を10%前後という高い水準に設定し、金利引下げ策を、資本流出を促進するも の と し て 一 貫 し て 拒 否 し て き た の が 特 徴 で あ る ) を 通 じ て ロ シ ア 中 銀 が 流 動 性 の 不 足 (「liquidity crisis」)を解消させることに成功したものの、ロシアの商業銀行が抱えている不良 債権の本当の規模を金融当局はもとより、商銀でも把握できない状況であり、2009年中に「銀 行危機」の新たな波が到来する可能性が懸念されている。 一方、上述のプロセスと平行して、実体経済(非金融部門)の不景気、つまり幅広い「経済 危機」が2008年の第4四半期以降、ロシアの経済に浸透するようになった。鉱工業部門の各セ クターの生産指数は2008年10月から前年同期を下回る局面に入り、鉱工業部門全体の生産指数 は12月に初めて90%台を割り、2009年1月には前年同月比76%という15年振りの低水準に低下 した。それに伴って、貨物輸送量も対前年同月比では15~20%程度の減少を記録しており、ロ シアで景気の動向を表す代表的指数とされる鉄道輸送量は、工業生産の低下幅が最も大きかっ たい2009月1月には前年同月の68%に相当する水準に落ち込み、不況の深刻さを示したと。 上記のデータからでも明らかなように、2008年末に向けて成長する勢いを失い、活動の規模 を縮小せざるを得ない部門は、大きく言えば、鉱工業部門と貨物輸送部門に限定されていた。 その背景には、先進国にみられる景気減速と一次産品市場の低迷と価格下落があり、エネルギ ー、金属材料、基礎化学品などのコモディティーズの輸出に大きく頼るロシア鉱工業部門の事 業構造の下で、同部門の生産指数は外需の変動に敏感に反応したことが当然とみられる。表1 2008年12月~2009年3月の主要産業部門の生産指数の動向
(前年同期=100)
2008年 1~12月 2008年 12月 2009年 1月 2009年 2月 2009年 3月 鉱工業生産 102.1 89.7 84.0 86.8 86.3 農業生産 110.8 104.5 102.6 102.2 101.7 建設業企業生産高 112.8 100.1 83.2 79.3 79.8 貨物輸送量 100.6 87.6 85.3 80.9 83.1 うち、鉄道輸送 101.1 79.1 67.8 72.4 79.0 通信サービス 112.8 108.6 110.0 113.5 … 商品小売販売高 113.0 104.8 102.4 97.6 96.0 家計向けサービス売上高 104.9 100.2 100.9 99.2 96.7 国内総生産* 105.6 89.6 91.3 90.5 (注)*国内総生産は、経済発展省の推計 (出所)ロシア連邦国家統計局のHP。 また、アメリカをはじめ世界経済の景気減速と輸出価格の低迷・下落という厳しい環境にお かれたロシアの企業が投資支出を大きくカットする姿勢をとり、鉄鋼業界はもちろん、建設企 業も2008年末にかけて需要不振の問題に直面し、2009年に入ってから稼働率を低下させ、活動 の規模を2008年に記録したレベルに維持できないことが明らかになったので、建設部門も長期 不振に陥ったとの意見も強く、前年同月比20%程度の低下を1~3月期に記録した(表1参照)。 一方、家計消費支出の動向をみると、所得の低下にもかかわらず2008年第4四半期にも増加 する傾向を示し、連邦統計局の発表では前年同期に対して名目では約22%1、実質ベースで8% も増加した。国内の消費需要が伸び続けるなかで、商業やサービス部門の伸び率は依然として 高く、消費者は無理をしても、慣れてきた消費パターンを維持しようとしたり、物価の高騰を 恐れて貯蓄を減らしていたりしていたことが窺われる。 しかし、2009年第1四半期のデータをみると、小売部門の企業も2月くらいから不況の影響 を受けることとなり、3月には売上高の4%の減少を記録した。家計所得の伸び悩みが対家計 サービスの売上げに対して及ぼす影響も月ごとに大きくなり、最新のデータである3月分の実 績は前年同月に対して実質ベースで3%強の減少を示した。 他方、畜産業の生産が中心となっている農業部門の2008年第4四半期・2009年第1四半期の 生産は前年同期の水準を上回り、肉類輸入の減少を背景に国内市場におけるそのシェアを高め ている。 以上は主要部門の生産動向の概要であるが、特定の代表的な産業の2009年3月までの推移を 紹介しておこう。 鉱工業部門の実質生産高は上述のように、2008年11月以降前年同月の実績を実質ベースで下 1 2007年第4四半期の4兆6,368億ルーブルに対して、2008年第4四半期には5兆6,660億ルーブルに達し た(連邦国家統計局の評価)。回っており、第1四半期の1~3月期を通じて85%前後で推移している(表1)。しかし、主 要生産項目グループ別のその内訳(表2)をみると、個別のセクターを取り巻く状況の違いな どから、生産動向にもにセクターによってかなりのばらつきがあることが明らかである。
表2 産業別鉱工業生産指数
(対前年同期=100)
2008年 1~12月期 2009年 1~3月期 12月 1月 2月 3月 燃料・エネルギー 99.8 96.2 98.1 97.2 94.1 97.3 その他鉱業 101.5 92.2 89.2 86.9 86.7 101.1 電力 102.2 94.3 98.2 92.9 92.6 90.9 食品とタバコ 101.1 96.7 93.5 96.4 96.2 97.5 繊維・アパレル 95.5 78.8 79.5 71.9 84.1 80.7 革製品・靴類 101.7 83.0 86.5 74.0 84.7 90.4 木材加工、木製品 101.4 70.8 77.1 66.6 71.5 74.6 紙パルプ・出版・印刷 100.8 82.0 84.1 78.9 81.5 84.8 コークス・石油製品 102.7 96.3 96.4 95.7 94.9 98.2 化学品 95.8 77.6 71.1 67.1 78.7 86.5 ゴム・プラスチック 112.5 82.7 92.9 73.3 86.5 88.4 その他無機化合物 99.1 67.8 78.3 65.7 66.7 70.6 鉄鋼・非鉄金属 99.8 72.3 93.9 69.9 71.7 74.8 一般機械設備類 104.0 74.3 82.7 54.1 94.0 68.6 電気・電子・光学機器設備類 92.1 56.6 86.9 52.9 53.4 62.1 運輸機械・設備類 109.5 64.5 78.8 64.0 69.0 63.3 (出所)ロシア連邦国家統計局のHP。 この観点から表2の中身をみると、まず、次のポイントが指摘するに値すると考えられる。 ①鉱工業部門の諸部門は、程度の差はあれ、すべてが今回の危機の影響を受けており、不況の 局面にまったくさらされていない産業は一つもない。 ②そうしたなか、稼働率の大幅な落ち込みを避け、価格が下落した場合でも産出量を維持し続 けている産業を挙げるとすれば、石油産業、鉱石採鉱、その他鉱業である。 ③産出量および設備の稼働率の動向の観点からみて最も大きな影響を受けた産業は機械製造 産業、鉄鋼・非鉄金属産業並びに木材加工であるが、化学産業も相当大きなダメージを受け ている。 ④大半の産業の生産指数は1~2月に底を打って3月に入って回復に向かう兆しもみえてき ているものの、経済紙の論評などを考慮して考えるならば、回復へのトレンドが今後定着す る確信は持てない。2.機械製造産業
2008年第4四半期と2009年第1四半期にみられた主要産業の動きに話をもどすと、現実にお いて最も大きな打撃を受けたのは自動車産業をはじめとする機械製造産業であると言えよう。 連邦統計局のデータによると、「電気・電子・光学機器設備類」の前年同月比の生産指数は 2008年12月に87%に低下した後、市場経済への移行が開始して以降前例のない落ち込み幅を示 し、1~2月には53%前後を記録した。 自動車生産を中心とする「輸送機械」の生産指数は1月に前年同月比64%というこれまでな い落ち込み幅を示し、2月に若干回復したが、前年同月比では7割を下回っており、1~3月 期には65%ほどの水準に留まったと報道されている。自動車の生産台数をみると、乗用車の製 造は60%、トラックやバスの生産は70%強も落込んでおり、2008年末時点の見通しをはるかに 上回る落ち込み幅である。 その原因をめぐる議論を紹介してみると、まずは家計と企業が、今回の「経済危機」に関す るマスコミの報道振りに強く影響され、緊急な必要のない支出を、先行きが判明する時期が来 るまで先送りすることにしたという説が強い。一方、企業部門の場合、銀行ローンの借り換え が困難となったことから、業務用の自動車の更新、また所有台数拡大の予算を含む経常支出の カットを行った企業が多く、それが自動車市場に及ぼした影響が大きいとされている。また、 家計部門の平均所得は全体として大きく落込んではいないものの、格差が去年に比べて開いて いることに加えて、消費者ローンを借りる条件が厳しくなっていることの影響を受け、低価格 セグメントの乗用車に対する需要が長く低迷するとの予測も述べられている。 結果的には、新車の販売台数は、連邦政府が2009年1月12日から実施した中古車輸入税の大 幅な引き上げにもかかわらず、前年同期比では3~4割ほど低下しており2、高級車を除く乗 用車の各セグメント、またトラックやバスの販売台数実績がこれと同程度の低下を記録してい る。 新車販売不振の影響を、乗用車などの生産・組み立てを行っている各企業とも強く受けてい る。とはいえ、直面している困難や損失の規模も違えば、関連する各企業が追い込まれている 苦境の深刻さも異なる。外国メーカーが設立したロシア現地生産企業の財務状況が悪化したこ とは確実であるが、今後の見通しに関しては関係者やマスコミなどが話題として大きく取り上 げることがなく、置かれた状況の深刻さを把握できない。一方、自前のモデルを製造し、国内 付加価値率の比較的高いロシアの地場自動車メーカーが直面している困難は、企業の存続にか かわるほど深刻なものである。地場メーカーは、緊急支援を受けない限り、債務の履行が不可 かっているが、Izh-Avtoの財務状況が、いつ倒産するかわからないほど脆弱な状態が今後も続 能なほどの危機的な状況に陥る危険性が大きい。 とりわけ、ソク・グループ(SOK Group)がコントロールしていたメーカーのIzh-Avto3は、 流動性を失って部品の調達ができなくなったため、3月の生産活動を事実上停止した。活動再 開の見通しは部品調達先のKia Motorsおよび必要な融資を提供できる商銀との交渉の成否にか 2 2009年1月の販売実績は前年同月比33%減、2月は38%、3月は47%減を記録したと報道されている (Kompaniya,2009, p.9)。 3 ソク・グループはIzh-Avtoの株を同社の役員たちに対して、1年前の評価の5分の1に当たる価格を つけて売ったという情報がある。くのが確実とみられる。また、地元の自動車業界のNo.2であるGAZグループ4も債務履行が大 問題になり、危機的状況に陥っている。生産が止まる危険性があるとして、16億ドル規模の緊 急支援を政府に強く求めている5。そしてNo.1のAvtoVAZは合計250億ルーブルに上る緊急支援、 並びに900億ルーブルに上る政府系銀行の融資の約束を獲得することに成功したが、調達して いる部品の代金を払う現金が不足しており、部品供給の中止が相次ぎ、強く求められている品 質改善やアフタサービスの充実に手が届かない状況にある。ロシア資本のその他のメーカー (ソレルズ(Sollers)、KamAZ、TagAZなど)はマスコミなどに対して自分の苦境を訴えるの を避けているが、40~50%程度の売り上げ減少が1年以上続いた場合、企業の存続を脅かす危 機にさらされる可能性が高い。 一方、公的支援の限界と妥当性については政権内でも議論が耐えない状況であり、当局はど の程度の支援を、どのような条件を付けて行うべきかについて激しい論争が続いている。とり わけ、公的資金の無駄使いを懸念して積極的な産業政策に対して一貫して慎重な態度をとり続 けているクドリン副首相が、AvtoVAZへの支援に関するコメントとして、その支援に付く条件 を厳しくして、融資資金を振り当てるスケジュールを遅らせる意向を述べたことが注目される。 さらに、政府がすでに約束している支援計画の内容は大雑把な枠組みに過ぎないもので、詳細 がまだ決まっていない段階なので、その実現までの道が遠く、その間発生するテクニカルな問 題を処理するには時間がかかることを考えると、企業の経営陣がドラスチックな緊急措置をと らない限り、政府の支援によって救われる可能性は乏しい。 自動車産業以外の機械製造業に関しては、稀に軍需産業が話題になる程度で、当局やマスコ ミの注目を引く例が極めて少ないが、テレビなど家電製品の組み立てを行う企業の声が関係省 庁に上がっていることは事実である。需要が落込んでいる中で国内付加価値率を保護できる措 置として、LCDテレビのディスプレイなど、SKD組み立てに利用する高価な部品にかかる輸入 税を、輸入禁止に近いレベルに引き上げるのを求める声が、カリーニングラード州の当局や業 界などからあがっている。不況がその深刻さを増すのに応じて、こうした圧力が高まることは 確実であるとされている。
3.鉄鋼部門
次に鉄鋼部門の企業も今回の不況の極めて強い影響を受けていることが周知のところであ るが、それを取り巻く環境が変わりつつあるのが注目される。 ロシアの鉄鋼企業は、ここ数年、民間部門の中で、技術的にも比較的進んだもので、経営効 率の視野からみてもロシアの資本主義の新しい発展において最前線に立っていると言われる ようになり、その他産業の発展との関連でも多くの期待が寄せられていた部門である。特に、 1990年代の後半に形成された「エヴラズ」(Evraz Group)、「セヴェルスターリ」(Severstal-group)、 「マグニトゴルスク製鉄所」(MMK)、「ノヴォリペツク製鉄所」(NLMK)、「メチェル」(Mechel) と 、2000 年 代 の 前 半 に 登 場 し た 比 較 的 新 し い 企 業 グ ル ー プ 「 メ タ ロ イ ン ヴ ェ ス ト 」 (Metalloinvest)の6つの大手グループが、ロシア鉄鋼業の顔となっていた。これらのグルー 4 O.デリパス所有の持ち株会社「バーザヴィ・エレメント」がコントロールしている自動車や自動車部 品メーカーのグループ。 5 この点を考慮すると、GAZグループが現在GMのグループに入っているドイツのOpelの購入をめざすコプは、2000年代の半ばにはロシアの鉄鋼生産の約85%を占めるに至って、外資を含む外部から の参入に対して効果的に対抗できる強固な業界体制を樹立したことで、国内において一目置か れる存在となった。そのうえ、2000年代の後半に入ってから、個人オーナーによってコントロ ールされているこれらのグループは、海外進出への志向を強め、本来なら行政権の不満を招き かねないプロセスである事業活動の海外へのシフトを実現するに当たって、プーチン政権の支 持とサポートを獲得することに成功したのは稀有なことであった。まさにこの業界が、国際金 融危機とそれに端を発した世界経済不況の第一の犠牲者となったことは、皮肉である。 同業界への最初の打撃を与えたのは、2008年後半に入って顕著になった鉄鋼品に対する外需 の落ち込みと国際価格の下落であった。その時から、フリステンコ産業通商大臣など政府高官 が同業界の将来に関する懸念を口にすることがよく報道されるようになり、売上げの半分を外 需に頼っているロシアの同産業の苦境を助けるために政府が取るべき措置についての議論も 始まった6。 しかし、2008年秋に入って同産業が置かれた状況がさらに悪化した。外需縮小の上、ロシア の株価の急落による損害も重なり、資金調達の困難に、マージン・コールの影響が加わった。 その結果、ロシアの鉄鋼企業の多くは2008年後半には売上および収益の急速な落ち込みと流動 性不足に直面し、これまでの戦略を推進することが不可能とわかった。危機状態への対応とし て、投資計画の大幅な削減と海外資産の売却が共通した危機対策の方針とされたものの、その 効果は限定的なものであった。 さらに、売上げの半分を占める国内販売に関しても年末にかけて見通しがますます悪くなり、 主要な顧客であるロシア鉄道会社、自動車産業と建設業の2009年に向けての事業計画の見直し が相次ぎ、国内の売上げも大きく低下することが確実であることが判明した。 その結果、ロシアの鉄鋼生産は急落して、2008年11月と12月には前年同月に対して40%強も 少ない350万tの水準にとどまった。2009年1~3月期には、東アジア向けの輸出の増加を反 映して生産量が増え、3月には前年同月の70%に相当する460万tにまで回復した。しかし、 国内の需要が依然として低い水準で低迷しているなかで、ロシアの鉄鋼企業は輸出拡大に向け て一層の努力に取り組む必要性に迫られると考えられるが、いずれにしても2009年後半になら なければ本格的な回復は望めないとされている。 例えば、国内需要を重要視し、そのビジネス戦略においてそれに力点を置いているセヴェル スターリが発表している予測によると、2009年一年間の国内需要は前年に対して実質ベースで 25%も減となる。その中にあって、セヴェルスターリは年末に向けての見通しを慎重に考え、 たとえ輸出を増やすことが可能となるとみても、第1四半期に置かれていたような厳しい環境 に当面大きな変わりはないという見方をしている。 他方、国内市場において、中国、トルコなどから輸入される鉄鋼品との競争が激しくなる懸 念が強まるなか、在庫調整の過程が終了せず、出荷価格の値下げを余儀なくされている鉄鋼会 社が商銀の融資条件の緩和を求めるに当たって政府の協力を要請したり、財政資金を財源とす る新規発注を求めたり、当局による間接的な保護強化を求める動きがより顕著になると予想さ れている。 6 皮肉なことに、支援の必要を議論が始まった数ヶ月前に、プーチン首相とメチェルのジュージン社長 の間に不愉快な事件があって、首相は2008年7月に自分が主催した会議の場でメチェルに対して「問題 を処理してやる」と脅かした場面も印象的であった。
4.化学産業
次に、化学産業に関しては、まずその定義が複雑で、「化学産業」の範囲をどう定めるかに よって現状の評価が異なるという問題がある。2004年までのロシア連邦国家統計局の分類で 「化学・石油化学産業」企業とみなされていた企業は、①石油化学製品(石油製品、有機化合 物など)、②タイヤをはじめとするゴム製品、③化学肥料、④その他化学品に大別された。こ れらの企業の生産高は1990年代後半と2000年代前半を通じてロシアの生産の6~7%を占め ていた。2005年から統計局は産業別企業分類制度をとりやめ、産品別生産分類に切り替えてお り、「化学産業」には亜硫酸、苛性ソーダなど基礎化学品、化学肥料、殺虫剤、合成樹脂、合 成ゴム、プラスチック、合成繊維、洗剤、化粧品、それに薬品の製造を含めている。 したがって、同じ「化学品」とはいえ、置かれている環境、市況などがまったく違う生産が その中身をなしており、ひとつの産業として状況と見通しを論じることが難しい。 化学産業のひとつの中核をなしているとされる化学肥料業界は、2008年の9~11月期に、破 滅的とも言える需要の落ち込みと価格下落に直面して窮地に追い込まれているとの報道があ った。同業界の主要なプレーヤーは、カリ肥料の大手生産企業「ウラルカリー」(英語名は Uralkali)と「シルヴィニト」(Silvinit)、窒素肥料と複合肥料を生産する企業と関連企業を統合 した大手持株会社である「エヴロヒム」(EuroChem)、「フォスアグロ」(PhosAgro)、「ウラルヒ ム」(UralChem)、ガスプロム系の「シブール化学肥料(Sibur–Mineral Fertilizers)、「アクロン」 (Akron)などである。これらの企業からの断片的な情報によると、2008年末の時点に化学肥 料を生産する施設の稼働率は30%台を割り、在庫の膨張が大問題となった。また、鉄鋼産業と は異なり、上流・下流を統合した「垂直統合型(vertically integrated)」グループからなる業界 体系ができていないため、上流・下流関係上、所有者の異なるビジネス・グループに所属する 企業の間の関係が複雑に絡み合っており、反独占当局の介入を必要とする価格設定をめぐる紛 争が頻繁に起こるのが特徴である。これらの複雑な関係を調整する目的で企業の自己管理団体 としてロシア肥料生産者協会(Russian Association of Fertilizer Producers)が設置されたが、加盟 企業を取り巻く環境が厳しくなった2008年後半には協会内の対立が激化し、お互いの関係の調 整が事実上不可能となり、政府の関係機関の介入を招いた。 こうした条件下で、政府系のエコノミストの中では、化学肥料の生産者の数が多すぎて生産 能力が過剰になっているので、強制的合併と生産能力の調整が必要であるとの意見が台頭し、 政府のより積極的な介入を求める声もあがりはじめている。とりわけ、連邦反独占局は2008年 12月に、カリ肥料の生産において支配的なシェアを占める2社、ウラルカリーとシルヴィニト、 それに燐酸肥料用の原料の供給を支配している「アパチト」をその管理の下に置く国営持ち株 会社を設置する案を提案したが、担当の副首相などから支持を取り付けることができなかった。 一方、ウラルカリーのオーナーがウラルカリーを国営コーポレーション「ロステクノロギイ」 (Russian Technologies)が考えていたスーパーカンパニィーに加わる案を検討しているという 情報もあった。 一方、2009年に入ってから、外需をはじめ需要が回復に向かっている兆しがみえはじめ、3 月期の生産量は前年同期の83%の水準まで盛り返し、化学肥料生産者が直面してきた「最悪の 時期」は終了しつつあるとの期待が述べられるようになった。少なくとも第2四半期には在庫 の調整が終了し、生産が徐々に増加していくという予測が多くなり、複数の吸収合併を伴う同業界のドラスチックな再編は遠のいている模様である。 一方、有機化合物の化学品、合成樹脂、ゴム、合成繊維などに関しては、国内市場を支配で きるほどの大手企業またはグループが登場していない構造になっている。他方、化学肥料市場 にみられたような需要の大幅な落ち込みがみられなかったため、関係企業の危機感はそれほど 強くはなく、ビジネス環境が厳しい中でも、従来通りの慣行を大きく改革する必要はないとみ ているようである。これらのセクターに関して言えば、「厳しい環境」の話は数年前から聞こ えており、今回の危機で急に悪くなったわけでもないから、これらの分野に重点を置く企業グ ループ(「レノワ」、「シブール」、「ロステクノロギイ」など)はこれまでの方針を根本的に見 直す必要はないとしている。 また、合成塗料、ラッカー、化学殺虫剤、医薬品、化粧品などの生産は2009年3月期には前 年同期の水準の96~97%で安定しており、昨年末時点の悲観的な予測に反して、危機による影 響は相対的に小さいようである。 逆に、国内資本の医薬品会社や化粧品メーカーは、実質ベースの売上高が前年同期より低く とどまっているにもかかわらず、2009年にこそ国内シェアを高めるチャンスがあるとみており、 今後について楽観的な展望を描いている。とりわけ、国内市場の3分の2を占めるに至った外 国化粧品メーカーの製品の輸入は、2008年第1四半期の実績に比べて約25%減ったことが通関 統計から明らかになっている。したがって、これらのセクターでは、輸入代替生産を大きく伸 ばす可能性が生じている。この貴重なチャンスを失えば、同じチャンスは二度と来ないとの見 方を、同業界の関係者の多くがしばしば示している。
5.建設・不動産
建設業について言えば、経済が不況に陥る懸念が高まった2008年10月頃に、この部門こそが その他産業より早く金融不安の影響を受け、最も大きな落ち込み幅を示すと予想されていた。 その背景には、以下のような理由があった。 ①住宅並びにオフィス用不動産開発に従事している民間企業は、通常の場合、国内の商銀の融 資に大きく依存しているので、貸し渋りが表面化した場合にはその犠牲になるのが確実とみ られ、建設作業を進めるのが極めて困難になる。 ②家計向けの住宅ローンの貸付に対する商銀の姿勢が慎重になり、新規ローンの貸出は大幅に 落込むので、新規の住宅開発プロジェクトの実施が先送りとなり、初期の段階にあるプロジ ェクトについても中止されるケースが多発する。 ③今回の金融不安で財務状況が著しく悪化した大手グループが、投資計画を大幅に減らすこと は不可避である。 ④景気の見通しが悪くなっている理由で、オフィススペースなど事業用の建物の利用拡大を考 えていた企業の多くはその計画の見直しに入り、不動産開発会社と締結した契約を再検討す る意向を伝えたケースも報道された。 また、11~12月期には、多くの不動産開発会社は債務を履行できない状況に陥っており、「モ スクワ・シティ」をはじめ、投資規模や宣伝が最も大きく、世間の目からみると象徴的とも言 える不動産開発プロジェクトの工事が凍結され、また予算が一部削減されるといったニュース が相次ぎ、不動産開発業界が長期不況に陥ってしまう懸念が強まった。一方、需要サイドでは不動産価格の大幅な落ち込みを期待して購入取引を遅らせる動きがみ られるようになり、流動市場においても新規取引が成立する件数が10年振りの減少を示し、一 時はゼロの水準に落ち込んでいた時期もあった。 その結果、建設企業に対する新規発注は当然のこと、現行の契約に基づく工事作業のファイ ナンシングは凍結されるケースが数多く報道された一方、信頼不足のため建設会社への銀行融 資は完全にストップしたほどではないが、ロルオーバーが難しくなり、順調な資金フローが途 絶える状況が多くの地方で発生した。 こうした中で建設企業は非正規労働力の大幅な削減をはじめ合理化への措置に訴え、危機打 開策を打って、2009年に入ってコスト削減への努力を重ねてきた結果、これまで数年にわたっ て高騰していた建設材の価格を押し下げる効果ももたらした。 2009年3月現在の建設業の状況とその見通しについて、専門家が出しているコメントをまと めてみると、極めて不透明であるという判断が多い。一方では、前年比20%減程度の活動のス ケールダウンが妥当な対応であり、それだけで現行の困難を乗り越えられるという楽観論があ る。他方では、建設会社の7割ほどが事実上倒産状態にあり、この産業がセクターまでに全滅 の脅威にされされるという悲観論も聞こえてくる。しかし、大手企業グループが、経営破たん 状態に陥っている不動産開発・建設会社を買い占めようとする動きがみられることなどから、 同セクターの見通しは絶望的ではないと考えている業界関係者が多く7、最悪の時期を乗り越 えれば、急速に発展・拡大できる企業がこの分野にも沢山あるという判断が窺われる。 建設部門の将来は、当然のことながら、この8年ぐらい急速に発展していた不動産開発会社 の今後の見通しにも大きく依存している。不動産開発業界は鉱工業部門を除けば、金融危機と 景気後退の影響を最も大きく受けている経済部門である。将来への不安から、需要が2008年第 4四半期以降急激に落ち込んでおり、価格や賃貸料金の大幅な値下げを招いている。セグメン トごとにみると、オフィス市場は凍結状態にあり、価格・賃貸料金が1年間で50%強の値下が りを記録したにもかかわらず、2009年第1四半期には新規需要による大型の取引は1件も成立 しなかったと業界節で指摘されている。その結果、工事完成率50%未満の開発プロジェクトは 凍結されており、完成率60~70%のプロジェクトの中でも建設作業を中止しているプロジェク トがある。 一方、工事完成率が比較的高くても、その完成に必要な資金の調達に苦慮して、商銀にリス ケを要請しているデベロッパーが多く出ている。スベルバンクをはじめ、大手の不動産開発会 社に融資を提供していた大手銀行が、担保の価値が下がって委託保証金を増額する要請をする 際、貸出先が保証金増額に失敗した場合、銀行の債権を不動産開発プロジェクトへの出資分(プ ロジェクトを実施するために設置された会社への出資分)に交換するケースがあると報道され ている。 店舗開発や倉庫開発のセグメントでは、オフィスほどではないが、需要の大幅な落ち込みが みられ、クライエントが求めるスペースの平均面積が狭くなる傾向が明確になっている。モス クワなどの店舗用不動産の賃貸料金は10~35%下がってきたにもかかわらず、ショッピングセ ンターの空き面積の比率は年初に比べて上がっており、モスクワでは10%に達している。一方、 7例えば、極めて広範囲の資産に対して関心を示しているグループ「ナフタ・モスクワ」(支配株主はS. ケリモフ氏)が、債務膨張のため窮地に陥った建設会社(「グラフストロイ」、「ピク・グループ」)を買
開発した店舗を賃貸している事業所は売上高が下がり始めているとして、賃貸料のさらなる値 下げがない限り、賃貸契約を更新しないと主張するものが多い。とりわけ、マーケットの高い 成長を前提として、一部の店舗がぎりぎりの収益性であることを度外視して店舗網の拡大発展 をめざしていた企業の多くが、店舗を減らす方針に転換しており、店ごとの収益性と効率を重 要視する戦略に切り換えて要るところが多い。
6.小売部門
最後に、商業部門、とりわけ小売部門の企業も、今回の金融不安と景気後退に強く影響され ている産業の一つとされている。 商業部門企業にとっては、ロシア経済の2001~2008年の「高度成長期」は理想的な環境であ った。7年間にも及んだこの成長期は、油価の高騰に大いに助けられていた一方、国内の消費 需要、とりわけこれまでは大衆の消費者の手が届いていなかった新規の財貨・サービスに対す る消費需要の急速な伸びにも支えられていたと言える。とりわけ、毎年のように新製品が投入 される家電製品、コンピューター類、携帯電話器とサービス、携帯電子ガジェット、乗用車と 関連サービスのブームがあり、これらに対する家計部門と企業部門の需要は毎年30~50%も伸 びていた。また、モスクワとサンクトペテルブルグでの消費ブームは徐々に地方にも展開し、 急速な伸びを示す大規模なローカル・マーケットを誕生させた。それに伴って、2000年代初頭 に未成熟の状態にあった販売業者の多くは、店舗チェーンを展開させ、需要に追い付くため店 舗網を首都や地方都市に急速に拡大し、拡大する市場のできるだけ大きなシェアを確保するこ とをめざした。短期間で数十軒、数百軒の店舗を開くには、資金調達のコストを度外視しても、 国内の金融機関などからの借り入れに依存することも厭わなかった。 ところが、2008年秋の金融不安が銀行の貸し渋りにつながり、数ヵ月ごとに返済期限の来る 短期の銀行ローンを借り替える必要性に迫られていた大手販売業者の財務状況は、急激に悪化 したと見られる。とりわけ、家電量販や食品店チェーンを経営している企業が、10月に入って 仕入れ先に対する決済期限を守れなくなり、両者の関係が緊張するようになった。携帯電話オ ペレーター(主に、市場を寡占している「MTS」「ヴイムペルコム」「メガフォン」の大手3社) がいわゆる携帯ショップの主要なチェーンに対する自分のコントロールを確立させたのをは じめ、小売部門では吸収合併取引が数多く成立し、同産業の大規模な再編が始まったが、売上 総額が減少傾向に変わりつつある現在でもその再編のプロセスは完了せず、むしろこれから本 格化する段階にある模様である。他方、扱い品目の構成の変更、店舗数の調整など、景気変動 や外部環境の変化に対応する手段を豊富に抱えていることも、同産業の企業の特徴である。おわりに
それぞれの産業に特有の事情はあるが、ロシア経済のこの春以降の景気を左右する要因とし て、最も重要視されている石油輸出価格の動向の他に、①後も予想される企業の合理化努力が 家計所得の動向に対してどのような影響を及ぼすか、②ロシアの商業銀行が非金融部門企業の 収益性の低下を受け、融資を当面厳しく抑制するか、③ルーブル相場の再び強含んでいること により、ここ数ヵ月みられたロシア産業の国際競争力強化のプロセスに終止符が打たれるか、④政府支出の伸びが予期されるが、企業レベルにおいてどれだけの需要効果を生み出すか、な どの未確定の要因もある。したがって、ロシア経済、国際経済のここ半年の動きによるロシア
の各産業へのインパクトを評価するのは時期尚早と思われ、2009年の経済成長、また各産業の
第2章
ロシア・ウクライナの自動車産業
ロシアNIS経済研究所 次長坂口 泉
1.ロシア
(1)ロシア乗用車市場の全般的状況
ロシアの乗用車市場は2008年に入ってからも順調に成長していた。とくに外国新車の販売が 好調で、2008年1月の販売台数は前年同月比で53%もの伸びを示した。その後も販売の好調さ は続き、上半期の外国新車の販売台数は前年同期比47%増の約106万台に達した。 市場関係者の多くは、下半期も同様の状況が続くと予想していた。しかし、8月になり、変 化の兆しが見え始めた。前年同月比で販売台数が落ち込むメーカーが目立ち始め、全体として も前年同月比23%の伸びにとどまった。この頃から、市場が成熟化してきているのではないか との声が市場の一部で囁かれ始めていた。 そのような状況の中、2008年9月半ばに世界的金融危機が勃発する。9月こそ外国新車の販 売台数はそれほど落ち込まなかったが、10月以降販売が停滞し始め、11月、12月と2ヵ月連続 で外国新車の販売台数は前年同月割れとなった。一方、純国産車の販売も夏頃から低迷し始め、 ほとんどの純国産メーカーが過剰在庫を抱え、現在危機的な状況に直面している。また、外資 系企業の現地工場をめぐる状況も、金融危機以降、全般的に悪化している。 ロシアの新車市場は、大別して、①純国産車、②外国新車(国内で生産される外国車+輸入 新車)、③輸入中古車の3つのカテゴリーによって構成される。最も伸びが著しいのは②の外 国新車で、2004年:約40万台、2005年:約60万台、2006年:約100万台、2007年:約165万台、 2008年:208万台とほぼ倍々ゲームで販売台数が増加し、市場の拡大を牽引してきた(表1)。 その他、2008年は、2009年1月からの輸入関税大幅引き上げを意識した中古車の「駆け込み需 要」があったため、輸入中古車の販売も若干増加した。一方、純国産車の販売は引き続き不振 で、前年比7%減となった。 厳密な意味での新車(純国産の新車+外国新車)の月別の販売台数の推移は図2のとおりで あるが、この図からもわかるとおり、上半期の売行きは非常に好調であったが、8月以降急激 に販売状況が悪化し、10~12月は前年同月比でマイナスとなってしまった。2008年秋の金融危 機がロシアの乗用車市場に与えた影響の大きさがうかがえる。 価格帯別の乗用車販売状況を見ると、少なくとも2008年の通年の数字から判断する限りにおいては、比較的値段の高い車の売行きが増加傾向にあるといえる。一方、1万ドル未満の価格 セグメント(純国産車が中心)のシェアは大幅に低下している。その背景には、純国産車の人 気の全般的低下、ならびに、ユーザーの購買力の上昇といった要因の他に、新車の小売価格が 全般的に上昇傾向にあるという要因もある。とはいえ、売れ筋の中心は依然として2万ドル未 満の比較的安価な車で、そのシェアの合計は6割以上に達した。 2008年秋の金融危機以降は、比較的安価な車の売行きが伸びるとみられていたが、今のとこ ろそのような傾向は見受けられない。たとえば、2008年12月のLADAクラシック(約4,500ドル ~)の販売台数は前年同月比で52%も減少した。また、LADAサマラ(約6,500ドル~)の販売 台数も40%以上減少した。さらに、ルノー・ロガン(約1万ドル~)、現代アクセント(約1 万ドル~)、LADAカリーナ(約8,000ドル~)の販売も不振であった。新車市場の底辺付近に 位置していたユーザーの多くが、可処分所得の減少、自動車ローン取得の困難等が原因で、新 車市場から退出し始めた可能性も否定できない。 表1 ロシア乗用車市場の規模 販売台数(1,000 台) 販売額(10 億ドル) 2007 2008 増減率 (%) 2007 2008 増減率 (%) ロシア純国産車 ロシア製外国車 輸入新車 輸入中古車 765 440 1,205 380 700 580 1,500 395 ▲9 32 24 4 6.5 6.7 34.1 6.1 6.5 10.5 45.0 7.0 0 57 32 15 合 計 2,790 3,175 14 53.4 69.0 29 (出所)『エクスペルト』誌、2009.1.26。原データは PricewaterhouseCoopers。 図1 ロシア乗用車市場の規模 販売台数(1,000台) 765 700 440 580 1,205 1,500 380 395 2007 2008 合計:2,790 合計:3,175 販売額(10億ドル) 6.5 6.5 6.7 10.5 34.1 45.0 6.1 7.0 2007 2008 輸入中古車 輸入新車 ロシア製外国車 ロシア純国産車 合計:53.4 合計:69.0 (出所)表1をグラフ化。
図2 新車の月別販売台数 (単位 1,000 台) 0 100 200 300 2007 119 133 181 204 207 202 214 220 208 233 225 247 2008 164 207 243 276 269 258 261 230 234 230 192 202 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 (注)純国産新車+外国新車。出所が異なるので、表1、図1の数字とは若干食い違う。 (出所)『ヴェードモスチ』紙、2009.1.15。
(2)ロシア国産メーカーの生産動向
ロシアの2008年の乗用車生産量は146万8,432台で、前年を13.9%も上回った。不振が続いて いた純国産車の生産も約5%伸びた(表2)。また、外国車の生産も前年に引き続き好調で、 30.2%の大幅な伸びを記録した(表3)。 ただ、数字上の好調さとは裏腹に、実態はかなり厳しいものとなっている。とくに、純国産 メーカーをめぐる状況はきわめて厳しい。 純国産メーカーの中では唯一、最大手のAvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)だけが生産量を伸 ばしたのだが、これは年後半に売行きが急激に落ち込んだのにもかかわらず、従来どおりの生 産水準を維持した結果で、決して好調な販売に裏打ちされた増産ではない。一説によれば、 AvtoVAZが抱える在庫の総数は2009年初頭時点で約11万台に達していたといわれている(『コメ ルサント』紙、2009.1.26)。Izh-Avto(イジェフスク自動車工場)とUAZ(ウリヤノフスク自動 車工場)はほぼ前年並みの生産量を維持することに成功したが、やはり売行きが不振で過剰在 庫を抱えているといわれている。GAZ(ゴーリキー自動車工場)の大幅減産(前年比43.8%減) は、主力のヴォルガの売行きが不振で年途中で生産が中止されたことと、新モデルのサイベル の売行きが不振で生産台数が伸び悩んだことに起因しているものと推測される。また、SeAZ (セルプホフ自動車工場)の大幅減産の原因は、主力の軽乗用車「オカ」の市場での人気が急 落していることによるものと考えられる。このままでいくと、近い将来オカの生産が打ち切ら れる可能性も否定できない。 外国車を生産しているロシア資本の大手メーカーの中では、ZMA(小型自動車工場)、 AvtoTOR、TagAZ(タガンログ自動車工場)の3社において生産台数が前年を上回った(表3)。 ソラーズ(旧セヴェルスターリ・アフト)傘下のZMAは、人気が低迷していた純国産車のオ カの生産を2006年夏から完全に停止し、市場で安定した人気を誇る韓国の双竜のSUV(Rexton、 Kyron等)およびフィアットの小型車(Albea等)の本格生産を2007年から開始したが、2008年 もこの2ブランドの生産台数が順調に伸び、前年比で68%の増産を記録した。AvtoTORではBMW、起亜、シボレー、中国のChery等多数のメーカーの車が生産されている が、2007年はとくにChery車とシボレー(GM-DAT)車の生産台数が大幅に伸び、前年比で実に 166.9%の増産を記録した。しかし、2008年は春に中国のChery車の生産が中止されたことなど もあって、生産が伸び悩み前年比でわずか2%の伸びにとどまった。2008年のブランド別の生 産台数を見ると、GM-DAT(シボレー)車の生産台数が最も多く、前年比30.7%増の5万8,012 台が生産された(そのうちの5万4,159台がシボレー・ラセッティ)。以下、BMW車(E60、E83 等):6,414台(前年比41.9%増)、起亜車:3万1,172台(前年比134.6%増、うち2万8,938台は 起亜シード)、GM車(ハマー、キャデラック等):6,779台(前年比63.1%増)と、それぞれ生 産台数を大幅に伸ばした。しかし、既述のとおり春に生産が中止された関係で、2007年には4 万台を超えていたChery車の生産量はわずか6,081台にとどまった。なお、AvtoTORは自由経済 ゾーンであるカリーニングラードに所在する関係で、組み立てラインしか装備していないにも かかわらず、部品の輸入関税上の特典を享受している(ただし、一部には、ラセッティの生産 ラインは塗装、溶接ラインを装備しているとの情報もある。http://www.autonews.ru、2009年2 月20日閲覧)。このことを産業・商業省や経済発展省等の関係省庁が問題視しており、2008年 中にも現行の特典に制限が加えられる可能性があるといわれていたが、今のところ、AvtoTOR に対し制限措置が適用されたとの情報は出ていない。 TagAZでは現代車(アクセント、ソナタ等)が生産されている。同社ではとくに年前半の生 産が好調で、上半期だけで前年比118.2%増の5万5,221台が生産された。ところが、金融危機 や工場出荷価格の値上げが災いし販売が急激に落ち込んだことに加え、現代との関係が微妙に なったこともあって年後半は生産が伸び悩み、通年では前年比35.9%増の9万6,567台の生産台 数にとどまった。 Izh-AvtoはSOK傘下のメーカーで、純国産車も生産しているが、韓国の起亜のスペクトラ(C セグメントのセダン)、リオ、ソレントの組立生産も行っている。2008年に同工場での起亜車 の生産量が減少したのは、2008年2月頃から親会社のSOKがIzhAvtoの売却交渉をAvtoVAZとの 間で開始したことと関係しているものと推測される。AvtoVAZ側は、資本提携をしているルノ ー(および日産)の車をIzhAvtoで生産することを視野に入れているといわれており、その関係 で、起亜車の生産量が段階的に減らされているものと推察される。 表2 純国産車の生産台数 (単位 台) 2007 2008 前年比増加率 (%) AvtoVAZ Izh-Avto GAZ UAZ SeAZ その他 735,897 21,908 39,003 31,869 4,901 1,137 801,563 20,922 21,936 30,953 1,291 641 8.9 ▲4.5 ▲43.8 ▲2.9 ▲73.7 ▲43.6 合 計 834,715 877,306 5.1 (出所)ASM ホールディング。
表3 外国車の生産台数 (単位 台) 2007 2008 前年比増加率 (%) AvtoTOR GM-AvtoVAZ TagAZ アフトフラモス フォード・ロシア Izh-Avto ZMA ウラル自動車工場 AMUR DerWay GM VW トヨタ 106,368 55,079 71,050 69,241 69,088 49,347 21,800 51 4,225 947 5,673 1,198 - 108,458 54,649 96,567 72,648 64,967 38,395 36,624 - 698 6,880 41,477 63,488 6,275 2.0 ▲0.8 35.9 4.9 ▲6.0 ▲22.2 68.0 - ▲83.5 626.5 631.1 5,200 - 合 計 454,067 591,126 30.2 (出所)ASM ホールディング。
(3)経済危機後の国産メーカーの状況
技術の後進性が著しい純国産メーカーは、外資との技術提携を軸に生き残りの道を模索して きたが、その途上で世界的金融危機に遭遇し、現在かつてない苦境にたたされている。また、 外国車の生産を拡大することにより業績を伸ばしてきたロシア資本の工場も、現在、金融危機 の否定的影響への対応に苦慮している。以下では、それら国産メーカー(外国ブランド車を生 産しているロシア資本の工場も含む)の金融危機後の状況、各メーカーが打ち出している危機 打開策、国家が打ち出している国内自動車産業救済策等について紹介する。 1)AvtoVAZ 生産状況 大量の在庫を抱えるAvtoVAZ(ヴォルガ自動車工場)は12月下旬から2009年2月 2日まで工場の稼動を停止し、在庫調整を行った。工場の稼動は2月3日に再開されたが、そ の直後に部品不足の問題が表面化し、生産に支障が生じている(この状況は今も続いている模 様)。部品不足問題が生じた原因は、2008年12月下旬にAvtoVAZが部品サプライヤーに対し行 った「部品代金の決済方式をこれまでの現金をベースにしたものから、手形を中心にしたもの に変更する。より具体的に言えば、今後は、部品代金の7割は手形(決済日は部品納入後半年 以上先)で支払われ、現金決済は3割となる」という主旨の一方的な通達にある(『コメルサン ト』紙、2008.12.25)。12月下旬時点でAvtoVAZに対しすでに巨額の売掛金を抱えていたサプラ イヤーたちはこの通達に猛反発し、比較的力の強い大手サプライヤー7社は売掛金の支払いが 行われるまで、部品の納入を停止するという方針を決定した(『コメルサント』紙、2009.2.6)。 その結果、AvtoVAZは現在、慢性的な部品不足に苦しんでいるのである。AvtoVAZは2009年2 月の生産目標を通常の年の約半分の3万2,000台に設定しているが、サプライヤーとの交渉に手 間取ることがあれば、その数字の達成すら困難になる可能性も否定できない。販売状況 2008年のAvtoVAZの販売台数は前年の77万台から72万8,000台にまで落ち込んだ。 とくに国内販売が不振で、前年比6%減の62万2,000台にとどまった。輸出の方は比較的堅調で、 ほぼ前年並みの10万6,000台を記録した(『ヴェードモスチ』紙、2009.1.13)。モデル別の内訳を 見ると、最も販売台数が多かったのはサマラで、全体の25.9%を占めた。以下、クラシック (LADA2105と2107)が25.3%、Priora(AvtoVAZの最新モデル:小売販売価格は約8,500ドル~) が21.5%、カリーナが16.9%、NIVA(小売販売価格は約7,500ドル~)が4.5%、111と112が4.2%、 その他特殊車両が1.7%となっている(『ヴェードモスチ』紙、2009.1.23)。 2007年の販売台数との比較でいうと、サマラ、クラシック、NIVAといった20~30年以上前 から生産されているモデルが大幅に販売を減少させたのに対し、比較的最近生産が開始された カリーナやPrioraは大幅に販売台数を伸ばした。とくに後者の売れ行きは非常に好調で、前年 比で40%も販売が伸びた(『エクスペルト』誌、2009.1.26)。 なお、AvtoVAZ車の販売不振は2009年に入ってからも続いており、同年1月の販売台数は前 年同月比38%減の2万9,110台にとどまった。 決算 2009年2月初めにAvtoVAZは、「夏以降の販売不振、借入金の金利負担の増大、生産 コストの上昇といった要因が重なり、2008年度は2000年以来の赤字に転落したので、株主配当 を実施しない」と発表した(『ヴェードモスチ』紙、2009.2.2)。赤字の規模をAvtoVAZは発表 していないが、業界のアナリストたちの推測によれば、10億ルーブル前後ではないかとされて いる。このような財務状況であるから、2009年中には終了する予定となっていたルノーのロガ ンのプラットフォームをベースとした新モデルの開発作業も、延期される可能性が高いとみら れている(http:// www.autonews.ru、2008.12.25)。 2)GAZ GAZ(ゴーリキー自動車工場)も金融危機の影響を強く受けており、深刻な財務状況下にお かれている。たとえば、同社の運転資金不足はきわめて深刻なレベルに達しており、2008年10 月には、代金の支払い猶予を要請する書簡を部品サプライヤーに送付している(『ヴェードモ スチ』紙、2008.10.24)。要請した支払い猶予期間はサプライヤーによって異なり、短い業者で 1~2ヵ月、長い業者では2009年9月までの猶予を要請したといわれている。 ただ、力の強いサプライヤーの中には、この要請に強い拒否反応を示しているところも少な くない。たとえば、鋼板を納入しているマグニトゴルスク製鉄所やノヴォリペツク製鉄所は、 2008年11月以降にGAZへの鋼板の納入を停止している(『RBKデイリー』紙、2008.11.11)。さ らにその後、マグニトゴルスク製鉄所はGAZを相手取り、約10億ルーブルの売掛金の支払いを 求める訴訟を起こしている(『ヴェードモスチ』紙、2009.2.19)。 このGAZの窮状の主因は、2008年8~9月以降、主力製品である小型商用車「ガゼリ」の販 売が急激に落ち込んだことにある。ガゼリの販売の6割はローンとリース・システムを利用し てのものだといわれているが、銀行の貸し渋りで当該システムが機能不全に陥ったことが、販 売急落の原因だといわれている。 その結果、GAZは10月初旬と下旬の2度にわたり、それぞれ5日間ラインを完全にストップ させて在庫調整を行うことを余儀なくされた。さらに、その後も、GAZは正月休みの延長や週 3日稼動体制への移行などの措置をとったが、売れ行きが相変わらず低迷しており(2008年9
月時点では約5億ルーブルあった月間売上高が同年11月には2億ルーブル未満に落ち込んだ)、 相変わらず、約2ヵ月程度の在庫をかかえたままとなっている。 なお、GAZの商用車部門は、2010年までに英国LDV社の商用車「Maxus」の本格生産、なら びに、LDV社の技術を採用した新型ガゼリ(ガゼリ3)の生産を開始する意向を表明していた が、現在のGAZの窮状を勘案すると、その目標を達成するのはほぼ不可能だと判断される。 GAZのもうひとつの主力モデルである乗用車「ヴォルガ」(小売販売価格は2万7,000ルーブ ル~)の販売も不振で、10月頃から生産が停止され、2008年の同モデルの生産台数は前年比48% 減の2万219台にとどまった。また、期待の新モデル(乗用車)のサイベルの生産台数も目標 の1万台を大きく下回る1,717台にとどまっている。サイベルはロシア市場では不人気のDセグ メントカーである上に、小売価格も5万4,000ルーブル~と、純国産メーカーの車としては値段 が高いため市場での人気は芳しくなく、その将来性を不安視する声が高い。GAZは販売価格を 4万9,000ルーブルに値下げして、2009年中に何とか1万6,000台を売りさばきたいとの意向を 表明しているが、この目標の達成は困難だとみなす市場関係者は少なくない(『ヴェードモス チ』紙、2009.1.12)。サイベルの生産ラインの年間生産能力は10万台で、4~5年間にわたり 最低でも年間4万5,000台以上の販売を維持しないとライン建設コストとクライスラーからの ライセンス取得料を回収できないといわれているので、このプロジェクトの先行きは非常に厳 しいと考えざるをえない。ちなみに、このプロジェクトの責任者であった「ルースキエ・マシ ーニィ」社(GAZの親会社に相当する会社)のエベルハードソン社長が2009年2月に辞任して いるが、恐らく、プロジェクトの不振の責任をとっての辞任であると推測される。 政府もGAZをめぐる状況が危機的なものであることを認識しており、2008年12月頃までに、 政府系銀行を通し100億ルーブルと10億ドルのクレジットラインをGAZに対し開設した。さら に、2009年2月にロシア政府は、GAZが提示した大幅な人員削減等を軸とした再建策を承認し、 同社が発行する社債を政府系銀行経由で買い取るなどの方法で200億ルーブル規模の追加支援 を実施する意向を表明した(『ヴェードモスチ』紙、2009.2.4)。ちなみに、2009年1月末時点 のGAZの債務額の合計は約400億ルーブルで、そのうちの約300億ルーブルが短期債務だといわ れている(上掲『ヴェードモスチ』紙)。 3)ソラーズ ソラーズ(旧セヴェルスターリ・アフト)は持ち株会社で、純国産のSUVや小型商用車の生 産を行っているUAZの他、タタルスタンにZMA(もともとは純国産の軽乗用車オカの生産を行 っていた)、セヴェルスターリいすゞ、ソラーズ・エラブガの3つの生産施設を保有している。 UAZの2008年の生産台数(小型商用車も含めた数字)は前年比3.5%減の7万2,181台、販売 台数は3.2%増の7万2,300台と比較的堅調であったが、やはり、2008年の秋以降販売台数が急 激に落ち込み、2008年末時点で約1万7,000台もの在庫を抱えるにいたった。このため、UAZ では2008年12月25日から2009年2月9日まで生産が停止された。ちなみに、販売不振は2009年 に入ってからも続いており、1月の販売台数は前年同月比39%減の1,773台であった。ZMAで は、韓国の双竜の大型SUV3モデル(Actyon、Rexton、Kyron)の他、フィアットのBセグメン トカー「Albea」とSUVのDobloの生産が行われている。双竜車もフィアット車も売れ行きが好 調で、2008年のZMAの生産台数は前年を68%も上回る3万6,624台に達した。もっとも、2008 年の秋以降は売れ行きがやや鈍化し、12月の生産台数は前年同月比で6.7%の伸びにとどまった。
その他、同じタタルスタンのセヴェルスターリいすゞでは日本のいすゞの小型トラックが、ソ ラーズ・エラブガではフィアットの小型商用車のDucatoが、それぞれ生産されている。 ソラーズは国内資本の自動車メーカーの中では最も経営が安定しているといわれているが、 タタルスタン(エラブガ)での新工場建設や外国ブランドの商用車用の部品の現地生産計画の 推進等で費用がかさみ、2008年下半期だけで債務額が約3億ドルも増加し、その総額は年末時 点で7億4,000万ドルに達した(うち6,600万ユーロ分が外貨建ての債務で、残りはすべてルー ブル建ての債務:『ヴェードモスチ』紙、2009.2.4)。このため、ソラーズは国家に対し100億ル ーブルの融資を申請したといわれている(うち48億ルーブルが債務返済用、52億ルーブルが運 転資金用。上掲『ヴェードモスチ』紙)。 4)TagAZ TagAZ(タガンログ自動車工場)では現代のアクセント、ソナタ、サンタフェ等が生産され ているが、2008年上半期は現代からの部品供給量が大幅に伸びたこともあって、生産台数が前 年同期の2倍以上(118.2%増)に達した。しかし、現代の現地工場(サンクトペテルブルグ郊 外)の起工式が行われた2008年6月頃から同社と現代の関係が微妙になったことや、10月に生 産モデルの価格を平均で3万ルーブル値上げしたことが災いして、年後半は主力モデルのアク セントを中心に販売台数および生産台数が大幅に落ち込んだ。たとえば、12月の生産台数は前 年同月比67%減の約2,200台にすぎなかった。その結果、2008年通年の生産台数は結局、前年比 35.9%増の9万6,567台にとどまった。 現代との関係が微妙になった関係でTagAZは「脱現代」の動きを加速させており、2008年9 月には、中国のCheryのForaというモデルをVortex Estinaという自社ブランドで生産し販売する 計画を発表した(『ヴェードモスチ』紙、2008.9.16)。また、2009年2月には、韓国にある設計 子会社が開発したTagAZ-Cという小型セダンの生産を開始するとの発表を行った(『ヴェードモ スチ』紙、2009.2.12)。ただ、どちらの計画もまだ軌道にのっておらず、TagAZの救世主になり うるかどうかの判断は困難となっている。 販売の急激な落ち込みに伴い、TagAZでは2008年秋頃から財務状況が急激に悪化しており、 一部には給料の遅配が生じているとの情報も出始めている(『ヴェードモスチ』紙、2008.11.25)。 また、2009年1月には、資金不足が原因で、韓国および中国から輸入され保税倉庫で保管され ている組立用部品の通関が切れず(2009年1月下旬時点で約4万台分の部品が保税倉庫に保管 されていた)、現代車やChery車の生産に支障が生じていることも判明した(『ヴェードモスチ』 紙、2009.1.23)。 同社はこの苦境を乗り切るため、外国貿易銀行から最大80億ルーブルのクレジットラインを 獲得すると同時に(2009年1月下旬時点で、そのうちの60億ルーブルを消化していた)、大幅 な人員削減を実施することを計画しており、2008年11月18日付の『ヴェードモスチ』紙によれ ば、その規模は最大で3,000人に達する可能性があるとされている(同社の従業員数は現在、約 8,500人)。 5)IzhAvto IzhAvto(イジェフスク自動車工場)は、SOKというロシアの民間の持ち株会社傘下の工場。 同工場では、オリジナル車(Izh2126(オダ、ファブラ))や、AvtoVAZで生産中止となった旧
式モデル(LADA2104、2106)等の生産を主に行ってきたが、それらのうちオダ、ファブラお よびLADA2106の生産は2005~2006年に相次いで中止され、現在は、LADA2104の生産だけが 行われている(2008年の生産量は2万922台)。その他、2005年からは、韓国の起亜のスペクト ラ、リオ、ソレントの生産が行われている。このうち主力はCセグメントのセダンのスペクト ラ(小売価格は1万2,000ドル~)で、2008年の販売台数は3万6,997台に達した(同年の生産 台数は3万2,575台)。ただ、IzhAvtoの財務状況も決して良好とは言い難く、2008年12月には社 債の期限前償還に失敗している(『ヴェードモスチ』紙、2009.1.15)。 親会社のSOKもIzhAvtoをめぐる状況の厳しさを認識しているようで、既述のとおり、2008 年2月頃からAvtoVAZとの間で、IzhAvtoの売却に関する交渉を開始している。金融危機の影響 もあり交渉は長引いているが、一部情報によれば、AvtoVAZが保有する自動車販売会社「ラー ダ・セルビス」(ロシア国内に約140のディーラー店を保有し、LADA車の総販売台数の約25% を売り上げている会社)の株式の75%とIzhAvtoの株式の100%を交換することで基本合意に達 したといわれている(『コメルサント』紙、2009.2.5)。 AvtoVAZに正式に買収された後、IzhAvtoではルノー車もしくは日産車が生産される可能性も ある。たとえば、2009年1月にIzhAvtoが(社債を保有する)債権者に対し行った説明によれば、 「AvtoVAZに正式に買収された後、わが社はルノー車と日産車の生産を開始する。ルノー車は 2009年に2万8,000台生産され、2013年には生産台数は23万台に達する。日産車の生産は2011 年から開始され、2013年にその生産台数は13万5,000台に達する」とされていた(『ヴェードモ スチ』紙、2009.1.15)。数字に関しては誇張されたものであるとの印象が拭いきれないが、様々 な情報から判断して、IzhAvtoでのルノー車もしくは日産車の生産の可能性が検討されているの は事実のようである。もっとも、一部には、その大前提となるAvtoVAZによるIzAvtoの買収に 関する交渉が、詰めの段階で難航しているとの情報も出ているが(『コメルサント』紙、 2009.2.27)。 6)国による国内自動車産業救済策 金融危機勃発後、ロシア政府は様々な国内自動車産業救済策を打ち出しているが、以下でそ のうちのいくつかを紹介しておく。 関税に関連した措置 2008年12月5日にプーチン首相は、法人による自動車輸入の際の関税 の引き上げを規定した政府決定第903号「いくつかの種類のモーター輸送手段のロシア連邦関 税率の変更について」に署名した。さらに、その5日後には、自然人による中古車の輸入の際 の関税の引き上げを規定した政府決定第943号「自然人によりロシア連邦関税境界を通過され る商品の統一関税率および税金の適用に関する規定の第11項の変更について」への署名が行わ れた。そして、2つの政府決定とも2009年1月12日に発効している。すなわち、この日から、 自動車の輸入関税率が引き上げられている。なお、適用期間が延長される可能性もあるが、903 号の付属文書で規定されている新関税率は9ヵ月の時限的措置だとされている。一方、943号 で規定されている新関税率に関しては、有効期間に関する言及がなされていない。 さらに、2009年2月には、2009年1月27日付政府決定第37号「輸送手段、およびそのユニッ トと部品の工業アセンブリーのために輸入される若干の商品のロシア連邦関税率の変更につ いて」が公布された。この政府決定は、工業アセブリー措置に従い、3~5%の特恵関税率を