• 検索結果がありません。

<論説>北東アジア地域統合と日中韓FTA構想の意義

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "<論説>北東アジア地域統合と日中韓FTA構想の意義"

Copied!
8
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

北東 アジア地域統合 と日中韓

FTA

構想の意義

T

N

h

.

e

r

t

S

h

i

e

a

n

F

.

i

c

A

a

s

T

a

c

n

e

g

f

.

L

h

n

e

tr

J

i

a

eSan-

c

h

i

n

a

-

K

o

r

e

a

P

T

A

P

l

a

n

i

n

t

h

e

I

n

t

e

g

r

a

t

i

o

n

o

f

姥名 保彦

- Yasuh/'koEbina 現在 も冷戦構造が残 る東アジアにおける経 済圏は,複雑な国際関係 を抱 えた国民経済間 の国際分業 よりも,冷戦の影響の比較的薄い 地域経済問を中心 として営 まれて きた。後述 す るように,それは企業間ネ ッ トワークを先 行基盤 としなが ら形成 された経済圏で もあっ た。だが近年 に至 り,FTA論が盤上 にあが り活発 な議論がなされるようになったが,そ れは東アジア経済圏において も国家間の話 し 合 いや提携が必要になって きたことを示 して いる。 そこで, ここではこれまでの経済圏の流れ を振 り返 りなが ら,北東アジアの地域統合 と のかかわ りで, 日中韓FTA構想 の もつ意義 について考 えて見たい。

1

.地方経済圏

(1

)環 日本海経済圏 まず 「地方経済圏」 について少 し考察 して お く。 経済圏 とは,国民経済の枠 を超 えて形成 さ 済えびな ・やすひこ 大阪肘出身。1963年早稲田大学大学院経営学研究科修士課程修 了。 その後、平和経済計画会議専務理事等を経て,新潟経営大 学教授。同大学経営情報学部長などを歴任 し,現在,新潟経営 大学長。経済学博士。専攻は,国際経済,アジア経済。主な著 書 に

,r

環 日本海経済圏 と環境共生J

r

アジアの経済 と社会-「ソーシャル ・アジア」 を求めて

地域経済の空洞化 と東アジ ア ーアジアとの共生のためにJ

r

環 日本海地域の経済 と社会一持 続的発展をめざしてJ

r

環 日本海経済圏一冷戦時代の東北アジア 協力 をめざして

東北アジア地域協力 と日本一冷戦終葛 と経済 発展 をめざして

jr

内需拡大 をどの ように して実現す るのかJ r日中韓 「自由貿易協定」構想J他多数。 10 れる経済空間を指す。近代的な概念では国民 国家の存在 を前提 とするので,経済空間も国 民経済,すなわち国民国家の枠 の中に基礎 を 置 くことが求め られる。 この場合 も経済活動 が国境の枠 を超 えて行われることは認め られ るものの,それは国民経済内部の経済活動 を 補完す るに過 ぎない もの と位置づけ られてい た。 ところが,交通 ・運輸手段の発達や情報 ・ 通信の発展 によって,ヒ ト・モノ ・カネの国 境 を超 えた移動が活発化す るよう.になった。 いわゆるグローバル化 によるボーダレス化で ある。その結果,国境 を超 えた経済空間が新 たに形成 されるようになった。それは国民経 済 とは異 なるもので,この新たな経済空間を 経済圏 と称する。 ここで国境 を超 える とい うこ との意味 に は,二つある。一つは,nationaltonational つ ま りトランスナショナルに行われる場合で あ り, もう一つは,localtolocalつ ま りトラ ンスローカルに行われる場合である。 そ して 前 者 は広 域 経 済 圏 (RegionalEconomic Zone)を形成 し,後者 は地方経済圏 (Local EconomicZone)を形成する。そ して広域経 済圏は,地方経済圏の発展 ・融合 によって形 成 される。 この観点か ら私は,環 日本海経済圏 (注1) とい うことばを,文字通 り日本海を取 り囲む 地域 において形成 された特定地域か らなる経

(2)

済圏 とい う意味で使 っている。それは,環 日 本海経済圏を北東アジアにおける地方経済圏 の一つ と考えるか らである。具体的に環 日本 海経済圏 とは, 日本海に面 した 日本海地方, ロシアのシベ リア極東,中国の東北地方,朝 鮮半島の東海岸 などの地域 を単位 として形成 されている経済圏である。 地方経済圏は,国 家単位ではな く,地域 を単位 としているため に,外交問題,国際関係か らの直接的な影響 を受けない。 一方,北東 アジア経済圏は,国 と地域 によ って形成 された広域経済圏を意味する(日本, ロシア極東,中国東北地方,モ ンゴル,北朝 鮮,韓国の4カ国2地域)。 この レベルになる と当然外交関係 を抜 きにしては成 り立たない。 環 日本海経済圏の他 に,環黄海経済圏,北 方経済圏を含めて北東アジア経済圏が形成 さ れ,さらに華人経済圏 (華南経済圏および海 峡経済圏) と東南アジア経済圏を加 えると束 アジア経済圏が形成 されるという構造になっ ている。 このように東アジアにはさまざまな 地方経済圏が存在 してお り,それ らは互いに 密接に関連 しあっている。 (2)地方経済圏の特徴 北東アジアの地方経済圏の発祥 は, もとを ただせば 「華南経済圏」にあった。香港 と広 東省 (この一部に深耕がある) とい う政治体 制が全 く違 う地域が結び合 っていた。 これが 次第に北上 して台湾海峡をはさむ福建省 と台 湾の間の 「海峡経済圏」につながる。台湾 と 中国 とい う敵対国の間です ら,地方 レベルで は交流が進んでいった。そのあ とさらに北上 し上海経済圏を経て 「環黄海経済圏」となる。 これは中国の山東省,朝鮮半島西海岸, 日本 の北九州などの地域 における地方経済圏であ る。 こうした流れの中で, さらに北上 して形成 されたのが 「環 日本海経済圏」であった。環 日本海経済圏は,南か ら吹いて きた地方経済 圏の流れに触発 されてで きた。 まだ環黄海経 済圏のようには発展 してはいないが,次第に 実体が形成 されつつある。この延長線上 には, やがて北方に行 ってロシア極東 と北海道の交 ・流 につながる。現 に漁業ではそのような交流 が進め られている。 このように東アジアにお いては,地方単位の経済圏が 自然発生的に形 成 されて きた。 こうした地方経済圏形成 において国家間以 外 の単位 で初 め に重要 な役割 を果 た したの は,企業であった。すなわち企業 を主役 とす るビジネス ・ネ ッ トワークの重層化 によるビ ジネス経済圏の形成である。 これ らは政治体 制の違い も超 えて地域 同士の間に経済圏を成 立 させて きた。 日系企業 を例 にとれば,日本 に本社 を置 き, その工場 を中国やタイなどに作 る。 そ うなる とまず は社 内的 なネ ッ トワー クが必要 にな る。製品を米国など東 アジアの域外 にも売 る となれば,企業内ネッ トワークだけではな く, 強力 な交通 ・運輸や情報通信のネッ トワ-グ がなければで きない。 このようなビジネス ・ ネ ッ トワークが重層的に張 り巡 らされて,束 アジアにおいて もビジネス経済圏がで きあが っている。その主役が企業である。 製品の品 質が顧客 に満足度を与えれば,その企業 は国 籍 に関係な く動 きなが ら国境の壁 を超 えて入 ってい くのである。 このように,地方経済圏は,冷戦 とい う障 害要因を越 えて,東 アジア地域 で もあちこち で動いている。

2.

地方経済圏か ら北東アジア経済圏へ

北東 アジア地域は,いまなお冷戦構 造が続

(3)

いているために国 と国 との関係が うま くい く 環境条件が十分整 ってお らず,歴史的には地 域同士 の経済圏か ら形成 されて きた。束アジ ア とりわけ北東 アジアの発展 と平和のために はこの地域の冷戦構造の溶解過程 を促進す る 必要があ り,そのためにも地域協力が求め ら れている。 その中で環 日本海経済圏は中心的 な役割 を担 っている。環 日本海経済圏を基軸 とす る環黄海経済圏 との融合,お よび北方経 済圏 との提携が北東アジア経済圏形成の成否 を握 っていると考 えられる。 そこで以下, この文脈で注 目すべ きい くつ かの事項 について説明する。 (1)自由貿易協定 (PTA) その ような流れの中で,今 日,問題になっ ているのは,東 アジア地域統合の前段階 とし ての

FTA

であ る。 これ は国家 間の交渉抜 き には成 り立たない性質の ものである。それは 貿易が関税の徴収 に見 られる如 く,すべて国 家の権 限に属する問題であ り,さらにその権 限 に属す る関税 を無税 に しようとい うのが

FTA

であ るか ら,当然政府 間交渉抜 きには 考えられない。現在,東アジア地域で も活発 に

FTA

交渉が行 われているが,その延長線 上に地域協力,地域統合があるとすれば,国 家 と国家 との話 し合いが動 き始めたことを意 味する。 企業 を主役 とするビジネス ・ネッ トワーク の重層化 によるビジネス経済圏の形成 により 地方経済圏が形成 されて きたわけであるが, さらにそこに国家 も関与せ ざるを得ないのが

FTA

である。 北東 アジアが 国家 も介在 して 経済圏を作 ってい くとすれば,まずは貿易や 投資 といった通商問題か らであろう。 (日中 韓

FTA

については次節で述べ る。) (2)

サステナビリティー

開発 と経済成長に伴い,エネルギー不足や 環境悪化 というサステナビリティー問題がこ の地域において も探刻化 し,経済発展 と持続 可能性の両立 とい う牲 しい問題が突 きつけら れている。 そ もそ も環境問題は,北東アジアといった 地域 に限定 されない,グローバルなレベルの 問題である。 環境の悪化は地球規模で どこで も発生す るので,これは先進諸国であれ,ア フリカであれ,中南米であれ,この影響 を免 れるところはない。 ところが,この間題への 対処 に関 してはとくに後発国にとっては不満 が多い。経済成長か ら見れ旦 先進国は成長 を遂げ,成熟化 し安定成長の時期 に入 ってい るわけだが,一方,新興国や途上国はこれか ら経済成長が望 まれている。 そのような時期 に環境要因のために経済発展 に急 ブレーキを かけるようなことをしたい とは思わない。 ま た貧 困状態 の ままとどまるわけに もいか な

い。

この間題 を北東アジア地域 と関連付 けて考 えてみると,地球環境破壊の重要 なプレーヤ ーの一つである中国が ここに位置 している点 がある。 もっと具体的にいえば,中国の経済 成長をどう考 えるか ということで もある。中 国に向かって経済成長を鈍化 させ るように他 国が要求することはで きない。 とはいえ,高 度成長 を継続 しなが ら環境破壊 を同時に継続 することは周辺国のみならず当の中国 自体 も 困ることである。 環境破壊 は周辺 国への影響 が深刻 なだけに, 日本や韓国など周辺国 も黙 って見過 ごすわけにはいかない問題である。 北朝鮮やロシアは,中国 と同 じ立場 に立って その成長政策 を後押 しするか もしれない。そ うなると北東 アジア城内での意見 の対立が起 きて くる可能性がある。 12

(4)

このように環境問題の本質はグローバ ルな のであるが,北東 アジアに限定するとそれ以 外の問題 も派生 して くるので,非常 に扱 いが 難 しい。環境お よび持続可能な開発の問題 は, 二国間の話 し合 い も重要だが,それだけでは 到底解決の錐 しい課題 となっている。 (3)北朝鮮問題 北東 アジアで冷戦構造 を超 えて,国家 間の 関係 を正常化 しようとす るのであれば,安全 保障の問題が大 きなファクター となる。北東 アジアの安全保障について言えば,北朝鮮 と い う地域 を抜 きに してこの地域が安全 に暮 ら せ,経済発展 を享受することは本質的に不可 能である。 安全保障問題では,地政学的な条件が重要 になって くる。 もし北朝鮮が この地域のはず れに位置 していれば,話は別か もしれないが, 地政学的にいえば朝鮮半島の北半分の方が よ り重要だ。北朝鮮 は,ロシアや中国を背 に し てお り,南の韓国 とだけい くら話 し合 ってみ て も真の平和 を実現することは難 しい。周辺 国は,北朝鮮 を通過 しないで,北東 アジアの 国際貿易,インフラ整備,安全保障問題 など この地域の問題 を,何一つ解決することがで きない。北朝鮮 を中心 とする安全保障の問題 にめ どをつけない限 り,本質的問題解決はあ りえないのである。 例えば,ロシアは,ラン ドブリッジ機能 と してのシベ リア鉄道 を物流網の一環 として整 備 しようと考 えている。欧州 と極東 を結ぶ シ ベ リア鉄道が ラン ドブリッジ機能をさらに高 め るためには, シベ リア極東のウラジオス ト クか ら朝鮮半島を経て,終着地である日本 に まで繋が らなければ,それが ビジネス ・ライ ンとなって本 当の機能を果たす ことはで きな

い。

朝鮮半島の東西両地域で南北 間の鉄道路線 を連結 しようとしているが, ロシアはそれ ら が どう展 開す るかに関心 を寄せ ている。東側 は, ウラジオス トクか ら北朝鮮 の元 山,そ し て38度線 を越 えて韓 国の釜 山まで伸 びる。 一 方,西側 は,韓国か ら38度線 を越 えて開城 に 入 り,平壌 ,新義州 を経て中国の丹東 に至 り, モ ンゴル を経 由 して ヨー ロ ッパへ とつ なが る。 もし,半島西側 の鉄道網が本格 的に動 き 出 した場合 は,極東 を経たシベ リア鉄道の ラ ン ドブ リッジ機能が失 われて しまいかねず, これをロシアは恐 れている。 実 は,07年5月 に朝鮮半 島38皮線付 近の東 西両岸 で同時に鉄道の開通式 を行 ったが,そ れはロシアに対す る北朝鮮 のサー ビスで もあ ると思われる。 ロシアはサハ リンか ら沿海州 を経由 して北朝鮮 にパ イプライ ンをつ なげる 構想 を持 っている。 そ してラン ドブ リッジと このパ イプライ ン構想 の二つ をどう して も手 に入れたい と願 っている。 そのため には北朝 鮮 を見方 にひ きつ けてお く必要があ る。 一方,中国はラン ドブ リッジとともに,何 よ りも北朝鮮 の資源 を狙 っている。 北朝鮮 に は,中国東北地方では既 に枯渇の兆 しを見せ 始めた資源や人的資源 において潜在 的能力が あるので,その ような ものをも欲 しが ってい る。 北朝鮮 にとって中国は最大の貿易パ ー トナ ー (2005年の貿易総額約16億 ドル) であ り, 次が対韓国貿易 (同約10億 ドル,但 し支援 も 含 む) であ る。 日本 との貿易 はせ いぜ い2億 ドル程度であるので,二国間貿易の レベルで 言 えば,北朝鮮 は 日本 を無視 して も生 きてい ける。逆にいえば, 日本 はそれゆえ に粒致問 題一本 で対北朝鮮 との交渉 に臨むこ とが可能 なのである。 しか しあ くまで も粒致 問題 に固 執 して,その解決な くして 日朝国交正常化 は

(5)

14 全く行わないという方針だけで行くことが果 たしてできるのか 。 ところが北朝鮮の最大の貿易パートナーで ある中国やロシアですら , 北朝鮮に対して核 開発をあきらめるように説得している。こう した周辺国が , 北朝鮮に対して , 核開発をや めて今後相互の経済的利害関係が一致する国 際分業の意義を説きながら , 本格的に国際分 業に乗り出してはどうかと勧めている。そし て「政治体制は別にしても , せめて経済体制 だけでも中国のように開放政策をとってほし い。中国の探測のような開放特区を作って中 国並に進めて欲しい。」と希望している . . 北朝鮮自身も経済発展が必要なことは十分 承知しているに違いない。金正日国防委員長 は , 本音で言えば , このまま閉鎖経済ではや っていけないことは十分理解していると思 う 。 ただ急いで開放政策を進めた場合には , 国民が一気にその方向に走り国が崩壊にいた ることを恐れている 。 かつての東欧諸国の国 家体制の崩壊過程を見ているためである。北 朝鮮の国民も , 国の経済が発展していて食っ ていけるのなら , たとえどんな体制でもある 程度はがまんすることもできるだろうが , 最 低の生活である食べることにも事欠くようで は話は別である 。 北朝鮮の国民も心の奥底で は解放を渇望し経済成長を願っているのは間 違いない。 ところが軍部は , かならずLもそうではな い。人口 2000 万人のうち約 4 分の1の 500 万人 の軍人軍属がいる。それゆえ,軍縮,核開発 の断念という問題は , それは彼らにとっては 士気にもかかわる死活問題だ 。 開放政策を急 激に進めた場合には , 国民は民主化要求を激 化させる可能性があり , その中で軍部は身の 毎険を感じるために黙ってはいないだろう。 両方からクーデタが起こりうる 。 その意味で は金正 日は分かっていて もやれないとい うの が,実際の ところではないのか。 さらに金正 日の後継者が うま く選べていない。独裁者の 悲劇 とも言 うべ きか,彼がいないともう統治 で きない状況になっている。 ところで,韓国は ドイツのような形の統一 を望んでいない。中国 も北朝鮮が崩壊すると 多 くの難民が中国東北地方になだれ込む可能 性があ り,これまた歓迎で きない。 このよう に中韓 ともに何 とか現状,つ ま り 「金正 日体 制」を少 しで も持たせたいのが本音であろう。 しか しなが らその後の展望 として,金正 日政 権はそ う長 くは持たず,その崩壊後は軍部独 裁政権が出て くる可能性が強い。そ うなると 北朝鮮の軍事的脅威が高 まり,韓国は太陽政 策の修正 を迫 られるだろう。その結果, 日本 との関係 を改善するとともに,韓国 ・日本 ・ 米国の安全保障体制が必要だという方向にな る。韓国は 日本 を巻 き込んで北朝鮮 との正常 化 に本格的に乗 り出すだろう。 韓国は自国に 近い開城 に

2

-3

年先には年間

3

0

億 ドルにも達 する投資を計画 し,現在既にそれに着手 して いるために,国家 リス クを既 に抱 えている。 韓国経済界 は,このように北に相当投資 して いるので,現在の慮武鑑政権の太陽政策を批 判 しなが らも,北朝鮮 との正常化 自体に背 を 向けることは最早で きないのである。

3.

日中韓

F

TA

構想の意義

北東アジア全体 を視野に入れると,北朝鮮 問題が クローズア ップされ安全保障問題が前 面 に出てこざるを得ないために,地域統合の 方向性 には困難が伴 う。 そこでまず 第一歩 と して, 日中韓

3

カ国の経済協力関係 ,なかん ず く

FTA

協定 を結ぶ ことが,重要 な課題 と なる。 もし

3

カ国の

FTA

が結ばれれ ば,経済 的にはそれ以上やることはない とい って も過

(6)

1.

74

3

国の貿易結合度 (

1

998-2000

年平均) (備考)囲み数字は、結合度数が2を超えたもの。 (出所)阿部一知 「日中韓貿易の推移

-3

国の結びつきの強さは?」.阿部一知 ・浦田秀 次郎 『中国のWTO加盟と日中韓貿易の将来-3国シンクタンクの共同研究

日 本経済評論社

,2003

3

,11

頁より。 言ではない。 東 アジア全体 に占める日中韓3カ国の割合 は相 当な ものがある。

GDP

,貿易額,投資 額 を見ても東 アジアで決定的に優位な立場に 立 っている。 日中韓FTAが成立すれば,ア セアンは当然同調 して くるだろう。現在では, "東アジア"といえば,「アセアン ・プラス ・ アルファ」 となっているが,経済実態から言 えば,それは日中韓プラス ・アルファとして の "東アジア"となってい くはずだ。しか し, 実際には日中韓がばらばらであるので,プラ ス ・アルファの地位に置かれているわけであ り,そこにアセアンのイニシアチブの意味が 出て くる。 しか し実際には,アセアン諸国 も 本来の姿,すなわち 「日中韓プラス ・アルフ ァ」 としての "東アジア''を望んでいるに違 いない。「東アジア統合

はそれが近道だか らだ。 まず,三国の相互依存関係 を貿易の面から 見てみる。 図を見 る限 り,三国の結合関係 はいずれ も 1を超 えてお り,三国域内の結びつ きは域外 に対するよりも強い (二国間貿易 において結 合度が1を超 えている場合,両者の結合関係 が世界 に対する平均的水準 より・も相対的に強 い ことを意味 してお り,逆 に1を下回ってい る場合 は,両者の結合関係が同 じく相対的に 弱 い ことを示す)。 とくに 日本 の村 中輸入 , 中国の対韓輸入,韓国の対 日輸入がそれぞれ 強い結合関係 にあることが読み取れる。その ことは,三国間貿易収支動向にも端的に反映 されている。すなわち,日本の対中貿易赤字, 中国の対韓貿易赤字,韓国の対 日貿易赤字 と いうインバ ランス構造は,三国間貿易 の相互 補完性の証明に他ならないのである。 二国間FTAでは不均衡が さらに拡 大す る ことが予想 される。例えば, 日本の税率が工 業製品で平均2-3%であるが,韓国のそれは

(7)

平均

7%

程度 なので, これ らがゼ ロになった 場合には, 日本が得す るのは明 らかだ。韓国 経済界の利害 関係,そ うでな くて も ``反 日'' 的 な韓 国民 の 国民 感 情 か ら観 て , 日韓 の FTA交渉 はなかなか進 まないのは当然だ。 こうした二国間の貿易不均衡 を,韓国は韓 中貿易 による大幅な黒字 によって,中国は日 中貿易 の黒字で,さらに日本 は日韓貿易の黒 字でそれぞれ埋め合 わせている。 このように 日中韓

3

カ国がいっ しょになっていけば,互 いに持 ちつ持 たれつの三角関係,す なわち

3

カ国が均衡す るような貿易構造が うまく成立 す るこ とになる。FTAの場合 は,城 内が関 税ゼロなので,域外 に向けては大 きな障壁が で きる。そ うす る と

3

カ国 とも域外 に対す る 貿易代替効果が得 られるようになる。 さらに三国間投資の重要性が挙 げ られる。 三国間貿易 は垂直分業か ら水平分業へ と移行 し, さらに水平分業 について も産業間分業か ら産業内分業へ と変容 しつつある。産業内分 業 を支 えるのは企業内お よび企業間分業であ り,ことばを換 えれば,直接投資がカギを握 っていることになる。 ところが, 日中韓三国域内投資は域内貿易 に比べ て大 き く立 ち遅れている。た とえば, 三国の域 内貿易比率は

2

0

0

0

年に

2

0

%

近 くに達 しているが,域内投資比率 はその水準 をはる かに下回る

5

%

強に過 ぎない。 この ような課題 を解決するために, 日中韓 FTA構想 はそれ ら3カ国にとって決定的にプ ラスに作用す る。FTAが北東 アジアにおい て意味 を持つのは,それが北東 アジアにおけ る直接投資の拡大に結びつ く可能性 を伏在 さ せているか らである。つ ま りそれが企業のビ ジネス ・ネッ トワークの形成 を促す という役 割 を担 っていることが重要である。 この ような観点 に立 って, 日中韓FTAを 構想す ると,それは一般に考 えられているよ うな関税の引 き下げによる貿易の自由化だけ を目的 とするのではな く,む しろ企業の投資 活動の共通ルール化,知的所有権の擁護のた めのルールづ くり,取引お よび慣行 における 基準 ・認証の共通化, ビジネス環境及びネッ トワークの発展そ して金融 ・通貨 ・為替 シス テムの安定化 な どを通 じて,「北東 アジアビ ジネス経済圏」の形成支援 を目的 としたもの でなければならない。そ もそ も 「北東 アジア ビジネス経済圏

とは,北東アジアにおける ビジネス ・ネ ッ トワークの形成 を促 し,それ を通 じて域内直接投資を活発化 させ,域内産 業内分業 を加速 させる役割を担 った ものであ るか らだ。 そ の意 味 で 日中韓FTAとは, FTAにお ける動態的効果の発揮 を通 じて ビ ジネス経済 圏形成 に貢献 し, さらにそれ を 「北東 アジア共生経済圏」へ と発展 させ るこ とを目的 した ものでなければならない という ことになる (注2)0 ただ し, この交渉は3カ国が一斉 に始めな ければ十分 な効果は得 られない。 この春,中 国の温家宝首相が来 日したが,その大 きな目 的 の一つが 日中FTAであった と思 われる。 しか し二国間だけでコ トを進めようとすると 韓国が反発するので,韓国がその気 になって 3カ国で進めるようにな らなければな らない。 もし韓国が主導 して本気で 日中韓FTAを提 案 して くれば, 日韓, 日中のFTAを既 にや ろ うとしている 日本 としては

NO

とい う理 由 がない。ポイン トは韓国の出方一つである。 そ して経 済 の観 点 か ら言 え ば , 日中韓 FTA協定 を結ぶ ことが,3カ国にとって大 き な意義があると同時に,北東 アジア,束アジ アにも決定的 な影響力 を及ぼす。 このFTA が成立すれば,画期的な条件変更 となって東 アジア共同体構想への道筋が見えて くるだろ 16

(8)

ヽ.A.,∼ _I.ー1 .を ▲ー .・・- ll-・lL J●■・・・l ,-,-・・ I J■r .・-、- 17 う。 日中韓

FTA

が で きな い の に, ど う して アセ ア ン ・プ ラス ・アル フ ァで東 ア ジ ア共 同 体 にな るの か とい うのが ,前 述 した よ うに ア セ ア ン諸 国 の本 音 で あ ろ う (注3)。 (2007年5月23日) 注1朝鮮半島の人々は, 日本海のことを 「東海」 と呼んでいるので,環 日本海経済圏のことを環 東海経済圏 と名づけている。 ここでは, 日本で の論議 とい う意味で,「環 日本海」 とい う用語 を使用する。 注2 中小 企業及 び集積 地域企業 の立場 に立 て ば, 日中韓FTAに対 して ロー カルな レベルで のアプローチが求め られる。具体的には,企業 レベルの もの,地域 レベルの ものがある。前者 のアプローチ としては,北東 アジアにおけるロ ーカルなどジネス経済圏形成 を促すための集積 地域 企 業 を中心 と したLFTA (LocalFree TradeAgreement)構想が挙 げ られる。それ は,地域 レベルでの ビジネス ・ネ ッ トワーク形 成 を促すための地域企業お よび地域産業が中心 となって地域 レベ ルか らFTAを具体化 してい こうとい う構想である。 もう一つの地域 レベルでのアプローチ として は,小川雄平教授が提唱されている 「地方版 自 由貿易協定構想」がある。それは,いわば構造 改革特区の一種 としての ``無税特区' '構想-さらに敷術するならばボーダレス特区 と呼べ る ものであろう- ともいえるものであるが,す でに形成 されている環黄海経済圏をさらに北東 アジア経済圏へ と.発展 させ る上で重要な役割 を 果たす ことが期待 される。 したがって,いずれ も日中韓三国FTAを地域 レベ ルで具体化 しよ うとしている意味では,結論は一つの方向に収 赦 しているといえよう。 以上のローカル ・アプローチは,中小企業お よび地域 に とって重要であるばか りではな く, 日中韓FTAに対す る国際関係論的アプローチ と地政学的アプローチ とを融合 させ る上で もき わめて重要 な役割を担っているとい うことも強 調 してお きたい。 (蛇名保彦 『日中韓 「自由貿易協定」構想』明 石書店,2004年,pp.222-223よ り) 注3 一つ新 しい問題 も出て くる。 それはイ ン ド である。05年12月に小泉首相が東アジアサ ミッ トの折,イン ド,オース トラリア,ニュージー ラ ン ドの3カ国を含 めた東 アジア共 同体構想 を 発表 した ことがあった。それは対中牽制が狙 い であったが,もしイ ン ドを含めると 「東 アジア

という枠組みではやっていけない。汎 アジア と い う範噂 にな らざるを得 ない。その背景 には, 共同体が反米 になることを恐れる米国の戦略 も あ り,米国抜 きにな らない よう米国が牽制 して きた とい うこともある。 日本政府 も,当時は東 アジア地域統合 などはあ りえない と考 えて,唯 唯諾諸 と深 く考 えないで主張 したのだ と思 う。 しか し,一旦誘 った以上,いまさら共同体か ら はずれて くれ とはいえない。日本政府 としては, 一体 どうす るつ もりなのか。- たをす る と, ダ ブル ・スタンダー ドにな りかねないのである。 世界平和研究 No.174Summer2007

参照

関連したドキュメント

マ共にとって抗日戦争の意義は,日本が中国か ら駆逐されると同時に消滅したのである。彼らの

 AIIB

権利 Copyrights 日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア 経済研究所 / Institute of Developing.

日 日本 本経 経済 済の の変 変化 化に にお おけ ける る運 運用 用機 機関 関と と監 監督 督機 機関 関の の関 関係 係: : 均 均衡 衡シ シフ

国(言外には,とりわけ日本を指していることはいうまでもないが)が,米国

 富の生産という側面から人間の経済活動を考えると,農業,漁業ばかりでは

日中の経済・貿易関係の今後については、日本人では今後も「増加する」との楽観的な見

 地表を「地球の表層部」といった広い意味で はなく、陸域における固体地球と水圏・気圏の