数学科教育教室
笹 田
I
数学教育 の現代化 と論理指導
(1)
数学教育の現 代化 数 学教育現代化 の根源 は,現
代数 学 の飛 躍 的な発展 と科学技術 のめざま しい進歩 にあるといわれ て い る。現代数学 の著 しい発展 によって,数
学 に依存す る分野 が,科
学技術 や 自 然 科 学 のみな ら ず,行
政,産
業,社
会科 学な ど多 くの分野 に拡大 された。 と くに,電
子計 算機 の開発 は、各 分野 に お ける記号的定式化 の開拓 と相 まって,今
まで適 用不可能であったあ らゆ る分野 に,数
学 の適用を 可能 に してい る。 また,電
子計算機 の開発,オ
ー トメーシ ョンの普及 で象徴 される科 学技術 の進歩 は,
このよ うな事態 に即応で きる多 くの人材 の育成 を要請 している。 この人材養成 の基礎 と して数 学教育 の革新 が問題 にされ,さ
らに数学の適用範 囲の著 しい拡大 が,学
校 数 学 にお ける指導 内容 の 質 的再検討の必要性を ひき起 して いる。 また,現
代数 学 は,前
世紀 か ら今世紀 にか けて近世数学 の殻か ら脱 皮 し,そ
の性格を一新 して著 しい発展を遂げた。 その結果,古
典数 学 に基礎 をお く教育数学 と現代数学 との間に,
どうに もな ら な いほ どの大 きなギ ャ ップ が生 じた。 ここに も,数
学教育現代化 の強 い要請 がある。 このよ うな背景 の もとに,教
育 の変革 が要請 されてい るが,
これは単 に現代社会か らの要求 とい う一面 的な もの と して考 え るべ きでない。 それは,現
代 の社会 にいおいて ① 科学を獲得 しな ければ,
自己の存在 を検証 し得 ない とい う現代 の人 間の要求 ② すべて の人 間を技術革新 にのみ こまず にはおかない現代 の社会 の要求 の二重 の要求つ と して考 え るべ きであろ う。欧米 における数学教育現代化 の発想 は,上
位50%の
た めの カ リキユ ラムとか,優
秀児 教育な ど,②
の要請 に重点をおいてい るよ うに思われ る。教育 は, 社会 の要請 に対応 して変革 され るのは当然であるが,そ
の際に,①
の声な き要請 を無視 した り,考
慮 の外 にお くことは許 されない。 数 学教育 においては,生
徒 の能力差 とい う大 きな障害 があ り,
これ にいか に対拠す るかが数 学教 育 におけ る大 きな問題 とな って い る。 そ して,そ
の対拠策 と して,能
力差 に応 じた ク ラス編成 や カ リキユ ラム編成 が考え られている。 しか し,た
とえ画一的なカ リキユ ラム編成 が不可能であると し て も,
コースによって将来 が閉ざされた り,著
しく不利 になるよ うな,袋
小 路的 コース編成,カ
リ キユ ラム編成 は絶対 に許 され るべ きものでない。すべての生徒が将来 の社会 において 自己の存在を 確保 で きるよ うに,教
育課程 の編成 を考 えなければな らない。す なわ ち,数
学教育の現代化 も創造 性 の開発 も,限
られた英才 について問題 にす るのでな く,一
般 のすべ て の生徒 に対 して,等
しく考 えて い くべ き問題 であろ う。 昭笹 田昭三 :論 理 と 数 学 教 育
(2)現
代 人 と 論 理 経済・ 科学・ 技術 の進歩 は,そ
れを支 え る情報 の膨大 な累積 を生 じ,そ
れを適 切 に処理 す る こと が,現
代 および将来 の社会 に生 きる人 々にとって,必
要欠 くバ か らざるものにな って きている。 そ して,そ
の情報処理 の働 きと しての論理 と数学,と
くに論理 の科 学 と して の記号論理学 の知識 を有 効 に生 かす必要 がます ます増大 してい る。2) また,社
会人 の学習 において も,学
校教 育 にお け る学習 にお いて も,科
学技術 の発展,学
問の進 歩 に伴 な う情 報 の累積,学
習 内容 の増大 は,実
質 的 にあま り向上 のない人 間の学習能 力,記
憶能力 を圧 倒 している。 この現象 は今後 ます ます顕著 とな るであろ う。 このよ うな事態 におけ る学習は, 一 般化 による統一的・ 統合的学習や体系化 による組織 的学習 によって,そ
の学習の効率化を図 らな け ればな らない。学習 の効率化 は,
この「 一般化 による統合的学習」,「
体系化 による組 織 的学習 」 によるべ きことを,N.Bourbakiは
数 学 の現 代 的再建 で あ る「 数 学原論 」を通 して例証 している しり,ま
た,J・ S・Bruncrは
「 教 育 の過程!で
それを示唆 している4)。 この一般化 による統合的学 習 には,一
般 化で きる能 力,す
なわち抽象化 の考え,帰
納・ 類 比的考えな ど発見 的論理 が重要な役 割 を果す。 また,体
系化 による組織 的学習 には,体
系化す るための演繹的推論能 力 が要求 され るで あ ろ う。 このよ うに,学
習 の効率化を図 る上 で も,論
理 は重要な役割を果 たす。 さ らに,電
子計算機 の進歩 と計算数学やサ イバ ネテ ィクスの発達 によって,人
間 の頭脳 的労働 の 領 域 で,機
械 が ことごと く人間 にとって代 り,人
間 の能力を凌いでいる。 とりわ け,絶
大 な記憶能 力,高
速 計算能力,人
間 の理性では理解 しがたい 自然や社会現象 の解析能力 においては,
とて も人 間 が電子計算機 に太刀打 ちで きない。 このよ うな現状 か ら将来 を想像す ると,最
も素朴な機械的な 作 業 を人間 がや り,頭
脳 的な作業 を機械 がや るとい う皮 肉な図が想定 され る。 ここに,将
来 人間 が 機 械 に隷属す ることな く,機
械 に対 して優位 に立 ち,人
間 らしく生 きるための条件 が問題 とな る。 人 間が機械 に対 して優位 に立て る頭脳 的活動 は,そ
の過程 が一定 の算法で定式化 で きない創造活動 で あるといわれてい る5)。 それゆえ,人
間性 の確保 のため に も,今
後 の教育では,創
造性 の開発 が ます ます重要な課題 とな るであろ う。 したが って,数
学教育 の現代化 において も,創
造性 と密接な 関連 を もつ発見 的論理 の指導 が重視 されなければな らな い。(3)
論理指導の必要性 につ いて 各 国の数学教育現代化 の動 きの中で,論
理 指導 の重要性 が叫ばれているが,そ
れ は,(2)で 述べ た 現 代 におけ る論理 の意義を反 映 しいて ると考 え る。我 国 において も,今
年 4月,中
学校 の新 学習指 導 要領 が発表 され,そ
の中で,新
しい領域「 集合 と論理」を設 けて,論
理指導を意識的 に行 な う構 えを見せ てい る。 おそ らく,現
在着手 されて い る高等 学校 の学習指導要領 改訂案 において は,記
号 論理 の初歩 が導入 され るで あろ う。 数 学 で論理 を重 んず るのは当然 の ことで,現
行学習指導 要領 において も,中
学校 で は図形 教材 を 中心 と して演 繹 的論証,帰
納・ 類比の恩考を強調 してお り,ま
た高等学校 においては,と
くに「数 学 と論証 」 とい う項 目を設 けて,体
系 的 に論理 を進 め る方 法 を休得 させ よ うと して い る。 さて,こ
の教育課程 のもとでの成果 は どのよ うな ものであ ったか。著者 の中学生,高
校生 を対象 とす る形式的推論力の調査6)に よれば, 52① 定 理 の逆・ 裏を推論 の根拠 に した り
,ま
た常識 的判 断に支配 されて誤 まった推論を発見 で き ない者 が多 い。 ② 形 式 的推論 力 は学年 が進む につれてそれほ ど伸 びていない。 また,論
証指導 によ る成果 がみ られ るほ どには,顕
著 な上 昇 を示 さない。 ③ また,中
学生 で も,集
合 な ど論理 に関係す る教材 を指導 す ると,そ
のよ うな指導 を受 けなか った高校生 よ り論理性 が確かにな る。 が指摘 された。 また,仲
田氏 の調査7)│こぉぃて も① と同様 の ことが,中
島氏 の調査8)で
は② と,同 様 の ことが指摘 されて い る。 従来 の数学教育 においては,論
理 的思考を養 う教材 と して,ギ
リシヤ以来 の伝統 もあ り,専
ら幾 何教材 が主役を果す もの と考え られて きた。 その結果,幾
何教材 は論理 的恩 力 の練成 と図形 の性質 の探究 とい う2重
の 目標を負わ され,こ
の過重負担 が中学校 における論証指導を困難な もの と し, 結 局論理 的思考 の練成 とい う目標 が十分達成 で きず,
上 記 の調査 が示す よ うな結 果 にな った と 考 え られ る。遠 山氏 も「 論理 的な思考を養 うのに幾何教育 はあま り成巧 していない。幾何教育 の中に は発見 の論理 を養 う素材 が多 く見 られ るが,幾
何教材 が検証 の論理 を養 うの に適 して い るとは思 わ れ ない。む しろ,幾
何教育 は図形 も しくは空間の性質を研究す るとい う目標 を主 と し,論
理 的思考 は論理 的思考 と して,別
途 意識 的に教育す るべ きで ある。」。)と
述べ てい る。 また,高
等学校 にお ける「 数 学 と論証 」においては,学
習 指導要領 にお け る指示 が,単
に,大
き な項 目とわずかな用語をあげただけで,ど
んな教材で,ど
んな方法で実践 し,ど
こまで指導 す るか が明示 されていない。 この ことが,実
践段階 において,種
々の教科書 を生 んで統一性を欠 き,現
場 の教育 に混乱を きた してい る。結局,教
育現場 においては,「
数 学 と論証 」は継子扱 いにされ,そ
の指導 は形骸化 してい る。 さきに述べたよ うに,現
行指導 要領 において も,論
理 の重要性 を認 め,そ
の育成・ 練 成を 目標 と しなが ら,そ
の成果 が得 られなか ったのはなぜ か。 それ は,上
記 のよ うに,論
理的恩考 の育成 とい う目標 と他 の 目標 とを抱合わ した こと,と
い うよ りむ しろ,他
の 目標達成 の途上 に用具 的に 日常的 な論理的思考 を持 ち込んだ指導 に終 った とい うことで あろ う。 さ らに,高
等学校 にお け る「 数 学 と 論証 」で は,精
神 だ けを掲 げ,内
容を与 えなか った ことが,初
期 の 目標 が達成 で きなか った大 きな 原 因 と考え られ る。 線)で述べ た よ うに,現
代人 に とって論理 は不可欠 な ものにな ってい る。今後 の数学教 育 において は,ま
す ます論理指導 が重要視 され るであろ う。 そ こでの論理指導 は,従
来 のよ うな 目標 の抱合わ せ や精神主義でな く,論
理 を正面 か ら取 り上 げ,各
発達段階 に応 じた論理指導 を,意
識 的 に,組
織 的 に行 な う必要 があると考 え る。笹 田昭三 :論 理 と 数 学 教 育 Ⅱ 発 見 の論 理 と論 証 の 論 理 * 一つの立言がなされたとき
,そ
れに対 して二つの問いが生ず る。 ① この立言がどのよ うに して思 いつかれたか? ② この立言を真 として受 け入れ る根拠は何か? 第一の問いは発見についての問いであり,第
二の問いは根拠づけについての問いである。 この第一 の問いに対 して説明され る推論方法,思
考過程,心
理的働 きが,「
発見 の論理」に関す ることがら であり,第
二の問いに対 して説明され る推論方法,思
考過程が論証の論理すなわち「演繹的論理」 である。論理あるいは論理的とい う言葉は広い意味と狭い意味に用いられる。論理の狭い意味は, 上記②の問いに対するような演繹的論理を指すもので,そ
の典型 としていわゆる三段論法があげら れ る。記号論理はこの演繹的論理を対象 とす る。 また,広
い意味での論理は,第
一の問いに対する 発見 の論理をも合め,人
間が有効に推論を進める場合に したが う方式一般を包括 している。 演繹的論理による推論は絶対厳密で,争
う余地がな く,最
終的なものである。一方,発
見の論理 における推論は,蓋
然的で,争
う余地があり,暫
定的なものである。・。)し
か し,発
見的論理は, その蓋然性の代 りに,演
繹的論理では得 られない新 しい判断や推測を導入す る,極
めて生産的な面 を もっている。 この発見的論理の典型 として,帰
納・ 類比の論理があるが,
これ らは数学教育にお いても重要視すべ き論理である。 一般的に,演
繹は一般か ら特殊を導 く推論であり,帰
納は特殊か ら一般を推測す る論理であり, 類比は類似性に注目して特殊か ら特殊を類推する論理であるといわれているが,こ
れ らをもう少 し 質的に検討 し,比
較 してみよう。 仰)演
繹 すべての哺乳動物は心臓を もつ。 すべての馬は哺乳動物である。 ∴ すべ て の馬 は心臓を もつ。 い)帰
納 い ままで観察 されたすべての馬 は心臓を もっていた。 ∴ すべ ての馬 は心臓を もつ。(C)類
比 すべ ての馬 は心臓を もつ。 ろば と馬 は類似 している。 ∴ すべて の ろば は心臓を もつ。 上 記の例は,演
繹,帰
納,類
比 におけ る,そ
れぞれ正 しい,素
朴 な推論 の例 で あ る。 この例か ら もわか るよ うに,演
繹,帰
納,類
比 を弁別す る基本的な特徴 がある。 伸)演
繹 (■)す
べての前提 が真で あれば,結
論 は必 らず真でな けれ ば な らな い。(I)結
論 の中にある情報 あ るいは事実 的内容は,す
べ て前提 の中に港在 的 に合 まれてい る。 (bl 帰納 半)w.ct SalmOn,「
論理学」,培
風館 (1967)を参考に した。(I)す
べ ての前提 が真であれば,結
論 はお そ ら く真 で あろ う。 (しか し,必
然 的 に真 で あ るとは いえない。) (正)結
論 は,前
提 には暗 々裡 にも存在 しない新 しい情報,事
実 的内容 を も合む。(C)類
比(I)す
べての前提 が真であれば,結
論 はお そ ら く真 で あろ う。 (しか し,必
然 的 に真 で あ るとは いえない。) (正)結
論 は,前
提 には暗 々裡 にも存在 しない新 しい情報,事
実 的内容 を合 む。 特徴(I)は
自明で あ るか ら,
ここでは特徴 (Ⅱ)に
つ いて述べ る。仰)の演 繹 の結 論 は,す
べ て の馬力淋 臓を もつ ことを主張 してい るが,こ
れ は,実
質 的 には,前
提 の中で既 に述べ られてい るこ とを主張 しているにす ぎない。第一前提では,す
べ ての哺乳動物 が,ぷ臓 を もって い る ことを述 べ, 第二 の前提 において,そ
の哺乳動物 の中にすべての馬が含まれていることを 述 べ て い る。すなわ ち,前
提 の中に既 に与 え られてい る情報 をす こ し明確 に述 べ,与
え られ た情報を再定式化 したにす ぎない。価)の帰納 的推論 において は,そ
の前提 の情報 は,い
ままで観察 され た馬 だ けを対象 と し, 結 論 の情報 は未だ観察 されていない馬を も対象 と してい る。すなわち,そ
の結論 は,前
提 で与 え ら れ て いない新 しい情報を も合んでい る。 また,(C)の 類比的推論 においては,前
提 には全 く合 まれて いない新 しい情報「 すべてのろばは心臓を もつ」を導 いてい る。 演繹的推論 は,そ
の推論方法 が論理 的 に正 しければ,前
提 は結論を完全 に裏づ けるが,前
提 の内 容 を明確 にす るだけで,実
質 的 に新 しい情報 を与 えない。一方,帰
納,類
比 な どの発見 的推論 は, 真実性 に度合 が存在 し,そ
の度合 は前提 が結論 に与 え る裏づ けの大 きさ,す
なわ ち帰納 の妥 当性・ 関係 の類似性 な どに依存す る。 しか し,発
見 的推論 による結論 は,前
提 に合 まれ ない新 しい情報, 事 実 内容 を与 え る。すなわ ち,演
繹 的論理 は,前
提 の内容 の拡大を犠牲 と して必 然性を確保 し,一
方,発
見 的論理 は,必
然性を犠牲 に して前提 の内容 の拡大を図 っている,と
いえ る。 このよ うに,演
繹 的論理 と発見 的論理 は別途 の働 きを もつ。演繹的論理 は前提 の内容を引確 にす るため に使用 され,帰
納 や類比な どの発見的論理 は,知
識を拡大 す るため に使 用 され る。 た とえば,数
学 におけ る論証 は演繹的で ある。定理 は公理を基礎 と して演繹的 に証 明 され る。定 理 の内容 は,既
に公理 や定義 の中で暗 々裡 に与 え られているが,
この内容 は公理 の中では完全 に明 瞭な ものにな っていない。 演繹的論理 は,定
理 の証 明 とい う形 で,こ
のよ うな公理 の中に埋蔵 され てい る内容を明 るみに出す ものである。 一方,帰
納 や類比 の論理 は,与
え られ た情報 や前提 にない新 しい内容を もつ結論を引 き出す もの で,そ
れ は実 に創造的,生
産 的であ る。 自然科学者 の法則発見,数
学者 の定理 や証 明法 の発見 な ど は,こ
の論理 による場合 が多 い。 しか し,帰
納 や類比 の論理で得 られ る結論 の真実性 は蓋然的であ り,そ
の真実性 の保証 は演繹的論理 にまたなければな らない。 Ⅲ 帰 納 的 論 理(1)
帰納的推論の特質 帰納は観察か ら始まる。実験,実
測,単
純数え上げ,な
どを通 して適切な観察資料を集め,そ
れ笹 田昭三 :論 理 と 数 学 教 育 らを比較
,考
察 して,そ
こにある断片 的な規則性 に注意 し,そ
して散 り散 りになった部分 か ら一見 まとま った全 体を構築す る。 これが帰納的推論 の過程 である。 この帰納的推論 において最 も重要な ことは,か
た よ らない観察 と規則性 の抽 出である。 かた よ っ た観察 や過小規模 の観察 は,全
体 の もつ規則性を十分反映 しない。 また,規
則性 の抽 出において は,何
を捨て,何
を 抽出す るかが問題 とな る。洞察 され るものは,個
々の事実 でな く,そ
れ らに共 通 す る形式 であって,徒
らに個 々の事実 に執着 してはいけない。 一般 に,帰
納 的推論 においては,有
限 の観 察か ら,無
限 の対象 についての一般 的 性 質 を推測す る。すなわち,観
察 され た標 本 の集合 は,考
察対象 の集合 に部分集合 と して内合 され る。概念 にお け る外延 と内包 の関係 と同様 に,観
察標本 の集合 は考察対象 の全体 の集合 よ り多 くの性質 (共 通性 質)を
合ん でい る。A:観
察標本 の集合B:考
察対象 の集合A
⊂B
Aの
性質LBの
性質 このよ うに,観
察 された標本 の集合 は,考
察 の対象 のすべてが もつ一般 的性質 を 埋 蔵 してい る が,そ
の他 に,標
本 自身 が もつ特殊な雑多 の性質 も満足す る。 したが って,規
則性 の抽 出は,標
本 が もつ非本質的な特殊 な性質を捨て,共
通 の性質 の中で本質的な ものを抽 出 しなければな らない。 そのために,観
察デ ー タを表示 す るとか,あ
るいは グ ラフによ って図表示 し,観
察標本 の集合 に港 在 してい る一般的性質 の顕在化を図 るので あ る。 帰納 的推論 によ って得 られ た ものは何か。 それ は証 明ではない,証
明 の痕跡 で さえない,全
くの 一 つ の推測である。11)す
なわち,観
察 の範 囲内で の事実 の記述 と,
この記述 がその範 囲外 に も適 合 して い るだ ろ うとい う一 つ の推測 にす ぎない。 この推測 され た一般命題 は,新
らたな特別 の場合 によ って確かめ られ るごとに信頼性を増 すが,追
加 の検 証 は単 にその推測を強化 す るだけで,証
明 にはな らない。 したが って,帰
納 によって得 られ た諸性質 は,か
な り有力な根拠を もつ もの と考 え られ るが,そ
のまま真 と して受 け入れ ることは許 されない。 しか し,I
で述 べたよ うに,帰
納 的推論 は,結
論 の真実性を犠牲 に して,前
提 の内容 の拡大を 図 って い る,生
産 的,庖U造的推論である。数学 の歴史 において も,ア
ル キ メデスの実験 による図形 の性質 の発見,12)P.Fermatの
整数論 におけ る業績,
な ど多 くの定理や証 明方法が帰納的推論 に よ って発見 されてい る。 と くに,数
論 におけ る多 くの数 の性質 が観察 によって発見 され,そ
の真 実 性 が厳格 な証 明によって確認 されてい る。 また,観
察 によって得 られ た数 の性質 の中には,未
だ未 証 明 の もの さえ多 くあ る。13)こ
のよ うに,帰
納的推論 によって新 しい数学 の性質が導入 され,そ
れか ら証 明へ の努力がな され るのである。(2)帰
納 的 推 論 の 例 中等教 育 で取 り上 げ られ得 るよ うな帰納的推論 の例を挙 げ る。<例
1> 2角
形 の対 角線 の数 は どんな式 で表わ され るか。14) 三 角形,四
辺形,
五 角形,
…………°の対角線 の個数を調 べ,
それを表 にす ると,
次頁 のよ うな〔
表
1〕が得られる。
56この表 では
,一
般 的 な規則を抽 出す ることは困難 で あ るか ら, のグラフは,右
図 のよ うな曲線上 の点列を描 き,η
は2の
2次
関数 ら しい と予想 で きる。 そ こで, η=,22+う
″+
とお き,α ,う, οを定 め る。2=3,4,5の
と=0,2,5と
な るか ら 9,+3♭ +ι
=
16α+4♭
+ι=
25α キ 5う+♂
=
この連 立 方程 式 を解 いて ︵表 1 ︶ これを グ ラフに表示 してみ る。 こ ι き,そ
れ ぞ れ 協 0 2 5 α=■
,
う=―
3 一 2 =0η
=6,7,3に
対 しても
,こ
の予想①が適合するかどうかを検討する。
協=乎
=9
紀=
っ=14
η=響
=20
∴η
=■
″
―■
2=巫
雰二
i…
………①
2=6の
とき ″=7の
とき2室
8の
とき とな って,上
記 の表 を満足す る。 さらに,2=9,10,…
… の場合 な どの追加 の検証 によって,こ
の予想 は増 々信頼性を増す。 しか し,
これを真 の ものと受 け入 れ るためには,演
繹法 によって証 明 されなければな らない。<例
2>
凸多面体 のすべての面 の内角の総和 Σαを表わす一般式を求 めよ。15) 手近 な多面体 につ いて,そ
の内角 の総和 Σαを計算 して表示 す ると 1 立方体 ︵表 2 ︶ 多 角 形 の 辺 数 (2) 対 角 線 の 数 働)10 2 5
五角柱 六角柱 この表 だけでは,わ
れわれ の注意を 引 くものは何 もな く,一
般 的性 質を抽 出す る こと は 困 難 で あ笹 田昭三 :論 理 と 数 学 教 育 る。 さて
,凸
多面体であるか ら,同
一頂点に集まる内角の和は2π ょり小 さい。 したがって,多
面 体 の頂点の個数をVと
すれば, Σ α<2π
v であることに気づ く。 この関係を,上
記の資料で確認するために,次
のような表を作 る。 58 多 面 体 Σ α 2vπ1 2vπ
一 Σα ︵表 3 ︶ 立 方 体 四 面 体 八 面 体 五 角 柱 六 角 柱 二 面 体 十 面 体 角 柱 角 錐 36″ 20π (42-4)π (2″-2)π 40π 24π 42″ (22+2)π 4π 4π 4π 4π 4π 12π 4π 8π 16π 20π 8 4 6 10 12 16π 8″ 12π 20π 24π 確かに,2vπ
は Σα より大 き く,か
つその差が一定 4″ でぁる。そこで,わ
れわれは 2v″ ― Σ α=4″
…・・¨・・・・・・・・・・ ② な る推測に到達する。 さらに,次
のような追加の検証 によって,②
の推測 は 信 頼 性を増す。 しかし
,こ
れは②の証明にならない。
なお
,②
はオイラーの公式
V―
E+F=2
を基 に して演繹的に証 明で きる。 2Vπ ︵表 4 ︶ 20 12 筋 +<例
1>
の場合 は,観
察資料を グ ラフ表示す ることによって,港
在 して い る一般 的性質を図形 的 に と らえてい る。 また,<例 2>の
場合 は,観
察資料を数表 に整理す ることによって,港
在 して い る一般性質を数量的に抽 出 して い る。(3)
構造的な考え と帰納 最 近,算
数・ 数学教育 にお いて,構
造的考え方 。見方 とい うことが重要視 されて い る。構造的考 え方 を重視す る背景をなす ものは,学
習内容の増大 の傾向の中でいか に して学習の効率化を図 るか とい うことであ り,そ
れ は算数・ 数学 だけでな く,教
科指導全体 に通 ず ることで あ る。 現 代数学 におけ る構造 は次 のよ うに定義 されてい る。① 集合Aが
与 え られ て,②
集合Aの
元 の 間 にある関係が定義 され,①
この関係が満足すべ き条件 が規定 されてい るとき,集
合Aに
構造 入 って い るとい う。 この与 え られてい る関係 の種類 によって,数
学 の構造 は代 数 的 構 造,llk序 構造
,位
相構造 に大別 され る。 この構造 の定義 は,
日常 よ く用 い られ る ラジオの構造や家 の構造,社
会構造な どの構造 の意味に も適合 し,実
に包括的な定義であ る。 た とえば,
ラジオの構造 について言 えば,①
の集合Aに
相 当 す るの は ラジオ の部分品の集 ま りであ り,②
の関係 は電線 で連結 されているか どうか とい うことで あ り,①
の条件 の規定 は配線図 と考 え られ る。 このよ うに,数
学 の構造 は,
ラジオ の構造,家
の構 造,社
会構造 な どに共通 にある構造 の本質的性質を抽象 し,
これを数学的 に定式化 した もの と考え る ことがで きる。 数学 にお いて,構
造 に着 目す る重要な意義 の一つ は,種
々の集合上 の理論を考察 す る場合,構
造 の上か ら同 じとみ られ るものは統合 して統一 的に考察 で きるとい うことであ る。 また,構
造 の入 っ て い る二 つの集合A,Bに
おいて,Aと
Bの
間 に一対― の対応 デ があ り,
この対応 デ によって,Aに
お ける関係 がBに
おける関係 に対応 す るとき,集
合A,Bは
同型 であ るとい って,数
学 では こ れを 同 じ構造を もつ もの と して同一視す る。 したが って,数
学 において は,複
雑 な集合Aを
考察 し よ うとす る場合,考
察 の観 点か ら見 て構造 が同 じとみ られ る単純 な集合Bを
導 入 し,集
合Aを
考察 す る代 りに単純 な集合Bを
考察 し,そ
の結果 を集合Aに
適 用す る。 これ も構造 に着 目す る重要 なね らいで ある。 数学教育 において も,
このよ うな構造 的な考 え方 が きわめて重要である。 た とえば,整
数 の記数 法,小
数 の記数法 は十進数 と して 同 じ構造を もつ,
したが って,そ
の記数法の しくみや計算方法 は 統一的 に理解 で きる。 さ らに,時
間の表 わ し方 は60進 法 で あ るが,一
定 の数(60)毎
に繰 り上 が る とい う観点 で10進 法 と同 じ構造を もつ。 した が って,時
間の表 し方やその計算を10進 法や一般 の ″ 進 法 と統合 的に学習・ 理解 す ることがで きる。 また,整
数 の集合 におけ る加法,有
理 数 の集合(0
を のぞ く)に
おけ る乗法,剰
余類 におけ る加 法,対
称 図形 の回転 な どを考察 し,そ
こに共通 にあ る 構造 と して群 の構造 を抽 出す る。 この よ うな指導 は,個
々の知識を分析的 にば らば らに与 え るので はな く,統
一的 に相互 に関連を もった知識 と して生徒 に与 え る,ま
た,個
別 的・ 末 梢的な知識 よ り 一 般的・ 原理的な知識を重視 してい る。 したがって,そ
の理解 も容易であ り,学
習 の効率化,学
習 効果 の転移 も十分期待 できる。」。S,Brunerも
「 教育 の過程 」 において,各
教科 におけ る構造 の重 要性 を説 き,各
教科 におけ る一 般概念 や原理 的 な ものの指導 の必要性 を強調 して い るが,16)こ
れ も数学におけ る構造的考 え方 に相通ず るものがある。 また,
この構造的考えは,問
題解決 において も,与
問題 を単純 なモデルに帰着 さす恩考を促す。 さて,構
造 的な考 えと帰納的論理 は密接 な関係 がある。帰納 において洞察 され るべ きものは,個
々の事実 でな く,
観察事例 に共通す る形式 である。 さきの群 の例 において も,整
数 の集合 [加 法],有
理数(0で
ない)の
集合 [乗 法],剰
余類 の集合 [加法]の
構造 な どか ら,共
通 の形式 と し て,群
の構造 を抽 出 してそれを一般化 してい るが,
これはまさに帰納の働 きであ る。 また,整
数 の 記 数法,小
数 の記数法,時
間 の表 わ し方 な どか ら,″ 進 法 の概 念 まで高 か め るの も,帰
納的論理 の 一 つの働 きであ る。 さらに,一
般 的概 念 や原理 を確 立 す るためには,抽
象能力,帰
納 的推理力 が重 要 な役割 を果 たす。 この よ うに,尿
近重要視 されている構造的見方 。考え方 の指導 に当 って も,帰
納 的論理 の果す役割 は大 きい。笹 田昭三 :論 理 と 数 学 教 育
(4)拡
張 の考え と帰納キ 数学 では,理
論 の発 展を図 るために,そ
の理論 の本質 的な形式を保存 して,そ
の適用す る範 囲を 拡 大 す るとい う方法 がよ く採用 され る。 その際,形
式 自体 もよ り包括的な ものに変わ る 場 合 があ る。 これを一般化 または拡張 とい う。 た とえば,座
標平面 での距離 はピタゴ ラスの定理 を背景 と してP(″
■,″2),Q(ン
と,ノ2)の
とき , ″(P,Q)=ノ
(″ュー ノ1)2+(″ 2 ノ
2)2 ,…
..①
と定式化 され,空
間 での距 離 も同様 の形式 P(″1, ″2,
″3),Q(ノ
1,ノ2, ノ3)の
とき, ″(P, q)= 1/(″
■―ノ1)2+("2 ノ
2)2+(″3 ノ
3)2 .…… ② で表わ され る。 さらに,こ
れ らの形式を保存 して,2次
元 ユー ク リッ ド空 間 の距離をP("1,″
2,・Ⅲ
…・
,″″
),Q(ノ
■
,ν2,…
…
,ノ″
)の
とき
,玉
Lり
=峰
1(犠
―プ
… ③
と定め,距
離の概念を2次
元空間まで一般化す る。 このとき,①
の形式は,①
,②
をそれぞれ η=
2,2=3の
特別な場合 として包括 している。 しか し,鉄
道や道路などで標示 している2地
点間の 距離は,線
路や道路に沿 って計測された道程であって,①
の形式では表現できない。また,球
面上 における距離 も③の形式では表現できない。 これ らの距離 も包括する新 しい距離の形式を規定する には,③
の形式 よりもより本質的な距離の特質を抽出する必要がある。 このように して抽出された のが,一
般の距離空間における距離で,空
間内の任意の点P,Q,Rに
対 して,(i) '(P, q)≧ 0,,(P, Q)=0ぐ =)P=Q
(ii) '(P, Q)察
″(q, P)
(iii)プ(P,q)+〃
(Q,R)≧
′
(P,R)
を満足する
'を
距離
(関数
)と
考えるのである。①
,②
,①
は④ を満足 し
,①
の特別な場合とし
て④に包括 され る。 これが距離の拡張である。 このように,拡
張の考えで重要なことは,集
合A上
の理論において非 本質的な形式を捨て,本
質的 。中核的な形式を保存あるいは抽出 して,そ
の適用範囲をAを
内包す る集合Bに
拡大することである。 この考え方は,(Jで
述べた帰納の本質 と全 く類似するものであ り,帰
納 と拡張の考えは密接な関連をもつ。また,帰
納的推理は,い
くつかの特殊な事例か ら,そ
れ らに共通す る一般法則を抽出す る働きであるか ら,‐
般化の考えとみることができる。 一般化,拡
張の考えは,理
論の適用範囲を拡げ,新
しい範囲まで理論を及ぼすなど,実
に生産的 ・ 創造的思考である。数学教育においても,演
算の意味の拡張,10進
法の一般化 としての2進
法, 数の拡張,三
角関数における角の拡張,指
数の拡張,あ
るいは概念の一般化,な
ど一般化・ 拡張の 考えの指導場面が多い。それゆえ,そ
の指導を支える抽象化の考え,帰
納的推理の役割 も極めて大 きい。 60… 中
④
*)この項は,川
口・ 中島「数学的な考え方 と新 しい算数」 (東洋館)を
参考にした。Ⅳ 類 比 的 論 理
(1)
類比 的推論 の特 質 類比 による推 論 は,考
察対象A,Bの
類似性 に注 目 し,Aの
上 の性質 。理論をBの
上 に転移 させ る ことを図 る推論 である。 この類比的推論で最 も重要 な ことは,類
似性 の抽 出 と転移 を図 る性質・ 理 論が この類似性 と密接 な関連 があるか とい うことである。 類比 におけ る類似性 の抽 出は,二
つの考察対象 が単 に似てい る とい う視覚 的・ 感性 的段階 にとど まって はいけない。推測結果の信頼性を高 め るためには,こ
れを さ らに一畳 と進 め,同
一 の形式・ 親 念 と して 同一視 で きる状態 で,推
論 しなければ な らない。G.Polyaは
,
著「 帰納 と類比」の中 で,類
比 と一般 の相似 の本質的相異 は,類
似性を概念的 に同一視 で きる関係 で とらえているか否か にある,と
して い る。17フ た とえば,平
面上 の三 角形 は空間内の四面体 と類比である。平面上 では,2直
線 は有 限な図形 を 測む ことがで きる。空間内では,3平
面 は図形を囲む ことがで きないが,4平
面 は四面 体を囲む こ とがで きる。三 角形 と四面体 とが どち らも囲む要素 の最小数 によ って囲 まれてい るとい う点 に関す る限 り,三
角形 の平面 に対 す る関係 は四面体 の空間 に対す る関係 と全 く同 じとみ る ことがで きる。 したが って,こ
れ らは類比である。18) また,転
移を図 る性質・ 理論 が この類似性 と本質的な関連を もつか否 かが,次
に重要 な問題 であ る。考察対象A,Bの
類 似性 を,Aも
Bも
共通 の形 式 (概 念・ 関係・ 性質)α を もつ ととらえた と す る。 このとき, Aの
性 質Pが
共通形 式 α と密接な関連を もつ場合 は,「
Bも
性 質Pを
もつ 」 と い う推測は信頼度 が高 い。 しか し,Aの
性 質Pが
共通形式 α とあま り関連を もたない場合 は,そ
の推測の信頼度 は低 い。 た とえば,「
すべて の牛 は胎生 である。牛 と馬 は類比な動物 で ある (哺 乳類 と して)。 」 とい う 惟 報か ら,「
す べて の馬 は胎生 で ある。 」 とい う推 測を した とす る。 この場合,「
胎生 であ る」 と い う性質 は哺乳類 の本質 的な性質 であるか ら,こ
の推測の信頼度 は高 い。 しか し,「
すべての牛 は 角を もつ。牛 は馬 と類比 である (哺乳類 と して)。 」 とい う情報か ら,「
す べて の馬 は角を もつ。 」 と推 測 した場合 は,「
角を もつ」 とい う性質 は哺乳類 の本質的な性質 でないか ら,
この推測の信 頼 度 は低 い。 このよ うに,類
比的 推論 で重要 な ことは,第
一 に,考
察対象 の類 似性 を意識 し,
この類似性 の本 質 を抽 出 して二 つ の対象を同一 の形式を満足す るもの と して把握す る。第二 に,転
移を図 ろ うとす る性質が,こ
の恭通形式 と密接 な関連 があるか否かを見分 けることで ある。 類 比的推論 で得 られ た結果 は,帰
納 的推論 の場合 と同様 に,証
明の痕跡す らない全 くの推 測 であ る。類似な対象A,Bの
考察 において,Aに
おける性質Pと
類似 な性 質Qが
対象Bで
成 立す るで あ ろ うとい う一つ の推測 にす ぎない。 しか し,Iで
も述 べた よ うに,類
比的推論 は,そ
の推論 の必然 性 を犠牲 に して,新
しい知識や内容の拡大を図 る,生
産 的・ 創造 的 な推論で ある。 数 学 史 の上 で も,ア
ル キ メデ スの球 の表面積 に関す る定 理 の発 見19),Lo Eulcrの無 限級数 (平方 の逆数の和) の和の発見'0う な ど類比的推論 による成果が多い。(2,
類比 的推論の例 数学 の学習 において も,類
比的思考 の機会 が極 めて多 い。最 も簡単 な事例は,明
白に類 似 した問笹 日昭三 :論 理 と 数 学 教 育 題 を殆 どまね る場合 である。X2+,″ +ぅ の型 の因数分解 を知 って
,X2+α
χノキιノ2の
型 の因数分解 を行 な うときの思考,あ
るいは範 例を学習 した後の練習題 を解 く思考な どは この事例 である。 この よ うな場合 は,僅
かな特殊性 を捨象す る ことによ って,共
通 の形式 に到達 で きる。 また,も
っと複 雑 な事例 では,考
察対象 とそれ と相似 な対象 か ら,い
か に して共通 の形式を抽 出す るかが問題 であ り,あ
ま り明確 でない類 比は実質的解 決を与 えない。次 に,類
比 の二,三
の例 についてのべ る。<例
1>
ピタゴ ラスの定理 の証 明* 斜 辺 の長 さが α で,他
の2辺
の長 さが,ι,θ で ある直角三角形ABCを
考 え る。 この とき ,2室う2+ι2を
示 したい。 この式 は,
直 角三角形ABCの
3辺
の上 に正方形 を作 ることを暗示す る (図 工)。 図Iは
,直
角三 角形ABCの
3辺
の上 に相似な図形 (正方形)を
作 った もの とみ る ことがで きる。 そ こで,図
工と して,図
Iと類 比 な図形 で よ り簡単 な図形,す
なわ ち,△
AB
Cの
3辺
の上 に相似な直角三角形 を作 ってみ る。 図 工,図
正は,△
ABCの
3辺
の上 に相似 な 図形 が作図 されてい るとい う点 で全 く同一 の性質を もってお り,図
I,Iは
類 比 で ある。 図 工の 二つ の相似 な直角三角形 の相似比は ,:う :θ であるか ら,そ
の面積 はそれぞれ た,2,そ う2,鹿
2で
表わ され る。 したがって,,2=う
2+,2と
類比 な関係 は 考,2=ん
ぅ2+々
θ2 .…
… ….①
と表わ され る。 さて,図
Ⅱにおいて,
①の関係が成立すれば,図
Iに
おいて ,2=う2■ο2が
成立 するだろうという推測が立て られる (実際は,①
の両辺を そで割れば,
α2=う 2+ο2が
導かれ る !!)。 そこで,①
が真であることを確立するために,相
似な直角三角形 として,
それぞれ△AB
C,△
DAC,△
DBAと
合同な直角三角形を与える。 図 (I) 図(I)
a2=げ+c2 ?
16-18を 参考にする。*)G,Polya「
帰納 と類比」 (丸善), ka2==kb2_卜 kc2この と き
,図
■にお け る性 質 △ABC=△ DAC+△ DBAか
ら,①の真 な る ことが示 され, した が って,,2=ι
2+ι2が
証 明 され る。<例
2>
ァル キ メデ スの類比 による定理 の発見 アル キ メデ スは次 のよ うに述べてい る。 「球はその球の大円を底とし,そ
の半径に等 しい高さを有する円錐の4倍であるという定理か ら,私
は,任
意の球の表面はその球の大円の4倍 であるということを考えついた。なぜなら,任
意の円はその円周に等しい 辺 とその半径に等しい高さを有する三角形に等しいという事実か ら判断して,私
は,同
様に,任
意の球はその 球の大円に等 しい底とその半径に等 しい高さを有する円錐に等 しいと解 したからである。」22) す なわ ち,ア
ル キ メデスは類 比的推論 によって,
定理 「 球 の表面積 は大 円の4倍
に等 しい」 を発見 している。 この類比をいま少 し考察 してみ る。 円の面積 球 の体積 円周
=1×
三 角形 (底 辺 の長 さ :円 周,高
さ:半径)の
面積 …… …… ①=4×
円錐 (底 :大円,高
さ:半径)の
体積………… ② 章 l× 円周
… ………
③
…………
④
球 の表面積=4×
? アル キ メデスは,平
面図形 である円 と立体図形 である球 の類 比 に注 目 し,既
知 の定理② の類比 と して,円
の面積を① のよ うに円周 を底辺 と し,半
径 を高 さとす る三角形 の 面 積 と して とらえ る。 円に対す る球 と同様 に,三
角形 に対 す る錐体 は類比 である。 また,こ
の 類 比 の関係 におい て,円
周 に対す る類 比 な図形 は球 の表面 であるか ら,①
,
② の関係を考慮 して,①,④
式 を 得 る。 ここで,①
の円周 に対す る① の?は
,①
,②
の関係 か ら大 円の面積 であろ うと推測 され る。 か くして,ア
ル キ メデ スは,球
の表面積 に関す る命題を発見 し,
これを演繹的 に証 明 してい る。<例
2>
は,平
面 区形 と立体図形 との類比 で あるが,幾
何 学 において は,こ
の次元 の異 なる図 形 相互 の間 に多 くの類比 の関係 が存在す る。平面図形 と立体 図形 の類比 と して,正
方形 と立方体, 長方形 と直方体,平
行 四辺形 と平行六面体,三
角形 と四面体,三
角形 と錐体,円
と球,平
行線 と平 行 平面 な どの多 くの類比 が考え られ る。 そ して,
これ らの図形 の性質 において も類比 の関係 の もの が多 く,複
雑 な立体図形 の考察 も,そ
れ と類 比 な平面図形 の考察 によって容易 とな る。 また,一
般 の高 次元空間 における考察 も, 2次
元, 3次
元 空間 の類比 と して考 える場合が多 い。(3)
類比 と構造 的な考え,一
般化の考え 数学教 育 において,構
造 的な考 えを重視す ることの意義は,Ⅲ
で述べた。 この構造 的な考 え と類 比 的論理 は密接 な関連が ある。類 比的推論 は,二
つ の対象A,Bの
類 似性 に着 日 して,A上
の理論 。性質をB上
に反映 さす推論である。 この場合,A,Bの
類 似性を共通の形式 α (概念・ 法則・ 性 質)と
して とらえ ることが,類
比 の特色 であ る。 したが って,類
比 はA, Bが
共 通 の形 式 α を満 足 す るとい う観点 で,Aと
Bは
同 じ構造を もつ とみな している,と
いえる。 た とえば,整
数 の集合 における加法,有
理数 の集合(0を
のぞ く)に
おける乗法を考 え るとき, 両 者 は同一 の法則 〔閉 じている,交
換 的,結
合 的,逆
演算を許す〕 によって支配 されて い る。 すな わ ち,両
者 は類比 である。 また,こ
の二 つ の集合 は,上
記 の法則 で規定 され る同 じ構造 を もつ。 このよ うな考察対象 の構造 に関 しての類比 は,10進
法 と ″進法 の類比,
数 の演算 と集合算 の類 比,複
素数 とベ ク トル の類比 な ど,数
学教育の場 で も多 い。 また,数
学 における同型,準
同型 の考笹 田昭三:論 理 と 数 学 教 育 えは完全 な形 の類比 で ある。 さらに
,構
造 的な考 えによ る統一的考察 や知識 の統合化 は,考
察対象A,B,C,…
… の類似性 に着 目 し,
これ らが同一 の構造・ 形 式を もつ もの と して,A,B,C,
……を統一的 に見 る。 これ は,二
つ以上 の対象 についての類比 である。 また,一
般化 の考 え と類 比的論理 は密接な関連を もつ。 た とえば,線
分,正
方 形,立
方体 につい て,そ
の次元 と境界 について考察す る。線分は1次
元 の図形 で,2っ
の0次
元 の図形 (点)を
境R P2
界 と して もち;正
方形 は2次
元 の図形 で4つ
の1次
元 の図形 (線分)を
境界 と してい る。 ま た,立
方体 は3次
元 の図形 で,6っ
の2次
元 の図形 (正方形)を
境界 と してい る。 これ らの幾何 図形 は,自
分 自身 よ り1次
元低 い図形 を境界 と してい る点 で,類
比 で ある。 ここで,わ
れわれ は, 類 比 によ る共 通形 式を保存 して,一
般 化 を図 る。 す なわ ち,2次
元 の幾何図形 は(2-1)次
元 の幾 何図形を境界 と して もつ。 このよ うに,一
般化 の思考 は,類
比 ない くつかの対象を考察 し,類
比的思考 によってそれ らの共 通形 式を抽 出 し,さ
らに,帰
納 的思考 によって,そ
の形 式 の適用拡大を図 るので あ る。 上 記のよ うに,数
学教育 で重要視 されて い る,構
造 的考 え,一
般化 の考 えにおいて も,類
比的論 理 が重要 な役割を演ず る。V
数 学 に お け る演 繹 的 方 法 無定義用語 と公理 どの よ うな学問 の領域 において も,ま
ず第一 に,そ
の中で使用 され る用語 の 意味を明確 に しなければな らない。 しか し,一
つ の体 系内で用い る用語をすべて定 義 しよ うとす る ことは不可能で ある。一 つの用語 を定義す るには他 のい くつかの用語 が必要 で ある。 さらに,こ
れ らの用語 を定義す るには新 しい他 の用語が必要で ある。 この追求 は際限がな く,ま
た辞書 な どにみ られ る循環的定義 に陥い る。 そ こで,演
繹的体 系 において は,
この循環論法 ない しは無限の遂行 と な る因果を断ち切 るために,体
系 内の用語 を二つ の グル ープ,つ
ま りその体系 の中の他 の用語 によ って定義 され るものと,定
義 され ない もの (無定 義用語 とい う)と
に分 ける。演繹的体系 における 出発点 は,
この無定義用語 の選択で あるが,こ
の場合,選
択 され た無定 義用語群 は体 系 の中のすべ ての用語 を定義で きるものでなければな らない。 また,無
定 義用語 には何 ら意味 が与 え られず,そ
の語 がもつ慣用的 な意味を一切捨て去 る。 この ことにつ いては,「
公理 的方 法」で のべ る。 無定義用語 が選択 され ると,体
系 の中の用語 は,
この基本的 な語彙 (無定義用語)と
専 門的 な意 味を もたない共通語 (国語)に
よ って次 々に定義 され る。 このよ うに して,無
定 義用語,定
義用語 か らなる十分 な用語 の系 が構成 され ると,こ
れ らの用語 を用 いて,体
系 の中のい ろいろの文す なわ ち命題が構成 され る。 64命題 は文法的 に正 しく
,体
系 内で意味を もつ ものであ り,
しか も「 真」か「 偽 」の何れか一 つの 特性 を もつ文を さす。 しか し,
一 つ の文が提 出された とき,
それが真 か偽で あ るかを予め知 らな い。 また,真 ,偽
は存在 とか哲学上 の問題 に関す る内容を もつ もので ある。 そ こで,数
学 において は,
このよ うな真偽 につ いての哲学上 の内容を捨て,単
に命題 の特性 に付 す る,そ
れぞれ「 真」, 「 偽Jと
明記 した札 の よ うな もの と して真,偽
を考 える。23) 数学 における主 な仕事 は,そ
の体 系 における多 くの命題 に,
この真・ 偽 の札を対応 さす ことで あ るが,
ここで も用語 の定義 におけ る手続 きと同様 に,真 ,偽
の札を付 す る最初 の基準 な くして,体
系 内の命題 に真,偽
の札を対応 さす仕事を押 し進 め ることがで きない。 それ ゆえ,若
千 の適 当な命 題 の集合を選 び,
これ らの命題 に真 の札を与 え,
これを最初 の基準 と して体系 内の命題 に真,偽
の 札 を対応 して い く。 このよ うに,真
と仮定 され,演
繹 の出発点 と して選 ばれ た命題 が公理で ある。 す なわ ち,公
理 は 自明の真理で な く,真
で あると仮定 された,演
繹的体 系 の最 初 の命題 で あ り,演
繹 の出発点で ある。公理 が確 立 され ると,
これを 出発点 と して,体
系 の中の命題 に次 々に真 と偽 の 札 を付 す る作業 が行 なわれ るが,
この作業を支 え るルールが演繹的論理 で ある。 公理 的方 法 このよ うに,演
繹 的体系 において は,定
義 に関す る系 と,命
題 の真偽 に関す る系の 二 つ の系が考え られ る。数学で は,こ
の二 つ の系を統一す るために公理 的方法を とる。すなわち, で きるだけ少 ない無定義用語 の リス トを選ぶ,次
に この無定義用語で構成 され る,で
きるだけ単純 な命題 の リス トを選 び,こ
れを公理 系 とす る。公 理 は無定 義用語 と共 通語 を用 いて構成 され る文 で あ る。 したが って,公
理 系を構成す る文 が真で あ るとい う観点でのみ,無
定 義用語 に意味・ 内容が 与 え られ,そ
れ以外 の意味 は何 ら与 え られ ない。勿論,無
定義用語 の もつ慣 用的 な意味 は一 切捨 て 去 る。 つ ま り,無
定 義用語 の意味 。内容は公理 だけによって規制 され る。 か くして,数
学 で は,用
語 に関す る系 も,命
題 の真偽 に関す る系 も,公
理 系 によって統一 され る。 た とえば,最
も基本 的 な代数 系で ある群 を例 に とろ う。群 は次 のよ うに定 義 され て い る。 集合Gが
あって,そ
の元の間に結合 Oが 与えられ,次
の条件を満足するとき,Gは
群であるという。つ 徹)Gの
任意の2元
,,う に対 して,Gの
元 ♂が―意に定まり,σ=,Oう となる。 121 結合法則,。 (う。σ)=(α
Ob)。 ιが成 り立つ。 俗)Gの
すべての元,に
対 して,¢0,=,O♂=,と
なるGの
元 ″が存在する。14)Gの
いかなる元,に
対 しても α10,=αO' 1=診
となるGの
元, 1が存在する。 この公理系におけ る,集
合,元
,結
合 は無定義用語 で あって,(1)∼14)の条 件を満足す る以外 は, 何 ら具体的な意味・ 内容を与 え られていない。 よ く知 られてい るよ うに,集
合 を整 数 の集合,結
合 Oを加法 (■)と
考 え ると,上
記 の公理(1)∼ 14)が満足 され る。 また,0を
のぞ いた有理数 の集合 に おける乗法,一
つ の集合上 の一対一対応の集合 における合成,ベ
ク トル の集合 におけ る和,な
どこ の公理系を満足す る例は極 めて多 い。24)数
学者 が群 の公理 を設定 した と き,整
数 と加 法,ベ
ク ト ル とその和,な
ど物理量 とそれ らの量を結合 す る過程を イメージと してえが いてい ると して も,公
理 自身はそ うした物理的意味 に拘束 され ない。公理 にのべ た条件をみたす ものな らば,そ
れが どん な対象であろ うとも,群
論 で演繹 され た諸性 質 (定理)を
適用す ることがで きる。 そ して,そ
の適 用 によ って,そ
れぞれ の対象 の意味で,群
論 の諸性質 (定理)が
解釈 され るので あ る。 このよ うに,公
理 に用 い る用語 (無定義用語)に
特別 の意味 。内容を与 えないとい う方法 は,演
繹 的体系を統一的 に構築す るとい う意味 において も,数
学 の適用範囲を拡大 す るとい う意味 におい*)正
田・ 浅野「代数学I」 (岩波書店)に
よる。結合記号 Oは 筆者。笹田昭三 :論 理 と 数 学 教 育 て も
,意
義 あ る有効な方 法である。凱代数学 は,
このよ うな公理 的方法を採 用す ることによって, その適用範囲を著 しく拡大 して いる。 命題 の真偽 と推論の妥 当性 演繹的体 系 において公理が設定 され ると,こ
の公理 を 出 発 点 と し て,妥
当な演繹的推論 を駆使す ることによって,体
系 内の命題 の真偽を決定す る努力がな され る。 妥 当な推論 とは,前
提 が真な らばその結論 も必然的に真でなければな らない,と
い う推論で ある。 推 論 の妥 当性 は前提 と結論 の間の関係 だけに依存 し25),結論 の命題が真で あることは推論 が妥 当で あ ることを保証 しない。命題の真偽 と推論 の妥 章性 の関係 で 重 要 な ものを列 挙 す れ ば (例は省 略),
(J
前提 の命題がすべて真で,推
論が妥 当で あれば,そ
の結論 の命題 は真で あ る。(2)推
論が妥 当で あ り,そ
の結論 の命題 が偽で あれば,前
提 の少 くとも一つの命題 は偽 で あ る。 (31 前提 の命題 がすべて真であ り,結
論 の命題 が偽で あれば,そ
の推論 は妥 当でない。(4)推
論が妥 当で あ り,前
提 の命題 の一部 または全部が偽 の場 合 は,そ
の結論 の真偽 は決定 で き な い。0
推論 が妥 当で あ り,結
論 が真 で あ る場合,
これだけでは前提 の命題 の真偽 は決定 で きない。 このよ うに,結
論 が真 で あることは必 ず しも推論 の妥 当性 を保証 しない し,推
論 の妥 当性 もまた 必 ず しもその結論 の真 な ることを保証 しない。妥 当性 は推論 の もつ性質であ り,結
論 の真偽 は個 々 の命題 の性質で あって26), これ らは独 立な概念で あ る。すなわ ち,演
繹的推論 の妥 当性 は,そ
の推 論 を構成 して い るおの おのの命題 の内容や真・ 偽 によって決定 され るものでな く,推
論 の論理 的 な 形 式・ 構造 だけによって決定 され る。 ここに,推
論 の妥 当性 とその形式 との関係 の分析が重要で あ り,こ
れ を取 り扱 うのが記号論理で ある。 演繹 的方法 (公理 的方法)の
意義 演 繹的方 法 は,あ
る主題 において,ほ
んの少 しの真偽 しか知 らな いわれわれ人間が,少
しで もその主題 に関す る知識 の範囲を拡張 しよ うと して考案 され た方法 で あ る27)。 ぁ る命題 が真で あるとか偽で あるとい う問題提起 は,一
般 に帰納,類
比 な どの発見的論 理 によってな され るが,そ
の命題 に明確 に真,偽
の札をつけて,わ
れわれの知識体系に組 み入れ る の は演繹的論理 の役割で ある。 これが演繹的方法 の第一 の意義で ある。 また,公
理 的方 法 によって,循
環論法 や論理 的 な不 明確 に陥 いることが回避 され,証
明 の厳密性 が 強化 された。 これ によって新 しい命題 の証明 も容易 にな り,体
系 内の命題 の間 に興味 ある論理的 な連 りを与え,明
快で典雅 な演繹体系を作 る。 これが第二 の意義で ある。 第二 に,公
理 的方法は労力節約方策 であ る28)。_っ
の公理系Σ に対 して,数
学 あるいは他 の分野 のある機構が公理 系Σ のモデル になっていることが判 明すれば,公
理系Σを予 め研究 して おいて得 られ た知識が これ らの機構 に適用 され,新
しい学 問上 の問戸が開 ける可能 性 を 生 む29)。 このよ う に,既
存 の公理 に新 らたな解釈 を与 え る分野 が あれば,そ
の分野 は数学の応用 と して著 しい進展を 遂 げ,学
問上 の再生産 が行 なわれ る。 第四 に,既
存 の公理 系を改造 す ることによって新 しい数学 の題 目で誕生す る30)。 ょ く知 られて い る よ うに,N.I.Lobachcvski,J.Bolyai,G.F.Riemannは
, Euclidの
第五公準 の代 りにそれ と 矛 盾す る命題を公準 に組み入れ ることによって,新
しい非 ユーク リッ ト幾何学を創造 し た。 こ れ は,既
存 の公理系 を改造 す ることによ って,新
しい数学を創造 した典型的な例 といえ る。現代数学 に お いて も,既
存 の公理系 を改造 した り,新
しい公理を添加す ることによって,新
しい数学 の分野 が創造 されている。 このよ うに,公
理 的方法 は研究上 の有力 な利器 となってい る。 66公理的方 法 は
,以
上 のよ うな長所があ り,数
学 に習熟 した学生 を指導 す る場合 には,学
習 の効率 化・ 理論 の明快 さの点 で,教
育上 の方策 と して役 に立 つ。 しか し,
中等教育程度 の生徒 に とって は,公
理 的方法 の真 の意義を理解す ることは不可能で ある し,か
え って このために,数
学 の定 理 や 法則 に対す る不信感を与え るのではないか。すなわ ち,中
等教育では公理的方法は適 当でな く,徒
らに時間 の空費 となるで あろ うと考える。Ⅵ
演
繹
的
論
理
(1)命
題 論 理 演繹論理 と形 式 例 えば,次
のよ うな二つ の推論 を取 り上 げよ う。(1}5が
lFT3数で あるな らば,5は
2で
割 り切れ る。5は
2で
割 り切れ ない。 ゆえに,5は
偶数 でない。12)彼
が犯人で あるな らば,彼
は その時刻 に現場 にいたはずで ある。彼 はその時刻に現場 にいな か った。 ゆえに,彼
は犯人でない。 (1】 (動の推論 は異 な る場面 の,異
な る内容 につ いての推論で あるが,と
もによ く用い られ る妥 当 な推論で あ る。(1)において,´=「
5は
偶数 で あ る」,T=「
5は
2で
割 り切れ る」,(2〕 において は,´=「
彼 は犯 人で あ る」,T=「
彼 はその時刻 に現場 にい た」 とおいて記号化すれば,(1),(2)は ともに右 のよ うな同一 の形式で表 され る。逆 に,
″,Tと
して任意の命題 を選 び, 右 の形式 を満 たす よ うな推論 を作れば,場
面 も内容 も(1〉 (2) ´ ―→ ? ∼ T ・・・ ∼ ´ と異 な る新 しい妥 当な推論が得 られ る。 (この場合,前
提 ´→T,
∼σが真 とな るよ うな命題 ´,T
を選べば,結
論 の命題 ∼´ も真 とな る。)す
なわ ち,命
題 ´,7の
内容が何 で あって も,ま
た命題 の真偽が何れで あろ うとも,上
記 の形 式 の推論を作れば,妥
当な演繹的推論が得 られ る。 このよ うに,演
繹的推論 においては,命
題 の内容や事実上 の真偽 は問題 ではな く,重
要 な ことは 推論 に用 い られてい る命題間 の関係や命題 の形式で ある。 それ ゆえ,演
繹 論理 において は,各
命題 の中味を捨て去 って記号化 し,そ
れ によって論理 の構造 や法則を明確 にす ることがで きる。一方, 帰納や類 比 な どの発見 的論理 は命題 の内容 を重 視す る。 この点 に も,発
見 的論理 と演繹的論理 の大 きな性格 の相異 がみ られ る。 命題論理 命題論理 で は,論
理 を分析 し,論
理 の最小 の単位 と して単純命題 (これ以上分解 で さ な い単一 の命題)を
考 え る。論理学 の出発点 は命題 の結合 関係 の考 察 で あ るが,こ
の命題 を結合す る論理結合子 は次 の5っ
で ぁる。 (´,7は
命題 を表わす) (ll ∼´(´ でない) 12)´ ∧σ(?か
つ 7) (3)´VT(´
または
?) (4)´ → T(´ な らば7)
団 ´ ←→ ?(´ とTは
同値 で あ る) これ らの結合子を用 いて単純命題を結合す ることによって,い
ろいろの複合命題が構成 され る。 また,い
か に複雑 な命題で も,若
千 の単 純命題 を これ らの結合子で結合 す ることによって表現で き る。 このよ うに,論
理学 においては分析 と総合 の方 法が徹底 して行 なわれ る。 命題 には内容 と真理値 (真・ 偽)と
の二 つ の側面 があ るが,命
題論理 では,命
題 の中身を捨てた笹田昭三 :論 理 と 数 学,教育 命題論理の記号化が可能にな り, このよ うな表を真理表 といい, 合 子 と 真 理 値)