Bulletin of the Museum of Natural and Environmental
History, Shizuoka ふじのくに地球環境史ミュージアム
研究報告
Koichi SHIBUKAWA*, Fumihito MUTO, Toshiyuki SUZUKI, Masahiro AIZAWA. 2017. An undescribed goby of the genus Oxyurichthys (Gobiidae; Gobionellinae) from Lake Hamana, Shizuoka Prefecture, with comments on taxonomy of the other congeners in Japan. Bull. Mus. Nat. Env. Hist. Shizuoka, (10): 45–57.
*Corresponding author: Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka, 5762 Oya, Suruga-ku, Shizuoka City, Shizuoka 422-8017, Japan (e-mail: [email protected])
ABSTRACT Although taxonomy of the gobiid genus Oxyurichthys was recently reviewed worldwide, some putative undescribed species, as well as some nominal species in need of further investigation on the validity, still remain in the Japanese waters. Examples include a species, known only by a specimen collected from Lake Hamana, Shizuoka Prefecture of Japan; it appears to be an undescribed species, not agree with any of the described congeners. In order to call attention for gathering additional specimens/information of the species, freshly-collected photographs and morphological characteristics of the specimen are shown. And, currently we confirmed 14 species of Oxyurichthys in the Japanese waters; of these, four species, including the above-mentioned Hamana one, presume to be undescribed. Taxonomic status of the Japanese species are briefly reviewed, and a preliminary key to species of all 14 species of Japan is given.
© Museum of Natural and Environmental History, Shizuoka, 2017
浜名湖から得られたハゼ科サルハゼ属の1未記載種と
日本産同属魚類の分類の現状
渋川浩一
1・武藤文人
2・鈴木寿之
3・藍澤正宏
4 東海自然誌 (10): 43–55 2017 年 3 月 31 日発行原著論文
1〒 422-8017 静岡県静岡市駿河区大谷 5762 ふじのくに地球環境史ミュージアム 2〒 424-8610 静岡県静岡市清水区折戸 3-20-1 東海大学海洋学部水産学科生物生産学専攻生物資源学研究室 3〒 666-0125 兵庫県川西市向陽台 1-18 川西緑台高等学校 4〒 100-8111 東京都千代田区千代田 1-1 宮内庁サ
ルハゼ属(Oxyurichthys Bleeker, 1857)は,イ ンド・太平洋および西部大西洋の温帯から熱 帯にかけて広く分布するハゼ科ゴビオネルス亜科 の1属である.本属は同亜科内において,第 3 神 経棘が幅広く,その先端は二叉し、頭部感覚管の 開孔が Aʹ B C D(S) F Hʹ からなることで特徴づけ られる[Pezold and Larson, 2015(ただし感覚管開 孔の記号は明仁親王 in 益田ほか , 1984 に準じたも の)].サルハゼ属魚類は Pezold and Larson (2015) に よって分類学的再検討がなされ,16 有効種が認め られた.しかしいまだ検討が十分と言えない種や, 未記載と考えられる種も少なからず残る.2015 年 9 月,静岡県浜名湖における袋網漁獲 物中からサルハゼ属の 1 標本(雄,標準体長 80.0 mm) が 得 ら れ た(Fig. 1). 本 個 体 は Larson and Pezold (2015) が認めたいずれの既知種にも該当せ ず,未記載であると考えられる.ただ残念ながら, 得られたのはわずか 1 個体にすぎない.今後のさ らなる標本や情報の収集に向けて,本報では同個 体の鮮時画像を紹介するとともに,その形態的特 徴を記載する.さらに他の日本産種(3 未記載種を 含む 13 種)の分類学的情報を整理し,日本産全種 の検索表を提示する.
材料と方法
今回の観察に用いた標本は,以下の機関に所蔵 されている(機関略号のアルファベット順):宮内 庁皇居内生物学研究所(BLIP);神奈川県立生命の 星・地球博物館(KPM);大阪市立自然史博物館 (OMNH);ふじのくに地球環境史ミュージアム(SPMN);横須賀市自然・人文博物館(YCM);東 京大学総合博物館魚類部門(ZUMT).比較に用い た標本の多くは鈴木ほか(2000a,2000b)に掲載 されている.それ以外の観察標本は本報の末尾に 列記した. 計数・測定方法は下記のものを除き益田ほか (1984)に従った(とくに計数法の多くは明仁親王 in 益田ほか,1984 に従った):頭幅と頭高は前鰓 蓋後縁付近で測定した;両眼間隔幅は骨質部の最 狭部で測定した;顎長は上唇の前端から顎の後下 端までを測定した;体高は臀鰭起点部で測定した; 体幅は胸鰭基部後方の最大幅部で測定した;背鰭 前方長,腹鰭前方長,臀鰭前方長は,吻端(上唇 の前端)から各々の鰭の棘条(背鰭の場合は第 1 背鰭第 1 棘)基部の前端までを測定した;尾柄長 は臀鰭最後軟条基部後端から尾鰭基部中央(下尾 骨後縁の中央)までを測定した;尾柄高は尾柄部 の最狭部で測定した;胸鰭長と尾鰭長は各々の鰭 の最長軟条の基部から先端までの長さを測定した; 腹鰭長は腹鰭棘条基部前縁から腹鰭後端(第 5 軟 条の後端)までを測定した.体各部の観察は双眼 実体顕微鏡下で行った.鱗や頭部側線系(感覚管 や孔器列)の観察はサイアニンブルーで一時的に 染色を施した標本で行った.頭部の感覚管開孔の 名称は明仁親王 in 益田ほか(1984)に,孔器列の 名称は Sanzo(1911)を若干改変した Wongrat and Miller (1991) や Ahnelt and Bohacek (2004) に,それ ぞれ従った[各孔器列の定義は Sanzo (1911) に詳し い].体色の記載に用いた色の名称は財団法人日本 色彩研究所(2001)を参照した. 各種の分類学的附記の項では,種は学名(種小名) のアルファベット順に配列した.未記載種の学名 は,「sp.」の後に掲載順に番号(1 ~)を与えるこ とで区別した.なお今回報告する浜名湖産種と野 川ほか(2003)で報告された「サルハゼ属の 1 種」 には,いずれも学名(種小名)だけでなく,該当 する和名もない.それら 2 種の標準和名は将来の 新種記載時に付されるものとし,本報では新称を 提唱しない.両種の区別は,暫定的な同定名「サ ルハゼ属の 1 種」の後にアルファベット(A と B) を与えることで行った.学名が確定し,しかし該 当する標準和名がない種については,新称を与え た.
サルハゼ属の1種 A
Oxyurichthys sp. 1 (Figs 1–2) 観察標本 SPMN-PI 3197, 1 個体(雄),標準体長(SL) 80.0 mm,静岡県浜松市雄踏(浜名湖),袋網,2015 年 9 月 15 日,東海大学武藤文人研究室チーム採集. 記 載 以下の計数値では,体の左右両側の値をとれる ものに関してはスラッシュ(/)の左側に体左側 の値を,右側に体右側の値を示す.背鰭条数 VI-I, 12;臀鰭条数 I, 13;胸鰭条数 23/23;腹鰭条数 I, 5/ I, 5;尾鰭分節軟条数 9+8;尾鰭分枝軟条数 8+7; 縦列鱗数 70/70;横列鱗数①(臀鰭起点~第 1 背鰭 基底)28/28;横列鱗数②(臀鰭起点~第 2 背鰭基 底)25/27;横列鱗数③(第 2 背鰭起点~臀鰭基底) 24/23;背鰭前方鱗数(項部背中線に沿う皮質隆起 縁の側方で計数)26;鰓耙数 2+3. 体各部の標準体長(SL)における割合(%)は 以下の通り:頭長 26.4;頭幅 14.2;頭高 17.5;吻 長 8.6;眼径 6.1;両眼間隔幅 1.3;顎長 13.8;体 高 18.6;体幅 11.0;背鰭前方長 31.8;腹鰭前方長 26.3;臀鰭前方長 50.0;尾柄長 10.0:尾柄高 9.8; 胸鰭長 25.8;腹鰭長 24.9;尾鰭長 44.3. 体は比較的細長く,側扁する.頭は側扁し,前 鰓蓋骨後縁における頭幅は頭高の 81.1 %.口裂の 角度は体軸に対して約 45º.上下両顎は等位で,下 顎先端は上顎よりも前に突出しない.顎の後端は 瞳の中央下に達する.上唇の上縁は中央(最前端) でくぼまない.眼上に糸状皮弁や瘤状の肉質突起 はない.眼は頭部の背縁にあり,吻端を通り体軸 に平行な線よりも上に位置する.吻は丸く,眼径 よりやや長い(眼径は吻長の 71.1 %).両眼間隔は 狭く,瞳径よりもやや狭い.尾柄部は短く,尾柄 長は尾柄高とほぼ同じ(尾柄高の 102.2 %). 第 1 背鰭は台形に近く,第 1 棘条の糸状部を除 くと第 2 背鰭よりもわずかに低い.第 1 背鰭棘条 は,第 1 棘条以外は糸状に伸長しない.第 1 棘条 が最長で,その先端は,鰭を倒すと第 2 背鰭の第 2 軟条の基部よりもわずか後方にまで達する.第 1 背鰭と第 2 背鰭は近接し,ごく低い鰭膜で連続す る.第 2 背鰭と臀鰭は低く,ともに最後から 1 つ 前の軟条が最長で,どちらも鰭を倒すと先端は尾Fig. 1. Freshly-collected photographs of an undescribed species of Oxyurichthys from Lake Hamana, Hamamatsu, Shizuoka, Japan (SPMN-PI 3197, male, 80.0 mm SL)
浜名湖から得られたサルハゼ属の 1 未記載種 鰭基底よりも後方にまで達する.胸鰭は楕円形で, 先端はわずかに尖る.左右の腹鰭は,棘条間と第 5 軟条間にそれぞれ発達した膜蓋と癒合膜によって 相合し,楕円形の吸盤状をなす.腹鰭の膜蓋後縁 は鋸歯状に切れ込む.背鰭,臀鰭,胸鰭,腹鰭の 鰭条は全て分枝する.尾鰭は細長い尖形で,頭長 よりはるかに長い(尾鰭長は頭長の 167.6 %). 前鼻孔は短い管(前鼻管)の先端に開孔する. 前鼻管は基部の前縁が上唇に近接し,前向するた め,先端がわずかに上唇に被る.前鼻管の先端に 明瞭な皮質突起はない.後鼻孔は前鼻管基部後縁 と眼の前縁ほぼ中間にあり,涙形で,ごく低い隆 起上に開孔する.鰓孔の前下端は鰓蓋部の中央下 よりもやや前方にまで達するが,前鰓蓋後縁下に は達しない.第 1 鰓弓上枝(上鰓骨部)外側の鰓 耙よりも前方には鰓耙より大型の 2 肉質隆起があ り,後方のものの先端は二叉し,尖る.舌は口床 からよく離れ,前縁は円い.上顎歯数は 16/16.上 顎歯はいずれもごくわずか内向きに曲がる細長い 円錐状で, 1 列に並ぶ.下顎歯はいずれもごくわ ずか内向きに曲がる細長い円錐状で,前方で 3 列, 後方で 1 列に並ぶ.下顎最外側列の歯は内側列の ものより大型だが,最大のものでも上顎歯に比べ るとかなり小さい.
背鰭前方の背中線上にある皮質隆起縁とその周 辺は無鱗.項部・後頭部側面は円鱗を被り,被鱗 域の前端は前鰓蓋後縁を通る垂線にわずかに達し ない程度.それ以外の頭部,腹鰭前方,胸鰭基部, 腋部,腋部と腹鰭基部の間,腹部前半・腹鰭後方 の腹中線上とその周辺は無鱗.体側鱗は細かく, 後方に向かうにつれて,とくに体側中央付近のも のがやや大型になる.体側前半の鱗は円鱗で,後 半は櫛鱗.櫛鱗域の前端は体側中央にあり,第 2 背鰭と臀鰭の起点間を結ぶ線上(体右側)か,そ れより 1 枚前の鱗(左側)にまで達する.背鰭と 臀鰭の基底付近の鱗は円鱗.背鰭,臀鰭,胸鰭, 腹鰭は無鱗.尾鰭は基部周辺(基底から尾鰭長の 1/9 程度まで)のみ鱗で被われる. 頭部の感覚間開孔と孔器を Fig. 2 に示す.頭部感 覚管開孔は Aʹ B C D(S) F Hʹ.後眼肩胛管と前鰓蓋 管はない.頬の孔器列は明瞭な横列パターン(Hoese, 1983 の transverse pattern).前から 2 番目の横列孔 器列(列 2)の上端と眼の下縁は,瞳径の半分程度 (左側)かそれよりやや短く(右側)離れる.その 後下方の横列孔器列(列 3i)は,左側のものは下 部で二叉するが,右側では(通常の同属魚類の状 態と同じく)二叉しない.鰓蓋部背方の縦列孔器 列(列 x2)の下方には,4 本の短い横列孔器列の他 にも多数の孔器が散在する. 鮮時の体色は以下の通り.体側は背前方が暗い 黄みのブラウン,腹後方に向かい徐々に淡くなり, あさい黄みのブラウンとなる.胸部および躯幹部 腹面は白.体側に明瞭な暗色斑はない(脱鱗部が やや淡くなり,ごく不明瞭なまだら模様を呈する 程度).頭部は吻,鰓蓋背前部,後頭部,項部が暗 い黄みのブラウンか暗い灰みのブラウンで,頬や 鰓蓋腹後部は明るいグレイあるいは白.眼の下縁 から顎の後端部付近にかけて,瞳径よりやや幅の 狭い,不明瞭な暗いグレイの 1 垂線がある.眼の 前縁と後縁周辺からそれぞれ 1 本の細いうすいス カイの垂線があり,各々の前後はあさい黄で細く 縁どられる.鰓蓋部には 3 本のうすいスカイの斜 線があり,各々の前後はあさい黄で細く縁どられ る.鰓蓋膜の側部はほぼ白.虹彩は暗いグレイで, 一部がゴールドがかる.眼の背部にさえた赤の 1 小斑紋がある.胸鰭基部は前部が白あるいは明る いグレイで,後部がゴールドあるいは暗い黄とな り,背後縁に不明瞭な暗いグレイの三ヶ月状斑が ある.胸鰭基部のゴールド部は鰭条部分にまでわ ずかに広がり,後縁が暗いグレイの垂線で縁どら れ,その直後は浅いスカイとなる.胸鰭のそれ以 外の部分はほぼ透明で,鰭条がやや暗色がかる程 度.腹鰭は基部付近が白で,鰭条はわずかに黄み がかる.腹鰭の鰭膜には微小な黒色素方が密在し, グレイあるいは明るいブラウンみのグレイとなる が,明瞭な斑紋等はない.第 1 背鰭はほぼ透明だが, ごく不明瞭な細い暗色の縦帯模様が前半部でかろ うじて確認できるほか,第 5・6 棘条の後方がグレ イがかる.糸状の伸長部を除く第 1 棘条には,に ぶい黄みのオレンジと白の小斑が交互に入る.そ れ以外の背鰭棘条はほぼ暗色か,少なくとも第 2・3・ 4 棘条にはごく不明瞭なオレンジがかった小斑が 並ぶ.第 2 背鰭にはあさい赤みのブラウンと白の 斜帯が交互に入る.臀鰭は基部付近がほぼ透明で, 外側の半分から 2/3 程の鰭膜がグレイがかる.尾鰭 は鰭条がほぼ透明で,鰭膜は,中央の数鰭条間の ものがさえたオレンジ,それ以外はグレイがかる. 70 % エチルアルコール保存下での体色は,以下 を除き鮮時のものに似る.頭や体のブラウン系の 色は褪せ,より灰みがつよくなる.赤や黄,青(ス カイ),白の模様の大半は退色する.第 2 背鰭のあ さい赤みのブラウンの斜帯はグレイとなって残る. 備 考 今回観察した標本は,浜名湖内で操業する袋網 (角立網)の漁獲物中から得られた.同漁獲物中に は他にホタテウミヘビ,カタクチイワシ,サッパ, コノシロ,ゴンズイ,カエルアンコウ,ボラ,サ ヨリ,ハオコゼ,スズキ,シマイサキ,コショウ ダイ,イサキ,ヒイラギ,シログチ,メジナ,カ ゴカキダイ,クロダイ,ヘダイ,マダイ,アカカ マス,ギマ,ヒガンフグ,コモンフグ,シロサバ フグといった浅海性魚類が多数見られた. この浜名湖産個体は,(1)眼上に糸状皮弁や瘤 状の肉質突起がない,(2)体側後半に櫛鱗がある, (3)項部側面の鱗が背鰭前方背中線上の皮質隆起 縁の左右にまで達する,(4)眼上(背後部)に明 瞭な暗色斑がない,(5)腹鰭に横帯や斑点がない, (6)腹鰭前方に鱗がない等の特徴を併せもつこと
で サ ル ハ ゼ Oxyurichthys saru Tomiyama, 1936 に 似 る.しかし浜名湖産個体は,体側に暗色斑がない[vs. サルハゼでは不明瞭な 4 暗色斑がある(Tomiyama, 1936)],顎の後端は瞳の中央下に達する(vs. 瞳の 後縁下よりも後方にまで達する),第 1 背鰭の第 1
Fig. 2. Dorsal (top), lateral (middle) and ventral (bottom) views of head of Oxyurichthys sp. (SPMN-PI 3197, male, 80.0 mm SL), showing cephalic sensory canal pores (indicated by roman uppercase letters, except for AN and PN) and papillae (indicated by roman lowercase letters). AN and PN, anterior and posterior nares, respectively. Arrows show position where gill membrane attached to isthmus.
棘条が糸状に伸長する(vs. 雌雄ともに伸長しない), 縦列鱗数 70(vs. 52–56),体側の櫛鱗域の前端は背 鰭・臀鰭の起点間を結ぶ線上付近にまで達する(vs. 第 2 背鰭第 1 軟条基部下にまで達する),鰓蓋部上 方の縦列孔器列 x2の下方に,短い横列孔器以外に も多数の孔器が散在する(vs. 短い横列孔器しかな い)等といった特徴でサルハゼとは異なる.Pezold and Larson (2015) はサルハゼや学名不詳のイレズミ サ ル ハ ゼ を Oxyurichthys auchenolepis Bleeker, 1876 と同種と見なしたが,これら 3 種および近似する 浜名湖産の個体は互いに鱗の分布域や体色等が異 なっており,いずれも独立種と考えられる(下記 参照). 今回の浜名湖産個体に該当する既知種は国内外 に見当たらず,未記載種と考えられる.これまで に得られている標本は今回観察した 1 個体のみで あり,水中画像の記録も無い.浜名湖内の袋網漁 獲物中から得られたことを考えると,おそらく生 息水深はさほど深くない.本報をきっかけとして, 今後さらに情報が増えることを期待したい.
その他の日本産サルハゼ属魚類
これまでの著者らの調査では,上記の浜名湖産 種の他にも 3 未記載種を含む 13 種のサルハゼ属魚 類が本邦水域から確認されている.以下に各種の 分類に関する概要を述べる. (1) アラガサルハゼ(新称)Oxyurichthysaucheno-lepis Bleeker, 1876 (Figs 3A, 3B)
本種は Bleeker (1876) によってシンガポール産 の 2 標本を基に新種記載された.その後 Koumans (1953) は疑問符つきで日本を分布域に含め,Pezold and Larson (2015) も日本を含むインド・西太平洋の 広い範囲から本種を記録している.しかし本種の 分類には未だ問題が多く残っており,分布域も再 精査する必要がある.
例えば,Pezold and Larson (2015) は本種の異名リ スト中にサルハゼとイレズミサルハゼを含めたが, これら 3 種は被鱗域や顎の大きさ,上唇の形状, 体色等で識別できる明らかな別種である.顎の大 きさはサルハゼが最も大きく,上顎の後端は瞳後 縁を通る垂線よりも後方に達する.それに対して O. auchenolepis とイレズミサルハゼの上顎の後端は, 眼の中央下に達する程度となっている.上唇の上 縁は,O. auchenolepis では中央部分で深くくぼむ (上唇幅の 50–80% 程度)が,他 2 種では全くくぼ まないか,わずかにくぼむにすぎない.被鱗域は, サルハゼでは腹鰭前方部が無鱗となっているが,O. auchenolepis とイレズミサルハゼには円鱗がある. 体色は,サルハゼとイレズミサルハゼでは体側中 央に暗色斑が並ぶのに対し,O. auchenolepis では それがごく不明瞭か,または無い.なお Pezold and Larson (2015) の O. auchenolepis の腹鰭前方の被鱗 域の記載には,統一性がない.検索表(p. 11)や 比較(p.21)の箇所では腹鰭前方に鱗があること を本種の識別形質のひとつとして明記しているに も関わらず,記載部分(p. 20)では「Prepelvic area covered with 0–15 (modally 12) rows of small cycloid scales」となっている.彼らはサルハゼのタイプ標 本(2 個体)も観察しており,記載部分に「0」を 含めたのはそれが基となっている(H. K. Larson 氏 私信). 益田ほか(1984: pl. 245, fig. F)は,和歌山県白浜 で採集された打ち上げ個体(BLIP 19740078)の鮮 時画像をサルハゼとして紹介した.同書の記載部 分(明仁親王 in 益田ほか,1984: 252, fig. 128)にあ る情報や頭部孔器配列図も,この個体に基づいて いる.当時サルハゼと言えば,静岡県静浦に打ち 上げられた 2 個体を基にした Tomiyama (1936) の原 記載以降,半世紀近くにわたって記録が全くなかっ た稀種である.原記載以外に情報はなく,鮮時の 体色も知られていなかったためか,その和歌山県 産個体をサルハゼとすることに対して何ら異議が 出ることはなかった.その後も和歌山県白浜では 同種とみられるものが打ち上がり,採集されてい る(BLIP 19900808).野川ほか(2003)は高知県 初記録種としてサルハゼを報告したが,その際の 比較(同定確認)に用いられたものも,この和歌 山県白浜産標本である.しかし今回,それら和歌 山県白浜産標本を確認したところ,いずれもサル ハゼではなく O. auchenolepis であった.野川ほか (2003)の高知県産標本も,その記載や画像,被鱗 域の図から判断する限り O. auchenolepis と思われ る.Pezold and Larson (2015) はこれら文献類をすべ て参照しており,彼らがサルハゼを O. auchenolepis の新参異名と判断した主な理由は,「サルハゼ」と 同定されていた上記の和歌山県白浜産標本にある という(H. K. Larson 氏私信).彼らはサルハゼの
Fig. 3. Freshly-collected (A, C, D, F, G, H, K, L, M, and N) and alcohol-preserved (B, E, and I) specimens and line drawing (J) of Oxyurichthys from the Japanese waters. A) O. auchenolepis, BLIP 19760078, 86.9 mm SL, Wakayama, Japan (Masuda et al., 1984: pl. 245, fig. F); B) O. auchenolepis, BLIP 19760078; C) O. cornutus, SPMN-PI 3198, 46.4 mm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; D) O. lonchotus, SPMN-PI 3199, 39.9 mm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; E) O. microlepis, ZUMT 23489, 73.5 mm SL, Kochi, Japan; F) O. notonema, SPMN-PI 3200, 49.2 mm SL, Amami-oshima Island of Ryukyu Islands, Kagoshima, Japan; G) O. ophthalmonema, SPMN-PI 3201, 28.1 mm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; H) O. papuensis, ZUMT58433, 59.4mmSL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; I) O. saru, ZUMT 30522 (holotype), 74.1 mm SL, Shizuura, Shizuoka, Japan; J) original illustration of holotype of O. saru (from Tomiyama, 1936: , fig. 29); K) O. takagi, OMNH-P 43671, 29.3 mm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; L) O. zeta, BLIP 20130301, 44.7 mm SL, Amami-oshima Island of Ryukyu Islands, Kagoshima, Japan; M) O. sp. 2, KPM-NI 33805 (formerly registered as IOP 2587), 62.3 cm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Okinawa, Japan; N) O. sp. 3, ZUMT 60475, 35.0 mm SL, Iriomote-jima Island of Ryukyu Islands, Japan. Photographed by C. Araga (A), M. Aizawa (B, E, H, I, L, M, and L), K. Shibukawa (C, D, F, and G), and T. Suzuki (K).
タイプ標本も観察しているが,その際,残念ながら, 「サルハゼ」と誤同定された日本産の O. aucheno-lepis の標本との相違を認識するには至らなかった. 本種には未だ和名が提唱されていない.本報で は最初の日本産標本を採集した荒賀忠一氏に敬意 を表し,本種の標準和名としてアラガサルハゼと いう新称を提唱する.標準和名の基準となる標本 (瀬能,2002)は,益田ほか(1984)でカラー図版 が掲載された BLIP 19760078 とする.なおこのロッ ト(BLIP 19760078)にはこれまで 2 個体が含まれ ていたが(明仁ほか in 中坊,2000: 1286),この度, 益田ほか(1984)で図示された方の標本(雄,86.9 mm SL)をそのまま BLIP 19760078 とし,もう 1 個 体(雌,104.6 mm SL)は BLIP 19760117 として再 登録した. (2) カマヒレマツゲハゼOxyurichthys cornutus
Mc-Culloch and Waite, 1918 (Fig. 3C)
本種は McCulloch and Waite (1918) によりオース トラリア・クイーンズランド州ケアンズ産の標本 を基に新種記載された.日本ではかつてマツゲハ ゼと混同されていたが,鈴木ほか(2000a)により 別種として識別され(ただし当時は種小名未同定), 瀬能ほか(2004)によって O. cornutus と同定された. 林・伊藤(1978)のタテガミハゼ(後述),益田ほ か(1984: pl. 245, fig. E)や益田・小林(1994),林・ 白鳥(2003)のマツゲハゼは,いずれもカマヒレ マツゲハゼである(瀬能ほか,2004;本研究). 静岡県からは板井・北野 in 静岡県自然環境調査 委員会(2004)や武内ほか(2010)によって遠州 灘に流出する太田川河口域と駿河湾奥部清水港に 流出する波多打川感潮域から採集記録があり,現 在のところ後者が本種の分布北限記録となってい る.静岡県版レッドデータブック(静岡県自然環 境調査委員会,2004)では「要注目種(N-III 部会 注目種)」とされている.
(3) ミナミサルハゼ Oxyurichthys lonchotus (Jenkins, 1903) (Fig. 3D)
本種は林ほか(1981)と鈴木・瀬能(1984)に よって琉球列島産の標本を基に学名不詳種として 報告された.その後,益田ほか(1984)によって 本種は Oxyurichthys visayanus Herre, 1927 と同定さ れ,ミナミサルハゼという新称が与えられた.以降, 本邦ではミナミサルハゼの学名には O. visayanus が
当てられてきた(e.g., 瀬能ほか,2004;明仁ほか
in 中坊ほか,2013). Pezold and Larson (2015) は O. visayanus を O. lonchotus の新参異名と見なし,同時
に益田ほか(1984)のミナミサルハゼも同種とした. 本報では Pezold and Larson (2015) の見解に従い,ミ ナミサルハゼの学名を O. lonchotus とする. 森口(2010)は本種を静岡県掛川市の菊川河口 域から記録し,現在のところそれが本種の北限記 録となっている.
(4) タ テ ガ ミ ハ ゼ Oxyurichthys microlepis (Bleeker, 1849) (Fig. 3E) 本種は,Bleeker (1949) によりインドネシア・ジャ ワ島産の標本を基に新種記載されて以降,イン ド・西太平洋の各地で記録されている(Pezold and Larson, 2015).日本からは Tomiyama (1936) が高知 県産の 3 個体を基に報告し,その後,青柳(1957) が琉球列島(石垣島と沖縄島)から報告した.以 降ながらく採集記録がなく,本邦における分布が 疑問視されることもあったが(e.g., 明仁ほか in 中 坊,1993),Takeuchi et al. (2011) は静岡県磐田市の 太田川河口で得られた 39.3 mm SL の標本を報告し た.ただ Tekeuchi et al. (2011) によると,彼らの静 岡県産標本の体側には発達程度の低い櫛鱗がある という.従来 O. microlepis では櫛鱗の存在が報告 されておらず,この状態がどういったものである のかについては,今後,追加標本も併せた検討が 必要と思われる. 明仁ほか in 中坊(2013)は工藤・山田(2011) が神奈川県横須賀市小田和湾から報告したサルハ ゼ属の 1 種 Oxyurichthys sp. をタテガミハゼと同定 し,現在のところそれが本種の北限記録となって いる.なお林・伊藤(1978: 72, pl. 17, fig. 53)のタ テガミハゼは,標本(YCM-P 4001, 40.2 mm SL)を 確認したところカマヒレマツゲハゼであった.
(5) ナガセハゼ Oxyurichthys notonema (Weber, 1909) (Fig. 3F)
ナガセハゼという和名は, Kamohara (1951) に よ っ て Oxyurichthys amabilis Seale, 1914 と 同 定 さ れた高知県産標本を基に提唱された.鈴木ほか (2000a)は Kamohara (1951) のナガセハゼ標本を再 検討し,Oxyurichthys mindanensis (Herre, 1927) と再 同定した.以降,本邦ではナガセハゼの学名とし て O. mindanensis が適用されてきたが(e.g., 瀬能
ほか,2004;明仁ほか in 中坊ほか,2013),Pezold and Larson (2015) は O. mindanensis を O. notonema の新参異名と見なし,同時に鈴木ほか(2000a)の ナ ガ セ ハ ゼ も 同 種 と し た. 本 報 で は Pezold and Larson (2015) の見解に従い,ナガセハゼの学名を O. notonema とする. 明仁ほか in 中坊(2013)は本種を伊豆半島西岸 から報告しており,現在のところそれが分布北限 記録となっている.
(6) マツゲハゼ Oxyurichthys ophthalmonema Bleeker, 1856 (Fig. 3G)
本種は,Bleeker (1856) によってインドネシア・ モルッカ諸島産の標本を基に記載され,その後イ ンド・西太平洋の各地から報告されている.本種 はサルハゼ属内で眼上に糸状皮弁をもつ 5 種の内 のひとつであり(Pezold and Larson, 2015),かつて はカマヒレマツゲハゼと同様に類似他種と混同さ れていた(e.g., Koumans, 1953).
明仁親王(1972)は,神奈川県三浦郡葉山町 下山川河口産の 1 個体を基に,本種を日本初記 録種として報告した.マツゲハゼという和名は, Tomiyama (1936) によって Oxyurichthys tentacularis (Valenciennes in Cuvier and Valenciennes, 1837) と 同定された台湾の淡水河産の標本 3 個体(ZUMT 23496,30408,30409)を基に提唱されていた.明 仁親王(1972)はその台湾産標本を,神奈川県産 標本とともに O. ophthalmonema と同定した.以降, マツゲハゼの学名には O. ophthalmonema が当てら れており(e.g., 瀬能ほか,2004;明仁ほか in 中坊 ほか,2013),現在のところ,この神奈川県からの 記録が本種の分布北限記録となっている.明仁親 王(1972)が観察した神奈川県産標本の登録番号 は論文中に明記されていないが,宮内庁生物学研 究所の標本台帳では BLIP 19700096 として登録され た記録がある.その後,この標本は横須賀市自然・ 人文博物館に寄贈され,現在は同館で保管されて いる(登録番号:YCM-P 3694). なお明仁ほか in 中坊(2013)は静岡県清水区波 多打川から本種を記録している.これは,板井・ 北野 in 静岡県環境調査委員会(2004)がカマヒレ マツゲハゼの項で「最近にも本種あるいはマツゲ ハゼと考えられる個体が中部地域の波多打川河口 でえられており」と記述したことを受けたもので ある(藍澤,未発表).しかし武内ほか(2010)では, 板井・北野 in 静岡県環境調査委員会(2004)で扱 われた波多打川産個体をカマヒレマツゲハゼと同 定している.静岡県下では他にマツゲハゼに関す る採集情報がなく,よって現在までのところ,同 県からの標本に基づく本種の分布記録はない. (7) オニサルハゼ Oxyurichthys papuensis (Valencien-nes in Cuvier and Valencien(Valencien-nes, 1837) (Fig. 3H) 本 種 は Valenciennes in Cuvier and Valenciennes (1837) によってニューギニア産の 1 標本をもとに 新種記載され,その後インド・西太平洋の各地か ら報告されている(Pezold and Larson, 2015).日本 からは鈴木ほか(2000b)が沖縄県八重山郡西表島 や和歌山県串本から報告して以降,これまでに静 岡県西伊豆以南の各地で記録されている(明仁ほ か in 中坊,2013).なお日本産個体は他地域のもの と頬の孔器列の状態に若干の違いがあることが報 告されており(Pezold and Larson, 2015),今後さら に精査が必要と思われる.
(8) サルハゼ Oxyurichthys saru Tomiyama, 1936 (Fig. 3I, 3J)
本種は Pezold and Larson (2015) によって
Oxyur-ichthys auchenolepis(アラガサルハゼ)の新参異名
とされたが,明らかな別種である(上記アラガサ ルハゼの項を参照).現在,著者らによって再記載 の準備が進められている.
(9) シ マ サ ル ハ ゼ Oxyurichthys takagi Pezold, 1998 (Fig. 3K)
シマサルハゼは鈴木ほか(2000b)によって沖縄 県西表産の標本を基に報告され,学名(種小名) 不詳のまま和名が与えられた.以降,シマサルハ ゼの学名については十分に検討されていない. Oxyurichthys takagi は,Pezold (1998) に よ っ て パラオ共和国コロール島産の標本を基に新種記載 された種である.その後,同種はインド・西太平 洋の各地から記録されている(Pezold and Larson, 2015).Pezold and Larson (2015) は日本のシマサル ハゼについて言及していないが,彼らの O. takagi の記載や図,さらに原記載(Pezold, 1998)にある 情報は,シマサルハゼの特徴によく一致する.例 えば:体側鱗が全て円鱗;項部側面は無鱗;第 1 背鰭の棘条は先端部分が糸状で,通常,第 1–4 棘 条はほぼ同長か第 1 棘条が他よりやや長い;体側 浜名湖から得られたサルハゼ属の 1 未記載種
中央には 4 個の楕円形の暗色斑が並び(尾鰭基底 のものを除く),個体によりその各々から体側下 半部にかけて暗色横帯が広がる(註:彼らは生時 あるいは鮮時の標本を観察していない)(Pezold, 1998; Pezold and Larson, 2015).よって本報ではシ マサルハゼを O. takagi と同定した.明仁ほか in 中 坊(2013) は O. takagi と ヒ メ サ ル ハ ゼ(Fig. 3L) との類似を指摘しているが,両者は第 1 背鰭の形 状と体色が大きく異なる. なお種小名の「takagi」は,ハゼ亜目魚類の系統 分類における頭部側線系の重要性の認識に大きく 貢献した元・東京水産大学教授の故・高木和徳博 士に献名されたものである(Pezold, 1998). (10) ゼ ー タ サ ル ハ ゼ( 新 称 )Oxyurichthys zeta Pezold and Larson, 2015 (Fig. 3L)
本種は西太平洋の各地で撮影されていたが,長 らく学名不詳種とされていた(e.g., Kuiter, 1992; Allen et al., 2003; Allen and Erdmann, 2012).日本か らも,伊豆半島から沖縄県西表島にかけての各地 で撮影された水中画像を基に,学名不詳種として 報告されている(e.g., 岡村・尼岡,1997;瀬能ほか, 2004).
Pezold and Larson (2015) は愛媛県室手産標本を ホロタイプとして本種を新種記載した.種小名の 「zeta」はギリシャ文字の「ζ」,すなわちラテン文 字における最後の文字「z」に相当し,本種が彼 らの論文の中で最後に記載されていることに因む (Pezold and Larson, 2015).本種には該当する和名 がないため,学名(種小名)に因むゼータサルハ ゼという新称を与える.標準和名の基準となる標 本(瀬能,2002)は,今回観察した BLIP 20130301 とする. (11) イレズミサルハゼOxyurichthys sp. 2 (Fig. 3M) 本種は鈴木ほか(2000b)で沖縄県西表島産の 2 標本を基に学名不詳種として報告され,同時に和 名も提唱された.その後,瀬能・米山(2003)に より静岡県田方郡土肥町の通り崎湾で撮影された 水中画像が紹介された.明仁ほか in 中坊(2013) はその他の国内産地として和歌山県串本町と沖縄 島以南の琉球列島を挙げ,国外からはフィリピン・ セブ島から記録した.同種と思われる標本は,上 記西表島産個体の他に口永良部島からも得られて いる(本研究). 明仁ほか in 中坊(2013: 2123)は分類学的附記の 中で,Allen and Erdmann (2012) がインドネシアから 報告したO. notonema(明仁ほかin中坊,2013では「O.
mononema」と誤記)の画像個体をイレズミサル
ハゼと同定した.しかし Allen and Erdmann (2012: 984) の画像個体は,体色から判断すると明らかに ナガセハゼである.実際,Pezold and Larson (2015: fig. 24) では Allen and Erdmann (2012) のものと同一 個体の別カットと思われる画像が O. notonema(ナ ガセハゼ)として掲載されている.なお明仁ほか
in 中坊(2013: 1390)の種の検索・記載部分では,
イレズミサルハゼの分布域にインドネシアは含め られていない.
Pezold and Larson (2015) は 本 種 を Oxyurichthys
auchenolepis(アラガサルハゼ)と同種と見なしたが, 両者は体色や上唇の形状等が明瞭に異なっており, 別種と思われる(上記アラガサルハゼの項を参照). (12) ヒメサルハゼ Oxyurichthys sp. 3 (Fig. 3N) 本種は鈴木ほか(2000b)によって沖縄県西表島 産の 1 標本を基に学名不詳種として報告され,同 時に和名も提唱された.本属魚類としては特徴的 な第 1 背鰭の形状から他種との識別は容易である にも関わらず,水中画像を含めても,これまで西 表島と近隣の内離島からしか記録がない(瀬能ほ か,2004;明仁ほか in 中坊ほか,2013).
本種は,Pezold and Larson (2015) では扱われてい ない.しかし特徴的な第 1 背鰭の形状や体側鱗が 全て円鱗であること等から,本種が既知種に該当 しないことは明白である(体側鱗が全て円鱗から なるものは,他にタテガミハゼ,シマサルハゼ,ゼー タサルハゼの 3 種が知られるのみ).現在,著者ら により新種記載の準備が進められている. (13) サルハゼ属の 1 種 B Oxyurichthys sp. 4 (画像は 野川ほか,2003 の fig. 6 を参照) 野川ほか(2003)によって高知県土佐湾から得ら れた 4 個体を基に「サルハゼ属の 1 種 Oxyurichthys sp.」として報告された.外観や,頭部感覚管開孔 が Aʹ B C D(S) F Hʹ,上顎の歯が 1 列に並ぶ等の特 徴からサルハゼ属に含められることは明らかだが, 同属魚類の多くに見られる背鰭前方の皮質隆起縁 がなく,その部位はひろく鱗で被われる.同様の 特徴は,本属既知種の中では,中国海南島産の 2 個 体 の み が 知 ら れ る Oxyurichthys chinensis Pezold
and Larson, 2015 でしか報告されていない(Pezold and Larson, 2015).野川ほか(2003)によれば,土 佐湾産種の胸鰭条数は 25 であり(vs. O. chinensis では 21–23),縦列鱗数と背鰭前方鱗数もそれぞれ 46–47(vs. 41–46),11–13(vs. 10–11) と, い ず れ も O. chinensis に比べやや多い.さらに腹鰭前方 は円鱗で被われ(vs. 無鱗),尾鰭長は標準体長の 39.4–48.8 %(vs. 52–58 %)とやや短い.Pezold and Larson (2015) は疑問符付きでこの土佐湾産種を O. notonema(=ナガセハゼ)と同種と見なした.し かし,背鰭前方の皮質隆起縁の状態や被鱗域,体 色等が大きく異なるナガセハゼと同種であるとは 思われない.サルハゼ属の未記載種である可能性 が高く,今後さらに詳細な検討が望まれる.
日本産サルハゼ属魚類の検索表
1a. 眼上に短い糸状の皮弁がある …...…… 2 1b. 眼上に糸状の皮弁がない(オニサルハゼでは瘤 状の 1 肉質突起がある)……...…. 3 2a. 第 1 背鰭の第 1 棘条は糸状に長く伸長する;体 側背部各鱗の多くに 1 黒色点がある;背鰭や胸 鰭に顕著な暗色点列模様がある …... ... カマヒレマツゲハゼ 2b. 第 1 背鰭の第 1 棘条はわずかに伸長する;体側 背部の黒色点はごく不明瞭;背鰭や胸鰭の点列 模様は不明瞭 …………....………….. マツゲハゼ 3a. 体側鱗はすべて円鱗(タテガミハゼでは発達程 度の低い櫛鱗をもつ場合もある) …... 4 3b. 体側の少なくとも後半には櫛鱗がある …....… 7 4a. 体側背半の各鱗に黒色点がある;胸鰭条数 20– 24 ... タテガミハゼ 4b. 体側背半の各鱗に明瞭な黒色点はない;胸鰭条 数 18–22 …...……...………...…. 5 5a. 第 1 背鰭の第 1 棘条が短く,第 4・5 棘条の半 分にも満たない …...… ヒメサルハゼ 5b. 第 1 背鰭の第 1 棘条は第 4・5 棘条に比べて極 端に短いということはない …... 6 6a. 第 1 背鰭の後部に顕著な黒色斑がある;体側 に暗色横帯はない;前鼻管は淡色;縦列鱗数は 100 以上 …..………...…… ゼータサルハゼ 6b. 第 1 背鰭の後部に顕著な黒色斑がない;体側 に 6 本の幅広い暗色横帯がある;前鼻管は暗色; 縦列鱗数 50–70 ….….……...…. シマサルハゼ 7a. 眼上に瘤状の 1 肉質突起がある;胸鰭基部全 域にかかる弧状の黒色斑がある;尾鰭基部に, 瞳よりやや大型で,体側の他の暗色斑よりも濃 く明瞭な黒色円形斑がある ...… オニサルハゼ 7b. 眼上は通常ほぼ円滑で,明瞭な突起がない; 胸鰭基部に黒色斑がないか,ある場合でも基部 上半に偏る;尾鰭に明瞭な黒色斑はないか,あ る場合でも体側の他の暗色斑とほぼ同色(灰み のブラウン等)で,多くは円形というよりむし ろ不定形 ...… 8 8a. 体側背部の被鱗域前端は項部側面に達しない; 体側の臀鰭基底上に数本の暗色横帯がある ... …...… ミナミサルハゼ 8b. 体側背部の被鱗域前端は項部側面に達する ... ... 9 9a. 背鰭前方の背中線に沿った皮質隆起縁がなく, その部位も鱗で被われる ... ... サルハゼ属の 1 種 B 9b. 背鰭前方の背中線に沿った皮質隆起縁があり, 少なくともその部分は鱗で被われない …... 10 10a. 第 1 背鰭の第 1–5 棘条は通常糸状に長く伸長 する;臀鰭外縁のやや内側に,縦に並ぶ 1 黒色 点列がある …...…. ナガセハゼ 10b. 第 1 背鰭の棘条は通常伸長しないか,第 1 棘 のみ糸状に長く伸長する(他棘条が伸長する場 合は先端部のみわずかに伸長する);臀鰭は通 常は外縁がやや幅広く暗色がかり,顕著な黒色 点列がない ...……....……...……… 11 11a. 腹鰭前方に鱗がない ...…...…. 12 11b. 腹鰭前方に鱗がある ...…...…... 13 12a. 顎の後端は瞳の後縁下よりも後方に達する; 第 1 背鰭棘条は伸長しない;体側の被鱗域の櫛 鱗部前端は第 1 背鰭第 2 棘条下に達する;鰓蓋 直上の縦列孔器列 x2の下方には短い横列孔器 列しかない;体側中央に 4 個の不明瞭な暗色斑 がある …...….... サルハゼ 12b. 顎の後端は瞳の中央下付近に達する;第 1 背 鰭第 1 棘条が糸状に伸長する;体側の被鱗域の 櫛鱗部前端は第 2 背鰭起点下付近に達する;鰓 蓋直上の縦列孔器列 x2の下方には短い横列孔 器列に加えて多数の孔器が散在する;体側に明 瞭な斑紋がない …...……... サルハゼ属の 1 種 A 13a. 体側に明瞭な暗色斑がなく,斑模様はあって も不明瞭な黄褐色;上唇の上縁中央に明瞭なく ぼみがある(上唇最大幅の 50–80% 程);腹鰭 前方の鱗は覆瓦状に並ぶ ... アラガサルハゼ 浜名湖から得られたサルハゼ属の 1 未記載種13b. 体側に黒色斑あるいは暗灰色斑が並ぶ;上唇 の上縁中央に明瞭なくぼみがない;腹鰭前方の 鱗はまばらで,敷石状に並ぶ ... ... イレズミサルハゼ
比較標本
ア ラ ガ サ ル ハ ゼ:BLIP 19760078,1 個 体( 雄 ),86.9 mm SL,和歌山県西牟婁白浜町京都大学瀬戸臨海実験所北 浜,1976 年 1 月 21 日, 荒 賀 忠 一 採 集;BLIP 19760117,1 個体(雌),104.6 mm SL(LIP 19760078 から分離);BLIP 19900808,6 個体(2 個体は体後半が欠損),63.8–71.7 mm SL,和歌山県西牟婁白浜町京都大学臨海実験所付近の砂浜 へ打ち上げ,1990 年 2 月 2 日,田名瀬英朋採集.カマヒ レマツゲハゼ:SPMN-PI 3198, 46.4 mm SL, 沖縄県西表島 仲間川,2012 年 8 月 19 日,渋川浩一採集.ミナミサルハ ゼ:SPMN-P 3199, 1 個体(雄),39.9 mm SL, 沖縄県西表島 仲間川,2012 年 8 月 19 日,渋川浩一採集.タテガミハゼ: ZUMT23489, 30408–30409,46.1–73.5 mm SL,高知県.ナガ セハゼ:SPMN-PI 3200, 1 個体(雄),49.2 mm SL, 鹿児島県 大島郡(奄美大島)阿鉄,2003 年 7 月 22 日,米沢俊彦採集. マツゲハゼ:SPMN-PI 3201, 1 個体(雄),28.1 mm SL, 沖縄 県西表島仲間川,2012 年 8 月 19 日,渋川浩一採集.サルハゼ: ZUMT 30522,1 個体(ホロタイプ,雌),74.1 mm SL,静 岡県静浦;ZUMT 30523,1 個体(パラタイプ,雄),71.8 mm SL,静岡県静浦.ゼータサルハゼ:BLIP 20130301,1 個体(雌),44.7 mm SL,鹿児島県大島郡(奄美大島)大和 村大和浜地先思勝湾,米沢俊彦採集.イレズミサルハゼ: KAUMI 90969,1 個体(雌),49.7 mm SL,口永良部島.こ の他の比較標本は鈴木ほか (2000a, 2000b) を参照.謝 辞
以下の方々には,浜名湖産の観察標本の採集や 鮮時画像の撮影,標本化にあたりご協力いただい た:黒倉 壽氏・佐野光彦氏・水野直樹氏(東京 大学);岸 俊樹氏・池上周平氏・澤田晧矢氏・小 川政幸氏・山本翔太氏・大澤周太氏[東海大学(当 時)].また本報を執筆するにあたり,以下の方々 には標本・画像の貸出や観察,使用許諾等にご協 力いただいた:本村浩之氏・小枝圭太氏(KAUM); 瀬能 宏氏(KPM);波戸岡清峰氏(OMNH);稲 英史氏(東海大学出版部);坂本一男氏(ZUMT). また H. K. Larson 氏(オーストラリア・ノーザンテ リトリー美術博物館)には彼女らの論文(Pezold and Larson, 2015)の基となった未公表データの, 萩原清司氏(YCM)には所蔵標本情報の照会に応 じていただいた.中江雅典氏(国立科学博物館) には文献入手にご協力いただいた.ここに記して 御礼申し上げる.引用文献
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